とある教師の業務日誌 作:ダレンカー
久しぶりすぎて書き方を忘れ気味なので番外編でリハビリを。
本編を待ってくれていた方には申し訳ありませんが。
大まかな構想はあるのでちゃんと更新しますので。
更新停滞中の感想、推薦、評価。とてもうれしかったです。
遅ればせながらありがとうございます。
◇◇◇◇
IS学園の一年生が臨海学習に出かけているさなか、更識楯無は暇を持て余していた。
生徒会長としての些事はいつも通りに丸投げして、さてどうしようかと思い至ったところで当てがないことに気付いたのである。
普段であるならばその時間を妹である更識簪の観察に当てたり、教師の川村恭一との雑談に費やす楯無であったが今は些か事情が違った。
簪は本来参加しているはずの臨海学習の時間を返上して専用機の組み上げに専念しているし、もう一方はそれに参加している。
ぶっちゃけていえば、今の楯無の相手をしてくれる人物がいないのだ。
ふと、いつもの日常を思い返してみる。
ポンと時間が空いてふら付いているときなどは不思議と出くわし時間を潰せるのだ。
いつもは居場所など分からないくせに会いたいときにフラッと現れる。
川村恭一とは、そういう男だった。
しかし、それが今はない。
どうしようかと考えているとチラッと思い当った。
なんだか彼を当てにしているようで気になる、と。
いや、正確に言えば癪に障った。簡単に言えばイラついた。
完璧で十全で学園最強の生徒会長である自分が気に入っているとはいえ教師一人に気を取られているなどという事実に。
振り回すべき相手に振り回されそうになっているという現実に。
そこまで考えて楯無は一息ついた。
うん。落ち着こう楯無。私はそんな安い女じゃないでしょと自分に言い聞かせて。
ふう、ともう一つ息を吐く。
落ち着いたと自問自答した後でいつも通りの行動をとろうと心がける。
そう。いつも通り余裕を持った…。
とここまで考えたところでまたチラついてしまった。
更識楯無が、ここ最近彼の前でとっている行動というものを。
つまり、妹の事でヘタレて泣いてうじうじ弱音を吐いて体育座りで落ち込んでそれを慰められて。
つまるところ完璧とは程遠い情けない醜態を晒してしまっているということを。
すなわち、彼が自分に抱いているであろう印象は完璧など程遠く、情けない女の子でしかないということに。
それに楯無は、遅まきながら、気付いた。
『いやぁぁぁぁぁぁ~~!!!』
◆◆◆◆
一区切りついたところで端末を操作する手を止める。
すっかり冷たくなった缶コーヒーで喉を潤し更識簪は一息ついた。
自分でも無茶無謀だと分かりきっている一人きりでのISの組み上げ。
しかし簪は、切羽詰まることもなくその気持ちはむしろ軽いものだった。
入学当初ならこうはいかなかっただろうと自分でも思う。
姉の陰に怯え、それでも縋り付くように組み上げに専念していたことだろうと。
だが、お気楽な、不思議と気の合う教師との出会いが簪の心を楽にしていた。
だからこの行為は意地や執念などではなく挑戦だ。
あの完璧を体現したような姉に対する更識簪としての純粋な挑戦。
そこあるのは、ただ楽しいという思いだけ。
劣等感は少しだけあるが今の簪を動かしているのは向上心。
本当に、数か月前とは別人のようだと自嘲する。
あの悲壮感にまみれていた自分はなんだったのかと。
今も、人付き合いが得意になったわけではない。
むしろ苦手なままだが、無意味に他人を警戒するようなことはなくなった。
他人が優しくしてくれた時に、姉の顔がチラつくことがなくなった。
人は、人に優しくできるのだと思い出すことができたから。
思い出すだけで笑顔になる。
人間不信な自分の心に寄り添うように接してくれて。
少し恥ずかしいと思っていた自分の趣味に全力で同調し。
話ベタなはずの自分とギアス談義を二時間もできる。
彼に、自分は救われた。
大袈裟かもしれないが、簪はそう思う。
ただ、普通に接してくれるというだけで救われる人間というのもいるのだ。
だから、簪は彼の事をこう思っている。
好きだとか、恋慕の対象などではなく大切な、大切な。
親友、と。
◆◆◆◆
さて、そんな気持ち的には順風満帆な簪ではあったが悩みごとが一つあった。
それは、近頃感じる妙な視線だ。
数か月前から、自分の事を遠巻きに、しかし綿密に観察しているような視線。
お家柄最低限の事は仕込まれているので、嫌になるほど感じ取れた。
一応、相談してみた彼によるとそれは目指す先であり色々拗れている姉によるものなのだというのだがそれも釈然としない簪。
そもそも、手ひどい事を吐き捨てて距離をとったのはそちらなのだし何故今更自分を観察などしているのかと。
しかも、待てど暮らせどアプローチは一度もない。まるでただのストーカーのようなそれに簪の困惑は深まるばかりだった。
目的が分からない。
いや、楯無・簪の両方と仲がいい彼から感じられるニュアンスから仲直り、そこまでいかなくとも対話したいのだとは察することができる。
しかしそれならば、面と向かって言うだけではないか。話をしようと。
昔一方的に距離をとられた簪は、そう思ってしまう。
そんなこともできないのかと。
無論簪だって、仲直りについては吝かではない。
幼いころの、姉と仲が良かったころの事は確かに覚えている。
複雑ではあるが、姉の事は決して嫌いではない。
だがだからこそ、一方的にとった距離は姉が踏み込んでしかるべきだと簪は思うのだ。
仲直りなど見当違いで別に目的があるのであればそれはそれでなんなのか。
まぁ端的に言うと、何がしたいのかサッパリ分からない姉の行動に簪のイライラはたまる一方だった。
あり得ないとは思うが、この状況が特に意味もないものだった場合、全力でグーパンチを叩きこみたいくらいに。
進展しない現状にどう手を打ったものかとまたため息を吐き、少なくなったコーヒーを一息に呷った。