英雄伝説~紫炎の軌跡~   作:kelvin

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第43話 ジェニス王立学園祭

まちに待った学園祭の開始時間になると、劇が始まる時間になるまでレイアはトワと共に学園を廻って楽しみ、エステルはヨシュアとクロ―ゼ、そしてシオンと共に学園を廻っていた。

 

~ジェニス王立学園2階 社会教育課程教室~

 

この教室では、喫茶店を開いていた。何でも、接客を通して話術…コミュニケーション能力を磨くという目的で行っているが、それ以上にここで出されるコーヒーの特徴的な香りは食欲を掻き立て、スイーツ類は目を見開くほどの絢爛さを彩るのに十分なアクセントになっていた。そこには……

 

「ふふ、宮にいたときは紅茶ばかりでしたが、コーヒーも中々いいものですわね。」

「よく飲めますね……私には無理ですよ。」

砂糖が入っているものの、それをすんなりと口に運んでは余韻を楽しむアルフィン。そして、その光景に驚き半分羨ましさ半分の表情を浮かべ、疲れた表情を浮かべるエリゼの姿だった。

 

「こ~ら、エリゼ。折角のお祭りなのですよ?楽しまなければ損ですわ。それに、言葉遣いも、ね。」

「はぁ……アルフィンてば、自分の立場を分かってるの?」

お忍びとはいえ、かつて戦争を仕掛けた『敗戦国』……その皇族が、侵攻した相手の国にいること自体知られてはまずい。ばれれば一大スクープものだ。

 

「無論わかっていますわ。ですが、お兄様もこう言っていました。『楽しめるときに楽しむことは罪ではない』……私はそれを実行しているだけですから♪」

「……(ミュラーさんが苦労しているのも、無理ないかな)」

アルフィンの言葉に彼女の兄のお付きであるミュラーの苦労が少しわかるような気がして、内心ため息をついた。

 

「……」

「どうかされましたか、お嬢様?」

「何でもないわ、リラ(見覚えのあるような方だった気が……気のせいね)」

その光景を離れた席から見ていたメイベルだったが、リラの問いかけに対して何もなかったかのように取り繕った。そうだ……10年経った今でも関係が気まずい国の皇族がここにいるはずなどないのだと……

 

 

~同階 国風文化教育課程教室~

 

同じ階にあるこの教室では、リベールに関する歴史の展示発表を行っていた。エステルらが来ると、見慣れた人物がおり…その人物もエステルらに気付いて声をかけた。

 

「おや、エステルさんたちではないですか。」

「こんにちは。また会ったね、アルバ教授。」

「お久しぶりです。今日は何故?」

「いや、塔の調査は続けているのですが、今日は学園祭と聞きまして、息抜きでこちらに来たのですよ。」

「相変わらずの塔マニアっぷりね……」

アルバのあいさつにエステルも挨拶を交わし、ヨシュアも会釈をしてここにいる理由を聞くと、息抜きということで答えたアルバに、エステルは塔の調査への一途っぷりに目を見張るような感じで呟いた。

 

「おや、そちらの御嬢さんは……成程、この学校の生徒さんですか。」

「はじめまして、クローゼ・リンツといいます。」

「シオン・シュバルツだ。」

「アルバと言います。専門は歴史分野でして、この国の歴史を調べるために旅をしています。エステルさんらとは護衛の関係でお世話になりました。」

アルバはエステルらの後ろにいるクローゼとシオンの姿を見て、制服でこの学園の生徒だと判断し、自己紹介も兼ねた挨拶を交わした。

 

「そういえば、エステルさん達はどうして学園祭に?もしかして、警備のお仕事ですか?」

「今回は違うわよ。あたしたち、劇に出るのよ。」

「おや、それは興味深いですね……時間があれば見に行きたかったのですが」

ふと、遊撃士であるエステルらがここにいる理由が気になり、エステルに尋ねると、アルバ教授は興味ありげな表情で呟くが、少しすると残念そうな表情を浮かべた。

 

「ん?何かあるの?」

「ええ。これからすぐに『紺青の塔』に向かわなければいけないのです。暗くなれば魔獣に襲撃されかねませんから。」

「相変わらずね……」

「でも、理に適ってますね……気を付けてくださいね。」

「ええ。お二人は私の分までいっぱい楽しんでくださいね。」

そう言うと、アルバ教授は軽く会釈をして教室を後にした。

 

「アルバ教授ねぇ……護衛も付けずに一人旅だなんて、よく出来るよ。(アイツか……『使徒』第三柱“白面”……)」

「まったくよね。その根性には敬意を表したいわ。」

シオンの呟きにエステルも同調するように頷いた。

 

「つーか、あんな偏屈といつ知り合ったんだ?」

「偏屈って……僕らがロレントにいた時、たまたま護衛することになったんだ。」

そう言って、ヨシュアがアルバ教授との関わり……ロレントにいた時、『翡翠の塔』を調査していた教授と出くわし、護衛にすることになったらしい。あと、ボースでの調査の際にも再会し、『琥珀の塔』の調査をしていたと言っていたとのことだ。

 

「何か気になったの?」

「いや……それよりも、ヨシュアのお姫様姿が楽しみになって来たな。」

「頼むから、それを言わないで……」

「あはは……」

その後、私服の親衛隊員とフィリップを伴ったデュナン公爵の姿を見かけたが、余計な事には関わらないほうが賢明……ということで、他の場所を回ることにした。

 

 

~3階 導力教育課程教室~

 

この教室では、ZCFから機材を借り、擬似的な身体能力測定を行える体験コーナーが開かれていた。また、現在最新鋭の戦術オーブメントのレプリカ展示やこれから販売予定の導力製品見本なども飾られていた。

その体験コーナーの一角にある導力ハンマーゲーム……振り下ろしの威力を測るマシーンでは、ある意味限界まで挑戦した『驚愕の事実』が起きていた。

 

「あらあら、凄いですね。最近の子は。」

微笑ましく見つめるアリシアの視線の先には……

 

「ふう………ハンマーって重いね。」

トワの記録は0.7トリム……700kg。この時点で女子とは思えないほどのレベルだ。

 

「む……やはり、難しいものだな。」

そう言ったラウラの最高記録は0.8トリム……800kg。これは、鍛えている一般男性が出すレベルのものだ。

 

「だよね……」

そう同調するセリカの最高記録は0.95トリム……950kg。一般の軍人レベル。

 

「ふふ、中々やるではないか……」

ヴィクターの最高記録は6.2トリム……6200kg。チート。

 

 

だが、それすらも上回った人間がいる……いや、人間と言っていいのかどうかわからないが……

 

 

「……納得いかない。私だって女子なんだけれど。」

そう言い放ったのはレイア。その記録は……

 

 

『11.8トリム』……11800kg。

 

 

もはや人間が出す記録ではない。よくハンマーや機械……ひいては校舎が壊れなかったと思う………後にこれは伝説となり、レイアの記録は『絶対不可能の上限値』とされることとなった。当の本人はものすごく納得できないと抗議していたが……

 

 

~同階 士官教育課程教室~

 

同じ3階にある士官教育課程の教室では、レストラン……なんと、リベール王国軍の食事を振る舞うというものだ。普通の軍であれば見た目が悪く、無骨かつ保存のきいたものがメインなのだが、ここでは手軽かつ美味しい料理を振る舞っていた。

 

「ふむ、美味い。軍の料理とは思えないな……そこらの高級レストランと言われても遜色ないな。」

「まったくだな。できればレシピを貰って、うちの部隊も導入してみるか。」

そう言って料理を味わっているのは、レヴァイスとマリクの二人。

 

「これが軍の食事……とてもじゃないけれど、そうは見えないよね。」

「それがリベールらしさってところかな。」

そう言って味わうフィーとクルル。傍から見れば普通の親子連れの二組……その実態は猟兵団の団長とその実力者……しかも、最大勢力の『西風の旅団』や『翡翠の刃』ということを知ったら、騒動ものだろう。

 

「にしても、お前さんがあの姫さんの護衛とは……」

「ま、向こうの意向って奴さ。お前だってあの方々を連れてきたわけだしな。」

「ハッハッハ……」

「クックック……」

「正直、馬鹿ばっか…」

「フ、フィーちゃん……」

後のゼムリアを変えることになりうる存在……猟兵団の二人が祭りで親交を深めたなどと、誰が聞いたとしても『ありえない』光景だった……

 

エステル達はボース市長のメイベルやロレント市長のクラウスらと会話した後、1階に下りると孤児院の子どもたちと会った。

 

 

~1階 正面玄関~

 

「あっ、姉ちゃんたち!」

クラムの声に気付いたエステル達は孤児院の子供達に近づいた。

「みんな……。来てくれたのね!」

クラム達を見てクロ―ゼは嬉しそうに答えた。

 

「ふふ……。テレサ先生と一緒に来たの?」

一方ヨシュアといっしょにクラム達の相手をしていたクロ―ゼは微笑みながら尋ねた。

 

「うん、そこで他の人と話をしてたけど……。あ、来た来た♪」

クラムは笑顔で後ろに向いた。そしてテレサがエステル達のところに近付いた。

 

「ふふ、こんにちは。」

「あ、テレサ先生!」

「先生……こんにちは。」

「今日は招待してくれて本当にありがとうね。子供たちと一緒に楽しませてもらってますよ。」

テレサは笑顔でエステル達に学園祭に招待してもらったお礼を言った。そこにクラムとマリィが期待した目でクロ―ゼに尋ねた。

 

「なあ、クローゼ姉ちゃん。姉ちゃんが出る劇っていつぐらいに始まるのさ?」

「あたしたち、すっごく楽しみにしてるんだから♪」

「そうね……まだ、ちょっとかかるかな。ちなみに、私だけじゃなくてエステルさんたちも出演するのよ?」

「ほんと?わあ、すっごく楽しみ~!」

「ヨシュアちゃん、どんな役で出るのー?」

「えっと……何て言ったらいいのか……」

ポーリィの質問にヨシュアは言葉を濁した。

 

「ねえ、みんな。劇の衣装、見たくない?綺麗なドレスとか騎士装束がいっぱいあるよ。」

「綺麗なドレス!?」

「騎士しょーぞく!?」

話を変えるためにヨシュアは子供達に提案し、クラムやマリィが誰よりも早く期待した目で反応した。

 

「ふふ……興味があるみたいだね。それじゃあ特別に劇の前に見せてあげるよ。」

「やったぁ!」

「ポーリィもいくー。」

(舞台の控え室にいるからあとからゆっくり来てよ。)

エステル達に小声で耳打ちしたヨシュアは子供達を講堂に連れて行った。

 

「ふふ、ヨシュアさんは本当に気が利く子ですね。」

「あはは……すっかり、立ち直ったみたいね。」

「ええ、お陰様で。」

「ああ、まったくだな……」

「え……」

テレサの言葉に少し苦笑しつつも、エステルは子供たちの様子を見て、事件の影響は少なくとも感じられなかったように見えた。下手をすればトラウマになりかねないものだっただけに、安堵の表情を浮かべた。そして、テレサの後ろから現れた男性……クローゼはその男性の姿を見て驚きの表情を浮かべた。

 

「久しいな、クローゼ。十年ぶりだな。」

「おじさん!?いつ戻ってきたのですか!?」

「昨日の夕方にな。襲撃されたと聞いたときは本当に寿命が縮んだぞ……」

「えと、この人がクローゼの言っていた?」

「ふむ……クローゼと変わらない歳で遊撃士とは……おっと、わしはジョセフ。マーシア孤児院の主みたいなものだ。まぁ、ほとんどテレサに任せきりだったから、頭が上がらん……」

「エステルよ。よろしくね、ジョセフさん。」

「シオンだ。クローゼ共々孤児院にはよく遊びに行っているよ。」

その男性――ジョセフは綺麗に成長したクローゼを我が子のように見つめ、エステルの姿…遊撃士の紋章を見て、感心しつつも自己紹介をした。

 

「そんなことはありませんよ、あなた。あなたが生きていてくれたから、私は頑張れたのですから。」

「……女神様よ、わしを生き永らえさせてくれたことに感謝します。」

「「あはは……」」

「その、よかったです。」

神々しいオーラが見えそうなほどに慈愛の心を込めたようなテレサの言葉……それに対して崇めるかのように目をつぶり、胸に握り拳を当てて祈るように呟いたジョセフ……それにはエステルやシオンも笑うしかなく、クローゼは目を潤せながらも、彼と会えたことに感謝の気持ちでいっぱいだった。

 

「それはわしもだ。ところで、そこの嬢ちゃん……ひょっとして、レナの娘さんか?」

「へ?母さんの知り合い?」

「何を隠そう、カシウスの奴とレナの仲人じゃからな。」

「あ、あんですって~!?」

世界は狭い……二人の仲人に会えたことに、エステルは驚いた。

 

「おじさんが!?」

「ああ……カシウスの奴、かなりの鈍感でな。それはもう、いろんな女性を無自覚に惹きつけておったからのう……レナの奴も、相当苦労したんじゃよ。」

「…………(何と言うか、そんな感じは微塵にも感じなかったけれど……)」

クローゼはジョセフの語った事実に驚き、ジョセフはカシウスの過去の一端――無自覚の『女泣かせ』だったことを明かし、今では、妻であるレナ一筋の父親からすれば、見る影もない昔の姿に唖然とした表情を浮かべたエステルだった。

 

「さてと……あの子たちの後を追いますか。ヨシュアさん1人に任せておくわけにはいきませんからね。」

「えと、そうね……」

そしてエステル達は講堂の楽屋に向かったが、子供達だけがいてヨシュアはポーリィの銀髪の青年を見たという発言を聞くと、目を丸くした後出て行った事を聞き、心配になったエステルは子供達の事はテレサに任せ、クロ―ゼと共にヨシュアを探した。

 

 

~ジェニス王立学園 旧校舎~

 

「おかしいな……確かに気配があったはずなのに…………でも、まさか……」

旧校舎の屋上でヨシュアは立ち尽くし、独り言を呟いていた。

 

「ヨシュア~っ!」

そこにヨシュアを見つけたエステルとクロ―ゼが走って近付いた。

 

「エステル、クローゼ……」

「もう、あんまり心配かけないでよね!銀髪男を追いかけたっていうからビックリしちゃったじゃない。」

「あれ……。何で知ってるんだい?」

「ポーリィちゃんが教えてくれたんです。あの子も見ていたらしく……」

首を傾げているヨシュアにクロ―ゼが理由を答えた。

 

「そうか、鋭い子だな……それらしい後姿を見かけてここまで追ってきたんだけど……どうやら撒かれたみたいだ。」

「まあ……」

「ヨシュアを撒くなんて、そいつタダ者じゃないわね。いったい何者なんだろ?」

「……わからない。ただ、騒ぎを起こそうという感じでもないような気がする。あくまで、僕のカンだけどね。」

「そっか……それにしても、どうして1人で行動するかな?」

「本当にそうですよ。私たちに伝言するなりしてくれればいいのに……」

「ごめん。心配かけたみたいだね。」

2人に軽く責められたヨシュアは謝罪した。

 

「べ、別に心配してないってば。あくまでチームワークの大切さを指摘しているだけであって……」

素直に謝罪したヨシュアにエステルは照れながら答えた。

 

「うふふ、ウソばっかり。さっきは、あんなに慌てていたじゃないですか?」

「そ、そんな事ないってば。そういうクローゼだって真剣な顔してたクセにさ~。」

「そ、それは……」

「はは……2人ともありがとう。」

2人の会話を聞き、ヨシュアは苦笑してお礼を言った。その時、校内アナウンスが流れた。

 

「……連絡します。劇の出演者とスタッフは講堂で準備を始めてください。繰り返します。劇の出演者とスタッフは講堂で準備を始めてください。」

 

「そっか……。もうそんな時間なんだ。」

「はい、衣装の準備をしたらすぐに開演になると思います。」

「よーし、それじゃあいよいよ出陣ってわけね!あ、銀髪男の方はどうしよう?」

「そうだね……。カルナさんに伝えて注意してもらうしかなさそうだ」

その後エステル達はカルナに銀髪の青年の情報を伝えた後、講堂に向かった……




学園祭開幕です。
校舎は構造上3階が増えて、1階の元々あった教室は導力ネットの教室がある設定です。あと、一応導力エレベーターもありますw

あと、ジョセフさんが生存してます。カシウスやレナとの繋がりはオリジナルです。ヨシュアの性格からしてもカシウスの影響をもろに受けてると思うので、ああいった設定にw

……戦力的にヤバいな。襲撃されても、襲撃した相手の方がヤバいです(命的な意味で)

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