FAIRY TAIL~魔女の罪~   作:十握剣

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間違えて先に12話を更新させてしまったべ

焦った焦った(((・・;)


第11話「星降ル夜ニ」

 『大魔闘演武』の会場となる『ドムス・フラウ』の裏手に、(そび)え立つ天まで届きそうな高層な岩山に、待機していた独立ギルド『魔女の罪(クリムソルシエール)』メンバーが揃っていた。

 揃ってはいるが、事はそう簡単じゃなかった。

 

「ふん!」

 

「ごぶぅっ!!?」

 

 ゴチンッ! と耳から伝わる音が聞いている者さえ痛くさせてしまうほど響いた。

 理由は簡単だが、今回はやけに激しかった。

 

「いつまで情報集めに行ってたのこの放蕩バカ!」

 

「続けてメルディからもゴバァ!!?」

 

 ズササササっ! と地に滑り流れるかのように、ザンクロウは殴り飛ばされていた。

 もちろん殴ったのは魔女の罪(クリムソルシエール)の女性たちだった。

 

「情報集めが遅くなったのを悪く思うのは良いことだわ、うん、成長してえらいえらいよ」

 

「そうだね。でも、その反省の証拠として、お土産を買ってきてくれたわ。・・・・でもね、ザンクロウ」

 

 わなわなと震える彼女たちの手にはあるものが強く握られていた。余りにも強く握っているものだからどういう物なのかさえ分からない。

 だが、すぐに分かってしまった。

 

「教えてあげましょうザンクロウ! あなたなんで私たちの下着(・ ・)を買ってきたの!?」

 

「うぅ…………しかもサイズがピッタリだよウル~」

 

「うえっへっへっへ……オレっちも甘く見られたもんだぜ! もう二人の体はオレっちが緻密にゲボラァッ!?」

 

 恥ずかしさの余り、ウルティアが神速のパンチが妙に良く入る。

 

「ここここのっ! ジェラールが居なくなると急にテンション上がんないでくれないかしらッ?」

 

「うぅ~しかも個人的に好みの柄だよウル~」

 

 泣き泣きメルディはザンクロウから貰った下着を広げたりして見ていた。ウルティアもゆっくりとだが、下着を見てみる。

 

「ウルティアのはやっぱり黒だよな。なんつーの………………黒が似合うっつーか、むしろ黒しか似合わない?的な。オレっち的には何色でも構わないけど、巨乳安産型のウルティアさんには異性を惑わし蕩けさせる黒が一番だとピキーンッ! って来たんだってよ! なにせそのブラジャーなんて単純な黒色だけではなく細かにきらびやかな装飾の刺繍が縫られていて変な下着より一番にウルティアの胸に似合う。なによりその布の性質も違う。その下着は女性が不快に思う感覚を無くすことを最上の問題としてそれを無くすために開発さた最新の下着なんだってよ。フィオーレ全女性たちがもっとも使う下着として有名な下着屋から買った代物なんだってよ! ウルティアは巨乳だからオレっちも探すのに張り合いが出てきてよォ・・・・・」

 

「もう分かった黙ってお願いィィーー//////!!」

 

 恥じらいながらもしっかりとザンクロウの頭部を残像を残すほどの威力が籠るパンチを繰り出す。

 ザンクロウもザンクロウでよくもあそこまで言えたものだ、とメルディが傍から見ていたが、そこで一瞬にして頭に考えが上がる。

 

(も、もしかして、私もウルみたいに思われてた考えがっ!?)

 

 紅潮する顔をしながら、ふとザンクロウを見てみれば、何故かグッ! と親指立てて地に伏している。

 

「ハァ~……バカはほっときましょう、バカは」

 

「二回も、ちょっとウル怒り過ぎじゃない? ザンクロウが買ってきてくれた物、何かと言いながらちゃんとしまって…………」

 

「ちょっ、ちょっとメルディ!」

 

「ひ~ん! ごめんなさ~い!」

 

 可愛らしく舌を出して謝るメルディに、ウルティアは何度目か分からない溜め息をついて、自身で生み出した水晶を取り出した。

 

「とにかく大魔闘演武を監視しないといけないの、だから私たちが喜ぶ喜ばないは関係ないのよ。いい、メルディ?」

 

「はーい」

 

「じゃ、さっそく見ようって」

 

「「復活はやっ!?」」

 

 毎度のことながら、ウルティアの打撃では今のザンクロウには効かないのか、相変わらずケロっとしとした顔で笑っている。そして懲りずにウルティアに抱きつこうとしているザンクロウに、今まさに大会の様子を見るべく大切な水晶を、なんの躊躇いとなく鈍器にと変化させて撃退している。

 話が進まないこの上ない。

 

「ザンクロウ止めなって、本当にやめないとウルがマジギレするよ?」

 

「えっ」

 

 一瞬にして物凄い蛇に睨まれた蛙の如く怯え始めた。

 前にザンクロウがしつこくし過ぎて、本気のウルティアの魔法・氷の造形魔法を受けてからこの様子だ。肉体的に炎の滅神魔法を扱うザンクロウには微々たるものだったが、精神的に本気で嫌がれたことが絶大な衝撃を受けたことがあったのだ。あの時メルディが取り合わなかったらずっとザンクロウは落ち込んだままだったろう。

 そして、メルディがそう言った途端に素早くウルティアに対しての行為(好意)を止めて、早足にメルディの背後に回り、ヒシッと覆い被さるように抱きつかれた。

 

(う、うぅ//// なんでザンクロウはいつもこんな大胆なことを平然と……)

 

 ザンクロウの顔がメルディの横にまでくっついて、ブルブルと震えている。

 

(い、いつもの考えよ! えーと、えーと……ザンクロウは〝犬〟なのよ! 好きなメスに好意を寄せるけど、いつも失敗して落ち込む犬なの! だから今のザンクロウは好きなメスに叱られて噛みつかれた記憶を思い出してビクビクしてるのよ! だから大丈夫、大丈夫。平常心、平常心)

 

 異性対してのドキドキな年頃の女の子に、不躾無遠慮なザンクロウに寛大な考えで対処しようとしているメルディに、ザンクロウがボソッと。

 

「…………(クンクン)…………ちょー良い匂いだって……(クンクン)」

 

(ウキャァァァァァァァァァァァァっぅぅ!!??)

 

 そして抱きつく力が更に強くなって、耳元で囁く&匂いを嗅がれ始めたザンクロウに最早メルディは赤面どころか若干涙目になりはじめた。

 

「メ、メルディ? その男を剥がしてあげる?」

 

「いいいいいいよもう! 絶対話が進まないから早く演武見よう!」

 

 逞しいザンクロウの腕が強く締める、だがそれはメルディの体も気遣った程度の力強さで、考慮された強さが逆にもどかしく、押されて丸まってしまった体に耳元から度々聞こえるザンクロウの吐息が聞こえてはクラクラしそうなぐらい大丈夫よ、とメルディは告げる。

 ウルティアはそれを何故か生暖かい目で見つめ、ザンクロウに『それ以上私の可愛いメルディに何かしたら……殺すわ』とメルディでさえ聞こえた冷たい声でそう言ってきた。逆に今のままなら何も問題がないということになるが、メルディはそこまで思考が巡回できなかった。

 

 

◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 一方、大魔闘演武の開会試合(オープニングゲーム)が始まろうとしていた。

 

「えぇ~それでは各チーム、隠密(ヒドュン)の参加者は前へ」

 

 そう告げたのは実況進行を務めるのがチャパティなら、今目の前に立っている南瓜(カボチャ)頭の方が司会実行役らしい。

 それぞれのギルドチームから参加選手が出てくる。

 

「行ってくるぜ」

 

「がんばってー!」

 

「絶対負けんなよ!! 特にガジルのチーム!!! それと剣咬の虎(セイバートゥース)大鴉の尻尾(レイヴンテイル)……それと───」

 

「うぉぉぉぉ!! (おとこ)なら勝ってこい、グレイ!!」

 

 妖精の尻尾(フェアリーテイル)も選手であるグレイにエールを送る。だが、それを遠目から見ている者が居た。

 

(グレイ殿でござるか・・・・彼の有名な『火竜(サラマンダー)』と対となる〝氷〟の造形魔導士……競うのが楽しみでござる!)

 

 黄昏の鬼(トワイライトオウガ)の忍者装束の男、フウキだった。

 丸い兜に真っ黒な手甲。だが所々に銀色が輝いており、程よくバランスを取った黒銀の印象の男。

 仲間から散々弄られていたが、その仲間誰もが一番槍を託せるほどの実力を有する男。

 グレイはエルザたちが蹴散らしたオウガの話は聞いていたが、この忍者の男もあのオウガのような汚い真似をするのか、少しだけ気になった妖精の尻尾(フェアリーテイル)に所属しているグレイとジュビアだったが、その注視されていた本人は嬉しそうに手を振ってきた。

 グレイは『な、なんだコイツ』と訝しげにただ見るだけに徹し、ジュビアなんかグレイをガン見してた。フウキは振った手が誰も答えてくれなくて一人落ち込む。

 

『いよいよ始まりますね。はたして隠密(ヒドュン)とはどんな競技なのか。ヤジマさん、注目の選手はいますか?』

 

『んー……本命はルーファスくんだろうけど、ワスはグレイくんに注目したいね』

 

『復活した妖精の尻尾(フェアリーテイル)の選手ですね! 確かに一体どんな魔法を使って競ってくれるのか楽しみですね! そして本日のゲスト! 『青い天馬(ブルーペガサス)』のジェニーさんは?』

 

『もちろん♡ ウチのイヴくんよ、強いんだから!』

 

 ワァァァァァァァ、と盛り上がる会場に、元・評議員のヤジマからの支持もあり、多少なりとも妖精の尻尾(フェアリーテイル)に注ぐ目が微々たるものだが増えただろう。

 そこからどう上がってくるのか、それは妖精の尻尾(フェアリーテイル)の力が試される。

 

 選手たちがカボチャ頭の司会者に集まっていく。

 

「これらマーメイドのベス殿! お互い全力を尽くしましょう!」

 

「あぁー! 郵便屋さんじゃないのー! ギルド『青い鳥(ブルーバード)』に所属してたんじゃないのー?」

 

「某、手伝いで色んなギルドを手助けしてるのでござるよ。少し図々しいでござるが……」

 

「ううん。この間はマーメイドにも沢山の配達をしてくれて皆喜んでたんだよー? あの忍者さんはどこまでも熱心に配達してくれたって!」

 

「おぉ! それは大変嬉しゅう思いまする!」

 

 集まった選手には顔合わせが既にしてあった人たちも居り、挨拶など交わしていた。

 

「ラミアにも来てくれたな。しかも仕事で放れていた場所まで持って来てくれたのは助かったぞ」

 

 と、さきほどまで妖精の尻尾(フェアリーテイル)の青い髪が特徴的な美女と話していたリオンも入ってきた。どうやらフウキは顔が広いらしい。顔兜と布で隠してるくせに。

 

「おぉ! リオン殿。彼の有名な〝聖十(せいてん)〟の称号を持って居られるジュラ殿と並ぶかこように名を轟かせるリオン殿! これはこれは、この競技、やはり一筋縄ではいきますまい」

 

「まったく。お前は忍のくせに口達者だぞ? いや、忍だからか?」

 

 あのリオンとさえ結構な砕けた関係を築いているこのフウキに、グレイとジュビアも一気に興味が沸く。

 そして、フウキが妖精の尻尾(フェアリーテイル)の二人に挨拶に行こうとすれば、司会者が進行を始めた。

 フウキは名残惜しそうに、軽くお辞儀をして挨拶カボチャ頭の司会者の話を聞いた。

 

「えーそれでは説明をさせてもらいますよー? あ、わたしカボチャですので」

 

「いや、分かってるが……」

 

「毎年のことだから、グレイくん。気にしちゃったらキリがないよ。でも、」(キリッ)

 

「たぶん主催者側の役員だと思うのー。でも、」(キリッ)

 

「「キャラ作りご苦労様です」」

 

 ペコリと真摯に労いの言葉を送る青い天馬(ブルーペガサス)のイヴと、人魚の踵(マーメイドヒール)のベス。

 

「ノンノン、楽しんでやってるからいいんだカボー(・ ・ ・)

 

「無理矢理キャラ濃くすんなよ」

 

 そんなやり取りの間から、明らかに人間の肌色ではない男が入ってくる。

 

「ちょっと待ってくださいや。これならどん始まる競技……どんなモンか知りやせんがね。いいや……今後全ての競技に関してですがね。どーーーう考えても二人いる妖精さんが有利じゃありませんかねぇ」

 

 ナルプディングのこの質問に、難癖に聞こえてしまうのも仕方ないだろう。この演武を進めていくには、やはり妖精の尻尾(フェアリーテイル)の実力をある程度納得した上で進行していくのだから、ナルプディングがわざわざ聞くことでもないだろう。

 だが、やはり大鴉の尻尾(レイヴンテイル)からすれば、少しでも妖精の尻尾(フェアリーテイル)の力を削ぎ落としたいと考えての行動かもしれないが、グレイとジュビアは感情的にナルプディングを睨んでいる。

 

「し、仕方ありませんよ。決勝に同じギルドが2チーム残るなんて凄いことなんですから…………あっ、カボ」

 

「いいのではないのかな」

 

 その言葉に剣咬の虎(セイバートゥース)のルーファスに注目を浴びる。

 

「私の記憶が(うた)っているのだ。必ずしも二人いる事が有利とも言えない……と」

 

「ふむ。ルーファス殿の言う通り。某も別にかまいませぬ」

 

「アチキもいいと思うよ」

 

「チッ」

 

 事が上手くいかなく、思わずナルプディングは舌打ちをするが、グレイたち妖精の尻尾(フェアリーテイル)標的(ターゲット)としている剣咬の虎(セイバートゥース)からの援護に、思わず口走る。

 

「さすがだねー。それが王者の余裕ってヤツかい」

 

「仲間は君にとっても弱点になりうる。人質・脅迫・情報漏洩他にもいくつかの不利的状況を構築できるのだよ。記憶しておきたまえ」

 

「忘れなかったらな」

 

 ある程度の話が終わったところを見計らい。カボチャ頭の司会者が合図する。すると、とうとう待ちに待った演武が開始されたのだ。

 ステージとなる会場の中央に魔法により作り出されたフィールドが光学魔法音を発しながら展開していく。

 参加者の数人はこのシステムに唖然としている中、そのフィールドステージが徐々に出来上がっていった。

 そこに出来上がったのは、まさかの〝街〟であった。かなりの規模を誇る〝街〟が競技場の中でいとも簡単に構築させていったこの魔法には詠嘆の溜め息がつく。

 

(街並みの具現だと? 一体どれほどの魔力を……)

 

 一方で、謎の魔力を調査をしに来ていたジェラールも、この増大な魔力で構築させていく街の具現化に疑いを持って観察していた。

 

 そして選手たちをも包み込んだその〝街〟は既に競技場に立派な街を作り出してしまった。

 そこでグレイやジュビア、リオンやルーファスといった選手たちは見事にランダムでバラけて街中に配置させられていた。

 

「魔法とは、やはり神業のようにも見えるでござるなぁ。改めて見て……フムフム。納得させられてしまうでござる」

 

 街中の風景も、街に並び立つ建物も立派な作りになっている。(れっき)とした現物(ホンモノ)だ。

 

「しかしながら、隠れん坊とは…………『鬼』を名乗る某らとして、負けられる競技でござるなぁ(ていうか、負けたりしたら後で皆にボコられるでござる!)」

 

 辺りを見渡す黄昏の鬼(トワイライトオウガ)のフウキ。

 他のメンバーも同じように、ゲームの主旨を予想している。

 

『会場の皆さんは街の中の様子を魔水晶(ラクリマ)ビジョンにてお楽しみください! 参加している8名には互いの様子を知ることは出来ません。隠密(ヒドュン)のルールは簡単。互いが鬼であり追われる側なのです! この街の中で互いに見つけ、どんな魔法でもかまいません、一撃与える。ダメージの有無を問わず〝攻撃を与えた側が1(ポイント)獲得〟です!』

 

 実況のチャパティが乱れない説明をしていく中、新たにステージに付加するシステム。続々と光の粒子が渦巻くように出現したと思えば、そこには、

 

「どうなってんだコリャア!!!」

 

 グレイやジュビア、リオンやルーファスといった参加選手たちが出現したのだ、しかも一人だけではなく大量にだ。

 

「同じ顔がいっぱい!!」

 

「うぷ!」

 

「酔うのかそこで」

 

 妖精の尻尾(フェアリーテイル)メンバーもこのゲームの厄介さを早くも理解した。

 

『これは皆さんのコピーです! 間違えてコピーへ攻撃してしまった場合、1(ポイント)の減点となります! さあ!! 消えよ! 静寂の中に! 闇夜に潜む黒猫が如く! 《 隠密(ヒドュン) 》! 開始!!』

 

 オオオオオオオオオオっっ!! と競技場が割れんばかりの歓声と共に震える。

 試合が始まったのだ。

 

 

◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

「ググ・・・グ・・・グレイ様が、いっぱい♡♡ これだけいるんだから一人くらいジュビアがもらっても~♡」

 

(むむ、あれは妖精の尻尾(フェアリーテイル)の水使いの美女、ジュビア殿では)

 

 試合が開始して、早速フウキが建物の影にへと身を潜めると、近くに居たのか、ジュビアがすっかり惚れ込んでいるグレイに平常心なんて捨てていた。

 恋い焦がれ、愛に溺れるジュビアは愛しのグレイのコピーに思わず抱きついている。

 それを影から眺めていたフウキは、

 

(おォのれイケメンがぁぁぁぁ!! 標的絶対必殺(ターゲットロックオン)ンンンンッッッ!!!)

 

 勝手に醜い嫉妬を(たぎ)らせていた。あんな巨乳美人を手にして優勝まで手にするなんてふざけんなよコンニャロウがぁ!! とどんどん醜い嫉妬が膨張していく中、このゲームで貴重な場面を遭遇する。

 

 ブーー!!

 

「えっ?…………ッきゃうん!?」

 

『おーーっと! ジュビア選手がコピーへの攻撃で減点1です! この場合、十秒後に別のエリアからリスタートとなります。また他の魔導士にやられてしまった場合も1(ポイント)減点され、十秒後に別エリアにてリスタートです。制限時間内であればリスタートは何度でも可能です。制限時間は30分。一番得点を稼いだチームが一位です!』

 

 ヌルリと、建物の影から顔を出したフウキは早くもこのゲームの内容を理解した。

 というか、こういう展開はギルドの依頼での『戦闘』で経験したばかりだ。

 

(新たに付加されたと言うなれば、それは制限時間内でどれほど点を稼げるかどうかでござろう・・・厄介と言えばあのルーファス殿の魔法か)

 

 だが、とフウキは再び暗闇の影へと潜む。息を殺し、気配も殺し、四肢に入る力も殺す。

 すべてを無に戻して、そして再び〝入る〟のだ。

 

「………………………………………………………………………………」

 

 そしてフウキは、不透明な掴めもしない……〝風〟となった。

 

 

◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

「ぐわぁー!」

 

 さっそく静かなる競技が各所で起こってる中、グレイは大鴉の尻尾(レイヴンテイル)のナルプディングに執拗に狙われていた。

 一体どうやって本物を見分けつけているのか、グレイには分からなかったが、この隠密(ヒドュン )のゲームがここまで考え抜かれたものだったことに身をもって実感していた。

 ナルプディングは自分のコピーを利用して敵に近づき、不意討ちすることも可能なゲームなのに逸早く気付いた。それにまんまと攻撃を食らうグレイは舌打ちを鳴らして苛立ちを募る。

 ゲームの主旨を理解した者たちはさっそく、コピーのふりをして、他の選手から目を欺き、どのような手段で攻撃するかを考えるようになっていた。

 息を殺して、敵を倒す。これが『隠密(ヒドュン)

 

「くっくっく! いいカモでサァ」

 

 ナルプディングは〝本物〟のグレイの背後に既に回っていた。一体どのような魔法を使って特定しているのかわからないが、結果が物を言う。間違いなくナルプディングは妖精の尻尾(フェアリーテイル)狙いだが、首位を立っている。

 観客席からもこの『隠密(ヒドュン)』の特性をどのような魔法か方法で打ち破るのかで盛り上がっていた。

 

「それでは、またいただきましょーかネェ?」

 

「っ!?」

 

 気付いた時には既に遅し、ナルプディングの痛々しい刺の付いた豪腕が巨大化して、グレイを容赦なく叩き潰す。

 ダメージは無いものの、このポイントを取られていく感覚はグレイのプライドをズキズキと刺激するものだった。

 

『この自分や敵のコピーだらけのフィールドで敵……実体を見つけ出すにはどうしたらいいのでしょう?』

 

『いろいろは方法はあるけどね。たとえば相手の魔力をさぐるとかね』

 

『ふふん♪ イヴくんならもっとすごい方法を使うと思うわ』

 

 実況席でもこの隠密(ヒドゥン)のゲーム性に多種多様な看破策があると元・評議会議員のヤジマの説明で観客たちは試合に目が離せないでいたが、街中のフィールドでは、またも誰かが得点を稼いでいた。

 

「これならどォうだ!! アイスメイク、(フロア)ッ!」

 

 再びグレイはナルプディングと対峙する。

 だが、何度もグレイも襲撃を喰らうほど学習能力がない訳じゃない。魔力の発動の際、発生する魔力に微々ながらも感じとり、それだけを頼りにグレイは氷を発生させ、その場から逃れる事に成功した。

 それはナルプディングも想定内のことか、追撃はせず、また影に籠り背からの攻撃に専念しようとしていた。それはこのゲームの主旨として大いに乗っ取った計画的逃避だが、そのを見逃すほどグレイも劣っていない。

 氷の台を使い、一気にナルプディングに近付くと、煉瓦の道にそっと手を当てれば、一気に己の魔法を展開させる。

 床一面に氷が張られ、一切の凹凸の無い氷上にて必然的に歩けば滑る自然の摂理に、ナルプディングはジャンプしようにも踏ん張れず、その場に転倒してしまう。

 

「これはまたしち面倒なことでサァ!」

 

(ポイント)頂きだゴラァ!」

 

 氷の魔法か、グレイは氷上を何事もないように普通に走ってやって来る。 そして魔法を追撃しようと手を重ね、展開しようとしたが、

 

「カハハハ! おいでませェ!」

 

「なっ!」

 

 ナルプディングは凍りついた地面を刺を生やした手の握力だけ地面に突き刺し、片手で体全体を浮かした。

 なんという微々たる魔法と体力だけを使った回避法だが、これにはグレイも面食らうと発動時間がかなり遅れてしまった。

 そして、ナルプディングは迫ってきたグレイが攻撃範囲まで来ると、再びグレイを突き飛ばした。

 

「クソォォォォォっウ!!!」

 

「大漁~大漁~でサァ!」

 

 グレイはそのまま別の場所にへと移転される。

 この『隠密(ヒドゥン)』、参加者が如何に考えて行動すれば良いのか安易に想像がつく。

 ナルプディングは上機嫌になり、大体の予想でどこにランダム移転したのかグレイの元にへと向かおうとすると、ヒュウゥ! と耳から風の音が聞こえた。

 

「あん? 風?」

 

 そこでナルプディングは『そう言えば』と思い出す。

 

(『黄昏の鬼(トワイライトオウガ)』…………妖精と繋がりは無い筈ですけどねぇ?)

 

 そんは事を考えていれば、背後からただならぬ気配を感じた。しかも……これは、わざと誘っている。

 

「むしろ恨んでいても可笑しくないギルドだと思ったんですがねぇ……そうじゃありませんか? 黄昏の鬼(トワイライトオウガ)、序列八鬼(ハッキ)の『風邪影鬼(カゼオニ)のフウキ』さん?」

 

 ナルプディングは確認もせずに、その剛腕を持って薙ぎ払う。風圧が纏い、音まで聞こえるその攻撃に確かな魔力も込もっており、グレイ以上の破壊力のある拳撃なのは目に見えて分かった。

 だが、ナルプディングも闇で元は生きていた者。

 今自分が仕出か(・ ・ ・)した(・ ・)過ちに気付くのも遅かった。

 

ドカァアッ! と打撃音が耳に届くと同時に、『……やっちまったでサァ』と意気消沈していた。

 それに怪訝に思った観客や妖精の尻尾(フェアリーテイル)のメンバーや他の者たちは見ていると、競技場に広がった音は『ブーー!』という減点音だったのだ。

 これには皆不思議がって見ていれば、ナルプディングが攻撃したのは『黄昏の鬼(トワイライトオウガ)』の忍者装束の男・フウキだったが、それはコピーだったのだ。

 だが、それなら何故ナルプディングがあそこまでフルスイングしてまで本気の攻撃をしたのか腑に落ちないでいると、解説のヤジマが面白いように説明する。

 

『いやぁ、これは凄いね。黄昏の鬼(トワイライトオウガ)だっけ? 技術力がここまでなんてね』

 

『今のナルプディング選手は何故思いっきりコピーに攻撃を? 確かに映像で私たちから見てると、背後に回ったのが偶然(・ ・)コピーだったのに対し、反射的に豪快なパンチを繰り出しましたが……』

 

『ふむ。アレはナルプディングくんが異常に周囲に警戒していが故に起きた事だねぇ。アレは多分だけど『気』を当てられたんじゃないかねぇ~』

 

『『気』ですか……? それは俗に言う達人などが気付く怒気や霊気といった類いでしょうか?』

 

『う~む。きっとそうじゃろう。それを日頃のギルドの仕事で、まぁ内容で異なると思うが、ナルプディングくんはきっと日常的にか、それとも経験でか、それを敏感に察知して攻撃してしまった、というワスの所見での見解じゃがのう』

 

『ですが、それでは先程からのグレイ選手に対するあの手は……』

 

『まぁ、あの反射反応からして、得た自分が得意としたこの『隠密(ヒドゥン)』の決め手じゃろうのう』

 

 この説明に、他のギルドメンバーはナルプディングの異常な反射速度と少しながらの実力、そしてそれを見越しての『気』を放つことの手法を取った『黄昏の鬼(トワイライトオウガ)』のフウキに注目が集まる。のだが、

 

「メェ~ン☆ だが、肝心の相手側、フウキくんが見当たらない」

 

 濃い顔で前髪を払いながら、天馬の一夜が呟くと、エルザやナツたちも街中を張り巡る映像を見ているが確かに見当たらない。

 

「どこに、居やがるんですかねぇ。ちょっとお礼をしに参りたいんですが……」

 

 復活したナルプディングは、ヤジマの解説の通り、背後から『殺気』を感じて思わず反応してしまったのだ。

 あれは闇に生きた者にしか伝わらない、黒々とした禍々しい殺気。どろりと流れるように腐敗を表す臭い匂いを放つ殺意。あの手の者はこのゲームは不味い。不味すぎる。

 ナルプディングは口では憎く開いているが、もう相手は妖精の尻尾(フェアリーテイル)しかない。

 あのフウキと呼ばれた男はもう相手をしない。してはいけない。

 

「あの人は…………不味い」

 

 だが、それを思ったのはナルプディングだけでは無かった。

 参加選手の一人でもあるギルド『青い天馬(ブルーペガサス)』のイヴも映像を見て一瞬にして警戒を最高値に上げていた。

 元は評議会『強行検束(けんそく)部隊〝ルーンナイト〟』に所属していたエリート。それだけに、戦闘も()む無く行使していた。

 だがそれは、経験を踏んできているということもある。

 

(さっきナルプディングさんが口走った『風邪影鬼(カゼオニ)』……だとすれば、彼は噂の仕事人………………そりゃあ……隠密行動(・ ・ ・ ・)が大の得意のハズだ)

 

 『風邪影鬼』、それは最近東方の国から伝わった【影の仕事人】の呼び名だった。

 その者は風が通る(みち)なれば何処へでも浸入し、常に影となり後ろでゆるりと眺め、隙あらば鬼の爪牙で突き殺す。

 だが、そんなもの噂が尾ひれが付いて回った物。真実が一体どんなものなのか分からないが、それは間違いなく【隠密】に優れているということ。それは間違いなかった。

 

(現に、この試合で〝遊び〟を少しも感じていなかったあの手法。そして、他の人と違う絶対的は冷静さが物語ってる……! 折角ポイントを得たのに何のアピールもせず淡々と次の標的を探しているに違いない!)

 

 イヴはスーツの裾を腕捲りし、完全に本気になる。ていうかならないとマジヤバい。

 

(お、お~い! これはそこまで殺気立てしてやるもんじゃないですよ~!)

 

 もう焦りしか出てこないイヴはビクビクして、この『隠密(ヒドゥン)』の特性を生かした魔法を展開する。早めに行動に移そうと考えたのだ。

 

「……魔法の展開はこのフィールド全体にだ」

 

 青い天馬も負けてはいられない。

 

 

◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

『おーーっと!! これは一体!!? 街の中に雪が降ってきたー!!』

 

 フィールドの街には真っ白な雪がしんしんと降り始めた。

 これにより、一時とはいえ冬並の寒さが街を包み込んだのだ。

 

「寒さに強い魔導士が何人かいるのは誤算だったよ。でも……人は寒ければ震えるし吐息も白くなる」

 

 このイヴの《雪魔法》の威力は果てしなく、数時間あれば銀世界はあっという間だろう。

 

「見えたよ」

 

 これにより、白い息を吐いていたマーメイドのベスにナルプディングがイヴの餌食となる。

 

(残りは寒さに強いグレイくんにリオンくん、だがもう一人居るハズなんだけど……!)

 

 イヴは屋根上から周囲を確かめるが、コピーのフウキは沢山居るのに、本物が依然と現れないのだ。

 

「もぉー! 出てきて下さいよー!」

 

 じゃないと、さっきから後を着いてきているリオンに氷の造形魔法で構築していく氷鳥に攻撃されてしまう。一気呵成にポイントを稼ぎたかったのだが、本当に風か影のように姿が掴めないフウキに不気味に思えてしまう。

 だが、そんなイヴの元にちゃんと姿を現し た忍が居た。

 

 彼の足下に、

 

「…………ッ!?……」

 

 急激な攻撃魔法の気配が足下から感じ取り、急いで屋根から降りようとすると、影で見えなかったお店の看板によって、バランスを崩して着地した。

 だが今度は着地した場所には数々の罠とコピーたちで仕掛けられていた。

 

「布ぉぉ~!?」

 

 突如、店に掛けられてあった屋根代わりの厚布がイヴに被さるように広がって、足下に力を入れていた為に魔法を展開するのを間に合わず、イヴの頭から丸々と被さってしまう。

 映像から見えないが、厚布に被さった瞬間、ほぼ同時に得点の音が鳴った。

 相変わらず姿を見せないが、残された布の映像には【黄昏の鬼(TWILIGHT OGRE):フウキ +2P(ポイント)】と表示された。先程のナルプディングと、今のイヴを合わせて2得点(ポイント)

 

「……一体何者だ、フウキという男は?」

 

「あぁ、あれ? あれ忍者がやったのか?!」

「嘘だろ? あの一瞬でか!?」

 

「一体どんな魔法なの、フウキっていう人の」

 

 妖精の尻尾(フェアリーテイル)Aチームの面々はそれぞれの言葉をするが、エルザは少し感じた。あれは魔法を少ししか使用しておらず、本の僅かな隙で狙ったの身体能力の技量だと。

 これには会場も思わず息を飲む。

 フウキという男は、最初の時(・ ・ ・ ・)しか姿を見せていないのに気付いたのだ。

  彼は行動で語った。

 これが【隠密】なのだと。

 

 布もイヴが転移してからは、ストンと平面な地面に落ち、フウキもいつの間にか居なくなっている。

 そんは静かなる凄さを会場に見せつけたフウキだったのだが、もう各地では堂々たる戦闘を繰り広げていた。

 

「アイスメイク『大鷲(イーグル)』ゥ!」

 

「『氷鎚(アイスハンマー)』ァ!」

 

 氷の造形魔導士同士のぶつかり合い。

 隠密(ヒドゥン)もあったもんじゃない。

 リオンは数多の美しい氷の大鷲をグレイ目掛けて飛翔させ、グレイとパワーアップした氷槌にて撃退している。

 だがこの二人、器用にコピーに当たらないようにして戦っていた。

 

「鴉だけやられるのは癪だろうグレイ! 俺が相手取ってやる! そしてジュビアはなんて美しいんだ!!」

 

「気ぃ使ってるのか私欲なのか分かんねぇがリオン!! 妖精の尻尾(ウチ)のモンに手ェ出したらタダじゃおかねぇぞ!」

 

 何処からか『キャー!! そんな(ウチ)(モン)だなんてキャー♡』と水が噴水するかのように天高く水流かわそびえ立っているが、この氷の造形魔導士たちは屋根上まで上がり、本格的邪魔が入らない場所で戦闘を始めようとしていた。

 隠密(ヒドゥン)に基づいていないが、ルールでは違反ではないし、観客も盛り上がれば主催者側は大歓迎だ。

 

「くらえ!」

 

「くらうか!」

 

 雪が降り続ける中、フィールドで氷魔法による合戦を続ける二人に、他の選手もシメシメとポイントを稼いでいた。

 

「イヒヒヒ!」

 

「なっ!」

 

 だが、意地でも妖精の尻尾(フェアリーテイル)狙いである大鴉の尻尾(レイヴンテイル)のナルプディングが建物ごと破壊して二人の決闘を邪魔をし、更にグレイの追撃も欠かさない。

 リオンも邪魔が入り、グレイと共にナルプディングを撃破しようとするが、制限時間があることをリオンも気付いた。

 

(悪いなグレイ。個人での競技ならば色々とやれることがあっただろうが……これはチーム戦で勝ち抜くものなのだ……)

 

 リオンは顔を一旦(しか)めると、氷の模型(デコイ)を造ってからその場を離脱した。まだ足りないポイントを得に向かったのだろう。

 グレイも別になんとも思わない。これが、この勝負がチームのこれからの戦況に繋がる大事な初戦なのも理解している。

 だからリオンの判断も間違っていない。そこはまだいい。だが、この大鴉の奴らだけは本当に腸が煮え返るほど苛立ちが収まらなかった。

 

「当たりやがれェ! 『氷鎚(アイスハンマー)』ァァァァ!!」

 

 巨大な氷の鎚球が迫るが、ナルプディングはこれを余裕で避け、不気味な笑顔を浮かべて追撃をするも、グレイも負けじと避けては攻撃、避けては攻撃の繰り返しだった。

 その戦闘を、高いところから見下ろして見ていた者がいた。

 

(これがスティングが言っていた妖精の尻尾(フェアリーテイル)? 余り大したことはない記憶だが……)

 

 紅い仮面の貴公子。フィオーレ王国一のギルド『剣咬の虎(セイバートゥース)』のルーファスだった。

 彼の魔法にかかればこのような競技(イベント)は一発で終わってしまう。故に余裕、故に観察。ルーファスは高い場所から参加選手たち一人ひとり眺めていた。

 

妖精の尻尾(フェアリーテイル)のグレイは氷の造形魔導士……これは蛇姫の鱗(ラミアスケイル)のリオンも同じ、そしてもう一人の妖精の尻尾(フェアリーテイル)の選手であるジュビアは水使い。人魚の踵(マーメイドヒール)のベスは植物系統の魔法。ここまでは周知の事実となっている。だが、…………)

 

 ルーファスは本当に足下の、搭の影にへと目を向けた。

 

「君の記憶だけは新しい……そして、興味深い。これが今まで無名だったギルドの実力とは思えなくもないよ」

 

思えなく(・ ・ ・ ・)もない(・ ・ ・)、でござるか。流石は天下無双のギルドのメンバーでござるなぁ……そう簡単(・ ・)にはいかぬでござる』

 

 眼下のもとで、影が不気味に蠢き出す。だが依然と姿を現さず、ルーファスの足下の影から伝わる念話魔法にて脳髄に響く声がとても不気味だ。

 

(……ふふ! まさかここまで接近して気付かないなんて! 中々な隠密記憶(メモリー)!)

 

 歓喜する。

 このフウキの男から新たな記憶(まほう)を収穫できたことに。ルーファスは自然と口角が吊り上がった。

 

「まぁ……だが、この競技はジミ過ぎる。新たに記憶されるものが増えるのは嬉しいが、早く終わらせよう」

 

 ルーファスは魔力を一気に膨張させた。

 そんなことをすれば参加選手に気付かれてしまうのだが、当然知っての行動。

 ルーファスが搭の頂点に立ち、堂々としたその姿は王者のギルドを体現させたものだった。

 その構えに、勿論ほかの選手たちは挑発に受けとるが、ルーファスは会場に透き通った声で発した。

 

「私は憶えているのだ。一人一人の鼓動・足音・魔力の質」

 

 ルーファスの大胆不敵な行動に、反応してみせたのは今回初の参加となる妖精の尻尾(フェアリーテイル)Aチームのメンバーたち。

 

「あいつ……あんな目立つ所に!? なんでっ!?」

 

「グレイ!! 上だ!」

 

「これじゃ見つけて下さいって言ってるようなモンだぞ!?」

 

 そんな言葉も意に介さないルーファスは、魔法陣を空中展開させ、イメージも固まる。

 

「憶えている。憶えているのだ…………〝記憶造形(メモリーメイク)〟……」

 

 メモリーメイク。造形魔法。これに反応したのは悪い予感がしたエルザに、同じ造形魔法を扱うグレイにリオンだった。

 ルーファスの造形魔法が展開していくと、小規模とはいえ街全体の天候を『夜』に変え、更に模型(コピー)ではない本物のグレイたちに狙いを定めると、ルーファスが溜めた魔力を一気に、美しく放つ。

 

「『星降ル夜ニ』!!!」

 

 ルーファスから放たれた閃光は、闇夜を駆ける流星のように輝きながら、無情に標的にへと飛翔していく。逃れられない光速の星に、狙いを定められたルーファス以外の選手に落下した。

 ベス、グレイ、リオン、ジュビア、イヴに見事に直撃し、一気にポイントが加算されていくが、ナルプディングはヒラリと躱し、堂々目立つルーファスにその豪腕が襲う。

 

「ヒヒヒ! あんたは目立ちすぎでサァ!!」

 

 豪風が荒むが、その豪腕がルーファスに届くことは無く、残像の記憶造形(メモリーメイク)でルーファスは余裕にナルプディングの攻撃を避け、追撃でナルプディングも見事に倒す。

 

「君もだ。隠れるのは疲れるだろう?」

 

 そう言ったルーファスは最後の敵も逃さない。

 最後まで見つからないと思っていた筈の黄昏の鬼(トワイライトオウガ)のフウキに放った光輝くその攻撃は依然と空に彷徨っていたが、意識を集中させたルーファスは、建物の影にではなく。グレイやリオン、他の参加選手たちと同じ模型(コピー)である自身にへとその攻撃を届かせた。

 

「ぬぅ!?」

 

 すると、模型(コピー)である筈の模型ルーファスから声が聞こえたのだった。

 

「まさか見破られたもうとはッ!? アッお見事!」

 

 消える中、紅い仮面の貴公子に化けていたフウキは偽ルーファスのままニヤけて何処かにへと転移した。

 このフウキの妙技に、そして見事それを見破り全滅させたルーファスに会場は歓声によって轟き満ちていたのであった。

 

 そして、最後まで妖精の尻尾(フェアリーテイル)大鴉の尻尾(レイヴンテイル)に邪魔され続けられた後、無念にも試合(ゲーム)終了となった。

 

 

◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 試合が終了した。

 結果を残したかった筈である妖精の尻尾(フェアリーテイル)のグレイとジュビアは口惜しく歯軋りし、下を向いての帰還だった。

 

『やはり予想通り1位は剣咬の虎(セイバートゥース)でしたね~~!!』

 

『見事だったねぇ』

 

妖精の尻尾(フェアリーテイル)は2チームとも善戦したのですが残念な出だしです』

 

『次に期待スような』

 

 惜しみ無く実況のチャパティとヤジマは選手たちに称賛の声が掛けられるが、観客たちは違う反応をしていて。

 

「あははははははは!!!」

 

「わははははははは!!!」

 

 四方から聞こえるのは嘲りの笑い声。

 

「やっぱ弱ェじゃん妖精の尻尾(フェアリーテイル)!!」

 

「万年最下位ーーーっ!!」

 

「もうお前らの時代は終わってるよーーっ!」

 

 時代が進む。かつての栄光を放っていた妖精の尻尾(フェアリーテイル)と、七年も輝きを失っていれば、その栄光も見えなく曇るもの。

 

(……なんたるものか……王都の者はここまで不躾でござるか)

 

 黄昏の鬼(トワイライトオウガ)のチームが集まる所に戻ろうとしていたフウキだったが、余りにも参加選手に対しての扱いが不適切過ぎる観客たちに苛立ちを覚えるも、それも自由。自ら品位を落としているだけ、何もメリットも無い筈なのに、やはりただそれだけに自由。

 妖精の尻尾(フェアリーテイル)の一ファンであるフウキは悔しそうに隠れた口元で歯軋りをする。

 フウキより、なにより辛いのは参加したであろうグレイとジュビアだ。

 ここでフウキが庇っても何一つ変わりはしない。

 

「早く戻れよ、フウキ」

 

「……ヨウキ殿」

 

 何時までも帰らないフウキに、綺麗な声音にフウキは振り返る。

 奇抜な格好をしている黄昏の鬼(トワイライトオウガ)のヨウキだった。口と目以外は開いていない包帯だらけの頭部から、隙間から流れ出た黒髪が不気味であるが、白布と黒い着物姿の肢体はシルエットだけでもスラリとして、出るところが出ているので微妙に艶かしい。

 

「ヤツら勝てなかった。それだけだろゥが」

 

「……しかし」

 

「しかしもなんもねェんだよ。全部勝てなきゃ意味がねェ」

 

 ヨウキは事実をフウキに叩きつける。

 確かにこれは生死を分けた戦いではないが、勝てねば結果も得られないのは同じ。

 勝つことこそが、結果を生じる。

 フウキはヨウキの言葉を深く咀嚼して、なんとか言い返そうとしようとするも、

 

「何がおかしいんだコノヤロウ!!!! おぉ!!?」

 

 うわキレたぜ!? こえーヒャハハハ!! と絶えない罵声非難(ブーイング)妖精の尻尾(フェアリーテイル)を囲むが、やはり黙っていなかったのがナツだった。

 だがそれは妖精の尻尾(フェアリーテイル)が誰よりも叫びたかったこと。

 

「……子供(ガキ)が」

 

「カカカッ! いーじゃネェか! 元気があってよォ!」

 

 ヨウキはナツの感情むき出しの行動を吐き捨てるように視界から伏せ、真っ赤な出で立ちのカクキは大声で笑いながら妖精の尻尾(フェアリーテイル)を興味ありげに見ていた。

 そしてフウキも、ナツの仲間を馬鹿にされ、怒るその心根に好感を持てた。やはり自分が志したマグノリアのギルド『妖精の尻尾(フェアリーテイル)』はそうであると、素顔を隠したフウキは密やかに笑っていた。

 

「次はバトルパートかや。ほれ、皆も騒いでおらんて並べんす」

 

 花魁姿のゲンキは騒ぐ黄昏の鬼(トワイライトオウガ)のメンバー(騒いでたのは二人だけだったが)を母親が誘導させるかように優しい声音で促す。

 

『引き続いてバトルパートに入ります! 名前を呼ばれた方は速やかに前へ』

 

 実況のチャパティかバトルパートの説明に入る。

 

『えぇ~バトルパートのシステムの確認ていきましょう。魔水晶(ラクリマ)に映る図表を書かれてあります。各チーム一試合ずつ行ってもらいます。トーナメントではありません』

 

『組み合わせは主催者側が決めるんだったわね』

 

『面白そうな組み合わせになるといいね』

 

『そうですねぇ~……っと! さっそく私のもとへ対戦表が届いてますよ! まず一日目、第一試合! 『妖精の尻尾(フェアリーテイル)』A! ルーシィぃぃぃぃ・ハートフィリアぁぁぁ!!』

 

 緊張の強張りを感じるが、力強くルーシィは前に出た。

 そして、対戦側も発表される。

 

『VS.『大鴉の尻尾(レイヴンテイル)』フレアぁぁぁ・コロナぁぁぁ!!』

 

 大鴉から解き放たれた、紅髪の美女がルーシィの対戦相手だった。




もう好き勝手書いちゃってます。
なんだよコレとか思われるかも……(T-T)

妄想なので生暖かい眼差しでよろしくお願いします

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