焦った焦った(((・・;)
『大魔闘演武』の会場となる『ドムス・フラウ』の裏手に、
揃ってはいるが、事はそう簡単じゃなかった。
「ふん!」
「ごぶぅっ!!?」
ゴチンッ! と耳から伝わる音が聞いている者さえ痛くさせてしまうほど響いた。
理由は簡単だが、今回はやけに激しかった。
「いつまで情報集めに行ってたのこの放蕩バカ!」
「続けてメルディからもゴバァ!!?」
ズササササっ! と地に滑り流れるかのように、ザンクロウは殴り飛ばされていた。
もちろん殴ったのは
「情報集めが遅くなったのを悪く思うのは良いことだわ、うん、成長してえらいえらいよ」
「そうだね。でも、その反省の証拠として、お土産を買ってきてくれたわ。・・・・でもね、ザンクロウ」
わなわなと震える彼女たちの手にはあるものが強く握られていた。余りにも強く握っているものだからどういう物なのかさえ分からない。
だが、すぐに分かってしまった。
「教えてあげましょうザンクロウ! あなたなんで私たちの
「うぅ…………しかもサイズがピッタリだよウル~」
「うえっへっへっへ……オレっちも甘く見られたもんだぜ! もう二人の体はオレっちが緻密にゲボラァッ!?」
恥ずかしさの余り、ウルティアが神速のパンチが妙に良く入る。
「ここここのっ! ジェラールが居なくなると急にテンション上がんないでくれないかしらッ?」
「うぅ~しかも個人的に好みの柄だよウル~」
泣き泣きメルディはザンクロウから貰った下着を広げたりして見ていた。ウルティアもゆっくりとだが、下着を見てみる。
「ウルティアのはやっぱり黒だよな。なんつーの………………黒が似合うっつーか、むしろ黒しか似合わない?的な。オレっち的には何色でも構わないけど、巨乳安産型のウルティアさんには異性を惑わし蕩けさせる黒が一番だとピキーンッ! って来たんだってよ! なにせそのブラジャーなんて単純な黒色だけではなく細かにきらびやかな装飾の刺繍が縫られていて変な下着より一番にウルティアの胸に似合う。なによりその布の性質も違う。その下着は女性が不快に思う感覚を無くすことを最上の問題としてそれを無くすために開発さた最新の下着なんだってよ。フィオーレ全女性たちがもっとも使う下着として有名な下着屋から買った代物なんだってよ! ウルティアは巨乳だからオレっちも探すのに張り合いが出てきてよォ・・・・・」
「もう分かった黙ってお願いィィーー//////!!」
恥じらいながらもしっかりとザンクロウの頭部を残像を残すほどの威力が籠るパンチを繰り出す。
ザンクロウもザンクロウでよくもあそこまで言えたものだ、とメルディが傍から見ていたが、そこで一瞬にして頭に考えが上がる。
(も、もしかして、私もウルみたいに思われてた考えがっ!?)
紅潮する顔をしながら、ふとザンクロウを見てみれば、何故かグッ! と親指立てて地に伏している。
「ハァ~……バカはほっときましょう、バカは」
「二回も、ちょっとウル怒り過ぎじゃない? ザンクロウが買ってきてくれた物、何かと言いながらちゃんとしまって…………」
「ちょっ、ちょっとメルディ!」
「ひ~ん! ごめんなさ~い!」
可愛らしく舌を出して謝るメルディに、ウルティアは何度目か分からない溜め息をついて、自身で生み出した水晶を取り出した。
「とにかく大魔闘演武を監視しないといけないの、だから私たちが喜ぶ喜ばないは関係ないのよ。いい、メルディ?」
「はーい」
「じゃ、さっそく見ようって」
「「復活はやっ!?」」
毎度のことながら、ウルティアの打撃では今のザンクロウには効かないのか、相変わらずケロっとしとした顔で笑っている。そして懲りずにウルティアに抱きつこうとしているザンクロウに、今まさに大会の様子を見るべく大切な水晶を、なんの躊躇いとなく鈍器にと変化させて撃退している。
話が進まないこの上ない。
「ザンクロウ止めなって、本当にやめないとウルがマジギレするよ?」
「えっ」
一瞬にして物凄い蛇に睨まれた蛙の如く怯え始めた。
前にザンクロウがしつこくし過ぎて、本気のウルティアの魔法・氷の造形魔法を受けてからこの様子だ。肉体的に炎の滅神魔法を扱うザンクロウには微々たるものだったが、精神的に本気で嫌がれたことが絶大な衝撃を受けたことがあったのだ。あの時メルディが取り合わなかったらずっとザンクロウは落ち込んだままだったろう。
そして、メルディがそう言った途端に素早くウルティアに対しての行為(好意)を止めて、早足にメルディの背後に回り、ヒシッと覆い被さるように抱きつかれた。
(う、うぅ//// なんでザンクロウはいつもこんな大胆なことを平然と……)
ザンクロウの顔がメルディの横にまでくっついて、ブルブルと震えている。
(い、いつもの考えよ! えーと、えーと……ザンクロウは〝犬〟なのよ! 好きなメスに好意を寄せるけど、いつも失敗して落ち込む犬なの! だから今のザンクロウは好きなメスに叱られて噛みつかれた記憶を思い出してビクビクしてるのよ! だから大丈夫、大丈夫。平常心、平常心)
異性対してのドキドキな年頃の女の子に、不躾無遠慮なザンクロウに寛大な考えで対処しようとしているメルディに、ザンクロウがボソッと。
「…………(クンクン)…………ちょー良い匂いだって……(クンクン)」
(ウキャァァァァァァァァァァァァっぅぅ!!??)
そして抱きつく力が更に強くなって、耳元で囁く&匂いを嗅がれ始めたザンクロウに最早メルディは赤面どころか若干涙目になりはじめた。
「メ、メルディ? その男を剥がしてあげる?」
「いいいいいいよもう! 絶対話が進まないから早く演武見よう!」
逞しいザンクロウの腕が強く締める、だがそれはメルディの体も気遣った程度の力強さで、考慮された強さが逆にもどかしく、押されて丸まってしまった体に耳元から度々聞こえるザンクロウの吐息が聞こえてはクラクラしそうなぐらい大丈夫よ、とメルディは告げる。
ウルティアはそれを何故か生暖かい目で見つめ、ザンクロウに『それ以上私の可愛いメルディに何かしたら……殺すわ』とメルディでさえ聞こえた冷たい声でそう言ってきた。逆に今のままなら何も問題がないということになるが、メルディはそこまで思考が巡回できなかった。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
一方、大魔闘演武の
「えぇ~それでは各チーム、
そう告げたのは実況進行を務めるのがチャパティなら、今目の前に立っている
それぞれのギルドチームから参加選手が出てくる。
「行ってくるぜ」
「がんばってー!」
「絶対負けんなよ!! 特にガジルのチーム!!! それと
「うぉぉぉぉ!!
(グレイ殿でござるか・・・・彼の有名な『
丸い兜に真っ黒な手甲。だが所々に銀色が輝いており、程よくバランスを取った黒銀の印象の男。
仲間から散々弄られていたが、その仲間誰もが一番槍を託せるほどの実力を有する男。
グレイはエルザたちが蹴散らしたオウガの話は聞いていたが、この忍者の男もあのオウガのような汚い真似をするのか、少しだけ気になった
グレイは『な、なんだコイツ』と訝しげにただ見るだけに徹し、ジュビアなんかグレイをガン見してた。フウキは振った手が誰も答えてくれなくて一人落ち込む。
『いよいよ始まりますね。はたして
『んー……本命はルーファスくんだろうけど、ワスはグレイくんに注目したいね』
『復活した
『もちろん♡ ウチのイヴくんよ、強いんだから!』
ワァァァァァァァ、と盛り上がる会場に、元・評議員のヤジマからの支持もあり、多少なりとも
そこからどう上がってくるのか、それは
選手たちがカボチャ頭の司会者に集まっていく。
「これらマーメイドのベス殿! お互い全力を尽くしましょう!」
「あぁー! 郵便屋さんじゃないのー! ギルド『
「某、手伝いで色んなギルドを手助けしてるのでござるよ。少し図々しいでござるが……」
「ううん。この間はマーメイドにも沢山の配達をしてくれて皆喜んでたんだよー? あの忍者さんはどこまでも熱心に配達してくれたって!」
「おぉ! それは大変嬉しゅう思いまする!」
集まった選手には顔合わせが既にしてあった人たちも居り、挨拶など交わしていた。
「ラミアにも来てくれたな。しかも仕事で放れていた場所まで持って来てくれたのは助かったぞ」
と、さきほどまで
「おぉ! リオン殿。彼の有名な〝
「まったく。お前は忍のくせに口達者だぞ? いや、忍だからか?」
あのリオンとさえ結構な砕けた関係を築いているこのフウキに、グレイとジュビアも一気に興味が沸く。
そして、フウキが
フウキは名残惜しそうに、軽くお辞儀をして挨拶カボチャ頭の司会者の話を聞いた。
「えーそれでは説明をさせてもらいますよー? あ、わたしカボチャですので」
「いや、分かってるが……」
「毎年のことだから、グレイくん。気にしちゃったらキリがないよ。でも、」(キリッ)
「たぶん主催者側の役員だと思うのー。でも、」(キリッ)
「「キャラ作りご苦労様です」」
ペコリと真摯に労いの言葉を送る
「ノンノン、楽しんでやってるからいいんだ
「無理矢理キャラ濃くすんなよ」
そんなやり取りの間から、明らかに人間の肌色ではない男が入ってくる。
「ちょっと待ってくださいや。これならどん始まる競技……どんなモンか知りやせんがね。いいや……今後全ての競技に関してですがね。どーーーう考えても二人いる妖精さんが有利じゃありませんかねぇ」
ナルプディングのこの質問に、難癖に聞こえてしまうのも仕方ないだろう。この演武を進めていくには、やはり
だが、やはり
「し、仕方ありませんよ。決勝に同じギルドが2チーム残るなんて凄いことなんですから…………あっ、カボ」
「いいのではないのかな」
その言葉に
「私の記憶が
「ふむ。ルーファス殿の言う通り。某も別にかまいませぬ」
「アチキもいいと思うよ」
「チッ」
事が上手くいかなく、思わずナルプディングは舌打ちをするが、グレイたち
「さすがだねー。それが王者の余裕ってヤツかい」
「仲間は君にとっても弱点になりうる。人質・脅迫・情報漏洩他にもいくつかの不利的状況を構築できるのだよ。記憶しておきたまえ」
「忘れなかったらな」
ある程度の話が終わったところを見計らい。カボチャ頭の司会者が合図する。すると、とうとう待ちに待った演武が開始されたのだ。
ステージとなる会場の中央に魔法により作り出されたフィールドが光学魔法音を発しながら展開していく。
参加者の数人はこのシステムに唖然としている中、そのフィールドステージが徐々に出来上がっていった。
そこに出来上がったのは、まさかの〝街〟であった。かなりの規模を誇る〝街〟が競技場の中でいとも簡単に構築させていったこの魔法には詠嘆の溜め息がつく。
(街並みの具現だと? 一体どれほどの魔力を……)
一方で、謎の魔力を調査をしに来ていたジェラールも、この増大な魔力で構築させていく街の具現化に疑いを持って観察していた。
そして選手たちをも包み込んだその〝街〟は既に競技場に立派な街を作り出してしまった。
そこでグレイやジュビア、リオンやルーファスといった選手たちは見事にランダムでバラけて街中に配置させられていた。
「魔法とは、やはり神業のようにも見えるでござるなぁ。改めて見て……フムフム。納得させられてしまうでござる」
街中の風景も、街に並び立つ建物も立派な作りになっている。
「しかしながら、隠れん坊とは…………『鬼』を名乗る某らとして、負けられる競技でござるなぁ(ていうか、負けたりしたら後で皆にボコられるでござる!)」
辺りを見渡す
他のメンバーも同じように、ゲームの主旨を予想している。
『会場の皆さんは街の中の様子を
実況のチャパティが乱れない説明をしていく中、新たにステージに付加するシステム。続々と光の粒子が渦巻くように出現したと思えば、そこには、
「どうなってんだコリャア!!!」
グレイやジュビア、リオンやルーファスといった参加選手たちが出現したのだ、しかも一人だけではなく大量にだ。
「同じ顔がいっぱい!!」
「うぷ!」
「酔うのかそこで」
『これは皆さんのコピーです! 間違えてコピーへ攻撃してしまった場合、1
オオオオオオオオオオっっ!! と競技場が割れんばかりの歓声と共に震える。
試合が始まったのだ。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「ググ・・・グ・・・グレイ様が、いっぱい♡♡ これだけいるんだから一人くらいジュビアがもらっても~♡」
(むむ、あれは
試合が開始して、早速フウキが建物の影にへと身を潜めると、近くに居たのか、ジュビアがすっかり惚れ込んでいるグレイに平常心なんて捨てていた。
恋い焦がれ、愛に溺れるジュビアは愛しのグレイのコピーに思わず抱きついている。
それを影から眺めていたフウキは、
(おォのれイケメンがぁぁぁぁ!!
勝手に醜い嫉妬を
ブーー!!
「えっ?…………ッきゃうん!?」
『おーーっと! ジュビア選手がコピーへの攻撃で減点1です! この場合、十秒後に別のエリアからリスタートとなります。また他の魔導士にやられてしまった場合も1
ヌルリと、建物の影から顔を出したフウキは早くもこのゲームの内容を理解した。
というか、こういう展開はギルドの依頼での『戦闘』で経験したばかりだ。
(新たに付加されたと言うなれば、それは制限時間内でどれほど点を稼げるかどうかでござろう・・・厄介と言えばあのルーファス殿の魔法か)
だが、とフウキは再び暗闇の影へと潜む。息を殺し、気配も殺し、四肢に入る力も殺す。
すべてを無に戻して、そして再び〝入る〟のだ。
「………………………………………………………………………………」
そしてフウキは、不透明な掴めもしない……〝風〟となった。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「ぐわぁー!」
さっそく静かなる競技が各所で起こってる中、グレイは
一体どうやって本物を見分けつけているのか、グレイには分からなかったが、この
ナルプディングは自分のコピーを利用して敵に近づき、不意討ちすることも可能なゲームなのに逸早く気付いた。それにまんまと攻撃を食らうグレイは舌打ちを鳴らして苛立ちを募る。
ゲームの主旨を理解した者たちはさっそく、コピーのふりをして、他の選手から目を欺き、どのような手段で攻撃するかを考えるようになっていた。
息を殺して、敵を倒す。これが『
「くっくっく! いいカモでサァ」
ナルプディングは〝本物〟のグレイの背後に既に回っていた。一体どのような魔法を使って特定しているのかわからないが、結果が物を言う。間違いなくナルプディングは
観客席からもこの『
「それでは、またいただきましょーかネェ?」
「っ!?」
気付いた時には既に遅し、ナルプディングの痛々しい刺の付いた豪腕が巨大化して、グレイを容赦なく叩き潰す。
ダメージは無いものの、このポイントを取られていく感覚はグレイのプライドをズキズキと刺激するものだった。
『この自分や敵のコピーだらけのフィールドで敵……実体を見つけ出すにはどうしたらいいのでしょう?』
『いろいろは方法はあるけどね。たとえば相手の魔力をさぐるとかね』
『ふふん♪ イヴくんならもっとすごい方法を使うと思うわ』
実況席でもこの
「これならどォうだ!! アイスメイク、
再びグレイはナルプディングと対峙する。
だが、何度もグレイも襲撃を喰らうほど学習能力がない訳じゃない。魔力の発動の際、発生する魔力に微々ながらも感じとり、それだけを頼りにグレイは氷を発生させ、その場から逃れる事に成功した。
それはナルプディングも想定内のことか、追撃はせず、また影に籠り背からの攻撃に専念しようとしていた。それはこのゲームの主旨として大いに乗っ取った計画的逃避だが、そのを見逃すほどグレイも劣っていない。
氷の台を使い、一気にナルプディングに近付くと、煉瓦の道にそっと手を当てれば、一気に己の魔法を展開させる。
床一面に氷が張られ、一切の凹凸の無い氷上にて必然的に歩けば滑る自然の摂理に、ナルプディングはジャンプしようにも踏ん張れず、その場に転倒してしまう。
「これはまたしち面倒なことでサァ!」
「
氷の魔法か、グレイは氷上を何事もないように普通に走ってやって来る。 そして魔法を追撃しようと手を重ね、展開しようとしたが、
「カハハハ! おいでませェ!」
「なっ!」
ナルプディングは凍りついた地面を刺を生やした手の握力だけ地面に突き刺し、片手で体全体を浮かした。
なんという微々たる魔法と体力だけを使った回避法だが、これにはグレイも面食らうと発動時間がかなり遅れてしまった。
そして、ナルプディングは迫ってきたグレイが攻撃範囲まで来ると、再びグレイを突き飛ばした。
「クソォォォォォっウ!!!」
「大漁~大漁~でサァ!」
グレイはそのまま別の場所にへと移転される。
この『
ナルプディングは上機嫌になり、大体の予想でどこにランダム移転したのかグレイの元にへと向かおうとすると、ヒュウゥ! と耳から風の音が聞こえた。
「あん? 風?」
そこでナルプディングは『そう言えば』と思い出す。
(『
そんは事を考えていれば、背後からただならぬ気配を感じた。しかも……これは、わざと誘っている。
「むしろ恨んでいても可笑しくないギルドだと思ったんですがねぇ……そうじゃありませんか?
ナルプディングは確認もせずに、その剛腕を持って薙ぎ払う。風圧が纏い、音まで聞こえるその攻撃に確かな魔力も込もっており、グレイ以上の破壊力のある拳撃なのは目に見えて分かった。
だが、ナルプディングも闇で元は生きていた者。
今自分が
ドカァアッ! と打撃音が耳に届くと同時に、『……やっちまったでサァ』と意気消沈していた。
それに怪訝に思った観客や
これには皆不思議がって見ていれば、ナルプディングが攻撃したのは『
だが、それなら何故ナルプディングがあそこまでフルスイングしてまで本気の攻撃をしたのか腑に落ちないでいると、解説のヤジマが面白いように説明する。
『いやぁ、これは凄いね。
『今のナルプディング選手は何故思いっきりコピーに攻撃を? 確かに映像で私たちから見てると、背後に回ったのが
『ふむ。アレはナルプディングくんが異常に周囲に警戒していが故に起きた事だねぇ。アレは多分だけど『気』を当てられたんじゃないかねぇ~』
『『気』ですか……? それは俗に言う達人などが気付く怒気や霊気といった類いでしょうか?』
『う~む。きっとそうじゃろう。それを日頃のギルドの仕事で、まぁ内容で異なると思うが、ナルプディングくんはきっと日常的にか、それとも経験でか、それを敏感に察知して攻撃してしまった、というワスの所見での見解じゃがのう』
『ですが、それでは先程からのグレイ選手に対するあの手は……』
『まぁ、あの反射反応からして、得た自分が得意としたこの『
この説明に、他のギルドメンバーはナルプディングの異常な反射速度と少しながらの実力、そしてそれを見越しての『気』を放つことの手法を取った『
「メェ~ン☆ だが、肝心の相手側、フウキくんが見当たらない」
濃い顔で前髪を払いながら、天馬の一夜が呟くと、エルザやナツたちも街中を張り巡る映像を見ているが確かに見当たらない。
「どこに、居やがるんですかねぇ。ちょっとお礼をしに参りたいんですが……」
復活したナルプディングは、ヤジマの解説の通り、背後から『殺気』を感じて思わず反応してしまったのだ。
あれは闇に生きた者にしか伝わらない、黒々とした禍々しい殺気。どろりと流れるように腐敗を表す臭い匂いを放つ殺意。あの手の者はこのゲームは不味い。不味すぎる。
ナルプディングは口では憎く開いているが、もう相手は
あのフウキと呼ばれた男はもう相手をしない。してはいけない。
「あの人は…………不味い」
だが、それを思ったのはナルプディングだけでは無かった。
参加選手の一人でもあるギルド『
元は評議会『強行
だがそれは、経験を踏んできているということもある。
(さっきナルプディングさんが口走った『
『風邪影鬼』、それは最近東方の国から伝わった【影の仕事人】の呼び名だった。
その者は風が通る
だが、そんなもの噂が尾ひれが付いて回った物。真実が一体どんなものなのか分からないが、それは間違いなく【隠密】に優れているということ。それは間違いなかった。
(現に、この試合で〝遊び〟を少しも感じていなかったあの手法。そして、他の人と違う絶対的は冷静さが物語ってる……! 折角ポイントを得たのに何のアピールもせず淡々と次の標的を探しているに違いない!)
イヴはスーツの裾を腕捲りし、完全に本気になる。ていうかならないとマジヤバい。
(お、お~い! これはそこまで殺気立てしてやるもんじゃないですよ~!)
もう焦りしか出てこないイヴはビクビクして、この『
「……魔法の展開はこのフィールド全体にだ」
青い天馬も負けてはいられない。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
『おーーっと!! これは一体!!? 街の中に雪が降ってきたー!!』
フィールドの街には真っ白な雪がしんしんと降り始めた。
これにより、一時とはいえ冬並の寒さが街を包み込んだのだ。
「寒さに強い魔導士が何人かいるのは誤算だったよ。でも……人は寒ければ震えるし吐息も白くなる」
このイヴの《雪魔法》の威力は果てしなく、数時間あれば銀世界はあっという間だろう。
「見えたよ」
これにより、白い息を吐いていたマーメイドのベスにナルプディングがイヴの餌食となる。
(残りは寒さに強いグレイくんにリオンくん、だがもう一人居るハズなんだけど……!)
イヴは屋根上から周囲を確かめるが、コピーのフウキは沢山居るのに、本物が依然と現れないのだ。
「もぉー! 出てきて下さいよー!」
じゃないと、さっきから後を着いてきているリオンに氷の造形魔法で構築していく氷鳥に攻撃されてしまう。一気呵成にポイントを稼ぎたかったのだが、本当に風か影のように姿が掴めないフウキに不気味に思えてしまう。
だが、そんなイヴの元にちゃんと姿を現し た忍が居た。
彼の足下に、
「…………ッ!?……」
急激な攻撃魔法の気配が足下から感じ取り、急いで屋根から降りようとすると、影で見えなかったお店の看板によって、バランスを崩して着地した。
だが今度は着地した場所には数々の罠とコピーたちで仕掛けられていた。
「布ぉぉ~!?」
突如、店に掛けられてあった屋根代わりの厚布がイヴに被さるように広がって、足下に力を入れていた為に魔法を展開するのを間に合わず、イヴの頭から丸々と被さってしまう。
映像から見えないが、厚布に被さった瞬間、ほぼ同時に得点の音が鳴った。
相変わらず姿を見せないが、残された布の映像には【
「……一体何者だ、フウキという男は?」
「あぁ、あれ? あれ忍者がやったのか?!」
「嘘だろ? あの一瞬でか!?」
「一体どんな魔法なの、フウキっていう人の」
これには会場も思わず息を飲む。
フウキという男は、
彼は行動で語った。
これが【隠密】なのだと。
布もイヴが転移してからは、ストンと平面な地面に落ち、フウキもいつの間にか居なくなっている。
そんは静かなる凄さを会場に見せつけたフウキだったのだが、もう各地では堂々たる戦闘を繰り広げていた。
「アイスメイク『
「『
氷の造形魔導士同士のぶつかり合い。
リオンは数多の美しい氷の大鷲をグレイ目掛けて飛翔させ、グレイとパワーアップした氷槌にて撃退している。
だがこの二人、器用にコピーに当たらないようにして戦っていた。
「鴉だけやられるのは癪だろうグレイ! 俺が相手取ってやる! そしてジュビアはなんて美しいんだ!!」
「気ぃ使ってるのか私欲なのか分かんねぇがリオン!!
何処からか『キャー!! そんな
「くらえ!」
「くらうか!」
雪が降り続ける中、フィールドで氷魔法による合戦を続ける二人に、他の選手もシメシメとポイントを稼いでいた。
「イヒヒヒ!」
「なっ!」
だが、意地でも
リオンも邪魔が入り、グレイと共にナルプディングを撃破しようとするが、制限時間があることをリオンも気付いた。
(悪いなグレイ。個人での競技ならば色々とやれることがあっただろうが……これはチーム戦で勝ち抜くものなのだ……)
リオンは顔を一旦
グレイも別になんとも思わない。これが、この勝負がチームのこれからの戦況に繋がる大事な初戦なのも理解している。
だからリオンの判断も間違っていない。そこはまだいい。だが、この大鴉の奴らだけは本当に腸が煮え返るほど苛立ちが収まらなかった。
「当たりやがれェ! 『
巨大な氷の鎚球が迫るが、ナルプディングはこれを余裕で避け、不気味な笑顔を浮かべて追撃をするも、グレイも負けじと避けては攻撃、避けては攻撃の繰り返しだった。
その戦闘を、高いところから見下ろして見ていた者がいた。
(これがスティングが言っていた
紅い仮面の貴公子。フィオーレ王国一のギルド『
彼の魔法にかかればこのような
(
ルーファスは本当に足下の、搭の影にへと目を向けた。
「君の記憶だけは新しい……そして、興味深い。これが今まで無名だったギルドの実力とは思えなくもないよ」
『
眼下のもとで、影が不気味に蠢き出す。だが依然と姿を現さず、ルーファスの足下の影から伝わる念話魔法にて脳髄に響く声がとても不気味だ。
(……ふふ! まさかここまで接近して気付かないなんて! 中々な
歓喜する。
このフウキの男から新たな
「まぁ……だが、この競技はジミ過ぎる。新たに記憶されるものが増えるのは嬉しいが、早く終わらせよう」
ルーファスは魔力を一気に膨張させた。
そんなことをすれば参加選手に気付かれてしまうのだが、当然知っての行動。
ルーファスが搭の頂点に立ち、堂々としたその姿は王者のギルドを体現させたものだった。
その構えに、勿論ほかの選手たちは挑発に受けとるが、ルーファスは会場に透き通った声で発した。
「私は憶えているのだ。一人一人の鼓動・足音・魔力の質」
ルーファスの大胆不敵な行動に、反応してみせたのは今回初の参加となる
「あいつ……あんな目立つ所に!? なんでっ!?」
「グレイ!! 上だ!」
「これじゃ見つけて下さいって言ってるようなモンだぞ!?」
そんな言葉も意に介さないルーファスは、魔法陣を空中展開させ、イメージも固まる。
「憶えている。憶えているのだ…………〝
メモリーメイク。造形魔法。これに反応したのは悪い予感がしたエルザに、同じ造形魔法を扱うグレイにリオンだった。
ルーファスの造形魔法が展開していくと、小規模とはいえ街全体の天候を『夜』に変え、更に
「『星降ル夜ニ』!!!」
ルーファスから放たれた閃光は、闇夜を駆ける流星のように輝きながら、無情に標的にへと飛翔していく。逃れられない光速の星に、狙いを定められたルーファス以外の選手に落下した。
ベス、グレイ、リオン、ジュビア、イヴに見事に直撃し、一気にポイントが加算されていくが、ナルプディングはヒラリと躱し、堂々目立つルーファスにその豪腕が襲う。
「ヒヒヒ! あんたは目立ちすぎでサァ!!」
豪風が荒むが、その豪腕がルーファスに届くことは無く、残像の
「君もだ。隠れるのは疲れるだろう?」
そう言ったルーファスは最後の敵も逃さない。
最後まで見つからないと思っていた筈の
「ぬぅ!?」
すると、
「まさか見破られたもうとはッ!? アッお見事!」
消える中、紅い仮面の貴公子に化けていたフウキは偽ルーファスのままニヤけて何処かにへと転移した。
このフウキの妙技に、そして見事それを見破り全滅させたルーファスに会場は歓声によって轟き満ちていたのであった。
そして、最後まで
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
試合が終了した。
結果を残したかった筈である
『やはり予想通り1位は
『見事だったねぇ』
『
『次に期待スような』
惜しみ無く実況のチャパティとヤジマは選手たちに称賛の声が掛けられるが、観客たちは違う反応をしていて。
「あははははははは!!!」
「わははははははは!!!」
四方から聞こえるのは嘲りの笑い声。
「やっぱ弱ェじゃん
「万年最下位ーーーっ!!」
「もうお前らの時代は終わってるよーーっ!」
時代が進む。かつての栄光を放っていた
(……なんたるものか……王都の者はここまで不躾でござるか)
フウキより、なにより辛いのは参加したであろうグレイとジュビアだ。
ここでフウキが庇っても何一つ変わりはしない。
「早く戻れよ、フウキ」
「……ヨウキ殿」
何時までも帰らないフウキに、綺麗な声音にフウキは振り返る。
奇抜な格好をしている
「ヤツら勝てなかった。それだけだろゥが」
「……しかし」
「しかしもなんもねェんだよ。全部勝てなきゃ意味がねェ」
ヨウキは事実をフウキに叩きつける。
確かにこれは生死を分けた戦いではないが、勝てねば結果も得られないのは同じ。
勝つことこそが、結果を生じる。
フウキはヨウキの言葉を深く咀嚼して、なんとか言い返そうとしようとするも、
「何がおかしいんだコノヤロウ!!!! おぉ!!?」
うわキレたぜ!? こえーヒャハハハ!! と絶えない
だがそれは
「……
「カカカッ! いーじゃネェか! 元気があってよォ!」
ヨウキはナツの感情むき出しの行動を吐き捨てるように視界から伏せ、真っ赤な出で立ちのカクキは大声で笑いながら
そしてフウキも、ナツの仲間を馬鹿にされ、怒るその心根に好感を持てた。やはり自分が志したマグノリアのギルド『
「次はバトルパートかや。ほれ、皆も騒いでおらんて並べんす」
花魁姿のゲンキは騒ぐ
『引き続いてバトルパートに入ります! 名前を呼ばれた方は速やかに前へ』
実況のチャパティかバトルパートの説明に入る。
『えぇ~バトルパートのシステムの確認ていきましょう。
『組み合わせは主催者側が決めるんだったわね』
『面白そうな組み合わせになるといいね』
『そうですねぇ~……っと! さっそく私のもとへ対戦表が届いてますよ! まず一日目、第一試合! 『
緊張の強張りを感じるが、力強くルーシィは前に出た。
そして、対戦側も発表される。
『VS.『
大鴉から解き放たれた、紅髪の美女がルーシィの対戦相手だった。
もう好き勝手書いちゃってます。
なんだよコレとか思われるかも……(T-T)
妄想なので生暖かい眼差しでよろしくお願いします