英雄伝説~紫炎の軌跡~   作:kelvin

47 / 200
第34話 王族たりうる者

~遊撃士協会 ルーアン支部~

 

三人がルーアン支部に戻ってくると、どうやら話が終わったようで、先程の時点ではいなかった受付の人がいた。

 

「いらっしゃい。遊撃士協会へようこそ!おや、クローゼ君じゃないか。」

先ほど席を外していたルーアンの受付の男性――ジャンがクロ―ゼの姿を見て、声をかけた。

 

「こんにちは、ジャンさん。」

「また、学園長の頼みで街道の魔獣退治の依頼に来たのかい?もしくは、学園祭の時の警備の依頼かな?」

「いえ、それはいずれ伺わせて頂くと思うんですけど。今日は、エステルさんたちに付き合わせて貰っている最中なんです。」

「あれ、そういえば……学園の生徒じゃなさそうだけど……待てよ、その紋章は……」

クロ―ゼの言葉にジャンはエステル達の服装とエステルとヨシュアの左胸についている準遊撃士の紋章に気が付いた。そしてエステル達が自分達の顔がよく見えるように、ジャンに近付いて声をかけた。

 

「初めまして。準遊撃士のエステルです。」

「同じく準遊撃士のヨシュアです。」

「ああ、君達がエステル君とヨシュア君か!いや~、ホント良く来てくれた!ボース支部のルグラン爺さんから連絡があって、今か今かと待ちかねていたんだ。」

エステル達が来た事に嬉しいジャンは高揚した口調で答えた。

 

「そっか、ルグラン爺さん、ちゃんと連絡してくれたんだ。」

「感謝しなくちゃね。」

エステルとヨシュアはすでに連絡をしていたルグランに感謝した。

 

「僕の名前はジャン。ルーアン支部の受付をしている。君達の監督を含め、これから色々とサポートさせてもらうよ。二人とも、よろしく。」

「うん!よろしくね、ジャンさん。」

「よろしくお願いします。」

ジャンの言葉に二人は頷いた。

 

「はは、君達には色々と期待しているよ。何といっても、あの空賊事件を見事解決した立役者だからな。」

「空賊事件って……あのボース地方で起きた事件ですか? 私、『リベール通信』の最新号で読んだばかりです。そう言えば、先ほどエステルさん達がハイジャック事件を担当したとおっしゃていましたが、あれ、エステルさんたちが解決なさったんですか?」

ジャンの言葉を聞いたクロ―ゼは驚いた表情でエステル達を見た。

 

「あはは、まさか……。手伝いをしただけだってば。」

「実際に空賊を逮捕したのは王国軍の部隊だしね。功績の方はレイアやシオンのお蔭でもあるし。」

クロ―ゼに驚かれ、エステルは照れ、ヨシュアは実際自分達がやった事を話した。もっとも、ここまでの実績を上げることができたのはひとえにレイアやシオンのおかげであることも付け加えて。

 

「え?あの、シオンって今言いましたか?」

「ん?そうだけれど?栗色混じりの黒髪に青い瞳の……クローゼの知り合い?」

「知り合いも何も、同級生なのですが…(もう、シオンってばまともに連絡の一つも寄越さないでなにをやってるのよ……)」

「はあ?あんですって~!?」

「え?彼が学生?」

エステルの口から出た名前――シオンの名前にクローゼは驚き、エステルはクローゼの質問に容姿も付け加えて話すと、クローゼは内心で彼に対する文句を連ねつつもシオンとは同級生であると言い、その言葉にエステルは驚愕し、ヨシュアもこれには驚きを隠せない。

 

「クローゼ君は知らなくても無理はないさ。」

「って、ことは……」

「ジャンさんは知っていたんですね。」

「彼も学生ではあるけれど正遊撃士だからね。今回の事に関してはコリンズ学園長に休学届を出してから動いているし、手続き上問題はないのさ。」

シオン・シュバルツ……いや、シュトレオン・フォン・アウスレーゼ。リベール王族の血族…王位継承権第一位にして、王室親衛隊大隊長、さらには正遊撃士……リベールにおける遊撃士がある意味『隠れ蓑』化している事実は殆どの人が知らない事実である。

 

「ですが……」

「それに、彼はあの学園における主席……しかも、入学時からそれを続けている。その実績からしたら問題はないと学園長も判断されているからね。」

「………」

「成程。人は見かけによりませんね。」

クローゼの心配そうな表情にジャンは真剣な表情で彼の学業の実績……学園主席であることにエステルは口をパクパクさせ、ヨシュアはシオンの人となりからはとても判断できない明晰さに感心していた。

 

「それはさておき、エステル君にヨシュア君。君らも謙遜することはない。ルグラン爺さんも誉めてたぞ。さっそく転属手続きをするから書類にサインしてくれるかい?さあさあ、今すぐにでも。」

ジャンはいつの間にか書類を出して、エステル達を急かした。

 

「う、うん……?」

「それでは早速。」

「うんうん、これで君たちもルーアン支部の所属というわけだ。いやぁ、この忙しい時期によくルーアンに来てくれたよ。ふふ……もう逃がさないからね。」

二人のサインを確認したジャンは含みのある言葉で笑った。

 

「逃がさないって……な、なんかイヤ~な予感。」

「先ほどから聞いてると、かなり人手不足みたいですね。何か事件でもあったんですか?」

ジャンの言葉を聞いたエステルは弱冠不安になり、ヨシュアは気になって尋ねた。

 

「事件という程じゃないけどね。実は今、王家の偉い人がこのルーアン市に来ているのさ。」

「王家の偉い人……も、もしかして女王様!?」

ジャンの言葉にエステルは受付に身を乗り出して期待した目で尋ねた。

 

「はは、まさか。王族の1人であるのは間違いないそうだけどね。何でも、ルーアン市の視察にいらっしゃったんだとさ。」

エステルの疑問にジャンは苦笑しながら答えた。

 

「へー、そんな人がいるんだ。でも、それがどうして人手不足に繋がっちゃうの?」

「何と言っても王家の一員だ。万が一の事があるといけないとダルモア市長がえらく心配してね。ルーアン市の警備を強化するよう依頼に来たんだよ。」

「なるほど、先程2階で話し合っていた一件ですね。それにしても市街の警備ですか。」

「まあ、確かに港の方には跳ねっ返りの連中がいるからね。そちらの方に目を光らせて欲しいという事だろう。」

ジャンはダルモアに頼まれた事を思い出し、溜息をついた。確かに王族の方の警護は重要ではあるが、遊撃士とてそこまで手が空いているわけでもない。協会支部はその支部が管轄する地域……ここでは、ルーアン地方全体がその対象となる。その地域全体をカバーするだけでもかなりの労力だが、そこに王族の警備となると慢性的な人手不足なのだ。つまり、エステルとヨシュア、それとレイアがルーアンに来てくれたことは、ジャンにとってありがたく……先程の『逃がさない』発言に繋がったのだろう。

 

「さっき絡んできた連中のことね。うーん、確かにあいつら何かしでかしそうな感じかも。」

「なんだ、知っているのかい?」

「実は……」

事情を知っている風に見えるエステルを不思議に思ったジャンは尋ね、エステル達はジャンに先ほどの出来事を話した。

 

「そうか、倉庫区画の奥に行ったのか。あそこは『レイヴン』と名乗ってる不良グループのたまり場なんだ。君たちに絡んできたのは、グループのリーダー格を務める青年たちだろう。」

「『レイヴン』ねぇ……なーにをカッコつけてんだか。」

ロッコ達のグループ名を知ったエステルはロッコ達がグループ名に負けていると思い、呆れた表情をした。

 

「少し前までは大人しかったんだが最近、タガが緩んでるみたいでね。市長の心配ももっともなんだが、こちとら、地方全体をカバーしなくちゃならないんだ……とまあ、そんなワケで本当に人手不足で困っていてね。君たちが来てくれて、感謝感激、雨あられなんだよ。」

「期待されてるからには、精一杯がんばるわよ!それじゃあ、明日からさっそく手伝わせてもらうわ。」

「何かあったら僕たちに遠慮なく言いつけてください。」

ジャンの忙しいという言葉にエステルは意気揚々と言い放ち、ヨシュアもそれに続いた。

 

「ああ、よろしく頼むよ!あと、レイアからは直接連絡を貰ったよ。彼女ほどのレベルの人材に加え、“黎明”もいてくれたことには感謝しないとね。」

「“黎明”?」

「A級正遊撃士の一人で、その事件解決能力から“黎明”と呼ばれているんだ。名前はセシリア・フォストレイト。」

「って、セシリアさんが遊撃士!?」

この多忙な時期にA級遊撃士である二人がいてくれることにジャンは感激を隠せず、彼の言葉から聞こえた異名の事を尋ね、それが知り合いだということにエステルはまたもや驚いていた。

 

「おや、知り合いかい?」

「ええ。僕らはロレントの出身でして、近所に住んでいるんです。」

「成程ね……ボースの事からしても、『あの四人』――“不破”“霧奏”“紫刃”“黎明”が君たちの事を高く買っているのは間違いじゃなさそうだ。」

「ま、また凄い異名が出てきたけれど……(後の二人は解るとして、前の異名の二人って誰なのよ……レイアとセシリアが出てくるってことは……ま、まさかね)」

「そのうち解ると思うよ。君らも正遊撃士を目指す身ならね。」

「あはは……(どう考えても、アスベルさん、シルフィさん、レイアさんにセシリアさんじゃないですか……)」

エステルの意外な反応にヨシュアが代わりに答え、それを聞いたジャンはエステルとヨシュアが『同業者』である四人が気にかけている人物達に偽りなしだと率直に思い、ジャンの言葉に一抹の不安を感じつつ冷や汗をかくエステル、そして四人の素性を知るクローゼは苦笑しつつも内心でリベールの陣容の凄さをひしひしと感じていた。

 

 

そしてエステル達は英気を養って明日に備えるため、ギルドを出てホテルに向かい、部屋を取った後クロ―ゼを街の入口まで送り、ホテルに戻った………その途中、意外な人物と出くわした。

 

 

~ルーアン市 ホテル『ブランシェ』前~

 

「お、エステルにヨシュア。」

「って、シオンじゃない!」

「久しぶりだね、シオン。」

「ああ……どうやら、クローゼと会ったみたいだな。」

「え、何で……あっ」

「白い羽…そっか、ジークのものだね。」

シオンが声をかけると、エステルとヨシュアは先程会話の中で出てきた彼の姿に驚きつつも挨拶を交わした。そして、エステルの髪の結び目に上手く固定される形で挟まっていた白い羽を取り、その羽…ひいてはその鳥――ジークと『友達』、に気付いたのだった。

 

「ていうか、あまりストレートには言わなかったけれど、クローゼも心配してたわよ?」

「いや、クローゼには何度も説明したし、置手紙もしたんだけれど……」

「(これって、アレよね?)」

「(うん。クローゼは、シオンの事が好きみたいだね。)」

シオン本人の言っていることに嘘は見当たらず……説明されても、『それでも心配でしょうがない』……恋なのではないか……エステルとヨシュアはそう思った。

 

「そうだ。折角だからご一緒してもいいか?一応学園に戻るのは明日の夕方って言ってるから……」

「……ヨシュア、どうする?」

「仮にも同業者だし、彼は僕たちからすれば『恩人』だし……いいと思うよ。」

「ん、解った。その、変なことしたらぶっ飛ばすからね?」

「へいへい……」

シオンが一緒に泊まることとなり、エステル達はホテルの中に入った。運良く取れた最上階の部屋のバルコニーで景色を見て、堪能している所部屋の中から聞き覚えのない声が聞こえて来た。

 

 

~ルーアン市 ホテル『ブランシェ』最上階~

 

「ほほう……。なかなか良い部屋ではないか。」

「なに、今の?」

「うん、部屋の中から聞こえてきたみたいだけど……」

(げ、この声は……)

部屋の中から偉そうに話す男性の声にエステルとヨシュアは首を傾げ、その声に聞き覚えのあるシオンは嫌悪を感じた。

 

「それなりの広さだし調度もいい。うむ、気に入った。滞在中はここを使うことにする。」

「閣下、お待ちくださいませ。この部屋には既に利用客がいるとのこと……予定通り、市長殿の屋敷に滞在なさってはいかがですか?」

豪華な服を着ている男性に執事服を着た老人が自分の主である男性を諌めていた。

 

「黙れ、フィリップ!あそこは海が全く見えないではないか。その点、この海沿いのホテルは景観もいいし潮風も爽やかだ。バルコニーにも出られるし……」

男性が執事――フィリップを怒鳴った後、バルコニーに向かおうとした時、バルコニーにいるエステル達の存在に気がついた。

 

「な、なんだお前たちは!?まさか賊か!?私の命を狙う賊なのか!?」

「いきなり入ってきて、何トチ狂ったこと言ってるのよ。オジサンたちこそ何者?勝手に部屋に入ってきたりして。」

(はぁ……解っちゃいたけど、よりにもよってこいつかよ。道理で聞きたくない声だと思ったわけだ。)

エステル達の姿を見て慌てている男性にエステルは注意し、声である程度の予測はしていたものの、男性の身なりと顔を見て男性の正体がわかったシオンは自分の的中の良さと目の前に映る男性の悪態に溜息をついた。

 

「オ、オジサン呼ばわりするでない!フン、まあよい……。お前たちがこの部屋の利用客か?ここは私が、ルーアン滞在中のプライベートルームとして使用する。とっとと出て行くが良い。」

「はあ?言ってることがゼンゼン判らないんですけど。どうして、あたしたちが部屋を出て行かなくちゃならないわけ?」

「納得のいく事情をお伺いしたいですね。」

「…………」

自分達に理不尽な命令をする男性にエステルとヨシュアは顔をしかめて尋ねた。また、シオンは表情を硬くして男性を睨んだ。

 

「フッ、これだから無知蒙昧な庶民は困るのだ……この私が誰だか判らぬというのか?」

「うん、全然。なんか変なアタマをしたオジサンにしか見えないんだけど。」

自信を持って答える男性に、エステルは即答する形であっさりと否定した。

 

「へ、変なアタマだと……!」

「エステル……。いくら何でもそれは失礼だよ。個性的とか言ってあげなくちゃ。」

「おお、なるほど。言い得て妙だなエステルにヨシュア。けれども、ここは『素敵な髪型のおじ様』と言ってあげないと可哀想だぞ。」

普段礼儀のいいヨシュアまで遠回しに男性を貶し、シオンは納得して二人に加勢する形で男性に追い打ちをかけた。

 

「ぐぬぬぬぬ……フッ、まあ良い。耳をかっぽじって聞くが良い。……私の名は、デュナン・フォン・アウスレーゼ!リベール国主、アリシアⅡ世陛下の甥にして公爵位を授けられし者である!」

怒りを抑えていたが、とうとう我慢できなく男性――デュナンは自分の身分と名前を威厳がある声で叫んだ。

 

「「………」」

(……この阿呆が。お前如きが『アウスレーゼ』を名乗るんじゃねえよ。)

デュナンの名乗りを聞いたエステルとヨシュアは口をあけたまま何も言わず、シオンは頭を抱えたくなった。

 

「フフフ……驚きのあまり声も出ないようだな。だが、これで判っただろう。部屋を譲れというそのワケが?」

 

「ぷっ……」

「はは……」

「あはははは!オジサン、それ面白い!めちゃめちゃ笑えるかも!よりにもよって女王様の甥ですって~!?」

「あはは、エステル。そんなに笑ったら悪いよ。この人も、場を和ませるために冗談で言ったのかもしれないし。」

「ぷっ、くくくく………やめろよ、エステル!こっちまで笑えるじゃないか!!」

デュナンは威厳ある声で言ったがエステルやヨシュア、シオンは笑いを抑えず大声で笑った。

 

「こ、こ、こやつら……」

デュナンは笑っているエステル達を見て、拳を握って震えた。

 

「……誠に失礼ながら閣下の仰ることは真実です。」

そこに今までデュナンの後ろに控えていたフィリップがエステル達の前に出て来て答えた。

 

「え……」

エステル達は笑うのをやめてフィリップを見た。

 

「これは申し遅れました。わたくし、公爵閣下のお世話をさせて頂いているフィリップと申す者……閣下がお生まれになった時からお世話をさせて頂いております。」

「は、はあ……」

フィリップの言葉にエステルは状況をよく呑みこめず聞き流していた。

 

「そのわたくしの名誉に賭けてしかと、保証させて頂きまする。こちらにおわす方はデュナン公爵……正真正銘、陛下の甥御にあたられます。」

 

(し、信じられないけど……。そのオジサンはともかく、あの執事さんはホンモノだわ)

(そういえばジャンさんが言ってたね……ルーアンを視察に来ている王族の人がいるって……)

「ふはは、参ったか!次期国王に定められたこの私に部屋を譲る栄誉をくれてやるのだ。このような機会、滅多にあるものではないぞ!」

(誰が次期国王だ……俺の目が黒いうちはてめえなんぞに王位なんて渡すつもりはないぞ。)

小声で会話をし始めたエステルとヨシュアを見て、デュナンは高笑いをしてエステル達に再び命令した。その言葉に流石のシオンも怒気を露わにする直前の状態だった。

 

「ふ、ふざけないでよね!いくら王族だからといってオジサンみたいな横柄な人なんかに……!それにこっちにだって……」

「あいや、お嬢様がた!どうかお待ちくださいませ!」

デュナンに言い返そうとしたエステルにフィリップは駆けつけて大声で制した。

 

「え?」

「しばしお耳を拝借……」

そしてフィリップはデュナンに聞こえないように壁際までエステルたちを誘導した。

 

「失礼ながら、お嬢様がたにお願いしたき儀がございます。これで部屋をお譲り頂けませぬか?」

フィリップは懐から札束になったミラを取り出してエステル達に差し出した。

 

「し、執事さん……」

「何もそこまで……」

「閣下は一度言い出したらテコでも動かない御方……。それもこれも、閣下をお育てした私めの不徳の致すところ……。どうか、どうか……」

フィリップは土下座をする勢いで何度もエステル達に頭を下げた。

 

「……フィリップ・ルナール。『私』の顔に見覚えはないか?」

フィリップが何度も頭を下げている所、今まで黙っていたシオンが声をかけた。

 

「は……?」

シオンの言葉にフィリップは頭を下げるのをやめて、シオンの顔をよく見た後驚愕した。

 

「なっ………!?なぜ貴方様ほどのお方がここに……!?」

「今は、そんなことはどうでもいいことです。あの馬鹿者は一度会っているにも関わらず私の事をわからなかった上、今の発言……あの振る舞い自体がリベールの王族たる者のそれなのですか……?」

「そ、それは………」

威厳を纏って語るシオンを見て、フィリップは顔を青褪めさせた。そしてフィリップはその場で土下座をしてシオンに嘆願した。

 

「申し訳ありません……!これも閣下をお育てした私めの不徳の致すところ……ですので決してシュトレオン殿下を貶してなどいません……ですから殿下の怒りは閣下に代わりまして私が全て受けます!どうか、どうか……!」

フィリップは土下座をした状態で床にぶつけるかの勢いで何度も頭を下げた。

 

「ふう、仕方ないか……。あんまり執事さんを困らせるわけにもいかないし。(シュトレオン……シオンの事よね?)」

「シオンも許してあげてくれないかな?全てフィリップさんが悪い訳ではないと思うよ?(シュトレオン……どこかで聞いたことのあるような名前だね……)」

「解ってるさ……フィリップさんの責任は重くないということ自体、解ってはいるさ。」

フィリップの謝罪を見て、エステルとヨシュアは怒りを収め、シオンもため息をついて怒りを収めることにした。

 

「フィリップさんの誠意は十分僕達に伝わりましたから、頭を上げて立って下さい。部屋はお譲りします。ただ、そのミラは受け取れません。」

「し、しかしそれでは……」

「いいっていいって♪あたしやヨシュアにはちょっと豪華すぎる部屋だし。あのオジサンのお守り大変とは思うけど頑張ってね♪」

「み、皆様方に殿下……どうも有り難うございます。」

フィリップはエステル達の懐の広さに感動してお礼を言った。

 

その後最上階の部屋をデュナンに譲ったエステル達はホテルの受付に空き部屋を聞いたが部屋はなく、困っていた所をナイアルが通りかかりナイアルの好意でナイアルが取っている部屋に一晩泊めてもらうことにした。ナイアルの話だと、あの空賊事件の際の反響は大きく、特にリシャール大佐と情報部に稼がせてもらったと言っていた。

 

 

~ナイアルの部屋~

 

「ところで、そっちの………って、シュトレオン殿下!?」

「あれ?有名人なの?」

「まぁ、知らなくても無理はない。俺が知る限り、他に知っているのは女王陛下に王族、遊撃士である“剣聖”“不破”“霧奏”“紫刃”“黎明”ぐらいだな……俺が知ったのは、いわば偶然だ。殿下本人にも確認させていただきましたが。」

ナイアルを除けばそうそうたる面々しか知らない事実……シオンが王族だということは、エステルやヨシュアも驚いていた。

 

「まぁ、普段はシオンって呼んでくれ。特にエステルは。」

「うっ……わ、解ってるわよ。」

シオンは秘密にしてほしいとお願いし、念入りに押されたエステルはたじろぎながらも頷いた。

 

「でも、何故秘密に?」

「シオン……いや、シュトレオン殿下は、『死んだ人間』とされているからだ。」

「は?でも、こうして生きてるのに?」

「生き残ったのは偶然だったんだよ……」

今から八年前、エレボニア帝国のクロイツェン本線で列車爆破事故が起こった。爆破された車両はピンポイントで彼と彼らの両親……次期国王夫妻、そしてシオンだった。帝国は徹底的な情報規制と迅速な復旧活動という名の『隠滅』を図った。シオンは偶々乗り合わせていた遊撃士……サラ・バレスタインの計らいで命からがら帝国から脱出した。

ただ、両親を失った影響からかシオンの瞳の色はクローゼのような青色の瞳に変わり、髪の先が栗色に変色したのだ。

 

 

その後、それを知ったアスベル、シルフィアは“星杯騎士”として内密に調査を行い…あまりにもピンポイント過ぎる爆破場所、迅速過ぎる復旧、そして列車爆破にその日を選んだ理由…その結果、帝国政府と帝国鉄道憲兵隊、さらには帝国軍情報局による組織ぐるみでの“暗殺”だと判明した。だが、この事実はまだ公表されていない。いや、彼らはその『切り札』を出すためのタイミングを見計らっているのだ。

 

 

帝国だけではない。クローゼ…いや、クローディア姫の両親であるユーディス王太子夫妻がカルバード領海で亡くなった海難事故……いや、とある組織と共和国政府が結託して行った大々的な“暗殺”……これに関しても、“調停”が裏で情報をかき集め、アスベルらに渡した……状況証拠と証言がすべて出揃った状態である。だが、このことも公表していない。

 

 

『帝国での次期国王夫妻暗殺』『共和国での王太子夫妻暗殺』『生きている次期国王夫妻の息子の存在』……そして『ハーメル』。リベールにはその四枚の『切り札』が揃っているということを二大国は知らない。

 

 

「まぁ、殿下が正式に生きていることを公表した暁には、独占インタビューさせてもらえるからな。それと交換条件なんだ。」

「た、逞しいわね……」

「流石ですね、ナイアルさん。」

「フフ……」

この後、エステルらはナイアルの奢りで夕食をご馳走になり、今日の疲れを癒すためホテルで一夜を明かしたのだった。

 

 




カルバードの客船の事故……どう見ても、ただの事故とは思えないような感じがして、今回の描写にしました。下手すれば、クローディアも事故に巻き込まれていた可能性すらありましたからね……個人的見解ですが。

リベールが持つ四枚の切り札……単独でもヤバいぐらいの威力を誇りますが、同時に公表すると………お察しくださいw

次回は……
レイア「さぁ、貴方達の罪を数えなさい!懺悔ぐらいなら安くしておきますよ!」
???「それ、ワイの台詞や!」
(嘘)

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。