ソードアート・オンライン 〜The Parallel Game〜 《更新凍結、新作投稿中》   作:和狼

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皆様、お久しぶりです。

本作品の主人公以外のキャラによる感情表現、それも──作者が未だに経験の無い恋愛感情の表現に四苦八苦した結果、またも三ヶ月も間を空けてしまいました。

年齢=彼女居ない歴の作者には、恋愛話はヒジョーにキビシーです!(なら書くなよ!)




……という訳で、三ヶ月ぶりの更新……おかしな所も有るかもしれませんが、どうかお楽しみ下さいませませ。



Interval:黒と絶剣《後編》 〜太陽と月〜

 

 

 

お昼ご飯を食べ終えた後、ユウキとキリトくんは再び《サビア》の街の散策へと繰り出した。

色んなお店を見て回ったり、それぞれ違う味のアイスを買って食べさせ合いっこしたり、途中戦闘用のアイテムショップで議論を繰り広げたり、広場のベンチで休憩したりして時間を過ごしたりと、デートに誘ったユウキは勿論の事、キリトくんも実に楽しそうな笑顔を浮かべながらデートしていた。

 

其の様子を見ていたら、わたしもカミヤくんとあんな風に楽しくデートしたいなと思い、其の光景を想像してみて思わずにやけてしまった。

……その時、誰かに敵意の(こも)った鋭い視線で(にら)まれた様な気がしたけど、多分気のせいよね……。

 

 

 

 

──閑話休題(その話は置いといて)

 

 

 

 

今現在、二人はサビアの街を後にして、アインクラッド四十七層の主街区である《フローリア》に来ている。

通称《フラワーガーデン》と呼ばれているこの層は、街だけじゃなくてフロア全体が無数の花々で(あふ)れ返っていて、見た目とっても綺麗な場所だ。そういう訳なので、此処はデートスポットとしてとても人気が有り、現に今も、花の間の小道を歩く人影の殆どが男女の二人連れだ。皆しっかりと手を繋いで、或いは腕を組んで楽しげに談笑しながら歩いている。

 

……その光景を見て、羨ましいと思ってしまったわたしは悪くない筈だ。わたしもカミヤくんと二人であんな風になりたいと思ってしまったわたしは悪くない筈だ。

だってだって、大抵の女の子っていうのはそういったシチュエーションにとっても憧れるもので、目の前で其れをやられた(イチャイチャされた)とあっては、自分だってそういう事をしたいのにと羨ましく思ってしまうものだ。意中の人が居るとなれば尚更にだ。

ユウキとキリトくんのデートを見守るという目的が無ければ、直ぐにでもこの(地獄)から逃げ出したいところだ。

 

で、その肝心の二人はというと、他のカップルで賑わう転移門広場から離れて、安全エリア内に有る人気の少ない丘の上へと来ている。

黄色からオレンジ色へと移り行く夕焼け空の下、沢山の花々が咲き誇る丘の上に並んで腰掛けている二人の様子は、何だかロマンチックな雰囲気だ。

 

 

 

 

……其れは良いんだけれど。

 

実は此処で一つ問題が有って……丘の周りには花以外には何も無い所為で隠れられそうな場所が無くて、二人の其の様子を真近で見る事が出来ないのだ。仕方なく、二人から大分離れた所からこっそり様子を窺っているんだけど、距離が有る所為で二人の会話が全然聞き取れない。

これって……つまりアレなのかしら? これ以上二人の邪魔になる様な真似はするな、という神様からの警告とかそういった感じの。

 

ぐぬぬ……。折角良い感じの雰囲気だっていうのに、其れを近くで見聞き出来ないだなんて……。

神様のイジワル……。

 

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

 

アスナ達が神の計らい(?)に対して其々に思いを抱いている一方、ユウキ達はというと──

 

 

 

 

 

 

 

 

「綺麗な景色だねー、キリト」

 

「ああ。夕日の光の影響もあって、より一層にな」

 

「だねー」

 

夕焼け空の下、ボクとキリトはフラワーガーデンの安全エリア内に有る丘の上で、並んで腰掛けて景色を眺めている。

フラワーガーデンは元からとっても綺麗な場所なんだけど、キリトの言う通り、夕日のお陰で其の景色は普段よりももっと綺麗に感じられる。何と言うか、その……魅力的だ。

 

「……ねえ、キリト」

 

「ん?」

 

「何でボクがキリトをデートに誘ったのか……分かる?」

 

だからかな、そんな魅力的な光景に感化されちゃったらしいボクは、何となくキリトに対してそんな質問をしてしまった。

 

「……え? えっ?」

 

当然、急にそんな質問をされたら誰だって困惑する訳で、キリトの表情は目を見開いたり顔を引き()ったりで凄い事になっている。

 

「え、えーっと……そりゃあ、その……アレだろ? この間の(つぐな)いとして、だろ?」

 

激しく動揺しながらも答えてくれたキリトだったけど、其の表情は今度はどんどん赤くなっている。

何でだろうって思ったけど、其の答えは直ぐに解った。キリトはこの間の事を思い出して恥ずかしくなっ、て……………………って、うわぁぁぁあああああ!? やばいやばいやばいやばいやばい! どうしよう……思い出したらボクまで急に恥ずかしくなっちゃったよぉ〜!

 

そ、そうなんだよね……。事故だったとはいえ、ボクはキリトにむ、むむむ胸を触られちゃったんだよね……。

…………その、触り心地とかはどうだったんだろ? そりゃあ、ボクの胸はアスナやシウネー、リーシャさんのと比べればまだまだ全然小さいから、揉み応えは無いに等しいのかもしれないけどさ。それでも女の子の胸なんだぞ。柔らかいんだぞ。それに、ボクはまだまだ成長途中だから、これからどんどん大きくなるかもしれないんだぞ。

それと、出来ればあんな形でじゃなくて、もっとこうお互いに良い感じの関係になってから、雰囲気のある形でして欲しかったかなぁ…………

 

…………って、うわぁぁぁあああああ!? ボクは何を考えてるんだよぉぉぉおおおおお!? 確かにそういう想いは有るけど、今はそんな事を考えてる場合じゃないんだってぇー!

 

「じ、実を言うと其れは只の切っ掛けで、根本的な理由じゃあないんだよね……」

 

多分間違い無く真っ赤になってるだろう顔をキリトに見られない様に逸らしながら、キリトへと答えを返す。

そう、キリトの言う償いは、あくまでキリトをデートに誘う為の切っ掛けだ。本当の事を言えば、ボクはもっと前からキリトと二人でデートしたいと思っていた。けど、いざ言おうと思ったら恥ずかしくなったり、断られるのが怖かったり、誘う事を躊躇(ためら)ったりで中々言い出せないでいた。そんな時に巡って来たのが今回のチャンスだ。

 

「き、切っ掛け……!? え、じゃあ、その根本的な理由ってのは何なんだ?」

 

「そ、それはね……」

 

そんな事なんて知らないキリトは再び困惑顏で、ボクがデートに誘った本当の理由を聞いて来た。

そ、それはつまり、キリトはボクの想い(こたえ)を知りたいって事なんだよね! ボクが君をデートに誘ったのは、そういう想いが有っての事なんだからね!

だったら言ってあげるよ! 教えてあげるよ! たとえそういう深い意味で聞いたんじゃないんだとしても、聞いて来たんだからちゃんと聞いて貰うんだからね! ボクが君に抱いているこの想い(こたえ)を!

 

「…………好きだから」

 

「え?」

 

 

 

 

「──キリトの事が、好きだからだよ。友達や仲間とかじゃなくて、一人の男の子として」

 

 

 

 

……。

…………。

……………………。

 

う、うわぁぁぁあああああああ!?

い、言っちゃった! 遂に言っちゃったよ、ボク! キリトの事が好きだって言っちゃったよ! 友達や仲間としてじゃなくて、一人の男の子としてキリトの事が好きだって言っちゃったよ! キリトに面と向かって言っちゃったよ! 気持ちは物凄く(たかぶ)ってる筈なのに、物凄く落ち着いた声で好きだって言っちゃったよ!

 

「…………え?」

 

うわぁぁぁあああああ! 恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい! 物すっごく恥ずかしい! 言っちゃったら何だか急に恥ずかしさが込み上げて来たよぉ〜! キリトに胸を触られた事を思い出した時よりもっと恥ずかしいよぉぉぉおおおおお!

 

「え、ええ? ええぇぇぇえええええええ!?」

 

そ、そりゃあ急に告白なんかされたら驚くよね。ましてや仲間で、そんなに目立った素振りなんて見せなかった相手からされたら余計にだよね。

 

「ちょ、ま、ユウキ……それ……マジで……?」

 

「……うん。マジで……」

 

「…………」

 

「…………」

 

其処から(しばら)く沈黙が続いた後、キリトの方から沈黙を破ってボクへと尋ねて来た。

因みに、お互いに黙っている間に頭が冷えて、幾らか落ち着きを取り戻す事が出来た。

 

「……何時から、なんだ?」

 

「キリトの事を好きになったのは、って事だよね」

 

「ああ……」

 

ボクがキリトの事を好きになった時、か……。

 

初めの頃は、デスゲーム開始直後にあの大々的な宣言をしたって理由で注目していた団長と一緒に居たって事と、キリト自身が強かったって事で興味を持っていた。

直接話してみたら、思考が似てるって事で気が合って、其処から仲良くなって、一緒に居ると面白くて楽しいと思う様になった。

ボクらと団長達のギルドが合併してからは、キリトの色んな一面を知る様になってそれまで以上に楽しいと思う様になったし、まるで兄妹として一緒に過ごしているかの様に思う様にもなった。

 

そして、ボクのキリトに対する気持ちが大きく変わったのは、うん──

 

「キリトの事が気になる様になったのは、五十層のボス攻略の時からだよ」

 

今から三ヶ月も前の年の始めの頃、五十層のボスという強敵との激闘の中でキリトへの想いを覚え始めた事を思い返しながら、ボクは其の時の事を語り始めた。

 

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

 

五十層のボスとの戦闘は、実に壮絶だった。

 

《ヴァジュラ・ザ・フィルスゴッド》という名前の金属製の仏像の様なモンスターは、三つの顔に六本の腕という、まるで阿修羅みたいな姿をしていて、六本の腕にそれぞれ種類の異なる武器を持って襲い掛かって来た。

しかも厄介な事に、ボスは一つの身体に三つもAIを積んでいて、三つの面がそれぞれ別々に動いていた。其れに加えて、三つの面は時々他の面を助ける様な動きまで見せた。

 

だから、事前の偵察で其の情報を知っていたボク達攻略組は三つのグループに分かれて、一つのグループにつき一つの面を相手する事になった。

それでも、左右で武器が違う所為でボスの動きに注意しなきゃならなくて、更には其処へ他の面からの横槍が時々来るもんだから、五十層のボス攻略はそれまで以上に集中力を必要とする事になった。

 

で、そんな風に激しく集中した状態で何十分と激しい戦闘を続けていれば、肉体的にも精神的にも疲労が溜まって行き、それによって集中力も落ちてしまう。

 

そうなればどうなるか?

注意力が散漫になって、それまではちゃんと見えていた攻撃にも気付けなくなってしまう。気付くのが遅れれば、それに対する反応だって遅れてしまう。

戦場に於いて、その一瞬は命取りになってしまう。

 

詰まる所、ボクは他の面が入れて来た横槍に気付くのに遅れてしまい、反応出来ずに攻撃を喰らいそうになったんだ。

 

それを助けてくれたのがキリトだった。

同じグループだったキリトがボクのピンチに気付いて駆け寄って来てくれて、ボクを抱き寄せてボスの攻撃から守ってくれたんだ。

 

 

 

 

その後は、気を取り直して再びボスへと挑み、激しい戦闘の末に一人の犠牲者も出す事無くボスを倒したんだ。

 

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

 

「……あの時のアレが切っ掛けなのか」

 

戦闘が終わった直後は、助けてくれたキリトの事が妙に気になるだけで、それがどういった気持ちなのかは分からなかった。

それからというもの、名前も知らないその気持ちは日に日に強くなっていって、気が付けばキリトの事を必死で目で追って、キリトの事ばかりを見て、キリトの事ばかりを考える様になっていた。

 

リーシャさんに相談して、その気持ちが《恋》だって気付いたのは、それから随分経ってからだ。

 

恋を自覚してからは、キリトと一緒にいたい、キリトの傍にいたいという気持ちが(あふ)れて来て、積極的にキリトと行動を共にする様になった。前よりもキリトと一緒に居る事が多くなった。

そしてキリトと一緒に居ると、前とは別の意味で楽しいと感じる様になった。嬉しいって感じたりする様になった。

 

「ピンチを救われたヒロインが助けてくれたヒーローに恋をしちゃうなんて、単純で在り来たりな話だよね。……でも、ボクはそんな単純で在り来たりな恋をしちゃったんだ」

 

……だけど、ここ最近になってそれだけじゃ物足りなくなってしまった。ボクだけがキリトの事を見てるんじゃなくて、キリトにもボクの事を見て欲しいと思う様になった。

ダメだと思って今までずっと我慢してたんだけど、もう気持ちを抑えられなくなっちゃった。

 

「ボクは……ヒロイン(ボク)を助けてくれたヒーロー(キリト)に恋をしちゃったんだよ」

 

だからこそ、ボクは我慢するのをやめて、ボクの想いをキリトへと打ち明けた。少しでもキリトにボクの事を意識して欲しいから。一秒でも多く、キリトにボクの事を見ていて欲しいから。

 

「ねえ……キリトはさ、ボクの事どう思ってる?」

 

「え? ええっと……」

 

そもそも、何でボクはキリトに想いを伝える事を躊躇っていたんだろうか? 何で我慢する必要が有ったんだろうか?

 

「えっと、その……ユウキは見た目は可愛いし、性格も明るくて、元気で、それに優しくて……」

 

シノンとキリトはとっても仲が良いし、シノンがキリトの事を好きだって事は、シノンの態度で前から気付いてた。

其れだけで、ボクがキリトに告白するのを躊躇うには充分な理由だった。

 

「何だか……《太陽》みたいだって思ってる。一緒に居ると楽しいって思うし、気持ちがあったかくなる様に感じる」

 

「え、えへへへ。そ、そんな風に言われたら、何だか照れちゃうじゃないかぁ……」

 

だけど、何時まで経っても二人が付き合い始めたという話は聞こえて来なかった。

ボクは充分なくらいに待っていた。その上で相手が何も行動を起こさないというのなら、ボクがキリトに想いを打ち明けたって良い筈だ。

 

「なら、さ……」

 

ともかく、ボクはキリトにボクの想いを打ち明けた。此れでボクとシノンの関係は、キリトを巡る恋のライバルだ。

 

「──シノンの事はどう思ってるの?」

 

キリトが何で応えるのかは判らないけど、ボクは負けるつもりは無い。シノンに負けないくらい精一杯アピールして、きっとキリトの心をボクの方へと振り向かせてみせるんだ。

 

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

 

「…………え?」

 

ユウキの突拍子な問い掛けに、俺は彼女の意図を理解出来ずに呆気にとられてしまい、反応が遅れてしまった。

それも仕方の無い事だと思う。なんせ俺の事を異性として好きだと言い出したかと思えば、いきなり別の女(シノン)の事をどう思っているのかと聞いて来るのだから。

 

「な、何で其処でシノンの名前が出て来るんだ? 今は関係無いんじゃないのか」

 

「良いから、応えて」

 

返された応えに納得はいかないし、やはり意図も理解出来ない。

だがしかし、此方を見つめるユウキの目は真剣そのもの。とても冗談とかそんなんで聴いてるって感じじゃあない。それだげ、彼女にとって先程の質問は重要だという事なんだろう。

 

ならばどうするか?

 

そんなの決まっている。真面目な質問にはそれ相応の応えを返す。それが(すじ)ってもんだ。

俺は早速、俺がシノンに対して抱いている感情を真剣に思い浮かべ、其れを言葉にしてユウキへと伝える。

 

「そうだなあ……シノンはクールで、何処か素直じゃなくて、時々厳しい事も言うけど、だけど本当はとっても優しくて、面倒見が良くて、頼もしくて、そんで可愛くて……」

 

今此の場に本人が居ないからこそ、すらすらと口にする事が出来たであろう自分の言葉の数々を思い返しながら、俺は思う。

俺はさっきユウキの事を《太陽》だと例えた。同じ様に例えるとするならば、シノンはきっと其の反対の《月》だろう。

どちらも明るく照らしてくれる存在ではあるが、太陽と比べると其の強さは弱いかもしれない。けど、太陽とは違って其の光は優しく穏やかであり、夜の暗闇を照らしてくれる其の存在感は言い知れない安心感を感じさせてくれる。

何時だってそうだった。交通事故で大怪我を負って入院していた時も、俺自身の出生の真実を知った事で人との距離感が判らなくなった時も、そして……此の《SAO》という死の牢獄に閉じ込められた時も、彼女は俺の傍に居て《不安》という名の暗闇を照らし、支え助けてくれた。

 

「俺にとってシノンは少し特別で、とても大切な……ッ!?」

 

最後に俺にとってシノンがどういった存在であるのかを伝えようとするが、其の途中で不意にある事に気付き、最後まで言い終える前に思わず口を(つぐ)んだ。

 

特別、大切……シノンに対してそんな感情を抱いているのは何故か?

彼女には此れまで何度も助けられたから、というのも勿論あるだろうけど、きっと其れだけじゃ其処までの感情を抱く事は無いだろう。其れ以外の……或いは其れ以上の《何か》が有るからこそそういった感情が生まれて来る筈だ。

ならば其の《何か》とは何か? と聞かれれば、一つだけ心当たりが有る。

 

其れは──《好意》。

 

どうにも俺は、知らない内にシノンに対して好意を抱いていたらしい。

好きだからこそ特別だと感じるんだろうし、好きだからこそ大切な存在だと思うのだろう。

それに、好きだからこそ様子のおかしい彼女の事を必要以上に心配してしまうのだろう。ああ、自覚したら余計心配になって来た。

 

「キリト……?」

 

するとそんな俺の顔を、心配そうな顔をしたユウキが覗き込んで来た。

まあ無理も無いだろう。喋っている途中で急に黙り込んだりしたら、誰だって心配するに決まっているよな。

 

……さて、こりゃあ一体どうしたものか……。

察しの良いユウキの事だから、恐らくはさっきの沈黙の間に俺に何かしらの変化が有った事には、もう気付いているかもしれない。

だとするならば、このまま黙っているというのは、心優しい彼女を騙す様で何だか心苦しい。それにユウキだって、自分の気持ちを押し殺してまで付き合って貰ったって嬉しくない筈だ。俺がユウキの立場だとしたら、間違い無くそんなの嫌だと思うだろうから。

 

ならば、此処は素直に言ってしまうのが得策だろう。

 

「……ごめん、ユウキ」

 

「ううん、ちょっと心配したけど、そんなに気にしてないよ」

 

「いや、其れもあるけどさ、そうじゃないんだ……」

 

そう決心した俺は居住まいを正し、視線を顔ごとユウキの方へと向けて、真っ直ぐ彼女を見詰める。

俺の其の様子から真剣な雰囲気を感じ取ったのだろう、彼女もまた居住まいを正し、其の表情を先程同様の真剣なものへと変えた。

其れを合図に、俺は重い口を開いた。

 

「ユウキ……俺さ、気付いちゃったんだ……」

 

「気付いた、って……何を……?」

 

「えっと、其れは、その…………」

 

だが、いざ言おうと思うと罪悪感に囚われて、言うのを躊躇われてしまう。

しかし、既に話の口火は切ってしまっているので、最早後戻りなど出来ないだろう。

ならばと、俺は今一度決心を固めて、再び重い口を開く。

 

「……ごめんな、ユウキ。俺──シノンの事が好きみたいなんだ」

 

…………言って、しまった。自分の事を好きだと言ってくれた女の子の前で、他の女の子が好きだと、最低な事を言ってしまった……。

そんなのを聞かされたユウキは、「そっか……」と言って其の表情を見る見る曇らせて行く。そうさせてしまった俺としては罪悪感が半端ねぇよ……。

 

「け、けどッ! 俺は……ユウキの想いも大事にしたいって思ってる」

 

確かにシノンの事は気になる。けど、だからと言ってユウキの好意を無下にはしたくない。けど其れは決して、(なぐさ)めとかそういった理由でじゃない。ユウキが俺の事を好きだと言ってくれた事が、とても嬉しかったからだ。

要するに俺は、優柔不断で何方(どっち)付かずの駄目な奴だ。

 

「今はまだ気持ちの整理が出来てないから、どっちか一人を選ぶ事は出来そうにない……。だから、俺に時間をくれないか?」

 

挙句、考える時間が欲しいなんていう、ある意味逃げる様な事を言ってしまう始末だ。

其れでも俺は、どちらの気持ちにも真剣に向き合いたい。遊び半分な事には絶対にしたくない。

 

「真剣に考えた上で、ちゃんとした答えを出したい。だから頼む! 俺に……俺に考える時間をくれないか?」

 

「うん、良いよ」

 

「俺は優柔不断で、何方付かずな駄目な奴かもしれないけど、そんな俺でも良ければ少しだけ待ってて…………って、……え?」

 

其の思いを込めて必死の説得を試みたが、其の結果は思いもよらないものとなった。

はて、俺の耳が確かならば、ユウキは今驚く程あっさりと此方の願いを聞き入れてしまわなかっただろうか……?

 

「ええっと……ユウキ……今、何て……?」

 

「だーかーらー、待ってあげるって言ったんだよ」

 

「え、えぇぇぇえええええ!!? ま、マジでか!?」

 

「マジだよ。もう、キリトは疑り深いなあ……」

 

どうやら俺の聞き間違いではなかったらしい。

普通こういった大事な話はもう少し悩んだり()らしたりしてから応えるものじゃないのか、と突っ込みたくなったが、其れでユウキの気分を害して折角の好意を撤回されても困るので、其れは心の内だけに留め、寛大で心優しい彼女に礼を言う。

 

「あ、ありがとな、ユウキ。……それと、ごめんな……」

 

「謝らなくても良いよ。キリトの真剣な気持ちはちゃんと伝わったから」

 

やはりユウキは、どんな事でも優しく受け容れ、包み込んでくれる《太陽》だ。

 

「けど、此れからは覚悟しといてよね? シノンに負けない位うんとアピールして、絶対にキリトの心をボクの方に振り向かせてみせるんだから!」

 

「あはは……。お手柔らかに頼むよ」

 

 

 

 

──此の日を以って、俺は恋愛感情というものを知り、同時に俺、シノン、ユウキによる三角関係が始まったのであった。

 

余談だが、此の後俺とユウキは暫し景色を堪能してから、雰囲気の良いNPCレストランで夕食にしたのだった。

 

 

 




……という訳で、キリトとユウキのデート回、終了でございます。

次回からは、いよいよ予告していた『笑う棺桶討伐』編でございます。
出来るだけ早く更新出来るよう頑張ります。








……とか言っておきながら、
次もまた三ヶ月も更新が空いたりしたらゴメンなさい……。
なるべく努力はしますので、なにとぞお待ち下さいませ……。

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