英雄伝説~紫炎の軌跡~   作:kelvin

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FC・SC第三章~福音の鐘は鳴らされた~
番外編 尖兵の心変わり


~ルーアン ラングランド大橋~

 

一人の男性――ラグナ・シルベスティーレは一人佇み、川に映る自分の姿を見ていた。風もない穏やかな夜。月明かりに照らされ、ラグナの姿をはっきりと映し出していた。

 

 

俺は、幼い頃に両親や兄妹……全てを奪われた。その後、猟兵団に拾われたが……引き受けた任務でその仲間が全滅し、団長も行方知れず……すべてに絶望していた時、あのオッサンが来て、こう言い放った。

 

『私の駒となれ。』

 

その言い方が気にならなかったわけではない……だが、全てを失ってしまった俺にしてみれば、それが『生きる術』だったのかもしれない。その言葉に従うまま、彼の言いなりとして生きてきた。俺は、鉄血の忠実なる僕……そう思っていた。

 

今から六年前の『あの日』までは……

 

 

~ジュライ市国~

 

七耀歴1196年……ラグナは任務を帯びてジュライ市国に来ていた。

 

「平和な国だな……」

俺に課せられたのは、市国の内情を把握して政府に……いや、“鉄血宰相”ギリアス・オズボーンにその仔細を伝える“連絡役”。そして、いつものように定時連絡を終え、市場をぶらりとしていた。

 

「こんな国に争いの兆候は無し……だな。」

今までの任務からすれば危険がかなり低いもの……このような国を帝国は如何様にしようというのか……この時ばかりは、自分の信じていたものを初めて疑ったのかもしれない。

 

大広場に出ると、デモの行進を見かけた。どうやら、不当な税のつり上げに対するデモだった。今まで様々な国を見てきたラグナには真っ当な反応に思えたし、この国でもデモは幾度となく見ていたので、ある意味普通の光景だった……だが、今日に限ってラグナはそのデモに参加する人の構成に“不自然さ”を感じた。

 

(おかしい……貴族の連中ならともかく、構成されている連中はどう見ても平民だぞ?)

ジュライ市国が打ち出したのは税制の不公平解消……累進課税制の導入だ。それから鑑みれば、反発するのは高所得層……だが、今日のデモに参加している顔ぶれは、前日までのデモ隊と同じ服を着ているが、その顔触れは低所得層の平民らしき人達……その税制による恩恵を受けるはずの彼らが反発する理由などないはずだ。

 

 

そして、ラグナの懸念は『最悪』の形での結果となった。なぜならば……デモ隊の中心らしき場所で突如光が発せられ、

 

 

「くっ!!!」

その光でラグナは何が起こるかを察し、急いで物影に飛び込んだ。

 

 

次の瞬間、デモ隊のいた場所で爆発が起きた。

 

 

「きゃああああああっ!?」

「に、逃げろー!!!」

突然の爆発で逃げ惑う人々、怪我を受けて蹲っている人……酷いものになると、もはや絶命しているとしか言いようがない状態の人まで……さながら『地獄絵図』だった。

 

「どういうことだよ……」

腑に落ちなさすぎる……ラグナはその光景に拳を強く握り、表情を強張らせていた。いつもと違う構成のデモ行進……その中心で起きた爆発……これはもう、誰かの陰謀としか考えようがない。そこに、本来デモをしていたはずの人たちがそこに現れた。

 

「なっ!?こ、これは……」

「我らのものと同じ……」

だが、ラグナを更なる衝撃が襲った。何と、騒ぎを聞きつけた帝国兵が爆発の惨状を見た後……本来のデモをしていたはずの人たちを取り囲んだ。

 

「こ、これは一体どういうことだ!?」

「我らはこの一件……自爆テロの事件の犯人を拘束するためだ。大人しくしてもらおうか。」

「そんな馬鹿な!?私たちは何も……!!」

「逆らうな!一人残らず連れていけ!!」

問答無用で連れて行かれる人々……その光景を見たラグナは、一つの推測に達する。

 

(こういうことかよ……!あのオッサン、自分の野望のために『芝居』をうったってことかよ……くそっ!!)

『鉄道網拡充政策』…オズボーンの掲げる領土拡張政策。問題の起きた国や自治州に対して迅速に軍を派遣し、自国の領土とする政策……実際には、裏で工作を行って混乱を起こし、力を以て実効的な支配を目論む……ラグナは、自分で意図することなく、その策略の片棒を担がされたということになる。

 

その後、ジュライ市国は帝国による鎮圧という名の“侵攻”を行い、ジュライ市国は帝国の直轄領……ジュライ特区へとその名を変え、市国の政府は解体された。ラグナはやりきれない気持ちを抱きつつも、それを押し殺して帝都ヘイムダルへと戻った。

 

 

~ヘイムダル バルフレイム宮:宰相執務室~

 

「ご苦労だったな、ラグナ。連絡役の任という大層な役を務めたお前の手腕、私も鼻が高い。」

「それはどうも。」

「ラグナ、閣下の前です!控えなさい!!」

ギリアスの言葉に虫唾が走るほどの嫌悪感を覚えつつ、適当に答えを返すラグナ。それを怒ったような口調で嗜めるクレアだった。だが、ギリアスはその言葉に笑みを浮かべて窘めた。

 

「構わん、クレア。こいつの口の悪さはアイツとタメを張るのでな。」

「あのバカ(レクター)ほど悪くはないつもりですが……で、俺はこのまま休暇ですか?」

「そう言いたかったが……リーゼロッテとリノアを連れてカルバードに向かえ。」

カルバード共和国……その国土面積はエレボニアと同等、軍事力に対しても対等の力を持ちうる……いわば『敵地』だ。

 

「おいおい……俺に敵地に向かえ、と?」

「そうではない……カシウス・ブライト。彼を調査しろ。」

ラグナもその名に聞き覚えがあった。元リベール王国軍大佐、現在はA級正遊撃士……百日戦役においてリベールを勝利に導いた『立役者』の一人……おそらくは、彼の武と叡智を見てこいと言うのだろう……その力を知っておくために……

 

「了解した。期限は?」

「彼がリベールに戻るまで、だな。」

ま、俺としても『個人的』に会ってみたい御仁の調査………リーゼロッテとリノアには悪いが、今回ばかりは色々独断的に行動させてもらうつもりだ。

 

そう思っていたんだがなぁ……

 

 

~カルバード首都 パルフィランス:パルフィランス駅前~

 

カルバード共和国首都、パルフィランス……その人口は90万人。エレボニアの帝都ヘイムダルですら80万人……その規模の大きさはヘイムダル以上だろう。立ち並ぶ建物は洋風や東方風……折衷とも言うべき建物の並び……移民を受けて入れている国でみられる光景に、

 

「すごいね、ここ!」

「まったくだわ。折角だから観光で来たかったけれど……」

リーゼロッテは感動し、リノアは呑気に呟いていた。一方、ラグナは頭を抱えた。

 

「つーか、何でお前ら此処にいるんだよ……俺は一人でいいと言ったんだが?」

「む~、ラグナってばそう言って無茶するんだから。」

「うっ……」

「リーゼロッテの言うとおり、ですよ。そんなに信用できませんか?」

そう言われて思い返してみる……何時も無茶と隣り合わせなだけに、否定できない。

 

「解った解った、俺の根負けだ。とりあえず、とっとと仕事を終わらせて休むぞ。」

「うん♪」

「了解。」

ここで言い合いをしたとしても、何の解決にもなりゃしない……そう結論付けて、ラグナは荷物を置くためにリーゼロッテとリノアを連れて宿へと向かった。

 

その後、カシウス・ブライトを見つけ、遠方から監視することにした。だが、向こうは巧みにこちらの視界から姿を隠す。気配にしても全く感じられない。リーゼロッテとリノアの追跡すら楽にかわす……こりゃ、間違いなく気づかれているな……そう思っていた矢先、休憩していた東方風のレストランで、

 

「失礼。席が空いていない様でな……相席しても構わないか?」

声をかけられた。その時に俺は察した。『この人は間違っても敵にしないほうがいい』と……何故って、気配の察知に優れてるはずのリーゼロッテの追跡すら逃れる御仁だ。そんなの相手にしたら俺の命がいくつあっても足りねえよ……

 

カシウスとの出会いは有意義なものだった。ただ、それ以上に『俺の妻や娘に手を出したら許さんからな♪』と言われたような威圧を放っていた……こんなの、報告書に書いたところで

 

『そんな非現実的なことを言わないでください。ふざけているんですか?』

 

とクレアにばっさり切り捨てられそうだな……レクターの奴だと『面白いオッサンだな』とか言って笑い転げそうだが……

 

 

俺は、帝都に帰還後……報告書をクレアに渡すと、ギリアスのおっさんに『辞表』を叩きつけて去った……そして……

 

 

~ルーアン ラングランド大橋~

 

「その俺が今や遊撃士……偶然とはいえ、カシウスのおっさんには感謝しないとな。」

「よしてくれ……そんな大層な人間ではないのだからな。」

しみじみと懐かしさを感じつつ、笑みを浮かべたラグナの言葉をむず痒そうに呟く、ラグナの隣にいる男性――カシウス・ブライトはそう言った。

 

「何を言ってるんだか……で、娘や息子に会わなくていいのか?」

「俺の役目は無事にグランセルに着いたアイツらを見極めること……尤も、エステルのしたことは俺ですら驚いたぞ。」

空賊事件での彼女の活躍、『近道』を通ってきたエステルの直感、正遊撃士以上のバイタリティ……そのどれもがカシウスを驚愕させた。彼曰く、『俺すら超えるのは、そう遠くない未来だな……』としみじみ感じたらしい。

 

「それと、今回の事でお前ら三人はA級に飛び級昇格だ。」

「……そんなんでいいんですか、遊撃士協会。」

「俺に聞くな。それは俺も思ったが……」

確固たる立場は失ったが、遊撃士という活動を通して、俺は……たくさんの『笑顔』を貰った。あの時の『自分』なき行動……それでは決して得られることの無い、心からの『感謝』を。そう言った意味では、俺もリーゼロッテもリノアも『救われた』のだろう。もっとも、俺らを遊撃士に誘った目の前の御仁は、笑って『そんな大層なことはしていない』と誤魔化すのは目に見えているが……

 

 

――なぁ、団長。アンタが今どこで何をしてるのか……生きているのかどうかは知らんが……俺は、後悔した生き方をしていない。猟兵としての自分も、『鉄血の子供達』としての自分も、遊撃士としての自分も………全て『ラグナ・シルベスティーレ』という俺自身の生き方だ。もし、アンタが生きて俺の『敵』となるのなら……

 

 

ラグナは静かに立ち上がり、月を見つめる。

 

 

――アンタを超えてやるさ。その結果が…どんな結果であってもな。

 

 




はい、てなわけで……ミリアム出そうか悩みましたが、5歳でアガートラム動かしたら狂喜乱舞だ……てなわけで、出演しませんでした。え?そんなこと言ったらリーゼロッテだって8歳………オズボーンはロリコン(オイッw)

ラグナは閃絡みで出てもらう予定です。外見イメージからして傭兵みたいなものですし……トヴァルと声がダブるな(中の人的な意味で)

あと、カルバードの首都名はオリジナルです。サミュエルで検索して英語・フランス語読みだとそうなるみたいなので……何をもじったのかは一発でばれますねw閃以降の軌跡シリーズで出てきて『違うじゃねーか!』というツッコミはなしでお願いします。

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