とある憑依の一方通行(仮)   作:幸村有沙

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第一話 学園都市最強

 転生生活十五年目。四月からゲームセンターに通い始めて既に七ヶ月ほど過ぎたが、しかし、未だに俺は目的を果たせていなかった。目的に打ってつけだった夏休みも疾うの昔に過ぎ去って、何度も諦めようとしたが、今日も俺は目的を果たす為にゲームセンターに足を踏み入れる。

 

「今日も無理だろうけどなァ……」

 

 諦めムード全開のまま這入ったゲームセンターは日曜日で学園都市の人口の殆どである学生が休みだから、もう寒くなる時期だというのに騒がしい。

 

 サングラスを付けキャスケットを被った異常に肌の白い俺の姿が不審なのか、ちらちらとこちらを見る視線が気になったが、彼等は俺の目的の為に役に立たないと経験則で知っているので無視をする。そして別段目当てというわけではないのだが、取り敢えずということで俺はとある格闘ゲームの筐台の前に座った。

 

 さて、目的の為目的の為と何度も繰り返し直接的な表現を意図的に避けていたが、別にそう特別な目的だというわけではない。勿体振っていたわけではなく、ただほんの少し恥ずかしかっただけだ。

 

 ゲームセンターという場所を考えればすぐにわかると思う。原作は関係ないので考えなくていい。お嬢様学校に通っているくせにゲームセンター通いをする例のお嬢様に会う為にだとか、そういうミスリードを誘っているわけではない。この場所が最も目的に相応しいと判断しただけで、原作はまったく関係がない。

 

 いや、ある意味では関係があるのだろうか。一方通行。その人物について少し知っていて、ゲームセンターに何度か通ったことのある人間ならもしかしたらわかるかもしれない。

 

 もちろん、一方通行を知らず、ゲームセンターも知っているだけで行ったことはないという人でもわかる問題だ。

 

 ああ、ゲームセンターに限定してしまうとゲーム目当てだとか違う方に考えを進めてしまうかもしれないが、それも違う。ゲームセンターである必要はない。

 

 ボーリング場でもいいし、ビリヤード場でもいい。幼い子供なら公園が打ってつけだろうし、よく知らないが大人ならバーなんかが相応しいのかもしれない。

 

 もうわかっただろう。

 

 俺の目的は友達作りだった。

 

 しかしゲームセンターに通い続けて七ヶ月。未だに友達は出来ていない。

 

 中性的なアルビノ美少年というのは近寄り難いらしく、話し掛けてくる人はまずいない。ならばと自分から話し掛けてみても避けられ、運よく避けられずに話せても親交を深める前に第一位狙いの不良に絡まれる。それならと今日のように変装してわかりやすい容姿を隠せば不審に思われて余計に避けられてしまう。

 

 完全に詰んでいる状態だった。

 

 一度話し掛けたら通報されそうになった時は本気で泣きかけてしまった。

 

 それでも諦めずに俺はここにいる。

 

 一方通行として暴走事件を起こしてしまった俺だが、原作の一方通行と違い人を近付けないような生き方はしていない。しかし、研究所通いで時間がない生活が続いて友達は出来なかったのだ。

 

 最近は一方通行をレベル6にすることの難しさがわかって研究員も計画を立てること自体が少なく、それでいて学校に通っていないので時間が余り、友達を作ろうと決意したのだが、何故かことごとくうまくいかない生活が続いている。これも打ち止めを心のよりどころとさせてプランを進めやすいようにするアレイスターの計画の一部なら彼もたいしたものだ。

 

 おのれ、魔術師(アレイスター)!!

 

 だが、思い通りにいくと思うなよ。

 

 心の中で再び闘志を燃やし、何度もやり飽きた格闘ゲームに硬貨を入れようとし、そこで小銭がないことに気付いた。

 

 更によく見ると紙幣もない。

 

「昨日使い過ぎちまったか」

 

 溜息を吐き、勢いよく立ち上がる。

 

 それだけで周囲の学生達が少しざわついたがとっくの昔に慣れたことなので心の中で悪態をつきながらも無視をし、ゲームセンターから居心地悪く脱出した。

 

「確かこの辺りでATMが一番近ェのは郵便局だったか?」

 

 独り言を呟きながら記憶を頼りに道を進む。疑問に答えてくれる友達がいないのがかなり寂しかったが、きっとそれも今日までだと虚勢を張った。

 

「……あれか?」

 

 そうして歩いて少し経つとすぐに郵便局の近くまで来ることが出来た。しかしいつもとは様子が違う。周囲の人間がざわめいていて、それに何故かシャッターが降りている。閉まっているのだろうかと一瞬頭に過ぎったが、取り敢えず俺は郵便局の前まで近付いていった。

 

 そして気付く。どうやら臨時休業だとかそういう一般的で平和的な出来事ではないらしい。ショートカットの少女が叫んでいるのを聞き、それを理解した。

 

「だ、誰か助けてくださいっ! 中に強盗が……しらっ、風紀委員(ジャッジメント)の方が危険で……!」

 

 そのままよくよく聞いてみると郵便局に強盗が現れて風紀委員が対応するが、失敗してピンチに陥っているらしい。

 

 原作でも同じようなことがあったような気がする。治安が悪い学園都市ではこういうのも有り触れているし、原作のそれに狙って遭遇するのも難しいので、今回のこれが原作にあったかもしれないその事件である確率はかなり低いけれど。

 

 しかしまあ、通行人も薄情なものだ、小学生くらいの少女が助けを求めるのを完全に無視するとは。確かに六割の学生がレベル0の無能力者で、レベル3の強の能力者でエリート扱いなのだから助けられる能力があると自信のある通行人などいないのだろうが、それでもただの人間であっても出来ることがあるのではないだろうか。荒事専門である風紀委員が被害者になっているというので尻込みしてしまう気持ちもわからないでもないが、泣いて助けを求める子供を無視してもいい理由にはきっとならないだろう。

 

 一方通行というチート能力を持っているから言えるだけなのかもしれないが、それでも俺は彼等の薄情さに立腹した。

 

 そして。

 

「おい、そこのガキ」

 

「あのっ! 中に……!」

 

「心配すンな。俺がなンとかしてやる」

 

「あ……」

 

 そう言って無駄に格好を付けて、俺はシャッターを能力全開で蹴破った。

 

「な、なんだぁ!?」

 

 勢いのまま郵便局の中に這入ると、腕章を付けたツインテールの少女の手を男が踏み付けていた。ATMの近くでは男の仲間らしき強盗だろう男達が局員を脅している。その近くには壊れた警備ロボらしき物体と、それに巻き込まれたのか背中を怪我した女性が横たわっていた。

 

 風紀委員らしき二人の子供が怪我をしていながらも隅で怯えている客だろう大人達が無傷で怯えている姿が目に入る。

 

 外で助けを呼んでいた少女もそうだったが、風紀委員だからと中の二人の子供に危険を押し付けて、ただただ怯えている大人達の姿が神経を逆撫でた。

 

 一方通行になった弊害なのか、気が短くなったような気がしなくもないし、それに正義感が強くなったような気もする。心の中では自分第一と声高々に言えるが、実際に理不尽に曝された人を見ると苛立ちが抑えられなくなってしまう。

 

 まあ、今はそれでいいか。

 

 その怒りを強盗犯にぶつけよう。

 

 俺は邪魔になるからと帽子とサングラスを外して隅に投げ、強盗達を睨んだ。

 

「な、なんだてめえは!?」

 

 少女の手を踏んでいた男が凄みを効かせるように怒鳴る。しかし先程の俺の登場に度肝を抜かれたのか、怒りよりも驚きの方が勝っているような声になり、それが少し間抜けに思え、俺は小さくか行で笑う。

 

「なめてやがんのか、ああん!?」

 

「く、くく……」

 

 三下丸出しの態度が滑稽に感じ俺はまたしても少し笑ってしまったが、それが更に彼の機嫌に障ったらしく、男は興奮しながら叫んだ。

 

「余裕こきやがって、馬鹿にしてやがんのか!? 正義の味方気取りで登場したつもりなのかしらねえが、こっちには人質がいるんだぞ! それ以上動けばこのガキの手を踏み潰してやるからな!!」

 

 そう言って男は足に力を入れ、少女の苦しそうな声が続いた。まずは中の確認をと思って行動しなかったが、さっさと手を踏まれている少女を助けるべきだったかもしれない。少し反省だ。

 

 さてと。

 

「おい」

 

「ああ!?」

 

 品がない、いかにも不良らしい、不良品以下のチンピラが俺の声に身構える。

 

 しかし、それは無意味だった。

 

 手を握り、ベクトル操作で親指の先に風を集めて固め、それを打ち出す。

 

「がっ……はッ!?」

 

 たったそれだけのことで男の身体は壁に向かって叩きつけられた。

 

 それから俺は少女に駆け寄る。

 

「おい、大丈夫か?」

 

「は……はい……っっ!」

 

「無理はすンな。あとは俺に任せてガキは昼寝でもしてろ」

 

「なっ! わ、わたくしはガキじゃありませ……いたっ!」

 

「へいへい、わかったわかった」

 

 壁から落ちて噎せる男と呆然とする仲間達を放置して、少女と話す。特徴的な声を聞いて今更ながら気付いたが、どうやら彼女は白井黒子だったらしい。ということは外にいたのは初春飾利で、倒れているのは名前は思い出せないが牛乳先輩(うしちちでもぎゅうにゅうでも可)。つまり原作であった事件に偶然遭遇していたらしい。

 

 運が良いのやら悪いのやら。いや、悪いか。超電磁砲組にはあまり関わりたいとは思っていなかったのだから。

 

 邪魔だからと変装を解いたことを後悔する。そのままでも良かったのに格好付けた所為で厄介になりそうだ。

 

「っっ……ごほっ……て、てめえ!」

 

「だ、大丈夫か!?」

 

 悔やんでいる間に吹き飛ばした男が復活し、呆気にとられていた仲間達が彼に駆け寄る。油断してる間に隙だらけだった強盗達は警戒態勢に入った。

 

「よくもやりやがったな!?」

 

 怒り狂った男が何かを投げた。それを見て白井黒子が叫ぶ。

 

「だ、ダメですの!」

 

 何かはよく見るとビー玉サイズの鉄球らしい。確か絶対等速(イコールスピード)だったか、投げた物体が能力を解除するか物体が壊れるまで前に同じ速度で進み続ける能力とかなんとか。普通なら警戒すべき能力だが、一方通行には通用しない。

 

 俺はそれを反射した。

 

「んなっ!? ……ばかなっ!?」

 

 男が驚愕する。危険を呼び掛けていた白井黒子も吃驚のあまり目を見開いていた。絶対等速よりも一方通行が上回っていた。それだけで彼の能力の絶対性はいとも簡単に崩れたのだった。

 

 こういう自分が絶対的に優位だと思っている奴の鼻っ柱がへし折れる感覚は好きだ。自然と笑みが浮かぶ。

 

「ざァンねんでしたァ」

 

 男が驚きながらも能力を解除して鉄球が床に落ちるのと同時に、俺はベクトル操作を利用して男の前に飛んだ。

 

「う、あ、なっ……」

 

「運が悪かったな」

 

 そう言って顎を掠めるように拳を振って脳を揺らす。そして男は気を失った。

 

 残りは二人。

 

「やりやがったな!」

 

 仲間の一人が先程の出来事を見て逆上し、俺に向かって炎を放った。発火能力(パイロキネシス)のレベル2かレベル3程度か。さっき気絶させた男もそうだが、スキルアウト達とは違い真面目に学生生活を送れば普通に生きられるのに、何故こんな行動を起こしたのか少し疑問だ。

 

 まあ力があるからこそこういう行動に出たのかもしれないが。

 

 そんなことを考えながら軽く腕を振るい、怪我をさせて面倒な事にはならないように、今度は反射ではなく操作で炎を霧散させる。その様子を見て驚く男を無視し、また目の前まで能力で飛んでさっきと同じ事をして男を気絶させた。

 

「な、なんなんだお前はぁ!!」

 

 最後の一人が叫んだ。

 

 それに俺は格好付けて答える。

 

「――ただの学園都市最強だ」

 

 

 ◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 最後の男も気絶させると、強盗達の恐怖から解放された周囲の人間達は一斉に歓声をあげた。その隙を狙って帽子とサングラスを拾って装備する。

 

 そして牛乳先輩に駆け寄った。

 

 気絶しているだけで命の危険はない。背中も傷もあまり深くはなく、これなら冥土帰し(ヘブンキャンセラー)と呼ばれる医者なら傷もまったく残さず綺麗に治してくれることだろう。最悪の場合は能力を使って応急処置くらいはしておこうと思ったが、それは必要なさそうだ。

 

 そう判断し、次は白井黒子の元へ行く。

 

「……あ、あの、ありがとうございますの。貴方のおかけで助かりましたわ」

 

「気にすンな。ただの気まぐれだ」

 

 痛みを堪えながら立ち上がる白井黒子に軽く手を振って手を差し出す。それを見て白井は俺が立ち上がるのを手助けしようとしていると思ったのか手を伸ばしてきたが、俺は首を横に振った。

 

「違ェよ。逆の方だ」

 

「えっ……?」

 

 よくわかっていない様子の白井を無視して逆の、怪我をしている方の手を掴む。掴まれた所為で白井は痛そうな声をあげたがそれも無視をした。

 

「いたっ……な、なにを!?」

 

「黙ってろ」

 

 そう言って利便性もチートなベクトル操作を白井の身体に行使する。すると次第に白井の表情が和らいでいった。

 

「あれ……? ……痛みが?」

 

「神経や脳を刺激して痛みを和らげるセロトニンやγアミノ酪酸なンかの痛覚抑制物質やエンドルフィンを分泌させただけだ。別に怪我が治ったわけじゃねェ」

 

 混乱する白井に答える。別に怪我をした手を掴まなくても出来たことというのは言わない。その方が面白かったからなんてバラしてしまえば、彼女はきっと騒ぐだろう。それはあまり好ましくない。

 

「さて、と。それじゃあな。拘束だとか護送だとかそういうのは任せたぞ」

 

 頑張れ風紀委員。そう言って俺は郵便局から早足で出る。白井や外にいた初春の呼び止める声や感謝の言葉が聞こえたが音を反射して無視をした。

 

 事情聴取だとかそういう面倒臭い事は勘弁だ。それにこの方が格好良い。

 

「さァて、今日こそ友達作るか」

 

 なんて、クールを気取ってゲームセンターに戻ったのだが、ATMでお金を引き出すという当初の目的を忘れていて、その所為でまた郵便局に戻るのも恥ずかしいので、別の少し遠いコンビニに引き出しに行き、最後は情けない結果に終わった俺だった。

 

 更に結局その日も友達を作ることは出来なかったことも付け加えておく。


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