真剣で川神弟に恋しなさい!S   作:ナマクラ

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約一年ぶりの更新となってしまい申し訳ありません。
ちょっと久しぶり過ぎて地の文がおかしくなっているかもしれませんが、その場合は良ければご指摘の方お願いします。


第六話 「やっほー! また会ったね」

 

 かつて、小雪と離別し再会するまでの間に行われていた十夜の修行は壮絶と評するに値する物だった。

 

 川神院で課せられた修行はその倍を熟し、さらにプラスして自己鍛錬を行っていた。

 

 ただでさえ昔ながらの根性論による厳しい川神院式鍛錬だけでも体への負担は凄まじい上で、その倍以上という明らかなオーバーワークとも言える量を熟していた十夜の肉体と精神は驚異としか言いようがない。

 だがそれは序の口である。彼の周囲の人間がやめさせようとした修行は、彼自身の身体をまさに虐めるようなものであった。

 

 ある時には、十夜が電線を掴んで感電している所を発見された。幸い発見は早かったため軽傷で済んだが、場合によっては感電死してもおかしくはなかった。

 

 またある時には、川神院にある大型の冷凍庫の中で半ば意識がない状態で発見された。発見後の処置がよかったため命に別状はなかったが、あのまま見つからなければ凍死していただろう。

 

 またまたある時には、全身ずぶ濡れで倒れている状態で発見された。事情を聞けば火を使った鍛錬をしていたのだがその火が服に燃え移って火だるまの状態になったらしい。

 

 何故あのような事をしたのかと尋ねると、修行の一環だったという答えが返ってきたので鉄心、ルーによる説教が始まったのだが、本人はというと……

 

「環境の変化くらい克服しないとダメだと思った。反省も後悔もしてない」

 

 と、まったく懲りていない状態であった。

 

 ただ説教に時間を多く取られた事もあってか、このような無茶な修行とも言えない修行をすることは少なくなった。

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 ―通学路・河原―

 

 その時、風間ファミリーの一部に衝撃が走った。

 

「あ、そうだ。京、付き合ってくれ」

「いいよ」

 

「「…………ッ!?」」

 

 いつものように登校していた一行だが、ふと思い出したように十夜が口に出した言葉を、京が何の事もなしに了承した。起きたのはただそれだけの事だ。

 自然に交わされたために聞き流し、少し遅れて会話の内容を理解してようやくそこで驚愕が訪れた。

 

「どどどっどどどどういう事だ!?」

「想い人がいる十夜さんが告白して、想い人のいる京さんがそれを了承した……!?」

「お、落ち着けまゆっち! ま、まだ慌てるような時間じゃない……!」

 

 ……とは言っても驚いているのはクリスと由紀恵の二人だけで他のメンバーは特に反応をしていない。

 

「落ち着けよ二人とも。そんなに驚くような事か?」

「驚くだろう!? というか大和たちはどうしてそんなに落ち着いているんだ!?」

「だってどうせまた鍛錬の話だろ?」

「……鍛錬?」

 

 その言葉に冷静さを取り戻した二人は揃って京と十夜に視線を向ける。視線を向けられた二人は揃って首を縦に振って肯定の意を示した。

 

「なら何故こんなややこしい言い方を?」

「大和が十夜に嫉妬するかなって」

「効果はいまひとつのようだ」

「なら効果抜群の技を探さないとね」

「それがタイプ一致技ならより効果が望めるんだけどなぁ……欲言えば4倍効果抜群のタイプ一致技を急所に当てれば……」

「それよりも一撃必殺技だろ! 当たるかどうかの大博打! 浪漫だぜ!」

「キャップの豪運でも一撃必殺技はレベル差あったら当たらないぞ」

「え? 俺、レベルが上のチャンピオンの手持ち、絶対零度で3体倒した事あるぞ」

「何……だと……!?」

「もう話題変わってるよね」

「何の話をしているんだお前たちは……」

「というか今日は義経たちの歓迎会の準備手伝ってくれるんじゃなかったのか」

「あ、そうだった。正直歓迎会はどうでもいいけど大和の頼みは何よりも優先されるからさっきの返事はなかった事に」

「じゃあ仕方ない。なら今日は一人鍛錬に明け暮れる事にするか」

「いやお前も手伝えよ」

 

 予定が入った事によって鍛錬の約束がお流れになり、話題が変わるかと思われた時、由紀恵がちょっとした好奇心から質問を口にした。

 

「ちなみに京さんとはどんな鍛錬をする予定だったんですか?」

「あっ、それは自分も気になるな。差し支えなければ教えてくれないか?」

「んー……まあいつもと同じで別に大した事はしねぇけど……」

 

 どう説明したらいいのか頭の中で考えながら、たどたどしく簡単な身振りを付けて十夜は説明を始める。

 

「まず俺は所定の位置に立つだろ」

「ふむふむ」

「で、京には姿を隠してもらうだろ」

「ほうほう」

「そこから京は矢を射って、俺はそれに対処する」

「ふむふむ…………ん?」

「俺が京のいる場所までいけたら俺の勝ち、それまでに俺に矢が中ったら京の勝ち。これを繰り返し行う」

「ええ!?」

「それは鍛錬と言えるのか!?」

「遠距離攻撃に対する対応としてはこれ以上ない訓練だろ」

「いや待て、それ訓練ってレベルじゃないだろ!?」

 

 十夜の口から語られた鍛錬内容にクリスや由紀恵だけでなく、詳しい鍛錬内容を知らなかったファミリーも引いてしまった。

 

「というかそれ、十夜に勝ち目があるのか?」

「確かに始めた当初は悉く一発目で沈んでた」

「でも最近はむしろ私が勝てなくなってきてる。弓兵として自信失くす……大和――」

「しないぞ」

「――結婚して、って先読みされた……!?」

「というかそれ段階飛ばしてないか?」

 

 驚愕の修行内容を聞いて全員が引いていた中、クリスがある事に気付いた。

 

「ちょっと待て。最近は、ってそれいつからやっているんだ?」

「小学生の時」

「おぉう、小学生からそんな修行ってハードってかクレイジーだぜ……」

 

 

 ……そんなクレイジーな十夜の鍛錬方法が語られた登校時間であった。

 

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 ―川神学園・プールサイド―

 

 

 昼休み、涼しい風が吹くポイントらしいプールサイドにて大和とキャップの二人と昼飯を食べていたのだが……

 

「なあ、風が吹かないんだが……もぐもぐ」

「そういう日もあるさ……ずずっ」

「おいキャップ、俺のコーヒー牛乳飲むなよ」

 

 風自体が吹かないので暑さ的にはそんなに変わらない。デザートをさっさと食べてここから退散するのが吉かもしれない。

 

「にしても、川神ラゾーナのロールケーキうめーな。もっと食いたいぜ」

「なら買ってくればいいんじゃね?」

「それだ十夜! ナイス名案だ! 善は急げだ行ってくる!」

「今日遠出するんだからその時にでも……って遅かったか」

「ついでに俺の分も買ってきてもらうようにメールで頼んどこう」

「意外に抜け目ないな十夜……っと、ようやく風が吹いてきた」

「風の子キャップが走って行ったからじゃね?……あー、涼しい。あ、そうだ」

 

 ある事を思い付いた俺はプールの水面に手をかざす。

 

「何してんだ?」

「いや、川神流・雪達磨で氷作ればもっと涼しくなるかと……」

「そんな事出来るならもっと前にやってほしかった」

 

 そうして技を発動しようとしたその時、新たに現れた人物に声をかけられた。

 

 

 

 

「やっほー! また会ったね」

 

 

 

 

 声の主に気配を消した状態で話しかけられたので驚いてしまって技は不発に終わってしまった。

 

 とりあえず声の主を確認しようと振り向けば、大和の背後に覗き先輩こと松永燕先輩がそこに立っていた。

そういえば『何とか小町』っていう渾名があるとかモロとか大和が言ってたような……何だったっけ? 食べ物の名前だったはずだけど確か……

 

「確か……煮干小町!」

 

「煮干小町……さすがの私もそんな渾名初めて言われたよ。確かに私、煮干も好きだけども」

「というか煮干どこから出てきた。納豆小町だろ」

 

 ……おっと、納豆だったか。そういえば姉貴との手合せの後も宣伝してたな……そういう理由だったのか。

 

「おっ、キミは知っててくれてたんだね! 嬉しいなー! でもそっちの子は知らなかったみたいだね、ちょっと残念。じゃあそんなキミたちの名前教えてくれるかな?」

「2-Fの直江大和です。よろしくお願いします」

「あ、その、えと……1-Cの川神十夜……です、はい」

 

 松永先輩に促されたので大和に続いて俺も自己紹介をする。……そういえば自己紹介してなかったなぁ。何回か会ってた気もしたけど、よく考えたら一回しか会ってなかった。

 

「大和クンに十夜クンだね。二人ともよろしくね……それにしても十夜クンの方はちょっと照れ屋さんなのかな?」

「あー……コイツ人見知りする方なんですよ。慣れてきたらちゃんと喋るようになりますから」

「へぇ、そうなんだ……イジリ甲斐が有りそうだなぁ」

 

 うわぁ、いい笑顔。この人いじめっ子だ。というかいきなり下の名前呼びとは、この人すごいフレンドリーな人だな。距離を一気に詰め過ぎじゃないか?

 

「というか『川神』って事は、十夜クンはモモちゃんの?」

「姉さんの弟です」

「やっぱり。というか、モモちゃんを姉さんと呼ぶという事は大和クンも弟……ってわけじゃないよね?」

「ああ、俺は舎弟みたいなもんですよ。弟分ってヤツ?」

 

 

 ……その後、主に大和と松永先輩が話をして俺は時々それに相槌を打つという、会話と言えるか微妙な会話をし

た。……俺、いなくてもよかったんじゃね?

 

 

「じゃあ私はそろそろ行くね。また話そうね」

「はい。是非」

「あ、はい」

「そうだ。今週は引っ越しの荷解きとかで忙しいんだけど、川神院で稽古の申し出はしてるから来週からもしかしたら一緒に稽古するかもしれないんだ。その時はよろしくね!」

「え? あ、はい……」

 

 そう言い残して松永先輩はその場を去って行った。

 

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 ―1-C―

 

 

 放課後、俺は教室の自分の席で本を読んでいた。

 

「成程……そういう仕組みなのか……」

 

 慣れない読書に苦労しながらもページを捲っていると、読書している俺を珍しく思ったのかまゆっちが話しかけてきた。

 

「何を見ているんですか?」

「トーやんが読書って珍しいってレベルじゃないよねー」

「いや、大したもんじゃないねーよ? 川神院の秘伝書読んでるだけだし」

「……それ機密じゃね? オラたちが見たら消されるくらいには機密じゃね?」

「というかそんな物持ち出していいんですか?」

「大丈夫。持ち出してる事誰にも言ってないから」

「無断拝借!?」

「アカン……!」

「で、どうしたの?」

 

 俺は秘伝書を鞄にしまいながらまゆっちに用件を聞く。

 

「どうしたのって、明日義経さんたちの歓迎パーティがあるそうなのでその準備を手伝ってほしいと大和さんに言われたじゃないですか。そろそろ行かないと」

「あー…………鍛錬とかゲームしたいから帰っていい?」

「ええ!?」

「このダメ人間ッ!」

「…………アハハー、冗談ニ決マッテンジャン?」

「ならこっち見て言えYO!」

 

 頑なにまゆっちの顔を見ないように逸らす俺と、何としても目を合わそうとしてくるまゆっち。傍から見たらどのように見えるんだろう、とあまり関係のない事に思考が割かれる。

 

「まゆっちー! 川神君ー! 何してるのー? 早く行こうよー」

「悪い悪い、まゆっちが中々動いてくれなくてさー」

「ええ!?」

「この男、責任を人に擦り付けやがった……!」

 

 しかし教室の外で待っていた大和田さんからのお声が掛かったので、仕方なくまゆっちとの特に意味のない攻防を中断してパーティの設営に向かう事にした。

 

 

 …………

 

 

 そしてパーティ会場である多目的ホールについて皆で同じ作業を……と思っていたら得手不得手によって持ち場が変わるらしい。当然と言えば当然である。

 

「では私と伊予ちゃんは料理部のお手伝いに行ってきます」

「じゃあ俺は設営の方に行ってくる」

 

 そう言って料理担当に割り振られたまゆっちと大和田さんと別れる。

 

 そして俺は力仕事枠という事でガクトと共に会場の設営に割り当てられた。

 

「そういえば何でガクトは手伝ってんの?」

「何でって……別にこういうのに理由なんていらねぇだろ」

 

 何言ってんだお前、とでも言うような視線でガクトは俺を見てくる。これを素で言っているのだから、外見も悪いというわけではないし、普通に考えればモテてもおかしくはないと思うんだが……。

 

「それにお前、俺様の力強くて頼りになる所を見せる女にアピールするチャンスじゃねぇか」

 

 ……まあそれも、こういう下心満載かつガッツキ過ぎな一言さえなければの話であるのでどうしようもない事である。

 

「俺様も弁慶や義経たちとは仲良くなりたいしな。特に弁慶!」

「ふーん」

「ふーん、ってお前関心薄すぎるだろ。あんだけの美人だぞ」

「偏見だけど弁慶先輩って何か性に緩そうじゃね? よく言えばエロそうだけど」

「それがいいんじゃねぇか! 同い年であの色気……たまらんだろ!」

「でもその二人だったら義経先輩の方がいいな。真面目系で性に大らかって事もないだろうし」

 

 もっと言えば清楚先輩が好みのどストライクなのだが、それは置いておこう。

 

「確かに義経も可愛いが、その判断基準どうなんだよお前」

「そこは最重要じゃね? てか美人でもビッチ相手はちょっとアレだろ」

「いやいや、経験豊かな美人のお姉さんに手取り足取り教えてもらうならアリだろ」

「うーん……ガクトとは趣味が合わないなぁ」

「いや俺様がというよりお前の範囲が限定的すぎんだよ」

 

 そんな女子に聞かれたら好感度が下がりかねない話だが、男二人でどんどん盛り上がっていく。

 

「――あの、何の話してるの?」

「いや、互いの意見の齟齬を……って、え、あ、清楚先輩!?」

「な、何故にここに!?」

 

 そんな時に、思わぬ人物から声をかけられて、俺とガクトは動揺を隠せずにいるのは仕方のない事だと思う。

 そんな俺達の動揺を知ってか知らずか、清楚先輩はガクトの質問というか疑問に答えてくれる。

 

「私も何か手伝える事がないかと思って。もしかして十夜君も義経ちゃんたちの歓迎会の準備を手伝いに来てくれたの?」

「え? あ、は、はい。そんな感じっすね、はい……」

 

 清楚先輩の嬉しそうな顔を見ていると、半ば強制で来ましたとは言えなかった。思わず視線をそらしてしまったが、怪しまれていないかとチラリと清楚先輩の方を見ると笑みを浮かべながら首を傾げていた。ちょっとドキッとした。

 

「それで何の話をしてたの? 義経ちゃんと弁慶ちゃんの名前が出てたみたいだけど……」

「え? ええと……」

「ほ、ほらあれですよ! どうやったらあの二人と仲良くなれるかなーって……」

 

 嘘は言っていない。ただ青少年のリビドー溢れる発言を、穢れのない清楚先輩に引かれないように少しマイルドにしただけである。なので嘘は言っていない。

 

「二人ともいい子だからきっとすぐに仲良くなれるよ」

「で、ですかねー、あははー」

 

「(な、何とか誤魔化せたな)」

「(ああ。ナイスだったぜ。だがこれは葉桜先輩と仲良くなるチャンス! 俺様のパワーで葉桜先輩をメロメロにしろと神が言っているに違いない!!)」

 

 

 

「――ガクトー、ちょっとあっちの方手伝ってくれるかー?」

 

 

 

 誤魔化せた事を小声でガクトと称えあっていると、大和からガクトに声が掛かった。

 ここから清楚先輩にアピールしようと画策していたガクトとしてはタイミング的に最悪である。なので当然ガクトは大和の要望に対して渋る。

 

「え? いや俺様は今ちょっと……」

「あ、私の事は気にしないでいいよ。行ってあげて」

「あ……そ、そうっすか? そ、それじゃすぐ戻ってきますんで!」

 

 が、清楚先輩はガクトのその態度を、自分の事を気にしていると好意的に判断したようだ。……まあ清楚先輩を気にしてという点は間違ってはいないのだが……。

 

 なのでそんな清楚先輩に諭されてはガクトとしても渋り続けるわけにもいかず、見えないように何かスゴイ顔で俺を睨みながらガクトは走って行った。いや、まあ気持ちはわかるから申し訳ない気持ちでいっぱいなのだが……

 ……というかこのままでは会話が途切れてしまう気がするので、話を振れる内に振っておこう。ちょっとでも沈黙が流れたらどのタイミングで話振ればいいのかわからない。

 

「そ、そういえば、こ、今回の歓迎会って三人の先輩の誕生会も兼ねてるって聞きましたけど……あの、せ、清楚先輩は主賓じゃないん……ですか?」

「うん。そうだね。私は義経ちゃんたちとは誕生日も違うからね」

「あ…………その、あの、何かというか……えと、も、申し訳ないというか……」

「あ、私はいいの! 3-Sの皆が歓迎会をしてくれたから」

「え……何か、Sクラスってそういう事しないイメージ、あったんですけど……何か、馴れ合いがどうこう言って……」

「そんな事ないよ。皆いい人達だよ」

「へー……うーん、俺の単なる偏見、なんですかねぇ……」

「きっとそうだよ。実際いい人ばかりだよ」

 

 そこまで話して会話が止まってしまった。沈黙が気まずい……けど何を話せばいいのかわからない。というか何かを話すタイミングがいまいちわからない。

 

 どうしようかと勝手に焦っているとこちらを見ていた清楚先輩が口を開いた。

 

「モモちゃんからね、十夜君って人見知りが激しいって聞いたんだけど……本当みたいだね」

「へ!?」

 

 姉貴め、余計な事を……と思いながらもせっかく清楚先輩の方から話をしてきてくれたわけだし、ちゃんと答える事にした。

 

「い、いやまあ……その……こ、こういう時、何話したらいいか、わかんないというか……」

 

 その返答も結構しどろもどろになってしまったのだが、俺のその様子をみて清楚先輩は何かを考えているように見えた。

 

「……よし、決めた」

「へ? き、決めたって……な、何を、です?」

 

 

 

 

「人見知りの解消、私が手伝ってあげるよ!」

 

 

 

 

「ふぁっ!?」

 

 清楚先輩からの予想外の提案に、俺の口から変な声が思わず出てしまった。

 

「……とは言っても、どうしたら人見知りが解消するのかわからないんだけどね」

「で、ですよねー……ははは」

「だからとりあえず、十夜君を見かけたら声をかけるようにするね」

「ふぇっ!?」

「私とお話して少しでも慣れてくれたらいいかなーって思ったんだけど……ダメかな?」

「い、いやいやいやいや、ダメなわけないッス!はい!」

「そっか、よかった。十夜君も私を見かけたら声かけてくれると嬉しいな」

「は、はい」

「これ以上作業の邪魔しちゃ悪いし、私は別の所手伝ってくるね」

 

 そう言い残して清楚先輩は別の場所へと向かって走って行った。

 

「……行ってしまった………」

 

 しかし、会って数日の俺なんかにここまで優しくしてくれるなんて……これは勘違いしかねないぞ。いやまあ俺は勘違いしないけども。というか本当に好きな人が誰かもよくわかってない現状で馬鹿な勘違いなんてしてる場合じゃないし。

 

「島津岳人、ただ今戻りました~!!……ってあれ、葉桜先輩は?」

「ちょうど今別の所手伝ってくるって……」

「嘘だろ、タイミング悪すぎじゃねーか!? 速攻で頼まれた仕事片付けてきたってのに!!」

「何と言うか……ドンマイ」

 

 


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