魔法少女リリカルなのはStrikerS 信念の刃 作:sufia
緊急出撃から数時間後
待機命令が解除になり、全員が通常勤務に戻り空もすでに暗くなっていた
「アイス~・・・!」
「だから、悪かったって・・・」
「諦めなさいって。緊急だったんだから・・・」
夕食後に外へ出てきた綾人、スバル、ティアナの3人
スバルは、綾人からアイスが溶けてしまったことを聞き、多いに落ち込んだ
「今度作ってやるから」
「ホントですか!?」
「あ、ああ・・・」
綾人の提案に、目を輝かせて聞いてくるスバル
尻尾があれば大きく振られていることだろう
「絶対ですよ!?」
「ああ」
とりあえず、スバルが元気になったので良しとすることにした綾人だった
「ん?・・・あれは・・・」
不意に横を向くと、小さい影が2つ見えた
「エリオにキャロ・・・? こんなところでなにを・・・って!?」
2人の様子に慌てて駆け寄る綾人達
「あ・・・スバルさん、ティアさん・・・綾人さん」
「どうしたの!?・・・エリオまで・・・」
「あ・・・いえ・・・」
「なんでも・・・なんでもないです・・・」
泣いていたようで、顔を擦りながら答えるエリオとキャロ
「そんな顔で、なんでもないこと無いだろ?」
「悩みごと?・・・私らでよかったら聞くわよ?」
「その・・・フェイトさんの・・・ことなので・・・」
キャロから出てきた言葉に、少しだけ思案顔になるティアナとスバル
「お母さん関係か・・・」
「あ~・・・私らだとちょっと弱いジャンルね・・・」
「す、すみません・・・」
顔を見合わせる2人にエリオが慌てて謝る
「謝んない! ほら、涙拭きなさい」
そう言って、2人にハンカチを手渡すティアナ
「あ、すみま・・・ありがとうございます・・・」
謝らずにお礼を言ってハンカチを受け取るキャロ
「2人とも、少しいいか?」
「「はい・・・?」」
後ろにいた綾人が声をかける
「エリオには前に言ったな? “話せることなら言ってくれればいい、話せないなら無理に聞く気は無い”って・・・」
「あ・・・」
前に、自分の秘密を話したときを思い出したエリオ
「2人が悩んで、それで答えを出そうとするのはいい・・・だが、それでも答えが出ないなら周りの俺達を頼って欲しい・・・確かに、俺達ではいい答えは出せないかもしれないけど、一緒に悩んでやることは出来るからな?」
「でも・・・」
人に迷惑をかけたくない・・・そう思っているのを汲み取った綾人は先手を打つ
「言っておくが、それを迷惑に思ったりはしない」
「「あ・・・」」
言おうとしたことを言えなくされ、2人も俯いてしまう
「話すだけで、気持ちもだいぶ楽になったりするんだ・・・な?」
「あの・・・えっと・・・」
エリオとキャロは少しずつ話していく・・・自分達が考えていること・・・フェイトに心配をかけないようにがんばっていることと、それに伴う悩みと迷い・・・
綾人、ティアナ、スバルは黙って聞き続けた・・・
「なるほどな・・・」
一通り聞き終えた綾人がそう呟く
「例えばだけど、フェイトさんが2人のことを嫌いになったとか、そんなことあると思うか?」
「ないと・・・思いますけど・・・」
綾人の質問に、自信無さ気に答えるキャロ
「そりゃそうだな。ありえない」
そんなキャロに綾人ははっきりと宣言する
「でもな? 2人がフェイトさんに心配かけたくないとか、無理を言いたくないとか、そんな風に考えすぎて、それで2人が無理をしてるんじゃ、フェイトさんは悲しいんじゃないか?」
「「あ・・・」」
綾人の言葉に、顔を見合わせるエリオとキャロ
「無理なんて・・・してないんですけど・・・」
「ああ。それも分かる・・・2人が本当に充実して、訓練とか仕事とかしてるのも近くで見てて知ってるしな?」
エリオの呟きに頷きながら答える綾人
「でもな? 子供が急にしっかりすると、距離を取られたとか、無理させてるって思うんだよ・・・多分な?」
「でも・・・同じ部隊の上司と部下ですし・・・」
公私の混同は出来ないと思っているエリオとキャロの2人
「ふむ・・・六課の説明の時に聞いたんだが、お前達が管理局に入ることを、フェイトさん最初は反対したんじゃないか?」
「あ・・・はい・・・はっきりとは言いませんでしたけど・・・こう、やんわりとは・・・」
「それな、多分心配な部分もあったかもしれないけど、こんな風に距離が出来るのも、なんとなく予想できたからじゃないのか?」
「「あ・・・!」」
2人は再び顔を見合わせる
「ま、2人で選んでフェイトさんも許可したんだから、その上で解決しなきゃな・・・」
「でも、どうするんですか?」
横で聞いていたスバルが聞いてくる
「そんなの・・・簡単だろ?」
ニヤリと笑い、2人にあるアドバイスをする綾人
【フェイトSIDE】
「ふぅ・・・」
仕事も終わり、六課に戻って来たフェイトは小さくため息を吐いた
シャーリーにも何度か聞かれたが、どうにかごまかしてやり過ごした
「お疲れ様です。フェイトさん」
女子寮の入口を潜ろうとすると、後ろから声をかけられる
「あ・・・綾人・・・」
振り返り、なんとか聞き返すフェイト
「どうしたの? こんな時間に・・・自主練?」
「いいえ・・・フェイトさんにお話が・・・少し、時間いいですか?」
「あ・・・うん・・・いいけど・・・?」
「それじゃ、少し歩きましょうか・・・」
そう言って、女子寮とは反対方向に歩き出す綾人とフェイト
「今日は・・・どうしたんですか?」
「どうって・・・何が・・・?」
「まだごまかしますか・・・まったく」
フェイトの返事を聞いて、わざとらしくため息を吐く綾人
「フェイトさんの様子がおかしいってのは、俺以外のみんなもわかってますよ?」
「あ・・・」
「あれで隠そうとするんですから、なんにも言えないですけどね」
「うぅ・・・」
綾人の言葉に、少しだけ小さくなるフェイト
「話してもらえませんか?・・・誰かに言うだけでも、大分楽になると思いますよ?・・・エリオとキャロも心配してますし・・・」
「う・・・うん・・・」
フェイトの悩み事はある程度理解しているが、あえて言わずに聞いてみると、フェイトも頷きながら話し始める
「その・・・エリオとキャロのことなんだけどね?・・・あの子達は、小さいときに私が引き取って面倒みてきたんだけど・・・昔から、その・・・不満とかワガママとか言わない子達だったんだけど・・・六課に来てから、ますますそういうの言わなくなって・・・」
「戸惑った・・・と?」
「・・・うん・・・最近では、“辛い”とか“大変”って表情も見せてくれなくなっちゃって・・・」
フェイトの説明を聞いて、その一言で確認する綾人
「私、いろんな本とか、桃子さんやエイミィとかに話を聞いたりして、勉強してるんだけど」
大量の育児書、そして、子育て関連の先輩達のアドバイスなどを聞きながらエリオとキャロの成長を見守ってきたフェイト
「子供が必要以上にいい子になっちゃうのって、その子が寂しくて、親に嫌われたくない、優しくして欲しいからだ・・・って」
「・・・・・・」
「いい子でいるその裏で、本当は色々無理して、我慢してるんじゃないかな?・・・って・・・私も、前の母さんのところにいたとき・・・そんなこともあったから・・・」
「なるほど・・・」
綾人はフェイトの昔の事情を知らないので、そう答えるしかない
「フェイトさん?」
「ん?」
歩くのを止め、フェイトの方を向く綾人
「エリオもキャロも、“もう”10歳ですし、“まだ”10歳です・・・少しくらい無理しても、いろんなことに一生懸命になりたい年齢です。それに、本当に苦しいと感じたら、誰かに頼る年齢でもあるんです・・・」
「うん・・・」
「これは、第三者である俺の意見ですが、エリオもキャロも毎日を本当に楽しく過ごしてます・・・訓練は確かに厳しいし、書類仕事も2人には難しくて大変だと思います。それでも、みんなと一緒に過ごしてて・・・今の生活は充実してると思いますよ?」
「そう・・・かな・・・」
「あの年頃になると、家族から離れていろんな事に興味を持つ年頃です・・・だから・・・」
一度言葉をきり、まっすぐにフェイトを見つめる綾人
フェイトも見つめ返す
「フェイトさんは今のまま、あの2人を見守るだけでいいと思います。そして、2人が本当に困っている時、悩んでいる時に、ほんのちょっと背中を押したり、道を示したりするだけでいいんだと思います」
フェイトが目を見開く
「少なくとも・・・俺の“母さん”ってそんな感じでしたしね?」
「あ・・・」
少しおどけて言う綾人
母親を小さい頃に亡くしている綾人・・・そして、わずかに残った母親の思い出からそう言っているのだ
「・・・ありがとう・・・綾人・・・」
「いいえ・・・あとは、どちらかというとフェイトさん自身の問題ですね・・・その辺はやっぱり・・・」
「?」
そう言って、フェイトにアドバイスをする綾人
【綾人SIDE】
フェイトと離れ、男子寮に向かって歩く綾人
「まったく・・・変なところで似たもの親子だな・・・フェイトさん達は」
そんなことを思いながら、小さく笑う
「さて・・・と・・・ん?」
そのとき、不意に顔をしかめ、頭を押さえる
「気の・・・せいか・・・」
そう言って、寮に戻っていった
【フェイトSIDE】
綾人との話の後、自分の部屋に向かって歩いているフェイトだが・・・
「「「あ・・・」」」
「フェイトさん・・・」
「エリオ・・・キャロ・・・」
曲がり角で、ばったりエリオ達と鉢合わせしてしまった
「「「あの・・・」」」
そして、何か話そうと3人が同時に口を開いた・・・
~なのは・フェイト・ヴィヴィオの部屋~
「「ん?」」
扉の開く音に、振り向くなのはとヴィヴィオ
「なのは・・・ヴィヴィオ・・・」
「フェイトちゃん?」
「フェイトママ?」
入ってきたのはこの部屋のもう1人の住人、フェイトだった
「あれ? エリオとキャロも一緒?」
「遅くにすみません・・・」
「すみません」
そのフェイトの後ろには、エリオとキャロが頭を下げていた
「あのね? ちょっとエリオ達とお話したいことがあるから・・・なのはとヴィヴィオ、先に休んでてくれるかな?」
「うん! 了解!」
「うん!」
フェイトのお願いに答え、ベッドから起き上がるなのはとヴィヴィオ
「3人でお話なら、こっちの部屋使っていいよ? ヴィヴィオ、まだ眠くないって言うし」
「眠くないよ~」
「あ・・・でも・・・」
「なんだか大事なお話みたいだし、待機中ならアレだけど、オフシフトなんだし・・・ゆっくりお話したらいいよ」
「あ・・・うん!」
何も言わずに察してくれる親友の気遣いに嬉しくなり、頷くフェイト
「じゃ、私とヴィヴィオ、今日は向こうの空き部屋使うから・・・」
「行ってきま~す!」
「ごめんね?・・・ありがとう、なのは・・・ヴィヴィオ」
「「ありがとうございます!!」」
部屋を出ていく2人に謝ると同時に感謝するフェイトと頭を下げているエリオとキャロ
なのは達が出ていったあと、ソファに座って向かい合うフェイトとエリオとキャロ
「えっとね・・・エリオ・・・キャロ・・・」
「「はい・・・」」
緊張しながら話し出すフェイト
エリオとキャロも緊張してしまっている
「あのね? 2人は、最近本当にしっかりしてくれて、いろんなことをちゃんとできるようになってくれて、すごく嬉しい。だけど、2人があんまりいい子すぎて、しっかりしすぎてて・・・」
「あ・・・あの!!」
フェイトの話に割り込むエリオ
「僕達は・・・僕達が心配かけてて・・・」
「それで、フェイトさんに大変な思いとか・・・寂しい思いさせちゃってるって・・・」
「え・・・ち、違うよ! 心配無さ過ぎて、大変じゃ無さ過ぎて困ってたんだよ・・・」
エリオ達の言葉に首を横に振りながら答えるフェイト
「私がちゃんと出来てなくて・・・だから無理してるんだって・・・」
「無理じゃないです!」
「一生懸命ではありますけど・・・無理なんかじゃないです!」
フェイトの言葉に首を大きく横に振るエリオとキャロ
「・・・私・・・2人の保護者でいられてる?・・・ちゃんと優しくできてないの・・・不満じゃない?」
「ふ、不満なんて・・・」
「「あるはずないです!!」」
不安な顔で聞いてくるフェイトに、声を揃えて答える2人
「フェイトさん・・・心配しすぎです・・・」
「私達・・・もう、ヴィヴィオみたいな小さい子供じゃないんですよ?」
「ワガママ言って困らせることしかできなかったあの頃から・・・変わっていきたいって思ってます・・・」
「少しずつでも・・・ちゃんとしていきたいって・・・2人でたくさん話しました・・・」
「あ・・・」
エリオとキャロの告白に・・・ハッとした表情になるフェイト
「でも・・・綾人さんに叱られました・・・」
「“2人がそうやって考えてることを、ちゃんとフェイトさんに言わないからだ”って・・・」
綾人の言葉をそのままフェイトにつたえるキャロ
「・・・私も・・・綾人に注意された・・・“2人と一緒にいたい、頼って欲しいんだってワガママを・・・ちゃんと伝えられてなから”って」
「あの・・・もしかして、綾人さんから解決方法とか聞きました?」
エリオが思い出したようにフェイトに聞くと
「・・・2人も、綾人から聞いた?」
「「はい・・・」」
「「「“3人で、じっくり話し合(って下さい)((え))”」」」
3人同時に、綾人から言われたことを伝える
「“まず、それだけで解決するから”って」
「“3人揃って、心配性で気遣いすぎで・・・”」
「“頑固でワガママで、すぐに周りが見えなくななる・・・”って」
綾人は、3人にまったく同じアドバイスをしていた
3人の絆・・・家族としての絆を信じていたからこそ、この言葉を伝えたのだ
「「「クスッ!!」」」
3人同時に吹き出し、笑い合う
「なんだ・・・同じだったんだ・・・」
「ですね・・・」
目に溜まった涙を拭いながら言うフェイトとエリオ
「じゃあ・・・じっくり話そう?・・・もう、こんなすれ違い方・・・しないように・・・」
「「はい!」」
「お茶とか欲しいね?」
「あ、じゃあ私が・・・」
「僕も・・・」
そう言って立ち上がろうとするエリオとキャロだが
「だ~め!」
フェイトがそれを止める
「2人は待ってて? なのはに教わったおいしい『キャラメルミルク』・・・私が作ってくるから・・・」
「「はい!!」」
フェイトの言葉に一瞬だけ戸惑ったが、すぐに顔を見合わせ返事をする2人
フェイトは、それを見て給湯室へ向かった
~給湯室~
2人のために『キャラメルミルク』を作りながら、綾人の言った言葉を思い出しているフェイト
数分前・・・
綾人のフェイトへのアドバイスは、少し付け加えがある
「子供を育てているようで、保護者も子供達に育ててもらってるんです・・・子育ては、子供の成長と共に、保護者も一緒に育って、勉強するものなんだと思います」
「そう・・・だね・・・」
「すれ違いもするし、時には喧嘩したりする・・・それが“家族”なんだって俺は思います」
「家族・・・」
綾人の言葉を刻んでいくフェイト
「だから・・・あの2人とじっくり話し合って下さい・・・2人の思い、それを聞いてフェイトさんの思いも聞いてもらってください?」
綾人にお礼を言って、そのまま別れたのだった・・・
「キャロはうんと甘めで・・・エリオはミルクたっぷり・・・と・・・よし! 出来た!!」
完成した『キャラメルミルク』を持って部屋に戻るフェイト
こうして、機動六課の小さな家族の小さなすれ違いは幕を閉じたのであった・・・
どうも
というわけでライトニング一家とのちょっとしたお話でした
アルフとリンディさんの部分を完全に食べちゃいましたね
家族を語らせたら『ファミリーコンプレックス』略して『ファミコン』の異名をもつ綾人君の右に出るものはこの小説にはいない・・・と思います
さて、では次回予告です
その日、機動六課にとある人物が訪れていた
「なにしてんですか?」
「おお、綾人君じゃないですか!!」
その人物は綾人のよく知る225隊の人物
それを知った“あの騎士”が動く・・・
「私と一度手合わせしていただきたい」
「構いませんが・・・一つ条件をだしてもよろしいですか?」
果たして結果は・・・?
次回、『225隊の若き分隊長』
彼女の最初の標的が、主人公とは限らない
次回はオリジナル回です