シスコンでブラコンなお姉さま セリーヌたん物語 作:uyr yama
憂鬱な気持ちのまま目が覚めた。
悪夢にうなされ、涙でも流していたのだろうか?
頬が、しっとり濡れている。
お姉さまから嫁に行くようにと宣告されてから、3ヶ月あまりの時間が過ぎた。
精神的なものもあるのだろう。その間、体調は常に最悪で、大切な家族との触れ合いもままならず。
お義母さまが毎日のようにお顔を見せてくれる位で、他は忙しいのか、レオニードも、イリーナも、そしてお姉さまも、あまり顔を見せてはくれなかった。
ギルティンは、もういない。
新しく新設される軍団の長へと、大抜擢されたのだ。
皇太子レオニードが直轄する、人間族『以外』の騎士で結成された軍団。
自分の知る幻燐の姫将軍では聞いた事もない部隊。
カルッシャには人間族以外で構成される部隊など、なかったはずなのに。
本当にこの世界は、『幻燐の姫将軍』なのだろうか……?
もしかして、復讐と憎悪に燃える半魔人が率いる集団に、襲われるなんてことは無いかもしれない。
そんな淡い期待を捨てきれない自分は、なんて情けなく、弱いのだろう。嘆くばかりでなく、動けばいいのだ。そう思う。
……思うけど、なんだろう? 何もする気が起きなかった。本当、情けない……
「セリーヌ様、どうぞこちらへ」
ベッドから身を起こすと、言われるままに、気だるく重い体をおして準備を進めていく。
今日、この王都ルクシリアを出る準備である。
そんな自分の準備を手伝ってくれるのは、何年も自分の面倒を見てくれていた侍女達だ。
当然だけども、自分は嫁ぎ先に彼女達を連れて行こうとは思わない。
当たり前だ。
魔族に襲われる可能性が高いというのに、連れて行ける訳がない。
下手をすれば命を奪われるのだ、彼らが現れると言う事は。
いいや、例え命が助かったとしても、貞操の保障はまずない。
間違いなく犯される。あの、復讐心に駆られたリウイ・マーシルンとその一党に。
だったら、どんなに寂しくても、連れてなんていけやしない。
そうでなくても、すぐ死んでしまうだろう自分についてきては、その自分が死んだ後、メンフィルなどと言う異国に取り残されてしまう。
彼女達も大切な家族。
そんな目に、会わせたくなんてない。
どんなについてきたいと願われても、不幸になるのが分かっていて、連れていける訳なんてないではないか。
「今まで、ありがとう……」
最後に髪を梳かれながら、囁くような小さな声をもらす。
それは心からの言葉だった。
身体が弱い自分が、最も沢山の時間を共に過ごした人達への、お礼の言葉。
侍女達の啜り泣きが部屋に響く。
彼女達も解っているのだ。
これが今生の別れになる可能性が高いのだと。
そして、自分もまた、そうだろうと思う。
彼女達に別れの挨拶をしていると、扉をコンコン、と叩く音が聞こえた。
恐らくは、メンフィルへの護衛を勤める騎士が迎えにきたのだろう。
侍女頭が扉の前に立つと、恭しく礼をして、騎士を部屋の中へと導いた。
そして、自分は騎士の顔を見て、大きく目を見開く。
それは、騎士が自分の良く知る男だったからである。
「そろそろお時間です、セリーヌ様」
自分の護衛騎士だったギルティン・シーブライア。
彼は先ほど言った様に、新設された軍団を任された将軍。
自分なんかの相手をしている暇なんて無い筈だ。
なのに、何故……?
疑問が脳裏を駆け巡る。
彼と会えたのはとても嬉しいはずなのに、なんだろう?
この嫌な感じは……
「ギルティン? どうして……」
「セリーヌ様のメンフィルまでの護衛を仰せつかりました」
恭しく頭を下げる。
目に映る、ギルティンの頭頂部。
そしてゆっくりと顔をあげ、満足そうに微笑んだ。
いつもはムッとした表情を崩さない彼が、こうして満足そうに笑う姿を見たのは、初めてかもしれない。
「ギ……ギルティン……貴方は軍団長を任されたと聞いたのですが……? それが何故、私の護衛などを……」
震えそうになる声を必死に抑え、どうにか平然とした調子を繕った。
メンフィルへの随行は、近衛騎士団から5分の1ほどの人員。
嫁ぎ先から護衛と案内役として遣わされた、メンフィル王国の騎士達。
それに同じくメンフィルから遣わされ、この後、何事も無ければ自分に仕えることになるだろう侍女が数名。
犠牲となるのは、それだけのはずなのだ。
それでも、知りながら何も出来ない。そして、犠牲にしてしまう彼らに対し、罪悪感に苛まれていたというのに。
もっとも、メンフィルの者達に限っては、そうでもなかったけれど。
彼ら(彼女等)にとっては、自国の支配者の怠慢である。
メンフィルにとっては内乱なのだ。
カルッシャは巻き込まれた被害者であると思っている。
姫将軍の暗躍と策謀がなければ、だけど……
「皇太子殿下とエクリア様から是非にと言われまして」
自分の疑問に、嬉しそうにそう返すギルティン。
ド……クン……
心臓が、跳ねた。
今、何て言った……?
あの人の名前を聞いた瞬間、視界が紅く染まり、急激に頭に血が上る。
怒りに駆られ暴発しそうになるも、虚弱な体質のせいか、ふらぁっと眩暈がしてお終いだったけど。
だけども、本当に、どうして……?
お姉さまは約束を守ってくれなかったのか?
ギルティンはここで殺すには惜しいと言っておいたのに。
それとも、また何か勘違いをしているのだろうか?
自分と、レオニードくんとの関係を誤解したみたいに。
それとも、姫神フェミリンスの呪いで……か?
だったら、どうすれば彼を救えるのだ……
何て言えば、いいや、何を言ってもダメ。
だってギルティンは、皇太子と、国内の軍権の殆どを握る姫将軍の命でこうしているのだから。
それを、社交界に出ることすら出来ない病弱な姫が、何の権限があって皇太子の命を反故することが出来ようか?
「セリーヌ、大丈夫なの?」
「お、お義母さま……、わたし……」
いつまでも部屋から出てこない自分。
そんな自分を心配して、扉の向こうから顔を出したお義母さま。
自分の辛そうな顔を見るなり、駆け寄り、抱きしめてくれる。
暖かい彼女の腕の中に抱きしめられ、思わず震える言葉で助けを求めてしまいそう。
自分が知る知識を、ここでバラせば楽になれる。
でも、なんの根拠もない話なのだ。
言った所で、どうにもならない。
そう、この瞬間まで、思っていた。
バカな自分は、思っていたのだ!
「大丈夫、大丈夫だから、セリーヌ。イリーナがメンフィルに一足先に行ってますからね」
「えっ……? ど、どう……いうこと……ですか……お義母さま……?」
「セリーヌ姉様になにかあったら、メンフィルに宣戦布告ですって息巻いて……」
とんでも無いことを軽~い口調で笑って言うお義母さま。
多分、ここは笑う所なのだろう。
自分も何も知らなければ笑ったに違いない。
事実、周囲の侍女達に、ギルティンまでもが楽しそうに相好を崩していた。
「私がメンフィルに行って、セリーヌ姉様が過ごしやすい環境を作りに行ってきます……ですって。あとは、結婚式に出席するカルッシャの代表としても、なのかしらね?」
「あ、あの子は我が国にとって、大切な未来の王妃なのに……なぜっ!?」
「だからこそよ。そうしたら、メンフィルもアナタを粗略に扱えないでしょ?」
お義母さまが、近くに待機しているメンフィルの騎士や侍女に向けて笑って言った。
脅しをかけているのだろう。
メンフィルの者達は、緊張に身体を強張らせた。
なんせメンフィル王国は小国だ。
下手を打って大国であるカルッシャと敵対すれば、メンフィルに明日はないのだ。
でも、そんな事はどうでも良かった。
そう、そんな事よりも、イリーナが!!
「ですがっ!」
「……何を心配しているの、セリーヌ?」
「お、お義母さま、わたし……」
なぜ言わなかったのだ! 私はっ!!
例え胡散臭い前世の記憶だろうと、話してしまえば良かったのだ。
これが父やサイモフといった者なら、私たち姉妹の命が脅かされる事になったろうけど。
イリーナやレオニード、それにお義母さま、そしてギルティンにだったら言っても大丈夫だったはずだ!
そして誰よりも、エクリアお姉さまに話せば良かったのかも知れない。
そうすれば、実母であるリメルダのように、自重したかもしれないのに……
いいや、更に絶望の度合いを深めるか?
なんせ、フェミリンスの呪いを解くには、彼女の力だけではどうにもならないのだから。
そこまで考えていたら、顔が真っ青になった。
寒くないのに、ガタガタ震えが止まらない。
今からでも言ってしまおうか?
そうすれば、まだ間に合うかも……
だけども、
「セリーヌ、そろそろ時間よ」
姫将軍エクリア……これから起こる戦乱の立役者の一人。
「姫将軍よ、少し待ってたもれ。セリーヌの様子が……」
「怖じ気づいているだけでしょう。さあ、行くわよセリーヌ。貴方の役目を果たしなさい」
この状況を作り出したのはアナタなのですね、お姉さま……
幸せなイリーナが、そんなに憎いのですか?
姉に視線を固定させたまま、絶望に心が軋んだ。
お姉さまの言葉に従い、ゆっくりとした歩調で、王宮から外へと続く道を歩く。
周囲をギルティンを始めとする騎士たちに囲まれながら。
胸が……キシキシ痛む……
目から涙が溢れ、止まらない。
そんな自分に駆け寄ろうとし、そして止められるお義母さま。
少し離れた場所で、こんな自分を見て苦い表情を浮かべるレオニード。
そして自分は、臣民達の歓声の中、ギルティンに手を引かれて豪奢な馬車に乗り込んだ。
どうすればいいのだろう?
どうしたら良かったのだろう?
ぐるぐるぐるぐる……
沢山の案が脳裏を過ぎり、否定する。
そしてまた、何度も何度も考える。
ぐるぐるぐるぐる……
脳を回転させ、何とかしよう、今からでも何か出来るかもしれないと、考え、考え、考え続ける。
ぐるぐるぐるぐる……
イリーナは大丈夫。
だって、リウイ・マーシルンが狙うのは、『メンフィル王国はカリアス王子の婚約者』
カルッシャの皇太子の婚約者ではない。
それにここでイリーナに手を出せば、原作以上にカルッシャと関係が悪化する。
他国に嫁に出した王女と、次代の王妃が奪われたでは、問われる国の威信が違いすぎだ。
もしもイリーナが奪われ陵辱されたのならば、カルッシャは全力でメンフィルに派兵し、リウイ率いる『魔族』の軍勢を滅ぼすに違いないから。
そうなれば、リウイは終わりだ。だから、きっと大丈夫なはず。そんなバカな行いはしないはず。
もっとも、原作とはあまりに違いすぎる我がカルッシャ。
私が浚われ、そして犯されて死んだとしても、やはり全力で攻め立てるだろうけど。
だから、もしかしたら大丈夫なのでは……
ううん、ギルティンのことがある。
自分がああ言って、こうなったのだ。
今になって思えば、あそこで、
『ギルティンをお願いします。彼は、ここで死なすには惜しいですから……』
などと言うのは不自然だった。
お姉さまは、自分が何事かを知っている。
そう思ってしまったのかも知れない。
だから、必ず来る。
惨劇の……幕開けが……っ!!
でも、もしかしたら、本当にお姉さまは自分を心配して……
いいや、でも、ううん、きっと……
ぐるぐるぐるぐる……
終わらない思考の迷路に迷う。
そしてぐるぐると答えのでないままに、時は瞬く間に過ぎ去っていく。
数日後、この後ミレティア保護領として独立する可能性が高いペステを抜け、メンフィルにほど近いレスペレント都市国家郡はラクの街の手前に到達した。
急ぎイリーナに追いついて欲しい。
そう、ギルティンを始めとするカルッシャの騎士達に命令を下す。
それは、イリーナ一行がメンフィルに入った。そう報告を受けたからだった。
イリーナ一行との距離は大分縮まった。
急げば、事が起こる前に追いつくかもしれない。
そう、自分は覚悟を決めたのだ。
リウイ・マーシルン!
大切な妹に、指一本触れさせはしない!
シスコンなお姉さまの名にかけてっ!!
キャラクター・データ(戦女神VERITA風味)
セリーヌ・テシュオス
LV.1
HP 12/12
MP 50/50
TP 0/ 0
熟練度
小型武器 E
スキル
病弱 Ⅴ 常時衰弱状態、及び、HP,MP,TPが75%低下
虚弱 Ⅴ 経験値及び熟練度の入手が不可、及び、全パラメーターが75%低下
復活 Ⅴ 戦闘不能になった時点で発動し、発動するとHPが50%で復活
臆病 レベル差が高いほど、回避率が上昇
自己憐憫 常時、肉体戦速と精神戦速が75%低下
妹が大好き パーティ内に妹がいる場合、攻撃力と防御力が10%上昇
弟が大好き パーティ内に弟がいる場合、攻撃力と防御力が10%上昇
姉が好き パーティ内に姉がいる場合、攻撃力と防御力が5%上昇
義母が好き パーティ内に義母がいる場合、攻撃力と防御力が5%上昇
父が嫌い パーティ内に父がいる場合、攻撃力と防御力が5%低下
血縁の絆 パーティ内に『血縁の絆』を所持しているユニットが複数いる場合、所持者の攻撃力と防御力が10%上昇
称号
病弱の姫君 レスペレント地方最大の大国カルッシャの第2王女セリーヌの初期称号
プロフィール
病弱で成人まで生きられないだろうと言われているカルッシャ王国第2王女。
その中身は、現実→ディル=リフィーナへの転生人である。
持っているだろう原作知識は、VERITAを除いた全て。
ただし、既に可也の量の原作知識を磨耗させている。
この先の戦乱を乗り越えるのに、あんまり意味がないと思っているからだ。
VERITAは、エウの3ヵ年計画のEPISODE-4での概要のせいで、エクリアをメイドに調教なエロゲーだと思っている節が有り。
原作のセリーヌ同様、一日の殆どをベッドの上で過ごしているせいか読書が趣味。
その知識の量は、学者顔負けである。
だが、その知識を活用する気は一切なく、もしも次の転生があるならば、その時に活用できたらいいなって思ってる。
それは無意識下で、病弱な今生に対し凄まじいまでの不満がある証拠。