FAIRY TAIL~魔女の罪~   作:十握剣

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第2話「美しき女神の落涙」

ドォンッッ!!!!

 

 

 

 

 

 

 

何にも例え様の無い音が鼓膜に届いた時、メルディの視界はザンクロウの胸で隠れてしまっていた。

 

だが分かった。

 

一瞬にして『光』が無くなったことに、一瞬にして『命』を無くしたことにメルディは理解したのだ。

説明しようにも説明し難い感覚だった、まるで命を(もてあそ)ぶようにした行為だと思えば、再び耳に聞こえる男の声。

 

「ごめんよ、でも良かった・・・・“生きている”ね」

 

まるで生き残ったことを自分のことのように安堵する声元の男。

 

「だが、僕はまだ闇を背負うことになるだろう・・・僕はね、この時代において何かをするつもりはない。誰の味方にもならないし、誰の敵にもならない・・・・」

 

だけどね、と男の声は張り強くなり、意思を突き上げるように発した。

 

「今、一つの時代が終わるのならば・・・・僕は再び動き出すかもしれない・・・・・」

 

そのあと二三何かを呟いた後、男は静かにその場から居なくなった。

 

そしてメルディはあの『黒い空間』に飲み込まれたと言うのに、無事だった。

 

理由は恐らく分かってる。

 

「ザン・・・クロウ・・・・」

 

メルディを庇うかのように倒れたザンクロウに押さえ込まれていたのだ。

メルディは弱い膂力(りょりょく)でザンクロウから這い上がる。結構な筋肉を持っているザンクロウに押さえ込まれていたので息が多少苦しかったメルディ。やっとザンクロウから出ると、血色を悪くした顔で苦笑いを浮かべているザンクロウが横になっていた。

 

「ザンクロウ!」

 

「ヒハッ・・・無事だったか、メルディ・・・・ヒハハ、そういや頑丈だって」

 

こんな時でも笑っているザンクロウにメルディは思わず手刀を頭に繰り出した。

ザンクロウは抵抗せずにメルディの手刀を食らえば『ヒフッ!?』と吹き出す。

 

「・・・・ッ!?・・・・・そう言えばアイツは!?」

 

メルディを追いかけてきた《妖精の尻尾(フェアリーテイル)》の一員にして、メルディに『愛と活力の涙』を教えてくれた水使い魔導士・ジュビア。

 

メルディは辺りを見渡すとすぐ側に気絶しているジュビアを発見した。

 

(死んでッ!?・・・・)

 

「死んでねぇってよ、オレっちが助けてやった」

 

ザンクロウの言葉にメルディは耳を疑った。

 

「ヒハハハ! 『気性が荒くて好戦的なザンクロウくんが“他人を助ける”だってぇ!?』って顔してんぞメルディ」

 

ザンクロウはゆっくりと上半身を上げる、身体が痛むのかとても痛々しく腰や首の節々を曲げて起き上がった。

 

「・・・ゼレフの魔法・・・・・ありゃ化物並だってよォ、気持ち悪ィったらありゃしねェ」

 

『化物』という単語を苦々しくもはっきりと口にするザンクロウの表情は歪みに歪んでいた。己(じぶん)にもっとも言われ続けられていた言葉を、だがメルディはゼレフのことに関して頭が沢山になった。

 

「ゼレフ・・・ゼレフッ!?」

 

メルディはようやくゼレフが居ないことに気付いた。

 

「やめとけってよォ・・・」

 

周囲に居ないかメルディは必死に探しているが一向に見つからない。そんな必死に探すメルディにザンクロウは軋む身体を鞭打ち立ち上がる。

 

メルディは必死に何かを考えながら探している、ザンクロウの言葉が耳に届くがメルディはゼレフを探す。

 

「メルディ」

 

「うるさい! まだ近くにいる筈なんだ!」

 

メルディは焦りもあって辺りの草木を分けて探す。

ザンクロウはまたも気持ち悪い程に脳が鮮明に働きかける。

ドゴォオンッッ!! と《悪魔の心臓(グリモアハート)》のアジトである飛空挺の方角からとてつもない魔力を感じていた。

 

(マスターハデスと戦ってんのか《妖精の尻尾》さんよォ)

 

腹部を手で摩り、横たわる《妖精の尻尾》の魔導士・ジュビアの顔を覗き込む。

 

(フヒヒヒ・・・・この女がメルディを、変えたか)

 

魂が入れ換わった感覚に襲われたザンクロウは、性格も著しく変わり気性が荒く好戦的な性格も多少無くなっている。そして“酷く穏やか”なのだ。

 

心には余裕があり、戦いも無理して挑む考えも無くなっていた。それよりも本当に前まで無かった感情までが芽生えるほどにザンクロウを変えたようだ。

 

「ヒハハハ! めちゃめちゃ綺麗な女じゃねぇか! 水色の髪だしスタイルもイイってよォ! ヘハハ、ちょ・・・ちょっくら目覚める為に仕方なく悪戯(いたずら)でも・・・・・」

 

ザンクロウは笑いは残忍だった時と変わらなく見えるが、今のザンクロウの笑みには『残忍』と入れ換わるように『下心』が貼りつけられ、両手の掌を握ったり開いたり握ったり開いたり、とかなり変態紛いな行動を取ろうとすると、

 

「・・・・・なにしてるの、ザンクロウ」

 

寝そべるジュビアの傍らで隠すこと無く笑い続けていたザンクロウの背後には、何やら軽蔑するような眼差しで見ているメルディが立っていた。

ザンクロウはチラリ、とメルディの“ある所”だけ目を向けるとすぐにジュビアに視線が戻り、そして一言。

 

「・・・・・・・こっちの方がデカイってよ・・・・」

 

ゴヅンッッッッ!!!!

 

「なにが何処がデカイって? ザンクロウ?」

 

「ヒ、ヒハッ・・・・そりゃ決まってるってよォ。まったくよォ、それはお────────」

 

「『お』? 『お』の後はなに?」

 

「ヒハァッ!?(こ、こいつ! 光速的に魔力刃の展開速度が飛躍的に上がっただとォ!?)」

 

そして喋ってる間にもメルディに四肢を動かせない捕縛術で地に頬を付けさせられていたザンクロウはメルディの成長に戦慄を覚えた。

 

そんなやりとりをしていれば、ザンクロウたちが居る『天狼島』に莫大な揺れに襲われた。

 

「な、なに!?」

 

ザンクロウを跨ぐように抑えつけていたメルディは震源の方角を見るが分かる筈が無い。

 

そしてザンクロウはグイッと立ち上がり、メルディも小さな悲鳴を上げながらザンクロウの首に腕を回して背中に吊るされる。ザンクロウ的にかなり苦しいのだがメルディの小さな身体のお陰で喋ることが容易い。

 

「ウルティアさんの所に行くってよ」

 

その言葉を聞いて、メルディはザンクロウから聞いた話を思い出し、表情が陰る。

 

「メルディ・・・許してくれなんてよォ、都合良すぎるかもしんねぇが・・・・・言わせてくれよ」

 

ザンクロウは吊るされるメルディを抱え、背中に背負(しょ)う。

背中から伝わるメルディの体温。微かに高くなっている、炎の滅神魔導士(ゴッドスレイヤー)だけあり熱に敏感なのですぐに分かった。

 

「長い間、黙ってて悪かった・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・そして、済まなかった・・・・・・・・・」

 

メルディからザンクロウの表情がどうなっているかなんて分からなかった。だがメルディはザンクロウの肩に顔を預けて静かに涙を流していた。

 

「ウルティアさんにも改めてお前から聞けば良いって、そこでメルディは判断すりゃ良いって」

 

ザンクロウの耳から伝わるのは静かなメルディの呼吸音と、背中から伝わる心音だった。心音が高鳴っているのに気付いたがザンクロウはすぐにウルティアと合流する“脱出地点”に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

マスターハデスが負けた。

 

 

大した広くなど無い小舟の後部に佇んで目を伏していた。

 

鮮明な脳に刻まれている記憶には辛く、酷く、暗く、黒い軌跡が浮かび、そこには常にマスターハデスが居た。そして、ハデスに様々な魔法や原理、生きる為の(すべ)、裏世界の鉄則、魔法世界の全てを教示してくれたのだ。

 

欺瞞(ぎまん)していたかもしれない、教唆(きょうそ)されたかもしれない。だが同時に【絶対的な力】と【生きる】ことを教えられたのも変わる筈も無い絶対的なこと、それを踏まえてザンクロウは弔いの炎を掌に発火させ、まるでボールのようにザンクロウはその炎を海に目掛けて投げた。

 

(冥福を祈るって、マスターハデス・・・)

 

一人ザンクロウは海に向かって合掌した後、後ろから注がれる視線に向かい合う。

 

「普通の服着てもウルティアさんの美しさは最高級だってよォ! ウヒヒヒッ」

 

その視線の元はメルディとウルティアだった。脱出地点でメルディを担いだザンクロウと出会した時のウルティアの顔が思い出す。

 

「・・・・本当にザンクロウなの?」

 

「ヒハハハ! 間違い無く“元”《悪魔の心臓》の煉獄の七眷属の一人だってよォ!」

 

口を空けて笑うザンクロウにウルティアは長く美しい黒髪を靡かせて、小舟(ボート)を漕ぐ為の(オール)をザンクロウに渡す。

 

「なら少しの間頼めるかしら・・・・・私は、メルディと話があるから」

 

天狼島も小さく見えるくらい離れた大海原で、メルディは縮こまるようにしてウルティアと向かい合う。

ザンクロウはウルティアから預かった櫂を掴んでゆっくりと漕いでいく。

 

「・・・ねぇウルティア、私の街を襲ったの・・・・ウルティアって本当?」

 

ずっと聞きたがっていたメルディは重い口調のまま聞く。

ウルティアもザンクロウと一緒に居た時点で『もしかしたら』と考えていたのか、頬に汗が滴る。

 

「私の家族も友達も全部・・・・ウルティアが?」

 

「・・・・・・・・そうよ」

 

 

 

ぞわっ!! とメルディは心が抉られる感覚に陥った。

 

 

 

「いつか、きちんと話さなきゃと思ってたんだけど・・・・・・・・」

 

ウルティアは己の罪を再認識し、視線を横にする。

 

「私はこの人生を“一周目”と考えていたの。それは大魔法世界に行って『時のアーク』を完成させれば“二週目”が始まるからよ」

 

ザンクロウは淡々と(オール)を使い漕ぐ。

 

「私は、この一周目をやり直しのきく人生だと信じてきた。だから、どんなに残酷な事も、人の道に外れた事も出来た」

 

人外れし道、外道を歩んだのはウルティアだけでは無い。無情にその大罪(おこない)をやってきたウルティアの傍らには炎の滅神魔導士も居たのだ。ザンクロウは刺々しい黄色い長髪を揺らしながら漕ぐ。

 

「二週目こそが私の本当の人生、あなたの本当の人生・・・・幸せな私たち・・・・・・・全ては・・・・その為だった」

 

そこまで告げたウルティアの言葉に、メルディはガタッ! と勢い良く立ち上がった。今のウルティアの口から紡がれた言葉にはメルディを十分に呵責(かしゃく)させる理由があり、ウルティアを責める理由も与えたものであった。

ザンクロウは静かにこの状況を黙然としながら漕ぐ。

 

「分かってる・・・それは全部、私の“つもり”。他の人から見たら私は鬼・・・・罪を重ね幸せな人生を妄想するバカ女」

 

 

 

ギリッ!! とザンクロウの耳に伝わるほどにメルディの歯軋りが聞こえた。

 

 

 

「許して・・・・・・・・なんて言えないけど・・・・“ごめんなさい”・・・と言わせて・・」

 

ザンクロウは受け入れるつもりだ。

メルディがウルティアと共にザンクロウをも復讐しようとしても、彼は快く受け入れる心境だった。

『気持ち悪いほど酷く穏やか』な心を持ったザンクロウにとって最早抵抗する意思や意味など無かった。

 

 

だが、ゾワリッ!! とザンクロウはまた(・・)も頭痛と気持ち悪さに襲われた。それは何故か、ザンクロウが思案しようとした時だった。

 

「・・・そうよね、殺したいほど憎いわよね」

 

 

その言葉(・・)が、

 

 

「でもね」

 

 

その行為(・・)が、

 

 

 

「これ、以上・・・あなたの綺麗な手を汚す必要はない。私は・・・もう消えるから・・・・」

 

 

 

炎の滅神魔導士(ゴッドスレイヤー)を襲ったのだ。

 

 

 

バシャンッ! とウルティアは必要となる(・ ・ ・ ・ ・)であろう(・ ・ ・ ・)短刀を忍ばせてあり、メルディにこれ以上罪を重ねないよう、『自決』したのだ。

 

「ウルティア!!!」

 

「────ッ!!?」

 

深く、容赦無い深き刺突(つ)きで臓を貫いたまま、ウルティアは告げた。

 

「あなたは幸せを見つけるの・・・きっと幸せになれる・・・」

 

そしてメルディが大好きだった言葉を、ウルティアから送られた。

 

「大好きよ、メルディ・・・・・・・・」

 

 

バシャン、と。

 

大いなる大海原はその『死』を疑問に思わせないほどに美しく、そして綺麗に『死(それ)』を受け入れた。

自然からすれば、その『死』は余りにも小さく、ちっぽけで、疑念に捻(ひね)らせない程のことだったのかもしれない。だが、安易にそれを・・・『死』を受け入れようとする自然に逆らい抗うことが“人間(ヒト)”と示すことだと、ザンクロウは一瞬にして頭に過ったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

「ウルティアーー!!!!」

 

『死(それ)』を認めないと言わんばかりに、メルディは海目掛けて飛び込んだ。

 

メルディの目には優しくも厳しく、でもやはり心配そうに微笑みながら頭を撫でてくれたウルティアの記憶が甦る。

 

“感覚連結(かんかくリンク)”

 

相手の感覚を共有するその魔法は、ウルティアの心底までメルディは感覚を共有したのだ。

 

ウルティアの悲しみも、

 

ウルティアの悔しさも、

 

ウルティアの願い事も、

 

ウルティアの優しさも、

 

全部メルディは知った。

 

海中で死に行こうとするウルティアの手を掴んだ、あとは引き上げるだけだ。とメルディは海面に目掛けて引こうとすると、力が急に無くなった感覚に陥ったのだ。

 

(くっ!)

 

まだ伝えてない! メルディはあの優しい母のようなウルティアにまだ言いたいことが山のようにあるのに、もっと一緒に居たいと願うのに、自然は『死(それ)』を受け入れようとしているのだ。

 

メルディは必死に足掻く、抗う、逆らう。

 

だが自然(かべ)が立ち塞がる。

 

メルディとウルティアは海流の早い波に呑まれようとした時だった。

 

海面から赤く照らされた、と思った瞬間にメルディはウルティアと共に身体が上へ上へと移動していたことを理解した。

 

ぷはぁっ!! と酸素を力一杯に溜め込む。

彼女たちを逞(たくま)しい膂力(りょりょく)で引き上げていた腕主は、ザンクロウだった。

 

口は閉ざし、目でメルディを促した。

 

『早く伝えてやれ』と。

 

メルディは逞しい腕をギュッ、と強く掴みながら、瞳孔から溢れ出てくる雫を溜めて叫んだ。

 

「許すから・・・・!!! 許す・・・から!!! もう二度とあんな事言わないから! お願いだから一人にしないで!!! 大好きなの!! 一緒に生きてよッ!!」

 

うああああああ!! と溜め込んでいた涙を流すメルディに、ウルティアも涙を流す。

 

ウルティアにも伝わっていたのだ。

 

ウルティアを、母と想ってくれている娘の優しさと愛しさに溢れているメルディを力強く抱き締めていた。

 

互いに抱き合う母娘(おやこ)の姿にザンクロウは崩すこと無い無表情の顔のまま、涙を流していた。

 

 

知りもしない感情だ。

 

 

だが、そこには『愛しさ』が溢れでていた。

 

そして崩れていく、ザンクロウの表情は簡単に崩壊していく。

 

残虐で残酷な残忍さと、戦いを望みに臨んだ挑みさと、荒んだ心が崩壊し、ただ思った。

 

 

“愛しい”と、そう思い。神を滅(ころ)す魔導士は涙を落とした。

 

 

 

 

 

 

 

炎神と共にその落涙を包み込んだのは、炎神を優しく包み抱いてくれた二人の女神だった。




なんかザンクロウ変でしたか?

難しいですね(´Д`)


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