英雄伝説~紫炎の軌跡~   作:kelvin

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外伝 殲滅への序曲

~レイストン要塞~

 

時間的にはエステルらが去った後――そこの一室にアルバートとリシャール、カノーネとリアンがいた。

 

「博士。本当にありがとうございました。よくぞ、この『ゴスペル』の制御方法を突き止めてくださった。情報部を代表して感謝しますよ。」

「ふん……やはり貴様が黒幕じゃったか。情報部指令、リシャール大佐……たしか貴様もカシウスの元部下だったか?(カシウスとアスベルの予測通りじゃのう……)」

アルバートは憎々しげな表情でリシャールを見て、言った。

 

「おお、そういえば博士は彼と交友があったのでしたね。カシウス・ブライトの行方は我々も捜しているのですがいまだ突き止められなくてね。心当たりがあるのなら教えて頂きたいものですが……」

「知らん。知ったところで教えるものか。」

リシャールに尋ねられたアルバートは鼻をならして、答えた。

 

「フフ……まあいいでしょう。もし、この『ゴスペル』が彼の元に届けられていれば困ったことになっただろうが……今さら彼が現れたとしてもこの流れを止めることはできない。」

「『ゴスペル』とか言ったか……貴様ら、それを使って何をしでかすつもりじゃ?いや、そもそも……そんな得体のしれない代物をいったいどこから手に入れた?」

「ある筋からと申し上げておこう。我々の目的は……まあ、すぐに明らかになりますよ。それが分かった頃には博士を解放して差し上げますからそれまでゆっくりなさってください。」

「貴様らの悪事を知る者を平気で解放しようとするとは……よっぽど大それたマネをしでかすつもりらしいな?」

「ハハ、想像にお任せしよう。しかし事が成ったあかつきには個人的に、博士の研究を援助させていただくつもりです。新たな発明で、このリベールをより豊かにして頂くために、そしてゆくゆくは二大国すらも超える大国にするために………」

アルバートに尋ねられたリシャールは勝ち誇った笑みを浮かべて答えた後、アルバートに今後の協力を求めた。

 

「けっ、お断りじゃい。貴様らのような存在なんぞ、“あの御仁ら”からしてみれば目にもとまらん存在だ。無謀に挑んで、とっとと敗北と後悔を味わうがいい。」

博士はリシャールの要請を鼻を鳴らして否定して、悪態をついた。

 

「博士。あまり聞き分けのないことをおっしゃらないでくださいな。博士のお孫さんに万が一のことがあった時に助けてあげられませんわよ?」

博士の悪態の言葉を聞き、カノーネは不敵な笑みで答えた後、尋ねた。

 

「こ、小娘が……。またそれでわしを脅すか……!」

カノーネの脅しの言葉に博士はカノーネを睨んだ。

 

「やれやれ、カノーネ君。君の交渉のやり方は、いささか優雅さに欠けるのではないかね?」

「うふふ……失礼しました。」

「彼女は、どうも特殊なユーモアセンスの持ち主でね。誤解して欲しくないのですが我々はみな、国を憂える一介の軍人に過ぎないのです。民間人を巻き込むつもりは一切ないと誓っておきましょう。」

「憂国の士気取りか……そして、あらゆる導力現象を停止させる漆黒のオーブメント……なるほど、貴様らの目的、何となくじゃが見えてきたわい。」

「ほう……」

博士の言葉にリシャールは驚いて目を見開いた。そこにロランス少尉が部屋に入って来た。

 

「……失礼する。」

「あら少尉。大佐は博士とご歓談中なの。邪魔するものではなくってよ。」

「いや、構わんよ。ロランス君、報告したまえ。」

「王都(グランセル)で動きがありました。大佐の読み通り、白き翼が網にかかった模様です。」

「それはそれは……」

「フフ……。これでチェックメイトだな。それでは博士。我々はこれで失礼します。リアン少佐。博士が不自由のないように気を配ってくれたまえ。」

「は……了解しました。」

ロランスの報告にカノーネは不敵な笑みを浮かべた。カノーネと同じように不敵な笑みを浮かべたリシャールはリアンに指示した後、カノーネやロランスと共に部屋を出て行った。

 

「ラッセル博士……何か入用のものはありますか。大抵のものなら揃えさせますが。」

「ふん、結構じゃ。お前さんは、連中と違って骨のある男と思っておったが……どうやらわしの買いかぶりだったようじゃの。」

リアンに尋ねられたアルバートは鼻をならして、皮肉を言った。

 

「……恐縮です。博士は、ある反逆者によって誘拐されたことになっています。それを踏まえて頂ければお孫さんへの手紙など届けさせていただきますが……」

「早くわしの前から消えろ!」

皮肉を言われても気にせず、淡々と言うリアンの言葉に頭が来た博士は怒鳴った。

 

「……失礼します。」

そしてリアンも研究棟から出て行った。

 

 

「ふむ………こうまで予測通りとはの………笑いが止まらんわい。」

「やめてくださいよ、ラッセル博士。」

すべて『彼ら』の目論み通り……そう言ったアルバートの背後から現れた一人の少年……アスベル・フォストレイトの姿だった。

彼らは小声で必要なことを話した。

 

「(手筈通り、エステル達が助けに来る算段となっています。それまでは……)」

「(わかっておる。で、その後は?)」

「(アルセイユ級二番艦『シャルトルイゼ』……ラッセル博士に乗艦していただき、例の作業を進めてください。)」

「(解った。お主も気を付けてな。)」

「(はい)」

必要なことを話し終えると、アスベルは『ホロウスフィア』を展開し、気配も完全に消してその場を後にした。

 

 

~レイストン要塞~

 

リシャールらが飛行艇に乗ろうとした際、その異変に彼らは気付いた。なんと、全員が気絶させられていたのだ。

 

「!?これは……」

「やられている……一体誰が!?」

「……(どういうことだ。“紫刃”や“紅隼”、“那由多”すらいない状況で一体誰が!?)」

リシャールとカノーネはこの光景に驚き、ロランスはこの状況を冷静に分析しようとしつつも、内心は『彼ら』を上回る実力者の存在がここにいること自体考えられなかった。いや、ロランス……レーヴェはあの時に『彼ら』の存在――“光の剣匠”や“驚天の旅人”に気を取られていて、彼女らに気付いていなかった。

 

「ん、やっぱり来た。」

「みたいだね。」

「(なっ!?『彼女』が何故リベールにいる!?)」

飛行艇の陰から現れた二人の人物。その片割れにロランスは驚愕した。この国にいるはずのない人物――“絶槍”クルル・スヴェンドの存在に。そして、もう一人はフィー・クラウゼル……“猟兵王”から直々にその技を叩き込まれた“西風の妖精”。

 

「さて……おつきあい願おうかな!!」

「ぐうっ!?」

クルルはそう言って武器を構えると、ロランスをリシャールらから引き剥がした。

 

「少尉!」

「よそ見は、死を招くよ……シルフィード、ダンス!」

その様子を見たリシャールは声を上げて彼の方を見たが、その隙をフィーが逃す筈などなかった。彼女の超高速状態での斬撃、そして敵陣のど真ん中から周囲にありったけの銃撃を放つSクラフト『シルフィードダンス』がさく裂する!

 

「くっ!?」

「きゃあっ!?か、閣下……申し訳……」

リシャールは辛うじて刀を抜き何とか切り払ったが、カノーネは不意打ちを受けて気絶した。

 

「フ……誰の依頼かは知らないが、君程度で私に勝てるとでも?」

「ま、正攻法だと勝てないよね……私だけじゃないけれど。」

「何?」

リシャールは相手――フィーとの実力差を見切り、挑発も込めた言葉を放つがフィーはそれも理解した上で言葉を返した。自分はあくまでも『囮』である……その意味を込めて。その言葉にリシャールは首を傾げるが、そこに現れたもう一人の存在で全てを知ることとなる。

 

 

「そういうことですよ、アラン・リシャール大佐。」

「……何故君がここにいる、王国軍……アスベル・フォストレイト少将。」

「え?俺はアンタに指図を受けるだけの理由なんてないですからね。」

「馬鹿な!?ロランス少尉の報告では「エレボニア帝国に向かい、数か月は帰ってこれない、ですか?」!?」

リシャールが『少将』と呼んだ少年――アスベルの存在にリシャールはロランスの報告からすれば数か月は動きを拘束されて帰ってこれないはずだったことをアスベルに言われ、驚愕した。

 

………百日戦役後、俺とシルフィア、そしてレイアはアリシア女王より“王国軍”の階級を賜った。俺は少将、シルフィアは大佐、レイアは中佐……その理由は、国家権力に介入できる“星杯騎士”は、あくまでも裏向きでの存在。堂々と国家に対して働きかけるだけの地位を手にするため、百日戦役と教団事件に関わった。そして、軍の地位を手にした。“真に国を憂うもの”……良からぬ人物がリベールを危機に陥れないようにするために……

 

「尤も、今は本格的に罰するつもりなどありませんが……“前払い”も兼ねて、いきますよ。」

「……私を誰だと思っている。王国軍大佐、八葉一刀流五の型“残月”皆伝、アラン・リシャール。いざ参る。」

「はぁ……」

「どうした?怖気づいたか?」

「いや、情報部の癖に肝心な部分は調べてないんですね……」

まぁ、これは情報をひた隠しにしてきた俺自身の責任でもあるが、同じ王国軍にいながら何も調べていないとは……呆れたものだ……実際には、変な動きをしてた連中を問答無用で気絶させて記憶を改竄しまくったからだけれど。ロランスの手足として動いている連中も記憶を改竄しまくって、偽の情報を流している……アルセイユに関しても『ブラフ』であるのだ。

 

「どういう意味かな?」

「そのままの意味ですよ……リシャール大佐、俺の異名である“紫炎の剣聖”。その名は偽りでないことを教えてあげますよ。」

「!!(な、何だこの覇気は!?これが、少年の出す覇気だというのか!?)」

リシャールの問いかけにアスベルは不敵な笑みを浮かべ、太刀を抜いて闘気を高める。その覇気は空気を歪めるほどに密度が高まり、対峙しているリシャールは冷や汗が止まらない様子でその覇気に驚愕していた。

 

 

「リベール王国軍少将、八葉一刀流筆頭継承者“紫炎の剣聖”……アスベル・フォストレイト、参る!」

 

 

――八葉を極めた者同士……その戦いの幕が上がった。

 

 




突発的外伝です。ようやく本格的にオリ主人公登場です。

次回、玉ネギのみじん切り(マテw)

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