シスコンでブラコンなお姉さま セリーヌたん物語   作:uyr yama

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14話目

 

 

 

 

チュン、チュン……

 

聞こえてくる小鳥の鳴き声に、やや混乱したままの私は、

 

あれー? この世界にもスズメさんがいたんだー。

だって、朝チュンだよ朝チュン。

これで夜明けのコーヒーがあれば完璧だよ!

 

って感じでおバカなコトを考えていた。

すると頭の上から、

 

《うん? スズメとはなんだの?》

 

と、妙に明るい声で駄剣が聞いてくる。

顔があったらニヤニヤとイヤらしい笑みを浮かべてるに違いない。

 

「私の前世の世界の小鳥さんの名前です」

《前世の世界じゃと……ほう、これは、また……のう……》

 

深刻な色が混じったハイシェラの呟きなんて耳に入らず、私は自分が何を喋ってしまったのか気づかない。

 

だって、それどころじゃないもの。

 

外だというのに真っ裸な私。

剥き出しに晒されている双丘は、汗とセリカの唾液でヌラリと光ってる。

ヒリヒリする股間には、まだ何かが挟まってる気がしてならない。

ついさっきまで声を荒げて喘いでいた私は、生まれて初めて感じた性感の嵐と、女として乱暴に扱われる悦びに艶狂ってしまった。

 

そして今、私はセリカの腕の中で、熱い女の溜息をこぼすのだ。

暖かく、だけどもやたらと硬い胸板に頬を押し付けながら、視線は遠く海を見る。

段々と暗い闇のオウスト内海が朝焼けに燃えて、明るい光の世界に塗りつぶされていく。

 

このままアナタとこの海を渡り、全てを忘れて過ごす事が出来たなら、どんなに幸せなんだろう。

何度も言うけど、それでも私はカルッシャを捨てられない。

 

家族を、義母を、弟を。

そして……お姉さま……アナタは今、お一人なのですか?

 

大切な姉の顔を思い浮かべ、私は前世の記憶からくる知識で軽い自己嫌悪。

手を伸ばし、目を瞑ったままむっつりした表情を見せるセリカの顔を、愛おしく撫でる。

 

(もしかして、私はアナタの運命を奪ってしまったのでしょうか……?)

 

想い人であるセリカと結ばれた所為で、意気が上がっているのだろう。身体の調子が非常に好い。

この身に生まれてからずっと私を苛んでいた病の気配すら感じず、初めてと言っても良いぐらいに身体が軽い。

今の私は、本当に幸せなんだろう。だからこんなに……

でも、セリカの運命は私じゃない。お姉さまなのだ。

なのに、なのに……

 

「どうした、カヤ」

「もう、アナタのカヤじゃありません。今の私は、セリーヌなのです」

 

感情が削げ落ちた声で、それでも私を心配しているのだとスグに分かる。

なのに私は、冷たく拒否の言葉を投げつけた。

 

心が、痛い……

アナタを拒否しようとすると、何故こんなに心が痛むのか……

 

「そう、か……」

 

どことなく、傷ついたようなションボリした返事。

その返事に心がザワメク。

目頭が熱くなる。

でも、嗚咽が出そうになるのをグッと堪えた。

帰らないといけない。

そうじゃないと、私の為に死んだギルティンやハーマン達に申し訳が立たない。

私の命は、国の為に捧げなければならないのだ。

 

じゃないと、今、生きてる事自体が申し訳なくて、私は、私は……!

 

抱かれる前にした、悲壮な覚悟を再び決意した瞬間、同じく再び強引に胸を揉みしだかれた。

上体を持ち上げられて、私は自然とセリカの身体の上に乗る形となる。

セリカの意味ありげな視線に、私はコクンと素直に頷くと、腰の位置をずらし……

昨夜とは違って、私は自ら踊り狂う。

不安と焦燥から逃げ出すように、激しく、どこまでも激しく。

そして、苦しく喘ぎながらセリカの言葉に耳を傾ける。

 

「何を望む、お前は如何したい? カヤ、いいや、セリーヌ。お前が望むなら、俺は剣を取っても構わない。そして、お前を悲しませる全てを焼き尽くしてみせる」

 

ダメだ、それだけはダメだ。

神殺しが本気でレスペレントの歴史に名を連ねようとするならば、それこそ世界中から悪意を向けられる。

そうなれば、アナタはきっと本来得るはずの安息の地……レウィニアへと続く道行に外れてしまう。

私はそれに耐えられない。

だけども、グゥン! 下から激しく突き上げられ、身体が一瞬、宙に浮いた。

 

「言え、如何したい、何をして欲しい」

 

浮き、そして重力に従って沈む。

彼の中心が私の子宮を突き上げて、悲鳴じみた嬌声が口からこぼれた。

身体と一緒に感情までをも揺さぶられ、私は喘ぎながら、ポツリ、ポツリと、途切れ途切れに……

 

「た、すけて……」

 

何を?

私は何を助けて欲しい?

今、こうやってセリカにイジメ倒されている私?

それともメンフィルに滅ぼされそうになっているカルッシャと言う国?

そこに住まう臣民達?

 

たくさん、たくさん、頭の中をグルグル回る。

 

身体をくの字に屈ませながら、私は壊れたレコードみたいに、ただ、助けて……と呟く。

原作知識。私を苛む悪夢の記憶。

私が死に、レオニードが死に、義母が死に、イリーナが死に、お姉さまが死ぬ。

 

ああ、国なんかどうでも良かった。

 

私が本当にしなければならないのは……家族を助けるコトだけなのに。

国なんて、家族を助ければ、きっと一緒についてくる。

そうすれば、そうしたら、きっと、きっと……

アナタ達の下へ胸を張って逝ける。

だから……

 

「助けてよ……せりかぁ……!」

 

泣きながら、私は髪を振り乱して背を弓なりに絶叫した。

私の中にほとばしる熱い塊を全て受け止め、遠のく意識の中、優しい声が鼓膜を震わす。

 

「ああ、俺に全て任せろ。俺の、たった一人の、大切な……」

 

一番大切な言葉は耳に入る事無く、空しく世界に消えていく。

私は自分が既に身も心も、魂すらも彼のモノなのだと気づけずに。

それに気づくのには、まだ、少し時間が必要みたい。

 

まさか、私が使徒になっていたなんて。

セリカを感じとれるのも、ぜんぶぜんぶぜーんぶ! 私の恋心からくる妄想だと思っていたよ。

 

アハハハー

 

…………はぁ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、物語の時間は少しだけさかのぼる。

 

エクリア失脚に、薄ら寒い何かを感じとっているカルッシャの民達が見られるより前。

ブロノス砦防衛に成功して、喜びに沸くカルッシャの民達が見られるよりも更に前。

 

セリーヌが、今一番心配している人、エクリアがカルッシャ姫将軍であった頃の物語を語る為に……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

息せき切って現れた近衛の騎士に、ピクッと僅かに眉を跳ね上げた。

 

ここは前線。現在このレスペレントで最も激しい戦闘が繰り広げられているブロノス砦の一室である。

通常、近衛の騎士が訪れるような場所では決してない。

エクリアは騎士が手渡す一枚の手紙を受け取ると、「ご苦労」と短く礼を言う。

そのまま去っていくのを視線だけで追いながら、意識は既に手紙の内容へと飛んでいた。

 

(予想以上に早かったな……)

 

内心で毒づきながら、厳重に封されている手紙を、丁寧に取り出し広げる。

忙しなく目を動かし速読すると、フゥ……と大きく溜息を吐いた。

 

これで、カルッシャのレスペレント統一の機会は失われてしまった。

ならば憎しみはカルッシャに向かわず、己の身に向かうようにせねばならんな。

 

薄く冷酷な笑みを口元にたたえ、エクリアは手紙を大事にたたんでしまい込んだ。

 

差出人の名は……不仲の筈のカルッシャ第二王妃ステーシア。

あの日、偶然にセリーヌの部屋で出会って以来、幾度となくセリーヌの部屋で顔を合わせた2人。

エクリアはステーシアに言われたとおりに、セリーヌの部屋に入室する前には身体を清め、珍しく武装を完全に外してから訪れるようになった。

 

それは、僅かな期待だったのかもしれない。

幼い日に失われた母性という名の暖かい何かを求めての。

それがどんなに破廉恥な行為か、エクリアは良く理解していた。

 

なんせ彼女は、周囲の愛を一身に受けて幸せそうに微笑むイリーナに嫉妬した。

病弱で、いつとも知れない命のはずのなのに、それでも常に幸せそうにしていたセリーヌに嫉妬した。

そうして家族という輪の中から弾かれた自分を、哀れんでいた。

確かにステーシアやレオニードからは疎まれていたけれど、決してそんな事はなかったのに。

今になってそう思う。

 

(なのに私は……)

 

初めは冷たい憎しみ混じりの視線で睨みつけられた。

それは今も対して差はない。

ステーシアの視線の中には、決して消えることがない憎悪の炎がちらついている。

だけども、その目の中の更に奥に、申し訳なさが僅かに混じっていた。

そのお陰だろう、少しづつ、少しづつ、ポツリポツリと言葉を交わし始める。

大抵は現在の戦況について。

一刻も早く憎き魔族共を殲滅しろ! そんな感じの憎悪が込められた言葉を投げつけられた。

だが、その中に時たま混じる何か…… 

 

 

 

 

 

 

 

「先程の、なんの報告でしたのかな?」

 

思い出に耽っていたエクリアを、現実に戻す男の声。

うやうやしい話し方であるが、気づける者は気づくだろう。

言葉の中に混じる、こちらを見下し嘲笑う響きに。

彼の名はケルヴァン・ソリード。

メンフィルの重臣だった男だ。

 

「さあな。貴様に関わりのある報告ではない」

 

冷たく、そしてそっけない声で返す。

なんせエクリア。テネイラ事件以降、謀才のあるこの男を積極的に使ってきたのだ。

その大部分の理由が、リウイの下へと戻すよりは、自分が使い潰した方がマシ、と言う理由ではあったが。

そして、そのケルヴァンが何事かを仕掛けて来るのが、彼女には感じ取れたから。

 

「仲のよろしいことで。第二王妃ステーシア殿と言えば、姫将軍殿の母君、リメルダ様を死に追いやった一人だと言うのに……」

 

それは、この先の流れを決定的に決めつける一言……になる筈だった。

少なくても、セリーヌの知る原作知識ではそうだ。

だが、

 

「知っている。それがどうしたと言うのだ?」

 

視線をケルヴァンにむける。

口角を釣り上げ、勝利者として傲慢さを秘めた笑みを浮かべて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ステーシアにある僅かな申し訳なさ。

それはリメルダの死に関係していた事ではない。

リメルダを殺した側に身に置きながら、その事実を隠したまま、母としてイリーナやセリーヌと接していた事だ。

ステーシアは、リメルダは死んで当然だったと思っている。

夫であり、主君でもある国王ラナートに、フェミリンスの呪いの解き方を秘密にした事がそうだ。

知れば大量の血が流れるから、などと言ってはいたが、それはラナートや周囲の者達を信じぬ言葉だ。

もっとも、リメルダは覇王ラナートの心の弱さを誰よりも熟知していたからだったのかもしれないが、だからと言って許されることではない。

 

知らぬと言うのは不安を呼び、恐怖させる。

 

その不安と恐怖から、国を、民を守る王として、それらに害を成す可能性のある殺戮の魔女を誅殺するのは自然な流れではないか。

結果、ラナートは夫として、王としての自信を喪失し、後宮に籠もるだけの情けない男へと成り下がった。

 

その全ての切っ掛けを作り出したのは、リメルダなのだ。

レオニードが苦労するのも、イリーナが浚われたのも、セリーヌが殺されたのも、エクリアが殺戮の魔女の呪いに苦しむのも……

だからリメルダについては、罪悪感の持ちようがない。

どころか、今目の前にいたら八つ裂きにしてやる位に思ってる。

でも、このことをイリーナとセリーヌに知られるのが怖かった。

初めは憎い女の娘だった2人が、気づけばとても愛おしく。

実の子であるレオニードと同じか、それ以上の愛を注ぐ存在となってしまった。

 

ステーシアから懺悔のように聞かされたとき、エクリアは瞬間的に頭に血が上った。

 

母リメルダは、生涯をかけてカルッシャに尽くしたというのに……

呪いが恐ろしいというのなら、初めから王妃になど迎えなければ良かったのだ!

 

だが、その怒りもスグに萎んだ。

虚けとなった父の姿が思い浮かぶ。

それまで覇者として轟然としていた男が、それ以降は政務を捨てて後宮に入り浸る暗君となった。

フェミリンスの時代から続く魔道の大家の血を確かに受け継ぎ、その智勇兼備をレスペレントに響かせた男が……

カルッシャの為だけに生きてきたエクリアには分かった。その苦しみが。

 

きっと、国の為だったのだな、と。

エクリアも聞かされていたのだ、母リメルダから。

 

殺戮の魔女となる呪いを解く方法はある。

でも、それには沢山の血が流れるのだと。

 

恐ろしくなったのだろう、その流れる血が。

だから怖くなったのだろう、母リメルダの身に流れるフェミリンスの血が。

なのに呪いを解く方法を教えようとしない母を父は恐れたのだ。

 

だからきっと、殺されたリメルダにも責はあった。

 

話せば良かったのだ、夫にして主君でもあったラナートに。

でも、話せなかった。その訳がなんなのか、今のエクリアには想像もつかない。

 

沢山の血が流れるといった所で、それがなんなのか言ってくれなければ、どうしようもないではないか……!

 

リメルダにはリメルダの考えもあったろう。

だがそれは、夫ラナートや、友であったろうサイモフ、テネイラをも信じないと言ったも同然なのだ!

エクリアには、リメルダの立場になって考えるには、情報が少なすぎる。

でも、ラナートの立場になって考えてみると、リメルダを殺すのも已む無しだ。

いや、むしろ積極的に廃するのではなかろうか?

この身を犯すフェミリンスの呪い、その殺戮衝動を誰よりも熟知しているエクリアならば。

エクリアは、娘としてなら母を殺した父を、直接手を下したであろうサイモフを到底許せそうにはない。

 

でも、一国の姫としてなら……?

 

この思想自体がサイモフにより植えつけられたモノだとしても、それでもエクリアは、もう母のコトで誰かを怨むコトは出来そうになかった。

むしろ、どうしてこんな面倒な事態……その方法が何であれ、誰にも呪いを解く方法を告げる事無く、この世を去ってしまったのか、その事で母を恨めしく思う。

 

勿論、母はいずれは私に教えようとは思っていたのだろうが……

そうなるまえに殺されたのは、母の夫や友人への甘えから来てしまったのだろう。

夫や友ならば、何も言わずとも信じてくれる……などと甘えていたのだから。

 

だから、アナタは気に病む必要はない、とエクリアはステーシアに対して思った。

 

イリーナやセリーヌに嫌われるのが怖かったと告げる彼女。

彼女の顔は、愛する娘に疎まれる恐怖に身体を震わせ……

 

「イリーナも、そして死んだセリーヌも、そのコトでアナタを嫌うなどありえない。そうは思いませぬか?」

 

静かに泣き暮れるステーシアに、エクリアは何故だか生前のセリーヌの言葉の端々を想う。

あの娘は、もしかしたら全てを知っていたのかもしれない。

母の死の真相も、フェミリンスの呪いの解呪も……

でも、それらもまた明かされるコトなく、エクリア自身が関わった謀略の果てに、セリーヌ自身の命と共に終(つい)えた。

 

「シスコンで、ブラコンな、お姉さま……」

 

ボソリと呟かれたエクリアの言葉は、狭いセリーヌの部屋にやたらと響き、その言葉にステーシアは涙をぬぐい、

 

「セリーヌの口癖であったな」

 

失われた愛する娘を想い……頬を緩めた。

 

「あの娘は、こんなトコで間違って……」

「何がであろう?」

「お姉さまであるのは、私なのですよ、ステーシア殿。あれは、あくまで『妹』です」

「……ック……ククク……アハハハハ……」

 

初めは笑いの衝動を堪えようとした。

でも、スグにそれが決壊し、ステーシアは笑った。

セリーヌが死に、イリーナが魔族の王の妻となって以来、一度も笑ったことが無かったのが、まるで嘘のように。

 

エクリアは、この時決意した。

自分は遠からず排除されるだろう。

それはむしろエクリア自身が望むことではあった。

呪いの決壊が間近いこの身を、何時までもカルッシャに置いておく訳にはいかなかったから。

だがそれは、メンフィルを滅ぼし、イリーナを殺してフェミリンス直系の血を絶やし、レスペレントを統一し、西方諸国からの脅威を完全にぬぐい去ってからだ。

 

だからこそ、今宮廷にて蠢動しているサイモフを抑えんと、こうして王宮に何度も足を運んでいた。

 

近衛騎士団を抱きこみ、官僚共を恫喝し膝下に治め、そして……

ついでに、こうやってセリーヌの部屋に訪れ、僅かな時間をステーシアの嫌味を聞いて過ごしていたのだが……

 

その宮廷工作を止める。

これからは時間との勝負だ。

 

もしも国から排除される前にメンフィルを滅ぼせるのなら、イリーナを殺し、カルッシャ姫将軍としての生を全うしよう。

だが、もしもそれ以前に自らが廃されるならば……セリーヌが欲した生き方をしてみようじゃないか。

セリーヌを殺した勢力の王に、ぬけぬけと嫁いで幸せになったイリーナを愛そう。

私を疎ましく思い、サイモフと共に私を廃そうとするレオニードを愛そう。

 

「セリーヌ……アナタの想い、私が引き継ぎましょう。それがどんなに破廉恥なことかは分かっている。それでも……そう、私こそが、シスコンでブラコンなお姉さまなのだ!」

 

目を数回パチクリしたあと、先ほどよりも大きくお腹を抱えて笑うステーシア。

そして、セリーヌの最期に見せた時のような、優しい笑みを浮かべるエクリア。

 

この時、この2人は確かに繋がったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

決して表情には出さないが、ケルヴァンが困惑している様が良く分かる。

ケルヴァンは、エクリアが憎しみに駆られるモノだと思っていたのだろう。

だが、すぐさまその困惑を頭から振り払うのは流石、とエクリアは感嘆する。

 

そして、感嘆の思いを持ったまま、剣を振り下ろした。

 

 ザンッ!

 

殺気なく、見事なまでの無拍子。

 

「な゛っ!?」

 

袈裟懸けに、ばっさりと斬られたケルヴァンは、驚きに目を見開いたまま、バタンと床に倒れこんだ。

斬られた傷跡からダクダクと血が流れ、致命傷を負ったであろうコトは見ただけで分かる。

そのケルヴァンは、自らの血に濡れる床に爪を立て、ギギギギ……と引っ掻きながら憎悪の視線でエクリアを睨みつけた。

 

「ケルヴァン・ソリード、キサマはもう必要ないのだ」

 

せせら嗤うような口調でそう言い切った。

もしも失脚せずに、このまま対メンフィル、そしてレスペレント統一戦へと続くのなら、この男の力は有用である。

しかもその力も然ることながら、レスペレント随一といってもいい謀略の才は手放すに惜しかったからだ。

だが、そうでないのならば、この男の闇は邪魔でしかない。

イリーナを害し、レオニードを害し、カルッシャを、レスペレントを闇へと堕とそうとするこの男は!

ケルヴァンは何事かを口にしようとするも、ガハッ!っと大量の血を吐き出し、何も話すことは出来ず。

 

「そう言えば、キサマはセリーヌの死に関わっていたな……」

 

冷たい死の宣告。

ケルヴァンも自らの死を悟ったのか、口惜しそうに、呪詛の篭った言葉を漸く口にした。

 

「そ、れは、アナタも、でしょ、うに……」

「ああ、そうだな。で……?」

 

エクリアの視線に惑う色はなく、ケルヴァンは完全に自分が敗れ去ったのだと理解する。

 

このレスペレントを!世界を!真の闇の王国にしたかった!!

恐怖によって全てを支配する姿こそ、正しい世界のありよう。

伝説の熾天魔、リウイ・マーシルンの恐怖の下、新たな秩序を創り……

 

でも、最期に想うは女の姿。

 

人と言う存在を見下した己。その己が最期に想うは人の女か……

 

初めて相対したはずの俺に、迷う事なく憎悪を見せた眼。

モギュモギュと、口一杯に何かを頬張って食べる愛らしい顔。

 

その顔が、こちらを向いて……

ああ、俺はあの女を、愛していたのか……

 

「リ、ウイ……リーヌ……俺の、せ……」

 

ズシュッ! 首筋に立てられる冷たい刃の感触を最期に、思い描く理想の世界と女を夢見、ケルヴァンの世界は止まった。

 

 

 

 

ケルヴァン・ソリード。

 

メンフィルに最大のダメージを与えたメンフィル内乱。

その実質的な仕掛け人であった彼は、その所業を誰に知られることも無く。

彼の黒く暗い野望もまた、誰に知られることも無かった。

 

リウイ・マーシルンにとって、股肱の臣であり、師であり、友であり、兄でもあったケルヴァン・ソリード。

後にリウイは、最初に産まれた男子の名を、子の母であるシルフィアと死せし忠臣の名を取り、シルヴァンと名付けた。

 

レスペレントの覇者、メンフィル帝国の2代皇帝である。

 

真実を知る者が居れば皮肉な事に、彼の名はメンフィル史において、興国の功臣にして初代皇帝の忠臣としての名をのみ残すコトとなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、姿を消すにしても、最低限のコトはしておかなければ、な……」

 

指をピッと鳴らす。

途端に轟!っと炎が噴き上げケルヴァンの身体を燃やし尽していく。

凄まじいまでの炎勢に、慌てて駆けつけて来る砦の警備兵。

 

「なにがっ!?」

「侵入者だ、適当に処分しておけ」

「ハッ!」

 

難攻不落のブロノス砦。

その砦内に侵入されるとは……!

俄かに慌しくなっていく砦の雰囲気に、エクリアは笑みを漏らす。

 

「ハーマンに些か悪い事をした、な……」

 

一欠けらも悪い事をしたつもりが無い、そんな口調で、エクリアはこれから先、恐らくは死ぬ事となるだろう彼に小さく謝罪した。

 

これからエクリアは、ブロノス砦を囲むメンフィル軍を撃退する。

そう、撃退。殲滅ではない。

もう、彼女にカルッシャ将軍としての時間はない。

あと一戦か、多くても二戦が限度だろう。

ステーシアから送られて来た手紙には、エクリア更迭と失脚の手立てが、王都ルクシリアにて全て整ったとあったのだから。

既にエクリア更迭の為の使者は王都を出て、このブロノス砦へとむかっているだろう。

ただ、そろそろメンフィル王都ミルスが陥落したとの報が、リウイ王に届けられる頃でもある。

それにより順次撤退するだろうメンフィル軍の後背を突き、適当に名の有る将を一人二人討てれば良いのだ。

ここで追撃に追撃をかけ、メンフィル王都まで追撃をかけ続ければカルッシャの勝利となるのだけれど。

サイモフにはそれが解らず、レオニードはそのサイモフの言を取るだろうし。

そしてエクリアも、もうカルッシャの為に命を掛けるつもりはない。

戦場で暴れに暴れ、姫将軍エクリアの恐怖をメンフィルの魔族共に見せつけ、全ての罪だけを持って王都よりの使者が来る前に退散する。

 

その後は……さて、どうしようか?

 

殺戮の魔女として、ユーリエの街の北、テリイオ大地にあるフェミリンス神殿にでも篭ってみせようか?

恐れ戦くメンフィルが、顔色変えて攻めて来よう。

死せしケルヴァンが名付けたこの幻燐戦争。

 

その戦の真の立役者として、必ず、この首を取りに……

 

もちろんエクリアには死ぬつもりなどない。

フェミリンスの呪いを押さえつけ、全ての憎しみを背負ったままに生き続けてみせる。

 

 

 

セリーヌ、私はアナタの下へは逝けないわ。

 

この身を縛る呪い。

人の力で抑えられないというならば、私は人を越えてみせよう。

魔力を高め、魂を磨き、神の領域へと、到ってみせる。 

 

 

姫神の呪いなどで、この私が屈するものかっ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「姫将軍殿! メンフィル軍が撤退を始めました!!」

「よし、追撃戦に入る! このカルッシャの大地から魔族どもを生きて返すな! 出陣!!」

「オォォーッッ!!!」

 

大地を振るわせる轟声。

その中で敢然と先頭に立ち、兵を鼓舞するその姿は、まさに古の姫神フェミリンス。

そしてスリージ王国に名高い勇武の名将シウムを討ち取り、常勝不敗のメンフィル軍を完全に撃破せし姿は軍神マーズテリアの如く。

 

この後、殺戮の魔女として国を追われた彼女だったが、この一戦に参加した将兵は、誰一人としてその噂を信じる者はいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キャラクター・データ(戦女神VERITA風味)

 

 

エクリア・テシュオス

 

 

LV.300

 

 

熟練度

 

大型武器  M(連接剣・鞭)

魔術・強化 A

魔術・冷却 S

魔術・純粋 M

 

 

スキル

 

貫通Ⅲ     攻撃時に確率で発動し、発動すると敵の防御力、防御回数を50%ダウン   

天使殺しⅡ   『神聖』属性の対象に限り、攻撃力が大幅に増加

悪魔殺しⅡ   『暗黒』属性の対象に限り、攻撃力が大幅に増加

賢者の魔力Ⅴ  消費MPが50%軽減される

姫神の守護者Ⅲ 防具の属性に左右されず、常に『神格+3』の防御属性になる

オーバーキル  攻撃時に常に発動し、ダメージMAX桁が一桁上昇

貫通無効    自身に対するスキル『貫通』の発動を無効化

即死無効    自身に対する効果パラメータ『即死』を無効化

妹が大好き   パーティ内に『妹』がいる場合、攻撃力と防御力が10%上昇

弟が好き    パーティ内に『弟』がいる場合、攻撃力と防御力が5%上昇

義母が好き   パーティ内に『義母』がいる場合、攻撃力と防御力が5%上昇

家族の絆    パーティ内に『家族の絆』を所持しているユニットが複数いる場合、所持者の攻撃力と防御力が15%上昇

 

 

 

称号

 

シスコンでブラコンなお姉さま(弱)

カルッシャ姫将軍の名を捨て、家族の為にのみ生きる事を決意したエクリアの、セリーヌのお株を奪ったスーパーな称号(弱)

 

 

 

 

 

 

 

所持アイテム

 

E:リンスティール 属性 電撃+3 命中-5 回避-5 攻撃184 攻回1 防回-1 肉速2 精速2 CT率20 範囲3×3

E:英雄の戦衣 属性 神格+1 命中5 回避5 物防75 魔防76

E:姫神の腕輪右 攻撃回数+4

 

 

 

 

 

 


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