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「全員そろってますね~?それでは、ホームルームを始めますよ~!」
黒板の前で、この1年1組の担任の教師
だが、クラスにいる生徒の殆どが無視しているので、既に涙目になってしまっていた。
本来なら注意するべき問題なのだが、今回ばかりは仕方ないとしか言い様がない。なぜならば、本来なら女子校のIS学園に三人の男がいるのだから。
その三人の中の二人、本宮大輔と八神太一は名前順の席のため大輔、太一の順番で並んで座っている。けれど、最後の一人、織斑一夏は大輔たちとは真逆の位置で一人目立っていた。
想像以上の女性徒からの視線に、緊張し過ぎている一夏とその視線を後ろの席のためあまり受けてない大輔と太一はホッとしながら、一夏に同情の視線を送っているのだった。
そんな中、自己紹介が行われていく。
そして、一夏の番になったのだが、一夏は気づいていなかった、
「織斑くん?お~り~む~ら~く~ん~?」
「えっ…は、はい!」
「ごめんね?自己紹介、【お】で織斑くんの番なの」
「わ、わかりました!」
立ち上がった一夏は、緊張のせいか油の切れた人形のようにカクカクとした動きで壇上に上がり生徒たちの方を向いてくる。
うつむいていた顔を上げた一夏は、こっちを凝視してくる女性徒たちに引き気味に一歩後ずさったが直ぐに立ち直る。
「えっと…俺は、織斑一夏です!」
そこで、言葉がなくなってしまった。
一夏はこれで済ませようと考えていたのだが、ほかのクラスメイトたちがもっとないのか?という視線を送ってくる。
先程の言葉以外考えてなかった一夏は、困り果ててしまう。それに見かねた太一は、自身のノートに趣味・特技・一言と書き一夏に見せるのだった。
それを見た一夏は、太一に感謝の視線を送るのだった。
「趣味と特技は料理です。これから一年、よろしくお願いします!」
『よろしくお願いします!』
そう言って、教卓から離れようとすると、一夏の前に誰か立っていたのだ。
下を見るように歩き始めていた一夏は、顔を上げると目の前に黒い何かが迫ってくるのがわかった。
バシンッ!といい音をたてるそれ。
痛みのあまりに悶える一夏だったが、聞き覚えのある声を聞くのだった。
「貴様は、誰かの手助けがないと満足に自己紹介もできないのか?」
「………千冬姉?」
「織斑先生だ。終わったのならとっとと席に付け」
「はい…」
どうやら一夏の頭を叩いたのは、出席簿だったようだ。
一夏にとって、今まだ職業不明な姉がこんなところで教師をやっているのに驚きだったが、ある意味納得もいっていた。
それは、ISについて知識があまりない大輔や太一でも納得行くものだった。
「さて、諸君。私は担任の織斑千冬だ。まだひよっこである諸君らを一人前に育てるのが私の仕事だ。これから、半年でISの知識を。もう半年で実技を学んでもらう。無論、その期間内に覚えるように努力することを忘れるな。そして、私への返事はYesかはいの二択のみだ。いいな」
(((それはどこの軍隊なんだ?)))
担任の自己紹介、つい男子たちの思考が一つになった。
こうまで一方的に話して、反論の一言でも出ないのか不思議に思うのだった。
だが、現実は違うのだった。
「きゃ~~~、千冬様よぉ~~~~!」
「IS学園に入れてよかった~~~~!」
「千冬様に逢う為にIS学園にきました!北九州から!」
等等、文句どころか絶賛する生徒ばかりだった。
「はぁ…何故、毎年貴様らのような馬鹿どもが私の担当になるのだ…」
問題児ばかりで千冬は入学初日なのに、既に頭を抱え込んでしまっていた。
そんな様子に、どうにか静かにしようと真耶は声をかけるのだが案の定聞いてくれなかった。
それを見かねた太一は人知れず溜息を吐き、何度か手を叩きこちらに注意を惹きつけるのだった。
「はいはい、静かにな。いきなり男に仕切られるのはいい気分じゃないだろうけど、先生方が困ってるから少しの間だけど我慢してくれ」
『はい!』
いきなり仕切り始めた太一に驚く千冬だったが、それに従う女性徒たちにも驚きを覚えた。ISが広まることで出来てしまった女尊男非の風習。IS学園はそんな風習のせいで、そういった思考の生徒や教師も少なくない。けれど、太一はいとも簡単に女性徒たちを静かにさせたのに千冬は驚きとともに太一のリーダーシップに目を見張るものがあると理解した。
ちなみに、真耶は自分の言うことは聞いてくれないの太一の言うことは順応に聞いてくれたことに落ち込むのだった。
「フッ…そういえば、そろそろホームルームが終わる時間だな。最後に、本宮。八神。お前らが、自己紹介をしろ」
いきなりの名指しで、驚く大輔とやっぱりか…と思う太一。
ある程度予測していた太一はともかく、このまま流せると思っていた大輔は若干落ち込むのだった。
だが、そんな大輔に太一は耳打ちする。
「なぁ、大輔。後でクラスメイトたちに囲まれるのと、今自己紹介してそれを防ぐのどっちがいいんだ?」
「も、もちろん!防ぐ方っす!」
「だったら、後で何か聞かれないようにしっかり自己紹介しないとだぞ」
「は、はい」
落ち込んでいた大輔だったが、太一の言葉を聞いて背筋をピンと伸ばした。
既にもう、動物園にやってきた珍しい動物のように見られているが、それに加え質問攻めになっては身が持たない。やる気を出すのも当然だろう。
まだぎこちない動きで大輔は、落ち着いたように太一が教壇に立つ。
「お、俺は本宮大輔。お台場中出身。趣味は料理で特技はサッカー。こ、これからよろしく」
「俺は八神太一。一応高校は卒業してるがISを動かせた事でIS学園に入学することになった。みんなと違って、年は上だけど気にせず話しかけてくれ。趣味は特にないが、特技はサッカーだ。大輔とは元いた中学とは先輩後輩関係だ。こっちもこれからよろしく」
『こちらこそ、よろしくお願いします!!』
大輔と太一の自己紹介が終わると、一夏の時のように周りのクラスメイトからの返答があった。
その息の合いぶりに、若干押され気味になりつつも二人は席に戻るのだった。
それと同時に、授業の終わりのチャイムが鳴り響く。
「これにて、ホームルームは終了だ。各自、休み時間のうちに次の授業の準備及び予習は済ませておけ。解散!」
千冬の号令とともに、ホームルームは終了するのだった。
* * * * *
休み時間に入り、一夏は一人の女性徒と共に屋上に来ていた。
「久しぶりだな、箒」
「ああ。久しぶりだな、一夏」
その女性の名前は
「にしても、直ぐにわかった。あれから何年も経ってるのに何でだろうな」
「さ、さあな。そんなもの私が知るか」
笑顔で問いかける一夏だったが、箒は目を背けながらぶっきらぼうに答えていた。
一夏からしたら、この箒の態度も懐かしいと思っている。
元々箒は、人付き合いの良い性格ではないがそれが知り合いでもそうか?と聞かれると違うと答えれる。なのに、久しぶりに再会した一夏に対してのこの態度だが、単に箒は照れているのだった。幼い頃、恋心を抱いた一夏が変わらない笑顔で。それも、何年も逢ってない自分に直ぐに気付いてくれた事に。
「そういや、剣道の全国大会で優勝したんだってな。おめでとう」
「な、なぜ知っている!?」
「いやだって、普通に新聞で書いてあったぞ?」
「なぜ新聞を見ている!?」
「いや、見てるもんは仕方ないだろ」
実際、初めて聞く人にとっては理不尽な言い方だが、幼い頃と変わらないので一夏にとっては慣れっこである。
箒も内心では嬉しいのだ。ただ、素直に言葉が言えないのだった。
「さて、教室に戻るか。席に着いてないと千冬姉に折檻を食らっちまう」
「………なぁ、一夏」
担任である姉からのお仕置きを逃れるために、教室に戻ろうとする一夏だったが、箒は呼び止めるのだった。その表情は、さっきまでの照れていた表情とは違う。真剣な表情をしていた。
「タツノオトシゴを、どう思う?」
「た、タツノオトシゴ?さぁ?水族館とかには行かねーし…そもそも、水族館にいるのか?」
「いや……どうも思わんのならいいんだ」
「そうか?それじゃ、早く行こうぜ」
「………ああ。直ぐに行く。先に行っててくれ」
箒の真剣な表情に、今自分は立ち寄ってはいけない事を感じ取った一夏は「わかった」と一言告、屋上を後をするのだった。
残された箒は、落下防止の手すりに手を置き、空を睨みつける。
「一夏は……まだ、アイツの記憶が戻ってないのだな。………なぜ、一夏の記憶を消したのだ、姉さん」
その言葉に、返答はなかった。
そう口にした箒は、屋上を後にするのだった。こちらを見ていた監視機器に気付かずに。
* * * * *
とある研究所のようなところ。
そこのモニターには、先ほどの監視機器から送られてきた映像と音声が流れていた。
それを見ている一人の女性がいた。
その女性は、ただ独り言のように呟く。
「もうすぐだよ…もうすぐ、あの子はいっくんの元に戻ってくる。その時が、いっくんの記憶が戻るとき。…………だから、まだ今は待ってて箒ちゃん」
返答のなかった箒の言葉は、別の地で。本人には聞こえていないが、返答はあったのだった。