英雄伝説~紫炎の軌跡~   作:kelvin

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長くなっちゃいました……だが、私は謝らない。


史劇 白き花のマドリガル

~ジェニス王立学園 講堂~

 

衣装に着替えたエステルは舞台脇からそっと観客達の様子を見た。

 

「うっわ~……。めちゃめちゃ人がいる~。あう~、何だか緊張してきた。」

「大丈夫ですよ、エステルさん。あれだけ練習したんですから。」

「そうだね、いつも通りやれば失敗はないよ。」

用意されてある椅子が観客達によってほぼ全て埋まっているのを確認し、緊張しているエステルに同じように衣装に着替えたクロ―ゼやレイアが元気づけた。

 

「2人の言う通りだよ。それに劇が始まったら他のことは気にならなくなるさ。君って、1つの事にしか集中できないタイプだからね。」

「むっ、言ってくれるじゃない。でもまあ、そのカッコじゃ何言われても腹は立たないけど♪」

「全くですよ。威厳というよりも可愛さが勝ってますし」

「う………」

エステルはセシリア姫の衣装を着ているヨシュアを見て笑って答えた。まだ割りきれていないヨシュアはエステルとトワのからかう言葉に珍しく反撃できなかった。

 

「はいはい。痴話ゲンカはそのくらいで……今年の学園祭は大盛況よ。公爵だの市長だのお偉いさんがいるみたいだけど私たちが臆することはないわ。練習通りにやればいいとのこと。」

まぁ、それ以上のVIP……エレボニアの皇族までいるという事実は、ジルですら知らない事実だが。

 

「俺たち自身の手でここまで盛り上げてきた学園祭だ……。最後まで、根性入れて花を咲かせてやるとしようぜ!」

「「「「「「「「「「お~!!!!!!」」」」」」」」」」

ジルとハンスの言葉にエステル達は手を天井に上げて乗った。そしていよいよ劇『白き花のマドリガル』が開演した………!

 

劇が始まる音がなると講堂内は暗くなり、アナウンスが入った。

 

「……大変お待たせしました。ただ今より、生徒会が主催する史劇、『白き花のマドリガル』を上演します。皆様、最後までごゆっくりお楽しみください……」

 

「(今年は面白い趣とのことですが……楽しみですわ♪)」

「(全く……忍ぶ気あるの?)」

「(本当にオリヴァルト皇子が二人いるみたいだよ……)」

「(フフ……そういったところは、兄上そっくりですね。)」

「(……大丈夫なのだろうか。皇女殿下がいるなど知れたら、大騒ぎになるぞ。)」

「(やれやれ、彼女の性格はユーゲントや『彼』譲りのようだな。)」

2階から観覧するアルフィン、その隣に頭を抱えつつ何事も起きないよう念のために警戒するエリゼ、少し呆れつつも笑みを浮かべるセリカ、その隣でアルフィンの姿を見つつ自分の血族である人を思い浮かべるアリシア、『どうしてこうなった』と言わんばかりの表情を浮かべるラウラ、そしてその光景を微笑ましく見つめるヴィクターの五人は静かに劇が始まるのを待った。

 

 

しばらくすると語り手役のジルが出て来て、劇のあらすじを語り始めた。

 

 

『時は七耀暦1100年代……100年前のリベールではいまだ貴族制が残っていました。』

 

『一方、商人たちを中心とした平民勢力の台頭も著しく……貴族勢力と平民勢力の対立は日増しに激化していき、王家と教会による仲裁も功を奏しませんでした……。』

 

『そんな激動とも言える時代……時の国王が病で崩御されて一年が過ぎたくらいの頃。早春の晩、グランセル城の屋上にある空中庭園からこの物語が始まります……』

 

語り終わったジルは舞台脇に引き上げ、照明が舞台を照らした。そこにはヨシュア――セシリア姫が舞台の真中に立っていた。

 

 

「街の光は、人々の輝き……あの1つ1つにそれぞれの幸せがあるのですね。ああ、それなのにわたくしは……」

「姫様……。こんな所にいらっしゃいましたか。」

「そろそろお休みくださいませ。あまり夜更かしをされてはお身体に障りますわ。」

憂いの表情をしているセシリアに侍女たちが近付いて来て気遣った。

 

「いいのです。わたくしなど病にかかれば……そうすれば、このリベールの火種とならずに済むのですから。」

「まあ、どうかそんな事を仰らないでくださいまし!」

「姫様はリベールの至宝……。よき旦那様と結ばれて王国を統べる方なのですから。」

「わたくし、結婚などしません。亡きお父様の遺言とはいえこればかりはどうしても……」

セシリアは納得できかねる表情を浮かべつつも、未だ街の光が灯るグランセルを見つめ、言葉を紡いだ。

 

「どうしてでございますか?あのように立派な求婚者が2人もいらっしゃるのに……」

「1人は公爵家の嫡男にして近衛騎士副団長のユリウス様……」

「もう1人は、平民出身でありながら、帝国との紛争で目覚ましい功績を挙げられた猛将オスカー様……」

「「はあ~、どちらも素敵ですわ♪」」

侍女たちは声を揃えて憧れの声を出した。

 

「………彼らが素晴らしい人物であるのは、わたくしが一番良く知っています。そして、彼らの人となりも……」

セリフを言いながらセシリアは数歩前に出て、祈りの仕草をしてセリフを言った。

 

「ああ、オスカー、ユリウス……わたくしは……どちらを選べばいいのでしょう?」

 

すると、一人の小さき騎士であるトワ――チェスターはセシリアの姿を見つけ、歩み寄った。

 

「やはりこちらでしたか、姫様。夜空を眺めるのは良いですが……それ以上は敢えて申しません。」

「……貴方位です。私に結婚しろなどと迫らないのは。」

「貴方があの二人をよく知るように、私も同じぐらい……いえ、それ以上に貴方を知っております。そして、貴方が二人に対して抱いている気持ちを。」

自分はあくまでも姫を護るための騎士である……だが、同時に幼馴染ともいえるセシリアの気持ちは痛いほどわかっているのだと、チェスターはそう告げた。

 

「チェスター……貴方は、本当に私如きにはもったいない忠臣です。」

「私如きに勿体なきお言葉……私が願うのは、姫自らが選ばれる答えで得られる幸せのみです。“半端者”の私には、どちらを選べなどという資格などありませぬ……」

 

(まあ、あのお姫様は……ヨシュアさんではありませんか。それに、騎士はトワさんですか。ふふ、男女の配役が逆とは……。ジルもなかなか考えましたわね。)

(はい、お嬢様。ただヨシュア様やトワ様はともかく、他のメイドの方はちょっと……)

劇の配役の一部を見たメイベルは微笑み、リラは侍女役の男性達に眉をしかめた。そして舞台の人物が代わり、今度はエステル――紅騎士ユリウスとクロ―ゼ――蒼騎士オスカーが出て来た。

 

「覚えているか、オスカー?幼き日、棒切れを手にして、共にこの路地裏を駆け回った日々のことを。」

「ユリウス……忘れることができようか。君と、セシリア様と無邪気に過ごしたあの日々……今も昔もそしてこれからも……生涯において、かけがえのない自分の宝だ。」

「ふふ、あの時は驚いたものだ。お忍びで遊びに来ていたのが私だけではなかったとはな……」

「舞い散る桜のごとき可憐さ、清水のごとき潔さを備えた少女……セシリア様はまさに自分たちにとっての太陽だった。」

「だが、その輝きは日増しに翳りを帯びてきている。貴族勢力と平民勢力……両者の対立は避けられぬ所まで来ている。姫の嘆きも無理はない……」

「そして……。ああ、何という事だろう。その嘆きを深くしているのが他ならぬ我々の存在だとは……」

「2人とも、こんな所にいたか。」

「「師匠!!」」

語り合っているユリウスとオスカーの所にレイア――バージルが近付いて来た。

 

「ユリウス、公爵がお前を探していたぞ。」

「はっ……師匠の手を煩わせてしまい……申し訳ありません!」

「オスカー、お前も議長がお呼びだったぞ。」

「……申し訳ございません。すぐに参ります。」

バージルの言葉にユリウスとオスカーは敬礼して答えた。

 

「今、国は2つに分かれている。お前達がこうして顔を合わせ密談しているのはお前達にとってあまりいいことではないぞ。無論、お前たちの気持ちが解らないでもないが……」

「お言葉を返すようですが、師匠……我らは師匠の下でその剣を互いに磨き上げた身。同じ『弟子』同士が会話することに、何の不思議があるというのですか?」

「……その言葉に対して、一応理解はしておこう……」

ユリウスの言葉にバージルは目を閉じて静かにそう言い放つと、どこかへと去って行った。

 

(きゃあきゃあ!お姉ちゃんたちステキ!)

(く、悔しいけど……男よりも格好いいかも……)

(ふふ……。静かに見ましょうね)

(ほう……風格が感じられるのう!)

エステル達の登場に小声で騒いでいる子供達にテレサは優しく諭し、ジョセフは三人の演技に感心していた。

 

(あ……レイアですね。)

(ふむ、流石の風格だな。)

(あれで貴族ではないのですから、驚きですね。)

(まったくだな……あの佇まい。流石は“闘神”の娘だな。)

(フフ、あの人たち。中々面白そうですわね。あとで話を聞いてみたいものです。)

(姫様、やめてください……騒ぎでも起こす気ですか。)

レイアの登場にセリカが気付き、ラウラとアリシア、そしてヴィクターは風格漂うレイアの佇まいに感心し、アルフィンは演じている三人に話を聞いてみたいという好奇心がわき、エリゼは思わず止めに入った。

 

そしてまた舞台は変わり、貴族勢力筆頭の公爵とユリウスの会話の場面になった。

 

「ユリウスよ、判っておろうな。これ以上、平民どもの増長を許すわけにはいかんのだ。ましてや、我らが主と仰ぐ者が平民出身となった日には……。伝統あるリベールの権威は地に落ちるであろう。」

「お言葉ですが、父上……東に共和国が建国されてから既に10年ほどの年月が流れました。最早、平民勢力の台頭も時代の流れなのではないかと。」

厳かな口調で話す公爵にユリウスは歩み寄って答えた。

 

「おぞましいことを言うな!」

ユリウスの言葉に公爵は席を立って怒鳴った。

 

「何が自由か!何が平等か!高貴も下賤もひとまとめにして伝統を捨てるその浅ましさ。彼らに頭を下げるぐらいならば、帝国の軍門に下った方がはるかにマシと言うものよ!」

公爵はユリウスに詰め寄って怒鳴り続けた。

 

「父上!」

公爵の言葉にユリウスは信じられない表情で叫んだ。

 

 

「公爵の言う事ももっともだ。平民どもに付け上がらせたら伝統は失われるばかりだからな。」

(閣下……もう少し声を抑えめに……)

((…………………))

酔っているデュナンは劇の公爵の言葉に同意し、フィリップは慌てて諌めた。また、デュナンの言葉が聞こえたマリクとレヴァイスは眉をひそめていた。そして舞台はオスカーと平民派代表の議長との会話の場面になった。

 

「オスカー君。君には期待しているよ王家さえ味方に付けられれば貴族派を抑えることができる。そうすれば、我々平民派が名実ともに主導権を握れるのだ。」

議長は不敵な笑いをしながら言った。

 

「しかし、議長……自分は納得できません。このような政治の駆け引きにセシリア様を利用するなど……」

「フフ、なんとも無欲な事だな。いくら名目上の地位とはいえ王となるチャンスだというのに。君が拒否するというのであれば流血の革命が起きるというだけ……貴族はもちろん、王族の方々にも歴史の闇に消えて頂くだけのことだ。」

「議長!」

議長の言葉にオスカーは叫んだ。

 

(フム、大したものだな。時代考証もしっかりしている。)

(ふふ、生徒たち全員の努力のたまものでしょうな。それと協力をしてくれた若き遊撃士たちの……)

クラウスの評価する言葉にコリンズは微笑みながら頷いた。そして舞台はオスカー一人の場面になった。

 

「流血の革命……それだけは起こさせるわけにはいかない……しかし、ユリウスもセシリア様も死なせるわけにはいかない……自分は……いったいどうしたらいいんだ。」

悩むオスカーのところに酔っ払いが現れた。

 

「ういっく……。ううう……だめだ……気持ち悪い……」

「おっと、大丈夫か?あまり飲み過ぎるものではないな。いくら春とはいえこんな所で寝たら風邪を引くぞ。」

「うう……親切な騎士様……どうもありがとうごぜえますだ。」

「騎士様はやめてくれ……。自分は大した人物ではない。何をすべきかも判らずに道に迷うだけの未熟者だ……」

酔っ払いの感謝の言葉にオスカーは暗い表情で答えた。

 

「まったくその通りだな。」

「なに?」

その時、酔っ払いがオスカーの腕をナイフで切った。

 

「くっ、利き腕が……」

オスカーは切られた腕を抑えて一歩下がった。

 

「けけけ……。こいつには痺れ薬が塗ってある。大人しく観念してもらおうか。」

「貴様……。何者かに雇われた刺客か!?」

「あんたが目障りというさる高貴な方のご命令でなぁ。前払いも気前が良かったし、てめぇには死んでもらうぜっ!」

 

(なーるほど……なかなか見せてくれるじゃねえの。となるとこの次の展開は………いかんいかん。危うく仕事を忘れるとこだったぜ。)

劇を見ていたナイアルは生徒達の演技や話の作りの上手さに感心した後、記事の感想のためのメモをとり続けた。さらに舞台は変わりユリウスのセシリアへの求婚の場面に写った。

 

「久しぶりですね、姫。」

「ユリウス……本当に久しぶりです。今日は……オスカーと一緒ではないのですね。お父様がご存命だったころ……宮廷であなた達が談笑するさまは侍女たちの憧れの的でしたのに。」

「……姫もご存じのように王国は存亡の危機を迎えています。私と彼が親しくすることは最早、かなわぬものかと……」

「…………………………………………」

ユリウスの言葉にセシリアは目を伏せた。

 

「今日は姫に、あることをお願いしたく参上しました。」

「お願い……ですか?」

「私とオスカー……近衛騎士団長と若き猛将との決闘を許していただきたいのです。そして勝者には……姫の夫たる幸運をお与えください。」

「!!!」

ユリウスの求婚にセシリアは目を見開いた。

 

「………失礼します。」

そしてユリウスは一礼し、去った。

 

「………ああ、とうとうこの日が来てしまったのね……どうすれば………」

一人になったセシリアは悲哀の表情になった。

 

そして、セシリアが退場し、ユリウスとチェスターが出くわす場面に変わった。

 

「これは、ユリウス殿。オスカー殿と一緒ではなくおひとりとは……」

チェスターはユリウスの姿を見ると、会釈をした。

 

「相変わらずのようだな……止めようとしないのか?」

「私が止めたところで、貴方は決闘を止めようとはしない…良く知っておりますから。それに、たかが親衛騎士如きがどうにかできる問題ではないことも……」

今ここで力づくで止めたとしても……ベッドから抜け出してでも、決闘に行き、決着をつけようとするだろう……そのことを理解しているチェスターはそう言ってユリウスを止めようとはしなかった。

 

「………お前は、羨ましい奴だ。人としても、騎士としても……」

ユリウスはチェスターが、只の幼馴染……友でしかないチェスターが騎士としてセシリアを守っていることが羨ましく思え、小さな声ながらも出た言葉をかみしめるようにチェスターの横を通り過ぎ、その場を後にした。

 

そして、遠ざかっていくユリウスを見届けたチェスターは静かにその場で跪き、手を握り合わせて天を仰いだ。

 

「女神様よ、あの三人の行く末をどうか暖かく見守ってください……せめて、この結末が悲劇にならないことを切に願います。」

 

(にしても、貴族と平民の対立……歴史は繰り返す、か)

(当事者の国出身としては、返す言葉もないね……)

シオンとセリカは劇を見つつも、エレボニアが今抱えている問題はまさに、リベールが約100年前に通った道……歴史を顧みず、突き進もうとする大人たちの対立構図は、奇しくもこの『劇』の構図そのものなのかもしれない、と率直に感じた。

 

 

そしていよいよ劇『白き花のマドリガル』は終盤に差し掛かった………舞台の照明がいったん消えて、語り手のジルを照らした。

 

 

『貴族勢力と平民勢力の争いに巻き込まれるようにして……親友同士だった2人の騎士はついに決闘することになりました。』

 

『彼らの決意を悟った姫はもはや何も言えませんでした。』

 

『そして決闘の日……王都の王立競技場に2人の騎士の姿がありました。』

 

『貴族、平民、中立勢力など大勢の人々が見届ける中……。セシリア姫の姿だけがそこには見られませんでした。』

 

語り終わったジルはまた舞台脇に引き上げ、照明が舞台を照らした。そこにはたくさんの人物達がユリウスとオスカー、そして審判役のバージルを見ていた。

 

「我が友よ、こうなれば是非もない……我々は、いつか雌雄を決する運命にあったのだ。抜け!互いの背負うもののために!何よりも愛しき姫のために!」

ユリウスは、レイピアを抜いて力強くセリフを言った。

 

「運命とは自らの手で切り拓くもの……背負うべき立場も姫の微笑みも、今は遠い……」

オスカーは辛そうな表情でセリフを言い、剣も抜かず立ち尽くした。

 

「この期に及んで臆したか、オスカー!」

「だが、この身に駆け抜ける狂おしいまでの情熱は何だ?自分もまた、本気になった君と戦いたくて仕方ないらしい……どうやら、自分も騎士という性分には勝てないということのようだ。」

自分を叱るユリウスに答えるかのように、オスカーはレイピアを抜いて構えた。

 

「革命という名の猛き嵐が全てを呑み込むその前に……剣をもって、運命を決するべし!」

オスカーがレイピアを構え、それを見たユリウスも構えた。

 

「その信念、その結果は如何にあろうとも、我らが称える女神様は静かに照覧されるであろう……互いに覚悟は決まったようだな………2人とも、用意はいいな!?」

ユリウスとオスカーの間にいたバージルがセリフを言いながら、片手を天井に向けて上げ、ユリウスとオスカーの顔を順番に見た。

 

「はっ!」

「応!」

「それでは………始めっ!」

 

バージルの声と動作を合図にユリウスとオスカーは剣を交えた。2人は攻撃しては防御し、お互いの隙を狙って攻撃したがどちらの攻撃もレイピアで防御され一撃が入らなかった。

 

(……ほう。かの『剣聖』の娘だけあって中々筋がいいな。得意な武器でないにも関わらずあそこまで動けるとは……。それにあの蒼騎士役をしている少女も中々の筋のようだな。)

ヴィクターはエステルの剣技に感心した後、その相手役を務めているクローゼの剣筋もそれなりのものであると感心した。

 

「やるな、ユリウス……」

「それはこちらの台詞だ。だが、どうやら……いまだ迷いがあるようだな!」

2人は剣を交えながら語った。そしてユリウスが連続で攻撃を仕掛け、オスカーは攻撃を防ぐのに精一杯で反撃ができなかった。

 

「くっ……おおおおおおおおおっ!」

オスカーは雄叫びを上げて何度も攻撃したが回避されたり、レイピアで防がれた。

 

「さすがだユリウス……なんと華麗な剣捌きな事か。く……」

「オスカー、お前……腕にケガをしているのか!?」

利き腕を抑えたオスカーにユリウスは不審に思った後、ある事に気付き叫んだ。

 

「問題ない……カスリ傷だ。」

「いまだ我々の剣は互いを傷つけていない筈……ま、まさか決闘の前に……」

強がるオスカーにユリウスは信じられない表情をした。その時控えていた議長が公爵に抗議した。

 

「卑怯だぞ、公爵!貴公のはかりごとか!?」

「ふふふ……言いがかりは止めてもらおうか。私の差し金という証拠はあるのか?」

議長の抗議の言葉に公爵は余裕の笑みを浮かべて答えた。

 

「父上……何ということを……!」

「いいのだ、ユリウス。これも自分の未熟さが招いた事。それにこの程度のケガ、戦場では当たり前のことだろう?」

「………………………………」

怒りを抑えているユリウスにオスカーは微笑みながら諭した。オスカーの微笑みを見たユリウスはかける言葉がなかった。

 

「次の一撃で全てを決しよう。自分は……君を殺すつもりで行く。」

「オスカー、お前……わかった。私も次の一撃に全てを賭ける。」

オスカーの決意にユリウスは静かに答えた。そして2人は同時に後ろに飛び退いてレイピアを試合前の構えにした。

 

「更なる生と、姫君の笑顔。そして王国の未来さえも……生き残った者が全ての責任を背負うのだ。」

「そして敗れた者は魂となって見守っていく……それもまた騎士の誇りだろう。」

ユリウスの言葉にオスカーは頷いた。

 

「ふふ、違いない………………………………」

「………………………………」

そして2人は互いに目を閉じた後同時に目を見開いて力を溜めた。

 

「はあああああー!」

「おおおおおおー!」

「「ハァッ!!」」

力を溜めた2人は両者同時に仕掛けた。その時

 

「だめ――――――――――――っ!!」

セシリアが間に入った。

 

「あ……」

「…………姫…………?」

「セ…………シリア……?」

2人の最後の一撃を受けてしまったセシリアは体をくずした。セシリアに気付いた2人は信じられない表情をした後、セシリアに駆け寄った。

 

「ひ、姫――――――ッ!」

「セシリア、どうして……。君は欠席していたはずでは……それにこの決闘場には私達以外入らない用、兵達が封鎖していたのに……」

セシリアの体を支えながら語りかけるオスカーにセシリアは優しく笑って答えた。

 

「よ、よかった……。オスカー、ユリウス……あなたたちの決闘なんて見たくありませんでしたが……。どうしても心配で……戦うのを止めて欲しくて……。ああ、間に合ってよかった……チェスター……私の願い……聞いてくれて……感謝します……」

「セシリア……様……」

セシリアのために兵達を気絶させたチェスターが悲しそうな表情でセシリアを見た。

 

「セシリア……」

「ひ、姫……」

ユリウスとオスカーはセシリアにかける言葉がなかった。そしてセシリアは傷ついた体でその場にいる全員に語った。

 

「皆も……聞いてください……わたくしに免じて……どうか争いは止めてください。皆……リベールの地を愛する大切な……仲間ではありませんか。ただ……少しばかり……愛し方が違っただけのこと。手を取り合えば……必ず分かり合えるはずです……」

「お、王女殿下……」

「もう……それ以上は仰いますな……」

セシリアの言葉に公爵と議長は膝を折った。

 

「ああ……目がかすんで……ねえ……2人とも……そこに……いますか……?」

「はい……」

「君の側にいる……」

ユリウスとオスカーはセシリアの手を握った。

 

「不思議……あの風景が浮かんできます……。幼い頃……お城を抜け出して遊びに行った……路地裏の……。オスカーも……ユリウスも……あんなに楽しそうに笑って……。わたくしは……2人の笑顔が……だいすき……。だ……から……どうか……。……いつも……笑って……いて……。………………………………」

そしてセシリアは幸せそうな表情で力尽きたようにセシリアの腕から力が抜けた。

 

「姫……?嘘でしょう、姫!頼むから嘘だと言ってくれええ!」

「セシリア……自分は……。………………………………」

ユリウスはセシリアの身体を何度も揺すって呼びかけ、オスカーはセシリアの身体を抱きしめた。

 

「姫様、おかわいそうに……」

「ああ、どうしてこんな事に……」

侍女たちは顔を伏せて悲しんだ。

 

「私は結局何もできず、姫の命をお守りすることすらできなかった………自分が情けない……!騎士失格だ……!」

バージルは無念そうな表情で悲しんだ。

 

「殿下は命を捨ててまで我々の争いをお止めになった。その気高さと較べたら……貴族の誇りなど如何ほどの物か……そもそも我々が争わなければこんな事にならなかったのに……」

「人は、いつも手遅れになってから己の過ちに気がつくもの。これも魂と肉体に縛られた人の子としての宿命か……エイドスよ、お恨み申し上げますぞ……」

自分達の今までの行動でセシリアを苦しめた事を反省する公爵に同意した議長は空に向かって呟いた。

 

「まだ……判っていないようですね。」

その時、空が明るく照らし出され、光が出た。

 

「……確かに私はあなたたちに器としての肉体を与えました。しかし、人の子の魂はもっと気高く自由であれるはず。それをおとしめているのは他ならぬ、あなたたち自身です。」

「ま、眩しい……」

「何て綺麗な声……」

「おお……なんたること!方々、畏れ多くも空の女神(エイドス)が降臨なさいましたぞ!」

見守っている貴族の娘達は感動し、王都の司教が叫んだ。また、ユリウスとオスカーを除いたその場にいる全ての者達が空を見上げた。

 

「これが女神……」

「なんという神々しさだ……」

ユリウスとオスカーも空を見上げた。

 

「若き騎士たちよ。あなたたちの勝負、私も見させてもらいました。なかなかの勇壮さでしたが……肝心なものが欠けていましたね。」

「仰るとおりです……」

「全ては自分たちの未熟さが招いたこと……」

女神の言葉にユリウスとオスカーは無念そうに語った。

 

「議長よ……。あなたは、身分を憎むあまり貴族や王族が、同じ人である事を忘れてはいませんでしたか?」

「……面目次第もありません。」

「そして公爵よ……。あなたの罪は、あなた自身が一番良く判っているはずですね?」

「………………………………」

女神であるエイドスの言葉を受けた2人は自戒した。

 

「そして、今回の事態を傍観するだけだった者たち……。あなたたちもまた大切なものがかけていたはず。胸に手を当てて考えてごらんなさい。」

「「「「「「………………………………」」」」」

侍女や貴族、その場にいる全員が黙って考え込んだ。

 

「ふふ、それぞれの心に思い当たる所があるようですね。ならば、リベールにはまだ未来が残されているでしょう。今日という日のことを決して忘れる事がないように……」

そして空の女神の光は消えて行った。

 

「ああ……」

「消えてしまわれた……」

「…………ん……」

空の女神がいなくなった事に肩を落とした侍女たちだったが、その時セシリアが声を出し起き上がった。

 

「あら……ここは…………」

「ひ、姫!?」

「セシリア!?」

「セシリア……様……!」

目覚めたセシリアにユリウスとオスカーは驚いた表情で呼びかけ、チェスターはセシリアに駆け寄った。

 

「まあ……ユリウス、オスカー……それにチェスターも。まさか、あなたたちまで天国に来てしまったのですか?」

「「「「………………」」」」

セシリア以外は驚いて言葉が出なかった。

 

「こ、これは……。これは紛う方なき奇跡ですぞ!」

セシリアが生き返った事に司教は驚愕した。そして侍女たちがセシリアに駆け寄った。

 

「姫様~!」

「本当に、本当に良かった!!」

「きゃっ……。どうしたのです2人とも……あら……公爵……議長までも……わたくし……死んだはずでは……」

「おお、女神(エイドス)よ!よくぞリベールの至宝を我らにお返しくださった!」

「大いなる慈悲に感謝しますぞ!」

公爵と議長は天を仰いだ。

 

「オスカー、ユリウス……。あの……どうなっているんでしょう?」

自分だけ事情がわかっていないセシリアは2人に尋ねた。

 

「セシリア様……もう心配することはありません。永きに渡る対立は終わり……全てが良い方向に流れるでしょう。」

「甘いな、オスカー。我々の勝負の決着はまだ付いていないはずだろう?」

「ユリウス……」

「そんな……。まだ戦うというのですか?」

また決闘をしそうな言葉を聞いたセシリアは不安そうな表情をした。そしてユリウスは静かに首を横に振って語った。

 

「いえ……。今回の勝負はここまでです。何せ、そこにいる大馬鹿者が利き腕をケガしておりますゆえ。しかし、決闘騒ぎまで起こして勝者がいないのも恰好が付かない。ならば、ハンデを乗り越えて互角の勝負をした者に勝利を!」

「待て、ユリウス!」

「勘違いするな、オスカー。姫をあきらめたわけではないぞ。お前の傷が癒えたら、今度は木剣で決着をつけようではないか。幼き日のように、心ゆくまでな。」

「そうか……。ふふ……わかった、受けて立とう。」

ユリウスの言葉に驚いたオスカーだったが、不敵な笑みを浮かべて答えたユリウスに微笑んで頷いた。

 

「もう、2人とも……。わたくしの意見は無視ですか?チェスター、貴方からも何か言ってください。」

「姫様……そういうのを無茶ぶりというのですよ……」

「ひ、姫……そういうわけではありませんが……」

「ですが、姫……今日の所は勝者へのキスを。皆がそれを期待しております。」

「……わかりました。」

そしてセシリアがオスカーに近付き、キスをした。

 

「きゃあきゃあ♪」

「お2人ともお似合いです♪」

侍女たちはセシリアのキスしているところをはやしたてた。

 

「空の女神(エイドス)も照覧あれ!今日という良き日がいつまでも続きますように!」

「リベールに永遠の平和を!」

「リベールに永遠の栄光を!」

「リベールに永遠の誇りを!」

ユリウスが叫んだ後、公爵や議長、バージルがそれぞれ叫んだ。

これで劇も無事閉幕かと思われた……

 

 




てなわけで……ほぼ原作準拠……観客が原作ブレイクですがw

ダルモアいない代わりに結構VIPクラスがちらほら……ヴィクターの妻であるアリシアですが、その正体は次々回以降で明かす予定ですw

主要観客(役職付は省略):シオン、セリカ、ラウラ、アリシア、ヴィクター、マリク、レヴァイス、クルル、フィー、アルフィン、エリゼ、デュナン、フィリップ、メイベル、リラ、クラウス、コリンズ、ナイアル、テレサ、ジョセフ、孤児院の子どもたち

……まぁ、まだいるんですけれどねw

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