シスコンでブラコンなお姉さま セリーヌたん物語   作:uyr yama

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16話目

 

 

 

 

セリーヌ・テシュオスという名を問われ、最初に思い浮かぶのは、メンフィル帝国創業の功臣としてのそれだろう。

 

 

幻燐戦争が終結して数年後、まだ王国であったメンフィルの最たる悩みは、皆殺しにされた文官と官僚の補充であった。

国王リウイ・マーシルンは、その問題に対し当時の、いいや、現在においても驚愕に値するドラスティックな一手を打つ。

敵対し、この問題の根源であるメンフィル大虐殺を行った国の最高幹部、旧カルッシャ王国宰相サイモフの招聘である。

そうしてサイモフと共にメンフィル王都ミルスに足を踏み入れたのが、当時サイモフに師事し王公領の内政官であったカルッシャ公レオニードの姉セリーヌであった。

サイモフがメンフィル全体の国政を担い、同時にセリーヌが不足していた文官・官僚の速成教育を行う。

 

速成された文官達は、多少の混乱や問題はあったものの見事に国政を切り盛りした。

 

他にも幻燐戦争当時、セリーヌが最も恐れ、警戒したといわれる機械化部隊の拡張。

輜重・工作・情報、それぞれの専門部の開設。

 

彼女はそれらの様々な制度を、時間を掛けてじっくり成立させていった。

これによりレスペレントのみならず、アヴァタールをも覗う大国の礎が完成したと言っても過言ではない。

 

しかし同時にセリーヌは、幻燐戦争終盤でメンフィルと最も激しい戦いを繰り広げた敗亡の将である。

 

その彼女を身の内に入れたメンフィル初代皇帝の器の大きさこそ……

(メンフィル帝国将星碌 セリーヌ・テシュオス伝より)

 

   

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 幻燐戦争終結より26年後…………

 

 

 

 

 

 

 

「さて、いい加減お話しなさい。あのエロなすび……もとい陛下はどこにおわします?」

 

問う方は、見かけ20前後の小娘。でも実は40過ぎの50近いばばあ……もといお姉さま。

問われる方は、文官・官僚といえど流石は大国を支える者達。その者達の威容は流石常の人ではなかった。

……はずなのだが。

額からとは言わず、全身から汗をかきかき真っ青である。

 

「そ、それは、そのですな……」

 

オドオド、ビクビク……

 

穏やかに微笑む美女に対する態度としては減点も減点。

だが、そんな彼を嘲笑しようとする勇者はこの国にはいない。

軍部のトップ、大将軍ファーミシルスでさえ、関わりたくないとソソクサ逃げ出す始末なのだから。

しかし、そうされる方は当然いい気分ではない。

ギンっと眼光を強め、逃げ出そうとした大将軍と、そして問われた国政を担う重臣達を睨みつけた。

 

「もう一度だけ聞きますね? 陛下はどこにおわします?」

「カーリアン殿を連れ、城をお出になりましたっ!」

「……城にいないのですね?」

「イエス、マムッ!!」

「アナタ方は知ってて、それを見送ったと?」

「か、カーリアン殿が……その、それで、あの、陛下も直接この目で城下を見てとか何とか……」

「アナタが言っていいのはイエスかノーだけですよ?」

 

なんて理不尽!

だが、そう思った瞬間、

 

「イエス、マムッ!」

 

身体に覚えこまされた、悲しい習性が口から出た。

……号泣したくなる。

これでも周辺諸国に名の知れた敏腕大臣だというのに。

しかも家に帰れば、自分を尊敬していると言って止まない妻や子供たち。

到底、家族に見せられる姿ではなかった。

そんな彼の様子なんてどうでもいいとばかりに、彼女は話を続ける。

 

「で、見送ったのですね?」

「イエス、マムッ!」

「陛下がやらねばならない大量の書類決裁が残ってるの知ってて?」

「い、イエス、マムッ!」

「私がその書類を提出するために、この数日殆ど寝ていないのを知ってて?」

「イエス、マムッ!」

「そう……そうなの。私みたいなオバサンは過労でとっとと死ねってことなのかな? かなかな?」

 

にっこりと微笑む。

何も知らぬ者が見たなら、思わず恋に落ちてしまいそう。

だけども、男たちはそんな彼女に背筋を凍らせる。

 

 

怖い……

怖くてたまらん!

 

 

大の大人が、それも国政に携わる大臣・局長クラスの者達が、顔を真っ青にさせてガクガク震えた。

彼らの脳裏に過るのは、今から20年以上前、無垢だったあの日に受けた文官・官僚速成教育。

通称 【サイモフ直伝セリーヌたん改良のNAISEI官育成ブートキャンプ】 である。

 

 

 

 

 

 

───ああ、まさかこの程度も出来ないなんてこと、ないわよね?

あれだけ戦犯国で敗戦国の王女と蔑んでいた貴方達優秀なメンフィルの重臣候補が……ねぇ?

あははは、まさかだよねえ、ウジ虫くんたち?

ああ、怒ったらダメですよ?

この程度出来ないなんて、ウジ虫くん程度でしかないの。

あっと、ごめんごめん、やっぱりちょっと言い過ぎだったわね。

ホントごめんねー。ウジ虫君に失礼だよね?

アレはアレで精一杯生きてるのに、貴方達の様な何の役にも立たない穀潰し風情と一緒にされちゃあ失礼だったわよね?

 

あはははははははははははははははははははははははははははは

 

 

 

 

 

 

血に濡れた鉄張りのハリセンを片手に、鬼のように佇む彼女の姿。

今でも鮮明に思い出せる。

アレに比べれば、伝説の姫将軍などは可愛いものだ。

 

あまりの傍若無人に苦言を呈した大将軍ファーミシルスを正論でへこませ、なおかつ軍人にも国政のなんたるかを知る好い機会だとブートキャンプに参加させ……

あの日、泣きながら国王陛下と元カルッシャ宰相サイモフに、セリーヌへの取り成しを頼んでいた彼女の姿は忘れられん。

彼女に付き合ってブートキャンプに参加した、メンフィルの次代を担うティルニーノエルフのルースなど、それからしばらくはセリーヌを見るだけで悲鳴をあげたものだ。

 

心と体に徹底的に覚えこまされた知識と技能と帝国への絶対服従。

信じられるものは、血と汗と涙を流し共に苦難の道を歩んだ友と、それを乗り越えた己のみ。

そんな苦難の日々を、チラリと思い出すだけで発狂しそうだ。

思わず全裸になって城下に飛び出し、彼女を招請した陛下に大声で罵詈雑言を浴びせたくなるほど。

そんな彼女は、仕事中はちょっと厳しいキャリアウーマン。

でも仕事が終われば甘いお菓子の匂いを漂わせて、にっこり微笑んでくれる。

普段は優しい王の義姉君なのだ。

 

だけども一旦怒らせれば……

彼女はあの頃の……いいや、あの頃以上の威圧感を持って嗤う。

 

ヒゲが逞しい身なりが上等な男……内務大臣を務める男が、視界の端で震える大将軍に目で問いかける。

 

 

なぜ? なぜセリーヌ殿の機嫌がここまで悪いのだッ!

陛下がカーリアン殿を引き連れ城を抜け出すなんて、いつもの事ではないかッ!!

 

たぶん寝惚けておいでだったとは思うのだが、陛下がイリーナ様の名を呼びながらセリーヌ殿に抱きつき、胸の谷間に顔を埋めて……

 

 

 

頬を引き攣らせる男達。

あの王の義理の姉で弟ラブな彼女は、とても身持ちが堅い。

何より、彼女は災厄の神殺しの第一使徒。

 

 

陛下ぁーっ!! そんなヤバイ相手に手を出そうとすんなよおー!!

 

 

ちなみにその時は、コブラツイストで戦場の雄たる国王リウイ・マーシルンを悶絶させ、悲鳴を上げさせた。

 

後にリウイ・マーシルンは語った。

 

 

コブラツイストなる技を食らった瞬間だけは天国のようだった。

確かにイリーナの姉で、同じような好い香りと柔らかい女の肌。

イリーナに勝るとも劣らない豊満な胸の柔らかさに、思わず頬がにやけてしまった。

だが次の瞬間、あまりの痛みで喉から絶叫が走った。

あとはもう分からん。

気づいたら医務室のベッドに横たわっていたからな。

 

 

 

そんな彼女の怒りを理不尽にも受けるはめになってしまった内務大臣達の嘆きも知らず、当の本人であるリウイは呑気にお供のカーリアンと共に屋台で買い食いをしていた。

 

「平和だな……」

「そうねぇー。ちょーっとつまんないんだけど、これがあなたとイリーナが追い求めたものなんでしょ?」

「ああ。だが、まだ途中だ」

 

そう、まだ途中。

道行(みちゆき)は遥かに遠けし陽炎の如く。

しかもその道程を邪魔する勢力も現れよう。

だがリウイは思うのだ。

ここまで来るのに相対した強敵たちを。

彼らを下してきた自分が、こんな場所で躓く訳にはいかないのだ。

 

それこそが勝利者の義務なのだから。

 

そんな彼の脳裏に最初に思い浮かぶのは、勇者ガーランドや姫将軍エクリア。

だけども、もっとも彼を悩ませた存在は、今は彼が治める城にいた。

 

どこまでもいやらしく、ねちっこく、しつこく……

 

様々な意味でもう二度と敵対したくはない相手。

 

リウイは先ほど屋台で買った焼き鳥を苦い顔で口に放り込むと、あの幻燐戦争と呼ばれた最終局面を思い出す。

 

 

あの、大切なモノを手にし、そして失った戦いを…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  幻燐戦争終盤の王都ルクシリア

 

 

 

 

 

愛する家族との感動の再会をした私は、泣いて泣いて泣きやまないお義母さまと一緒のベッドで夜を過ごした。

義母との話は明け方まで尽きることなく、時に笑い、時に喜びの涙を流す義母を見て、私は本当にここに帰ってきた良かったと思った。

病気がなぜか治った私に、心の底から喜んで泣いてくれるのだ。

前世の母も、今生の産みの母も愛しているが、この育て(?)の義母も大好きなんだと再確認出来た。

 

だから私は、宰相サイモフの要請に応える。

 

彼の思惑も大体だが解っているつもりではあった。

ようするに、万が一の時の犠牲の羊となれと言っているのだろう。

姫将軍エクリアが担っていた地位の踏襲と、対メンフィルの最高司令官の職に就くことで。

 

いわば、新たなる姫将軍の誕生といったところか?

 

確かにこれならば、メンフィルの憎悪を一身に受けることになる。

彼らにとって憎むべきは、エクリアという名よりも姫将軍の異名だろうから。

 

もっとも、私はお姉さまと違って実力はない。

お姉さまの部下達も私の指揮下に素直に入りはしないだろう。

ただの見せ看板にしかなれないのだ。

 

それでも私はいいと思った。

 

ただの姫では出来ないことも、この地位ならば出来るだろう。

この地位で出来うる全てで貴方と戦いましょう。

 

メンフィル王リウイ・マーシルン。

 

イリーナの夫にして、私の婚約者の仇。

 

まあ婚約者の方はどうでもいいけど、これを全面に押し出し、私は戦う。

 

……セリカが聞いたら怒るかな?

 

私は胸に過る僅かな不快感と、そしてセリカへの申し訳なさからくる罪悪感に苛まれる。

 

でも、わたしは止まらない。

 

レオニードを、義母を、2人を守れるのは私だけ。

 

セリカは私がいなくても生きていける。

それに運命の相手であろうお姉さまもいる。

私は、必要ないのだ。

 

だから私は…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さあ、始めましょうか」

 

小首を小さく傾げ、凛と響く声でそう言った。

ゆるくウェーブのかかった長い金の髪がふわりとなびく。

髪のかかる先には、彼女の想い人と同じ髪の色をした紅の武装具。

窓から差し込む太陽の光に反射して、いっそ幻想的な美しさを醸し出していた。

 

「では殿下、始めさせて頂きます」

 

そう言った厳つい顔の男は、元ブロノス砦の司令官オイゲン。

エクリア去りし後のブロノス砦を守っていた将軍であったが、セリーヌの招聘により彼女の補佐を担うことになった。

現状、実質的な対メンフィル最高司令官だと言っても過言ではない。

なんせセリーヌは軍を率いた経験どころか、戦場に立った経験もあまりないのだ。

せいぜいがメンフィルに嫁ぐ途中で襲撃され応戦したことぐらい。

それにしたって指揮など執ってないし、特攻かまして失敗して全滅。

正直、指揮官として迎えるには問題だ。

そんな彼女である。経験豊富な将軍の補佐がなければ軍を率いるなど不可能。

 

(こんな時、ギルティンが居てくれたら……)

 

セリーヌはチラリと頭を掠めた忠臣の顔を、首を軽く横に振って追い払う。

彼が死した後にまで頼ってしまうなんてと、情けない自分に自嘲しつつ、オイゲンの声に耳を傾けた。

 

「メンフィル王の一行は、ティルニーノ部族国はニーノの街を最後に一時消息を断ちました。その後一週間ほどで再びニーノの街に姿を現すと今度は南下。レスペレント都市国家群を経由しスリージ王国へと入った模様です」

 

セリーヌをしばし瞑目して思いを凝らす。

脳裏に描かれるのは、レスペレントの全ての国や街、そして秘境。

セリカとの6年近い旅で得た土地勘と、それを基にしたレスペレントの全体図が、彼女の脳裏に鮮やかに再生されているのだ。

 

今の時期にティルニーノに行くとすると、それは姫神フェミリンスの呪いについて調べるために、そこから東にあるリークメイルにでも行ったのだろう。

そして現在がスリージだとすれば、その次はフレスラントを通りミースメイルに行き、イオメルの樹塔にある水晶の刃が目的か?

 

そう薄く笑うセリーヌ。

自らの道具袋にある使い物にならない、でもとても美しい輝きを放つ剣を思い浮かべたからだ。

 

せいぜい探しあぐねなさい。

 

そうしてる間に、私はアナタの心の臓を貫く刃に磨きをかけましょう。

 

「……連れている軍勢の規模は?」

「少数精鋭と言った所ですな。」

「具体的に連れている将の名と、軍団の規模を聞いています」

「ハッ! 申し訳ありません! メンフィル王リウイとその親衛たる部隊、大よそ50。近衛騎士団長シルフィアと近衛軍100。兵と、それを率いる将は以上です。これとは別にメンフィル王に侍る将が、フレスラント王女リオーネ、スリージ王女セリエル、クラナの巫女ニーナ、ティルニーノ女王フェイエ、そしてカーリアンです」

「……? ベルガラードの大使、ブラム・ザガードはどうしました?」

 

現在メンフィルにおいて一番警戒しなければならない男だ。

顔に似合わず情報収集と謀略に長けた彼が、何故メンフィル王のそばにいない?

 

「メンフィル王都ミルスから動いた気配はありません」

「そう……ですか」

 

セリーヌは短く返事を返すと、再び瞑目しながら椅子に深く座り、背もたれに身を預けた。

 

シン……と静まる室内。

 

ブラムが一行に居ないのは、セリーヌも、そしてオイゲンも知らないことだが、彼と恋仲未満である近衛騎士団副団長リネア・エーアストが再起不能の大怪我をし、せめて貴様が傍にいろと、リウイからの余計なお節介であった。

これまたセリーヌは知らないことだが、リネアを再起不能にしたのはセリカである。

当然その場にいたセリーヌであったが、当たり前のように覚えていなかった。

これによりメンフィルの優秀な将が一人減り、更にはリウイの傍に参謀足れるブラムがいない。

セリーヌにとっては一見幸運に見える。

だが同時にリネアの退場によって、本来この時期には騎士団長を解任されていた聖騎士シルフィアが任に就いたままなのだから、本当に幸運かどうか不明である。

もちろん、将としてシルフィアがリネアよりも優秀どころでは済まされないのは誰でも良く知るところだ。

それにブラムがメンフィルの王都に居る。これはセリーヌにとって頭が痛かった。

彼女が考える、これからの作戦行動に、その位置に彼がいれば容易に対応を執られるかも知れない。

 

難しい顔をするセリーヌ。

 

その場に居る全ての者達……先に言ったオイゲンを始めとする将兵達は、黙ってセリーヌの言葉を待った。

 

彼らはセリーヌに心服した訳ではない。

この国の次期王たるレオニードと、宰相サイモフの命にて従っているだけだ。

それでも僅かな期待が彼らにはあった。

外見(そとみ)、エクリアと良く似ているその容姿。

どこか危うげなれど、確かに芯のある態度。

そして、エクリアの持っていた情報網の重要性を、ここに居る誰よりも認識していた識見。

何より、全てを見透かしているかのような、その深い瞳の色。

心服はしていない。だが期待はしてしまう。

 

「次から上げる将の居場所は解りますか? ファーミシルス、レアイナ、ラピス、リン、ティファーナです」

「……しばしお待ちを」

 

エクリアの元部下にして、情報の取りまとめをしていた騎士が部下達を呼び寄せる。

セリーヌはぼうっとその光景を見ながら、記憶の端に引っ掛かる彼の顔を注視し、だけども答えが出る前に彼が視界から消えてしまった。

彼は元は近衛騎士団に名を連ねていた男だ。

 

そう、6年前までは……

 

近衛騎士隊長ハーマンの部下にして、あの日メンフィルに襲撃されたセリーヌの命にて王家の証と開拓民を連れて撤退した騎士の一人であった。

多くのエクリアの部下達がセリーヌに面従腹背の中、当然とばかりにエクリアに対して以上の絶対の忠誠をセリーヌに捧げたのはそんな訳からである。

彼の胸には、あの日散った仲間達の無念と、ハーマン同様のセリーヌの騎士としての誇りがあったからだ。

それを決して口にしない辺りが、彼のセリーヌへの忠誠の深さを物語っている。

 

「大将軍ファーミシルスは、メンフィル王都ミルスにて、メンフィル軍全ての兵権を預けられている模様。部下のティルニーノエルフであるルースと共に、主に乱れた国内の治安回復を行っています。レスペレント都市国家群都市国家長レアイナ・キースは、同じく王都ミルスにて政治の全てを委ねられています。代わりに彼女の腹心、リシェル・フルートがレスペレント都市国家群の守護を担っています」

 

セリーヌは表情を動かさずに、彼の報告に感嘆した。

自身がすでに忘れかけている原作知識。

その中でも完全に忘れていた名前を、かの騎士は重要人物としてあげたからだ。

流石はお姉さまの部下だとセリーヌは絶賛した。

 

「続いてラピス・サウリン、リン・ファラ=バルジアーナ、ティファーナ・ルクセンベールの3名は、サランの街にて兵をまとめている模様です」

「ふむ、再びブロノス砦へと攻め上る準備と言った所か?」

 

オイゲンの言葉に、重々しくコクンと頷く騎士は、真摯な視線でセリーヌを見やった。

セリーヌは彼の視線に目元をゆるめると、

 

「ありがとう。これで随分とやりやすくなります。そういえばアナタの名前、知らなかったわ。今さらですけど教えてもらえますか?」

 

恥いっているのか、頬を染めてすまなさそうに問う。

部下の名前を知らないなどとは、上司として失格ですと。

ただでさえ急任の上司で、しかも王族なんて血筋での就任。

しかもしかも、行方不明でどこをほっつき歩いていたのか不明な王女である。

 

失態も失態。大失態だ。

 

だが騎士の胸は喜びにみちみちて、感激のあまりに息を大きく吸い込んだ。

それを見ていたオイゲンを始めとする将達も、微笑ましそうにセリーヌを見た。

将を束ねる将として有能かどうかはともかく、人として好ましい人物だとでも思ったのかもしれない。

何より、自分達もそうなのだが、ここに集う者達は全てカルッシャを守る為の生贄。

死に逝く可能性の高い任務を指揮する将としては、この上もなく好ましい。

 

人生の最期くらい、宰相サイモフのような鳥の骨や、不敬ではあるが顔色の悪い皇太子ではなく、美しい姫の命で死んだ方が騎士としての本懐であろう。

 

自らの名を高々と告げる騎士に続いて、我も我もと後に続くのは当然だったのかもしれない。

突然の出来事にあたふたと慌てふためくセリーヌに、オイゲンも先の騎士同様、セリーヌの命に完全に服する覚悟を決めた。

 

例え、それが国家の滅亡を招いたとしても……

 

そう、目端の利く者たちは既に解っていた。

ブロノス砦の戦いでの勝利のおりに、メンフィル王リウイ・マーシルンを討ち取れなかった時点で……いいや、エクリアを追放した時点で、カルッシャが滅ぶのを知っていたのだ。

 

 

いいや、『知っていた』はずだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




戦略や戦術については、なんちゃって戦術・戦略になります。
あまり突っ込まないようお願いしますw

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