デジモンアドベンチャー~Future~   作:優雅

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第10話 大輔の夢とイギリスの代表候補生登場

鳥の鳴き声が何処からか響く中、簪は目を覚ました。

 

「ん……ここ、どこ…?」

 

何度か目をこすり、眠気を払おうとする簪。

目に入った見慣れない部屋に疑問を持つのだったが、ここがIS学園の寮の部屋だとわかるのに、少しだけ時間がかかるのだった。

しばらくして、完全に目を覚ました簪は隣のベットに目を向ける。

そこには、ルームメイトであり、好意を抱いている相手、本宮大輔がいると思っていただ、ベットの中は無人だった。シーツに触れるが、冷たく大輔が起きてからそれなりに時間が経っている事が分かる。

一緒に朝を迎えれると期待していた簪は、少し気落ちしつつもシャワーを浴び、髪を整えるのだった。

 

「かんちゃ~ん!朝よ~!」

「あ…おはよう、お姉ちゃん」

「おはよう!ほ~ら、太一さんも!」

「お、おう。おはよう、簪」

「おはようございます、太一さん」

 

制服に着替え、食堂に行こうと思った簪だったが、扉を開ける前に姉の楯無と簪にとって先輩である太一がやってきたのだった。

扉を開け、ハイテンションな楯無に対し、太一は大輔もいるとは言え女の子がいる部屋に入るのに躊躇いがあったが、楯無に無理やり入らされるのだった。

 

「あれ、大輔の奴は?」

「起きたらいませんでした…」

「む~、大輔くん。かんちゃんを起こしてあげればいいのに」

 

どうやら太一たちも大輔の居場所を知らなかったようだ。

まぁ、大輔も子供ではないのだしほっといても学校に間に合うだろうと考え、3人で食堂に向かうのだった。

 

「あ~~~!かんちゃんだ~~~~!お嬢様とたっくんもいる~!」

 

食堂に向かう最中、三人の後ろから間延びした声が聞こえた。

振り返ると、こちらに向かって手を振っている布仏本音の姿が見えた。

手を振りながら走ってこっちに向かっている姿は、どこか小動物チックで子供のようにも見え微笑ましさがあった。だが、ただ一人。簪は少し睨むように本音を見つめていた。

 

「おはよう本音……昨日のはわざとだよね?」

「ん~?なんのことかな~?」

「あら?かんちゃん、昨日何かあったの?」

「な、なんでもない!」

「本当に~?」

「こら、楯無。簪が嫌がってるだろ?」

 

昨日、寮に入ってきた大輔にバスタオル一枚の姿を見られたのが本音の仕業だとわかっていた簪は、問いつめるものの本音はのらりくらりと躱すのだった。それどころか、楯無に興味を持たれてしまった。やはり、他の人にあの事を言うのは恥ずかしいから、なんでもないとごまかすのだった。

こちらの態度で、興味が増したのかしつこく質問する楯無を太一が鎮めている。

そんなやり取りをしながら、食堂に入った一同。

だが、入って直ぐに固まってしまったのだった。

一同の視線の先には、人だかりができている。だが、見ているのはその先。そこには………

 

「ラーメンセットと和食定食できたっす!」

「あいよ!焼き魚定食、お願いね!」

「はいっす!」

 

厨房で食堂の職員の方と一緒に料理をしている大輔の姿があったのだった。

なお、この人だかりは料理中の大輔を見ていたのだ。見ていた女性徒の反応はというと…

 

「う、嘘…すごい手際いい!」

「それだけじゃない、すっごいおいしいよ!」

「うう…女として負けちゃいけない勝負に負けた気がする…」

 

と、驚きと好評の声が上がっていたのだった。

だが、ここまで人だかりが出来ていたら料理の受け取りもできない。そんな彼女らを叱るものはいるのだった。

 

「貴様ら…そんな所にいては、料理の受け取りができんだろう!用がないものは去れ!」

「すみません、離れてくれないと受け取りが…」

 

大輔と太一、本音のクラスの担任である千冬と副担任の真耶がやってきては注意を促していたのだった。

二人のおかげで、先ほどまでできていた人だかりはみるみる少なくなっていくのだった。

というか、何気に大輔が作った料理をこの二人は受け取っているのだった。

さすがにこのままでは邪魔になると思った簪たちは、食券を買い、料理(大輔作)を受け取るのだった。それと同時に、自身の朝食を持って大輔も厨房から出てくるのだった。

 

「あ、おはようございます!太一さん!楯無さん!簪ちゃん!本音ちゃん!」

「おう、おはよう大輔。つーか、お前は朝っぱらから何やってんだ!」

「い、痛い!痛いっすよ、太一さ~ん!」

 

先ほどの驚きの腹いせか、やってきた大輔にヘッドロックをかける太一だった。

 

「何って…ちょっと料理してただけっすよ~」

「もう、驚いたんだからね。でも、一体何時から料理してたの?」

「ん~、5時30くらいからっすね」

「……そんなに早くから料理してたんだ」

「でも~、なんでだいちゃんが料理してたの~?」

 

本音の疑問ももっともである。学園に入学した次の日には、厨房で職員と一緒に料理をしているなど、世界中で何人いるだろうか。

その本音の疑問に、大輔はあっけからんと答える。

 

「あ~。ほら、俺って料理が趣味だからさ。朝食も自分で作りたかったんだよ。そんで、おばちゃんたちに材料を使わせて欲しいって言ったら、手伝えばくれるってさ。料理好きだし、嫌じゃなかったから」

「まぁ、大輔の料理はヤマト以上に美味いからな~」

「うん。料理に関しては、私も大輔くんに及ばないな~」

「そ、そんなに凄いんだ…」

 

年上二人組の好評に簪は純粋に驚いていた。

太一の評価では、ヤマトという人物がどれほどの腕前なのか知らないためわからなかったが、何でも万能にこなせる楯無が勝てないという事にかなり驚く簪と本音だった。

どれほどの腕前か気になった二人。簪は塩ラーメンを。本音はチョコパフェを口にするのだった。

 

「ッ!!!すごい美味しい!!」

「ほんとだ~!こんなに美味しいの初めてだよ~!!」

 

どこかの美食家のような、オーバーリアクションは取らないものの、二人の評価に大輔は満足気味だった。

 

「あったりまえよ!料理に関しては、一切の妥協もしないからな!」

「ホントに凄い……大輔さんは、ずっと夢に向かって努力してたんだね」

「ふぇ~~、だいちゃんの夢って料理人なんだ~」

「あはは、料理人つーか…ラーメン屋な。ってか、簪ちゃん。俺の夢覚えててくれてたんだな。あれから結構経つのに」

「もちろん覚えてる。あの日の出来事………私の大切な思い出だから」

 

そう微笑んで言う簪に、大輔は顔を赤くするのだった。

だが、ここは食堂である。つまりは、他の目があるのだ。

その光景を、多くの生徒が好奇心に負け見つめているのだった。

その事に気づいた簪は、恥ずかしさのあまり耳まで顔を真っ赤にして俯いてしまうのだった。

 

「う~ん、なんか私たちって今空気ね~」

「仕方ないよお嬢様~。あそこまでいい雰囲気の二人を邪魔したくないですし~」

「つーか、早く食わないと遅刻するぞ」

 

二人の雰囲気のせいで、空気になっていた三人がいるのだった。

 

 

 

* * * * *

 

 

 

朝の騒動からしばらくして、既に2時間目の休み時間になっていた。

さすがに、昨日散々女性徒たちから観察されていたからか、幾分か慣れた大輔と太一と一夏。三人は集まって、次の授業の予習をしていた。

今までの予習のおかげで、だいたいは把握できている太一。夜に勉強したおかげで、なんとか理解できてきているがまだ余裕の無い大輔。一切予習ができなかったためか、理解できずに頭から煙を出している一夏。

三人の表情を見れば、平気かどうかはよくわかった。

そんな中、三人に声をかける女性徒がいた。

 

「ちょっとよろしいかしら?」

「ん?ああ、どうかしたか」

 

女性徒が話しかけてくるのを、余裕のある太一が反応していた。

大輔と一夏はというと、余裕の無さから勉強に集中し過ぎて気づいていなかった。

 

「まあ!私が声をかけた事ですら光栄ですのに、それ相応の態度があるのではないでしょうか」

 

明らかに上から目線の態度に、太一だけでなく大輔と一夏も動きを止めてしまった。

この女生徒は、まさしく今時の女性、女尊男非の思想に染まっているのだとわかりきっていた。太一や大輔の周囲には、その様な思想に染まった女性はおらず、苦手としているのだ。

 

「俺、お前のこと知らないぞ」

「知らない!?私を!?このセシリア・オルコットを!!?」

 

自分の事を知らないと言い切った一夏に、演技の様な表情ではなく心の底から驚いているといった驚き様を見せるセシリア。

その名前にピンとこなかったのは大輔も同じだったが、太一は違った。

太一は自身がIS学園に入学すると決まってから、仲間である泉光子郎にISについて調べてもらっていたのだ。何故、自分で調べないかというと、太一は機械が大の苦手だった。今では克服できたが小学生の頃は、壊れた機械は叩けば直ると考えていたし、大事な場面でパソコンをフリーズさせてしまうという苦い経験があるせいで、機械類、特にパソコンを使うときは誰かが近くにいないと使っていないからだ。理由の一つに、光子郎にみっちり勉強させられた事が若干、ドラウマになったのもある。他にも、世界各国にチャット仲間のいる光子郎なら多くの情報が手に入るというのも大きい。

その光子郎が調べてくれた情報の中で、イギリスの代表候補生にセシリア・オルコットという女性。それも、今年IS学園に入ると聞いていたので、知っていることができた。

 

「わるいな。名前は知ってたが、顔までは知らなかった。イギリスの代表候補生なんだろ?」

「あら?そちらの方は、まだマシみたいですわね。ええ、そうですわ。私はイギリスの代表候補生、つまりはエリートなのですわ。本来なら貴女方と会うことすらできないのですから、もっと光栄に思ったらどうです?」

 

そのセシリアの言葉に、大輔と太一は苦笑していた。

確かに代表候補生になれるのは、IS操縦者の中でもエリートだけだ。そこを考えれば、確かに光栄だと思える。けれど、彼らの知り合いには若干15歳にして、大国ロシアの代表というエリート中のエリートである更識楯無がいるので、そこまで光栄には思えていなかった。さらに言うなら、そんなISでトップクラスの実力を持つのに鼻にかけない楯無を知っているから、セシリアにはあまりいい感情を持てていなかった。だが、今は持ててないだけで、いずれはいい感情を持てるのではないかと期待していた。

 

「なあ、太一さん」

 

そんな中、一夏が太一に声をかけるのだった。

 

「どうかしたか、一夏?」

「だいひょうこうほせいって、何?」

「「だあぁぁぁぁぁぁぁ!!!?」」

 

一夏の疑問に、驚き太一と大輔はつい叫んでしまった。

よく見れば、周囲の女性徒たちも驚きのあまり転んでしまってる人もいた。それを聞いていたセシリアは目を点にしてしまって固まってしまっていた。が、すぐに再起動する。

 

「だ、代表候補生を知らないなんて…日本はそこまで後進的な国ですの?」

「いや、単純に一夏が知らないだけだ。てゆーか、一夏!代表候補生なんて、名前でわかるだろ!?」

「あ、そっか。ISの国家代表の候補生か。そりゃ、ラッキーだな~」

 

太一に言われて、言葉を思い出してみてやっと納得した一夏。

だが、その言い方は明らかに馬鹿にしているように聞こえた。そんな一夏に、思わず太一は溜息がもれた。

 

「ふ、ふん!まぁいいですわ!それよりも、貴方たちが泣いて頼むなら、私が色々と教えてさしあげましょうか?なんせ、私は入試で教官を倒せた二人中の片割れ!エリートですので!!」

 

一夏の馬鹿にしたような言い方に、顔を真っ赤にするもなんとか耐えながらそう述べた。体が小刻みに震えていることから、結構耐えているのだと分かる。

ちなみに、教官を倒したもう一人は簪である。

そんな中、下手なことを言わない方がいいと思った太一は口を閉じるが、気づかない者たちがいた。

 

「へぇ~、入試でそんな事してたんだ。俺と太一さんはやってないな。一夏はやったのかよ?」

「ん?あ~……やったっちゃやったな。一応、勝てたし」

 

大輔と一夏である。

しかも、一夏は思いっきり火に油を注ぐことを言ってしまった。

 

「あ、貴方も教官を倒したですって!!?」

「あ……いや、倒したというか、自滅したというか」

 

言ってから、やってしまったとやっと気づいた一夏だった。

何故一夏がこんな曖昧な言い方を言うかというと、一夏の相手は真耶だったのだ。真耶は男性に慣れてないため、一夏の相手をするときひどく緊張していた。その性で、開始と同時に突撃するもよけられ壁に激突して気絶してしまったのだ。一応勝ったことにはなっているものの、何もしてない一夏はそんな気はなかった。

どんどんとヒートアップしていくセシリア。そんな中、また一人の女性徒が近づいてきた。

 

「あ~、そういえばね~。だいちゃん。たっくん」

「本音ちゃん?どうしたんだよ?」

 

近づいてきたのは本音であった。

 

「お嬢様の伝言なんだけど~。二人の試験は、お嬢様とかんちゃんの模擬戦を提出して代用したんだって~」

「そうなのか?」

「うん~。すごいよね~、たっくんは国家代表のお嬢様に引き分けちゃうんだもん~。聞いたとき、私驚いちゃった~」

「お、おい、本音それを今言ったら!」

 

一瞬の静寂。

だが、直ぐさま女性徒たちの驚きの声で破られるのだった。

 

「こ、こここここ、国家代表に引き分けたですってぇぇぇぇ!!!?」

 

一番の驚きの声をあげたのはセシリアだ。

セシリア自身、今の地位に入れるのも血のにじむ様な努力をしてきたからだ。

それが、国家代表なんて今のセシリアでは逆立ちしても追いつかない地位にいる程の力を持つ者だ。同じ代表候補生なら、小馬鹿にしてやろうとしたセシリアだが、国家代表なら話は別だ。少なくとも、国家代表になれる実力者なら、代表候補生である自分など片手間で倒せてしまう程の実力者。そして、今目の前にいる太一はその実力に近いことになるのだ。

 

「お、覚えてらっしゃい!!!」

 

目の前の初心者だと思っていた、それも見下していた男が自分よりも強いかもしれない。その事実にプライドを傷付けられたセシリアは捨て台詞を吐いて席に戻ってしまった。

今だ騒がしい周囲に、大輔と一夏は動揺し、太一は溜息を吐いた。

そんな中、この騒ぎを起こした本音はというと。

 

「にっしし~~。だいちゃんも~、たっくんに追いつけるように頑張らないとね~」

「お、おう。そりゃ、太一さんは俺の目標だから頑張るさ」

「それでさ~。かんちゃんに手伝ってもらえば~?私よくかんちゃんに勉強を教わってるんだけど~、かんちゃんって教えるのがとってもうまいんだよ~!」

「そうなのか?けど昨日、簪ちゃんのヒーローでいられるように頑張るって言ったのに、頼るのはちょっとな……」

「大丈夫だよ~。かんちゃん。そういうことは気にしないよ~。むしろ、頼ってくれることに喜ぶと思うの~」

 

大輔に簪のアピールをしているのだった。

この騒ぎは、チャイムが鳴っても続いていた。

そして、この騒ぎをおさめるために、千冬による連続出席簿アタックが発動するのだった。

ちなみに、主犯と思われた太一、大輔、一夏にはスクリューチョーク投げが発動するのだった。


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