シスコンでブラコンなお姉さま セリーヌたん物語   作:uyr yama

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4話目

 

国を出るときは泣き濡れていた姫君。

悲しみに顔を曇らせていた王女の姿は、見る者にチクリとした胸の痛みを与えたものだ。

しかし、今の彼女はどうだろう?

厳しく顔を引き締めて、瞳を決意の色で遠くを見つめる。

ギルティンは、そんな王女に呼ばれたとき、ただそれだけで胸に熱いモノが込み上げてくる己に気づいた。

聞かされた話は、他の者から聞かされたのなら一笑に付す馬鹿げた話。

だが、彼にとって目の前の王女は、全てを捧げると誓った3人の姫の一人だ。

いいや、第一王妃リメルダが死んだあの日、目の前の少女に誓ったあの言葉、一生忘れる事はない。

セリーヌが嫁ぐこととなり、もう自らがお守りする事が出来なくなると嘆いたあの時の辛さも。

 

「……ですからギルティン、私のために死になさい」

 

この方は、紛うことなく姫将軍エクリアの御妹君。

その無情な命を発するセリーヌの眼光はどこまでも厳しく、そして鋭い。

心臓を鷲掴みするような視線を受けて、だがしかし、ギルティンの心は歓喜に包まれるのだ。

 

「お忘れですか、セリーヌ様。あの日私が誓った言葉を。命の限り、貴方をお守りしますと誓った言葉を」

 

誇らしげに胸を張る。

小さく聞こえた、

 

「忘れるわけない……」

 

その言葉を聞いただけで、この先何があろうと笑って死ねる。そう思えるのだ。

ギルティンは最後に深く頭を下げ、部屋を出た。

急ぎラクの街を出てイリーナ一行に追いつかなければならない。

セリーヌの話が真実となるなら、半魔人率いる集団に襲撃されてしまうかも知れないからだ。

 

いいや、間違いなく、来る。

 

鍛え抜かれた戦士の予感か。

ギルティンは全身に闘気を張り巡らせて、凄惨なる戦いの匂いにブルリと武者震いに身体が震えた。 

彼は騎士溜まりに行くと、セリーヌから聞いた話を元に次々と他の騎士達に指示を出していく。

王都ルクシリアに、『メンフィルにて内乱の兆し有り!』の報を送ると同時に、先行しているイリーナ一行へも同じ内容の報を送る。

最後に、メンフィル領に入って以降は魔族の襲撃に備えるよう指示を出す。

 

それを聞いて、ざわめき出す同僚の騎士達。

 

だが同時に、彼ら近衛騎士団の面々は、王家に対しての忠誠心ならば全騎士団中最大だ。

そして、そんな彼らが忠誠を誓っているのが、王……ではなく、皇太子レオニードであり、そのレオニードと仲睦まじいセリーヌとイリーナの危機に直結するのである。

ギルティンがレオニードの婚約者でもあるイリーナの安全のため、急ぎ出発して合流すると伝えられれば、彼らが闘志を漲らせない訳がない。

ただ、彼らにとっての任務はセリーヌを守る事にあった。

軽々しくそのセリーヌを、危険なメンフィルへと連れて行くわけにはいかない。

 

セリーヌ王女は、このラクの街で、完全に安全が保障されるまで静かに待っていればいいのだ……

 

それについてはギルティンも賛成したかった。

 

だが同時に、これはメンフィルの面子に関わる問題でもある。

何より、メンフィル国内で自由に動き回れるだけの大義名分がなかった。

しかもこのメンフィル内乱の一報は、今の時点では何の証拠もない話である。

セリーヌの前世からくる知識で得た胡乱な情報。ソースを明かしても、気が狂ったと思われて終いだ。

 

だがギルティンは確信している。

半魔人リウイ・マーシルンの決起を。

万が一それが無かったとしても、ギルティンは自分の皺首一つで全てを済ませるつもりだ。

セリーヌのために死ぬ。

どちらにせよ良き死に場所だ。なんの不都合があろうものか。

 

そして、その覚悟は、同僚の騎士達を遂には動かした。

 

 

 

時に、リウイ・マーシルンがイリーナ一行を襲撃する、数日前の事である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レスペレント都市国家群と、メンフィルとの間にある国境線を越えてすぐにある開拓民の村。

 

住民達は素朴であり、牧歌的雰囲気の溢れる和やかな村だ。

時折現れる魔物との戦いが有るものの、住民達は一致団結をして危機を潜り抜ける強さを持っている。

 

こんな場所に騒乱の種を持ってきてしまったのが、自分ことセリーヌ・テシュオス。

 

住民達は、災厄が降り注ぐ予感に怯えている風に、自分には見えた。

それは、これから起きることに対する罪悪感から見えたのだろうか……

 

 

 

 

 

 

 

そんな自分の目の前に、血塗れの近衛騎士が跪いていた。

彼は数日前にイリーナの下へと送った騎士の一人。

 

「イリーナ王女から……必ず……お伝え、しよ……と……」

 

流した血の所為なのか、レオニードとタメ張る程に血の気のない顔。

このまま手当てをしなければ死んでしまう。

 

「彼奴等の目的は……カルッシャの王女である。その身を持って、メンフィルの騒乱に手を出させない質と…………っ……」

 

血を吐き、地面に倒れ伏す。

だが、他の騎士達が彼を起こし、続きを促すのだ。

それを止めたいと思うのだけど、立場上それをする訳にはいかない。

何より、彼自身がそれを求めていないのだ。

ここで彼を止めてしまえば、彼の誇りを傷つけてしまうのだろう。

 

「この、忌まわしきメンフィルから、即刻の退去を……魔族……が……どう……か、お逃げ……さ……」

 

ヒュー、ヒュー、と異常な呼吸音を鳴らし、必死の視線をむけてくる。

彼の手を握りしめ、

 

「わかりました。もうお休みなさい……」

 

そう言って、涙をこぼした。

 

「は……い……、私など、のため……涙……ありがたき……し……わせ……」

 

ビクンッ! 最後に身体を痙攣させた後、彼は……旅立った。

周囲からギギギギ……といった歯軋りが聞こえてくる。

 

騎士達の……?

 

ううん、それとも自分か……?

 

どちらにしても、いつまでもこうしている訳にはいかない。

命がけで知らせてくれた彼の為にも、速く決断をしなければ。

イリーナを助けに行くにしろ、逃げるにしろ、だ。

 

「ギルティン、イリーナを助けに行くとして、間に合いますか?」

「……セリーヌ様を置いて、我等だけで駆けるのならば、ギリギリ間に合う可能性もありましょう」

「間に合うのですね?」

「五分といった所です。しかしセリーヌ様を置いては……っ!」

「ならば命じましょう。カルッシャの騎士達よ! 未来の王妃殿下を護り参らせよっ!!」

 

ザザッ!! 役立たずと罵られる自分なんかに、一斉に傅くカルッシャの騎士達。

すまないと思う反面、誇らしげに口角を緩める彼らを見て、これで良かったのだと無理矢理に自分を納得させた。

果たして、この中の何人が生き残れるのだろう?

このままメンフィルを出てしまえば、誰一人として死なせずにすむと言うのに。

でも、弱気な素振りは見せられない。

ただでさえ、自分は病弱で虚弱で軟弱な深窓の姫君。

キリキリと胃が痛むのを堪え、最低でも毅然と佇んでいなければ……

 

そして、次に居心地悪そうにしていたメンフィルの騎士達に向き直る。

不安そうなのは、さっきからカルッシャの騎士達に眼光鋭く睨みつけられているからだ。

何故ならば、カルッシャはメンフィルのゴタゴタのせいで、自国の未来の王妃が危険に晒されている。

 

これを怒らずにいられようか……!

 

そしてメンフィルの者としては、カルッシャなどという大国に睨まれた瞬間、国が滅ぶ。

直接攻められでもしたらプチッと踏みつけられてお終い。

そうでなくても、原作の幻燐の姫将軍2みたく経済封鎖されたら、これまた国は滅ぶだろう。

原作のリウイ・メンフィルが国体を護持するどころか、更なる発展までさせられたのは、ぶっちゃけチートだ。

 

なんて言うか……、現実的にありえない。

だから、チート足り得ないメンフィルの騎士達は恐れるのだ。

 

この状況を。

 

このまま下手をすればカルッシャとの国交断絶、即開戦。

そうでなくても、内乱に介入されて、国そのものをジワジワと乗っ取られるかもしれない。

ただでさえ次期王の妃が、そのカルッシャの王女なのだから。

 

そう、イリーナが未来のカルッシャの王妃殿下なら、自分は未来のメンフィルの王妃。

 

彼らと、そしてこの村の住民に対して責任がある。

まあ、全てが上手くいったのなら……だけど。

それでも、最良の未来を目指して、メンフィルの騎士達に命を下す。

 

最良の未来。

 

それは、自分とイリーナが無事にリウイ・マーシルンとケルヴァン・ソリードの魔手から逃れること。

そうしてイリーナとお姉さま、最後にレオニードくんが幸せになれれば、何も言うことなく遠い異国で死んでいける。

だから自分はここから退去するのが一番だろう。

自分と言う足手まといが居なければ、ギルティン達も心置きなく戦えるのだから。

 

「メンフィルの騎士達よ、あなた方には我が身をお預けします。念のために国境を越えレスペレント都市国家郡へと……」

「それは困りますな、セリーヌ王女。アナタに逃げられでもしたら、主に申し訳が立ちませんのでね」

 

だけども、自分の言葉を最後まで言わせずに、見知らぬ男の声が遮った。

少し離れた場所からでもはっきりと聞こえてくる、覇気のある声。

短く逆立った血色の髪。

狡猾で知識走ったその顔に、やたらと長い耳……、恐らくは魔族。

ビリビリとした強大な魔力を纏い、手に血に塗れた抜き身の剣。

薄くいやらしい笑みを浮かべ、我がカルッシャとメンフィルの騎士達を、まるで塵芥の様に見下していた。

 

ゾクリ……緊張が走る。

 

カタカタと震えそうになる身体を抱きしめ、それを必死で抑える。

意地でも恐怖を見せてたまるかと、ギンッとした視線で魔族の男を睨みつけた。

 

「良いことをお教えしましょう。イリーナ王女は、今頃我が主の腕の中……」

「薄汚い魔族が!」

 

激昂した一人の騎士が、その魔族の騎士に斬りかかった。

ダメだ! そう思ったものの、声が出ない。

なんせ目の前の魔族は、自分が知る幻燐の姫将軍の中で、最強を名乗れる3人の内の一人。

 

一人は言うまでもない。

 

最強素敵お姉さまである姫将軍エクリア。

続いてルートによって差があまりに激しい魔王リウイ・マーシルン。

最後に目の前の男、混沌の策士ケルヴァン・ソリードである。

 

このままいけば、この3人がこの先のレスペレントの歴史を創ると言っても過言ではない。

そんな時代を動かす一人に、適うはずがない。

ケルヴァンは薄ら笑いそのままに、僅かに身をよじって騎士の剣をかわすと、すれ違いざまに血濡れた剣を軽く一振り。

ただそれだけで、我がカルッシャの近衛騎士の首が、胴体から永遠の別れをした。

 

ドサッ! ゆっくりと地面に倒れる首を失くした身体。

血で大地が赤く染まり、自分の周囲の時間が凍りついたみたいに止まった。

目の前の魔族から発せられる鬼気のせいだ。皆一様に恐怖で顔を引き攣らせている。

我が騎士ギルティン・シーブライアは、恐怖でこそないものの、やはり身体を緊張で凍らせている。

そして自分も、身体がピクリとも動かない。動けない。

 

 

怖い……

 

 

目の前の男が、とても怖い……

 

 

 

でも、安堵した。

 

ああ……

 

これで……

 

イリーナは大丈夫だ……

 

幻燐の姫将軍におけるイリーナの危機は2つ。

 

一つは勇者ガーランドに浚われ、リウイ・マーシルンが破れた時。

そうなったらイリーナは磔にされ、命を儚くしてしまう。

それより先に訪れる危機が、目の前のケルヴァン・ソリードに浚われ、犯されるエンド。

 

それが否定されたのだ。

 

イリーナはリウイに浚われ、犯され、でも……彼を愛し、愛され、幸せになるのだ。

 

きっと……

きっと……

信じたい……

 

2人の運命を……運命を超える【絆】を信じたい。

 

こうまで変わってしまった周囲の状況。

それでもリウイの下へといった、まだ結ばれていない絆を。

 

 

イリーナと結婚する予定だったレオニードくんには悪いけどね。

 

 

そして、代わりにケルヴァンに浚われる役が自分……か……

 

「フ……フフフ……フフフフフフフフフ……」

「恐怖で気が可笑しくなりましたかな? 深窓の姫君では仕方……」

「黙れゲス」

 

先程までとは違った意味で凍り付く周囲。

皆、驚いた顔で見つめている。

それはケルヴァン・ソリードも同じ。

深窓で病弱の姫君が、あり得ない言葉を発したと。

 

「ギルティン。ここに来る前に言ったこと、覚えていますね……?」

「ハッ!」

「私のために、死になさい」

 

見たこともない凶暴な笑みを浮かべるギルティン。

 

期せずして訪れた千載一遇のチャンス。

ここで目の前の男を殺す。

そうしたら、この先に訪れる悲劇の歴史。その大部分を消してしまえるのだ。

 

前世の最後、自分は弟を守るために命をかけ、そして死んだ。

あの時と同じ覚悟と、そして高揚感に身を包まれる。

 

身体の奥から熱い何かが込み上げ、その熱い想いをそのままに、腕を高々と振り上げた。

 

「目の前の汚らわしい男を……」

 

そして、周囲の騎士達に向かい命ずるのだ。

 

「討て!」

 

腕を振り下ろす。

私の命に、文字通り命をかけろと。

 

 

 

 認めよう。

 

 もう、認めなくちゃ。

 

 『自分』じゃなく『私』を。

 

 これから死ぬ者達は全て私が殺すのだ。

 

 この、セリーヌ・テシュオスが。

 

 前世の沙希なんかじゃなく、このディル=リフィーナに生きる一人の人間である『セリーヌ』が。

 

 特にギルティンは……

 

 

 

───ギルティン、この先、ケルヴァン・ソリードという魔族の男を見つけたら、必ず殺すのです。

例え私がどうなろうとも。貴方がどうなろうとも。必ず、その命を奪いなさい。

そうすれば、お姉さまにイリーナ、それにレオニードが幸せになれる可能性が高まるのですから。

それが私の望みで願い。誰にも譲れない、たった一つの願いです。

 

ですからギルティン、私のために死になさい─────────

 

 

ラクの街で言ったこの言葉に従い、命を掛けるのだろう。

 

「ウオォォォォォッッ!!!」

 

大気を震わす程の雄叫びを上げて、ケルヴァンに突撃するギルティン。

その雄叫びに呼応する様に、他の騎士達もまた、ケルヴァンに向かって突撃した。

いいや、良く見れば、何故かこの村駐留の騎士達に、戦える住民達まで。

ケルヴァンは僅かに頬を引き攣らせたあと、私と同じように腕を上げ、下ろした。

彼の背後から現れる魔物の軍勢。

 

 

でも、誰もそれに恐怖ぜずに、剣で、槍で、魔法で、戦うのだ。

 

そして死んでいく。

 

剣で斬られ、槍で突かれ、魔法で、牙で、爪で……

 

何より、私の命で。

 

これまで何もしようとしなかった、私の命令で。

 

でも、私は謝らない。

 

だけど、決して忘れないから。

 

一緒に……逝くから。

 

絶対に、絶対に。

 

 

 

「だから、私と共にここで死ね! ケルヴァン・ソリード!!」

 

私の叫びは戦場中に響き渡る。

自分の名を叫ばれて驚きを見せるケルヴァン。

でも、すぐに興味深そうに笑うのだ。

 

面白いモノを見つけたケダモノの笑みで。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

戦闘開始(戦女神VERITA風味ステータス)

 

セリーヌ・テシュオス

 

LV.1

 

 

HP  9/12

MP 18/50

TP  0/ 0

 

 

高揚 (永続)

回避5(永続)

運5 (永続)

衰弱5(永続)

シスコン(永続)

ブラコン(永続)

 


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