とある憑依の一方通行(仮)   作:幸村有沙

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プロローグ

 人生というものは一度しかないものだと思っていたが、どうやらそうでもないらしい。トラックに轢かれて死んだと思っていたら次の瞬間には赤ちゃんになっていた時、俺はそのことに気付いた。

 

 真実は小説よりも奇なりと英国の詩人が残した言葉にもあるのだから、まあこういうこともあるのだろう。

 

 俺はあっさりとその事実を受け止めた。

 

 しかし、流石に前世で読んだ物語の世界に転生していることに気付いた時には、流石にネット小説かよと突っ込んだ。

 

 この世界の東京西部には学園都市という完全独立教育研究機関があるらしい。

 

 あらゆる教育機関・研究組織の集合体であり、総人口二三○万人の内八割を学生が占める学生の街で、外部より数十年進んだ最先端科学技術が研究・運用されており、また超能力開発が実用化され学生全員に実地されている科学の街。

 

 そんな街が存在しているということは、つまり『とある魔術の禁書目録』の世界であるということだ。流石に俺が死んだ後で禁書が大流行し、それを模した都市を東京・神奈川・埼玉・山梨の地理の一部を真っさらにして新たに作り出したということはあるまいし、それに似た世界というのもないだろう。いくら人気になってもライトノベルがそこまで現実に干渉するなんて、それこそ有り得ない。

 

 だからこそ、学園都市は間違いなく、あの学園都市だった。ちなみに埼玉県にも面しているとはいえ、麻帆良学園都市の方ではないことも確認済みである。

 

 だとすれば、だ。

 

 この世界は普通よりも死亡フラグが満載な世界だということがいえる。

 

 だがしかし、それに気付いても俺は怯えることはなかった。何故なら危険なら避ければいいだけだからだ。原作をある程度知っている俺ならそれが出来る。

 

 まず学園都市には当然行かない。それにイギリスやフランスやロシアにも行かない。これだけ守るだけであとは前の世界と殆ど同じように生きられるだろう。両親との仲も良好で、父の収入も悪くない。だから入学した生徒が都市内に住居を持つこととなる学園都市の制度を利用し、入学費だけ払って子供を寮に入れ、その後に行方を眩ませる行為をされ、置き去り(チャイルドエラー)になることもないだろう。

 

 それに特に珍しくもない日本人らしい普通の名前なので、原作キャラに転生してしまったということもない。

 

 だから安心だ。

 

 と、思っていたのだが。

 

 何故か俺は両親によって、その死亡フラグ満載の学園都市の小学校に入学させられてしまうことになってしまった。

 

 当然断固として拒否したのだが無駄だった。前世の知識を有し、親バカでなくとも天才児を思わせる行動をとっていた俺を見て、彼等はレベルの高い教育を受けさせるべきだと考えていたらしく、しかも俺が学園都市についていろいろ調べていたので興味があると思ったらしく、普段いい子で我が儘一つ言わない俺を喜ばせようと、サプライズ的な意味も込めて近所の小学校に入学させると教えながら裏で学園都市入学への手続きを進めていたらしく、気が付いた時にはもう手遅れだった。

 

 俺の拒絶は親元を離れるのが寂しいが故にと思われ、普段は大人っぽいのに子供らしいところもあるんだな的な風に受け取られ、説得は完全に失敗した。

 

 そんな訳で学園都市に入学。

 

 しかし、それでも俺は諦めなかった。

 

 死亡フラグ満載といっても一般的な学生にとっては、スキルアウトのような不良が多く、少し治安が悪いだけで、統括理事長のアレイスターや外道な科学者達、暗部などとも関わることもない。

 

 原作を思い出す限りは一般人が巻き込まれるような事件は少なかったはずだ。

 

 原作に関わらない限りは安全だ。

 

 そう自分に言い聞かせることにした。

 

 それで安心していた。

 

 だが、しかし。

 

 やはり俺は甘かったのだった。

 

 小学校入学後、何故か俺の能力開発はとある研究所で行われた。

 

 そして発現した能力はレベル5。

 

 開発責任者の名前は木原数多。

 

 どう考えても一方通行(アクセラレータ)です、本当にありがとうございます。

 

 能力の詳細はまだ不明だが、どう考えてもベクトル操作だろう。まさか原作キャラに転生したとは思わなかった。

 

 しかし、よくよく考えてみれば苗字が二文字名前が三文字で条件に一致し、前世の知識がある上に子供の脳だからと考えていたが記憶力や思考力など頭がずば抜けていいなど、少ないがヒントもあった。いや、気付けるはずもないけれど。

 

 そして俺は無駄な努力はやめた。

 

 自分が一方通行の本名を知る唯一の読者になったことなど喜べるはずもなく、この瞬間、俺は平和な人生を諦めた。

 

 それからはきっと大筋は原作通りなのだろう。能力名を一方通行に変更するように申請し、普通に小学校に通い、うっかり能力を暴走させてしまい、最終的に軍隊に囲まれなんやかんやあり、原作通りかは知らないがその所為で両親が音信不通になったり、九歳から特力研に入り、それから虚数研、叡智研、霧ヶ丘付属などと様々な研究機関をたらい回しにされ、そして現在の状態に至る。

 

 まあでも原作の一方通行よりはマシだとは思う。研究所は地獄だったが何があるか知っていたし、精神的には大人なので耐えられた。怪物扱いされても仕方ないと許容出来た。友達が出来ない人生であってもなんとか乗り切ってみせた。

 

 それに能力もだ。

 

 原作一方通行と違って反射にばかり頼らない俺は、漫画やアニメなどの能力を真似してベクトル操作で出来る事を増やしたりしているので、原作初期一方通行と能力を競い合ったとしてもきっと負けることはないだろう。黒翼や天使モードはまだ出来ないから初期だけだが。

 

 と、そんな感じで、中身が違うからか原作一方通行との違いは能力以外にもかなりある。反射が無敵じゃないと知っているから身体も鍛えているし、不良などに家を襲われるのも欝陶しいからセキュリティレベルの高いマンションに住んでいるし、コミュ障じゃないしコーヒー中毒でもない。それにあの特徴的な服も着ない。

 

 だがしかし、同じ部分もやはりというか多く存在することも否めない。

 

 か行で笑ってしまったり、言葉がァィゥェォンだけカタカナになるような話し方をしてしまったり、第一位だからかやたらと絡まれたり、容姿もアルビノになってしまったり、らじばんだり。

 

 それに気付く度にやっぱり一方通行なんだなぁと苦笑を浮かべてしまう。

 

 だがそれでも俺が一方通行なのだから原作はきっと大きく変わるのだろう。

 

 いや、変える。

 

 一万人も殺すのは流石に無理。クローンだからとかライトノベルのキャラクターだからとかを言い訳にしても無理。

 

 地獄のような研究所での経験で殺人自体への忌避感は薄いが、絶対に失敗するとわかっている実験の為に歴史上のどんな殺人鬼よりも殺すとか絶対に無理。

 

 打ち止め(ラストオーダー)を救う為に頭を撃ち抜かれるのも無理。

 

 あれがないと黒翼が覚醒出来ないのかもしれないけれど、こんなに便利な能力を時間制限ありにするなんて考えられないし、杖生活も経験したくはない。

 

 こんな風に本来の一方通行と俺では意識しなくても原作は変わるだろう。

 

 そもそも自分の命第一の俺が幼女を筆頭にしたクローンの為に命懸けで頑張る姿なんてまったく想像が出来ない。暗部に所属するくらいは一方通行に生まれ変わった時点で許容範囲に入るけれど、自分の能力の天敵である木原に立ち向かったり、死ぬかもしれないのに魔術使ったりなんて俺に出来るとは到底思えない。

 

 原作通りに行動しないと未来がわからなくなるとかは気にせず、安全第一。

 

 でも一方通行に生まれ変わったのだから能力を使って俺Tueeeもしたい。

 

 だからまあ、適当に頑張る。

 

 そう決めた俺だった。

 




 後書きって読者目線で見れば読んでてすごく邪魔だなぁとか思うのに作者側になると書きたくなる不思議。

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