英雄伝説~紫炎の軌跡~   作:kelvin

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第64話 京紫の瞬光

~グランセル城 女王宮~

 

エステルらの前に現れたアスベルとヴィクター……その二人の出現にエステルとヨシュアは驚いていた。

 

「あ、あんたたち……もしかして、特務兵は?」

「あいつ等か?目が覚めた時には脳天に血が上る仕様だがな」

「………あの、嘘ですよね?」

「半分はな。」

「半分本当なの!?」

実際のところは、夜間水泳の刑にしようかと思ったけれど、可哀想だから簀巻きてるてる坊主の刑(簀巻きの部分にロープを括り付ける仕様、首じゃないからな?)と逆さ吊りの刑にしておいた。公爵に関しては通りすがった時にちょっと睨んだら泡吹いて倒れちゃったから、問題なし。

そんなこともいざ知らず、エステルの驚愕は続くわけで……

 

「ていうか、何してるのよ!遊撃士が王国軍に喧嘩を売るなんて正気なの!?」

「……ま、知らなくても無理ないか。女王陛下、国王直属独立機動隊『天上の隼』隊長、アスベル・フォストレイト少将……陛下の危機に馳せ参じました。少しばかり遅れたことに関しては、弁解のしようもございません。」

「レグラム自治州の長、ヴィクター・S・アルゼイド。女王陛下が無事で何よりです。」

「いえ……お二方とも、助けに来ていただきありがとうございます。私は、その行いに感謝いたします。」

エステルの言葉に溜息を吐きつつ、女王に最敬礼をとるアスベルとヴィクターの二人。彼らの言葉に女王は特務兵を追い出してくれたことに対しての礼を述べた。

 

「……えと、何がどうなってるの?」

「確か、遊撃士と軍人は兼業できないはずじゃ……」

「ふふ……何せ、独立機動隊は『王国軍』とは別の指揮系統……いわば『有志』による『私設武装組織』に近い。」

リベール国王直属独立機動隊『天上の隼』……アリシア女王とクローディア姫、シュトレオン王子らの“王政”に忠誠を従った者たちが集う組織。その組織運用は従来の軍の規律からかけ離れており、“即自的対応力”を体現するための武装組織。

 

軍と指揮系統が切り離されたのは単純明快。軍が私物化した際の“抑止力”として、活動するためだ。実際のところ、レグラム地方とセントアーク方面ひいては北ボース地方に関しては『天上の隼』が帝国からの侵攻がないよう常に見張っていた。更に、『彼』が軍の中心に戻った際、その動きを迅速に行えるだけの部隊は必要……結果として、少数ではあるが精鋭部隊の軍備も整った。

それと、二大国へのカモフラージュ……軍という言い方ならば角が立ってしまうが、“有志”という形ならば王家の仁徳によるものであると考えるだろう……尤も、その形態も不戦条約締結後には修正されることとなるが。

 

「つまり、位は便宜上のものってこと。これならば、兼業にはあたらないし。」

「物は言いようってことだね……」

「そうだな……」

すると、足音が近づき、たくさんの人達……シェラザード、クローゼ、シオン、レイア、シルフィア、オリビエ、トワ……そして、なし崩し的に巻き込まれたミュラーの姿だった。

 

「エステル、ヨシュア!」

「お祖母様!」

「よかった、無事でしたか。」

「アスベルにヴィクターさん……何やってるの。」

「あはは……」

「フフ、麗しの女王陛下とご対面できるとは……つくづく僕は恵まれてるね。」

「冗談を言っている場合か、貴様は……」

「えと、もう何が何やら……」

それぞれの反応を見て、アスベルは女王の方を向き、答えた。

 

「陛下……囚われていた人間は全て救出しています。ここに来る直前、友人から連絡がありました。」

「そうですか……」

「それと……どうやら、招かれざる客がいらっしゃったみたいですし。」

一通り報告をした後、気配が感じる方……テラスに移動すると、そこには一人の男性がいた。

 

「ロ、ロランス少尉!どうしてこんな所に……」

ロランスを見たエステルは驚いた。

 

「フフ……。私の任務は女王陛下の護衛だ。ここにいても不思議ではあるまい?」

「ふ、ふざけないでよね!」

ロランスの言葉に反応したエステルは強がりを言った。

 

「なに、こいつ……ずいぶん腕が立ちそうね。彼がロランス・ベルガー?」

シェラザードはロランスの正体を知っていそうなエステルに何者か尋ねた。

 

「情報部、特務部隊隊長。ロランス・ベルガー少尉!もと猟兵あがりで大佐にスカウトされた男よ!」

「ほう、そこまで調べていたか。さすがはS級遊撃士、カシウス・ブライトの娘だ。」

「!!!」

「外部には公表されていない先生のランクを知っているなんて……。こいつ、タダ者じゃないわね。」

シェラザードは遊撃士協会内部の情報まで手に入れているロランスを最大限に警戒した。

 

「フフ……。お前のことも知っているぞ。ランクB、『銀閃』…いや、『陰陽の銀閃』シェラザード・ハーヴェイ。近々、ランクAに昇格予定らしいな。」

「………………………………」

ロランスの不敵な笑みを見て、シェラザードはロランスを睨んだ。

 

「あ、あの……もしあなたが大佐に雇われただけなのなら、貴方にもう戦う理由などないはずです。」

「この世を動かすのは目に見えている物だけではない。クオーツ盤だけを見ていては歯車の動きが判らぬように……」

「え……」

突如ロランスが語り出したことにクロ―ゼはわけがわからなかった。

 

「心せよ、クローディア姫。国家というのは、巨大で複雑なオーブメントと同じだ。人々というクオーツから力を引き出すあまたの組織・制度という歯車……。それを包む国土というフレーム……。その有様を把握できなければあなたに女王としての資格はない。」

「!?」

ロランスの意味深な言葉にクロ―ゼは何か大事なことを言われたと気付き、それを必死に考えた。

 

「面白い喩(たと)えをするものですね。ですが……確かにその通りなのかも知れません。まさか、この場で国家論を聞くとは思いませんでしたけれど……」

ただ一人、女王だけはロランスの言葉を理解し、その言葉を重く受け止めた。

 

「フ……これは失礼した。陛下には無用の説法でしたな。」

それを聞きロランスは口元に笑みを浮かべた。

 

「てめえ自身に用はなくとも、こっちにはある……覚悟してもらおうか。」

「フフ、いいだろう……。ならば、こちらも少し本気を出させてもらうぞ。」

「え……!?」

エステルがロランスの言葉に驚いているとロランス少尉が仮面を放り投げて素顔を出した。

 

「………………………………」

「……銀髪……」

エステルは髪の色に驚き

 

「いや……アッシュブロンドね……。どうやらこいつ……北方の生まれみたいだわ。」

シェラザードはロランスの容姿を見て出身地を予測した。

 

「フフ……。北であるのは間違いない。まあ、ここからそれほど遠くはないがな。」

シェラザードの推測にロランスは口元に笑みを浮かべて答えた。そして剣を構えた。

 

「……一つ聞く。これ以上関わるのは奴にとって“自殺行為”でしかない。それでも、お前は進み続けるつもりか?」

「それは愚問というものだな……俺は、この道を進むと決めた。俺には、それしか残されていないのだから。だが、手負いのお前が俺に勝てるとでも?」

「手負い、ねぇ……ま、間違っちゃいないけれど、間違いだな。」

「??」

問いかけられたアスベルの質問に、口元に笑みを浮かべて答えたロランス。そして、挑発めいた言葉にアスベルは疑問を投げかけられるようなことを呟き、ロランスは少し首を傾げた。

 

「エステルたち、宝物庫に行け。おそらく、リシャールは既にそこへ向かった可能性がある。」

「え……」

「細かい話は後だ。あいつは俺が引き受けた。」

「……私は残るからね。」

「…任せた。」

アスベルの言葉に事情が呑み込めないエステルだが、大方の事情を察してシルフィアが残ることを選び、アスベルはその提案に頷く。そして、エステルらがその場を急いで後にしたことを確認すると、ロランスの方を向き、刀を構えた。

 

「ロランス・ベルガー……いや、『身喰らう蛇』の『執行者』No.Ⅱ“剣帝”レオンハルト。先程の言葉だが、あれは『演技』だ。」

「『演技』だと?」

「派手に演出すれば、上手く誤魔化せるかもしれない……現に、お前は俺を手負いと評したわけだしな。」

まぁ、半分本気だったのは事実だが……ちなみに、俺が本気を出した場合……『周囲が更地になりかねない』ことを目の前にいる御仁――ロランスもといレーヴェは知らない。

 

「戯言を……」

「………裏・疾風」

「!?」

そう言い切ったロランスにアスベルは『裏・疾風』で強襲をかける。それには流石のロランスも驚愕して避けた。

 

「ちっ……流石に、執行者相手に本気の一割も出さないで勝とうとした方が誤りか。」

「フッ、言った割には大したことなさそうだな?」

「しょうがない……半分ぐらい本気で行くぞ。」

舌打ちして、かなり手加減した状態では駄目だったかとアスベルが言い、それに対して鼻を鳴らしたレーヴェ。だが、ある意味その言葉に怒ったアスベルは、凄まじい闘気……武闘大会の時よりも更に密度の高い覇気を放つ。

 

(なっ………!?この覇気、そしてこの雰囲気……まさか!?)

「察しがついたな、レーヴェ。『静の領域』の到達点……『理』。そして『動の領域』の到達点……それが、『修羅』。俺は、そのどちらの領域にも到達した人間だ。」

「それが修羅だと……馬鹿な、貴様はそこまで堕ちていない人間のはず……それが何故、そのようなオーラを纏っていられる!?」

レーヴェの指摘……それは、アスベルの纏っているオーラ。確かに、彼は“守護騎士”であり、そのような“仕事”を引き受けることもある……だが、それでは納得しえないほどの不条理……それを背負わなければならないほどに追い込まれたことなど、考えられない様子だった。

 

レーヴェのその言葉……確かに“今の状態だけ”ならば修羅に至ることなどなかっただろう。だが、アスベルが今まで歩んできた道……転生前も合わせれば凡そ三十年足らず……それだけの時間は、更なる力を鍛えるのに……そして、業を背負うのには十分な時間だった。

 

「レーヴェ、てめえはどうやら『修羅』の“本当の意味”を理解していないようだ……今回は、裏の方で戦ってやる。」

そう言って、アスベルは太刀を鞘に納めると、小太刀を抜いて二刀流で構えた。

 

「ヨシュアや『あの男』と同じ二刀流……面白い。『執行者』がNo.Ⅱ“剣帝”、レオンハルト。そこをどいてもらうぞ、“京紫の瞬光”アスベル・フォストレイト!」

「――星杯騎士団“守護騎士”第三位『京紫の瞬光』アスベル・フォストレイト……国家を転覆せしめようとする貴殿を討伐する!」

シルフィアがその様子を見守る中、かつて教団の制圧作戦で成り行きとはいえ共闘した両名……アスベルとレーヴェの戦いが幕を開ける!

 

 

「フッ!」

「はっ!」

互いに振るう刃、その軌道は瞬きでもすれば見過ごしてしまうほどのもの。

 

「(この太刀筋…紛れもなく、『修羅』に至った者の…)むんっ!」

レーヴェは横薙ぎでアスベルに斬りかかるが、

 

「よっ……と!」

剣の軌道を左手の小太刀で逸らし、右手の小太刀で斬りかかる。

 

「!!」

「ちっ……」

だが、レーヴェは咄嗟に体の力を抜いて体を逸らした。その行動にアスベルは舌打ちした。

 

「ふっ、そこだ!」

そこに口元に笑みを浮かべたレーヴェがクラフト――『零ストーム』を放った。

 

「ヘキサレイド、クロス!」

それを見たアスベルが瞬時に体勢を立て直し、二刀流による斜め上の斬り上げにより十字を作り、そこから持っている二刀を縦に振り下ろして衝撃波を放つクラフト――『ヘキサレイド・クロス』を放ち、相殺した。

 

「なかなかやる……」

「それはどうも。」

互いに距離を取り、睨みあう両者。そこで、レーヴェからアスベルに問いかけが投げられた。

 

「アスベル・フォストレイト……何故、その力の全てを見せない。お前のその力……先程のもので“半分”とは思えない。」

「………お前の言いたいことは分かった……だが、俺はその全てを解放するわけにはいかない。」

「それは欺瞞だな。その力があれば世界を容易く変えられる……俺と来る気はないか?お前ならば、盟主も喜んで受け入れてくれるだろう。」

「………」

「…アスベル……」

未だに奥底すら見せないアスベルの実力……今の彼ではその力の使い方は誤りである……それを十二分に発揮できる居場所を提供する。つまりはスカウトというところだろう。その言葉にアスベルは目を瞑り、シルフィアは心配そうな表情でアスベルの方を見ていた。

 

「………クルルの言った通り、か。レーヴェ、その誘いは今ここで断らせてもらう。」

「ほう……それが偽善であり、欺瞞であることは解っているはず……それでも、断るというのか?」

「諄い。どうやら……仮に『修羅』に至ったとしても、半端者の『修羅』にしか成り得ないな。てめえは……」

「……!?(馬鹿な……これだけの覇気、俺よりも年下の奴が、“鋼”と同格のものを放っているだと……!?)」

だが、アスベルは目を見開き、その誘いをきっぱりと断った。それには正気かとレーヴェが問いかけるが、その問いかけが挑発に聞こえたアスベルは闘気を解放した。その凄まじい闘気……自らが知る人物とほぼ同質の力。それにはレーヴェも驚きを隠せず、冷や汗をかいていた。だが、それだけではなかった。

 

「……何だ、その力は……」

レーヴェが驚いていたのは、アスベルの纏っている闘気……『修羅』に近いものでありながらも、それから限りなく遠い闘気。その問いかけにアスベルが答えた。

 

「そうだな…『修羅』のその先……強いて名付けるなら、『天帝』とでもいうべきかな。」

たとえ正義であっても、それに固執し続けると善心を見失い妄執の悪となる。正義ではなく、己の強い『信念』で力を振るう……修羅――正義を司る神である『阿修羅』が常に勝てない存在……その神と戦い常に勝利し続けた存在。慈悲の心を持ち、力を司る神『帝釈天』。戦いに固執せず、慈悲の心を忘れず、己の力の在り様を信念で貫き通す。

 

 

『動の領域』の極致――『天帝』

 

 

怒りのみでは、『修羅』に至ったとしてもその先は望めない……そのことは、レーヴェと同じ執行者であるルドガーやクルルも解り切っていた。だからこそ、彼らは『修羅』を通過点と考えた。そして、幼き頃から剣を習い続けてきたアスベルにも、その意味はよく解っていた。

 

 

「フ、フフ………面白い。その力、はったりではないことを証明してもらおうか!」

レーヴェは闘気を高める。そこから繰り出される技はおそらく、彼にとって最高の技。ならば、こちらも加減は要らない。

 

「………はああああああっ!!」

アスベルは二刀を構え、闘気を収束させる。今の自分にとって最高の技を放つために。

 

「受けてみよ……わが剣帝の一撃を……冥皇剣!」

Sクラフト――絶技・冥皇剣を放とうとした!レーヴェのSクラフトによって、アスベルを凍りつかせるかのように足元から氷が襲ったが、彼の闘気がそれを阻んだ。それには、レーヴェも少し驚くが、それをも介せず一撃を放つ。だが、アスベルの一撃……無防備状態からの『無意識の反射』から放たれる、彼の奥義の一つが炸裂する!

 

「御神流奥義之五……天竜!」

『貫』による一瞬の見極めから放つ『徹』による高速斬撃……相手は殺気を感じないまま斬られ、ほぼ回避不可能の技とされる御神流の奥義『天竜』がレーヴェに命中し、

 

「があああっ!?」

レーヴェは吹っ飛ばされ、アスベルの眼前に映るヴァレリア湖に落ちていった。

 

「ふぅ……って、大丈夫かな、あれ……」

敵対してるとはいえ、万が一死なれたら後味が悪すぎる……彼のしぶとさを祈りつつ、アスベルは踵を返してシルフィアのもとへと向かった。

 

「シルフィ、とりあえず俺らも宝物庫に行くぞ。」

「ん。了解かな。」

アスベルの言葉にシルフィアは頷き、エステルらの後を追った。

 

 




『理』と『修羅』に関してはオリジナル設定での考え方です。あと、『天帝』は『修羅』に関してのことを読んでいくうちに思いついたものです。

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