天才兎に捧ぐファレノプシス   作:駄文書きの道化

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Episode:11

 束は研究室に籠もりながら思考を重ねていた。今、彼女が悩んでいるのはハルの事だ。

 一夏誘拐未遂事件から早数ヶ月。ハルのトラウマの症状も大分緩和され、ハルは雛菊とイメージ訓練に勤しむ時間が増えていた。それは同時に束にとっても一人で考え事が出来る時間を得られるという事である。

 

 

「……ダメだなぁ。“この子”達はまだ運用段階じゃないし。私が欲しいのは今すぐ使える“駒”なんだ」

 

 

 苛々と束は爪を噛みながら呟いた。表示していた設計図はISのものだったのだが、束の口から零れた通り、まだ運用段階のものではない。つまり束の望むものではない。

 束が欲しいのは自分の言うことを迷わず聞いて動いてくれる“駒”だ。それも出来ればISを扱える駒が欲しい、と束は考えていた。

 

 

「ハルは私の為に戦ってくれる。けれど、私は表に出る訳にはいかない」

 

 

 だからハルを自らの手で守る事が出来ない。束が表に出れば世界は嫌でも騒がしくなるだろう。まだハルならば正体不明のIS、で片付けられる。しかし自分ではダメだ、と。

 だからこそ何か有事があればハルは束を守る為に飛び出していってしまうだろう。それもたった一人で。幾らハルがISに関して類い希な才能を持っていると言っても限界はある。何よりハルには経験がない。才能はあれど最強ではないのだ。

 だからこそ欲しい。自分の命令を聞き、命を賭けてでもハルを守り抜ける“駒”という存在が。

 

 

「……何かいないかな。ハルみたいな境遇の子がいれば幾らでも保護して教育するのにな」

 

 

 きっとハルは受け入れないだろう。ハルは束を受け入れてくれたが、ハルの感覚はあくまで常人に近い。自分の為に捨て駒になる人間を束が用意したとすればハルは悲しみ、最悪怒るだろう。

 だが嫌われるとまでは思っていない。最早、束とハルの絆はこの程度で切れる筈がない。それを束は確信している。逆に、だからこそハルが悲しむのだけは絶対に嫌だった。

 故に束はハルみたいな存在がまだどこかにいないかな、と想像する。ハルの隣に並び、ハルと共に戦い、ハルを守ってくれるような都合の良い存在がいないか、と。

 自分にとっての“駒”であり、ハルと共に戦う“戦友”。束はお得意のハッキング技術を駆使して世界の情報を集めていた。世界の闇は深い。束すらも覗ききれない深淵が確かにこの世界には存在している。

 人の欲望は尽きない。何か手がかりを1つでも掴めれば。そんな希望を以て束はダメもとで世界中の情報を集めていた。そんな束の指が止まる。

 

 

「……あは!」

 

 

 いるじゃん。にたり、と釣り上げた口は捜し物を見つけた無邪気な子供のように歪んでいた。

 

 

 

 * * *

 

 

 

「――くっ!!」

『後方接近。“暮桜”が来る』

「わかってるよっ!!」

 

 

 青の世界が広がる雛菊の深層意識でハルは空を舞っていた。雛菊を纏ったハルを追うのは、ハルの脳裏に焼き付いて離れない恐怖の体現である織斑 千冬だ。雛菊によって再現された千冬にあの時の圧迫感は無いが、身を斬り裂かんとする刃の猛威は変わらない。

 翼を小刻みに揺らすようにハルは軌道を不規則に描いて飛翔する。千冬のアバターは逃れようとするハルに追いすがり、今か今かと刃を触れさせる瞬間を窺っている。

 

 

「このぉッ!!」

 

 

 身体を回転させるように旋回。同じく千冬のアバターも旋回し、差が縮まる。機体性能が幾ら勝ろうと、こうして技術の差で距離が詰められていく。歯を噛みしめながらハルは加速。千冬を振り切らんと上昇する。

 そして勢いをつけて反転し、千冬のアバターへと真っ向から向かっていく。ハルの手に握られているのはIS用のブレードだ。日本で開発された刀を模したブレードを構えてハルは突撃する。

 

 

「だりゃぁっ!!」

 

 

 急加速を用いてハルは千冬のアバターを叩き斬らんと迫る。だが千冬は容易くハルの振るったブレードを受け流し、再びその背に食らいつかんと追いかけてくる。

 ハルがヒットアンドウェイを繰り返し、千冬のアバターがカウンターを狙い続ける。精神を小刻みに削られ続ける苦行。それもやがて終わりの時が来る。

 

 

「ッ!? 食いつかれた!?」

 

 

 千冬のアバターが遂にハルを捉え、振り抜かれた雪片が雛菊のウィングユニットを切り裂いた。一気にシールドエネルギーを奪われた雛菊は自慢の推進力を奪われていく。

 雪片。それが暮桜に唯一装備されている近接ブレード。自身のシールドエネルギーを犠牲に生み出す効力は相手のシールドエネルギーを無効化する必殺の剣。

 ちくしょう、とハルが悔しげに呟く。千冬による追撃の一撃が加えられてハルは青の世界を落ちていった。

 

 

「……勝てない」

「仕様がない」

 

 

 ハルはふて腐れたようにあぐらを掻いて座り込む。むすっ、と不機嫌なハルに雛菊はいつもの調子で返答する。

 この深層意識でハルと雛菊はひたすらに千冬のアバターとの模擬戦を繰り返してきた。あくまでイメージによる模擬戦だが、ハルにとってかなり益のある修行となっている。

 機体性能が勝ろうとも技術が足りない。それが今のハルが自分自身に与える評価だ。雛菊は現段階では飛行する事に特化した機体となっている。なのに形態移行を経て進化しているとはいえ、旧世代の機体を操る千冬に負けているのは最早ハルの技量でしかない。

 ハルの脳裏には転写された千冬の戦闘記録がある。だがあくまで記録であって感覚ではない。更に言えばハルに転写されている千冬の戦闘記録は以前立ち会った際の千冬よりも明らかに劣っている。

 それに扱っている機体がまったく違うのだ。雛菊はハルに合わせられたハルの為の機体。千冬の記憶にあるような機体を振り回す機動だけでは雛菊の真価は発揮されない。だからこそハルはまだ雛菊との飛行については模索状態なのだ。

 

 

「でも成果は出てる。今日は10分。雛菊はハルを評価する」

「10分……。道は果てしなく、険しいなぁ」

「雛菊にはそもそも固有武装がない。高機動だけでは勝てない」

「やっぱり展開装甲を攻防にも使えないとダメか」

 

 

 そう。雛菊には武装が存在しないのだ。元々が展開装甲の検証機だった雛菊には固有の武装と呼べるものが搭載されていなかった。

 いや、1つはあるのだ。それこそ雛菊に用いられている展開装甲。ありとあらゆる状況に即応する万能装甲。ハルには未だこの装甲を扱いこなす事が出来ていない。そんな様で千冬のアバターに勝とうと思うのが無謀か、と吐息を漏らしながらハルは背筋を伸ばす。

 

 

「まぁ、精進あるのみだよな」

「努力、大事」

 

 

 むん、と小さくガッツポーズをする雛菊の頭を撫でて、ハルは笑みを浮かべるであった。

 

 

 

 * * *

 

 

 

「……ん」

 

 

 意識が現実に戻ってくる。ハルは寝台に横たえていた身体を起こして、固まっていた身体を解すように伸ばしていく。身体を解し終えれば辺りを見渡し、あれ? と疑問の声を漏らした。

 

 

「……束?」

 

 

 名前を呼んでみる。しかし反応は無い。ハルは眉を寄せて寝台から降りて研究室からリビングに繋がるドアを開けた。

 そこにも束の姿はない。だが代わりにハルはある物を見つけた。テーブルの上に置かれたメモ書き。そこには短く2、3日留守にするメッセージが記されていた。

 

 

「出かけてるのか。今度はどこに行ってるんだろ?」

 

 

 束はたまにこうしてふら、といなくなる。いつもの事か、とハルは大して心配はしていない。しかし、とハルは首を捻る。食糧の備蓄を確認しても充分ある。食糧を仕入れに行った訳では無さそうだ。

 研究に必要なものでも出てきたのかな、と推測してみても束じゃないのでわかる筈もない。まぁいっか、と自分の食事を作る為にハルはキッチンへと向かった。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 束の靴音が無機質な廊下に木霊していく。非常灯の灯りしか付いていないその施設は完全に死んでいた。いや、殺されたのだ。経った今、鼻歌交じりに廊下を歩いていく束によって。

 

 

「人殺しは面倒だし、やってらんないけどさー、まるで人が蜘蛛の子散らすように逃げていくのはけっこう楽しいかな」

 

 

 この施設に居た人間には退去して貰った。束はハッキングを用いてこの施設のありとあらゆる機能を掌握し、さっさと追い出したのだ。セキュリティシステム、ゲートの開閉システム。ありとあらゆる手段を尽くし、目的のものだけを置いて貰って。

 長居は無用。僅かに鼻につく薬品の匂いはあまり好きではない。さっさと“お宝”を拾って帰る事にしよう。

 そして束は目的の部屋へと辿り着いた。空気の抜ける音と共に開かれた扉。中の部屋はまるで牢獄のようだった。

 

 

「……ッ!」

 

 

 その中にいたのは“女の子”が二人。束の侵入に反応したのは一人、もう一人は瞳を閉じてぼんやりと蹲るだけ。いたいた、と束は上機嫌に部屋の中へと入っていく。

 

 

「……何者だ?」

 

 

 束の侵入に反応した少女が覇気を失った瞳で束を見た。震えている身体は明らかに恐怖に怯えている者の姿だ。そんな少女の姿に束はふっ、と笑うように鼻を鳴らした。

 まるで小動物のようだ、と小柄な体躯の少女を見て束は思う。流れる銀髪はぼさぼさでろくな手入れもされていない。身につけている服もぼろぼろ。禄な扱いを受けていない事がよくわかる。

 

 

「君は……ラウラだね? ドイツ軍に売られた“ヴォーダン・オージェ”の不適合者。えっと、遺伝子強化試験体だっけ? その計画で生まれた後、ISの特殊部隊に所属。けど“ヴォーダン・オージェ”を移植した結果、不適合を起こした。その後、不適合による能力制御が行えず成績を落として放逐された。んで、最後には研究材料としてここに売られた、と。合ってるかな?」

「だとしたら……? こんな欠陥品に何の用だ?」

 

 

 ラウラは否定しない。それが自分自身の真実だ。欠陥品の烙印を押されて売られた出来損ない。遺伝子強化体として生まれたラウラにとって、平凡以下に成り下がった自分は最早価値のない存在だ。

 束はラウラの問いを無視して、もう一人の少女へと目を向けた。ラウラと良く似た容姿だ。並んでいると姉妹に見える。彼女は膝を抱えて瞳を閉じていた。まるで束とラウラにやり取りに興味がないのか、ただそこに蹲るだけ。

 

 

「で、君ね。君は……そこのラウラの一世代前の遺伝子強化試験体だね? 名前は……記号か。こんなの名前じゃないね。どう思う?」

 

 

 束の問いかけにも眉1つ動かさず少女は動かない。その様子にラウラは嘲笑するように鼻で笑い、目線を落として呟く。

 

 

「……無駄だ。そいつに話しかけた所で反応などない。私も、そいつも。最早価値の無い失敗作だ」

「あっそ。別に自分を卑下するのは結構だけど、自分の足で歩ける?」

「……貴様はさっきから何なのだ。ここの職員はどうした?」

 

 

 ラウラは戸惑うように問いを投げかける。自分たちをまるでどうでも良い存在として扱う様はまるで研究員のようにも思えたが、特有の薬品臭さを感じない。

 どこか世界から浮いたような雰囲気に戸惑うな、という方が無理だろう。ラウラの問いかけに束はまたもラウラを呆気取らせるように軽い調子で返答した。

 

 

「あぁ、もういないよ。私は貴方たちを迎えに来たんだよ」

「なに?」

「失敗作? 価値がない? 結構。だったら私の為に役に立つ気はない? 拾ってあげるよ」

「……本当に貴様、何者だ?」

「篠ノ之 束。知ってるでしょ?」

「……な、なに!? 篠ノ之 束だと!? ISの開発者が、なんでこんな所に!?」

 

 

 ラウラは束が名乗った名が信じられず、束の顔を驚きのまま見つめる。蹲っていた少女もまた、束の名を聞いて流石に反応を見せたのか、ゆっくりと顔を上げた。

 二人の少女から注目を受けた束は面倒くさそうに溜息を吐く。片手を腰に当てて、もう片方の手をひらひらと振って面倒くさそうにしたまま言葉を紡ぐ。

 

 

「だから言ったでしょ。迎えに来たって。拾ってあげるって」

「……何故?」

「使えそうだから。あぁ、使うって言っても人並みの生活は保障してあげる。食事も用意するし、服も好きなものを着れば良い。私を裏切らないなら何したって構わないよ。ここよりも良い生活も用意してあげる」

 

 

 ひらひらと束が無造作に振っていた手が頭を掻く。面倒くさそうな表情のまま、束の手は二人に伸ばされた。

 

 

「あぁもう! 面倒くさいな! ――いいから黙って従いな。救ってあげよう。この束さんが直々にね。返事はYESしか聞いてないよ」

 

 

 傲慢なまでに束は言い切った。全ては己のエゴの為に。世界を狂わす天才は今日も思うがままに振る舞うのであった。

 

 

 

 * * *

 

 

 

「……で? 拾ってきたと主張する訳?」

「うん!」

 

 

 頭が痛い。ハルは目眩が起きて崩れ落ちそうな身体を支える。

 気を取り直してハルは束を見る。正確には束の両隣にいる少女を。

 

 

「こっちがラウラで、こっちがクロエね!」

「そんな犬や猫みたいな紹介を…いや、まぁ、束だしなぁ」

 

 

 両隣の少女の名前なのだろう。嬉しそうに教えてくれるのは構わない。でも自分が聞きたい事はそういう事じゃない、とハルは首を左右に振る。

 帰ってきたと思ったら、束が二人の女の子を連れて帰ってきた。一体どういう経緯で連れてきたのか聞いたハルの反応がこれだ。

 頭痛がする頭を抱えて、ハルは疲れたように溜息を吐き出す。束はいつものようにニコニコと笑みを浮かべている。

 ラウラはどこか落ち着かない様子で、手を後ろに組んで休めの姿勢でいる。クロエは束の手を握ってぼんやりとしている。対照的だな、とハルは二人への感想を抱く。

 

 

「あぁ、ちゃんと施設は再利用出来ないように破棄してきたよ。色々と利用出来るものは拝借してきたけど」

「もう何聞いても驚かないよ。君達も……あ、日本語は通じる?」

「はっ! ISが世界に普及してより、日本語は軍においては必須科目だった故、日常会話程度であれば問題なく可能であります!」

「会話だけなら大丈夫です。学習済みです」

「……ッ!?」

 

 

 クロエは今まで閉じていた瞳をうっすらと開けてハルを見た。開かれた瞳は異様な瞳だった。白ではなく黒の眼球に金色の瞳。異色の瞳を見て、ハルは思わず息を呑む。

 ハルは改めて二人を観察する。髪はぼさぼさで、頬もどこか痩けている。二人がどのような扱いを受けたのかを察し、ハルは深く息を吸い、ゆっくりと吐き出した。

 ハルは気を取り直すように笑みを浮かべた。その調子で明るく二人に話しかける。

 

 

「なら良かった。僕はハルだよ。別にかしこまらなくて良いから。色々と言いたい事とか、話したい事があるけど、とりあえず1つだけ」

「ん? 何かな? ハル」

「――おかえり。そして、ようこそ」

 

 

 束に向けておかえりを。ラウラとクロエに向けて歓迎の言葉を。ハルは笑みを浮かべて告げる。三人を受け入れるように。束は当然と言うように笑みを浮かべ、ラウラとクロエも一瞬驚いたように息を止めたが、すぐに安堵したように吐息する。

 

 

「とりあえず束、二人をお風呂に入れてきて。二人とも、食事は普通に取れそうかい? スープとかの方が良いなら用意するけど?」

「は、はい! 体力の低下は認められますが、食事を取る分には問題はありません!」

「……私は、スープが何か知らないです」

「OK。とりあえず胃に優しいものからだね。束?」

「えー。お風呂面倒ー。しかもこの子達を入れなきゃいけないのー?」

「拾ってきたんだから、ちゃんと自分で世話しないとダメだって。元の場所に戻すって訳にはいかないんだからね?」

「犬や猫じゃないしね?」

「まったくだよ! あ、湯船に入る前に身体を洗ってね! 後、ちゃんと風呂は100数えてから上がるように!」

 

 

 さっさと行く! とハルに促された束は渋々、と言った様子でラウラとクロエの手を引いた。クロエは束に従順のようだが、ラウラはどこか落ち着かない様子でおっかなびっくりに束に連れられる。

 そんなラウラの様子に気付いたのか、束はラウラの名を呼んで自分の方へと視線を向けさせる。はい! と勢いよく返事をして束へと視線を向けた。

 

 

「なんか鬱陶しいからその堅苦しい態度、止めてね」

「え、い、いや、しかし……」

「今日から私が君達の飼い主だよ。飼い主の言うことは聞きな。躾けるよ」

「了解……、いえ、わ、わかりました」

「ん。まぁ、それぐらいなら許すかな。媚び諂われるのって嫌いなんだよね。束さん」

 

 

 行くよ、と手を引かれながらラウラはただ戸惑うように連れられていく。

 既に自分を見ていないこの傲慢な天才は何を考えているのだろうか。ラウラは考えようとして、止めた。きっと自分などでは理解する事も難しいだろう、と。天才とはそういうものなのだろうと。

 ふと、ラウラは束の逆の手で引かれているクロエに視線を向ける。再び瞳を閉ざしながら歩いている彼女はラウラが視線を向けている気配に気付いたのか、ラウラに顔を向けて微笑んだ。

 自分とは違って既にこの状況に順応している事に驚き、尊敬の念を送りながらラウラは進む。きっと今まで違う生活が待っている。そんな予感を否応なしに感じながら。

 

 

 

 * * *

 

 

 

「束、どういうつもりであの子達を拾ってきたの?」

 

 

 ラウラとクロエにスープを振る舞い、二人に涙を流されるというトラブルもあったが、暖かい布団を用意すれば二人は寄り添うように眠ってしまった。

 二人の様子を見届けて、ハルは傍らにいた束に問いかける。一体どういうつもりであの二人を連れてきたのか。予想はついているけれども束の口から確認したかった。

 

 

「利用出来そうだったから」

「わぁ、直球」

「ハルに隠したってすぐわかるでしょ」

「そうだねー。……僕に言うって事は少なくとも捨て駒扱いするつもりはないね?」

「やっぱりわかる?」

「でなきゃ君が人なんか連れてくる訳ない。僕みたいだから哀れんで助けた、なんて人情に溢れてる奴じゃないでしょ、束は」

 

 

 はぁ、と溜息を吐いてハルは頭を掻く。束がどういう意図で二人を拾ってきたかなんて明白だ。利用価値があったからに決まっている。でなければ束が人を拾ってくるだなんてあり得ない。

 この人嫌いはそういう人間だとハルは理解している。だからこそハルは少しだけ嬉しかった。どんな理由でも、束が二人を助けようとしてくれた事が。

 

 

「ラウラは元々軍人だったからISを与えれば即戦力で使えるでしょ。クロエはIS適正事態は高くないけど、まぁ色々と教え込めば助手として使えそうだしね」

「成る程。……ありがとう、束」

「? なんでお礼なんか言うの」

「理由はアレだし、きっと褒められた事じゃない。でも、君が僕以外の人との付き合いを考えてくれた。それが嬉しいんだ。それに僕みたいな奴が一人でも救われたなら、本当に良かったって思うんだ」

 

 

 だからありがとう、と繰り返されたハルのお礼の言葉。束は笑みを浮かべて、どこか照れたように鼻の頭を掻く。そのまま甘えるようにハルに抱きついて頬を寄せる。

 

 

「ハルに褒められるなら人助けも悪くないかもねぇ。面倒なのはごめんだけど」

「束らしいや」

 

 

 束の頭を撫でながらハルは笑う。少しずつ変化していく事を感じて、共に歩んでいる事実を実感しながら。

 これからも人生は続いていく。まだまだ道は長い。そんな道の途中の小さな変化。それがどうしようもなく、ハルには嬉しかった。


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