FAIRY TAIL~魔女の罪~   作:十握剣

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長々の更新遅れ!!
すみません(T_T)


第5話「魔女の罪、クリムソルシエール」

 

黄昏の鬼(トワイライトオウガ)』からの借金の取り立てについては、やはり一割二割どころでは無く、ほとんどの正当な利子分の借金は返済されていたのだが、オウガ達によって金の出入りは完全に乗っ取られていたのだ。

 

貯まる金が貯まらない。

 

それも当然で、ある程度納金された金銭が黄昏の鬼(トワイライトオウガ)に依って奪われていたのだ。

悪知恵とはこの事で、妖精の尻尾(フェアリーテイル)の主要メンバーが居なくなったことで飢えたハイエナように、弱まった弱小ギルドを嫐(なぶ)るように鬼が首根っこ掴み、甘い蜜を舐めるように少しずつ、少しずつ妖精の尻尾(フェアリーテイル)の金融を狂わせていたのだ。

 

一気呵成の如く、戻ってきた先代妖精の尻尾(フェアリーテイル)マスター・マカロフにより依って『黄昏の鬼(トワイライトオウガ)』マスター・バナボスタと楽しい“話し合い(・ ・ ・ ・)”で決着は付いた。

 

ギルドに抱えていた大きな問題はそこで解決されたが、次の問題が浮上してきた。

 

“フィオーレ1弱小ギルド”という汚名だった。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

そこは青い空が広がる常夏の海、

 

「言(つ)っても、ここの地方が夏季全般だからって訳だってよ? 夏が来りゃあ冬も来る、短季だけどなァ」

 

「まぁ、そうだね」

 

 

「季節は四季あってのモンだってよォ! あっ、姉ちゃん焼きそば20人前とラーメン30人前、そんでホットドッグ40人前、それとかき氷もだって!」

 

その青空広がる海の浜辺には勿論のこと、観光やら海水浴やらで人が賑わう中、浜辺にある【海の家・アマミ】に黒いフードを被った男女二人組が、客席に作られたテーブルに互いに向かい合えるように座っていた。

 

片方は逞しい膂力を見せ付けるような引き締まった腕だけを黒いフードから出し、沢山に置かれた出来立ての料理を次から次へと口に頬張っていた。

 

そしてもう片方は、料理を鱈腹頬張っている男を呆れるようにして眺めている。とても男性とは思えない華奢な身体つきで、黒いフード越しでも女性だと判別できる体躯であった。

 

その二人が何者で、何をしている二人組なのか分からないが、お店の客引きをし、尚且つ店に迷惑を掛けないなら店員たちは嫌な顔せず営業スマイルをビシバシッ! と煌々と放ちながら仕事に勤しんでいる中、黒フードの女性が何かに反応していた。

 

「・・・・・『妖精の尻尾(フェアリーテイル)』の主要メンバーがここに来るって、今すぐじゃ無いけど」

 

「ふぉれごぉんふほぉがぁ!!!」

 

「ぎゃあぁー! 口に物入れたまま喋らないでよ、バカっ!」

 

「ふぉいふぉい、ほがぇふんほふぅんっぼっ!!!」

 

「話聞いてたっ!?」

 

びちゃびちゃぶちゃー!! と咀嚼していた食べ物を見事に乱射してくる黒フードの男性に、女性は何やら高度な魔法障壁を作って防いでいたが、その魔法障壁にベチャリとくっついてくる食べカスも嫌がるようで『きゃあーっ! いやぁー!』と金切り声でかなり騒いでいる。

 

こりゃ店には迷惑だな、退場だ退場、と今まで優しくしていた店員たちだったが、長々と鎮座していた客席からその二人組を促すように出て行かせた。

 

二人組は浜辺には目立つ黒フードを纏ったままトボトボと歩いて行く。

 

「あ~あ、追い出されちまったって」

 

「誰のせいよ!」

 

「不可抗力だな」

 

「意味知ってるの!? 意味知ってて使ってるのよね?」

 

「あ゛ぁ~なんつう意味だったっけなァ?」

 

「人の力ではどうにもできないって事だよ! なに? ふざけてんの?」

 

「じゃあオレっちには関係無ェじゃねーか! ヒハハハっ!」

 

「・・・・・貴方と付き合ってると沸点が段々と高くなって我慢強くなるわ。流石ね」

 

「へへへ、ありがとうよ」

 

褒めてないっ! と黒フードの女性は握り拳を作りながら叫ぶ。

そして直ぐに二人は沈黙し、黙々と浜辺を歩きながら、呟く。

 

「久しぶりに会えるね、妖精の尻尾(フェアリーテイル)

 

その言葉に、黒フードの男性はむき出した腕を力強く振るう。

 

「あぁ・・・・・会えるってよォ」

 

その目深く被ったフードの奥に、ギラギラと輝く炎の瞳がそこにあった。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

フィオーレ1のギルドを決める一大イベント。

 

『大魔闘演武』

 

それは魔法を使った様々な競技で〝魔〟を競い合う祭。

 

7年の間にフィオーレ王国“最弱”になっているギルド『妖精の尻尾(フェアリーテイル)』。

 

フィオーレ1の最強ギルドになる為、『大魔闘演武』へ参加する決意した。

 

しかし、7年間のブランクがある妖精の尻尾(フェアリーテイル)天狼組はこの時代での戦いについていけない可能性が出てきたのだ。

 

 

『大魔闘演武』までの期間は残り僅か────。

 

 

 

何か力を早急に上げる方法は無いのか? と思案していた妖精の尻尾(フェアリーテイル)のナツ達。そこでグレイの提案が、妖精の尻尾(フェアリーテイル)顧問薬剤師であるポーリュシカに聞き入ったりと、可能性ある方法には盛んに臨んでやっているらしいが、成果があったのは天竜の滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)のウェンディのみだった。

 

ならば力を付けるにはどうするか?

 

有り体を言うなれば、定石を踏んで、『修行』『鍛練』『修練』などと己を鍛え上げる方法が確実だろう。

 

その事を分かっていた妖精の尻尾(フェアリーテイル)天狼組は各々の修行場所に向かい、鍛練に臨んでいた。

 

ある組は山へ、ある組はとある場所へ、ある組は秘密の特訓場へと向かう。

 

そこにある一組、ナツやグレイ、エルザ、その他メンバーは海にへと『強化合宿』を開始した。

 

 

 

 

「こらー! あんたたち遊びにきたんじゃないのよ!!」

 

「そうだぞーーっ」

 

「そんな海水浴バッチリな格好の奴に言われてもなァ」

 

燦々(さんさん)と太陽の温かい光が輝き照らす浜辺には、家族連れやカップルの人々によって埋め尽くされ、三々五々に賑わいを放つこの浜辺に、妖精の尻尾(フェアリーテイル)一行がやって来ていた。

 

勿論、こんな青空が広がり、青い光を放ち人々の興奮を掻き立てるように海がゆらゆらと細波(さざなみ)を立たせられたら泳がない訳にはいかないナツ筆頭の妖精の尻尾(フェアリーテイル)集団。

 

開始早々に各々は母なる海に抱かれに猛進していった。

 

「もちろん遊びにきた訳じゃないのは重々分かっている」

 

しっかりと準備運動を仕終えたエルザは、夭々(ようよう)な肢体で海にへと入っていき、

 

「こういうのはメリハリが大切だ」

 

もっともだ、話を聞いている肥満体質になってしまったドロイと、雰囲気を少しだけ変わったジェットが頷く。

 

「よく遊び」

 

パシャパシャと海水を両手で掻き分けて笑顔になっているエルザ。

 

「よく食べ」

 

そうだな、うん大切だそれは。とドロイが深く頷いて、

 

「よく寝る!」

 

「肝心な修行が抜けてるぞ」

 

きゃっきゃっ、と子供のような無垢の笑顔で海水で遊ぶエルザにジェットは瞬時にツッコむ。

 

「おまらなァ、合宿が終わるまでには」

 

せめて(・・・)オレらくれーには勝てるようになってもらうぜ」

 

ドロイの後に続くようジェットが弛む天狼組に注意を促そうとするが、

 

「海だーーーーーーっっ!!!!」

 

「よっしゃああーーーーーーっっ!!!!」

 

ブグシャッッ!!! と元気はつらつのナツ&グレイにぶっ飛ばされたドロイ&ジェットは見知らぬ集団(なんか超怖い強面オジサン達)にこれまた元気はつらつに突っ込んでいってしまい、見知らぬ集団(超怖い強面オジサン達)に連れて行かれている中、ナツとグレイは勝負対決を託(かこつ)けて夏と海と浜辺と日光を満遍無(まんべんな)く遊び尽くしていった。

 

 

 

 

 

 

初日は本当に満遍無く遊んだナツ達だったが、エルザが言った通り“メリハリ”をつけて合宿の目的を実行していった。

 

各々が考えた効率的なトレーニングで着々と力を付け始めていた。

 

期間は“三ヶ月”。効率的にやれば力を付けることを可能とする事と、自分たちが着々と力を付けているという自信によって、それぞれ嬉しそうにしていた。

 

 

 

ある切欠に躓(つまず)くまでは、

 

 

 

 

 

「「「「「「「・・・・ボーー・・・・」」」」」」」

 

「話聞いたか、ジェット」

 

「あぁ、大体」

 

何やら合宿に来た時と打って変わって呆然とも唖然とも見える妖精の尻尾(フェアリーテイル)天狼組。

 

「オレたちが三ヶ月ずっっっっと待ってたというのに、ナツやエルザ達がいきなりルーシィの星霊に連れて行かれて、何やら星霊王たちと楽しく宴を満喫して、優しい星霊たちとの厚い友情噛み締めて帰ってきたら、星霊界やらで一日過ごしたら人間界では丁度良く偶然的に漫画みたいに〝三ヶ月〟経ってたっ!!・・・・・・・・らしいな、喉乾いた」

 

「説明お疲れ、スイカやるよ」

 

サンキュ、と長々と意図的に説明したジェットはドロイから労いと共に瑞々しいスイカを貰った。

 

シャリシャリとスイカを咀嚼しながらジェットは未だにボゥーっとしているナツたちを眺めながら、どうするかと思案していれば、スクっといきなり立ち上がった綺麗な緋色の髪の女性は握り拳を作っていきなり叫んだ。

 

「むうう!!! 今からでも遅くない!!!! 短日だろうと関係無い! 地獄の特訓だ!! お前ら全員覚悟を決めろ!! 寝るヒマはないと思え!!!」

 

「「「ひええ~~!!!!」」」

 

エルザの負けず嫌い魂が激昂するの如し、皆の士気を上げようとするが、やる気が漲(みなぎ)り過ぎているエルザには地獄絵図しか思い描けない一同。

 

「ナツ起きろ! 呆けている場合か! グレイは呆けると同時に服を脱いでるんじゃない!」

 

おりゃぁー! とエルザがナツとグレイの首根っこを掴んで振り回しているが、その行動の意味が分からないドロイは焦りながら止めようとし、エルザに振り回されているというのに相変わらず目が点のままのナツとグレイは無抵抗のままブォンブォン!! と虚しく回っている。

 

一頻(ひとしき)り回して、エルザは地獄特訓のスケジュールを脳内で作り上げていってると、エルザの緋色の髪の上に鳥の動きと思え難い動作で降り立った。

 

「ん?」

 

「ハト?」

 

「足に何かついてるぞ」

 

「メモだ!」

 

「なになに~」

 

「ハトの着地はスルーだな」

 

「片足で降り立ったぞ!」

脇でドロイとジェットが騒いでいる中、エルザやナツたちはせっせとメモ用紙に目を走らせていた。

 

メモの内容によれば、

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

妖精の尻尾(フェアリーテイル)へ、西の丘にある壊れた吊り橋まで来い」

 

メモに書かれてあった内容はそれだけで、イタズラか何かかと思った一同だったが、『大魔闘演武』まで残り五日間だけ。

なら修行よりもこの内容の方が気になってしまうのがナツたちである、合宿に来ていた妖精の尻尾(フェアリーテイル)全員が言われた通りに西の丘までやって来ていた。

 

「誰もいねーじゃねーか」

 

バスッ! 掌に拳を打ち付けるナツにウェンディは『何でケンカごしなんですか』と冷や汗を垂らしながら呟き周りを見ている。

 

「イタズラかよ」

 

「だからやめとこって言ったじゃない」

 

グレイは相変わらず上半身裸のまま訝しげに言えば、ルーシィは不安げにしてしてウェンディと一緒に周囲に警戒していた。

 

ナツたちは丘にある見事に大破された吊り橋の前までくれば、急に橋に魔法の光が輝き始めた。

 

なんだ! と一同が驚きと警戒を強めると、魔法が掛かった橋が元に戻るかのように修復していった。

 

「橋が・・・」

 

「「「「直った!」」」」

 

やはり警戒を強め始め、エルザは橋の向こう側を睨むようにして橋に手を掛ける。

 

「渡って来いという事か」

 

「やっぱり罠かもしれないよ」

 

「なんか怖いです」

 

 

レビィとウェンディはより一層警戒の意思を強め、早く帰ろうと皆に促そうとするが、ナツたちが黙って従う筈が無い。

 

「誰だか知らねーが行ってやろーじゃねえか」

 

悲しいかな、こういう反応が返ってくることを予想していたウェンディとレビィは『そうですね』『そうだね』と諦めの眼差しが早くも点滅し、抗うことなくナツたちと行動を共にするしかなかった。

 

橋を渡り、森林の奥へ奥へと一同は進んで行く。薄暗くなって誘い込んで来るのかと思いきや、木々は全て日当たり良い箇所に生い茂り、歩く獣道も日光が照されたまま明るい道のりで進んで行けた。

 

すると、妖精の尻尾(フェアリーテイル)一同の向こう側から、黒いフードに身に纏った四人組が近寄って来た。

 

「誰かいる!!」

 

「みなさん気をつけて」

 

ザッザッ!! と堂々とただならぬ雰囲気を醸し出しながら歩いてくる四人組に身構えるナツたちだったが、近寄る度にナツやグレイ、ウェンディたちが驚愕の表情にへと変わっていった。

 

そして、その四人組の代表として、一人の男が口を開いた。

 

「来てくれてありがとう、妖精の尻尾(フェアリーテイル)

 

そこで四人組は一斉に頭部を隠していたフードを両手で上げ、その姿を露にする。

 

そこで一同、一斉に驚愕の色に染め上げられる。

 

「ジェラール・・・・!!」

 

四人組の顔ぶれに、『楽園の塔』事件の罪に問われ、新生評議院に逮捕され、決して逃れることが出来ない〝絶対不可能〟と呼ばれる監獄に捕らえられていたジェラールが目の前に居る。

エルザは警戒や憤りなどでは無く、ただ困惑の表情だけを浮かばせていた。

 

だが、驚くのがジェラールの背後に佇む三人組も同じだった。

 

「あ、あの野郎っ!!」

 

そう言ってナツは飛び掛からんと言わんばかりに睨み付ける男がもう一人。

 

「よォ、久しぶりだな、竜狩りちゃんよォ!」

 

金髪を少し首辺りまで短く切り揃え、東方に伝わる『着物』を着崩した状態で黒マントを羽織っていた青年は、『悪魔の心臓(グリモアハート)』の幹部であり、煉獄の七眷属の一人でもあったこの男。

 

「炎の滅神魔導士(ゴッドスレイヤー)、ザンクロウ様ただいま参上だってよォ!! ヒィハァーハッハハ・・─────」

 

「ザンクロウ、うるさい」

 

と脇から逞しく、健やかに成長した姿になったメルディに、問答無用の手刀を脇腹に刺突され身悶えるザンクロウ。

 

綺麗なピンク色の髪が長く伸び揃え、大人な女性にへと成長していた。

 

身悶えるザンクロウが助けを求めるようにもう一人の人物、ウルティア・ミルコビッチに抱き着こうとするが『ちょっと!』と発すると同時に空中から突如水晶玉が出現し、ゴツゥッ!! と意外と聞いた人たちの方が痛みを感じてしまう程の音を出してザンクロウの後頭部に直撃する。

『オグッ!!?』と発した瞬間にその場に気絶した。

 

「ちょ、ちょっとナツ、自己紹介した直後に気絶したあの人って!」

 

「あい! ナツをボッコボコした炎の滅神魔導士だよ」

 

滅神魔導士(ゴッドスレイヤー)だと?」

 

気絶したザンクロウを脇に寄せたメルディはふとジュビアと目線が合い、メルディは長く綺麗に伸びたピンク色の髪を揺らし、ぱあっ! と明るい笑顔を見せる。

 

「ジュビア! 久しぶりね!」

 

「メルディ・・・・(こんな素敵な笑顔を作れるようになってたのね)」

 

若干置いてけぼりだったジェラールが話を進める為に苦笑してエルザに話し掛ける。

 

「変わってないなエルザ、もう・・・・・オレが脱獄した話は聞いているか?」

 

「・・・・ああ」

 

エルザは天狼島から帰還した際に聞いた噂を思い出し、ジェラールの言葉に頷いた。その反応にジェラールは心底申し訳無さそうに視線を逸らしながら言う。

 

「そんなつもりはなかったんだけどな」

 

「私とメルディ、そしてザンクロウとで牢をやぶったの」

 

「私は何もしてない、ほとんどウルティアとザンクロウの二人でやったんじゃない」

 

ウルティアとメルディが説明に補足するよう言えば、少し混乱気味だったルーシィやウェンディたちも反応をしてきた。

 

「ジェラールが脱獄?」

 

「つか、その炎神ヤロウとこいつらってグリモアの──────」

 

「まあ・・・待て、今は敵じゃねえ。そうだろ?」

 

ルーシィとナツが疑問に思うことを言おうとしたが、グレイによって止められる。

 

「ええ、私の人生で犯してきた罪の数はとてもじゃないけど〝一生〟では償えきれない。だから・・・せめて私が人生を狂わせてしまった人々を救いたい・・・・そう思ったの」

 

そう言って、ウルティアはジェラールに目線を向ける。

 

「たとえばジェラール」

 

「いいんだ、オレもオマエも闇に取り憑かれていた、過去の話だ」

 

その話を聞いた瞬間、エルザはすぐに〝ある事を〟思い出し、恐る恐るジェラールに聞いた。

 

「ジェラール・・・おまえ記憶が・・・・」

 

「はっきりしている、何もかもな(・・・・・)

 

「・・・!!・・・」

 

ジェラールが記憶を戻したのはまだ牢の中に捕まっていた頃だっと言う。エルザに何と言えば良いのか、どうやらジェラールずっと考えていたらしい。

エルザの双眸にどうジェラールが映っているのか、分からない。

 

「楽園の塔での事は私に責任がある、ジェラールは私が操っていたの、だからあまり彼を責めないであげて・・・・」

 

自分が行った罪にウルティアは憂慮する顔になってエルザにそう語るが、エルザの表情は変わらず。

 

「オレは牢で一生を終えるか・・・・死刑。それを受け入れていたんだ、ウルティアたちがオレを脱獄ささせるまではな」

 

ジェラールは自らの罪を向き合い、『死』を受け入れたと答える。ジェラールから吐かれたその言葉の内には一体どれほどの決意が滲んでいるのか計り知れない。

だがその決意したジェラールの覚悟が、脱獄してまで生きているのか。やはりそれは『目的』が見つかったからなのでは? とウェンディが純粋に聞いた。

 

「生きる目的・・・そんな高尚なものでもないけどな。」

 

「私たちは“ギルド”を作ったの、正規でもない闇ギルドでもない“独立ギルド”『魔女の罪(クリムソルシエール)』」

 

独立ギルド、つまりは連盟に加入していないギルドだということだ。

 

魔女の罪(クリムソルシエール)

 

ここ数年で数々の闇ギルドを壊滅させているギルドだ。

 

「私たちの目的はただ一つ」

 

「ゼレフ・・・・・闇ギルド、この世の暗黒を全て払う為に結成したギルドだ。二度とオレたちのような闇に取り付かれた魔導士を生まないように」

 

まるでそこに、その目的の為ならば生涯を費やしても貫き、死しても尚暗黒を払い退ける為に爪痕を残すと言葉の中から犇々(ひしひし)と滲み伝わる。

 

その覚悟と確固たる決意に『おおっ!』とナツが身の内から沸々と熱い何かを感じ取り思わず詠嘆し、ルーシィも凄いことだとジェラールたちを誉め称えるが、当の本人たちは首肯なぞしない。

グレイも評議会で正規ギルドに迎え入れてもらえば良いのに、と提案するが『脱獄犯』に元『悪魔の心臓(グリモアハート)』だから無理なんだと言う。

 

それに正規ギルドに加入したからと言って堂々と闇ギルドを壊滅していくことは不可能なのだ。表向きには闇ギルド相手とはいえギルド間抗争禁止条約という法律がある。なんとも法則性と人道に乗っ取った条約ではあるが、それは足枷でしかない。何せ闇ギルドは条約(それ)を関係無しに暴れ、壊し、奪い、滅していく。

だがそれを正規ギルドも同様な真似をすればすぐに反条約ギルドにへと成り下がり、いずれは“闇”ギルドの出来上がりとなる。

『ギルド間抗争禁止条約』は一見邪魔でしかないように見えるかもしれないが、この決まり、規則、法律があるから人間は“平和”であることが出来るのかもしれない。

だからジェラールたちは正規ギルドには加入せず、独立としてギルドを結成、日々闇ギルドを壊滅していたのだ。条約(ルール)壊さ(やぶら)ずに、だ。

 

そして話の“核”をナツたち降下する。

 

「会場には私たちは近づけられないの、今言った通りにね。だからあなた達に一つ頼みたい事があるの」

 

「誰かのサインが欲しいのか?」

 

「それは遠慮しとくわ」

 

「じゃあ土産が欲しいのか?」

 

「それも遠慮しとくわ」

 

「分かった分かった、じゃあアレのことか、あの伝説の大魔闘演舞会場入口にある土産屋特産の大魔黒(オオマグロ)饅頭だろ? 箱何個分だ?」

 

「食べ物に困ったから、という理由であなた達に頼んでいる訳じゃないのよ? 大魔闘演舞に出場するあなた達に何故わざわざ食べ物を要求するのよ私たちは・・・・・・・・」

 

あのゲテモノ饅頭を食べたいなんて何て挑戦的なギルドだ、とナツから何故か嫌な意味で好印象与えてしまった『魔女の罪(クリムソルシエール)』。

話が脱線仕始めてきたので修正するウルティア、少し疲れた顔で。

 

「毎年開催中に妙な魔力を感じるのよ。その正体をつきとめてほしいの」

 

“妙な魔力”

 

この言葉だけで妖精の尻尾メンバーは嫌な感覚に陥られる。

 

「フィオーレ中のギルドが集まるんでしょ? 怪しい魔力の一つや二つ────」

 

「オレたちも初めはそう思っていた。しかしその魔力は邪悪でゼレフに似た何かなんだ。それはゼレフに近付きすぎたオレたちだから感知できたのかもしれない」

 

「ゼレフ・・・・」

 

 

またしても聞きたくない言葉・・・いや、名が出てきた。

 

暗黒を払うのが『魔女の罪』の存在理由、その暗黒の原点とも言えるゼレフの魔力──に近い“何か”を知りたい為に大魔闘演舞に参加する『妖精の尻尾(フェアリーテイル)』に頼み込んでいるのだ。

もしゼレフの魔力、況してやそうで無かったとしてもゼレフの居場所をつきとめる手がかりになるかもしれないと思ったからだった。

 

「もちろん勝敗とは別の話よ。私たちも陰ながら妖精の尻尾(フェアリーテイル)を応援してるから、それとなく謎の魔力を探ってほしいの」

 

メルディは気絶しているザンクロウの様子を近くで窺いながら言う。指で突っつくが反応が無い。

 

「雲をつかむような話たが請け合おう」

 

「助かるわ」

 

「いいのか、エルザ」

 

今この場で総意の意思を決めることが出来るとすればS級魔導士のランクを持つエルザぐらいなもので、冷静で的確な判断が出来るのもエルザぐらいなものだった。そんな信用しているエルザだったが、やはり随分と簡単に請け負った理由を聞きたかったグレイはエルザに向き、問う。

 

「妙な魔力のもとにフィオーレ中のギルドが集結してるとあっては私たちも不安だしな」

 

それにエルザはただ頼み込むだけでは無いだろう、と考えた上でこの頼みを請け負ったのだ。その様子に気付いたウルティアも穏やかな表情になりながら、その『報酬』の話に入った。

 

「報酬は前払いよ」

 

「食費!!」

 

「家賃!?」

 

「いいえ、お金じゃないの」

 

随分と目縁が垂れ下がったが気にしないでウルティアは続ける、手から腕に水晶球を優雅に転がすように。

 

「私の進化した時のアークがあなた達の能力を底上げするわ」

 

「「「え?」」」

 

唖然とするナツ、ルーシィ、グレイ。思わずメルディは笑いそうになったが必死に堪えた。

 

「パワーアップ・・・・・・・・といえば聞こえはいいけど実際はそうじゃない」

 

そこで一旦区切り、口を開く。

 

「魔導士にはその人の魔力の限界値を決める器のようなものがあるの、たとえその器が空っぽになってしまっても大気中のエーテルノを体が自動的に摂取してしばらくすればまた器の中は元通りになる。」

 

エーテルノ、つまりは『魔力の素』となる微量で微細、精密で肉眼で決して視認は出来ない『魔力の素』。

 

人間はそれを自動的に空になった魔力の器に流れ入ってくるという。

 

「ただ・・・・最近の研究で魔導士の持つその器には普段使われてない部分がある事が判明した。それが、誰にでもある潜在能力『第二魔法源(セカンドオリジン)』」

 

 

ピクピクッ! と面白いように反応仕始める妖精の尻尾一行。それにトドメの嬉しき報酬。

 

「時のアークがその器を成長させ、第二魔法源(セカンドオリジン)を使える状態にする。つまりは今まで以上に活動時間を増やし強大な魔力を使えるようになる」

 

「「「「おおおーーーっっ!!!」」」」

 

「ぜんぜん意味わかんねーけどおおおーーーっっ!!!」

 

「ただし想像を絶する激痛と戦う事になるわよ」

 

半分冗談に、半分本気でギンッ! と目縁を吊り上げて面白そうに怖い微笑みを浮かべるウルティアに、ウェンディは『あああ~・・・』と冷や汗を流しながら嫌な想像を育ませて、レビィは単純にウルティアの怖い微笑みに臆していた。

 

「かまわねえ!! ありがとう!!! ありがとう!!! どうしよう!? だんだん本物の()に見えてきた」

 

「だから女だって」

 

「まだひきずってやがったか」

 

そう、それは何の他意も無い純粋な感謝の念で一途に思った行動だったかもしれない。だが、それを許せない行動だったことはナツは知らない。

 

キュゴオォッッ!!

 

まるで一筋の光によって貫かれた槍撃、それだった。

 

「があぁああああああっ!?」

 

何かされたのが自分だと気付いた時、ナツは宙を舞っていた。そして宙を舞っていたナツは世界の常識とも言える“重力”により抵抗も無しに地面に容赦無く落下した。

 

一瞬の静寂、そしてその静けさの中からゆらゆらと、燃えるような眼差しで立っている炎の魔導士が一人居た。

 

「テメェ・・・・誰の女に手出してんだ、ってよォ?」

 

ただ一人、炎の滅神魔導士(ゴッドスレイヤー)だけだった。

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 

 

「本っ当にごめんなさい!」

 

「ごべんだざいでじだ・・・」

 

森林中央付近に偶然あった広い場所で、誠意を込めて謝るメルディと、どう殴ればそこまで凹凸ある顔になるのかと疑問すら浮上してくる顔のザンクロウは口が開ける言葉でナツ達に謝っていたのだ。

 

「いやいや、ナツが身勝手に抱き着いたことが原因なんだから別にそこまで謝んなくても・・・ボコボコだし」

 

「そうだな、だがまさかこの兄ちゃんがウルティアと恋仲だったとは・・・・知らなかったぜ(ニヤニヤ)」

 

「ち、違うわよ! それは勝手にザンクロウが────ちょっと、何ニヤニヤしてるのよグレイ!」

 

隠す事ァ無いぜェ~? とニヤ顔を隠さず微笑み続けているグレイに『絶対に勘違いしてるわよ!?』と1から説明しようとしているウルティアに兄妹のようにも姉弟にも見えて、何故か心が和やかな気分になる。

だがそんな中、一人だけ和んでいない者が居た。

 

「っっざけんなぁあああ!!!」

 

音波でも伝わるような大声量で異議を唱えるは殴られた本人、ナツだ。ナツは一仕切り叫んだ後、きちんとウルティアの前まで来て、

 

「急に抱き着いて悪かったな、ごめん」

 

「いや、私は別に構わないのだけど───」

 

「構うッ!」

 

そこで元凶が立ち上がる。

メルディが必死にザンクロウの腰に腕を回して止めようとしているみたいだが、ザンクロウの鍛え上げられた体に抵抗出来ずにただ、ただ引き摺りられる。

 

「ウルティアさんの身体はオレっちのもんブボォオウっ!!?」

 

言い終える前にウルティアが水晶球をザンクロウの顔面に打ち付けた。

 

「だから! そういう事を言わないの!」

 

「そうよバカクロウ!」

 

「ふぐぐぐぐぐぐぎぎぎぎぎ!!」

 

それでも尚ザンクロウはウルティアに手を伸ばしているが、水晶球を浮かせ、そのままザンクロウの顔面にみしみしみしッ! と押し付けたまま後退し安全圏まで移動してナツと向き合う。

 

「そ、そういう訳だから、私は気にして無いわ。だからザンクロウが面倒な上に更に面倒事にならない内に潜在能力、第二魔法源(セカンドオリジン)の────」

 

「ううおおおおおおおおおオレと闘えぇぇぇぇ神殺しイイィィ!!」

 

「そ、そんな!? ザンクロウの面倒病が汚染されたというの!?」

 

「いや元からだろ」

 

グレイの端的且つ的確なツッコミを待つこと無く、ナツは丁度開けたこの森林広場で闘いを所望しはじめた。

そして本当に面倒の元凶となったと言っても過言じゃないザンクロウはと言うと、今度はウルティアからメルディにへと標的を代えて『デヘへ、ならメルディがオレっちの相手してくれるってーのかよォ』と不潔な笑いをしながらメルディの腰に腕を回していた魔手を伸ばそうとした瞬間、ゴチンッッ!! とザンクロウの股間をそれはもう容赦の無い蹴りを食らわせて上げると、男性股間特有の金属音のようなものが聞こえたと思うと同時に、ザンクロウは声は出ずとも喉からくる音の波が聞こえるほど震わせ叫び、すぐに股間を両手で力強く押さえ込み、顔の穴という穴から液体が垂れ流れてきた。

 

「ほぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおお────ぉふぉおふぉ───ふおおぉぉぉぉふほほぉぉぉぉぉぉ!!!!!!」

 

悶絶しながら昏倒しなかった自分を褒め称えたいザンクロウは、やはり目から涙が流れ、鼻からは鼻水を滴り、肌から汗が滝のように溢れ返していた。

 

ナツは怪訝そうな顔になりながらザンクロウと向かう。

 

「テメェ! 会った時からふざけてる奴だと思ってたが本当にふざけてる奴なんだな!」

 

「ヒハハハ! オイオイおめー────一体何してんだ?」

 

「・・・・あ?」

 

「・・・・・・・・あのよォ」

 

グイッ! 顔を上げたザンクロウには、獰猛な微笑みが浮かび、

 

「随分見ねェ間に、腑抜けたなァ。火竜(ヒトカゲ)ちゃんよ~ぉ?」

 

嘲笑へと変わり、ナツを侮蔑を含んだ声色で語りかけた。

 

たった、それだけ。

 

 

 

 

 

ドュウウウゥゥガアアアアアァァァァアアアアアアァァアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!!!!

 

 

 

ナツはザンクロウの腹に一発、火竜の一撃を喰らわせたのだった。


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