十握剣が描くフェアリーテイルを読んでいって下さい!
自分の妄想で書いているので、生暖かい目で読み、見守って下さいまし
荒ぶる轟音、折れた天上に衝(つ)かんばかりだった《天狼樹》。
震える地面、糾弾する闘魂の声。
「俺っち・・・・・は、」
頭が、脳がまるで一掴みされ引き千切られるような痛覚がある一人の男を苦しめていた。
「俺っちの・・・名前は・・・・・・・」
そう、確か名前は、
「“ザンクロウ”だ、そうだ、俺っちは」
《ザンクロウ》
『
『
それを自分は扱えることが“理解”していた。
“理解していた”とは言葉が可笑しいと言えるだろうが、ザンクロウの今の状態はそうなのだ。
「悪魔の心臓・・・・」
闇ギルドの一つであり、『
「ブルー・・・ノート」
《悪魔の心臓》の副司令であり、『奴の通った道には雑草すら残らんと言われるほどの大魔導士』と聞いている。
何回かザンクロウは勝負に挑んだりして、勝敗はいつも負けていたりしていた。
「ラスティ・・・・・ローズ」
ナルシストでキザな魔導士。頭は結構キレる方で、敵の戦略の裏をかいて攻撃するのが得意だった。
いつも何か言っていたがザンクロウは覚えてなかった。
「華院・・・・ヒカル・・・・・」
太った容姿に口癖が苦しそうに呻くような感じだったのがザンクロウの記憶だった。魔導士でありながら魔法に頼らず、高い戦闘能力だけで敵を倒す実力だった。体術の組手などよくヒカルと鍛練したものだった。
「アズマ・・・・・」
ドレッドヘアが特徴で、中々の“闘い好き”だったような気がする。『強者』と本気で戦うことを至高に喜ぶ者だった。
ただ他の者とは違う所があり、戦闘好きであるものの相手との礼儀を重んじ、己の罪も認め、己の負けも認める程の力量の持ち主だった。
唯一の
「・・・・・カプリコ」
同じ《悪魔の心臓》の幹部同士だったラップ型サングラスにタキシードを着たヤギの獣人。自分のことを「
ここまでの仲間の記憶がまだ脳に刻まれていることをザンクロウは少し安心の色を浮かべていた。
そして自分が持つ魔法『
「ウヒヒヒ・・・頭、超痛ぇ・・・」
ザンクロウはどうして傷だらけなのかも分かっていた。
黒魔導士ゼレフの復活の為、《
そして恐らく一番最初に《妖精の尻尾》のギルドの連中と戦ったのが自分なのだとザンクロウはボロボロになった自分の姿を見て“思い出した”。
ナツ・ドラグニル。
『
「ちっ・・・・頭痛ぇよ、どうに・・・か、して、くれねぇかな」
だがこの激しい頭痛は間違い無くその戦闘のものでは無い、そして、
「・・・・・気持ち悪くてしょうがねぇー・・・・・『俺っちが俺っちじゃ無い』感覚だァ・・・・・」
そう、自分がどのような性格なのかまるで“他人事”のように頭の中で思い浮かんだのだ。
そして先ほどからうっすらの頭の中で靄(もや)のように写っている人影がちらつかせられる。
ザッザッザッ、と行き先など分からない状態のまま進むザンクロウ。
頭を抑えて歩いていれば、
「ま、ち、な、さ、いーー!!」
「ひいぃーー!! 何コイツー!!」
雨が降る中、木々の間から聞こえた二人の女の声。
「ゼレフを渡して!」
「さっきまで愛だの何だの言ってたくせに!」
「アナタとは争いたくないの!」
片方の声、幼そうながら震えている少女の声にザンクロウはまるで衝撃を受けたかのように脳を軋ませた。
「あがぁぁああああ!!?」
ザンクロウは我慢出来なくなり身体が言うことを聞かず、頭から濡れた草や土の地面に転がり回る。
ザンクロウが転がり回った先で待っていたのは、
「ザンクロウ!!?」
ザンクロウは己の名前を呼んだ少女に目を向けた。
「メ・・・メルディ」
ピンク色の髪を持つ物静かそうな少女、メルディ。
そして思い出す。同じ《悪魔の心臓》の仲間だった少女を。
再び思い出す、マスター・ハデスから聞かされていたメルディの【裏切り】の可能性を、
そのせいかメルディは担いでいるゼレフをザンクロウから見えない位置に移動しながら視線を外していなかった。だがザンクロウにとって驚く程に今は“どうでも良かった”のだ。
「た、・・・・助けてくれ。メルディ・・・・メルディ」
この頭痛、頭を鎖で締め付けるように、頭蓋骨を金鎚で思いきり強打されるように、脳みそを一掴みされ引き千切るように伸ばされるような痛み。考えられないような激痛が脳を、頭を、頭蓋を軋ませる。
「あああああああああああああああああああああアアアアァァァァァああああああああぁぁぁぁぁ!!!!」
口から胃液が流れ落ち、目の焦点が合わない。
───嫌だ
皮膚が破けそうになりながらも頭を掻きまくる。
───死にたくない
(俺っちは・・・・・死にたくねぇ・・・んだ・・・・・)
思い出す記憶。
無い筈の記憶。
(母を、焼き殺した、母の、血肉を受け、父の、精を受け・・・・・生きている、この感覚を)
母が居た、だがザンクロウは殺した。その身に宿る『炎神』の魔力で、子宮から焼き殺してしまった母の記憶を。
(【死】が・・・・罪か・・・・・【死】で・・・・償え、ってかァ?)
焼き尽くしてきた筈の滅神魔導士(ゴッドスレイヤー)は、本当の温もりを知らないまま死ぬのか?
叫ぶ力も無くなってきた・・・・。
(・・・・なんだこの人生・・・)
未だに苦しめる激痛がザンクロウの意識を少しずつ削る。
(・・・・罰(ばち)が当たっちまった、ってかァ)
“神殺し”故にか、それとも今までしてきた所業のせいか、分からない。
(でも、まァ・・・・やっぱ死にたくねェなァ・・・・・)
でも無理だ、助かる方法なんて無い。
視界も無くなり、五感が無くなりつつある今、ザンクロウは【死】を覚悟する。
(メ・・・メルディに、嫌なモン見せちまうなァ・・・・)
激痛過ぎたせいか、もう余裕が生まれるほどに諦めてしまったザンクロウは、小さな少女のことを思う。
だが、その少女・メルディはいつの間にかザンクロウの側に近寄っていたのだ。
「ザ、ザンクロウ!? どうしたの!? 敵にやられたの!?」
未来の為に、メルディは自分が居た街を元通りにするためにゼレフを連れて行こうとしていたのに、目の前でもがき苦しむザンクロウを優先してしまったのだ。
「ヒ、ヒヒヒ・・・・・なに、してんだってよォ、メルディ。早く行けって・・・」
「駄目! ザンクロウが苦しんでるのに見捨てられない!!」
「いやよォ・・・こっちから『助けて』発言しといて悪ィけど・・・・ウヒヒ、ハァハァ・・・・・もう、ダメだ」
「何言ってんの!!」
メルディが涙を流しているのが、白眼になりながらも視認できたザンクロウは驚きをみせる。
「オイオイ・・・・もう分かんだろォが? 俺っちは・・・いや《|悪魔の心臓(グリモアハート)》は・・・・・ハァハァ、メルディの産まれ故郷の街を壊し、・・・・“殲滅したのは俺っち達だってよ”?」
何故か、メルディが側に来た途端に先程では無いが激痛が少しだけ和らいだのだ。
そして打ち明ける、メルディの全てを奪ったのは自分だと、
「ハァハァ、だからよォ、何も感じる事無ぇよ、ゼレフ連れて行っちまえ、イヒヒヒ! ぐぅっがっ!?」
再び襲う激痛。
ザンクロウの告白に、メルディはきっとショックを受けただろう。その事を踏まえてザンクロウは声を絞り出す。
「マスターから逃げられるか分からねぇが・・・・頑張れってよ・・・・」
行くように促す、もしかしたら復讐の為にザンクロウを殺すかもしれないが、それも良いかもしれないと思ってしまったザンクロウ。
普段の、いや、“普通”のザンクロウならばそのような真似は許さないだろうが、今のザンクロウはまるで魂が入れ換わったように、気性は荒く好戦的じゃない・・・気持ち悪いほどに穏やかだ。
「ガホッゴホッゴホッ!! ヒャー・・・ハァー・・・」
脳から伝わる痛さが胸に、気管に伝わり咳が激しくなる。
「ザンクロウ!!」
ザンクロウの服を掴み、少女とは思えぬ力で引き上げられる。
「ハァハァ・・・・・良いぜ・・・・ヒハッ・・・ゴホッ! 殺せよメルディ」
「いけないわ、メルディ!」
とそこで、メルディを追いかけてきた《妖精の尻尾》の一員であろう女性がメルディを止める。
「貴女の過去は知らない! でも貴女が復讐に囚われて、その人を殺してしまっては!」
水色の髪をした女性だった、身体を引き摺ってメルディを追いかけてきたのだろう。ボロボロになりながらもメルディを説得しようとしていた、メルディはザンクロウを掴み上げたまま表情を見せない。
「何で」
そして静かに呟いた。
「・・・あァ?」
ザンクロウも思わず聞き返す。
「家族・友人・知人や我が家に見慣れた街を崩壊した理由で『何で』か? ハァハァ・・・・“何で”か」
ザンクロウは息も仕辛いというのに言葉を紡ぐ。
(何でだろうなー・・・何でかなー────理由なんて・・・・・・・・・・)
マスター・ハデスの命令もあったが、やはり『大魔法世界』のことが大きかっただろう。『大魔法世界』の為ならどんな犠牲も払ってきたのが《悪魔の心臓》だった。
メルディの故郷を滅ぼしたのも“ゼレフの鍵”が眠る地の民の殲滅だったから、だがメルディからすればそれは、いや“そんな事のせいで”大好きな友達や両親を殺されたのだから復讐に身を焦がすことも仕方がないと言えない。
だからザンクロウはありのままを話そうとも思ったが、話さなかった。
そして同時に掴み上げられたことでザンクロウは丁度立てるくらいの位置になり、メルディの表情を見える高さだった。ザンクロウは見た、メルディの表情を、
「泣いて、んのか・・・・・」
そうなのだ、メルディの瞳から流れ滴った雫が頬に伝わり下に落ちる。
「何で、『逃げろ』なんて言ったの?」
「・・・なに?」
「ザンクロウは、残忍で、気性が荒くて、好戦的でちょっと冷たい所もあって・・・裏切りを許さないって言ってた・・・・・」
(・・・・・・言った・・・・覚えが無ぇ・・・)
「なのに、私に『逃げろ』なんて、絶対に言わない筈なのに・・・・ねぇ、何で?」
だから、何でだったのか。とザンクロウは勘違いしたことで意味の無かった会話と考えに無駄さを感じつつ、答える。
「簡単だろ、イヒヒヒ・・・・俺っちはボロボロで死にそうだ、それに負けた奴がアジトに戻ってもハデスに何されるか分からねぇって、だからさァ・・・・だったらメルディに渡したら良いかな、っつう俺っちらしからぬ考えだった訳よォ~? ヒハッ」
きっと混乱してるんだろう、とザンクロウは思ったのだ。
メルディが唯一自分の居場所だったのが《悪魔の心臓》だったのだし、育ててくれた母同然のウルティアだった。
先程のザンクロウの告白はつまりウルティアも含む《悪魔の心臓》に裏切られたにも等しい事だったのだ。
だったら、と。
「だったら、せめてゼレフ使ってもう一度元通りしてみろってよォ・・・・」
こちらが裏切ったのだから、そっちも裏切れよ、とザンクロウは遠回しに言ったようなものだった。
そして、ザンクロウではあり得ない行動を取る。
「泣くなよメルディ・・・・」
喋っている途中で気付いた、もう頭痛などが鎮静していき、呼吸も戻り、余裕が生まれ、相手の心境を悟れることも出来るくらいに。
「・・・・・そっちが良かったらよォ・・・・・俺っちも手伝ってやっからよォ・・ヒヒヒ、もう一人にしねぇぜ?」
本当にらしからぬ言葉だ、とザンクロウは自分でも驚きながらもメルディを両腕で抱き締めた。
「ウヒヒヒッ、ウルティアさんの方が良かったかァ?」
「・・・・・何で」
「ヒハッ! 確かに復讐する相手に抱き締められるなんてメルディ的には最悪だってなァ」
小さくだがメルディはザンクロウの大きな胸板を叩きつけるように拳をぶつけた。
だがザンクロウがただ泣いているメルディを泣き止めさせる為だけに抱き締めた訳じゃなかったのだ。
「メルディ・・・・生きろよ」
「・・・・えっ?」
ボソッとザンクロウが呟いた言葉にメルディは疑問に思い浮かばせて、そして瞬時に思い出したのだ。ザンクロウが向いている場所に居る“存在”について。
「・・・・逃げて─────」
ドォウンッッ!!!!
一瞬にして、瞬きをした瞬間に黒い空間が広がり【死】を広めた。
ザンクロウ、様変わり!!!
残忍なザンクロウが好きだったら、この作品ではあまり出ないと思います、それでも良いなら見て行って下さいo(^o^)o