相克する狭間で   作:甲板ニーソ

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第3話

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艦隊これくしょん 『相克する狭間で』 第三話 愚者の祭典

 

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―――この出来の悪い夢に来てから聞くも見るも碌な話じゃなく目眩を覚えなかった日がない……ほんの一欠片でもいいから吉報やら胸がすくのが恋しくなる。

 

「刺激が強いかもしれませんが、どうしてそうなってしまったのか……順序立ててお話いたします」

 

「はっ……本当乾いた笑いしかでねぇよ。一体全体人類全ての敵が跳梁跋扈してる展開でどう御大層な理由があれば、利敵行為が出来るのか是非教えていただきたいもんだね」

 

「コタバルの惨劇以後、各国で非常事態宣言が発令され、軍を動員派遣するも期待した成果を得るどころか対策のヒントすら見つけられずただ悪戯に戦力を消費するだけに終わります。敵との性能に圧倒的な開きがあると感じたアメリカ合衆国首脳部は同年主力から離れた海域にて活動する駆逐艦軽巡洋艦からなる三隻の別働隊をハワイ沖に誘い込み、空母麾下の艦載機及び近隣基地航空隊を投入。述べ数百後半に及ぶ大集団を持ってアウトレンジ戦を決行」

 

作戦名、The sea of the dawn、制海権奪還の第一歩とすべく敵の調査、残骸を回収、あわよくば鹵獲を目的とした作戦だったそうだ。数少ないながらも得られた戦訓により同規模は勿論、通常圧勝の戦力比でも覆される性能差を埋めるべく過剰といくら言っても言い切れない物量で望む、畑から兵隊が取れると揶揄された大戦時の紅い共産圏っぽい内容に頬が引き攣る。

 

「誰もが疑わなかった、数で勝る米軍の勝利……が当初の予想は大きく裏切られ蓋を開ければ米軍側の惨敗。深海棲艦に損傷なしと最悪の展開を迎えたのです」

 

「ははっ……そりゃそうだろうな。俺たちが史実によると散々煮え湯を飲まされた上敗れた相手が時を経て、更に精強になったのに歯が立たないとか耳がイカれたのかと思う域だぞ。正直脳が理解を拒否するね」

 

 

世界警察を気取るに相応しい実力者、世界中を敵に回しても正面戦力でなら勝てるだろう彼の国が恥も外聞も捨ててたった三隻の木っ端に全力出して、無様晒したんだ。正にお手上げ……練度、兵器の質、物量、三拍子揃った最優がこれで他に誰が勝てる?いいや無理だね。ある印象的な一文を引用すると傷つけられるなら倒せるはずだ……しかし傷つかないものは倒せないーーー初め支援砲撃火線を集中すればものの数分で蹴りがつく……自分の出番すら回ってこないと高を括ってた戦闘機乗りが、実際出撃を迎えて驚き、絶え間なく数時間に渡って爆撃して目標健在、尚無傷な光景を目のあたりにして内心を吐露した台詞にこの戦いのすべてが込められている。

 

「多大な予算と人員を投入して判明したのは通常兵器で有効打を与えるのが絶望的という事実のみ。不幸中の幸いに相手側の燃料弾薬が危険域にでも入ったのか本土手前で撤退したおかげで民間人の被害こそありませんでしたが、それを引き出すまでに艦艇が多数大破轟沈、損傷軽微まで含めれば目を覆わんばかりの惨状。轟沈比率は11対0と波紋は世界に拡がり社会不安は留まるところを知らず歯止めを失ったのです」

 

箝口令を敷いたのだろうが作戦に従事してる人数が人数、人の口に戸は立てられぬ。ただでさえ注視されてる状況でこの情報化社会、隠し通し切れる可能性なんて最初からなかったろう。世を儚んで命を断つ奴も日に日に増加、地下鉄への飛び込み、高層ビルからの身投げ、自室での首吊りと枚挙に暇がないが……支えを失えばさもありなん。

 

「まぁ……つまりなんだ。勘違いしてたわけか……同じ盤上で知恵比べしてるって思い込んでたけど、その実前提からしてボタンを掛け違えてたと……」

 

「えぇ、その後も思いつく限りの手段が講じられるも突破口を開けず、切羽詰まった彼らは禁じ手とされるNBC兵器の使用に踏み切るも科学、生物はまるで効果なし、唯一核がある程度実績をあげましたがそれも後に核自体がダメージを与えたのではないと判明しましたしね」

 

勝負とは同条件であるから人によって勝敗は上下する。どちらに立ってもそれは変わらない……しかし片方がルールの外にいるならそれは成立しない。例えばチェスや将棋で相手は自軍の駒の一マス前までしか進めず。倒せるのも自軍のみなんて巫山戯たルールが片方にだけあったとしよう。常識に則った方は那由多に一つも勝ち目はない……どんな名人だろうと一緒である。それこそ盤上の外で相手をプレイ不能に追い込むしかない。線の外側を打倒しうるのは外にいるものでしかないのだから。

 

「しかし、主観が入ると核をどうしても批判しがちですが、この頃に限れば必要不可欠なもので……か細くも人類に残されたたった1つの希望だったのも確かです」

 

「なかったら軽く詰んでたろうよ。明日に展望を持てるから前向きに生きれるんだ。絶望だけだと艦娘たちが来る前に文明崩壊で世は正に世紀末、組織的反抗が出来ず各個撃破で手遅れだったと思うぜ」

 

胸中複雑なのか眉を寄せつつ語る彼女、話が深まるにつれ表情には負の感情がちらちらと垣間見えるようになった。会話の発端を鑑みれば無理からぬかと触れず続きを促す。

 

「否定出来ないのが悔しいところですね。とかく主力として運用せざるお得ない羽目に陥ってしまったこともあって、先進国が安全を理由にNPT、核拡散防止条約により普及を渋るも代案出せず開発を断行。戦前であれば想像がつかないほど身近なものに堕ちてしまいました」

 

因みに、二度の被曝経験があり忌避感が強い日本ですら自衛が声高に叫ばれ、紆余曲折波乱あろうと量産に着手したというのだから世論の依存っぷりが伺える。しかし戦闘機や戦車と同じ感覚で神話の一節インドラの矢を思い起こさせる兵器が配備されて問題が発生しないはずもなく、一応の黙認はするものの棲艦大戦勃発以後、一時的に国家間の争いを棚上げしただけのお世辞にも仲の宜しくない国々はこれを機に疑心暗鬼に駆られ、協力はおろか牽制し合う事態が各所で頻発するのであった。

 

「無論、万能薬と呼ぶには到底役不足で翌年、調子に乗って集中運用で敵根拠地の1つを大地ごと抹消した結果、大攻勢の呼び水となり東南アジアをほぼ完璧に失陥、インド亜大陸にまで進出を許してしまうのです」

 

「所詮対処療法でしかなかったのね……悲しいぐらい打つ手なしだな。今んところ」

 

「当時深海棲艦に航空戦力を保有しておらず被害範囲が限定されたので以後、安全な内陸部で穴蔵を決め込み。空母群が出現するその日まで虚偽の安寧が継続しましたが、先に述べた通り崩壊。交易どころ恒常的な自給自足すら覚束つかず、ごく僅かな猫の額の安全域を除いて魔女の釜へと投げ捨てられます」

 

 

何れジリ貧になるのは目に見えてる。死ぬのが今日から来年の今日に変わっただけ、直ぐ死ぬなら実感が伴わず夢見心地で逝けるかもだが、長考する猶予が与えられると厭なことばかり脳裏をよぎるもの。早晩亡くなるのが分かっていても明日永眠したくないというのが人情だ。拒否権なしに矢面に立つ前線では飢えを凌ぐため一欠片のパンを奪い合って殺し合い、隣人すら腹の足しとみなして襲い、次の日には食卓に並び裏市に卸す光景もそう珍しいものではなくなった。それをギリギリ押し留めていた軍も治安維持を半ば諦め、後方に無茶な要求を突きつけては突っぱねられ、逆上して戦争を仕掛ける事案多数。

 

「皮肉にも対棲艦戦で無用の長物となり息を潜めていた兵器がここぞとばかりに猛威を振るい仇なしたのです。少しでも役に立てば消耗し尽くして被害が小規模に収まったろうと推測され、本当に……踏んだり蹴ったりでした。」

 

狂気は当然、正気は異端な末期で延々と続く地獄。下される幕引きは自滅が早いか他殺が早いかの瀬戸際にそうーーー彼女たちは星に舞い降りた

 

「私たち艦娘が登場し、無敵と思われていた敵をアリューシャン海戦において核に頼らず単独で撃破。今日まで敗北なしで慢心しきっていた無防備な脇腹に痛打を与えることに成功します」

 

「―――んで勢いを逃さず。秘匿し温存していた切り札を投入、電撃戦を以って各前線を押上げ、営みをすごせる程度には安全な制空、制海権を奪取したのか……救国の英雄、人類の守護者の謳い文句に嘘はないな」

 

「面映いですけど、縋れるものの必要性は痛いほど感じてました。誰もが絶望してる時に闇を照らす日輪になれたのは誇らしかったです……流石に常にアイドル扱いは中々堪えましたけどね」

 

「代々的に売り出し、民衆の安定を狙った政策だから仕方ない。アイドル、マスコット扱い大いに結構、夢を魅せてなんぼだろ?」

 

他人ごとなのが納得いかないのかジト目で睨まれるが気にしない。背筋がぞくぞくするが気にしないったら気にしない。深刻さに耐えかねて茶化さずにはいられなかった己の弱さに呆れるが、後悔先に立たずなのであった。

 

「しかしよくもまぁ……艦娘を受け入れられたもんだ。得体の知れなさでは深海棲艦とどっこいどっこいだろうに。未知を恐怖するのは人の性、命運を託すのは相当博打……いや愚問か、溺れるものは藁にもすがる。そもそも選択肢がなかったんだから阿呆な疑問だったな」

 

 

 

皆目先がすべてで未来に思いを馳せる余裕なぞついぞありはしなかった。荒廃しきったおかげで受け入れられる下地が出来ていた辺り色々皮肉続きだな本当。

 

「奇襲により五分五分にまで持ち込みはしましたが艦娘はまだ数が少なく前線の維持と本国防衛で手一杯。付近ではあいも変わらず絶え間ない恐怖に怯える日々。一方保有国は資本が集中進む復興と格差はいよいよ両極化しました……振り返るに後の惨劇は半ば必然だったのかもしれません……」

 

人口の減り具合に遂にブレーキが掛かったのは喜ばしいことである。だが犠牲者数の内訳を紐解くとそう喜んでばかりもいられない。何せ9割以上占めるのはアフリカ大陸、アジア全域、中東である。欧州、南北アメリカ、ロシア、日本列島に属する国民は確かに飛躍的なまでに生存率が跳ね上がったが……逆にそれ以外は減るはおろか以前にも増して増え留まるところを知らなかった。支配地域を減らし、押し込まれた結果領内の密度は迂闊に近寄れないレベルになり、散発的な攻勢が集中的に行われる。字面可怪しい事態がまかり通ったのだ……所謂皺寄せであった。

 

「これで不満が貯まらない訳がない。原因は誰の目にも明らかだったんだろうが解決する手段が事後犠牲を伴うんじゃ支援も難しいから困るぞ」

 

「避難民を受け入れようする場合、道中の危険に受け入れ先の整備、地元との折衝と負担側のデメリットが凄まじく、反面メリットがないに等しいのが問題視され要請を送られても拒絶する以外の手段がありませんでした……」

 

断った方は鬼畜とか悪しざまに罵倒されがちだが、考えて見て欲しい。家族や友人が困ってるのに赤の他人を率先して助けようとしてる奴を……異常者以外の何物でもない。他人なら関わらないで済むが身内じゃそうもいかないのだ。ぶん殴ってでも矯正するだろう。国に当て嵌めてみると政権転覆果ては無政府状態にも繋がりかねない悪手。

 

「せめて、人出が多いほうが助かる理由が少しでもあれば……詮ない愚痴ですね」

 

軍人への転向で利用価値が見出だせれば助けようもあったが……棲艦戦での使い道が壁にもならない肉壁が精々の時点で両者の溝は埋めようがなかった。

 

「危うい均衡が崩れさったのは2059年、切欠は人工衛星の不調からでした。磁気嵐による妨害と判断されたものの同中域を通過する時必ず地上との交信が途絶する異常事態が発生。迅速な情報収集によって明らかにされた内容は想像を絶するモノで……低軌道上に肉眼では視認不能な電波を弾き、物理をも遮断する薄い膜の存在が観測されたのです」

 

「あっ~と……それ屋台骨がへし折れかねない危機に直面だよな?紛れもなく」

 

彼らに絶対に負けてないと自信を持って誇れたのは情報面だけだった……しかしそのだけが彼女たちと並んで基幹戦略を支える大動脈だったのである。何しろ衛星で大まかな所在地に動向を探れるおかげで対策が取りやすく、戦力の集散を効率よく可能としている。更にICBM、大陸弾道ミサイルによって稀にある大規模攻勢を凌いでいたのだ……使用不能になるとくれば狼狽ではすまない。

 

「概ねその通りで……辛くも環境に変化を齎さないと実証されますが、旧マレーシアを中心に急速に空を覆い、確実に蝕んでいきます」

 

「科学者はいい加減真面目に研究するのが馬鹿らしくなってきろうな……ご都合主義の権化で法則性もなにもあったもんじゃねぇ。匙だ匙」

 

「実際、深海情勢ハ複雑怪奇ナリとある種諦観に満ちた台詞が通用してます……現在でも謎だらけな時点でお察しですね。とかく宇宙に上がれるのは侵食速度からして余命数ヶ月となると……いよいよ妥協許さぬまで二陣営の関係が拗れたのです」

 

「二陣営?艦娘持ってるか、持ってないかの区分けね……主に保有してるのは合衆国、日本、英国、独国、仏蘭西、伊太利亜、露西亜とその他数か国……ん?大体納得の顔ぶれだけど、今世紀じゃ常任理事をも務める印度や中国が中国はその他でも最下層、印度に限ってはほぼ保有0ってのは以外だな。どっちも押しも押されぬ先進国だろうに」

 

顎に手をあてて浮かんだ疑問に頭を悩ませていると憂いを帯びた横顔の翔鶴が補足の説明を述べた。

 

「ナナシさん以外でもなんでもないんですよ。私たちは第二次大戦中の軍船……なんですから。ほら、説明せずとも自ずとわかるでしょう?」

 

―――先に主力としてあがったのはかつての列強。持たざるは植民地や利権の争いで半身不随の未だ眠れる獅子、理由を聞けば当然の帰結だった。

 

「理不尽すぎて絶句せざるお得ない。己の関わらぬ過去の道筋が成否を別けるのは納得しかねるだろうよ。あぶれた者は強ければ強いほど落差を呪わずにはいられない」

 

ネットワークの寸断と空の膜で同じ場所がそれ以下にまで引きずり降ろされる。細部に渡るまでブラックボックス扱いで量産の見通しは梨の礫、失えば容易な補充が効かぬ切り札を張り詰めさせるのにも限界があった。衛星のカバーは失われ、その負担はそのまま彼女たちと軍部に伸し掛かり疲弊を誘う。何れ来る崩壊を予見して体制を立て直しに本国付近までの撤退を表明する持つ者と、取り残されるのを怨嗟する持たざる者。ここに両者の亀裂は不可避となり争いが生まれたーーーそう核戦争が……

 

「世界的に進められていた宇宙開発、天文学的な予算と優秀な参加者に後押しを受け、実りつつあった月面基地着工、火星テラフォーミング草案が順調な滑り出しの直後に頓挫を突き付けられたのは……地球に見切りをつけ、宇宙にこそ生存圏があると夢見た人間を自暴自棄に至らせるにあまりありました……」

 

苦しみ抜いて彼らが得たのは希望を抱いた数だけの絶望……後に残るは周囲すら巻き込み破滅する極大の呪いだけだったのだ……

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

いつもどおりじゃない一日を終えて、此処がどうしよもない末期だと知らされた。平穏を装っても悪夢は悪夢でしかなかったということだ。心を置き去りにして薄情にも回復しきった身体のせいで明日退院の運びとなる。

 

軍船の名を受け継ぐ女、翔鶴から手渡されたパンフレットと入隊許可証をなにするでもなくボウっと眺めた。目覚め得ぬまま……一週間はとうに過ぎ、失ったものは数多、得たものは負の感情に付随するものばかり。取り巻く環境は一変して、俺を知るものも俺が知るものもいない。価値観すら歪で同じ時を生きてない……まるで肉体のある幽霊みたい。居るだけで矛盾の塊だ。

 

朝を迎える度に溜息を付くのにはもううんざり、過度な期待は止めて敷かれたレールの上を歩こう。選択肢なぞ鼻からなく、悲しみに暮れても減る腹を嘆いて衣食住が保証された日々へ流される。繰り返せば仮初めの生から解き放たれるだろうことを祈って……

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

望まぬ門出に新たな出会い

疑問と世界一杯の謎があり

白紙は如何様にも染め上がる

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 





切りが良い所で終わらせたらちょっと短めに(汗)次回から他の艦娘たちが出始めます。訓練校編のレギュラーは5~6人の予定……誰が出るのかお暇でしたら予想していただくのも一興かと……まぁ一人か二人は確実にバレてると思いますが。

さて大型建造は相変わらず進捗なし、あきつ丸が三隻になったのは嬉しい……でも大鳳とは言わないからまるゆは是非来て欲しい……まるゆは外れではなく大当りですよね(*´ω`*)

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