真剣で川神弟に恋しなさい!S   作:ナマクラ

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原作と変わらない部分に関してはだいぶ描写を省きますが、ちょっと手元に原作がなく確認ができないため記憶を振り絞って書いていきます。
説明得ないけどこれ原作と違ってない?みたいな場合があるかもしれませんが、ご了承ください。


第十七話  「────そこからは我から説明しよう」

 様々な波乱を齎した若獅子タッグトーナメントが終わり、ついでに夏休みも終わって新学期が始まって間もなく、川神においてある事件が頻発していた。

 

 事件の内容としては川神にいる腕自慢達に対して勝負を挑み、相手を叩きのめして去っていくのだという。

 これだけなら少し過激ではあるが川神特有の腕試しの一種ではないかと流せなくもないのだが、これを事件というのにはいくつか理由があった。

 

 実力者であっても戦いを好まない者が相手でも問答無用に戦いを挑み、負傷させていく事。

 

 場合によっては複数人で一人を打ちのめすケースも存在した事。

 

 そして川神学園の姉妹校でもある天神館においても同様の事が起きていた事。

 

 これらが中華風の服を着た美女数人によって半ば狩りのように行われている事などから『武芸者狩り』などと呼ばれるようになっていった。

 

「そんな話は聞いてたけど、本当に現れるとは……」

 

 そんな噂が流れる中で一人帰路についていた十夜の目の前には露出の多めの中華風の服装をした水色の髪の女が立ちふさがっていた。

 

「懸賞金2500Rの大物……けどまあ大丈夫でしょ」

「あ、あのー……な、何か用っすか……?」

「ああ、ちょっとある技を試し撃ちさせてもらおうと思って。これ以上ない相手なわけだし」

「た、試し撃ち……?」

 

 話が通じない可能性はあるが、もしかしたら人違いという場合もあるので念のため十夜は相手に声をかける事にしたのだが、返ってきたのは要点が読み取れない言葉であった。

 

 困惑する十夜を見てか、不敵な笑み──十夜にはそれが新しいおもちゃを手に入れた子供のように見えた──を浮かべた女は構えを取ったかと思えばぽつりと、一言呟いた。

 

 

 

 

 

 

「────憑依の参・毘沙門天」

 

 

 

 

 

 

 次の瞬間、女から人間の反射速度を超えた青白い神々しい気を纏った一撃が放たれ、攻撃を食らった十夜の身体が多馬川へと吹き飛ばされ、大きな水柱を上げた。

 

 女から放たれた技は『憑依の参・毘沙門天』。川神流奥義『神々の顕現』を改変した『神々の憑依』の一つであり、技を食らった十夜が編み出した技であった。

 

 この技は現状十夜にしか使えない。もちろん十夜が女に教えたわけでもない。

 では何故彼女はあの技を使えるのか────その答えは彼女の正体にある。

 

 女の名は楊志。傭兵集団・梁山泊の一人であり、身に宿した異能は『模倣』。彼女はその目で見た技を自らの物にすることができる異能を持ち合わせている。

 

 そう、楊志はその目で『憑依の参・毘沙門天』を見て覚えたのだ。若獅子タッグトーナメントの観客席で。

 

 あの場で様々な若き猛者たちの技をラーニングした楊志だが、その中でもエキシビジョンマッチで百代が見せた『瞬間回復』に並んで一二を争うだろう収穫こそが決勝戦で十夜が見せた『神々の憑依』であった。

 百代の代名詞ともなっている『瞬間回復』に川神院の奥義の一端とも言える『神々の憑依』を自らの物にした楊志はまさしく最強の盾と矛を手に入れたと言っても過言ではないと自負していた。

 だがあまりにも強力すぎるその技を使う機会はそう訪れなかった。

 新しく手に入れたその力を早く試したくて試したくてどうしようもないほどに悶々としていた。

 

 その溢れそうになるのを何とか抑えていた渇望をようやく解放できた事による膨大な快感が楊志の脳内を駆け巡った。

 

 

 

 

 

「────げぼッ!? ごふっ!?!?」

 

 

 

 

 ────そしてその快感を塗りつぶす程の圧倒的な激痛が突如として楊志の身体を襲った。

 

 

(なんだこの痛み!? 奇襲!? 違う! カウンターを食らった!? ありえない! そんな痛みじゃない! まるで体の内側からミキサーか何かでグチャグチャに肉も骨も攪拌されたかのような、現実としてありえない感覚! どうして!? なんで!?)

 

 今まで経験したことのない激痛に膝を折り地面に倒れこんでしまったが、今の楊志はそんな事すら気付けないほどに思考が麻痺していた。

 

 楊志は知らなかったのだ。十夜が使用していた『神々の憑依』という技がどれほど体に負担がかかるのかということに。その欠陥故に禁じ手認定を受けていた事に。

 そして身を以ってこの技の欠陥を知り思い至った楊志は戦慄した。こんな技を幾度と使ってあれだけの戦闘を繰り広げていた川神十夜の規格外さに。

 

 

「────げほっ……驚いたな。なんであの技使えてるんだ……?」

 

 

 そしてこの技の本来の使い手でありその技の直撃を受けた当の本人が、ノーダメージとはいかないもののいまだピンピンして吹き飛ばされた場所から戻ってきていたのを見て思わず口から罵声が出た。

 

「ば、けもの……!!」

「酷くない? 殴りかかってきたのそっちなのに」

 

(痛みで思考が纏まらない……! 川神百代からラーニングした瞬間回復を使おうにもさっきの技で気を使いすぎて足りない……!)

 

 少しだけ思考する余裕が出てきて『瞬間回復』の存在を思い出し使用しようとするが、そのための気が足りない。ただでさえ馬鹿みたいな気を消費する『瞬間回復』を、同じく多量の気を消費する『神々の憑依』を使用した直後の楊志に使用する力は残っていなかった。

 

「これ多分例の武芸者狩りって奴だよな……捕まえた方がいいのか?」

 

 痛みに堪えるだけで手いっぱいの楊志にこの状況を打開する手は残っていない。まさに万事休すであった。

 

 

「────仲間は私が護る!」

 

 

 その時、どこからともかく突撃してきた黒髪の美女────林冲がその手に持つ槍を振るって十夜を牽制し、楊志を庇う形で二人の間に現れた。

 

「おいおい青面獣の名の通り、顔が真っ青だぜ? 大丈夫かよ」

「……ダメ……無理……ごほっ!」

「……これ、真剣(マジ)でダメなやつじゃねぇか……仕方ねぇ」

 

 同じくいつのまにか楊志の傍に現れたツインテールの美女────史進が軽口を叩いてくるがそれに反応する余裕もない楊志の姿を見て、状況の悪さを把握した彼女はボロボロの楊志の身体を担ぎ上げた。

 

「リン! わっちはコイツ担いで引くからそいつの相手頼んだ!!」

「ああ! ここからは私が相手だ! これ以上楊志に手を出させない!!」

「おかしくない? 襲ってきたのそっちなのに」

 

 史進に担がれながら十夜との戦闘を開始した林冲の後ろ姿が小さくなっていくのを目にしながら、楊志の意識は闇の中へと落ちていった。

 

 

 

 ◆◆◆◆◆◆

 

 

 

「────というわけで逃げられました」

「なんでそこで逃がしてるんだ」

「おかしくない? 襲撃受けて生還したっていうのに」

 

 そんな激闘を繰り広げた十夜は、その後川神院へ戻ると百代に叱責を受ける事となった。

 

「いや真面目に強かったんだよ最後に残った『リン』とかいう人。そのくせ足止めするつもりの動きしかしてこなかったし……というかこの有様は一体……?」

 

 通り魔に襲われて悪役ポジを押し付けられた挙句、長々と遅延戦闘による時間稼ぎを受けて、返ってきたらなんと川神院はボロボロになっており、鉄心は意識不明、ルー師範代は行方不明というひどい有様であった。

 

「私たちも梁山泊のアジトを襲撃しに行って戻ってきたばかりでよくわかっていないが、梁山泊が攻めてきたらしい」

「襲撃した相手に襲撃されてた? 何言ってんだ?」

「攻めに行ったアジトがもぬけの殻だったんだよ」

「あー、こっちの襲撃が読まれてたってことか……あれ、梁山泊が川神院襲ったとしたら俺誰と戦ってたん?」

「梁山泊じゃないの……?」

「梁山泊ってそんなにいっぱい川神に来てるのか?」

「たしか108人いるのよね? それだけいるなら手分けすれば……?」

「いや、それはちょっと考えにくいかな? 世界を股にかける傭兵集団ならいくつも並行して仕事を進めるだろうから全戦力を一つの仕事に集中させるっていうのは考えにくいね。というかそれだけいるならもっと早く発見されてただろうし」

「なら俺が戦った連中は梁山泊じゃない……?」

「いや、『青面獣』『楊志』にリンとなると林冲あたりか? これで中華風の服装となると間違いなく梁山泊だろ」

「なら……どういうことだってばよ?」

 

 

「────そこからは我から説明しよう」

 

 

「紋ちゃん?」

 

 そこでやってきたのは護衛にメイド二人を引き連れた九鬼紋白であった。

 

 

 

「今回の騒動、従者部隊のマープルによる造反が発端なのだ」

 

 

 

 紋白の説明によれば九鬼財閥の従者部隊序列二位のマープルが九鬼財閥においてクーデターを起こしたのだそうだ。

 彼女が率いる一派は財閥の長である日本にいる九鬼家をすでにほぼ手中に収めており、無事脱出できたのは末妹の紋白だけ。海外にいる当主の帝に関しても連絡を取ろうにも繋がらない音信不通の状態である。

 反マープル派とも言える九鬼財閥内での反攻勢力は残っているものの、従者部隊序列零位ヒューム・ヘルシングや序列三位クラウディオ・ネエロなどの実力者の多くがマープル派にいるために状況としては悪いのだとか。

 

「ヒュームさんも向こう側とかやばすぎる……」

「我らは助力を求めに川神院へと来たのだが、それすらも読まれていたのか……あるいはこの川神の地を巻き込んでもうひと騒動起こすつもりやもしれん。梁山泊を用いての『武芸者狩り』もその下準備と考えるのが妥当だろう」

 

 川神院陥落後、桐山鯉を始めとするマープル派の従者部隊は何故か川神に住まう一般人たちを拉致していったらしい。拉致と言っても危害を加えることはなく丁重に攫っていったそうだが……それでも拉致は拉致である。

 

「たぶんだけど、学長を倒したのは梁山泊とは別だと思う。川神院を襲撃する直前なのにわざわざ実力者である十夜クンを襲撃するのはあまりにリスクが高すぎるもん」

「それだけ腕に自信があったか、十夜が過小評価されてたとか?」

「裏の世界で有名な傭兵集団がその辺りを見誤るとは思えないね。そもそもあの川神院を襲撃するって時に相手が誰であれ余力を割くのは愚の骨頂だよ」

「『KAWAKAMIがいたから敗戦後も日本という国が残った』なんてジョークがあるくらいだ。もし梁山泊がその程度の楽観的な集団ならば我らとしては朗報と言えるだろうが……まあないだろうな」

「となると川神院を襲撃してジジイを倒したのはヒュームさんか……?」

「いや、ヒュームならばここまで派手にはせんだろう。それに我ならばヒュームは絶対に成功させなければならない姉上の捕縛に用いる。マープルもそう考えるだろう。おそらく襲撃犯は────」

 

 

 

「────ふん、大体は揃っているようだな赤子ども」

「────っ!? ヒューム!!」

 

 紋白が川神院襲撃犯が誰かを口に使用としたその時、その場に今まさに話題に上がっていたヒュームとクラウディオの二人が現れた。

 

「……叩くなら徹底的にってわけですか、ヒュームさん」

「そう慌てるな。今の俺達は単なるメッセンジャーにすぎん」

「とはいえ、まず詳しくはこちらの映像をご覧ください」

 

 そういってクラウディオが抱えるテレビ画面に映し出されたのは、一人の老婆────マープルの姿だった。

 

『────ハロー、この映像を見ている世界中の人々。あたしゃ九鬼従者部隊のマープルってもんだ』

 

「この映像は現在リアルタイムで全世界に流されている」

 

 放送のマープルの言葉を簡単に纏めると、今の若者に希望を抱けないから英雄のクローンに人類を導いてもらう世界を造り出すために九鬼財閥でクーデターを起こし、世界に対しても行動を起こすという、世界規模での宣戦布告のようなものだった。

 そしてそのための武士道プランであった事も明かし、源氏三人組とそれらを率いるクローンの王たる存在を紹介した。

 

 

「────そう、俺こそが『西楚の覇王』項羽であるッ!!」

 

 

 覇王項羽を名乗るのは、誰でもない葉桜清楚その人であった。

 

「まさか……!?」

「清楚先輩が……!?」

 

 その力たるや凄まじいの一言であり、たった一人で川神院を陥落させ、さらにデモンストレーションで川神にある廃工場群をたった一人であっという間に素手で解体してしまう程であった。

 

 そして先程まで廃工場地帯であった更地の地下から巨大な城────川神城が現れた。

 

 

『あたしとしてはこのまま何も言わずに推し進めてもよかったんだがね、それじゃフェアじゃない。あんたたち今の若者が未来を担えるんだって言うのなら、最後にチャンスをやろうじゃないか』

 

 マープルは週明けから目的のために本格的に動き出すと宣言した上でそれまでに止められるのならば止めてみろと紋白に勝負を提案してきた。

 

 その勝負の内容を簡単に言えば、川神全域を舞台とした模擬戦争であり、あちらの大将である項羽と川神城を落とせばこちらの勝ち。逆にこちらの大将である紋白と川神院が落とされれば負けというわけだ。

 

 とはいえこちらは襲撃を仕掛けられた結果戦力を減らされ、本拠地である川神院も一度は落とされている上に、相手は城まで用意する準備万端の状態の上で、マープルについた従者部隊や武士道プランの三人に加え、天神館の一部の十勇士や梁山泊を始めとした外部の実力者たちをも退ける必要がある。圧倒的不利な状況での勝負になる。

 

『どうします紋様? この勝負受けますか?』

「……よかろう! その勝負、乗った!」

 

 川神城には一般の川神市民が隔離されており、映像に一部の市民の姿が映し出された。その中には冬馬や準、小雪を始めとした、今川神院にいる者と交流のある者も多く収容されていた。

 彼らはある種の人質ではあるものの今回の騒動に巻き込まれないための保護の意味合いも含まれているとのことで、身の安全はもちろん衣食住に関しても万全の態勢を整えているので安心するようにとのことだった。

 

「ちなみにですが、世間一般としては、この一連の騒動は九鬼財閥による映画撮影のプロモーションの一環として放送されております。紋様が勝利した場合、今回の騒動の責を九鬼財閥が負う事はありません」

「逆を言えば、世間として今回の騒動はプロモーションの一環であるがゆえに外部から助力が来ることはないと考えておけ」

 

『なら勝負は明日から仕掛けさせてもらうよ。さて、伝えるべきことは伝えたかね。それじゃあ……』

『待てマープル』

『うん? なんだい項羽?』

 

 紋白とのやり取りを終えて映像を終えようとしたマープルを制止したのはデモンストレーションで圧倒的パワーを見せつけた覇王項羽であった。

 

『この俺から一つ、最後に言うことがある……川神十夜!』

「え、俺?」

『…………えー……その……なんだ……』

 

 先程まで威勢のよかった覇王の語気が急に治まり、歯切れが悪くなっていく。ついでに顔も少し赤らんでいっていた。

 どうしたのかと彼女を見ている全ての人々が疑問を抱いていたが、意を決したように、彼女は改めて口を開いた。

 

 

 

 

『お前を、今世での俺の虞とする! この些事を終え、俺の治世が盤石となれば迎えに行くから待っているがいい! 以上だ!!』

 

 

 

 

 その覇王項羽の爆弾発言を最後に映像は終わった。

 

 

「ま、まさかの発言」

「これ、あれだよな」

「松永先輩への対抗心だよな」

「おいおいおい」

「死ぬわあいつ」

 

 ただでさえ燕の告白で頭を悩ませていたのにここに来て清楚もとい項羽からの告白だ。案の定、十夜は頭を抱えていた。

 あと燕も「そうきたか」と苦虫を潰したような表情を浮かべていた。

 

「なぁ…………一つ聞いていいか」

「な、なんだ?」

 

 頭を抱えていた十夜が深刻な表情で口を開いた。

 

 

 

「『ぐ』って、何?」

 

 

 

『……………………』

 

 

 その瞬間、この場にいる全ての者が項羽に対して憐憫の念を抱いたのだった。

 

 




作中が確か2009年だったはずなので、これが10年後なら十夜も虞美人に思い至った可能性が微レ存……(ふご民感)

原作との明確な相違点
楊志:若獅子タッグマッチにて色んな技をラーニングしてお手軽パワーアップを果たし原作よりも強化されていたものの、欠陥技の『神々の憑依』を使ったため、技の反動で重症を負う。当然のように瞬間回復をラーニングしているものの、瞬間回復をするための気が足りず、反動による負傷が深すぎるため瞬間回復のための気が溜まらないという不具合。決戦までに治癒が間に合わないため実質リタイア。なお紋白陣営がそれを知る術はない。

マルギッテ:本来原作で瞬間回復カウンターからの梁山泊によるリンチをされたはずが、そのターゲットが十夜に変わった事で結果的に被害を逃れる事となったので、原作での戦場でのサプライズ登場がなくなりクリスの補佐として最初から同行することになる模様。


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