まぁ、師匠というものはある意味『人間離れ』してナンボですから。
機動武闘伝のアレといい、るろ剣のアレといいww
―グランセル城 中庭―
シオンからの申し出を受ける形で始まったアスベルとシオンの模擬戦。シオンのクラフトを次々といなすアスベルに対抗心を燃やし、シオンが放ったSクラフト“絶技ディバイン・クロスストーム”をアスベルはSクラフトすら使わず真正面から破ったという事実に、
「「………」」
シルフィアとクローゼは唖然とした表情で見つめ、
「なっ……」
審判をしていたユリアも驚きを隠せず、
「何……だと……」
シオンもどこぞの死神代行のような台詞を呟くほど驚愕の表情を浮かべていた。
「はぁ……はぁ……」
一方、アスベルは息を整えていた。ぶっつけ本番で転生前は普通に使えていた技法を使用したのだ。その代償は……感じられなかった。やはり、シルフィアと会ってから彼自身の中にある何かが目覚めたらしい。当の本人にはそういった力を感じたりすることなどは今のところないようだ。
「や、やるじゃねえか。だったら」
「やめないか、シオン」
「あたっ!!」
さらに食って掛かろうとしたシオンにチョップをかまして、中断させたのは先程女王陛下の部屋で別れたカシウスだった。これでは模擬戦どころではないと判断し、アスベルは刀を鞘におさめた。一方、シオンは頭を押さえつつ、納得がいかない様子でカシウスの方を睨んでいた。
「まったく、お前という奴は……あれだけ『あの技』をむやみやたらに使うな、と念を押したというのに。」
「だ、だって、クラフトが全然当たらないから……」
「それは言い訳にならん。ユリア、こいつのことはお前に任せる。」
「ハッ!大佐殿、弟が無礼なことをしてしまい、申し訳ありません。」
カシウスがため息混じりに呟いた言葉にシオンは文句を言うが、言い訳にならないとばっさり切り捨て、シオンを保護者的存在であるユリアに任せた。一方、ユリアは自分の義弟の振る舞いを詫びていた。
「気にするな。うちの娘もシオンほどではないが元気すぎるぐらいでな。」
「そうですよ、ユリア。それに、息子も同じぐらいの年頃はシオンのようにやんちゃな性格でしたから。」
「これは陛下……大変お御苦しいところをお見せしてしまいました。」
「気にはしていませんよ。子どもは元気なくらいがいいのですから。」
アリシアの言葉にユリアは申し訳なさそうに謝り、アリシアは笑みを浮かべて諭した。
「アスベル、怪我はない?」
「ん?ああ、何とかな。クローゼ、アレで本当にユリアさんと『互角』なのか?」
シルフィアが心配そうに声をかけ、何ともないとアスベルは答えた上でクローゼにシオンの事について尋ねた。10歳にも満たない歳でSクラフトを使うなんて、≪天才博士の孫≫や≪殲滅天使≫すら上回る技能の持ち主だ。それを破ったアスベルに『お前が言うな』と言われそうだなとシルフィアは内心思った。
「『あの技』抜きですとそうなりますね。ただ、カシウスさんは『アレ』を使っても勝てないみたいですけれど……」
その言葉に偽りはないのだろうが、つくづくカシウス・ブライトという存在がチートじみているのかを感じさせる言葉であったのには間違いない。“剣聖”の名に偽り無しということなのだろう。
「ただ、カシウスさんは『シオンは、あの歳で理の入り口に入りかかっている』みたいなことを言っていましたが。私には何が何やらという感じです。」
その言葉も事実だろう。それは対峙したアスベルがよく理解していた。
性格が激情的とはいえ、その剣筋は無駄のなき鋭いものだった。
いつから剣を習い始めたのかにもよるが、それを差し引いても闘気を放つほどの技巧と実力を伴っているのは確かなようだ。
「しかし、シオンのあの技を破るなんて……アスベルさんは、いつかカシウスさんに追いつけるかもしれませんね。」
「いつか、ねぇ。あの人、10年したらさらにチートじみてそうだけれど。」
「あはは……」
武に歳は関係ない。史実でも高齢でありながら前線で戦った人間もいるぐらいだ。
こちらが頑張ってもカシウスはさらに上の領域に踏み込みそうで怖いのだ。チート的な意味で。
「ん?(誰かの気配……?)」
その時、傍から視線を感じたアスベルは気配の感じる方に視線を向ける。
「おや?気配は殺していたのだが……成程、確かにカシウスの小僧の言うとおり、見どころのある少年だな。」
そこにいたのは青年の人間。だが、その鍛え上げられた無駄のない筋肉はその歳すら感じさせないほどの威風を感じさせると同時に、彼の微かな闘気だけでもかなりの数の修羅場を潜り抜けてきたという印象を強く受けた。
「これは師匠。お久しぶりです。それと、ご壮健の様子で何よりです。」
「久しぶりだな、カシウス。鍛練は怠っていないようだな。それに、わしはまだまだ現役だからのう。」
カシウスが青年に深々と頭を下げ、青年は笑顔で答えた。そう、この青年こそが『八葉一刀流』の師範にしてカシウスの師匠、ユン・カーファイである。信じられないことだが、どう見てもカシウスよりも年下の青年にしか見えない。その光景に唖然とするアスベル、シルフィアの二人。
(おいおい、どこぞの人斬りの師匠みたいなことになってるなんて想定外だぞ!?)
(あれでカシウスさんよりも年上なのよね……)
誰だって、この光景を見れば『ありえん』ということ間違いなしだろう。
武を極めた人は肉体年齢すら操れる………自然の摂理に喧嘩すら売っている状態だ。
「お久しぶりです、アリシア女王陛下」
「お久しぶりですね、ユンさん。相変わらず若々しいお姿で、羨ましいです。」
「何をおっしゃいますか。女王陛下も十分美しいですよ。」
「お世辞でも嬉しいですよ。」
一方、アリシアは何時もと変わりない様子でユンと会話を交わしていた。
顔見知りであることを除いても、その対応力には脱帽せざるを得ない。
「さて、アスベルと言ったな。実は、先程の戦いをこっそり見させてもらっていた。本当ならば今すぐにでも『(剣術を)習わないか?』と誘いたいところだ。ただ、滞在の手続きとかがあるから、明後日から始めようと思う。」
「宜しくお願いします、師匠」
「ああ。(フ……この分だと、全ての型を習得し、わしすらも超えていく存在になるのはそう遠くないかもしれないな。)」
ユンの誘いにアスベルは深々と頭を下げた。
それを見たユンは、アスベルがいずれ……いや、近い将来に己自身すらも超えた存在になりうると率直に感じた。
『ぎゃあああああああ!!』
場が落ち着いたその時、悲鳴が聞こえた。
「ユリアさん……」
「ま、あのバカには丁度いいお仕置きなんじゃないか?」
「バカって…身も蓋もないことを」
「ふふっ」
「ほほう、おもしろそうなことをしてそうな予感がするな。よし、わしも参加しよう。」
「やめてください、師匠……貴方が行くと碌なことにならないですので。」
遠くから聞こえたシオンの悲鳴にクローゼは苦笑し、アスベルは疲れた表情で呟き、シルフィアは引き攣った笑みで言い、アリシアは微笑み、面白そうだと行こうとしたユンに対して、ため息をついてカシウスは呟いた。
この日から2日後、アスベルの特訓が始まった。その特訓は熾烈を極めたものであったが、彼曰く『転生前のが地獄だった』というぐらい彼にとってはこれ以上ないぐらいの充実感を味わっていたらしい。そして………それから2か月後。
―七耀歴1192年6月初め ロレント郊外の森―
「―――うむ、上出来だ。」
「ありがとうございます、師匠。」
手合わせを終え互いに剣を鞘に納めると、先程の手合わせの手ごたえを率直に評価したユンの言葉にアスベルは感謝を述べた。
「資質があったとはいえ、まさか約2か月でものにしてしまうとはな……わしからは、これ以上教えることなどないくらいだ。」
「いえいえ、ご謙遜を。模擬戦では本気の師匠に一度でも勝てませんでしたし。」
「それはお主のもう一つの剣術を使用しない状態でのものだったからの。この前、シオンとかいう小僧との模擬戦で見せた『あの動き』すら使わずしてわしを追い詰めたということは立派な成長だ。そもそも、たった2か月で本気を出したわしの立場はどうなる……」
「あはは……」
この約2か月間、アスベルは『御神流』……『神速』や『刹那』を封印して闘っていた。
――この修行はあくまでも『八葉一刀流』のもの。そこに他の剣術の技法を使えば真っ当な修行になりえないと判断してのものだった。
だからこそ、八葉の技の習得に専念することができ、結果として短期間で八つの型の『皆伝』を習得するに至ったのは言うまでもないことだ。
(こやつならば、きっと『終の型』……そして、わしですら到達できなかった『零の領域』にいけるのやも知れぬな。)
謙遜するアスベルの言葉に、ユンは内心笑みを浮かべて彼の持つ才能がいずれ自身をも超える極みにたどり着けるのでは……そう感じていた。
「それに、わしも久々に楽しかったからの。そうだ、これをやろう。」
そう言って、アスベルに渡したのは一冊の本。かなりの年季が入っていることは見て取れるが、それに反して保存状態はものすごく綺麗だった。つまり、かなり重要なものを頂いたという形に、アスベルは驚きを隠せなかった。
「これは本……ですか?……!これって……」
「わしには必要ないものだ。」
渡されたのは八葉の秘伝書……後で聞いたが、この書はカシウスですら渡されていない代物だという。
「アスベル・フォストレイト、ただ今をもって八葉一刀流全の型皆伝を認めるものとする。そして、今後は八葉一刀流筆頭継承者の名を名乗ることを許す!」
「………ありがとうございました!!」
ユンの言葉に改めて決意を新たにし、その意志を感謝の言葉として返答した。
「そうだ、リベールには孫娘がいる。もし会えた時は友達になってやってほしい。」
「解りました。師匠は?」
「また気ままに世界を回る予定だ。では、カシウスによろしく伝えてくれ。」
「はい。師匠もお元気で」
こうして、アスベルは八葉一刀流を修めるに至った。全の型の皆伝……そのことを聞いたカシウスは驚愕の表情を浮かべ、シオンは『模擬戦やろうぜ』と言い詰めようとするがユリアに止められ、クローゼは苦笑していた。
その後も鍛練を欠かすことはなく、シルフィアと模擬戦を通して互いに己の力を高めていた。
≪百日戦役≫……その悲劇を出来るだけ止めるために。
ようやく出会い編完!!!
まだFC編まで3つイベントありますけれどねww
百日戦役編は残虐シーンが多くなるやもしれません……多分。