シスコンでブラコンなお姉さま セリーヌたん物語   作:uyr yama

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7話目

目の前の村が、炎に包まれ滅び去るのが見える。

呆れ返る程に何度も見た光景。

でも、何度見ても慣れない光景。

 

感情を失わせた筈の心が、細波のように震えた気がした。

自らが関わって滅んだわけではないのに、何故なのだろう……?

そう胡乱なことを考えていると、ふと感じた。

炎の中に、未だ失われていない命が一つ有る。

そう気づいた時、手に持つ魔剣で前を塞ぐ炎を斬り裂き、失われつつある命の気配の方へと勝手に足が動いた。

 

火の粉を払い、燃え尽き崩れ落ちる家々を避けながら進んでいくと、村の中央に、沢山の騎士達の遺体があった。

それらに守られるように、仰向けで倒れ伏す少女が一人いる。

失われていない命はこれだろう。

着ている物から貴族の令嬢だと目星を付ける。

豪奢なマントで身を包まれ、視線は虚ろに空を見上げていた。

血を出し過ぎているのか。顔色は青く、呼吸も細く不規則だ。

少女の目には力がなく、生きようとする気力を感じられない。

 

ここで助けても、生きてはいけまい。死なせた方が慈悲だろうか……?

 

迷う。

 

生きること全てが幸せには繋がらない。

人によって、死ぬ方が幸せだということもあるだろう。

 

だがその時、少女の唇が僅かに動いた。

 

 

───生き、て……

 

 

瞬間、その言葉に、遠い昔、誰か大切な人とそう約束した気がした。

記憶にはもう残っていない。

だが、間違いない。今の自分を生にしがみつかせている、大切な言葉のはずだ。

 

 

『生きて』

 

 

唇を動かし、その言葉を発してみると、頭にカッと血が上った。

あきらめの良すぎる少女に怒りを感じた。

誰かに生きてと願う。そんなお前が、どうして生きようとしないのだと。

 

男は少女のもとへと駆け寄り素早く抱き上げると、そのまま滅びの炎に燃える村から脱出するための行動にでた。

ぐったりと何の反応も返さない少女の身体は、驚くほど華奢で羽毛のように軽く、このような身分の高そうな少女が、どうして辺境の村にいるのか不思議でならない。

そんな疑問をひとまず頭の隅に追いやりながら、手に持つ魔剣を構え、道を遮る炎の壁を斬り裂いた。シュバッ! と風を斬り、炎を斬る。斬った先に見えるのは村の外。

この道なりに進めば、安全に外に出られるだろう。

 

最後に男は騎士達の遺体にチラリと目をやった。

 

少女を守っていただろう騎士達。

どの騎士も、誇りに満ちた顔をしている。

 

お前は彼らの誇りを汚すつもりか……? 

そうでないと言うのなら、

 

「生きろ」

 

ただ一言、そう呟く。

彼自身が誰かに願われた思いだった。

もう記憶には残っていない、その願い。だけども、その願いの為だけに、生き続けてきたのだ。

その言葉を、自分以外の誰かに願う少女。だからこそ少女を放ってはおけなかった。

 

「お前には、生き続ける義務がある」

 

男は感情のこもらない声で少女にそう言って、割れた炎の道なりに村を出た。

急ぎ安全な場所に行き、少女の手当てをしなければ。

手持ちに有る傷薬で足りるだろうか?

何より、この少女の生命(いのち)の弱さを補わなくてはならない。

 

彼にはその方策が一つだけあり、安全な場所に出るなり、それを迷う事無く少女に使ってみせた。

性魔術。そう呼ばれる儀式魔術。

性交渉による絶頂感から発生する力と、彼の持つ強大な魔力を注ぎ込むことで、少女の生命力を活性化させよう。

 

 

 

 

 

燃えさかる村を出て、男は安全な場所に少女を横たえると、傷薬で傷を癒す。

続いて少女の小さく柔らかい唇を奪った。

舌先で唇を抉じ開けながら、口の中に侵入し、少女の口中を犯していく。

そして魔力を流し、生命力を流し込んだ。

慎重に生命の力を少女に注ぎ込みながら、彼女の中に有った何かの枷を外す。

 

そう、枷だ。

 

とても強固な枷。

 

まるで呪いのように少女の深奥に棲み付く枷。

精神の奥深く、男はそれを外すことが、少女を助ける事に繋がると何故か確信する。

 

舌の動きを尚一層激しくし、更には未だ膨らみきらない少女の胸を大胆に揉みしだく。

少女のあまり肉付きの良くない太腿にも、胸を揉みしだく手とは反対の手を伸ばし、優しく撫でさする。

その手がジリジリと股間へと這い上がるにしたがい、合わさった唇の隙間から甘い吐息が漏れ出した。

すると微かに身体が痙攣しだし、彼は更なる魔力を少女に送り込んだ。

 

ピシ……ピシピシ……ピシッ!! と、彼の脳裏に描かれる枷のイメージが、ヒビ割れる。

ドク、ドク、ドク……ドクドクドク……ドッドッドッドッドッ、ドックン!!

少しづつ鼓動が激しくなり、そして爆発する。

それは小さな身体では消費しきれない程の魔力。

ビクンッ! 溢れ出した魔力の勢いで、背を弓なりに反らせ身体を少し浮かせる。

同時に合わさった唇が離すと、「カハッ……」と肺に溜まった空気を勢いよく吐き捨てる少女。

 

「ん……んん、ぅ……あ……」

 

苦しいのか、小さく悶えるように呻き声を上げ、はぁっと大きく息を吸う。

そして閉じていたマブタがゆっくりと開いた。

莫大な魔力のせいなのか? 僅かに金色が混じった貴色の瞳をこちらに向けながら、パチクリと速いまばたきを繰り返す。

 

「……え?」

 

と驚きの表情を浮かべた思うと、ジッとこちらを凝視してくる。

少女は至近にある男の存在にまず驚き、続いてその男の顔に二度驚いたのだ。

 

女かと見まごう美しい顔。

腰まで届くキレイな赤い髪は、少しだけ羨ましい。

それらを覆い隠すようにボロの外套で全身を隠すのはもったいない。

にしても、なんて無表情な。

 

そして自分の唇を数回さすると、頬を赤らめて顔を俯かせる。

少女は、自分がナニをされたのか解ったのだろう。

男の相棒である剣に身をやつした魔神が彼をからかうと、その声が聞こえたのか、真っ赤な顔をそのままに怒り出した。

 

「乙女の唇を何だと思ってんのよッ!!」

 

顔に似合わない乱暴な口調だ。

女性との経験が豊富だった彼も、その余りのギャップに僅かにだが困った素振りを見せた。

 

「許すまじっ! こんのっ、変態キス魔がぁぁぁッ!!」

 

明らかに鍛えられていない少女の、それでも渾身の力で男の鳩尾を殴打する。

でも、あまりに硬い彼の鉄腹。逆に少女の手が真っ赤に腫れ……

 

「いった~いっ!?」

 

手を押さえ、泣き言を言い始めた。

くるくると変わる表情が、とても面白い。

怒っている少女には悪いが、男は心底そう思う。

もしも感情があるのなら、きっと笑っていただろう。

さざ波のように震える僅かな感情の揺れが、なんだかとても心地よかった。

その少女と言えば、手を痛がりながら思い出したように男に声をかけた。

 

「えっと……アナタは誰? そして、私は……誰なの……?」

 

不安そうに男を見上げる。

自分が何者なのか分からない。

こんな恐怖がどこにあろうか? 

 

湧き上がる良く分からない心の動きに、男は少女を優しく抱き寄せる。

少女は一瞬だけ抵抗しようかと思ったが、

 

エッチな感じはしない。

たぶんだけど、慰めてくれてるんだ。

じゃあ大丈夫だねと、逆に思いっきり抱きつき、

 

「ありがとう……」

 

そう言って、グリグリと男の胸にオデコを押し付けた。

不安な気持ちから人肌を求め、甘えているのだ。

そんな少女の行為と、その少女の溢れんばかりの莫大な魔力が、彼を誘ってしまう。

 

男は血塗れに焦げ付いたドレスに手をかけ少女を押し倒した。

少女の白雪のような清楚な肌に手を触れ、ただそれだけで魔力が自分の中に流れ込んでくるのが解る。

性的な快感を切ってる筈の彼の身体に、なのになぜか快感めいたものまで感じてくる。

 

それがとても心地好く、暖かい……

 

《……随分と相性がいいようだの。それに我の声も聞こえてるみたいじゃぞ》

 

目を細かくパチクリする少女。

どこから声が聞こえているのか解らないでいるのだ。

 

「えっと、どこですか……?」

《目の前の男が持っている短剣があろう。それが我だの。それよりもセリカ。この嬢ちゃん、ナニをされるか解っていないみたいだがの。合意なしはどうかと思うぞ》

「うわ……剣が喋ってるっ!?」

 

傍から見れば、いいや、そうでなくても男に犯される寸前の少女。

なんせ男の腕で足を大きく開かされ、胸はその男の手で形を変えられていた。

しかも首筋を唇で吸われながらである。

なのに少女の反応はあまりに幼く純粋で、セリカと呼ばれた男のやる気を削いでしまった。

軽く溜息めいたモノを吐き出すと、自らの身体で押し倒していた少女の身体を優しく起こし、荷物袋の中から自分の代えの服を取り出した。

少女はそれを受け取ると、ボロボロなドレスを脱ぎ捨て、なのにいつまでもコチラをジッと見ているセリカの横腹目掛けて蹴りを放つ。

 

「こういう時は、後ろを見てなさい!」

 

(押し倒すのは良くて、着替えを見るのはダメなんだの)

 

ハイシェラは《クックックッ……》と心底楽しそうに笑う。

ダボダボの服に身を包んだ少女を見て、街か村に着いたら服を買ってやるようセリカに言わねばなるまい。

放っておけば、この男はそう言う細やかな所には気が付きはしないのだから。

コレから先、少女と共に旅をするのだと、疑いもしない。

ハイシェラはそんな自分に驚きながらも、この少女がセリカの後ろをヒョコヒョコついて来る様が、幻のように見えた。

そして、それは現実となる。

これから先、5年という長いようで短かかった時間を、セリカとハイシェラの2人は、少女と共に過ごすことになるのだ。

 

 

《我の名はハイシェラ。こっちの無愛想なのがセリカじゃ。これからよろしくの》

 

その言葉に、セリカの目が僅かに細められた。

旅慣れた様子もなく、どこかのお嬢様だろう記憶を失くした少女。

家族がいるのなら、そのもとに帰してあげるのが一番だろう。

辺境の開拓村で、このような豪奢なドレスを身に纏い、明らかにどこぞの騎士が用いるだろうマントに包まれていた少女。

 

身元など、真剣に調べればあっという間に見つかるはずだ。

 

「えっ? いいの……?」

 

ちょっとした前傾姿勢でセリカを見上げる少女。

なんだか小動物めいて可愛らしい。

だが、セリカとしても、ここは安請け合いをする訳にはいかない。

それは、少女の為でもあるのだ。

 

「俺は、神殺しだ。それでもいいなら、好きにしろ」

 

その名は忌み名。

 

古神を殺し、その身体を奪った罪人。

現の神々は古神の身体を持つが故に邪神として彼を追い、古の神は同胞を殺した彼を許せず、力有る魔神は更なる力を求め、人は彼の力を畏れる。

彼に安息の地などなく、一つ所に留まるなど許されない。

彼は災厄を運ぶ。彼の通る道は、血と炎によって彩られるのだ。

故に神殺しの名は忌み嫌われ、世界の敵として認識された。

 

だが、

 

「神殺し……なんかカッコイイ響きですねっ!」

 

まだまだ軽いが、急にお嬢様然とした口調になる。

そうして少女は頭を深々と下げると、

 

「よろしくお願いしますね、セリカさん、ハイシェラさん」

 

にっこりと微笑んだ。

 

《うむ。では、そうじゃな、嬢ちゃんの名前、どうしようかの……》

 

ハイシェラと少女、2人の神殺しなど何でもないと言った風に、セリカはなんとも知れぬ気持ちに包まれた。

そう、もう随分と長い間感じてない感覚……とても気持ちが穏やかだ。

 

「カヤ……」

 

自然と口から出た名前。

 

セリカには、その名前の持ち主が誰なのかは分からない。

彼もまた、目の前の少女と同じく過去の大部分の記憶を失わせてしまっているのだから。

それもまた、神殺しとしての業の一つである。

強大な神の力に、元が人間である彼の魂が耐え切れず、記憶が失われてしまう運命にあるからだ。

 

そんな彼の、失われたはずの記憶の奥から出てきた名前。

間違いなく、彼にとっての大切な誰かの名前である。

 

「カヤですか? なんか、お姉ちゃんみたいな響き……うん、いいよ、分かりました! 今日から私が、セリカのお姉ちゃんです!」

 

やたら偉そうに胸を張り、そう言い切った少女に、ハイシェラは一瞬思考が止まった。

 

お姉ちゃん? 神殺しのお姉ちゃん?

そう言ったのか、このお嬢ちゃんは?

 

ふつふつと湧き上がる笑いの衝動。

それはけして暗い物ではなく、久々に感じる陽性の愉悦だった。

ハイシェラは、そんな感情を隠すことなく、思い切り吐き出し、笑い声を上げた。

 

《ハッハッハッ! 神殺しのお姉ちゃん……忌み嫌われるコヤツの姉を自ら名乗るか! これは傑作じゃ! のうセリカ?》

 

煩いハイシェラを放っておき、セリカは穏やかな気持ちのまま、カヤとなった少女を自らの外套の中に導くと、未だ炎に彩られる村の近くを離れる。

少女……カヤはチラリと燃え盛る村を見ると、ごめんなさいと、本当に小さな声で謝った。

カヤも、何故、自分が謝罪の言葉を口にしたのか分からない。

それでも、どうしようもないぐらい、罪悪感が彼女の胸を抉った。

 

その痛みに、知らず涙が頬を伝う。

 

そしてもう一度、ごめんなさい……そう呟いた。

なんでそう言ったのかは、本当に分からない。

でも、言わなければいけないのだと、彼女は思う。

 

 

 

───だって、一緒に逝けなかったんだもの。

だから、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい───

 

 

 

 

風にのった言葉は焔をあげる村に確かに届く。

 

 

 

───いいえ、アナタが生きてくださって、本当に良かった。

我らのことなど気にせずに、どうか、どうか、幸せに───

 

 

 

彼女の言葉に応えるように、天高く突く焔が、ゆらりと揺れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、3ヵ月後……

 

 

メンフィル王国、王都ミルスに2人の姿はあった。

2人は旅のための道具を買い揃え、そうして王都を出る。

目的地であるイオメルの樹塔を目指し、封鎖されている国境線を越えるのだ。

外套で全身を隠した旅の剣士と、旅をしているとは到底思えないほど真っ白い肌に、華奢な肢体を持つ少女。

 

この組み合わせが目立たない訳が無く、一人の男の下にこの2人の情報が届けられる。

とは言え、一見すれば重用度が低い情報ではあった。だがしかし、その男が正に欲していた情報であったのだ。

 

「生きていると確信はしていたが……まさか、な……」

 

口角を上げ、残忍な笑みを浮かべた。

 

「さて、どうするか……」

 

男の名はケルヴァン・ソリード。

この新生なったメンフィル王国の国王、リウイ・マーシルンの股肱の臣である。

 

その彼が、少女カヤに注目する。

自分の望みを叶えるためのファクターとして。

どうにも温い状況に落ち着いてしまった、彼の主を目覚めさせる為に……

光と闇の共存共栄などというくだらない理想を捨て、真の魔王として覚醒させる為に必要かもしれない駒の一つを、確かに見つけた。

 

リウイに理想を与えた王妃イリーナを、闇に堕すための駒。

魔術の大家、カルッシャの王族テシュオスの正統なる後継、セリーヌ・テシュオス。

 

知られていない筈の自分の名を叫んだ女。

自らを、死の淵まで追い込んだ女。

 

 

油断……?

 

 

バカな。その程度で命を危険に晒すなどありえない。

あの瞬間、セリーヌ・テシュオスは確かにケルヴァン・ソリードを凌駕したのだ。

その身に宿る莫大な魔力を全身に巡らせ、予想を遥かに越える速度と力を持って剣を突く。

 

もしもカーリアンが現れなければ、死んでいたのだ、俺は……!

 

「フハハハハハハハハ……」

 

男の笑い声が、主の居ない王城に、高らかに響く。

 

セリーヌ・テシュオスへの、邪なる想いがこもった笑いが、高らかに響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キャラクター・データ(戦女神VERITA風味)

 

 

セリカ・シルフィル

 

 

LV.350

 

 

熟練度

 

小型武器  A

中型武器  M

魔術・電撃 A

魔術・吸収 S

魔術・招聘 ─

必殺・飛燕 M

必殺・魔剣 M

 

 

スキル

 

見切りⅢ  攻撃対象時に確率で発動し、発動すると攻撃が必ずミス

先手Ⅴ   戦闘開始時に確率で発動し、発動すると開始時の硬直フレームが無効

達人の技力Ⅳ 消費TPが40%軽減される

オーバーキル 攻撃時に常に発動し、ダメージMAX桁が1桁上昇

殺し無効  自身に対するスキル『~殺し』『~破壊』の発動を無効化

反射無効  自身に対するスキル『反射』の発動を無効化

即死無効  自身に対する効果パラメータ『即死』を無効化

捕縛Ⅴ   特定された異性の魔物を捕獲LVⅤまで捕獲可能

魔剣解放  ハイシェラ武具を装備、扱うことが出来る

 

 

 

称号

 

保護者な神殺し カヤを保護して面倒を見まくっている神殺しセリカの初期称号

 

 

 

 

 

注! 熟練度はE~A、S、Mの順に強くなっています。

 

 

 

 

 


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