今回の話は案外すんなりかけました。
あれから、気絶した真耶を太一がおぶって保健室に連れて行き寝かせてから、三人で荷物を取りに行ったのだった。
「はぁ~…女子と相部屋か~…」
「そう落ち込むなって、一夏。きっと、織斑先生があまり問題にならないようにしてくれてるって」
「例えば、どんなのがあると思いますか、太一さん?」
「ん……やっぱ、知り合いと同室とかだな」
さすがは、太一というべきか。一夏と大輔の言葉に、次々と的確に答えていく。
太一の言う知り合い、という言葉に一夏は箒を。大輔は簪か本音を思い出していた。だが、太一はというと。
(楯無のことだ。IS学園生徒会長の権限を使って、色々としでかしてるだろうなぁ…)
と、既に諦めの表情を浮かべていた。
そんな話をしているうちに、太一の1002室、その隣の1003室につくのだった。
「そんじゃあ、一夏。また明日な」
「予習復習忘れんなよ」
「ああ!それじゃあな!大輔!太一!」
一夏と分かれた二人は、自身の寮室に入っていくのだった。
* * * * *
寮室に入った太一の最初の感想としては、拍子抜けだった。
あのイタズラ好きな楯無の事だ。入った拍子に何かしら、仕掛けてあるのだろうと考えていたが、何もなかったのだ。それどころか、部屋の電気も消してある。もしかして、まだ来ていないのか?と考えた太一は、照明のスイッチを入れるのだった。
「うぉ!?どうしたんだよ、楯無!?」
「………死んでる」
明かりが付いた部屋の中で、太一の目に真っ先に入ってきたのは白い着物に身を包んだ楯無だった。
明らかに雰囲気が暗く、ベットの上で正座している楯無。外にはねている髪の毛は、気のせいかしなだれているように見えた。
いつもと違う雰囲気に、驚きながらも荷物をおくのだった。
「ねぇ、太一さん。年上好きって本当?」
不意につぶやいた楯無の言葉。
いきなり、自分の性癖について聞かれた太一はバランスを崩しずっこけるのだった。
「どこから聞いてきたんだ、そんな身も蓋もない噂!」
「本当のこと言って太一お兄ちゃん!」
真っ先に疑われた。
「だって、噂じゃ太一お兄ちゃんが年上好き!それも、山田先生みたいなロリ巨乳好きだって流れてるんだもん!」
「誰だ!?そんな噂を流したのは!?」
「新聞部よ!」
「ちょっと新聞部に乗り込んでくる!」
「それに、太一お兄ちゃんが山田先生をおんぶしてるの見たもん!」
「あれは、山田先生が気絶したから保健室に連れてっただけだって!」
「それにそれに!山田先生に迫ってたんだもん!」
「一体、何時から見てたんだ!?」
傍から見ると、浮気した彼氏を問い詰める彼女という雰囲気を作り上げた二人。
そんな中、楯無の目から涙がこぼれてきた。
「太一おにいちゃんが…太一さんが山田先生にとられちゃいそうでこわくて……太一さんをみがってにどくせんしたがってるじぶんがいやになって…もうなにがなんだかわからなくて……」
独白する様に語る楯無。
太一は楯無が自分のことを自惚れかもしれないが好きじゃないのかと思っていた。けれど、それは依存でしかないと思っていた。
楯無が…刀奈が一番最初に出会ったのが太一で、ヒカリに向けていた過保護を刀奈に向けていたから刀奈が自分に依存していた。それは恋愛ではなく、親愛ではないのか?そして、その気持ちのまま楯無の気持ちを受け入れていいのか?
そう考えているせいで、長い間太一は前に進めずにいたのだ。
だからこそ、太一は決心する。立ち止まっていたせいで、今楯無が…刀奈が泣いているから。
太一は泣き崩れている刀奈を優しく抱きしめる。
「刀奈…ごめんな。俺、勇気なかった。勇気の紋章を持ってたのに、笑っちまうけどさ。お前の気持ちを勝手に兄に対する愛情だって決めるけて、前に進めなかった。まだ答えは出せないけどさ。俺は今、ここにいるから。誰にも取られずに、ここにいるから」
「うん。………ありがとう、太一さん」
それから数十分の間、楯無が落ち着くまで太一は抱きしめているのだった。
* * * * *
一方その頃、大輔は大輔で困った状況に陥っていた。
なぜなら、部屋に入り真っ先に目に入ったのはバスタオル一枚の簪だったからだ。
「っ~~~~~~~~~~~~~(声にならない声)!!!!!!!」
「わ、わりぃ!!!!」
耳まで真っ赤にした簪は大急ぎでシャワー室に戻り、大輔は全速力で後ろを向くのだった。
それからしばらくして、ピンク色の可愛らしいパジャマに身を包んだ簪と、それに対し土下座している大輔の図が出来上がっていた。
全力で謝り倒していた大輔を許した簪。今、お互いに顔を真っ赤にしながらそれぞれのベットに腰掛けていたのだった。
さすがに、視線を合わせれない二人。もちろん、それぞれ思う事があった。
(なんつーか、簪ちゃんの肌真っ白でキレイだったな。それに胸も意外と……って、何思春期のエロガキみたいなこと考えてんだ俺は!?)
(う、うぅぅぅ…どうして大輔さんがここに!?私は本音が同室だって聞いてたのに…そういえば、さっき本音が来たとき荷物持ってなかったし、先にシャワー浴びるようにいったのも本音だし、もしかして本音わざとやったの!?)
頭を抱えて悶える大輔に対し、簪は頭の中で「やったねかんちゃん!これで一歩リードだよ~」と笑いながら言っている幼なじみが頭に浮かんでいるのだった。
「な、なぁ!」「あ、あの!」
「あっ、か、簪ちゃんからどうぞ!」
「う、ううん!私は後でいいから大輔さんからどうぞ!」
気まずい雰囲気から抜けるために、何か話そうとするがお互いに声が重なってしまった。
そしたら、今度はお互いに譲り合う形になってしまった。偶然とは言え、こんなマンガやテレビの中で起こりそうなできことが起きて、お互いに笑い合うのだった。
「わりぃ、そんじゃ俺からな。残念だったな、同じクラスになれなくて」
「うん…でも、これは学園側が決めることだから仕方ないよ」
「そだよな~。まぁ、別なクラスなだけだしさ。なんなら、毎日一緒に飯食うか?」
「よ、喜んで!」
さっきまでの気まずい雰囲気はどこえやら、今では楽しげに話しているのだった。
結構甘い雰囲気を出す二人だが、お互いちゃんと知り合ってから、そんなに経っていない。
そのためか、お互いを知るための世間話が多かった。
「へぇ~、簪ちゃんと楯無さんは本音ちゃん以外にも、3年生に幼なじみがいるんだ」
「うん。本音のお姉ちゃんなの。そういう大輔さんこそ、お姉ちゃんと同じ選ばれし子供たちの中で何人かは同じサッカークラブで知り合いだったんだね」
「ああ。あんときゃ、俺もびっくりしたんだよな~。そういえば、なんで俺をさん付けなんだ?太一さんならわかるけど、同い年だろ?」
会ってからずっと疑問に思っていた、さん付けについて簪に聞くのだった。
すると、簪はもじもじと恥ずかしさを表すように答える。
「その…大輔、さんは私にとってヒーローで…憧れで…だからついさん付けしちゃうの」
「ヒーローって…俺はそんな特別なやつじゃないぜ?むしろ、賢の方が何でもできるし。ヒーローっぽいだろ」
「そうじゃなくて…大輔さんは、今まで他人の評価しか見てなかった私を変えてくれたから。ほかの誰でもない、大輔さんだから私はヒーローだって思ってるの」
「お、おう」
顔を真っ赤にしながらも、いい笑顔で語る簪に大輔も顔を真っ赤にしてしまう。
「だから、私は大輔さんのことをこう呼んでるの」
そう言い終えた簪は、恥ずかしい事を言ったのに気づき、また赤面してしまった。
大輔は突然立ち上がり、簪の前に立つと簪の両手を握った。
「だ、大輔さん!?」
「それじゃあ、俺も。簪のヒーローでいられるように頑張らないとな!」
無邪気な笑顔で大輔は告げるのだった。
その言葉と笑顔に、簪はフリーズしてしまう。
そんな簪に気づかず、大輔は「よっしゃ、やるぞー!」と腕を回しながらいい、勉強机に座り参考書を開くのだった。
ここで、二人の考えはすれ違っていたことを知らない。
大輔のあの言葉は、自身が今まで太一に憧れ、ヒーローのように思っていたのが、今度はその思いを受ける立場になったから出た言葉であったのだった。
鈍感な大輔は、先程の言葉が告白紛いなことに気づいていないのだった。
まさに、鈍感とは罪なのであった。