クーデター事件が終結し、グランセル城の前には大勢の人々がアリシア女王の姿を見ようと駆けつけ、空中庭園から姿を現した女王の姿を見て歓声をあげた。
~遊撃士協会 グランセル支部~
多くの遊撃士達やレイア達に見守られ、エステルとヨシュアはエルナンから最後の推薦状をもらおうとしていた。
「―――エステル・ブライト。並びにヨシュア・ブライト。今回の働きにより、グランセル支部は正遊撃士資格の推薦状を送ります。どうぞ、受け取ってください。」
「「はい!」」
「これで、5つの地方支部での推薦状が揃ったわけですね。それではカシウスさん。よろしくお願いします。」
「うむ。」
エルナンが下がり、いつもの余裕のある表情とは違い、真剣な表情をしたカシウスが進み出た。
「エステル・ブライト。並びにヨシュア・ブライト。これより、協会規約に基づき両名に正遊撃士の資格を与える。各地方支部での推薦状を提出せよ。」
「は、はい……」
「どうぞ、ご確認ください。」
厳かな雰囲気を出すカシウスにエステルとヨシュアは緊張しながら、今まで貰った五枚の推薦状をカシウスに渡した。
「ロレント支部、ボース支部、ルーアン支部、ツァイス支部、そしてグランセル支部……五支部全てのサインを確認した。そして、ルーアン支部とツァイス支部の特別推薦状も確認した。最終ランク、準遊撃士1級。ここまで行くとは思わなかった。正直、驚かされたぞ。女神(エイドス)と遊撃士紋章において、ここに両名を正遊撃士に任命する。両者、エンブレムを受け取るがいい。」
「「はい!」」
「おめでと、エステル、ヨシュア!」
エステルとヨシュアが正遊撃士の紋章を受け取るとシェラザードは二人を祝福し
「はは、新しいエンブレム、なかなか似合ってるじゃないか。」
「うむ。様になっているな。」
「まあ、今回ばかりはよくやったと誉めてやるよ。」
ジンやヴィクターも誉め、アガットも珍しくエステル達を誉めた。
「おめでとうございます、エステルさんにヨシュアさん!」
「2人ともおめでとう。」
トワやレイアは拍手をしながらエステル達を誉め
「最高ランクで正遊撃士に昇格するとは、さすがね。」
「だな。」
「本当ですね。」
シルフィアとアスベル、セシリアもエステル達を祝福し
「えへへ……みんな、ありがと!」
「ここまで来れたのも……皆さんが支えてくれたおかげです。」
仲間達からの祝福の言葉にエステルは照れながら、ヨシュアは姿勢を正して笑顔でお礼を言った。
「さて………正遊撃士になった事で護衛の依頼も終了した事なので、2人には預かっていた報酬を渡します。」
そしてエルナンはエステルとヨシュア、それぞれに15万ミラを渡した。
「あれ!?この報酬………提示されていた報酬よりかなり多いじゃない!確か報酬は15万ミラじゃ………二人で分けたら7万5千ミラになるんじゃないの?」
「僕とエステル、両方とも15万ミラをもらったよね………」
エステル達は渡された報酬を見て驚いた後、レイア達を見た。
「二人の報告を聞いて報酬を上げたって、依頼人が言ってたから。」
「それに、久しぶりに楽しい旅ができたからね。上乗せ分はお祝い分ってことで。」
「二人共………お礼を言うのはこっちの方よ!ありがとう!」
レイア達の言葉を聞いたエステルはお礼を言った。
「あと、二人にプレゼントだ。」
「これは……」
「包み、ですか?」
そして、二人の前に歩み寄ったシオンが手渡したのは大きな包み……
「これって……!」
「僕達の武器……」
「ああ。クラトス・アーヴィングが二人の為に作った専用の武器だ。」
「クラトスって、ツァイスで会ったあの人のことだよね?」
「そうだね。しかし、これほどの武器を頂いても?」
中から現れたのは、エステルには棒、ヨシュアには二本一対の片刃剣。そのいずれも初めて手にした武器なのに、フィットする感じがした。
「ああ。エステルの武器は“ヘイスティングズ”、今までのよりも遥かに軽いが使いこなせば一撃の威力は更に上がっていく代物だ。ヨシュアの武器は“双剣『幻影竜牙』”、少し重くはなっていると思うけれどヨシュアのトップスピードなら十分使いこなせるはずだ。ま、俺が頼んだわけではないから強くは言えないが、頑張れよ。」
「ありがと、シオン。」
「ありがとう。」
シオンの簡単な説明と激励にエステルとヨシュアはお礼を言った。
「とんでもない祝金とプレゼントをもらったな…………遊撃士としてのキャリアはここからが本番だ。そのことを忘れないようにな。」
「うん……わかってる。」
「一層、精進するつもりです。」
カシウスの言葉に二人は頷いた。
「さて、めでたい話の後で非常に申しわけないのですが……ここで皆さんに、ひとつ残念な事をお知らせしなくてはなりません。本日を持ちまして、カシウス・ブライトさんが遊撃士協会から脱会します。しばらくの間、王国軍に現役復帰するとのことです。」
エルナンの言葉にカルナは驚き、グラッツも信じられない顔をした。また、そのことを知らされていなかったクルツとアネラスも驚いた。
「長らく留守にした上に突然、こんな事を言い出して本当にすまないと思っている。だが、クーデター事件の混乱はいまだ収拾しきれていない。情報部によって目茶苦茶にされた軍の指揮系統も立て直す必要がある。その手伝いをするつもりなんだ。」
「あ、そうか……軍人は遊撃士になれないから。そういえば、先輩達はこのことを知っていたみたいですね。」
アネラスが驚いていないシェラザード達に尋ねた。
「ええ、相談を受けたからね。正直心細いけど……いつまでも先生に頼ってばっかりじゃあたしたちも一人前になれないし、ヴィクターさんだっていつもいるわけではないでしょうしね。」
「まあ、これからは若手だけでも何とかなるって証明してやろうじゃねえか。」
「そうか……そうだな……」
「フフ……期待しているぞ。」
シェラザードとアガットの頼もしい言葉にクルツとヴィクターは口元に笑みを浮かべて頷いた。
「しかし、いつまでたっても忙しさから解放されないねぇ。」
「まあ、こうして新たな正遊撃士が二人誕生したんだ。せいぜい俺の代わりにコキ使ってやるといいだろう。」
「あのね……」
「はは、これからはもっと忙しくなりそうだね……そういえば、僕らのランクはどうなってます?」
カルナの愚痴にカシウスはエステル達を自分の身代りにすると言い、それを聞いたエステルはジト目でカシウスを睨み、ヨシュアは苦笑した後、気になることをエルナンに尋ねた。
「それなのですが……今までの実績と二つの支部の特別推薦状を勘案した結果……エステルさん、ヨシュアさん。お二人はC級からのスタートとなります。」
「ほう……」
「おいおい、冗談だろ!?」
エルナンの言葉にヴィクターは興味深そうな声をあげ、アガットは何かの間違いとでも言いたげに尋ねた。
「クロスベル支部のエースである“風の剣聖”に匹敵しうる依頼解決速度と依頼達成件数、正遊撃士でもトップクラスの人間と張れるほどのバイタリティ……そして、武術のことからすればそれぐらいのランクになりうる……それが理由ですね。」
「なっ!?」
「えっ!?」
「はあ!?」
「カシウス殿、未来は明るそうですな。」
「あ、ああ………(エステル、封印区画で放った『鳳凰烈破』といい、もはや俺ですらお前と言う存在が理解できないぞ……)」
それにはシェラザード、アネラス、アガットが驚き、ヴィクターの言葉に肯定の意味を込めてカシウスは頷いたが、内心冷や汗ものだったのは言うまでもない。
「さて………実は嬉しい知らせもあります…………レイアさん。」
「ええ……カシウスさんと入れ替わりとなりますが、本日付けを以て『6人目』のS級正遊撃士に昇格しました。」
「へっ!?レイアちゃんがS級に!?」
「それと、シェラザードさんとアガットさん……お二方も本日付でA級に昇格しました。」
「マジか!?」
「へっ、ようやくここまで来たか。」
「まったくね。」
レイアとエルナンの言葉を聞いたアネラスは驚いた。また、クルツ達も驚きを隠せていなかった。
「おいおい、シェラザードやアガットのことは解るとしても………さすがにそれは冗談だろ?アスベルやシルフィアの例があるとはいえ、いくらなんでもレイアがS級なんて……」
驚いている中、グラッツがエルナンに尋ねた。
「いえ、総本部からの連絡では間違いないことが確認されています。それに、国際的な事件解決の貢献……彼女はレミフェリアでの事件解決と『例の事件』の実績から十分であると判断されています。」
「なっ!?」
「えええええ~!?」
「はああああああ!?」
エルナンの言葉を聞いたクルツやアネラス、グラッツは驚いて声を出した。
「あんたの師匠はかなりの高みにいるわね……ぼやぼやしていたらもっと突き放されるわよ。」
「そんな事ないもん!見てなさいレイアにシェラ姉にアガット!あっという間にA級になって、驚かせてやるんだから~!」
シェラザードにからかわれたエステルはレイアとシェラザード、アガットを見て、言った。
「あらあら……これは私達もうかうかしてられないわね。」
「へっ、せいぜい期待してるぜ。」
「ふふ、楽しみにしてるねエステル。」
「さて………レイアさん。」
「はい」
エルナンに呼ばれたレイアはエルナンの方に体を向けた。
「レイア・オルランド。本日14:00を持って貴殿をS級正遊撃士に任命する。以後も協会の一員として人々の暮らしと平和を守るため、そして正義を貫くために働くこと。」
「はい」
そしてレイアはエルナンから新たな正遊撃士の紋章……S級のみが付けることを許された白金製のエンブレムを受け取った。
「ほえ~、レイアがS級になるなんて………レイアちゃん、あたしに武術の手ほどきを!その代り、ファッションなら任せて!」
「ダ、ダメよ!それはレイアの弟子であるあたしの役目なんだから!」
アネラスはレイアがS級正遊撃士になった事に喜んだ後手ほどきを頼み、その様子を見たエステルは焦って言った。
「やれやれ……アスベル、シルフィアに続いてレイアまでS級とはな………A級に上がれたとはいえ、俺も精進しないとな。」
「そうね……アガットから出た台詞とは思えないけれど。」
「う、うるせーな!……俺だって、そう思う時ぐらいあらぁ……」
「はいはい、そういうことにしておくわね。」
アガットは呆れながら言った後、珍しい一言が発せられ、シェラザードもそれに頷いた。
その後、カシウスを加えたエステル達は城への道に歩きながらクーデター事件の事後などを話していた。また、レイア達は一端別行動にした。
「まったく父さんってば……帰って来たばかりなんだから、ゆっくりしても罰は当たらないと思うんだけれど……」
カシウスが忙しそうにしていることにエステルは不満を言った。尤も、その不満を言いたいのはエステルではなく、レナであろうが……
「すまんが、さっそく軍議があってな。リシャールこそ逮捕されたが、いまだ逃亡中の特務兵も多い。カノーネ大尉も、あの地下遺跡でいつの間にか姿をくらませていた。さらに、大会に参加した空賊団も混乱にまぎれて逃亡したらしい。騒ぎが起こらないよう警備を強化しなくてはならんのさ。」
「まったく……揃いも揃ってしぶとい連中ねぇ。」
「たしかに、どちらも諦めが悪そうな感じはするね。」
エステルはカノーネや空賊団の性格等を思い出し、溜息を吐いて呟き、ヨシュアも同意するように軽く頷いた。
「ちなみに、お母さんにはちゃんと連絡したの?」
「ギクッ………」
そういえば……と思ってエステルがレナに連絡をしたのかと尋ねると、カシウスはそのことを思い出して体が一瞬強張った。それを見たヨシュアはジト目でカシウスの方を見る。
「父さん、まさか……」
「い、いや、忙しくてな……」
「父さん?今すぐ連絡してきなさい。」
「いや、エステル?」
言い訳がましく喋るカシウスにエステルは笑みを浮かべて命令口調で話す。それを聞いたカシウスはたじろぐが……
「い・ま・す・ぐ!い・い・わ・ね!!」
「ハイ……」
「(……今回ばかりはフォローできないからね、父さん)」
笑顔なのに怒りのオーラ全開……怒った時のレナを思い起こさせるようなエステルの『命令』に体が縮むように萎縮し、素直に返事することしかできなかった。そして、ヨシュアはエステルとカシウスの光景を見て、フォローは無意味だと悟ったのであった。
カシウスは急いで王城に向かい、それを見届ける形となった二人は王都に出かけた。そしてエステルとヨシュアは二人で今までお世話になった先輩遊撃士や友達、レイア達、ラッセル一家にお礼の挨拶回りをすることにした。
~コーヒーハウス《パラル》~
「あ、ここにいたんだ。」
「ん、エステル達か。」
「折角の休暇なのに、律儀だね。」
「そうそう。」
「それもそうだけど……アスベル、シルフィ、レイアにはなにかと世話になったしね。」
そこにいたのはアスベル、シルフィア、レイアの三人だった。どうやら、カレーを食べに来ていたようで、三人の前に置かれたカレーが目に入った。
「にしても、アスベル達が遊撃士って……これで、トワまで遊撃士ってことは無いわよね?」
「それはないから安心してくれ。彼女はれっきとしたシスターだしな。」
「どうだか……あ、そうだ。」
エステルとしては色々驚かされた……そういう会話をした後、エステルは依頼板にあった白いコートの男性――オリビエの行方を尋ねた。すると、先程居酒屋に向かったとの情報を得て、二人はその場を後にした。
~居酒屋 サニーベル・イン~
情報をもとに、居酒屋へと急いだ二人……そこでエステルとヨシュアは信じられない光景を目の当たりにした。
「…………」
エステルは口をポカーンとした状態で固まり、
「…………」
ヨシュアですら、この光景が『異常』であると察知しつつも、ありえないものを見たような表情を浮かべていた。
それは……テーブルに座っている四人の人物。そのテーブルに乗っている酒の消費量が半端ないとでも言いたげに乗っかっている空き瓶の数々………
「いや~、良い飲みっぷりね。」
「そういうアンタこそ、良い飲みっぷりじゃない。」
「ハハ、自分なぞ蟒蛇もいいところですよ。」
「フフ……こういう席は久しぶりですね。」
元気に飲み交わしているサラ・バレスタイン、シェラザード・ハーヴェイ、ジン・ヴァセック、セシリア・フォストレイト……何でも、シェラザードA級昇格のお祝いも兼ねて『五人』で飲んでいるようだ。ちなみに、その五人目は……
「きゅう……」
「あらら……」
「見事に酔い潰れてるね、これは……」
エステルらが捜していた人物――オリビエは端っこの方で完全に酔い潰れていた。流石に運んでもいいが、人手が足りない……そんな時、同じようにオリビエを探していた人物――セリカの姿だった。
「あれ、エステルさんにヨシュアさん。」
「セリカじゃない。ひょっとして、オリビエの件で?」
「ええ、まあ……兄がえらく怒っていましたので……」
事情を聞くと、どうやら今夜の晩餐会に関して釘を刺すべくオリビエを探してほしい、と優しくお願いされたとのことだ。
「兄?」
「ああ、言っていませんでしたね。ミュラー・ヴァンダールは私の兄ですよ。」
「何と言うか……ミュラーさんとは性格も違うっぽいわね。」
「どちらかと言えば、オリビエさんに似通ってるね。」
「よく言われますよ、それ。」
そうして、エステルとヨシュア、セリカの三人はオリビエを大使館まで運び、ミュラーからお礼と報酬を受け取った。
一通り挨拶や依頼を終えた二人は、休憩するために東街区の休憩所に向かった。
ベンチで一息つくと二人は色々話し込んでいたが、ヨシュアのふと出た言葉にエステルが告白だと思ったという返答を聞いて、慌てた。あまりの気恥ずかしさにエステルはヨシュアの返事も聞かず、エステルは適当な言い訳をした後、何も考えずアイス売り場とは逆方向に走り去った。ヨシュアはエステルがさっき、自分に何を言おうとしたのかを考え、あることに思い当たったがすぐにその考えを打ち消した。
そしてエステルと入れ替わるかのようにある人物がヨシュアに近づいて来た…………
……ちくしょー、書きたい奴がうまく書けない(自業自得です)
次回予告(嘘)
■■■■■「実は……君に名付ける異名は、当初それと“黒の飛影”で悩んでいたのだよ。」
ヨシュア「嘘だああああっ!!」