とある憑依の一方通行(仮)   作:幸村有沙

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第二話 絶対能力進化計画

 郵便局強盗事件から数日が過ぎた。あの日からも懲りずにゲームセンター通いを続けているが、未だに友達は出来ていない。こうなったらもう恥も矜恃(プライド)も捨てて公園で遊ぶ幼児達に交ぜてもらおうかとも考えてみたが、ロリコン扱いされるのが怖くて実行には移せなかった。

 

 通報は勘弁だ。学園都市の第一位ってロリコンらしいぜぷげらとか噂が流れたら街を歩けない。そして泣く。超泣く。

 

 アクセロリータやセロリなどとは死んでも呼ばれたくはない。なんていったって俺は年上のお姉さん好きなのだ。

 

 叶うことならオルソラ=アクィナスにフラグを立てたいでござる。年下でも女王こと食蜂操祈なら許容範囲でござる。人妻でも御坂美鈴なら略奪愛をする価値はあると思うでござる。

 

 でもむぎのんだけは勘弁な!

 

 能力的に殺されることはないが、あんなに怖いお姉さんは勘弁でござる。

 

「い、いてぇ……ぐうぅっ!」

 

 一方通行らしくない思春期丸出しの妄想に浸っていたが、男の痛々しい呻き声が聞こえて現実を思い出した。

 

 周囲を見ると手足がおかしな方向に折れ曲がったり能力を跳ね返されたりして怪我を負った不良達が倒れている。

 

 変装が悪かったのかと帽子もサングラスも置いていったらこれである。そろそろ放課後だろうと日課のゲームセンター通いに向かおうとすれば、すぐに第一位だとバレて絡まれ、そしてこうなった。

 

 第一位に勝てば第一位になれると思ってるバカや名を売れるとか考えちゃうアホにはもう慣れたもので、突っ立っているだけで反射して事態は収まる。しかし慣れてはいるが、面倒な事には変わらなかった。こんな場面を見られてしまったら友達になりたいと思う人も減りそうで、本当に迷惑だ。最強決定戦ならトーナメントでも開いて勝手にやっておいてほしい。

 

「つゥか、お前らもこンなことしてる暇があンなら勉強とか能力開発でも受けて真面目に頑張ってろよ。親が泣くぞ?」

 

 上から目線の説教をしてみたが、痛みに喚くだけで応える者はいない。自称無能力者であり普通の高校生である上条当麻がどれだけ打ちのめされても、何度も相手に立ち向かっていく姿を知っているので、余計に彼らが情けなく見えた。

 

「その程度で戦意喪失すンなら最初から挑戦してくるンじゃねェよ、カスが」

 

 大きく舌打ちして吐き捨てる。

 

 きっと一方通行の目付きや口調が悪くなった原因は、こういう不良みたいな奴くらいしか積極的に話し掛けてこなかったからなのだろう。自分もその影響で柄が悪くなっているので他人事ではないのだが、たかがライトノベルのキャラクターだとはいえ、少し可哀相に思えた。

 

「もう関わってくンじゃねェぞ」

 

 次は殺す、と最後に脅しを加えて彼らの元から歩き去る。本来なら絶対に絡んでこないようにと、もっと脅してから去るのだが、気分じゃなくなったのでやめた。あんな奴らでも友達がいるのに俺には、なんて考えてしまったからではなく、一方通行について考えて落ち込んだからだ。決して羨ましくて気分が沈んだのではない。絶対に違う。勘違いはやめてほしい。

 

 あんなアホにも友達はいるのにと考えたこと自体は事実だが、そんなことより。

 

 一方通行が絶対能力進化計画の勧誘を受けた時期が近いからか、最近はつい原作での一方通行に同情してしまうことが多い。そして自分にもそれが待っていることを思うと憂鬱になってしまう。

 

 確か原作開始の一年前の秋から冬のいつか。その時期に一方通行は絶対能力進化計画に勧誘され、それを承諾し、それから毎日同じ顔のクローンを次の年の夏休みに無能力者である上条当麻に負けるまで殺し続ける生活が続いたはずだ。

 

 もうすぐ俺も勧誘されるのだろう。それを思うと憂鬱にならざるを得ない。勿論、断るつもりではあるのだが、研究員がはいそうですかと素直に納得するとは思えないし、承諾せずとも強引に計画を進めようとする可能性すらある。

 

 殺人自体は別にいい。相手がクローンで、しかも原作キャラクターなら、間違いなく俺は実行することが出来るだろう。深く人と関わっていないこともあるし、転生した世界が昔読んでいたライトノベルの世界ということで、前世と同じ人間とは思えないのだ。自分が小説の中にいるのではないかと中二なことも考えてしまう。

 

 転生したオリ主に有りがちなアレだ。当然だが二次元ではなく三次元なので、見た目自体は普通の人間と変わりなく、原作キャラクターも見た目だけでは気付けないくらいなのだが、それでも俺には同じ人間という気持ちは薄い。人と関わることで改善されるのかはわからないが、だからこそ今なら殺人に躊躇はない。

 

 しかし殺人行為を批難されることについては耐えられそうにない。原作キャラに嫌われるどうこうではなく、無関係の一般人に責められたとしても、俺は普通に傷付くだろう。恐怖されることに慣れてはいるが、嫌悪されることは別だ。

 

 だからこそ、俺は計画に協力して原作通りに進めようとは思わないが、どうなのだろうか。俺は勧誘を拒絶し、そのまま実験に参加せずに済むのだろうか。

 

 きっとそれについては目の前のスーツを着た黒い男が教えてくれるのだろう。

 

「やあ、見事だったよ一方通行」

 

 ぱちぱちぱちと拍手の音が響く。

 

 不良達の姿がそろそろ見えなくなったかという辺りまで歩いてきたところで現れた男は、こちらを観察するような胸糞悪くなる目をしながら張り付けた笑みを浮かべて胡麻を擦る。おそらくこいつが絶対能力進化計画に勧誘しにきた人間だろう。タイミング的にも多分間違いないはずだ。

 

 遂にきたかと俺は気を引き締める。

 

「そんなに警戒しなくてもいい。君に危害を加えるつもりは一切ないよ」

 

 男が人の善さそうな笑みを浮かべる。前世ならきっと騙されていただろうが、汚い大人達ばかり見てきた俺にはそれが作り笑いにしか見えない。内心では子供である俺を見下し、超能力者である俺に恐怖し、実験体である俺をどうやって利用するかなんて考えているのだろう。

 

 まったく、人間不信になりそうだ。それにこんな俺の状況に反して上条当麻はラブコメをしているのだろうことを思えると、苛立ちが込み上げてくる。

 

「用件をさっさと言えよ。どうせクソつまンねェ実験にでも勧誘しにきたんだろ? こっちはお前と違って暇な時間なンてねェんだからさっさと言って消えろ」

 

 苛立ちに流されながら少し乱暴に伝えると、男の作り笑いが一瞬歪んだように見えた。もしかしたら怒らせてしまったのかもしれない。もっと言葉を柔らかくするべきだっただろうか。

 

 反省しながら男の言葉を待つ。すると予測よりも早く、先程の暴言などなかったかのような笑みで男が口を開いた。

 

「なるほど。それなら遠回しな話はやめにするとしよう」

 

 そう言って男の笑みが深くなる。先程までの人の善さそうな笑みとは違い、心底楽しそうな狂った笑みに変わる。

 

「一方通行、君は今の生活に不満を抱いているだろう。現状が不服で仕方ないだろう。学園都市第一位で最強の超能力者。確かに特別といえば特別だが、そんなもので満足なんてしていないだろう。もっと先へ、最強を越えたその先に興味はないかい? 私達なら君をそこへ連れていける! レベル5のその先へだ!」

 

 まるで演説をしているようだった。それに宗教団体の教主のようにも見えた。自分に酔っている。そんな様子が見てわかる。自信に溢れているのが感じ取れる。

 

 頭が痛くなってきた。原作で一方通行を勧誘しにきた人間はこんなに痛々しい奴だっただろうか。十年以上前の前世の話なのでそこまで詳しく覚えているわけではないが、違ったと自信を持って言える。

 

 ここまで狂信的ではなかったはずだ。

 

 しかしまあ、原作通りであろうとそうでなかろうと、内容自体は変わらない。

 

 それに俺のこれからの行動もだ。

 

 だから関係ない。

 

 目の前の男が勧誘しているのは絶対能力進化計画なのだろう。それなら俺の答えは最初から決まっている、Noだ。

 

 断固としてNoだ。

 

 だから返す言葉はこれしかない。

 

「どうだい、一方通行。興味があるのなら是非協力してくれないか?」

 

「……成功する保証はあるのか?」

 

「当然だ。樹形図の設計者(ツリーダイアグラム)で予測演算したのだからな」

 

「その実験で俺は無敵になれるのか?」

 

「ああ、誰もが君に平伏すだろう」

 

「ちなみに断ればどうなる?」

 

「そうだね、出来るなら手荒な真似はしたくないが君が拒否するならこちらにも考えがある。超能力者といってもこちらに対抗策がないわけではないのだから」

 

「だろォな。俺は最強ではあるが無敵ではねェ。そのことは俺が一番よく知っている。対抗策とやらもハッタリじゃねェンだろうなァ。それくらいはわかる」

 

「……なら引き受けてくれるんだね?」

 

「答えなンて決まりきってンだろ」

 

「それじゃあ……」

 

 

「――だが断る」

 

 

 男の目が点になった。

 

「この一方通行が最も好きなことのひとつは、自分で強いと思ってるやつに『No』と断ってやる事だ」

 

 口をぽかんと開けたまま男が固まる。おそらくあそこから断られるなんて微塵も思っていなかったのだろう。勧誘対象について勉強不足としか言いようがない。

 

 俺が求めているのは友達だ。あと出来ることなら可愛い彼女だ。男友達ゼロのハーレムオリ主とかではなく、割と友達が多い方なリア充に俺はなりたい。あとは一方通行の能力を使って適当に俺Tueee出来れば満足だ。二万人を殺し続けるなんて作業ゲーは、上条当麻がこの世界にいなくても、本当にレベル6になれるとしてもやりたくない。ドラクエのレベル上げ作業の方がやる気が出るくらいだ。

 

 そんな俺をあんな台詞や脅し文句で勧誘出来ると思ったら大間違いである。

 

「し、正気か……? 絶対能力進化計画に参加すれば間違いなく君は前人未踏のレベル6という存在になれるんだぞ!?」

 

 硬直から復活した男が叫ぶ。

 

 それに俺は首を横に振って答えた。

 

「興味ねェよ。今でさえ『オレに勝てるのはオレだけだ』状態なのにそれ以上を目指してどォなンだよ。そォいうのはもっと強くなりたいとか思ってる熱血くンの担当だろ。俺には向いてねェよ」

 

 それに友達を作る時間がなくなってしまう。それはダメだ、絶対にダメだ。もうみんなでわいわいやる類いのゲームでソロプレイしか出来ない生活は御免だ。いつまでも進化しないゴーストを見て泣きそうになるのもやめにしたい。ゲームの中にしか友達がいない人生はそろそろ終わらせたい。

 

 だから俺ははっきりと断った。

 

「……今ならまだ間に合うぞ?」

 

「しつけェよ」

 

「後悔するぞ?」

 

「しねェよ。俺は一方通行だ。後ろ向きに進むなンて有り得ねェ、事故るだろォが」

 

 俺のウィットに富んだジョークに男はピクリとも笑わない。友達が出来た時用に考えていた秘策のネタだったのに残念だ。

 

「……今日のところはこの辺で引き下がっておくことにしよう。どうやら君はこちらが思っていたよりも愚かだったようだ」

 

 男はまた笑顔を張り付けた。しかし最初の方のような余裕は感じられない。目の奥に怒りの色がちらちらと見えた。

 

「次に会う時は賢い選択をしてくれることを期待しているよ」

 

 そう言い残し、男は去っていった。

 

 今日から宗教団体の会員よりもしつこい勧誘が始まるのだろう。それを考えると少し気分が落ち込んだ。

 

「まあ今考えても仕方ねェか」

 

 取り敢えず訪問販売お断りみたいなステッカーでも帰りに買っていこう。そう決めて、今日も俺はまたゲームセンターへと向かっていった。

 




 愛用していたケータイが壊れて現在代用機です。おかげで殆ど書き上げていたのに最後の方を少し書くだけにすごく時間をとられていました。更新を楽しみに待っていてくださった方、お待たせしてすみません。

 たくさんの感想ありがとうございます。なるべく早く、そして完結させられるように頑張りますので、応援よろしくお願いします。

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