FAIRY TAIL~魔女の罪~   作:十握剣

9 / 15
第9話「微動する花の都」

 

 今正に王都クロッカスの空中にて巨大な魔法により作り上げられた大魔闘演舞の『予選』の為の競争が始まったばかりだった。

 

 そんな誰もが夜空に広がる巨大な『空中(スカイ)迷宮(ラビリンス)』を見上げている中、ある一人の男が行動していた。

 

「おーおー。始まったって」

 

 金髪を獅子の(たてがみ)のように突っぱねた髪をして、深紅の眼で辺りを見ながらクロッカスの街中を遊歩する。

 

妖精の尻尾(フェアリーテイル)も参加してんだろうが、内容が内容。まず予選は突破するんだろうが・・・・・・オレっちがただ待ってるって可笑しいだろう?)

 

 黒いフードをマントにして、炎の滅神魔導士(ゴッドスレイヤー)・ザンクロウは賑わうクロッカス中央区からフィオーレ王が住まう居城。メルクリアスにへと向かっていた。

 

「カッカッカ!! まぁさか、オレっち一人で城に行くとは思ってねぇだろウルティアさんもメルディも! たんまりウルティアさんが好きな菓子と魔法人形に高額の魔本をお土産にしたおかげだって」

 

 メルディも一緒にクロッカスで満喫出来たことを、ザンクロウの気回しだったのを感じ取り、暗黙の了解としてザンクロウが単独行動することを見逃してもらっていた。

 もちろん、定期的に連絡を入れる条件として、

 

「さぁてさて。イッヒヒヒヒ! ぜってぇ城になんかあんぜ。これぜってぇだわ! 最初からジェラールも城に入れば良いのによォ!」

 

 勿論、フィオーレ王国の城なのだから、国家秘蔵の何かを隠すならフィオーレ王の居城に置いておくと誰もが理解していると思うのだが、ジェラールも元評議院の議員だ。顔が割れているし馬鹿みたいに国を相手に喧嘩は売らない。利口なら。

 

「イヒャハハハ!!!」

 

 だが、世界は広い。愚か者が存在しても世界は許してしまうのだ。

 

 ザンクロウは本当に迷いもなく幾重にも警備を張られた城門前まで疾走していた。誰かが見ていればポカンと唖然として見ているか騒いでいたりして良かったのだが、今の時間帯は夜中の12時。警備を弛くなるどころか強くなる時間帯であろうその時にザンクロウは満面な笑顔も奇妙な笑い声を上げて、全力疾走で駆けくるのに対し、フィオーレ騎士隊がフル稼働して止めに入っても可笑しくはない。

 

「止まれこの酔っ払い!」

 

「悪人面しやがって、止まれ! ・・・止まれ、止まれって、とま・・・・・・」

 

「止まれぇぇぇぇ! 話聞い───って、止まれえええええ!!」

 

「ヒヒハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!」

 

「「「うわああああああああああああああああああああああああああああああっっ!!!」」」

 

 きっと頭イっちゃてる人だー! と叫びながら騎士隊の男たちは城壁を囲む城の門に隊列を組んで盾になる。だが、ザンクロウは気にせず突進しようと得意の『滅神魔法』を使おうとするが、止めた。

 

(魔法使うと面倒かァ・・・チィッ! なら新しく覚えた体術(こっち)か?)

 

 ザンクロウはぶつかるか否かという合間に、僅か数歩一瞬して後方にへと下がり、騎士隊の力を入れさせるタイミングをずれさせ、そして一気に掌を静かに甲冑に付ける。

 

炎神(えんしん)体術・〝炎勁(えんけい)〟」

 

 すると、まるで衝撃を与えられたかのように騎士が後方にへと吹っ飛んでいった。他の騎士が呆気にとられている内にザンクロウはまた一人の騎士に同じ技で吹き飛ばす。

 

「き、貴様ァ!」

 

「コイツ!!」

 

 周囲に居た騎士たちも騒ぎに気付き、どんどん群れ集まっていく。ザンクロウはこんな状況だというのに笑みがはち切れんばかりに広がる。

 

 だが、これを善しとしない者が現れる。

 

 ゴワァアッ!!! とザンクロウの瞳がいきなり光によって遮られたのだ。まるで太陽の日光を直視したかように目が一瞬にして焼けてしまい、視界が伏せる。

 呻き声を軽く上げて後ろに大きく下がり、目の回復を優先するも同時に耳から情報を得る。

 

(騎士たちの声と、鎧と足音が消えてんなぁ。そういう魔法か?)

 

 それなりの魔導士が警備に居ると思い、ザンクロウはその者を捕まえて利用しようと考えていたのだ。馬鹿正直者、というより馬鹿者の対応をする代表者なのだからそれなりの情報を掴んでいる奴だろう、と考えていたザンクロウだったが、やはり世はそんなに甘くなど無かった。

 

「ちょっと、困りますってそんな勝手な事。マジ勘弁して欲しいスけど・・・」

 

「アァ?」

 

 視界がまだ回復してこない中、音から得た情報によると、随分と若い声が帰ってきた。

 

「・・・それがこの滅神魔導士(ゴッドスレイヤー)だ。他の滅神魔導士(ゴッドスレイヤー)とは斯くも大きく違う」

 

「オォ?」

 

 視界が回復してきた頃、次は女の声が聞こえてきた。ザンクロウはゆっくりと立ち上がり、目を細めて見てみると、

 

「オーなんだァ? まだぼやけてんのか? 目の前に変なお面被った奴と錫杖を握った綺麗なお姉さんが居るってよ」

 

(ほの)めかすのも良いかもしれんが、しゃんとせい。炎の滅神魔導士(ゴッドスレイヤー)

 

 よく見てみると周囲の騎士たちが居なくなっていた。ざっと20人くらいは集まって来たと思っていたのだが、とザンクロウが見渡していると、コツンコツン! と仮面を叩いている男に振り向く。

 

「あー・・・あー・・・・・・説明しようかと思ったスけど。えー面倒になってきったス。あー」

 

 仮面の男はポリポリとザンクロウの前まで来ると、

 

「何ぃ勝手な事してんのアンタ!?」

 

「ぐぼォ!?」

 

 急に脈絡も無くキレて殴ってきた仮面の男に流石のザンクロウも殴られた頬を撫でながら呆然とするしか無かった。鼻血まで出てきている。

 

「あー・・・うん。マジ怒ってるんスよ。こういう勝手なことされっと困るんス」

 

「さっきから何だってんだよォ! そしてこっちもいきなりの右ストレートぉぉぉ!!」

 

 いきなり訳分かんなく殴ってきた仮面の男にザンクロウの容赦の無い本気のパンチが繰り出される。それはかなり感触のあるハズのパンチだったのだが、ザンクロウのパンチは虚しく仮面の男をすり抜けて(・ ・ ・ ・ ・)いった。

 

「なッ!」

 

「うわこわー。いきなり殴ってきたっスねぇ。でも効かねぇっス。オレには一切の攻撃は効かねぇんスよ」

 

 仮面の男は、何の顔のパーツの無い無貌(むぼう)の仮面の男は本当にやる気の無い声を出してポリポリと頭を掻いて説明する。

 

「あーオレたちは勝手なコンビを組んでいる『傍観者』なんスよ。オレの名前は虚無(ノーバディ)っス。コムでもムウでも可っス。よろすぃ」

 

「勝手ながらのコンビの2、夢幻(ムゲン)だ。記憶しておけよ炎の」

 

 ザンクロウの目の前に立つ二人の異様な魔力と格好に面食らう。

 無貌の仮面の男が虚無(ノーバディ)と名乗り、ザンクロウたちが着ている服に似た黒いフードを目深く被っており、黒い鎧も装備し、かなり怪しい。

 綺麗なお姉さん、に〝見える感覚〟に襲われるこの夢幻(ムゲン)と名乗った女は入れ替わるように人が〝変わった〟。これは『人が変わる』という言葉のままではなく。丸っきり別人にへと変化していた。

 

「魔法の招待も分からねぇわ、本当に何者なのかも分からねぇわで怖ぇってよ。虚無(ノーバディ)夢幻(ムゲン)だぁ?」

 

「その名も所詮は虚像よ。真に受けるなよ。どっちでも良いがな」

 

 城門前でとんでもない相手に遭遇してしまったザンクロウは体術だけではなく、『滅神魔法』も使う意気込みで構えを取る。

 

「片方はすり抜けんならもう片方もすり抜ける、なんて同じネタ晒すワケじゃねぇんだろ? だったらコレでも食らって正体見せろってよオ!」

 

 人の目が相手側の魔法により無いことを確認していたザンクロウは、腕に〝黒炎〟を纏って一気に駆ける。

 

「炎神のォ! 轟拳(ごうけん)ッ!」

 

 ピシンッ、と場違いが音が支配する。

 

「───ッ こいつ!」

 

 放たれた黒炎の拳撃がどれほど危険なものなのか目の前に気怠い立ち姿のままだった無貌の仮面の男・虚無(ノーバディ)が初めて怠慢な声じゃない、焦りの声を上げた。

 ザンクロウの〝黒い炎〟が拳に纏い、余りにも強烈過ぎるその炎熱は周囲の空気を焦がして(・ ・ ・ ・)いき、まるで硝子でも割っているかのような音が周囲の空気を振動させて巨大な砲撃の如く打たれたのだ。

 

 だが、その余りにも『危険』な拳撃を、まるで身体を動かずに、 止めて(・ ・ ・)しまっていた。

 

(なァ!?)

 

 これに一番衝撃を受けたのは、何よりも本人、ザンクロウだった。唖然として目前で拳が止められている己の拳と相手を交互に見比べたりもして、混乱する。

 

「な、んだ? 見えない壁にでも防がれたのか・・・・・?」

 

「ふぃ~死ぬかと思ったっス。まさかいきなり『滅神魔法』使ってくるとは・・・・」

 

「・・・・・・流石の私も焦ったぞ。あれは紛れもなく本気の攻撃だった」

 

 虚無(ノーバディ)は掌をザンクロウの拳撃を受け止めようとしている『構え』をしているだけであり、やはり直接的に止めていない。ザンクロウの《炎神の轟拳》は本当になにも見えない壁にでも防がれたかのように、虚無(ノーバディ)夢幻(ムゲン)の前で止まっていた。

 

「あ゛ぁぁああ!? マジむかつくってよォ!」

 

「うわぁ待って待って、本当に争う気はこっちサラサラ無いの聞いてたスか?」

 

「まぁこちらも話してはおらんかった」

 

 虚無(ノーバディ)は無貌ながらに隣でずっと眺めて何もしていない夢幻(ムゲン)に蹴ろうとするが錫杖によって防がれ、逆に足を突かれ身体のバランスを崩す。

 

「話を聞け炎の滅神魔導士(ゴッドスレイヤー)。これは《傍観者》として助言する。城にはまだ入るな。ウルティアやメルディたちが居る場所にへと戻れ」

 

 ザンクロウは静かに、僅かながら殺気を噴出してしまう。

 ガシッ!!! と首を手で締め上げられるのではないか、と錯覚してしてまうくらいの殺気に、夢幻(ムゲン)は冷や汗が大量に流れ出る。

 

(こ、れほど・・・とはッ)

 

 手の震えで錫杖の遊環(ゆかん)がシャンシャンと鳴り響く。

 

(大切なもの、護るものがあると、ここまで・・・・・・殺気と闘気が入り乱れ、こんなにも息苦しくするものなのかっ?)

 

 ハァハァ、と夢幻(ムゲン)は数歩ほど下がり、少しずつ少しずつ息を整える。そして、整える時に隣に居るであろう虚無(ノーバディ)に目を向ければ、男は無を現すかように、不動のままザンクロウを見据えていた。

 

 そしておもむろに無貌の仮面から言葉を吐かれる。

 

「今は『大魔闘演舞』予選の開始が始まったばかりっスよー? 急がずにこれを眺めて楽しんでりゃぁ良いんスよ。あーほんと説明するのに、どうしてこんなことになってんスか? マジ嫌っス」

 

 ペタンと地に座り、ザンクロウが未だに殺気を収めていないのに気付く。

 

「あー、ウルティアさんにメルディさんの事っスね? そんなのちょー簡単な理由っスよ。『傍観者』を自称すんスから情報もってんのも当たり前じゃないスか、分かるんスよ。そーゆー魔法っス」

 

「・・・・・・どぅにも気に食わねぇってよ。何で邪魔をする? 何で言うこと聞かないといけない?」

 

「あーそういえばザンクロウさんやウルティアさん、メルディさんざワザワザ探して、入れて上げた『青い天馬(ブルーペガサス)』の子もすっかり元気みたいっスねぇ。今の『空中迷宮(スカイラビリンス)』も頑張ってみてるみたいっス。・・・んー『蛇姫の鱗(ラミアスケイル)』のあの娘も知り合いみたいっスねぇザンクロウさん」

 

「・・・オイオイ。まさかテメーおい。本当に〝視えてる〟のか?」

 

 虚無(ノーバディ)は整備された城門前の石道に横になる。自由過ぎるこの仮面の男にザンクロウはすぐにでも万物全てを灰塵に出来る『炎神の怒号』でも放って消し炭にしたくなるが、我慢する。この相手は計り知れない。

 

「戻りなってザンクロウさん。祭りは始まる。これからね」

 

 

 

 

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

 

 ザンクロウはまだまだ言い足りないくらいあったのに、全てを喉で詰まらせ、無言で従うことを選んだ。

 別に相手の考えにまで従っていたわけじゃない。たまそれが何より一番手っ取り早く終わることを予想したからだった。

 

「カッ! あれだろ? やっぱ城にはネタバレしそうなのが沢山あるから来させないでって自主規制が掛かったんだろゥ?! ふっざけんなよ」

 

 そしてあの虚無(ノーバディ)の男の能力は未知数だ。『身体をすり抜ける魔法』に『強力な防御魔法』の二つを使用し。それにザンクロウの身の周りの人物、しかも親しい仲間の名さえ手にしていた。

 警戒するに越したことは無い。

 ザンクロウは思考を巡らせながらも王都・クロッカスの街中まで戻り、喧騒が止まない真夜中の居酒屋にへと入っていた。珍しくも和風の居酒屋で、東方の酒が沢山ある店だった。

 中は既に数人しか居らず、外に出てお酒を飲むサービスにありつけている客人は最高に盛り上がっていた。

 

(だが、分かったこともあったぜ)

 

 ザンクロウは適当な酒を店員に頼み、先程分かったことを頭の中で整える。

 

(年に一度の大祭り、そりゃ王城の警備が厚くすることには何の疑問も浮かばなかったろうが、ありゃ少し無意味に多かった。・・・精々屈強な騎士や魔導士を配備させるだけでも王城の城壁は固められるだろう。だが、城門前に20人もの騎士(・・)、〝王に仕える騎士(・・)〟のみの警備だった)

 

 注文した酒を一気に煽り、一息つく。

 

「これは、なんかあんだろうって」

 

 ニヤリ、と笑ったザンクロウは、また酒を勢い良く喉に通していった。

 

 

 

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

「お客さーん。もう店閉めるよ? 起きてくれねぇかなぁ!」

 

 考えに耽り、一人で飲んでいたザンクロウは先程邪魔されたのが気にくわなかったのか、酒を沢山飲んではまた飲んでの繰り返しをして、一人で潰れてしまったのであった。

 居酒屋の店主はザンクロウが記憶が飛ぶ前に置いたのか、ちゃんと手元にはお金が置いてあった。これに店主は『酔っ払いにしては律儀だ』と感じ思い、店が閉まるまでは寝かせていたがもう朝だ。この居酒屋は朝まで営業をして、早朝には閉めるようになっているのだが、ザンクロウのように泥酔して爆睡するお客は沢山扱ってきた。なので店主はそれと同じようにザンクロウも扱うように、

 

「朝だぜ兄ちゃん!! 起きなぁぁぁぁあああああああああああ!!!!」

 

「うぉぉぉおおおおおおおおおおおっっっ!!? なんだって!!?」

 

 ガクンッガシャンバタァン! と豪快に驚いたザンクロウは面白いように飛び上がり、床に転がり落ちた。店主の厳つい大きな声にザンクロウは目を吊り上げて抗議する。

 

「オイオイオイオイ! 客になんつー対応だっつーのって」

 

「悪ぃな、だがアンタを最後まで寝かせてやってたんだ。感謝して欲しいぜ。ほらほら、早く出てけ、オレはこれから寝ずに『大魔闘演武』を見に行くんだ。これを逃したら年を越せないぜ」

 

「あ? へ? もう、朝か?」

 

「そう言ってるだろう? ほら早くしてくれ。誰よりも速く行かないとすぐ混んで良い席が取れなくなっちまうよ」

 

 ザンクロウはワシャワシャと獅子の鬣のように乱れた頭をまた掻き乱し、寝たことで少しだけ減った酔いを他所に再度思い出す。

 

(予選はどうなった?)

 

 妖精の尻尾(フェアリーテイル)は勝ち進んだのだろうか、と。ふと思い出したかよのうにザンクロウは店主に礼を告げて居酒屋を出て、朝日が登っているのに気づく。

 周囲に喧騒は無く、静かな音と、朝特有の冷たい空気が王都を包み込んでいる。欠伸を一つ吐き、ザンクロウは大魔闘演武会場である《ドムス・フラウ》にへとゆっくりと進んでいった。また堂々とした足取りで。

 

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 日が上り、太陽の光が花の都を照らした時刻には既に大魔闘演武会場の《ドムス・フラウ》は数千万人以上もの見物客で満員となっていた。

 年に一度の祭りなだけあり、大きな歓声と盛り上がる心臓の高鳴りを感じさせるような熱気が《ドムス・フラウ》を更に暑くさせていた。

 今年も最高に盛り上がっているこの魔法の祭典『大魔闘演武』に、フィオーレ王国随一の、輝かしい一位という(いただき)を手に入れんとばかりに強豪なギルドが弱肉強食の如き生き残り、栄光なる参加資格を得たギルドが、

 

 今、会場にへと足を踏み入れるのだった。

 

 

 

 

 

『さぁ! 今年もやってきました!! 年に一度の魔法の祭典!!! 《大魔闘演武》!!!! 実況は(わたくし)チャパティ・ローラ。解説には元・評議員のヤジマさんにお越しいただいておらます。ヤジマさんよろしくお願いします』

 

『よろスく』

 

『一日目のゲストにはミス・フィオーレにも輝いたギルド『青い天馬(ブルーペガサス)』のジェニー・リアライトさんをお招きしています』

 

『今年は青い天馬(ウチ)が優勝しちゃうぞ~ ♡』

 

 ワアアアアアア!! と歓声が会場を、いや都に轟くほどに賑わいが最高潮に鳴り響く。

 実況のチャパティが今大会の流れや、会場での禁止事項やらを面白い冗談など入れて聞き手を飽きさせない話術で会場を程よい雰囲気で落ち着かせる。後のギルド紹介の為に。

 

『さあ、(わたくし)の話もここまでにして、会場の皆さんも、もう期待で胸の高鳴りが治まらなくなってきたようですねぇ・・・・・いよいよ選手入場です』

 

『よろスく、あー・・・・・あー・・・・・よろスく』

 

『ヤジマさん!! ちゃんと拡声器音出てますから』

 

 あはははははっ!! と会場が活気の笑いで満たされる。ヤジマの(恐らく)冗談に観客たちが沸く中、とうとう勝ち進んだ選手たちの入場。

 

『まずは予選8位、過去の栄光を取り戻せるか! 名前に反した荒れくれ集団! 〝妖精の尻尾(フェアリーテイル)〟!!!』

 

 一番に入場してきたのは、ギリギリ勝ち進んだであろう妖精の尻尾(フェアリーテイル)の主要メンバーである、ナツたちであった。

 堂々と腕を天に衝かんばかりに翳したナツ。他のメンバーの顔も凛々しく堂々としたものだったが、反対に観客からの声援は無く、逆のブーイングを浴びせてきたのだ。

 

「んなっ!?」

 

「ブーイング・・・・・だと?」

 

「うぬぬ・・・・・」

 

 ナツはまさかの反応に、グレイはまさかここまで非難を受けるとはと感じ、エルフマンは悔しさで唸る。

 

『毎年最下位だった妖精の尻尾(フェアリーテイル)が予選を突破し、すでに8位以内決定ですからね~。大陸中を騒がせた〝天狼組〟の帰還により、フィオーレ(いち)となるか!?』

 

 実況のチャパティの脇でヤジマが妖精の尻尾(フェアリーテイル)に向けて親指立てて密かに声援を送りながらも、やはり会場のブーイングは止まない。

 

「うう・・・・・」

 

「気にするな、ルーシィ」

 

 止まぬブーイングに、気分的に愉快になるはずも無く、気落ちする中、エルザがルーシィに声を掛ける。そして同時に、耳にはブーイングではない声もあった。下を向いていたルーシィだったが、すぐに顔を上げて声がする方向へ向くと、出場していない妖精の尻尾(フェアリーテイル)のメンバーたちが声をはち切れんばかりに応援をしていくれていた。

 

 その声援はこの会場で何よりも小さかったかもしれないが、ルーシィには何よりも元気にしてくれる声援だった。だが、ふと妖精の尻尾(フェアリーテイル)のマスター・マカロフや他のメンバーとは別の人物も応援していた。

 

 その人物とは、妖精の尻尾(フェアリーテイル)の創設者にして、初代妖精の尻尾(フェアリーテイル)マスターである、マスター・メイビスの姿があった。遠目から見れば小さな女の子がはしゃいでいるだけに見えていたのだが、その正体を知ってしまってはルーシィやあのエルザも唖然としてしまった。

 本人曰く『天狼島にいるのもヒマなんですよ』と、わざわざ遠くまで来て応援してくれる初代マスターにナツは喜んで笑っていた。グレイは幽霊の凄さに冷や汗を流していたが。

 

 そして、たとえ今まで最下位でブーイングを受けていたが妖精の尻尾(フェアリーテイル)だったが、やはり待ちに待った『大魔闘演武』の最初を飾った入場だけあり、会場の興奮の熱気はまたも増すようだった。

 この盛り上りを掴むように、実況や進行を務めるチャパティは続けて次の予選突破した選手紹介に移った。

 

『さあ! 続いては予選7位!! 夕暮れに(たたず)む戦い狂う鬼!! 〝黄昏の鬼(トワイライトオウガ)〟!!!』

 

 それを聞いた妖精の尻尾(フェアリーテイル)のメンバー面々とナツ達。妖精の尻尾(フェアリーテイル)の登場とは違う、熱気ある歓声が会場を震わせた。

 入ってきたのは、一番先頭に進み《黄昏の鬼(トワイライトオウガ)》 のマークが大きく刻まれた巨大な旗を片手に持ち、真っ赤な真紅の髪がボサボサに伸ばされ、その頭から抜きでた二本の角と、顔を覆う鬼面にも二本の角が生え、計四本の角を鋭く尖らせた青年が堂々と旗を振って入場し、続いて入ってくるメンバーも独自性が強そうな面々だった。

 

 続いて次の予選突破した選手紹介にへと移る。

 

『6位には女性だけのギルド!! 大海原の舞姫!! 〝人魚の踵(マーメイドヒール)〟!!!』

 

 ウォォォオオオオオオオオオオっっ!! と主に男性観客たちが人魚の踵(マーメイドヒール)の食い付きが凄かった。どの女性も美しく、凛々しく、そして何処か男とは違う『強さ』をも感じさせる雰囲気が独自的だった。だが、やはりどの世界 の男たちも、美しき女の前では魂が抜かれるが如く虜になっていくのにはそう短くは無かった。

 

『5位は漆黒に煌めく蒼き(つばさ)!! 〝青い天馬(ブルーペガサス)〟!!!』

 

 キャアアアアアアアアアアアアアっっ!!! 続いて登場してきたのは人魚の踵(マーメイドヒール)に負けぬ黄色い歓声が青い天馬(ブルーペガサス)を包んだ。

 青い天馬(ブルーペガサス)を語るのならこの男を忘れてならない、と言わんばかりに一番前に出て、屈みながら決めポーズをしているのは頭身がかなり低いながらも、なぜか青い天馬(ブルーペガサス)で有名なイケメン魔導士三人組《トライメンズ》に慕われている一夜=ヴァンダレイ=寿。周囲からの反応は全て《トライメンズ》の美男が成す黄色い歓声なのだが、一夜だけがかなりの異色を放っていた。主に残念な方向に。

 そして誰もが言わずと知れた『青い天馬(ブルーペガサス)』イケメン魔導士の三人組《トライメンズ》。

 別名『白夜のヒビキ』と呼ばれるヒビキ・レイティス。週刊ソーサラー「彼氏にしたい魔導士ランキング」不動の1位。その記録は7年間続くという偉業とも呼ばれる伝説を作った。

 《トライメンズ》のツンデレ枠として人気を誇る別名『空夜のレン』のレン・アカツキ。肌を焼いたレンはとてもワイルドに決めて、同世代であるヒビキと並び女性の人気が規格外。

 そして《トライメンズ》の別名『聖夜のイヴ』と呼ばれるイヴ・ティルム。7年後は比較的大人な男性に成長し、もはや「弟キャラ」として年齢に危惧を早めに感じ始めたのが最近の悩みという。

 青い天馬(ブルーペガサス)のフレッシュな空気を醸し出しながら、登場を終える。

 

『4位!! ・・・・愛と戦いの女神!! 聖なる破壊者!! 〝蛇姫の鱗(ラミアスケイル)〟!!!』

 

 ドッッ!! と会場がまた熱気が上がるのを感じた。堂々と入場してくる蛇姫の鱗(ラミアスケイル)のメンバー。

 グレイの兄弟子でもあるリオンも所属しているそのギルドには、なんと『聖十大魔道』の一人である別名『岩鉄のジュラ』と呼ばれるジュラ・ネェキスも参加していた。

 この『聖十大魔道』通称は聖十と呼ばれ、《評議院》が定めた大陸で特に優れた10人の魔導士のことをそう呼んでいた。これには妖精の尻尾(フェアリーテイル)マスターであるマカロフも数えられている。

 だが、この〝4位〟という実績に不満を(こぼ)すのは『蛇姫の鱗(ラミアスケイル)』のマスターであるオーバ・ババサーマという老婆がクルクルと手を回して叱責する。

 

「何で予選4位なんだ!! 手を抜いたのかいっ!!? バカモノ!!」

 

 〝聖十〟が居るジュラを思えば、遥か上位まで狙えたと考えるオーバには確かに、と他と蛇姫の鱗(ラミアスケイル)メンバーも頷いていたが、すぐにそうなった理由が判明する。

 

「ごめんなさいオババ様。アタシ・・・ドジしちゃって」

 

 とっとっ、と緊張でもしてるのかと思わせるほど足取りがおぼろげで、赤紫色のピッグテールにリボンが特徴の少女がオーバに謝るが、途中で突起物が何もない砂場で転ぶ。

 

「シェリアあわてるな」

 

「ごめんね、リオン」

 

 リオンがシェリアと呼ばれた少女に、改めて間の抜けた小さな失敗をするなよ、と頭を軽く手を当てて冷や汗を流す。

 

「誰だアイツ?」

 

「いつもの〝愛〟はどうした? 〝愛〟は?」

 

青い天馬(あっち)も見たことない人だけど・・・・人!!?」

 

 揃いに揃った他のギルドメンバーに妖精の尻尾(フェアリーテイル)も馴染みのある面々も目に移る。ナツとグレイは顔馴染みでもある『蛇姫の鱗(ラミアスケイル)』のメンバーに一人だけ違うのに気付き、ルーシィも何度も助けてくれた『青い天馬(ブルーペガサス)』にも見たこともないウサギのようなキグルミを着た新人(ニューメンバー)も居ることに驚いていた。

 

「シェリアはシェリーの従妹なんだ」

 

「おおーん。めちゃくちゃ強いんだぞ」

 

「ううん。アタシなんかまだまだ〝愛〟が足りないの」

 

「ほめてんだよっ!」

 

「やっ! ごめんねトビー」

 

「キレんなよ」

 

 蛇姫の鱗(ラミアスケイル)の一連の漫才的なやり取りを懐かしく感じながら聞いていたナツ達だったが、グレイに不敵な笑みを浮かべてやってきた兄弟子に自然と口角が吊り上がる。

 

「グレイ。あの約束忘れるなよ? オレが勝てばジュビアを我がギルドに」

 

「約束なんかした覚えはねーけど、おまえらだけには負けねーよ」

 

 何やら勝負事をすることを前もって約束するのなが、と勘違いした青い天馬(ブルーペガサス)の一夜が小気味良いステップを踏みながら美しく大魔闘演武用の衣装を纏ったエルザにへと近付く。

 

「そういう事なら私はエルザさんを戴こう!!」

 

「い・・・・戴くなっ!」

 

「う~~ん相変わらずいい香り(パルファム)だ」

 

 何度も断れているエルザにアタックし続ける不撓不屈(ふとうふくつ)の精神を持った一夜に《トライメンズ》はまたも『い、一夜さん・・・・なんてお方だ』と大きな感銘を受け、負けじと妖精の尻尾(フェアリーテイル)の女性メンバーに口説き落としに迫った。

 

「オレはおまえにするよ・・・・ふん、べ、別に好きで選んでる訳じょねーぞ」

 

「アンタ・・・・そのキャラ7年もやってたの?」

 

「そうなんだルーシィ聞いてくれ。オレはこのスタイルを墓場まで持っていくつもりなんだが、ぶっちゃけ悩んでることも──────」

 

「いや本当にこんな時にどんな話よ!?」

 

 レンが何気に気安く女性に肩を回し、その見惚れてしまうほどの男前な顔が急にドアップされ、そして口から出されたツンとした後のデレも、ワイルドなレンから出されれば並大抵の女性はそれで落ちてしまうが、ルーシィは逆にこのツンデレ(スタイル)を7年も貫き通していたことに驚いていた。

 それを見たイヴも、『じゃあ僕はウェンディちゃんだね ♡』と意気揚々に向かうが、現在居る妖精の尻尾(フェアリーテイル)メンバーには、小さくも保護欲を誘い、それでいて健気で優しい可愛いウェンディをイヴは必死に探すが残り一人だけしか居なかった。

 きっとこの7年間で何かあったのだろう、イヴも色々な経験してきたし人生は死んでも分からないことばかりだと僅かながらも感じとるくらいは成長した、と自負している。

 だから、と。

 イヴが向かう先に居る人物が、あの可愛らしかった小さな少女が、たとえ筋骨隆々(マッチョ)な男っぽい風貌になってたとしてもイヴは訊ねた。

 

「成長・・・・・・・・・・・・・・・・したね。残念な方向に・・・・・・・・・」

 

「アホか」

 

 ウェンディと間違えられるとは最初(はなっ)から思ってはいなかったのだが、まさか間違えるとは・・・・間違えるのか? とエルフマンは美少年風の美青年に正直な感想を返した。

 そして残る《トライメンズ》のヒビキが女性だけギルド『人魚の踵(マーメイドヒール)』に笑みを浮かべて、

 

「僕は人魚の踵(マーメイド)に入ろうかな!」

 

「主題がズレてるよっ!!」

 

 集まったギルドには、数多くの魔導士が我先にと因縁があるものや、関係のある者同士で既に火蓋を切ろうとしていたが、とあるギルドに妖精の尻尾(フェアリーテイル)が、特にルーシィが気になって眺めていた。

 

「あれって、本当に『黄昏の鬼(トワイライトオウガ)』の魔導士たち? とてつもなく異質って感じの雰囲気なんですけど」

 

「・・・・この間報復(あいさつ)しに行った時には居なかった奴が居るな」

 

 『黄昏の鬼(トワイライトオウガ)』の刻まれた旗を持つ深紅の髪をした鬼面の男はルーシィたちが見ているのに気付き、他の黄昏の鬼(トワイライトオウガ)のメンバーに知らせる。

 すると、まるだ花魁(おいらん)のように肩を露出した着物姿の美しい女性は深く礼をして、他のメンバーも習って頭を下げ挨拶をした。

 これに驚いたルーシィはあたふたとし、エルザは怯まずに手を僅かに上げ、挨拶する。

 

「び、びっくりしたし、なんかあの人、凄い優しそうな笑顔だった」

 

「あぁ。本当にあのギルドの者なのか疑ってしまう笑顔だったな。他の者も習って頭を下げていたし、もしかするとあの人がリーダーなのかもしれないな」

 

 ルーシィやナツ、グレイを合わせ、妖精の尻尾(フェアリーテイル)内でS級魔導士を名乗るエルザがよく指示をすることで、皆がリーダー的存在をエルザに例えるなら、先ほど挨拶してきた女性は、温かみある優しさで皆を上手く誘導するリーダーにも見えた。

 エルザは深く彼女を見ていたが、挨拶を交わすだけだ、それ以上の介入はなかった。

 

 それぞれのギルドが挨拶を交わしていると、実況のチャパティが流れを進行する。

 

『続いて第3位の発表です! ・・・・おおっと! これは意外・・・・!! 初出場のギルドが3位に入ってきた!!』

 

 その実況の声と共に会場に入ってきたのは、漆黒の色がギルド覆っているかのように、その者たちが現してきた。

 

『真夜中遊撃隊!! 〝大鴉の尻尾(レイヴンテイル)〟!!!!』

 

 先頭に立ち、大鴉の尻尾(レイヴンテイル)紋章(マーク)を刻んだ巨大な旗を片手に、黄金の鎧と黒いマントを靡かせて歩くその男は、異様な雰囲気を装い会場中央へと悠々と歩いてくる。他のメンバーも異様な魔力と邪気が漂っている。

 

大鴉の尻尾(レイヴンテイル)だぁ!!?」

 

「これは・・・・マスターの息子、イワンのギルド」

 

「でも・・・それって・・・・!」

 

 ガバァッ! と反応を起こしたのは、妖精の尻尾(フェアリーテイル)マスターであるマカロフだった。

 

「闇ギルドじゃっ!!! こんなのが大魔闘演武に参加してよいのかっ!!! おおぅ!!?」

 

「マスター落ち着けよ」

 

 怒りを、いやそれよりも闇ギルドが参加を許していいものなのかとマカロフは大声を上げて誰に対して抗議していいのか分からず、その場で叫んでいた。だがそれは息子のギルドだけでもあり、特別危惧していたことだった。

 

「確かに邪気を感じますね」

 

 幽体でもある初代マスターのメイビスでさえ、大鴉の尻尾(レイヴンテイル)の邪気を察知する。

 そしてマカロフが叫んだことにより、他の観客たちもこのギルド『大鴉の尻尾(レイヴンテイル)』の存在が今まで聞いたことがないものだと口に出して確かめ合っていた。

 すると実況であるチャパティが説明を補足した。

 

『えーー公式な情報によりますと、大鴉の尻尾(レイヴンテイル)は7年以上前から存在していましたが、正規ギルドとして認可されたのは最近のようですね』

 

『ギルド連盟に認可されてる以上、闇ギルドじゃないよな』

 

 これには解説のヤジマも納得せざるを得なかった。きちんとした取り決めを通して認可したギルド連盟。違反をすれば多大な罰則が付くのに対し、認可したものならばたとえどのような事を言おうと国の決め事を批判したこととなり、ますます面倒な方面にへと突き進んでしまう。

 マカロフは歯軋りを起こし、冷や汗を流す。

 

「イワンめ・・・・どのような手を使って・・・・」

 

 盛り上がる観客の出入口にて、その『大鴉の尻尾(レイヴンテイル)』のマスターにして、マカロフとラクサスの親族でもあるイワンが壁に寄りかかりながら黒い笑みを零す。

 

「おとなしくしていただけだよ、親父殿。この日の為に」

 

 盛り上がる声援の中、大鴉の尻尾(レイヴンテイル)の黄金の鎧の男が妖精の尻尾(フェアリーテイル)にへと近付く。

 

妖精の尻尾(フェアリーテイル)。小娘は挨拶代わりだ」

 

 そう言うと、目元に仮面をした青い肌の奇妙な男が、肩に乗っている小動物が『キキキ』と鳴き、魔法を使い顔だけをウェンディになると、倒れるような仕草をしてウェンディが倒れた原因が分かった。

 

 それを見たナツはすぐに血管を浮き出るほど怒りの顔となり、ルーシィや他のメンバーも同様に『大鴉の尻尾(レイヴンテイル)』一同を睥睨(へいげい)する。

 

 それを鎧の男は面白いように鼻で笑いながら、

 

「祭を楽しもう」

 

 鎧の男の発言に、マカロフは離れてながらも聞き、息子・イワンの変わらぬ卑怯な手に怒りを現していた。

 

『さぁ・・・・さあ予選突破チームは残すとこあと2つ 』

 

 あれ? と観客たちは首を傾げて不思議に思う。一つは現在ファオーレ(いち)のギルド『剣咬の虎(セイバートゥース)』なのは分かる。だがもう一方のギルドとは? とファオーレ王国での主力ギルドは出揃ったはずなのにと。

 

 そこでグレイとエルザはまだ見ぬ知らない強いギルドがあるのかと身構え、そして同時にジェラールたちに頼まれた『謎の魔力』が関係するのでは、と出てくるギルドを待っていた。

 

 ザワザワと会場があのギルドか、いやそれともあのギルドかと互いに話し込んでどのギルドの者がこの『大魔闘演武』2位の座に着いたのか気になってしょうがない様子だった。

 一つは『剣咬の虎(セイバートゥース)』だというのは間違いないと豪語している観客に、出場しているナツたちは他のギルドと共に待っていれば、実況のチャパティがとうとう進行する。

 

『さあ!! 予選2位のチームの入場です! ・・・・んんん!? おおっとこれは意外!!! 堕ちた羽のはばたく鍵となるのか!? まさかまさかの・・・・』

 

 オオオオオオオオオオオッッ!!! と歓声が上がる。そして、実況の声と共に現れたのは、突如一瞬にして会場に(まばゆ)い雷が光り、そして、

 

『〝妖精の尻尾(フェアリーテイル)〟Bチームだぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!』

 

「「「「何ぃぃぃーーーーーーーーっっ!!!?」」」」

 

 そう。そこに現れたのは同じ妖精の尻尾(フェアリーテイル)であるが、揃っているのは同じ妖精の尻尾(フェアリーテイル)だからこそ分かる精強な魔導士たちだった。

 まずそれに一番反応したのは、エルフマン。

 

「姉ちゃん!?」

 

「ガジル!!?」

 

「ジュビア!!!?」

 

「ラクサスとか反則でしょーーーーっ!!!」

 

 会場も驚く妖精の尻尾(フェアリーテイル)のもう一チームに沸く中、何より驚くことが、

 

「つーかつーかつーか! 何でミストガン(・ ・ ・ ・ ・)がいるんだよっ!?」

 

「まさか、おまえ・・・・・ジェラール・・・?」

 

 すると、顔が迷彩柄のマスクと布で覆っており、目元以外の肌が確認できないミストガンを見て、エルザは冷や汗を長し、確認をとってみれば、ミストガンは人差し指を口元まで持ってくると、『シーー』と静かに肯定した。

 

『いやー今回からのルール改正により、戸惑ってる方も多いみたいですね、ヤジマさん』

 

『ウム・・・今回の大会は各ギルド1チームない()2チームまで(・ ・ ・ ・ ・ ・)参加できるんだよなぁ』

 

 ヤジマの席からでも妖精の尻尾(フェアリーテイル)の、というよりマスターのマカロフが『見たかーっ! これが妖精の尻尾(フェアリーテイル)じゃーーっ!!』と叫んでいた。

 

『決勝では各チームごとの戦いになる訳ですが、同じギルド同士で争う事が出来るのでしょうか?』

 

『大丈夫じゃないかね、あそこは』

 

『でも・・・ちょっとずるくない? 例えば一人ずつ選出して争う競技があったとして、妖精の尻尾(フェアリーテイル)だけペアで戦えるって事だよね?』

 

『100以上のチームの中、決勝に2チーム残った妖精の尻尾(フェアリーテイル)のアドバンテージという事ですね』

 

『これは有利になったねぇ、マー坊(ズズズズッ!)』

 

『マー坊? あ、すみません。急に拉麺(ラーメン)食べ始めるの止めてもらって良いでしょうか? ってアレ?? 何処から?!』

 

 その解説にルーシィが予選開始時に思った大量のギルド参加数の意味が分かった。妖精の尻尾(フェアリーテイル)だけでは無く、他のギルドも2チーム出していたということらしい。

 一人冷や汗を流して意味かま分かったルーシィだったが、横を一人前に出る者が居た。それは、

 

「冗談じゃっっっねえッ!!」

 

 ナツの大声量が会場を一瞬だけ静まり返る。

 

「たとえ同じギルドだろーが勝負は全力!!! 手加減なしだ!! 別チームとして出場したからには敵!! 負けねえぞコノヤロウ!!」

 

 ナツの前に立っているのは同じギルドでも、精強過ぎる『S級魔導士』として認められているラクサスを筆頭にミラジェーンとミストガン(ジェラール)に、そしてそれに並び立っているS級に次ぐ実力を持つ『鉄の滅竜魔導士(ドラゴンスライヤー)』ガジルに、身体を水に変える魔法を扱うジュビアも居るこの妖精の尻尾(フェアリーテイル)Bチーム。

 マカロフの真剣(ガチ)チームただけあり、やはり啖呵を切るには不味い相手でもあるが、ナツの性格をよく知っているラクサスは鼻でため息を吐き、ミラジェーンは美麗な顔で微笑み。ミストガンもジェラールの時の経験上でナツの負けん気をよく知っている為、迷彩柄のマスク越しに口角が上がった。

 

「望むところだよ。予選8位(・ ・ ・ ・)のチームさんよォ」

 

「ぬぐっ!」

 

 そしてガジルも、負けず嫌いのせいか、ナツの啖呵に軽く挑発するように予選ギリギリ突破という痛い所を突かれたナツは言葉を詰まらせた。

 

「姉ちゃぁ~ん」

 

「うふふふ。がんばろうね。エルフマン」

 

 そしてエルフマンも、最愛の姉妹に見せる為に出場した理由だったのに対し、まさか姉のミラジェーンが出場するとはと驚愕の事実と、家族だから分かる『魔人』ミラジェーンの果てなき強さを前に、がっつりとやる気を削ぎ落とされた。

 だが姉もそんな弟の気持ちが分かっているからか、からかうようにしてミラジェーンはエルフマンに共に頑張ろうと励ましていた。戦いになれば情け容赦しなさそうだが。

 

「ジェ・・・・・・ミストガン。おまえ・・・・・」

 

「なかなか話の分かるマスターだ。事情を話したら快く承諾してくれたよ」

 

「会場には近づけんと言っていただろう。ルール違反だ。おまえはギルドの人間じゃない」

 

「この方法は思いつかなかったんだ。それに、オレとミストガンはある意味、同一人物・・・・・と聞いているがな」

 

 エルザはまさかジェラールが参加してきたことに驚くが、それでは皆に見付かるという危険な行為では無いか、と心の底では思っても、口では言えない為に少しきつい口調で叱責する。

 そして、ジェラールもエルザが思って言ってくれているのを感じながらも、『謎の魔力』をより細緻(さいち)に調べる為にやって来たのだから簡単には引けなかった。最初こそもともと冷静な二人だから小声で会話していたが、逆に二人も頑固な面があるのを横から見ていたラクサスが感じ取り、面倒なことは早めに終らす為にもラクサスが入ってきた。

 頑固な所がある二人だが、要点を冷静に見据えるのには卓越した二人には、流れを話せば終わることもラクサスは理解していたので、ジェラールに『ミストガンはもう少し無口だ。気をつけな』と彼に腕を回してエルザに悟らせる。

 エルザも腕を組んで溜め息を吐き、ラクサスを軽く睨む。ラクサスは肩を竦めるだけで、エルザはそれで行くんだな、と理解し、それ以上は言及してこなかった。

 

 何やら妖精の尻尾(フェアリーテイル)応援団の方でもマカロフが初代に向けて両手合わせて必死に謝っているのを見えてしまったエルザは、最早笑うしかなかった。

 それに、初代は『妖精の尻尾(フェアリーテイル)が優勝する為ならOKです』まで許可された。凄い豪快な許可範囲内だ。、

 

 そして、早速ジェラールはエルザに何か気付いたことは無いか、と訪ねるのだったが元闇ギルドであった『大鴉の尻尾(レイヴンテイル)』が怪しいという以外は特に無い、と答えた。

 だが、エルザも分かるように『大鴉の尻尾(レイヴンテイル)』は今年初出場のギルド。毎年感じる『謎の魔力』とはつじつまが合わない。

 そんな事を話している途中に、一気に会場がオオオオオオオオ!!! と歓声が盛り上がる。

『さぁ! いよいよ予選突破チームも残すとこ、あと一つ!! そう!!! すでに皆さん御存じ!!! 最強!!! 天下無敵!!! これぞ絶対王者!!! 〝剣咬の虎(セイバートゥース)〟だぁぁぁぁあああああああああああッッッ!!!!』

 

 遂に、会場の観客たちが待ち焦がれた猛虎のギルドに、ウウウォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッ!!!! と地が揺れるのでは無いかと思わせるほどの大声援に、ギルド『剣咬の虎(セイバートゥース)』の人気がどれほどのものなのか理解させられたのだった。

 これは妖精の尻尾(フェアリーテイル)だけに理解するものでは無く、他のギルドもそうであるように、改めてフィオーレ最強のギルドを名乗るメンバーだった。

 先頭にはナツやガジル、ウェンディと同じ滅竜魔導士(ドラゴンスライヤー)のスティングとローグが溢れ出る威勢を湧然(ゆうぜん)として歩いてきた。

 ナツ、ガジル共に闘争心をギラつかせながら剣咬の虎(セイバートゥース)を睨むが、当の剣咬の虎(セイバートゥース)の面々は妖精の尻尾(フェアリーテイル)も、他のギルドもまるで眼中にでも無いように悠然としている。

 

『これで全てのチームが出揃った訳ですが、この顔ぶれを見てどうですか、ヤジマさん』

 

『あ~若いって、いいねぇう~ん』

『いや・・・・・そういう事じゃなくて』

 

『ぅん~?』

 

『うぅ、ゴホン。えーでは・・・・・皆さんお待ちかね!!』

 

 ゴゴゴゴゴッッ!! と会場の中心から、巨大な石板のようなものが会場を揺らしながら盛り上がってきた。

 

『大魔闘演武のプログラム発表です!!』

 

 オオオオオオオオ!!! と観客たちは大いに盛り上がる。これでどのような競技をするのか分かるからだった。

 

「一日に競技とバトルがあるのか?」

「バトルかー!!」

 

 グレイは一日の組み合わせに何か理由を感じ、ナツはバトルがあることに喜んでいた。

 

『まずは競技の方ですが、これには1位から8位までの順位がつきます。順位によって各チームにポイントが振り分けられます。競技パートはチーム内で好きな方を選出する事ができます。続いてバトルパート。こちらはファン投票の結果などを考慮して主催者側の方でカードを組ませてもらいます』

 

「何だと?」

 

「勝手にカードを組まれるのか」

 

「つまり運が悪いと競技パートで魔力を使い切った後にバトルパート突入?」

 

 グレイもエルザも、このルールがよく出来、尚且つ不鮮明な相手との戦闘も考えて『競技』から『バトル』へと繋ぐ魔力の使いようで、勝利を左右せれる可能性もあるということ。

 

『バトルパートのルールは簡単! 各チームランダムで対戦していただき、勝利チームには10(ポイント)。敗北チームには0(ポイント)。引き分けの場合は両者5ポイントずつ入ります』

 

 競技で稼いだあと、バトルパートで更に稼ぐことも可能ならば、競技で稼げなかったポイントをバトルパートで挽回する。という幾らでもやりようがあるという内容だった。

 この大会ルールに観客たちも見所がある場面が多々出来、更には《演武》なだけあり、バトルパートという『魔』を競い闘うのを見られるという興奮で、歓声が上がりに上がっていた。

 

『では皆さん!! これより大魔闘演武オープニングゲーム!! 〝隠密(ヒドュン)〟を開始します』

 

 

 

 

 

 




更新遅くなり申し訳ない!
ザンクロウのキャラ崩壊半端ないですけど、よろしくお願いいたします!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。