ソードアート・オンライン 〜The Parallel Game〜 《更新凍結、新作投稿中》   作:和狼

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 ……良いタイトルが浮かばなかった。

 という訳で、本編第五話です。どうぞ。


Chapter.5:第一層攻略会議

 

 

 ゲーム開始一ヶ月で、約千人弱のプレイヤーが死亡した。

 

 攻略には向かわず、早急な脱出を願う者達の中で、「城から飛び降りれば、或いは出られるのでは?」と考えて、アインクラッドの最外周からその身を投げた者達。

(尚、その者達は第一層の《黒鉄宮》の中の有る《生命の碑》に於いて、死亡扱い(死因は《高所落下》)とされている)

 

 レクチャーを受けたが、恐怖の為に上手くそれを活かせず、命を落としてしまった者達。

 

 調子付いて、無茶な戦闘の末に命を落とした者達。

 

 至って普通にプレイしていても、ちょっとしたミスで命を落としてしまった者達。

 

 そんな多種多様多数の死者を出す中、最前線で攻略する者達は、遂に次の層へと続く塔状のダンジョン―《迷宮区》……そのボスの部屋の前まで攻略を進めていたのだった。

 

 

     ◆ ◆ ◆

 

 

 茅場(?)がいきなり始めた、『HPゼロ=現実の死』という恐怖のゲーム――プレイヤーの中には、これを《デスゲーム》と呼ぶ奴も居る――から一ヶ月の月日が経った。

 結局の所、外部からの問題解決が齎される事は無く、音沙汰も何も無い。一方で、ゲームの中では多数のプレイヤーが戦闘や自殺でゲームオーバーとなり、死んでしまっているらしい。

 

 そんな中、俺達最前線で攻略を続けるプレイヤーは、遂に次の層へと続く《迷宮区》と呼ばれるダンジョンの、その番人たるボスの部屋の手前辺りまで辿り着いていた。

 そして今日、迷宮区最寄の町である《トールバーナ》に於いて、その攻略の為の合同会議が行われる事になっている。

 

「うわぁ! すっげー人数だなぁ」

 

 会議が行われる広場に集まっているプレイヤーを見て、パーティーメンバーの一人が声を漏らす。

 

「ざっと見た所、八十人くらいは居るかな?」

 

「一つのレイドが六人パーティー八つの計四十八人だから、レイド一つと六人パーティーが五つか六つくらいって所か。それだけ有れば、充分行けるだろうな」

 

 別のメンバーは周りを見渡し、おおよその人数について予想する。それを聞いた俺は、ボス攻略の際の編成について考え、その数が適量だと判断する。

 

「あ! お兄ちゃん…あそこに居るのって、キリトさんとシノンさんじゃない?」

 

「ん? おお、確かに」

 

 シリカに指摘されてそちらへと目を向ければ、そこには確かにキリトとシノンの姿が有った。

 

「よう、キリト、シノン。久しぶりだな」

 

「! カミヤ! シリカ! お前らちゃんと生きてたんだな」

 

「お前らこそな」

 

「久しぶりね、シリカちゃん」

 

「はい! お久しぶりです、シノンさん!」

 

 二人の許へと歩み寄り声を掛ければ、二人もこちらの存在に気が付く。お互いに挨拶を交わし合っていると、今現在俺と共に行動しているパーティーメンバーの一人が話し掛けて来た。

 

「ねぇ、カミヤ君……この人達は…?」

 

「ん? ああ、紹介するよ。こいつらはキリトとシノンで、キリトは俺と同じ元ベータテスターだ。二人とは、例の宣言が始まる前に一緒に行動してたんだよ」

 

「初めまして。私はシノンよ。で、こっちがキリト」

 

「宜しく」

 

 パーティーメンバーに二人の事を紹介すると、今度はシノンが俺のパーティーメンバーの事について尋ねて来た。俺はその質問に対し、一人ずつ順番に紹介していく。

 

「それでカミヤ……あなたの後ろに居るその人達は?」

 

「ああ、こいつらは今一緒に行動してるパーティーメンバーでな、こいつは棍使いのケイタ」

 

「初めまして」

 

「メイサーのテツオ」

 

「やあ」

 

「短剣使いのダッカー」

 

「どもーっす!」

 

「槍使いのササマル」

 

「宜しく」

 

「同じく槍使いのサチだ」

 

「こんにちは」

 

「五人とも、俺と同じ高校の同級生なんだよ」

 

 そう言うと、キリトとシノンは驚きの表情を浮かべ、シノンは確認する様に言葉を掛けて来た。

 

「えっ? カミヤって…高校生だったの…?」

 

 今の反応から察するに、キリトとシノンは俺よりも年下、或いは年上(見た目からしてこちらの可能性は低い)なのだろう。その事について話そうと思ったが、その前にステージ状の広場に一人のプレイヤーが現れたので、その話については後回しにする事にした。

 

「ああ。けど、その話は後でな? どうやら、そろそろ始まるみたいだからな」

 

 そう言うと、俺達九人は広場へと移動した。

 

「はーい! それじゃ、そろそろ会議を始めたいと思いまーす!」

 

 ステージに現れたのは、長身の各所に金属防具を煌めかせた男性プレイヤーで、武器は俺やキリトと同じ片手剣。そして、何よりも目を引くのが、鮮やかな青に染まった長髪と、かなりのイケメンと称するべきその顔立ちだった。

 プレイヤーの顔は、あの宣言の時に茅場(?)によって現実のものに変えられている。という事は、あの清々しいまでのイケメンが彼の現実の顔なのだろう。そう思うと、何故かとてつもない敗北感を感じてしまう。

 

「今日は、オレの呼び掛けに応じてくれてありがとう! オレはディアベル……知っている人も居ると思うけど、元ベータテスターだ! 職業は…気持ち的にナイトやってます!」

 

 そんな俺の思いなど余所に、男―ディアベルは自己紹介をする。その自己紹介に、広場はどっと笑いに包まれた。だが、彼が真剣な表情で語り始めた事で、その空気は破られた。

 

「……今日、オレ達のパーティーが、あの塔の最上階でボスの部屋を発見した」

 

 その言葉に、周りのプレイヤーの殆どが息を呑んだ。

 

「一ヶ月、此処まで一ヶ月も掛かったけど……それでも、オレ達は示さなきゃならない。ボスを倒し、第二層に到達して、このデスゲームそのものも何時かきっとクリア出来るんだって事を、はじまりの街で待ってる皆に伝えなきゃならない。それが、今この場所に居るオレ達トッププレイヤーの義務なんだ! そうだろ、皆!」

 

 続けられた言葉を聞き終えた瞬間、今度は大量の拍手の音によって広場が包まれた。ディアベルの言葉には、非の打ち所は全く以って見受けられないのだから。

 

「それじゃあ――」

 

「ちょお待ってんか、ナイトはん!」

 

 と、ディアベルが会議を進めようとした時だった。広場の上段の方から関西弁口調の男性プレイヤーの声が聞こえ、歓声がぴたりと止まる。その中を、小柄ながらもがっちりした体格の、サボテンの様に尖った形をした茶髪のプレイヤーが階段を飛び降りて来て、ステージに降り立った。

 

「わいはキバオウってもんや」

 

 サボテン男―キバオウはこちらに振り向いて、なんとも勇猛なキャラネームを名乗ってくれると、次いで口を開いた。

 

「この場を借りて、一つ言わせてもらいたい事が有るんや」

 

「言わせてもらいたい事…?」

 

 ディアベルの聞き返しに、キバオウは「そうや」と言って頷く。

 はて? キバオウが言いたい事とは何なのだろうか? 見る限り、彼の表情からは憎しみや怒りといった感情は感じられないが。

 

「ナイトはん、そして、こん中におるはずの他のベータ上がりの奴らに言わせてもらいたい……」

 

 キバオウは、俺達元ベータテスターを指名すると、一旦言葉を区切る。そして――

 

「ホンマにありがとう!」

 

 ――そのサボテン頭を勢い良く下げ、感謝の言葉を口にした。

 

(ッ…!?)

 

 これには俺も、キリトも、ディアベルも、ベータテスターではない他のプレイヤーも驚いていた。まさかこの様な公然の場で、堂々と頭を下げる様なプレイヤーが居るなどと、誰が思おうか?

 

「あんたらが助けてくれたお陰で、多くのビギナーが生き残って、攻略に参加する事が出来とるんや」

 

 頭を上げ、言葉を続けるキバオウ。

 

「特にカミヤはん」

 

 すると、何故か今度は俺を名指しして来た。

 

「こん中におらんか? おるんやったら是非とも名乗り出て欲しい」

 

 目立つのはあまり好きではないのだが、周りに居るメンバーが「呼ばれてるぜ」と小突いて来るので、仕方なく名乗り出る事にする。まあ、険悪なムードではないので、何の問題も無いだろう。

 

「俺がカミヤだ」

 

 その瞬間、広場中の視線が俺へと集まるのを感じた。悪いものではないのだが、やはり居心地は悪い。

 

「あんたがカミヤはんか。これも全部、あんたがビギナーを助けてくれる事を呼び掛けてくれたお陰や思うとる。ホンマにありがとうな!」

 

「そうだね。君が呼び掛けてくれたお陰で、オレ達ベータテスターは立ち上がる事を決意する事が出来た。君には本当に感謝しているよ」

 

 キバオウに続き、ディアベルまでもが俺に感謝の言葉を述べる。かと思えば、周りに居る他のプレイヤー達までもが拍手喝采である。俺が取った行動が感謝されるというのは嬉しい事だが……か、かなり照れ臭い……。

 

「さて、それじゃあ会議を続けようか」

 

 キバオウが席に着き、俺も照れ臭さからそそくさと腰を下ろした所で、攻略会議は再開された。

 

「先ずは、仲間や近くに居る人と六人のパーティーを組んでみてくれ!」

 

 ディアベルがそう言うと、周りのプレイヤー達は一斉に仲間を探し、パーティーを組み始める。俺達も、パーティーを組もうと思うのだが……

 

(人数が微妙だなぁ……)

 

 そうなのだ。俺達のパーティーは七人なので、一人余る計算になる。仮にキリト達を加えたとしても、メンバーの合計は九人。四人と五人のパーティーに分けたとしても、やはり心許ない。

 

「キリト、シノン…お前達はどうするんだ?」

 

「んー……他を探すのも面倒だから、お前…達と一緒でも構わないか?」

 

「私も良いかしら…?」

 

「ああ、構わないぜ。寧ろこっちからお願いしたい」

 

 それ以前に、キリト達が入るとは限らないので、先ずは彼らの意見を聞いてみる事に。すると、彼らは俺達との行動を望んでいる様なので、快くOKする。

 

「それじゃあ、お言葉に甘えて」

 

「宜しくね」

 

「ああ。こちらこそ」

 

 よし、これで正式に九人になった。

 

「さて、人数のバランスを考えると、最低でも後一人は欲しい所だが……」

 

 はてさて、どうしたものか…………ん?

 

「すまん。一人見付けたから、声掛けて来るわ。可能なら、後二人くらい見付けといてくれ」

 

 メンバーにそう言うと、俺はとあるプレイヤーの許へと向かった。

 

「なあ、あんた一人か?」

 

 俺が声を掛けたのは、赤いフーデッドケープを羽織り、そのフードを目深にかぶったプレイヤーだ。

 

「……ええ。周りが皆お仲間同士みたいだったから、遠慮したのよ」

 

 ケープで隠れていない部分から見受けられる、肌の白さや栗色の長髪、細い体つき、そして今フードの下から発せられた声……それらから判断するに、どうやら俺の目の前に居るのは女性プレイヤーの様だ。

 

「なら、俺らとパーティー組まないか? バランス的に人数が足りなくてな」

 

「……構わないわ」

 

 そんな彼女を俺達のパーティーに誘うと、彼女は素っ気ないながらも、パーティー入りを了承してくれた。

 

「ありがとな。パーティー申請は後でやるとして、とりあえず自己紹介な。さっきので知ってると思うが、カミヤだ」

 

「……わたしは、アスナ」

 

「了解。そんじゃあアスナ…ボス攻略の間、宜しくな」

 

 自己紹介を済ませると、俺は彼女―アスナを連れて仲間達の許へと戻る。

 戻ってみると、どうやら向こうもメンバーを二人見付けていたらしい。一人は身長が百八十くらいで、頭は完全なスキンヘッド、肌はチョコレート色で、外人を思わせる様な彫りの深い顔立ちをした、両手用戦斧を背中に吊った巨漢《エギル》。そしてもう一人が――

 

「――私の名前はヒースクリフ。以後宜しく頼むよ」

 

 ヒースクリフと名乗る、削いだ様に尖った顔立ちに、鉄灰色の髪をした、何処か不思議な雰囲気を纏った長身痩躯の男性プレイヤーだった。

 

 その後、全員がパーティーを組み終えたと判断したディアベルにより、本格的な攻略会議が始まった。

 ベータテスターが提供した情報を書き記し、無料配布しているガイドブック……その最新版の情報によれば、第一層のボスの名前は《イルファング・ザ・コボルトロード》。その取り巻きとして《ルインコボルト・センチネル》が三体出て来る。コボルトロードの武器は斧とバックラーで、最後のHPゲージがレッドゾーンに入ると、タルワールに武器を持ち替えるとの事。センチネルは、ボスコボルトのHPゲージが一本減る度にリポップし、合計十二体出現すると書かれている。

 

 順調に進んでいた説明だが、此処で突然待ったを掛ける奴が現れた。

 

「ちょっと良いかしら?」

 

 シノンだ。

 

「ん? 何かな?」

 

「私の名前はシノン。ねえ、このガイドブックの情報……完全に信じて良いのかしら?」

 

 立ち上がり、名前を名乗ったシノンは、何とガイドブックの情報を疑う様な発言を口にした。そんな彼女に対し、周りのプレイヤーは怪訝な表情を浮かべている。

 

「……どういう事かな?」

 

 だが、次の言葉で場の空気は一変した。

 

「この情報は、あくまでベータテストの時のものでしょ。けど、今私達がやっているのは正式版のものよ。もしかしたら、何かしら変更されてる可能性が有るんじゃないかしら?」

 

 ……確かにそうだ。今俺達が居るのは正式版の世界であり、ベータ版とは仕様が変更されている可能性だって充分に有り得る。それに気付くとは、やはりシノンは鋭い。

 

「……迂闊だった。その可能性は失念していたよ。もしもベータ版と正式版とで違いが出て来たとして、何も考えずに突っ込んで行ったとしたら……」

 

「返り討ちに遭って、最悪…死ぬかもしれないわ」

 

 その言葉に、広場が静まり返った。

 そう、忘れてはいけない事だが、このゲームでの死は現実での死をも意味している。それを理解しているからこそ、その反応は当然のものだろう。

 

「もし違いが合ったとして、君なら何を考える?」

 

「私はそこまでゲームに詳しい訳じゃないから、そこは詳しい人達に任せるわ」

 

 ディアベルの問い掛けにそう答えると、シノンは俺とキリトへと視線を向けて来た。まったく、しゃーねぇなぁ。

 

「とりあえず、それぞれに思う事を挙げてみようぜ。武器に関しては、俺と此処に居るキリトが対策を教える。俺達二人はベータテストの時に十二層まで上がって、色んな武器を相手にしているんだ」

 

 そうして、俺はキリトを道連れに武器の対策の指南役を買って出た。で、当のキリトは恨みがましい目で俺を睨んでいるが、悪いが無視させてもらう。

 キリト…お前もこの際、俺と一緒にコミュ症を治してみようぜ?

 

 その後、ベータ版との違い――主にボスコボルトの武器について――を議論し合い、それぞれへの対策を教えていった結果、会議が終わる頃には既に夜になっていたのだった。

 

 因みにだが、指南をしている際に見えたヒースクリフの顔が、何処か微笑んでいる様に見えたのだが……あれは一体何だったのだろうか?




 はい。という訳で、第一層から黒猫団とヒースクリフさんの登場。キバオウさんがイイ人に。加えて、しののんによるディアベルさんの救出フラグでした。
 ……うん、ご都合主義満載ですね〜。

 でも後悔はしていない!

 さて、次回は攻略前夜の二人の少女の心境について書きたいと思います。
 ついでに、遂にあの人の正体も明らかになります。

「何で僕はついでなのさっ!?」

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