ネギまとかいっこうに始まる気配がないのだが   作:おーり

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明日の笑顔の為にぃぃぃ……ッ!!!


『ゲートキーパー2003』

 

「編入生……ですか?」

 

 

 麻帆良学園学園長・近衛近右衛門に呼ばれ、一枚のとある人物の資料を渡されてそれを読む。

 資料の右端には浅黒い肌に白い髪の、学園の生徒となる予定の人物の写真が載せられていた。

 

 

「うむ。フランスの方の、儂の友人の孫での。日本で学びたいという本人たっての願いで、我が校に招くこととなったのじゃ。その際には、キミのクラスに受け持ってもらえれば助かるのじゃが」

「はぁ。構いませんけど、……言っちゃなんですが、うちのクラス、濃い、ですよ……?」

 

 

 去年より受け持つ我がA組(今年から2年生)は色物キャラの集大成と呼ばれている。

 吸血鬼に未来人、半妖、ニンジャ、ネコミミ娘。

 そして実年齢詐称疑惑、と極めつけられた周囲からの評価の元、混合人種の坩堝である麻帆良に於いても特にすげぇ、と戴きたくもない評価№1を戴いてしまっている。

 そういう場所に、一見すれば普通の生徒を通わせようとか。

 この学園長、意外とおにちく。

 

 

「その冷淡な視線を止めてくれんかのぅ。その子は所謂“飛び級”みたいなもんじゃからの、そういう『特別』の中に埋もれさせてしまおう、というのも親御さんからのご要望なのじゃよ」

「中学程度で飛び級も無いと思いますけど……」

「あと見た目じゃわからんかもしれんけれど魔法世界関連じゃし」

「ああ。わかりました」

 

 

 あれから20年も経っているのに。

 未だにそういう人が残っているんだなー。

 

 

 

     ×     ×     ×     ×     ×

 

 

 

 西暦2003年、昭和(・・)78年。

 魔法世界が召喚(・・)されてから20年が経ち、かつて『旧世界』と呼ばれていたこの現実世界は、当初の混乱はさておきどっこい平和だった。

 

 魔法世界人を完全に消失回収補完した『完全なる世界(コズモ・エンテレケイア)』の核は世界樹・蟠桃に収まっており、その内部で循環する魔力に混じり乍ら『回収された人々』は幸せな夢を見る。

 それがアーウェルンクスや造物主の目的だった。

 けれど、其処で終わらせなかったのが“地雷屋”ソラだ。

 彼の仕込んだことはそれ程多くは無い。

 結局のところ、“それ”を『解放』させる役処である、『私』が自由になっていたのが一番の功績であった。

 

 夢の世界から解放された人々や魔獣や街並みは現実世界の至る所へと召喚され、世界は混沌と化した。

 その際の召喚術が、元よりこの世界の下地に在った『何か』を諸共に召喚してしまったのか、伝承の存在や妖怪・悪魔・神獣なんかを受肉させてしまったのだけど、それに対抗できるだけの『人材』も一緒に呼び出したのだからプラスマイナスゼロ。

 私は悪くない(棒読み)。

 全ては魔法世界人を受肉させるための術式までもご丁寧に仕込んでいたソラの所為。

 

 

 ……ちなみに、回収された人々は強制的に埋め込まれた『強魔力簒奪術式』にあやかって、本人が強ければ強い程その魔力構成力を世界の構成へと奪取されるので、赤き翼とかの馬鹿魔力な面々も今では普通の魔法使い程度の実力だ。

 そもそも召喚に応じるか否かは、本人の自意識より無意識下へ誘導を働きかける比率が大きい。

 『夢を見ている状態』で茫洋としているのが『完全なる世界』内の彼らの意識状態で、自分の意志で勝手に出てくることも出来るには出来るはずなのだが、召喚に応じたのは意外と少なかった。

 何故かメガロ系の人たちとか元老院議員?らの大半が特に『完全なる世界』から出てきたくない、みたいな反応していたから、そのまま放置しておいたけど……。

 受肉していないとはいっても人の精神は無限じゃないから、最大でも寿命が来たらそのまま魔力素に変換されて魔力へと流転するんだけれどなー。べつにいっか。

 特に『赤き翼』のキバチヨとか、オスティア騎士のすざくいん?とか、完全なる世界のヒャクタローとかが召喚に応じなかったのは、……今思えば、余程現実が認めたくないと思われる……。

 まあ、ご勝手にどうぞ。

 

 

 さておき、世界中の混乱の中でも『魔法使い』としての実績と経験が予めあった、召喚の実質本拠地である麻帆良は、それでも学園都市としての地位を保持していた。

 国境の違い、肌の違い、言語の違い、等と言うレッテル以上に、人種そのものの違い、が存在する中で、その全てをいち早くに受け入れた姿勢は特により良い人材収集を誘致し、とうとう首都以上の日本の主要都市となることとなっていた。

 また、特殊な人材が頭角を顕わに出来るチャンスを促してくれるという、世界召喚以前からの特色も相俟って、そんな学園都市に通いたいと思う学生は後を絶たなかった。

 ぬらりひょん、まさにうっはうはな状態である。

 まあ、かてて加えて仕事量も比例して増えているから、そのうち過労で斃れそうなのだけどね。

 実際、さっきも好々爺に見せかけて、未確認提出書類が山積みの部屋だったし。

 

 ああ、そういえば自己紹介を忘れてた。

 『私』の名前は『新田 明日菜』。

 今年26になる、教員歴4年目の麻帆良の女教師である。

 このツインテールが目に入らぬかー。

 

 

 

     ×     ×     ×     ×     ×

 

 

 

「やあアスナさん、今からお仕事かい?」

「そういうアンタはまたサボり? 所長にドヤされても知らないわよ、タカミチ?」

 

 

 学園長室へと足を踏み入れてきたのは、何故か彼だった。

 私より3つほど年上のはずなのだが、付き合いの長さから自然とタメ口を使ってしまう。

 仕事は確か、麻帆良署の生活安全課の巡査だとか言っていた筈。

 そんな彼は、最近何故だか髭をあまり剃らないようにしている。

 その様は野暮ったさが際立っているが他人から見る分にはイケメンアラサー未満……実際の処、私経由でよく顔を合わすうちのクラスの女子中学生ズからは受けは良くないので止めてほしいのだが……。

 勘違いダンディズムにでも目覚めたのだろうか、と『父』が吸わないので正直苦手な煙草の香りを漂わせながら登場する彼には、普段より疑問符が程よく湧く。

 ……煙草と硝煙の香りが漂う生活安全課の刑事(警察官)? 今更だけど駄目じゃないの? それ。

 

 

「酷いな、仕事だよ」

「おお、タカミチ君か。スマンのう朝からわざわざ。今朝方突然に連絡を寄越されたので、こちらとしても困っておってのぉ」

「……え。誰から、でしょうか……?」

 

 

 飄々とした態度を取ろうとしていた彼が、学園長の言葉にぴしり、と表情を曇らせる。

 何故だか、私まで嫌な予感がした。

 

 

「アリカくんじゃよ」

「……帰っても、いいでしょうか……?」

「スマヌ、事態は急を要する」

 

 

 続けて並べられた姉(正確には違うけれど、姉同然の立場ということになっているひと)の名前に、私は嫌な予感が的中したのを悟る。

 現在イギリス在住の彼女の名前が出てくるということは、十中八九ナギが問題事を起こしたに違いないのだ。

 タカミチもそのことを理解できているのだろう、溜め息を吐くと、意識を入れ替えているみたいだった。

 

 

「……はぁ……。……で、アリカ様は、何と?」

「いや、そこまでヤバい事態でもないのじゃ。明確に言うならキミの公務にも則っておるお願いごとじゃ」

「前置きはいいですから、本題をお願いします……」

 

 

 力が抜けているみたいな口調だった。

 

 

「ナギとアリカくんとの、ホレ、ネギくんという子を知っておるじゃろ?」

「ああ、あの酷いネーミングの。確か3番目の子でしたっけ? 写真でしか見た覚えはありませんが、ナギさん似の子でしたね。可哀そうに」

 

 

 タカミチも言うようになったなぁ。

 昔はあんなにナギの事を尊敬していた気がするのだけど。

 

 

「何を思ったのか、ナギが社会勉強等と言い出したらしくての。日本に送り出したと、今朝方知らせが届いたのじゃ」

「……はぁ?」

 

 

 ……はぁ?

 と、あまりにも頭の悪い状況進行には、流石の私もタカミチと同じ感想しか湧いてこなかった。

 

 

 アリカが召喚されたのと同時に、彼女の『国』も同時に呼び出された。

 地に足をつけて生きていた人々が一千数百万程、当時戦犯でもあったスザクイン等を筆頭に“自己勝手な”奴らは夢の中で幸福を享受していたらしいのだが、それを除いても『国家』を形成するには充分すぎる人員が呼び起こされたのである。

 その中にはタカミチと、クルトという同年の子も混じっていたのだが、(彼曰く当然らしいのだが)特に政治的に強権であったはずのかつての国家上層部は軒並み補完中。

 『明日を生きてゆくしかなくなった』かつての魔法世界人オスティア国民らは、当然の如くアリカを国主へ総べるように、と強く望んでいた。

 

 が、ある程度の立て直しが終わるとアリカはナギと結婚。

 彼らと国を率いて生きてゆくことを選ばずに、駆け落ち同然でナギの生まれ故郷へと移住したアリカ。

 混乱期を乗り越えたことで何か琴線に触れるモノでもあったのか、とは思いはするが、何もアレと結婚しなくともいいだろう、というのは誰からもの感想であった。

 駄目男をヒモにする因果を併せ持ってそうあの姫様、というのは典如さんの意見だったりする。

 

 

「アリカくんが気付いた時には既に送り出された後じゃったらしくてのぉ……。スマンが、件の少年を保護してもらえるかの?」

「え、いやそんな無茶な。日本の何処に送り込まれたのかもわからないのにですかっ!?」

 

 

 狼狽えるタカミチ。

 まあ当然だろう。

 いくら警察とはいえ、この事態は完全に私事だ。

 それなのに、個人で出来る範疇を凌駕している事件など、彼だけでは片付け切れまい。

 

 

「そこを知った上でも心苦しいのじゃが、頼む」

「~~っ! ……はぁ、わかりましたよ、やりますよ。はは、また始末書かな……」

 

 

 まだ若いのに、すっごい草臥れた感が出てる。

 良かったじゃない、ダンディズム溢れているわよ?

 

 

「朝からお疲れ様、タカミチ」

「……そう思うのなら、今度デートでも付き合ってくれないかい? 奢るからさ?」

「……そういえば、前に那波ちゃんを口説いていた誰かさんg「それじゃあ僕はそろそろこれで、ネギ君を探さなくちゃいけないからねははh」

 

 

 言い終わらない内に部屋を出て行くタカミチ巡査。

 流石に中学生をナンパするような駄目人間に買取を許可するほど、私は安く無いのである。

 いや、那波ちゃんが中学生に見えないのは、確かに私も認めるけれども。

 

 

 

     ×     ×     ×     ×     ×

 

 

 

「ううぅ、此処は何処なんだろう……」

 

 

 麻帆良が彩盛を誇る一方で、近すぎたが故にその食み出た不浄を一身に集約してしまった都市がある。

 其処は今でも首都である一方で、格差がよりはっきりと明暗の分かれた嘘と欺瞞と裏切りの都。

 誰が詠んだか、その仇名を混沌都市(ケイオス・シティ)・東京。

 飛行機に乗せられるままに送り出されたネギ少年は、成田に到着してから人の波に導かれるままに『首都』へと到着していた。

 

 

「父さんは武者修行に行けって無理矢理送り出すし……、いくら僕と同じくらいの年の頃にはもう1人旅をしていたって言われたって、その頃とは時代が違うよぉ……。武者修行なんていうのも時代遅れだしさぁ……」

 

 

 実際、彼が独り言ちる程度には世の中は様変わりしている。

 麻帆良や、運良く『大召喚』の被害に遭わなかった大小様々な国家に魔法世界大国の擁立によって確約した技術の進歩は、“歴史通り”に相応の進化と革新を齎し、魔法だけでは無く科学技術も促すに至った。

 だが、それが正しい恩恵を巡らせてくれるとは限らない。

 

 小鹿のように震えながら、ネギ少年は薄暗い表通り(・・・)を歩く。

 技術革新の恩恵で、都市は三重の構造街という特殊な造りとなっている。

 太陽光の当たる上層を歩めるのは相応にバカ高い税金を納めている上位納税者のみで、それ以外の『区外在住』の人間は中層か下層しか通行出来ない仕組みとなっている。

 中層はビル街の中ほどに網目のように張り巡らされた通路を通ることで歩むことが出来るが、その為には一度ビルの内部へと足を踏み入れる必要性がある。

 上層とビルの隙間にいくつか設けられている空間より差し込む光しか光源は無い、ネギ少年の歩むコンクリートの道路が広がるのは下層のみだ。

 そしてその『道路』には、風魔法の応用で押し込められた車の排気と、住人らが勝手に放棄して回収する者もいない廃棄品で埋め尽くされて、まさにゴミ箱と呼ぶに相応しい様相と相成っているのである。

 

 地震対策のモデルケース、という謳い文句であるが、それは明確に格差を知ら占める対象となっていた。

 この首都は、そんな恩恵のダーティな部分をより色濃く集約させた、違法と犯罪の吹き溜まりにもなっていたのである。

 

 

「……おっ、なんだい坊や、こんなところを1人で歩いて。迷子かなんかかい?」

 

 

 そして、そんなゴミ箱の住民は区民だけでは無い。

 居場所を失くした人間もまた、何かに導かれるように堕ちて行く。

 華やかで煌びやかな夢を彷彿とさせる麻帆良では無く、濁った夜灯の明かりに寄せられる誘蛾の如く。

 行こうと思えば届く格差の、背景に潜む暗い陰を狙うように。

 ネギ少年に声を掛けたのは、そんな『親切な』男であった。

 

 

「へぇ、そうか、武者修行か。懐かしいなぁ、オジサンも昔冒険に出かけたりしたさ。銃とナイフを片手に、魔獣狩りとかね」

 

 

 大召喚が起こって数年ほどは、会話もままならない出自が純魔法世界産の魔獣らを狩り出すことが一種のブームにもなっていた時期があった。

 当時は彼奴等の外皮や骨が何らかの妙薬や材料に転化できないか、と魔法使いらやコミュニケーションの取れる妖怪・魔人なんかが適度に狩っていた為に、自分らでも出来るのではないかと勘違いした若者がそれなりに居たのだ。

 バブルが弾けた時期が近かったのも相俟って、そういう『夢』を求める若者が増えたのも一種の流行に発展した理由かもしれない。

 

 

「よし! 此処で会ったのも何かの縁だ! オジサン謹製の特殊武器(・・・・)を特別に見せてあげよう! お父さんやお母さんには内緒だゾ?」

 

 

 言いながら、男はネギ少年を路地裏へと連れ込み、股間を弄り乍らズボンを摺り下ろs――、

 

 

 

     ×     ×     ×     ×     ×

 

 

 

 ……? なんか、何処かで誰かが哀れな目に遭っている気がする……?

 

 益体も無い電波が舞い込んで来たけど、地球の裏側で誰かが悪い目に遭っている、というのは基本的に今私が気にかけてもどうしようも無いことなので、そういう時は思考を停止させるに限るのだ。

 ドライな人間なのでは無く、これも一つの精神の安寧を得るための防衛手段。

 第一知らない人間が何処でどうなっていようと、“知らない現状”ではどうしようもないのだし。

 心苦しく思うのは、それらを知った後でも良い。

 こんな私だって、見も知らぬ子供たちが年々命を落としている、というニュースに心を痛める思春期はあったのだ。

 だからそれで勘弁、ということで。

 

 さて(閑話休題)

 いつまでもやってこない編入生を学園長室で待っていられるほど、私は暇では無い。

 今日から新学期になるのだし、クラスはそのまま繰り上がりだから特別なことは基本的には無い。

 だからこそ、キチンと明日からの授業準備程度はしておかないと。

 

 始業式もクラスミーティングも終わり、職員室へと向かっていると元気な声が廊下に響く。

 

 

「あすなせんせい、今良いかっ?」

 

 

 声から誰なのか、くらいは判別できる。

 振り向くと、其処に居たのは予想通り、エヴァちゃんだった。

 

 

「ん? どーしたの?」

「これからクラスのみんなとカラオケに行くんだ。せんせいもいっしょに行こう!」

 

 

 一部で『吸血幼女』『喋らなければ貴族』『出来そこないの金髪西洋人形(だがそれがいい)』『誰お前ぇ』と何気に話題になっている彼女は、一時期の鬱屈した雰囲気をここ数年で完全に払拭し、今ではこんなに元気な娘になっている。

 彼女が初等部の頃から付き合いがあるのだが、そうなっている要因に私があってほしいな、というのが希望的観測。

 まあ十中八九、同クラスで付き合いの長い雪広ちゃんやアルカナちゃんとの相互関係からだろうとは思うけれど。

 ……あれ、それにしてはアルカナちゃんはずっとクーデレのままだ。デレてくれたことなんて一度も無いけど。

 

 

「んー、行きたいけれど、今日来るはずの編入生の子とまだ顔を合わせてないのよね。だから、また今度誘ってくれるかしら?」

「むぅ、仕方ないな。せっかくだからマナも誘うか、数合わせに」

「いや、最初から誘ってあげなさいよ。同室でしょあんた」

「マナは最近偶に奇行に走るから、ちょっと扱いが難しくって……」

 

 

 諌めると顔を逸らす。

 確かに、なんか最近「隠されたマガンが……!」とか片目を隠して身悶えたり、「この呪われし血族には影がお似合いさ……」とか斜に構えた苦笑を漏らしていたり、厨二チックな台詞を口走っているのを見かけるけれど。

 

 

「それより、新しいクラスメイトはどんなやつなんだ? わたしはもっと地味目のやつが欲しい!」

「まーたトトカルチョになっているわね?」

「そ、そんなことありませんですよ?」

 

 

 話題を逸らそうとするが、一目でわかり易すぎだ。

 声震えてるじゃないの。

 ちなみにA組はよくこういう食券賭けを繰り返すので、学年主任の新田先生、まあ私の義父なのだが、に目をつけられている。

 そのしわ寄せが簡単に私に直結するので、よく其処を諌める為に父直伝の『新田流補習術』を敢行するので、たまーにだけど私も恐れられているらしい。

 基本的には友達感覚でいるが。

 

 

「残念だけど御次もキャラが濃そうよ。魔法界出身ですって」

「ガッデム!」

 

 

 また桜子の独り勝ちかぁ!と天を仰ぎ見るエヴァちゃん。

 ……本当に元気っ子になったなぁ。

 

 

 彼女は600年生きた吸血鬼だ。

 メガロメセンブリアからは莫大な賞金も賭けられていたらしいが、メガロが国政破綻したのでそれも流れている。

 だが、その悪名のほとんどは、かつてより連れ立った彼女の『相方』の齎したものである。というのが最近になって判明した。

 

 その相方とは、根本的には女性の敵。

 女性の頭を左手で撫でることで魅了と洗脳が簡単にできるスキルホルダーだったらしく、エヴァちゃんはそいつに騙されるままに自分の同種へと転化させてしまっていたらしい。

 同種の吸血鬼、しかも上位存在であるはずのエヴァちゃんは洗脳済み、という制約無しの不死へと成ることに成功したそいつは、実に600年もの間エヴァちゃんを弄んできた腐れ外道だ。

 

 真っ当な教育も得られず、幼い身体を無理矢理に手籠めにされ、エヴァちゃんと出会った当初、彼女は本当に600年も生きているのかと問い質したいくらいに幼稚だった。

 洗脳と魅了はそいつの傍に居ないと完全とならない常時型だったらしく、出会った時にはそいつのことなど思い出したくもない、といったふうになっている彼女を見て心底安心した。

 むしろエヴァちゃんの魔法抵抗力が高いのもあったのだと思うが、それでも支配しきっていたのだから恐るべきものである。

 

 ちなみに、エヴァちゃんを無理矢理に働かせて数々の魔法使いに凌辱の限りをし尽くしたそいつは、大召喚の影響でそいつの『中』に召喚された『造物主』の人格に肉体を乗っ取られたそうな。

 そうすることで洗脳が解けたエヴァちゃんは、造物主に教えられるままに彼女がされていたことを実感し理解し、『彼』が望むままに外道の肉体をバラバラに切り分けて氷漬けにし、世界各地へと転々と封印して回ったという。

 海底10000mの底とか、クレバスの隙間とか、最後に残った心臓は日本の種ヶ島宇宙センターからロケットに載せてスペースデブリの一角へと。

 最後の封印作業を施すように手配したのは、他でもない学園長だ。

 エヴァちゃんが麻帆良にやって来た時、彼女の覚束ない説明の補填をすべく、詳しい記憶を探ったのも学園長。

 その結果として、麻帆良で彼女を敵視する者は今では一人も居ない。

 

 もう一つちなみに言うと、彼女の身体も外道に穢される『前』に回復済みだった。

 まあこれはその都度自己修復していたらしい。

 心の傷は出来なくてもせめて身体だけでも、と同じ女性ながらに思った部分なので独善としか言えないが。

 簡潔に言うと、不死者すげぇ。

 

 あ、そういえばアルカナちゃんとの邂逅も、件の外道が切欠じゃなかったっけ?

 

 

「じゃあわたしはそろそろいくな、あすなせんせいまた明日!」

「うん、またね」

 

 

 ピッと手を挙げて挨拶すると、マーナー!と叫びながら廊下を爆走していった彼女。

 元気になってくれたなぁ、と微笑ましく見守りつつも、……廊下は走るな。

 

 

「あ、明日菜先生、編入生の子、来てますよ?」

「あっ、はい。今行きます」

 

 

 瀬流彦先生に呼ばれて職員室へと急ぎ足で。

 学年主任に義父が居る為か、下の名前でしか呼ばれたことが無いのが少々気恥ずかしかった。

 っていうか、私がお世話になっていた頃の先生方も未だに現役だしね、この学園。

 

 

「お待たせしたわね、貴女が編入生、の……」

 

 

 後姿を見、彼女を認識すると同時に、『完全なる世界』の門番として所持している『管理者権限』が脳裏に働く。

 魔法世界出身者、ということは一度『強制回収術式(リライト)』を受けているということで、其処を一度でも通過した者のアストラルコードは自動的に『造物主の掟(コード・オブ・ザ・ライフメイカー)』に登録される。

 要するに、“それ”が“誰”なのかを、私は自動的に理解することが出来るわけである。

 

 その『彼女』は振り返ると、花のように笑顔を綻ばせ、軽く敬礼みたいなポーズで名乗りを上げた。

 

 

「初めまして、クロエ・ガーネットです。よろしくおねがいしますっ」

 

 

 

「………………………………ソラ?」

「何故バレたし」

 

 

 白い髪に浅黒い肌の、書類上は11歳、となっていた彼女は、こちらの疑問に即座に身元を明かしてくれた。

 ……ていうか、あんたなんでそんなに若いのっ!?

 

 




~新田明日菜
 20年前の世界樹大発光時に、同時期に起こった『大召喚』と言う『現象』に巻き込まれたとされる少女
 出自のわからない少女+2名を子供のいなかった新田夫妻が保護し、学園長が気付いた時には既に養女となっていたらしい
 当然の如く、彼女の正体は『完全なる世界の門番(ゲートキーパー)』アスナ姫
 但しそれらの事項は魔法使いらの中では公然の秘密であり、魔法世界が“こうなってしまった”現状に口出しする関係者はいやしない。まあそういう口出ししそうな輩は基本的に『中』から出て来れない程度のキャラだし
 『魔法先生アスナ!』はじまりません


~召喚されたモノ・者・物
 魔法世界を一つ丸ごと呼び起こす、という暴挙は土地を圧迫する事態にも陥りかけたが、其処を“どうにか”できるだけの魔力は回収された魔法世界人の『強大な魔力』で補われる
 具体的に言うと、浮遊する大地、とか天空の城、とかが地上10000m前後の上空を茫洋と漂うことになった
 オスティア・ヘラスなんかの純魔法世界国家は特に巨大な大地を保持し、その周囲に彼らの属国の集落が浮島となって点在していたりする、というのが現状
 元魔法世界人らは地上にもバラバラに呼び出された同族や魔獣を回収するべく、地上の人々とも交流を相応に図っているとか


~ナギとアリカ
 一応は史実通りに結婚
 但しナギの馬鹿魔力もアリカの魔力も簒奪されているので、現状『人格と経験』を除けば只の魔法使い
 その息子のネギも普通の魔法使いとしての才能しか無い少年なのだが、兄や妹や弟がチート性能を備えていたり
 兄その一のサギが輪廻眼
 兄その二のホギが直視の魔眼
 妹のナリカが魔獣の召喚術(プリティベルの権能)
 弟のヤギが竜闘気(ドラゴニックオーラ)
 ネギを除いた全員が莫大な魔力保持者
 ナギがネギだけを送ったのは彼だけが魔法学校に入学前だったから、他は飛び級入学
 但し魔法学校を性能だけで卒業させる後ろ盾(メガロメセンブリア)は存在しないので、真人間になって卒業するころには原作が終了予定
 先ずは魔法の制御から覚えましょう


~『完全なる世界』
 原作通りに『幸せな夢』を見せ続ける、世界樹を核とした大魔力を循環させるための貯蔵庫(プール)
 メガロメセンブリア元老院議員ら、また転生者各位はそっちの方がずっと生き易いご様子
 もういい……っ! もう、休め……っ!


~エヴァ
 ナデポを持ったチート転生者に鹵獲されていた金髪幼女吸血鬼
 ナデポの性能が強いのではなく、エヴァの抵抗力が紙。原作でナギに簡単に靡いていた彼女の前科的に勝手な予想
 ナデポ性能自体は一度洗脳すると傍に居続ける限り解除されない、というもの
 腐れ外道がああなるのも納得の仕様


~マナ・アルカナ
 なんか中二病扱いだけど、性能的には間違っていない地黒少女
 クラスメイトの那波千鶴と並ぶと、よく女子大生に間違われる
 腐れ外道に目をつけられて、恋人の元より誘拐され犯される寸前、造物主が召喚されて押留まった経緯を持つ
 二進も三進もいかなくなったエヴァをなんとか麻帆良まで連れてきたのも彼女
 ちなみに恋人は現状只の保護者の域をはみ出さないご様子。年齢詐称のままに騙しちゃえば良かったのに
 ……あれ? この馴れ初めだとこの子ガチで年齢詐称してんじゃね? と実年齢と年代が合わない罠


~造物主
 尤も最初にリライトされちゃったコズモエンテレケイアの人柱的お父さん
 エヴァの近くに召喚に応じたのはきっと最後の親心。良い人じゃん


~クロエ・ガーネット
 己自身をリライトした、烏丸そらの成れの果て
 魔力簒奪術式の例に漏れず、魔力精製器官を剥奪された末に女体化した
 こいつも一応は転生者なのだけど、幸せな夢とかが思いつかない末に浮上してきた経緯。これは泣くしかない
 召喚された際に己の肉体が女体化していることに気づき、なんじゃこりゃあ!?と丹下声で絶叫
 →そのままカードでキャプターな方向性を目指すのも一瞬思考しかけたが、折角なのでくるぉえるうぇーるですぅ!と全力出してふざける腹積もりで世界を放浪
 →前世での魔女より聞きかじった錬金術の知識を掘り起し、一年かけて精製した『生命の水(アクア・ウイタエ)』を服用して健康に気を使わない身体へ。その代り5年に1歳しか年を取らないという不老長寿へ
 →フランスのガーネット夫妻の下に養女として引き取られる。数年後、そういえば麻帆良どうなっているのかな、と原作開始を思い出して懐かしい顔ぶれにも会いたくなり留学を決意。ちなみにガーネット老夫婦は18年ほど若々しいままの彼女のことを「こういう人種なんだろうなぁ」と勝手に理解。魔法世界人と思われとるがな。ある意味間違ってはいないけど
 見た目はプリズマイリヤのクロにくりそつ。髪の長さは老夫婦のご期待に添えるように、と程よく長いです



最終話でした
なんかエヴァが不憫なんだか滑稽なんだか
最終的にはいい子に育ってくれたので問題は無いかと思われます
そして【速報】魔力精製器官は男性器の模様【ソラTS】
ずっとやろうやろうと潜めていたネタです。丹下桜さんごめんなさい!
あとは典如とマリーの世界放浪新婚生活とか、詠春が実家の色々な問題にぶち当たってこのかだけA組に居ないとか、ヤードラット星から帰って来たスーパー咸卦人ガトウさんとかくらいしかネタが無いけどわざわざ書かなくっても問題ないよね!
それじゃあこれで一先ずのお終いと言うことで!
やっと本スレに戻れるぞーっ!!!

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