ソードアート・オンライン 〜The Parallel Game〜 《更新凍結、新作投稿中》   作:和狼

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Chapter.1:嵐の前の出会い

 

 

「……また来れたぜ」

 

 それが俺―綾野和也……否、プレイヤーネーム《カミヤ》の、SAOの舞台たる浮遊城《アインクラッド》に降り立っての第一声だった。

 

 懐かしさから周りを見回す。

 ベータテスト時代から大きく変わった様子は無さそうな、SAOのスタート地点にして第一層の主街区たる《はじまりの街》には、青白い光と共に次々と他のプレイヤー達が現れている所だった。

 

「あ、あのう……」

 

 ふと、隣……それも少し低い位置から、誰かに声を掛けられる。声のした方へと顔を向けると、そこには栗色の髪を左右で束ね、大きな瞳をし、幼げの有る可愛い顔付きをした、何処か珪子を彷彿とさせる少女が居た。

 

「もしかして……和也お兄ちゃん…ですが…?」

 

「……そういうお前は、珪子…なのか…?」

 

「あ、はい。……それじゃあ…!?」

 

「ああ。俺はお前の兄―綾野和也で合ってるよ」

 

「あっ、やっぱりお兄ちゃんだったんだ! 良かったぁ。間違ってたらどうしようかと思ったよぉ」

 

 その正体は、なんと我が妹の珪子だった。

 さて、何故兄妹であるにも関わらず、こうしてお互いの正体を確認し合わなければならないのかと言うと、現在の俺達の容姿は現実のものではなく、各々の好みに合わせてカスタマイズされた仮想体(アバター)だからだ。因みに俺のアバターは、パーマの掛かった黒髪に、ほんの少し浅黒い肌、角張った顔に細目という、現実の俺に近いものにしてある。理由は、単に自分を飾り付けるのが面倒だったからだ。

 

「あ、こっちでの名前を言っておかないとだね。あたしのはシリカって言うの」

 

「シリカだな……了解。俺はカミヤだ。……まあ、どうせお兄ちゃんって呼ぶんだろうけどな」

 

「あ、あははは……」

 

 今度はこの世界で使うお互いのプレイヤーネームを確認し合う。尤も、俺の事を「お兄ちゃん」と呼ぶであろう妹―シリカには、教える意味はあまり無い様にも思えたが。

 因みに、《カミヤ》という俺のプレイヤーネームは、俺が何かと好んでいる動物―オオカミの《カミ》と、俺の現実での名前―和也の一部である《也(ヤ)》を組み合わせて出来たものだ。

 

「さてと。んじゃ、先ずはパーティーを組むとしますか」

 

「はーい!」

 

 お互いの正体や名前を確認し合った所で、そろそろ本格的にSAOを始めるべく、先ずはパーティーを組む事にする。そうする事で、お互いに助け合い、協力して戦う事が出来るからだ。

 ベータテスト期間中に何度かパーティーを組んだ事が有る故に慣れた手つきでパーティー参加申請を出すと、シリカは迷う事無く『YES』のボタンを押す。すると、俺の視界左上に存在する俺のHPゲージの下に、やや小さい二つ目のHPゲージが現れ、その下にはアルファベットで《Silica》と表示されている。パーティー申請が受理された証だ。

 

「そんじゃあ――」

 

「ねぇ、ちょっと良いかしら?」

 

 「次は武器を買いに行くか」と言おうとした所で、突然第三者より声を掛けられる。声のした方へと振り向くと、そこには無造作なショートの黒髪で、だが額の両側で結わえた細い房が特徴の、猫科動物を思わせる様な目をした少女が居た。

 

「……あんたは?」

 

「ああ、ごめんなさい。私の名前はシノンよ」

 

「カミヤだ。んで、こっちは妹のシリカ」

 

「こ、こんにちは」

 

「こんにちは。へぇー、あなた達兄妹だったの」

 

 こちらの質問に答えた少女―シノンに対し、こちらも軽く自己紹介をする。お互いの名前を確認し合った所で、俺はシノンに核心を突く質問を投げ掛ける。

 

「んで、俺達に何の用だ?」

 

「その前に、一つ聞いても良いかしら?」

 

 が、返って来たのは質問の答えではなく、こちらに対する質問……その提示確認だった。まあ、「その前に」と言ったあたり、恐らくは質問の答えがシノンの用件に関係しているのだろう。

 

「……構わないぜ?」

 

「ありかと。それじゃあ聞かせてもらうけど――」

 

 そう考えた上で、シノンの質問を許可する。すると、彼女の口から思わぬ質問が飛び出した。

 

「あなた達って、もしかして元ベータテスターの人達かしら?」

 

「っ…!?」

 

 その質問には、一瞬「何でバレたんだ!?」と驚愕の念を抱く。各プレイヤーの頭上に表示されているカラー・カーソルに【β】のマークが付いているなどといった、ベータテスターかどうかを簡単に見分ける術は無いはずだからだ。

 一瞬、シノンも元ベータテスターだったのでは? とも考えたが、直ぐに違うと判断した。彼女は今「あなた達」と……つまり、ベータテスターではないはずのシリカをもベータテスターだと推測したからだ。

 

「……確かに、元ベータテスターだぜ。ただし俺だけな」

 

「あら、そうなの」

 

「で? 何を根拠にそう思ったんだ?」

 

 特に隠す必要も無いだろうと、自分だけが元ベータテスターだという事を明かした後、俺をベータテスターだと見抜いた根拠について尋ねてみる。

 

「あなたの操作の手つきが慣れてる様に見えたからよ」

 

「あぁ! 成る程な」

 

 言われて納得。考えてもみれば、全体の九割は今日SAOを始めたばかりの、操作の仕方も殆ど知らない素人ばかりだ。そんな中で慣れた手つきで操作を行っていれば、十中八九元ベータテスターだと思われる事だろう。

 シノン……どうやら彼女は、その猫の様な形に違わず、鋭い目をしている様だ。

 

「さて、元ベータテスターである俺への用件っていうねは、やっぱり……」

 

「ええ。レクチャーをお願いしようと思ってね」

 

「だろうな。素人が経験者にレクチャーを求めるのは、道理みたいなもんだからな」

 

「で、どうなの? 引き受けてくれるの?」

 

 シノンがベータテスターの質問をして来た辺りで、おおよそ見当の付いていた彼女の用件――即ち俺へのレクチャーの申し出。それは見事に違わず、そして、俺はそれに対する答えを既に決めてある。

 

「俺は構わないんだが、シリカ…お前はどうだ?」

 

 特に断る理由も無いし、妹以外の女の子に頼られるというのも何気に嬉しいので、俺はシノンの申し出を引き受ける事にした。

 しかし、それはあくまで俺の意見。現在俺はシリカとパーティーを組んでいるので、彼女の意見を無視する訳にはいくまい。

 

「あたしも構わないよ? シノンさん…あたし達と一緒にやりましょ!」

 

「ありがと。それじゃあ宜しくね」

 

 だが、俺の心配は杞憂だった様で、シリカはシノンのパーティー入りを快く受け入れてくれた。

 こうして、俺達のパーティーに新たにシノンが加わる事になった。

 

 

     ◆ ◆ ◆

 

 

 その後、正式にパーティー申請をした俺達は、当初の予定通りに武器を購入しに行く為、入り組んだ裏道に有るお得な安売りの武器屋へと足を運んでいる。ステータスは同じなので、それならば安い物を買った方が良いに決まっている。

 

「なあ、頼むよ!」

 

 そういう訳で、人で賑わう大通りから外れて裏道へと入り、しばらく歩いていると、少し先の方から他のプレイヤー――声からして恐らく男性――の声が聞こえて来た。断片的な内容から察するに、この先にはその男性プレイヤーを含めて二人以上のプレイヤーが居て、男性プレイヤーが何かを頼んでいるのだろう。

 

 どの道俺達の進行方向なのでそのまま歩みを進めると、件の人物達は直ぐに見つかった。

 人数は二人。一人はこちらに背を向けているので顔は分からないが、赤みがかった頭にバンダナを巻いた、長身痩躯のプレイヤー。そしてもう一人は、黒髪で、ファンタジーアニメの主人公の様なカッコイイ面をした、“見知った”プレイヤー……その名を――

 

「よう! キリトじゃねぇか」

 

 《キリト》――俺と同じ元ベータテスターの一人だ。こいつとはベータ期間中に何度か攻略を共にしており、最初の方こそ大したコミュニケーションを取れなかったものの、次第に打ち解け合い、最終的には親友と呼べる程の仲になれた。

 

「! カミヤ!」

 

 こちらから声を掛けてやれば向こうもこちらに気が付き、こちらへと歩み寄って来る。

 キリトに釣られる形で付いて来た事で、ようやくキリトと話していたもう一人のプレイヤーの顔も明らかになる。性別は男。切れ長の目に細く通った鼻梁という、戦国時代の若武者の様な顔をしている。

 

「久しぶりだな、カミヤ」

 

「ああ。こっちでもまた宜しくな」

 

「ああ。こっちこそ宜しく」

 

 再会を喜び、挨拶と共に握手を交わす俺とキリト。

 ふと、キリトは顔の向きはそのままに、視線を俺から逸らした。釣られて俺もキリトの視線の先へと目を向けると、そこにはシリカとシノンの二人が居た。

 

 それで何と無く察した。

 何でも、キリトは自身曰く人付き合いが得意ではないらしい。俺と打ち解け合うのにだって、結構時間が掛かったくらいだ。……まあ、かく言う俺も実は人付き合いが苦手だったりするのだが。

 で、人付き合いは得意ではないものの、シリカとシノンの事は気になる様子。

 つまるところ、キリトは俺に二人の事を紹介して欲しいのだろう。顔を戻せば、キリトがそんな感じの目で俺の事を見ていた。

 

「あぁ、紹介するよ。こっちは妹のシリカで、こっちはシノン……レクチャーを頼まれた」

 

「初めまして! シリカって言います!」

 

「シノンよ。宜しく」

 

「んで二人とも……こいつの名前はキリト。俺と同じ元ベータテスターだ」

 

「宜しく」

 

 キリトにシリカとシノンを、シリカとシノンにキリトをそれぞれ紹介した所で、今度は俺がキリトにバンダナのプレイヤーを紹介する様に促す。

 

「んでキリト……お前の後ろに居るバンダナさんは誰なんだ?」

 

「あ、ああ。えーと……彼の名前はクライン。お前と同じ様に、レクチャーを頼まれた」

 

「クラインだ。宜しくな……えーと……」

 

「あぁ、俺はカミヤだ。宜しく」

 

「おう! 宜しくな、カミヤ!」

 

 キリトがバンダナさん――クラインの事を紹介すると、クラインはこちらに歩み寄り自身も名乗る。すると、クラインは急に歯切れを悪くしてしまう。

 そこで直ぐ様気付く……そういえば、まだ自分からは自身の名前を名乗っていなかったと。なので、こちらも自身の名前を名乗る。

 因みに、クラインがようやく声を発した事で、先程頼み事をしていたのが彼であると判明した。

 

「ところでよぉ、あんたらもこれからフィールドに出るんだよなぁ?」

 

「ん? ああ。この先の武器屋で武器を購入したらな?」

 

 と、不意にクラインがそう尋ねて来たので、俺は肯定の言葉と共にこれからの予定を告げる。

 

「ならよぉ、此処で会ったのも何か縁って事で……どうだ? 一緒にやらねぇか?」

 

 それを聞いたクラインが口にしたのは、つまりパーティーの勧誘だ。

 

「んー、まあ…俺は構わないかな?」

 

 人付き合いが苦手であるが故に一瞬迷ったものの、ゲームだから良いかと割り切り、特に断る理由も無いので、俺はクラインの誘いに肯定の意を示す。

 

「お兄ちゃんが良いなら、あたしも構いません」

 

「私は二人のパーティーに入れて貰った身だから、二人の意見に従うわ」

 

 それに続く様に、シリカとシノンも自分達の意見を述べる。内容は他人任せなものではあるが、二人の表情からは嫌気や反感といった負の感情は見受けられないので、大丈夫だろう。

 

「俺も、構わない…かな」

 

 最後にキリトも賛同。俺同様に人付き合いが得意ではないが故に迷っていたのだろうが、どうやら割り切った様だ。

 

「んじゃ、満場一致って事で、改めて宜しくな!」

 

「ああ」

 

「ん」

 

「はい!」

 

「宜しく」

 

 こうして、五人に増えた俺達のパーティーは、先ずは各々の武器を購入する為に、裏道を進んで武器屋を目指すのだった。




 はい、連続投稿です。実は1話まで書き貯めていました。

 さて、此処までで二つの《もしも》が登場しました。
 一つ目のもしもは《シリカにお兄ちゃんが居たら?》。
 二つ目のもしもは《シノンがSAOに参加していたら?》です。

 実はこの作品のしののんにはとある大きな《もしも》が存在するのですが、それはまたいずれ。

 感想等に関しては、可能であれば返させて頂きます。
 ……その前に来るのでしょうか?

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