ソードアート・オンライン 〜The Parallel Game〜 《更新凍結、新作投稿中》 作:和狼
……そんな思考が浮かぶ今日この頃、ようやく書けた第十話です。
それではどうぞ。
二○二三年五月十三日、第二十五層迷宮区の最上階――ボス部屋の前。今そこには、第二十五層のボスを攻略せんと参加した多くの攻略組プレイヤー達が集結している。
皆一様にその表情を真剣なものにし、HPの回復、装備の最終確認など、これから挑む戦いに向けての準備に集中している。
「諸君……この扉の向こうが、ボスの待ち受けている部屋となっている。……全員、準備は良いかね?」
ボス部屋の大扉を背にして攻略メンバーの先頭に立つ、今回のボス攻略のリーダーたるヒースクリフの言葉に、攻略メンバーはそれぞれに頷き返す。それを一通り見渡したヒースクリフもまた一つ頷くと、扉の方へと向き直り、扉に手を当てる。
「では……行くぞ!」
「「「おうッ!!!」」」
そして押し開ける。扉がゆっくりと開いて行く中、プレイヤー達は各々の武器を抜いて臨戦態勢を取り、扉が開き切るのを待つ。そして――
「――戦闘、開始!」
扉が完全に開き切ったのと同時に掛けられたヒースクリフの号令を合図に、およそ百人ものプレイヤーがボス部屋の中へと雪崩込んだ。
そして数秒後、部屋の周りを囲う様に並び立つ大小二種類の石柱に明かりが灯り、部屋の全貌が明らかとなる。床は大きな石柱を頂点とした巨大な正八角形となっており、周りの壁は十メートル以上上の天井まで垂直にそそり立っている――所謂正八角柱の形である。そして、その部屋の中央には、高さ五メートルは有ろうかという黒くて巨大な岩の様な塊が鎮座しており、得も言われぬ威圧感を放っている。すると……
「な、何だ…!?」
突如部屋全体を激しい揺れが襲い、誰かが何事かと思わず声を上げた。
「き、来ます! ボスです!」
「ボス…!?」
「目の前の巨大な岩の塊です!」
その揺れの正体は直ぐに判明した。そう、目の前に鎮座していた巨大な岩の塊――その正体は第二十五層のボス――が動き始めたのだ。どうやらうずくまっていたらしいボスは、部屋を揺らしながらその巨大を徐々に起こして行き、数十秒掛けて部屋の中央に直立した。その高さ……およそ十メートル。
「で、でかい……」
そのあまりの巨大さに、誰かが思わずそう呟いた。恐らくこの場に居る全員が、そのプレイヤーと同じ気持ちだろう。
「ゴオオオオオオオォ――!!」
次の瞬間、部屋を揺るがしかねないボスの巨大な咆哮が遥か上空から降り注ぎ、ボスの中程の高さの辺りにボスのHPと名前が表示された。《The Heavycrag Golem》――巨岩のゴーレムと。
「――全軍、攻撃開始!」
「「「う、うおおおおおォ――!!!」」」
ボスの咆哮に一瞬威圧されたプレイヤー達だったが、ヒースクリフの号令によって我を取り戻し、気持ちを切り替えて果敢にボスへと挑んで行く。
今此処に、攻略組プレイヤー達と第二十五層フロアボス《ザ・ヘビィクラッジ・ゴーレム》との激闘が始まった。
◆ ◆ ◆
第二十五層のフロアボス《ザ・ヘビィクラッジ・ゴーレム》との戦闘が始まってから、既に十分以上が経過した。だが、未だにボスのHPは五本有るゲージのうちの一本どころか、一本目の半分も削れていない。その理由は至って簡単……
「堅過ぎんぞ、こいつ…!」
そう……堅い、堅過ぎるのだ。事前の情報で攻撃が効かない事は覚悟していたが、これは思っていた以上にきつい。しかも、攻略が難航している理由はそれだけではないのだ。
「ゴオ……」
「来るぞ! 総員退避して衝撃に備えたまえ!」
「オオオオオォ――!!」
振り下ろされるボスの攻撃を充分な距離まで引き付けてから回避し、ボスの攻撃が床に衝突する瞬間にタイミングを計って跳び上がる。直後、ドゴオォンという轟音が部屋中に響き渡り、着地した途端に軽く足元がふらついた。
そう、攻略が難航しているもう一つの理由というのは、ボスの攻撃によって起こる揺れが原因なのだ。ボスの攻撃一撃一撃があまりにも重い為に、ボスの攻撃が振り下ろされる度に部屋中が揺れ、数秒程だが上手く動く事が出来なくなってしまうのだ。しかも、ボスとの距離が近い程揺れの大きさが強い為に、転倒の可能性を考えると迂闊に近づく事が出来ず、どうしても距離を空けてしまいがちになるのだ。
「今だ! 総員突撃!」
とは言え、第二層のフロアボス――《ナト・ザ・カーネルトーラス》、《バラン・ザ・ジェネラルトーラス》、《アステリオス・ザ・トーラスキング》の攻撃の様に、衝撃を受けてスタンや麻痺状態になるという訳でもないので、揺れさえ治まれば一気に攻撃に転じる事が出来る。それにだ……
「テツオ、エギルさん、マースさん……攻撃宜しく! 他はとにかく“弱点”らしき物を探してくれ!」
俺達だって、ただ闇雲に攻撃をしているという訳でもない。
普通に攻撃しても駄目だというのならば、何かしら有効な攻撃方法が有るはずなのだ。そう考えた俺は、その有効なダメージを与えられる箇所……つまりは弱点を見付けるべく、メイサーのテツオ、両手斧使いのエギル、そして新メンバーである両手剣使いの巨漢《マース》の三人にボスへの攻撃を任せ、残りの黒猫団メンバーと共にボスのターゲットを取りつつ、ボスを攻撃しながら弱点を探しているのだ。
「ジュン君、テッチさん、イヴさん達も、攻撃お願いします!」
これにはスリーピング・ナイツや風林火山……連合軍の全プレイヤーが協力してくれている。
因みに、スリーピング・ナイツからは大剣使いの小柄な少年《ジュン》、シールドとメイスを持った細目の巨漢《テッチ》、両手斧使いの細身な少女《イヴ》の三人が、ランちゃんの指示で攻撃役に回っている。
「ゴオ……」
「ちっ! 攻撃が来るぞ! 全員退避だ!」
すると、先程の攻撃からようやく体勢を元に戻したボスが、再び攻撃を振り下ろそうと構えを取る。それを見た俺は、黒猫団やスリーピング・ナイツ、ボスを攻撃せんと前に出て来たプレイヤー全員に聞こえる様に声を上げた。
「……試しに登ってみるか」
「あ! ならボクも!」
「……え?」
そうして、ボスの攻撃範囲から離れようと走っていると、すれ違い様にキリトとユウキの二人が何かを呟いたのが聞こえた。……気のせいでなければ、登ってみるとか聞こえた様な気がしたのだが…? え? 登ってみるって…まさか……。
「オオオオオォ――!!」
そんな事を考えていると、ボスの攻撃がいよいよ床に衝突しようとする。殆どのプレイヤーが後退して揺れに備えようとしている中、キリトとユウキだけはボスへと突っ走って行き、そして――
「はあっ!」
「やあっ!」
――ボスの拳が床に激突する瞬間に跳び上がり、ボスの腕の上に着地。そのままボスの腕の上を駆け上がって行った。
「なぁっ…!?」
「「「えええええェ――!?」」」
その光景に、俺を含めた殆どのプレイヤーが驚愕の声を上げる。
「えっ…!? ちょ、ユウキ…!?」
普段は落ち着いているランちゃんも、これには流石に冷静さを欠いて驚いている。
「はあ……。まったく」
そんな中で、唯一シノンだけが落ち着いて次の行動に移ろうとしている。恐らく、彼女はキリトのああいった行動を見慣れてしまっているのだろうか。
「……っと。皆…俺達も行くぞ!」
「「「お、おうッ!」」」
とにもかくにも、何時までも茫然と突っ立っている訳にもいかないので、気を引き締め直して再び行動を起こす。ひたすら攻撃して、弱点となる箇所を探し続ける。
「ゴオォッ…!?」
上の方ではキリトとユウキがボスの顔……恐らくは眼を攻撃した様で、ボスのHPが今までよりも大きく削れた。
今の攻撃……ボスの動きがゆっくりであるが故に何度か繰り返す事は可能だろうが、ボスの頭まで到達するのに時間がかかるであろう事から、ダメージ量を考えても効率はあまり良くない。加えて、恐らくあれを出来るプレイヤーは限られて来るであろうから、有効な手段とは言い難いだろう。
因みに、俺の場合は無理だ。それはステータス的な理由ではなく、心理的な理由…………つまるところ、俺は高所恐怖症なのだ。故に、仮にステータス的に可能であったとしても出来ない……いや、やりたくない! たとえ此処がゲームの中であっても絶対に嫌だ!
「「よっ…と」」
それはさておくとしてだ。
ボスの眼を攻撃し、ボスの身体を伝って下りて来たキリトとユウキは、床を転がって受け身を取る事で無事着地に成功。……ユウキは、駆け寄って行ったランちゃんからお小言を貰っている。
「どうだった? 何か見付かったか?」
「いや、特にこれといった様なものは無かったよ。せいぜい身体の至る所にひびが有った程度だ」
キリトの許に駆け寄った俺は、彼にボスの弱点の有無を尋ねるが、どうやらめぼしいものは無かった様だ。
それにしても、ひび…ねぇ。俺も気付いていた事だが、確かにボスの身体には至る所にひびが見受けられる。これは俺達が喰らわせた攻撃によるものではなく、最初っから有ったものだ。距離故に下半身のものしか見えなかったが、どうやら上半身にも有ったらしい。
「……まさかな」
そこまで頭の中で整理した俺は、此処でとある一つの可能性に思い至り、一番近い(低い)箇所――左の下腿の前内側の中点に有るひびを見詰める。……試してみる価値は有るかもしれない。
「ゴオ……」
これからの行動が決まったちょうどその時、再びボスが攻撃の構えを取った。それに反応して他のプレイヤーがボスから離れて行く中、今度は俺がボスの許へと駆け出す。
「何か分かったんだな?」
「確証はねえがな。とりあえず、ボスのひびを狙ってみてくれ」
「了解!」
「オッケー!」
俺が駆け出したのを見て、恐らく俺が何かに気付いたのだと思い追い掛けて来たのであろうキリト、加えてユウキに攻撃の狙い所を教え、俺は剣を右肩に担ぐ様に構えて攻撃の姿勢を取る。
「オオオオオォ――!!」
そして、ボスの拳が再び床と衝突する瞬間、キリトとユウキが先に跳び上がり、少し遅れて俺も跳び上がる。キリトとユウキは再びボスの腕の上へ。そして俺は、本来の敏捷力では有り得ない加速度を背中に受け、剣を鮮やかな黄色い光に包んで斜め上空――ひびの有るボスの左の下腿の前内側へと飛ぶ。
片手剣突進技《ソニックリープ》。同じ突進技の《レイジスパイク》よりも射程は短いが、その代わりに軌道を上空にも向けられる技だ。
「ゴオォッ…!?」
俺の攻撃が見事にひびに突き刺さると、ボスの悲鳴とも取れる様な声と共にボスのHPがより大きく削れた。
「ゴオッ…!? ゴオオオオオォ――!?」
更にぐんっ、ぐんっとHPが一気に減少し、その度にボスが悲鳴の声を上げる。恐らく二人が攻撃を喰らわせたのだろう。
複数有るが故に見落としていたが、どうやらこのひびがボスの弱点で間違い無いらしい。やはり攻撃出来るプレイヤーは限られて来るが、それでも与えられるダメージ量を考えれば有効な手段と言えるだろう。
「ボスの弱点を見付けたぞ!」
「おおっ! マジか!」
「ああ! ひびだ! ボスの身体の至る所に有るひびを狙ってくれ! 出来る奴だけで良い!」
ボスの身体から離れて上手く着地した所で、俺は攻略メンバーへ向けてボスの弱点を大声で告げる。
「なら、私の出番の様ね」
すると、近くに居たシノンが突然メニューを開いて手早く操作をし始め、それが終わると、彼女の上半身と腰に合計三本のベルトが巻かれた。そのベルトには、彼女が主武器として使っている短剣よりも確実に劣るであろう武器屋の短剣が何本も吊されている。
これは、シノンが使う戦法のうちの一つ……その為の装備だ。成る程、これならば少ない人数でもボスに有効なダメージを与えられるだろう。
「はあっ!」
シノンはベルトに吊された短剣の一本を手に取り、槍投げの如く逆手で構えて振りかぶると、朱色に包まれたそれをボス目掛けて思いっ切り投げた。
「ゴオォッ…!?」
見事にボスの右膝の上内側に有るひびに突き刺さった短剣はボスのHPを更に大きく削り、尚も突き刺さったままじりじりとHPを削って行く。投剣スキル中級技《ストライクシュート》。投剣スキルの中でも筋力値を要する技で、筋力値が高ければ高い程威力が上がるのだ。
そう、シノンは短剣スキルとは別に、投剣スキルも上げていたのだ。しかもそれは保険の為のものではなく、確りと狙って確実に命中させるという、充分にメインスキルたり得るものなのだ。それにより彼女は、近距離と中距離の二種類の攻撃が可能なのだ。
「やあっ!」
《ストライクシュート》が冷却中な為に、投剣スキル基本技の《シングルシュート》でひびを狙うシノン。左の腿の前外側に命中したそれは突き刺さる事は無かったが、HPを大きく削る事は出来た。
「もう一発!」
そして、冷却時間が終了したのであろう《ストライクシュート》を、先程放った箇所へと再び放つシノン。今度は突き刺さったそれは、三度ボスのHPを大きく削る。
それにより、今まで蓄積していたダメージも合わせて、ようやくボスのHPゲージが一本消えた。
――次の瞬間だった。苦難の末にようやくゲージを一本消す事が出来た事を喜ぶ俺達を、思わぬ攻撃が襲ったのは……。
意外にも長くなってしまった……。
という訳で、まだまだ書きたい内容が残っていますし、どのくらいの量になるのか見当が付かないので、ようやく一本目が消えたという所で、後半に続かせて頂きたいと思いますます。
しばらくお待ち下さいませ〜。
キバオウ「何でやあああァ〜〜!?」