魔法少女リリカルなのはStrikerS 信念の刃 作:sufia
アグスタでの戦いの翌週
この日は綾人による2度目の教導が行われていた
「さて・・・今回で2回目になるわけだけど・・・対策はできたか?」
「・・・・・・はい」
綾人がティアナの顔を見ながらそう聞くと、ティアナもゆっくりと頷いた
「ふむ・・・それじゃ、早速はじめるか?」
「「「「お願いします!」」」」
すぐに返事を返すフォワード達
それを見た綾人は余程の自信なのだと少し嬉しそうにしていた
フィールドは、前回と同じく“森”
「それじゃ・・・開始!!」
なのはの合図と共に、綾人は前回と同じ様に木の枝に飛び乗り距離を取っていく
「さぁ・・・・・・どう出る?」
ティアナ達の行動を少し楽しみにしながら後ろを見ると
「この間と同じくエリオが先行か・・・で、スバルをその後ろに付けてティアナとキャロは相変わらず地上から追跡か・・・まあ、それが最初なのは当然か・・・」
綾人はエリオとの距離を詰めないようにしながら枝を飛び移っていく
しばらくした後、エリオは次の行動へと移る
真後ろからの追跡ではなく、回り込むように枝を移動し始めたのだ
「前と後ろで挟み撃ちか・・・スバルも慣れてきたか・・・移動に無駄がない」
スバルの動きも前回よりも良くなっていて、今回の行動はまだ評価できる
そう感心していた瞬間
「きゃぁ!!」
「何!?」
突然下からの悲鳴に驚き動きを止める綾人
そこには・・・
ティアナとキャロが地上から綾人を見上げていた(キャロに関しては少しだけ恥ずかしがっていたが)
「な・・・っ!?」
「はっ!」
すぐにティアナの狙いに気づいて後ろの枝に移動する綾人
そのすぐあとにエリオが飛び降り、綾人のいた枝に着地した
(やるなティアナ・・・俺の性格分かってるよ・・・)
苦笑いしながら心の中でティアナを褒める綾人
綾人は基本的に年下・・・いや、子供に甘い
そこで、ティアナは綾人から見れば(誰が見てもだが)子供のキャロに悲鳴を挙げさせ、一瞬だけ綾人の動きを止めることに成功したのだ
綾人自身この自分の性格を分かっているのだが、治そうと思うこともない
「まあ・・・これは評価に値するな・・・だが・・・」
「えぇい!!」
「これ以上はない!!」
後ろのスバルを確認する事なく頭上の枝に移動する綾人
そしてそのまま上に登る
「エリオ!」
「はい!!」
「ん?」
スバルの声に下を見ると、スバルが腰の前に手を置いてエリオの足を乗せていた
「まさか・・・ここで・・・?」
綾人の予想はしっかりと実現した
スバルは枝の上でエリオを垂直に飛ばしてきたのだ
「ちぃ!!」
身体を捻りながら後ろに移動する綾人だが、エリオに注意が行き過ぎていたために後ろへの警戒が少しだけ緩んだ
「キュク~!」
「え・・・?」
突如現れた白い影が綾人の胸元を掠めていった
直後に枝に降りた綾人は自分の胸元を見る
「・・・・・・あらら・・・」
しっかりと鈴が無くなり、そばに滞空していたフリードの口に咥えられていた・・・
その後、一度全員を集めての考察が行われた
「お疲れさん・・・・・・まさか2回目で持ってかれるなんてな・・・今月一杯はこれで行こうと思ってたのに・・・」
あっさりとクリアしてみせたフォワード達に感心しながらポロっと愚痴もこぼす綾人
「まあ・・・所々無茶な場面はあったが・・・今回は及第点だな・・・」
「「「「ありがとうございます!!」」」」
綾人の評価に素直にお礼を言うフォワード達
「ティアナ、最初のはやっぱお前の差金か?」
「はい。前に先輩は“キャロは何をしたのか?”って言ってました・・・その後に考えてみました・・・“あの状況でキャロは・・・いや、私達は何ができるんだろう?”って」
一番体力がないキャロが魔法無しに綾人から鈴を奪うのはまず無理なのは当たり前である
ティアナもスバルやエリオ並の動きは難しい
当然、その役目はエリオかスバルが担う事になる
それでも、並大抵の行動では綾人は止められない・・・
綾人が止めるにはどうしたらいいのか・・・?
そこでティアナは“綾人の性格”にその答えを出した
先程の様に、子供が何か危険な目に遭っていると思わせることで綾人の動きを一瞬鈍らせることができたのだ
更に、エリオとスバルによる連携に目を向けさせ、フリードへの警戒も薄れさせたのだ
「先輩は“龍召喚”自体は禁止しましたけど“フリード”そのものは禁止してませんでした・・・それも思い出してあらかじめあの周囲にフリードを待機させておきました」
「エリオとスバルが俺を誘導して、その近くでキャロが悲鳴を挙げて俺を止めて上に移動させる・・・・・・と」
ティアナの考えを更に解いていく綾人
ティアナも頷いていた
「なるほど・・・・・・よく気がついたな・・・」
笑顔でティアナを褒める綾人
「“相手の状況”、“地形”、“自分達の状況”・・・・・・それらをしっかりと認識して最善に近い状況に相手を追い込む・・・それがチーム戦においても個人戦においても重要だ・・・特にチームなら、ティアナのポジションはそれが最も求められる・・・スバルやエリオも、その指示をちゃんと守れていたし、キャロもそのサポートが出来た・・・・・・魔法無しでもこれだけやれるって事もわかっただろ?」
「はい・・・」
「それに、お前達『陸戦魔導師』はまだ基礎の体力・・・持久力がある方で、『空戦魔導師』よりも優れている点でもある」
綾人はなのは達も見ながら説明する
“空戦魔導師の基礎体力の低下”
これは、管理局内でも一部問題視されていて、空戦魔導師は魔力を用いて空で戦うもので地上を走ったり跳んだりする事はほとんどない・・・
だから、訓練校や日常の訓練で鍛えられる体力しかない・・・
逆に、陸戦魔導師はそういう地上を走り回る体力はあって当然で、さらにそこに持久力が求められるのだ・・・
しかし、その基礎体力も魔力である程度カバー出来てしまうので、実質には基礎体力の低下は少量でも進んでいる事になる
綾人が最初になのは達からこの訓練で逃げ切ったのは、ティアナが綾人の性格を知っているという原因の他にはそういう事象も含んでいる
なのは達は綾人の詳しい性格は知らない・・・
なのははマークの家で1度顔を合わせた程度でその性格を知ることは出来ないし、フェイトは六課の説明の時、ヴィータやシグナムに関してはその訓練の時が初対面だったのだ
どちらの状況でも綾人の性格や動き方などを知るよしはほとんど無いと言える
それ以前に資料などを読み込んでいればありえたかもしれないが、そこまでの時間は残念ながら無い
だが、逆に綾人は彼女達の体力・・・“闘気”の量をある程度は知ることが出来た・・・その時に握手をして“地肌に触れている”からだ
そのおかげでどれほどの体力があるかはある程度把握していたし、先程の“空戦魔導師の問題点”なども考慮した上でこの訓練を提案して実際に逃げ切ったのだ
この話は、訓練の終わりでなのは達にもしていて、なのは達もその件について考えるきっかけになっているのだ
「とまぁ・・・これが俺の考えた教導方針と、なのはさん達から逃げ切ったタネだな」
その説明を聞いて、なんとなく納得しているティアナ
なのは達も少しだけ苦笑いしていた
「さて・・・それじゃ今日はこのまま終わりとしますかね」
「え? いいんですか?」
「まだ時間が・・・」
綾人の言葉に少し困惑するエリオとキャロ
ティアナとスバルも同様に綾人を見つめる
「ああ。なのはさんと決めてたからな・・・“どういう結果だろうと、この訓練は1日1回”ってな」
攻略法がある程度わかれば状況を変えてもあまり意味が無いのがこの訓練であり
なによりも・・・
「ティアナ、今のお前達の体力でもう一度俺から奪えると思うか?」
「う・・・」
綾人に言われてティアナも言葉を失う
この条件はティアナ達の体力を考慮したもので、全力で綾人を追いかけて体力が削られている現状で、もう一度綾人から鈴を奪うのはかなり困難である
ティアナ達の体力と綾人の体力を比べた場合、どう見ても綾人に軍配が上がる
なので、1日に2回以上この訓練をすることにあまり意味はないと綾人は考えている
更に、フラフラの状態で出撃にでもなれば問題しかおきないのだ
「ちゃんと就業時間を守るために、書類仕事を入れてもらえる事になってるからな・・・その辺の心配はいらないぞ?」
綾人の言葉に少し苦笑いとともにため息も混じるフォワード達
その後、オフィスに戻って書類との戦いに入るのだった・・・・・・
~夕方・隊舎前~
「お~いい風~」
夕食前に一汗流そうと訓練着を着て隊舎を出てきた綾人
「あれ? 綾人君」
「なのはさん・・・何してんですか?」
そこに、隊舎に向かって歩いてきていたなのはと遭遇した
「明日の訓練の準備をね・・・綾人君は? もうすぐ夕飯の時間だと思うんだけど」
「ええ。その前に少しだけ自主練を・・・今日はそんなに動いてませんし」
「何するの? シミュレーターは使えないよ?」
設定などを入力した後に動かすと色々と面倒な事になるのだ
「わかってますよ。だから、その辺で素振りでもしようかと・・・これでね」
「それって・・・竹刀?」
綾人が担いでいる野球のバットを入れる様なバッグを見ながら聞いてくるなのは
「いやいや。竹刀なんて使いませんよ・・・俺が使うのは・・・これですよ」
そう言って綾人はバッグを開いて中にある物を見せる
「それって・・・刀?」
「ええ。歴とした日本刀ですよ・・・ほら」
鞘から抜いて刀身をなのはに見せる綾人
綾人の刀の刀身は、峰も刃も全て漆黒に染まっていた
「凄い・・・こんな刀なんてあるんだ・・・」
「普通じゃ中々無いですよ・・・これ、俺が作ったやつですから」
「え? この刀・・・綾人君が?」
「ええ。ガキの頃に向こうで爺様に教わりながら・・・“自分の刀を作れて、初めて天童家の当主と言える”って言われましてね」
「なんか・・・変わったしきたりだね・・・」
天童家のしきたりを聞いて苦笑いのなのは
綾人も同様に笑いながら頷く
「でも、大変でしたよ・・・何度も砕かれて・・・15本目でようやく合格できましたからね・・・」
「15本!?」
何気に数を作ってる綾人
長い年月を掛けてコツを掴み、丹精を込めて作り上げた綾人だけの刀・・・それがこの刀なのだ
「そうなんだ・・・この刀に名前ってあるの?」
「ええ・・・『黒刀・鴉(からす)』・・・それがこいつの名前ですよ・・・」
刀身を見ながら小さく笑う綾人
傍から見ればちょっと危ない人である
「作ってから、素振りは全てこいつでやってます・・・竹刀や木刀だと軽すぎてダメなんですよ・・・」
「何がダメなの?」
何気ないなのはの質問
なのはの家の道場にも木刀があり、恭也や美由希はそれを使って稽古をしていた
「『刀の重みは、奪う命の重さ』・・・そう教わりました・・・正しいか間違いかはわかりませんけどね・・・奪うつもりはなくても・・・“それができる”って事を忘れちゃいけないんです・・・どんな力も・・・使う人間の意思1つで変わってくる・・・」
静かになのはに教える綾人
自分が持っているのは紛れもない凶器である事を、綾人は忘れてはいけないと思っている
デバイスが刀の形状をしているのも、それが理由であり、さらには重さも一般の日本刀と同じ重さにしている
「確かに、俺は未だに刀やバルムンクで人を物理的に傷つけた事は無い・・・・・・覚悟は、鴉を手にした時からありますけどね・・・それが無いよう訓練しているつもりです・・・」
刃をゆっくりと前に倒す
夕日に反射して黒い刀身が光っている
「マーク先生も、似たようなこと言ってた・・・『自分の力をしっかり知れ』って・・・」
「父さんの基本的な教えになります・・・『自分の力を正しく理解すること』・・・何が出来て何が出来ないのか・・・それをまず知り、出来ることの中で最良の道を選ぶこと・・・そういう意味があります・・・自分の器を越える力を行使するのはかなりのリスクを伴う事になりますから」
「なんか、妙な説得力があるね?」
「それはそうかもしれません・・・昔、その“自分の器を越える力”に触れて死にかけた事もありますから」
そう言うと、綾人はシャツを脱いで上半身をなのはに見せる
「え・・・?」
「これが・・・・・・その“力を行使した結果”です・・・」
綾人の肩から背中に掛けて大きな傷ができていた
「225隊にいた頃、ただ強くなりたい一心で色々調べて・・・魔力を倍込められるカートリッジを作ったんです・・・父さんにもリョウにも内緒でね・・・出来て試しに使ったら・・・この有様です」
カートリッジに込められた魔力は身体を一気に巡り、耐えられなくなった綾人の身体の内側から吹き出した
駆けつけたマークの機転で、溢れ出す魔力をデバイス越しに放出させることで抑えることが出来た
その後、すぐに病院での治療を施されて一命を取り留めたが、背中には一生消えない傷跡だけが残ってしまった
「父さんに言われました・・・『お前のその力では何も守れない・・・むしろ、全てを失いかねない』って・・・」
「綾人君・・・」
なのはに話す綾人は小さく自嘲気味に笑っていた
「この頃からですかね・・・なんとなく“なりたい教導官”のビジョンが出来てきたのは・・・」
「“なりたい教導官”?」
「はい。訓練校時代から考えていたんです・・・“どういう教導官になろうか”って・・・教導官になった後、自分は何を教えてやれるのかって・・・」
それは、ティアナにも聞いたのと同じことだった
自分自身の答えを探していた所にティアナの悩みを聞いた綾人
その時にティアナに聞くと同時、自問していたのだ
「俺の自分で体験したことやその失敗談・・・“力の使い方”・・・それを、未来の後輩達に伝えていきたい・・・俺みたいにならないように・・・って・・・ぼんやりとですが、今はそういう風に思ってます・・・」
「なりたい教導官・・・か・・・」
「・・・なのはさんは、なんで教導官になったんですか?」
「そうだね・・・綾人君と同じで“自分の力を正しく使いたい”って思って・・・でも、私には飛ぶことしか無くって・・・」
なのはの言葉に「いやいや」と手を振る綾人だが、苦笑いとともになのはは続ける
「だから、『飛ぶことと空戦の技術を極めたい』・・・『極めた技術を活かしていく』役職って考えて・・・それで戦技教導隊・・・『教導官』を目指したんだ・・・」
なのはの目指している道・・・
それは、どこか綾人と似通っている部分があるのだ
「やっぱり、師匠が同じだと目指す方向も似てくるんですかね?」
「あ~・・・それはあるかも? でも、それでもいいんじゃないかな? 目指す方向や目的地が同じでも・・・それだけ、自分の目指しているものは近づいてくると思うし」
広く自分の思いを伝えるなら、同じ道を歩く人間は多い方がいい
それがなのはの思いである
綾人がなのはと同じ道を歩いて行くなら、自身の立場では中々難しい陸戦の魔導師にも自分の伝えたい事は広がっていくのだから
「なるほど・・・そういう目指し方も有り・・・か・・・」
なんとなく自分の目指す道を考え出しながら、素振りを始める綾人なのだった・・・
どうも
なんかあっさりと終わってしまった綾人君の教導・・・次回から何をするのかな・・・
ついでに綾人君のちょっとした過去話・・・この過去によって綾人君は“力”の執着が薄くなっています
綾人君が進んで過去話をするのはある意味珍しいですね・・・
しかし1話進むごとに誰かしらとフラグを立てている気がするが・・・・・・多分気のせいだね!!
では次回予告
毎日の訓練も一段落・・・新人達にとっては初めての大きな休日
各自思い思いのプランで遊びに出かける・・・もちろん綾人も
「綾人君もお出かけ?」
「ええ、ちょっとブラブラと・・・行きたい所も幾つか・・・」
束の間の休日・・・しかし事件は起こる
『お前が・・・・・・『剣王』の息子か・・・・・・』
「! あんた・・・・・・誰だ・・・っ!?」
謎の襲撃者・・・そして・・・
次回、『騎士との邂逅・真紅の瞳』
次回はついに・・・“アレ”の登場です!! ついでに長めです