英雄伝説~紫炎の軌跡~   作:kelvin

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外伝 帝国ギルド襲撃事件~筋書き通りの殲滅戦~

エステル達がボースにおける事件を解決してから一週間後、エレボニア帝国では大きな動きがあった。いや、それを単に“大きな”動きで片づけられるものではなかった。

 

 

~海都オルディス郊外~

 

「よう、お邪魔するぜ。」

「失礼しますね。」

見るから大型のライフルを軽々と担いで歩み寄る赤毛の男性、そして特殊な手甲を身に付けた栗色の長髪の女性が彼の後ろをついてきていた。

 

彼らの名はバルデル・オルランド、シルフェリティア・オルランド……『赤い星座』の団長と彼を公私共に傍らで支える副団長の登場にジェスター猟兵団の面々は驚いていた。

 

「なっ、“闘神”に“赤朱の聖女”だと!?」

「馬鹿なっ、ここには50人ほどの兵がいたはずだぞ!?」

いくら相手が大規模の猟兵団の頭と言えども、50人相手では勝ち目などないだろう……その見立てなど彼らの前では児戯に等しく、非常にお粗末なものだった。

 

「50人ねえ……あれぐらいの練度なら、数の問題じゃないな。」

「なっ!?」

「あなた相手なら四桁ぐらいが適正ですからね……貴方たちはやりすぎました。既に、『西風の旅団』と『翡翠の刃』も動きました。これ以上抵抗されるのならば……殲滅させていただきます。」

バルデルの溜息でも出そうな発言に猟兵らは愕然とし、シルフェリティアの警告も込めた『通告』に猟兵らは一瞬たじろいだ。だが、彼らとて猟兵……彼らなりのプライドが敵に対してひざを折ることなどできなかった。

 

「ふ、ふざけr………なっ!?」

だが、彼らは既に自分自身の『生殺与奪』が敵に奪われていた……厳密に言えば、シルフェリティアの操る『見えない糸』に縛られていたのだ。

 

「――賢明な判断ができない人間は、自滅するだけです。」

そう言ってシルフェリティアは左手を強く握ると、そこにいたはずの兵士はその存在が消滅し……次の瞬間には名も知らぬただの肉塊と化していた。

 

彼女の操る鋼糸は特注製で、上手く加減すれば傷をつけずに捕縛することが可能で、射程距離はおおよそ25m、糸全体の長さに至っては150m……室内空間であれば問答無用で拘束・殲滅可能の武器だ。

シルフェリティアはバルデルやシグムント、自分の子どもである『あの二人』のように大型の武器を振り回すほどの膂力などない。なので、近接戦闘……とりわけ相手に対しての拘束をも兼ねた武器でなければならなかった。

ただ、鋼糸の重さからすればその重量も半端ではなく、流石はレイアの母親とも言うべきものだった。

 

「っと、これで制圧は完了したが……きな臭いな。」

「ええ。」

猟兵団にしてはあまりにもお粗末な顛末……そして、彼らの直感がまだ終わりではないという警鐘を鳴らしていたのだ。そして、図らずもその直感が的中する形で、入ってきた方から足音が聞こえる。その身なりは帝国正規軍と領邦軍の兵士の姿だった。

 

「武器を下ろせ!テロリストめ!!」

「……は?」

「聞こえなかったのか!?お前たちは帝国政府より『テロリスト』の容疑がかかっている!大人しくお縄に付け!!」

「成程、あの御仁の差し金……いいえ、『蛇』の企みですか。」

兵士らの言葉で大方の事情を察した。元々この事件はカシウスを止めるためのもの。それを早急に解決されてしまったとあらば、リベールでの『計画』すらも狂いが生じる。そのため、彼らは“鉄血宰相”を使い、軍を動かしたのだ。大義名分的には『遊撃士協会を襲撃した猟兵団の罪』を三つの猟兵団になすりつけるというその手法……そのやり口にバルデルは

 

「クハハハハハハハハッ!!」

笑った。盛大に笑った。だが、それは自分や最愛の妻の命が失われることに対して自棄になり笑いを零したのではない。

 

「な、何がおかしい!?」

「てめえら、馬鹿だな。最上級のバカだ。」

「何だとっ!?」

兵たちはバルデルの笑みの意図に気付いていない。いや、気付くはずもない。『彼』の描いたプラン通りに動いた帝国軍と領邦軍……策がここまですんなり成功したことにバルデルは笑ったのだ。

 

「フフ……シグムントやシャーリィが聞いたら羨ましがりますね。」

「アイツらだと死体の山が出来かねん…あのバカ息子も今回の事には消極的だったしな…ま、別に俺の後なんざ継がなくても、アイツはその内自分の『足場』を見つけるだろうさ……」

人の在り方など指し示す物ではない。バルデルもシルフェリティアも単純にそのことを押し付けるつもりもない。成り行きとはいえ、『遊撃士』と『星杯騎士』の道を歩んでいる娘、そして『あの出来事』以降悩むことが多くなった息子……その道が猟兵団でなくとも、『オルランド』としての生き様は継いでくれる……と。

そう内心で思った後、バルデルはブレードライフルを構え、シルフェリティアも手甲を構えた。

 

「猟兵団如きじゃ満足できなかったところだ。さぁ、帝国軍に領邦軍、てめえらが喧嘩を売った相手の『重大さ』、その身に刻んで覚えるがいい!!」

「がっ!?」

「ぐはっ!!」

バルデルのブレードライフルが火を噴き、兵士たちは次々となぎ倒されるがごとく銃弾で撃ち抜かれていく。

 

「殺しはしません。ですが……大怪我位は覚悟してもらいます!」

「あががっが……」

「た、助け……」

シルフェリティアの鋼糸は的確に兵士たちの意識を刈り取り、意識を手放した兵たちは地に伏せていく。

 

「う、撃て!!」

「馬鹿言うな!!この状況で銃撃なんかしたら…!」

「おせえよ!ベルゼルガー!!」

「ぎゃああああああああっ!?」

兵たちのいる場所は通路……しかも、二人の強襲でたじろぎまともな反応ができない……それを見逃さず、バルデルのSクラフト『ベルゼルガー』の刃が兵士たちをなぎ倒していく。ライフルの刃を納めると、バルデルは伏せている兵たちを見て、嘲笑も込めた表情を浮かべる。

 

「拍子抜けだな……」

「でも、あなた。ここでこれだということは……」

「戦車あたりでも出てくる可能性があるか……やっぱ、シグムントだけでも連れてくれば良かったか?」

シルフェリティアとバルデルの言葉……その言葉はある意味的中することになる。

 

 

~クロイツェン州バリアハート郊外~

 

ジェスター猟兵団の拠点の一つがあるエレボニア東部クロイツェン州、その首都である公都バリアハート郊外……その拠点の前にいたのは夥しい数の兵士と戦車。

 

「貴様らは既に包囲されている!武装を解除して大人しく出てこい!!」

兵の一人……指揮官らしき人物が拠点に向けて叫んだ。彼の背後には戦車と大量の兵……数からすれば一個師団。たかが拠点如きに一個師団は過剰戦力だろう。

 

 

……しかし、ここに来ている人……『彼ら』にとって見れば、そんな数など『雑兵扱い』でしかないわけだが。

 

 

指揮官がしびれを切らした頃、戦車の一台が『斬られた』。間もなく爆発し、火の手が上がる。その光景に兵士は動揺し、指揮官もたじろいでいると、彼の目の前に一人の少年の姿がいた。

 

「貴方が指揮官ですか。」

「な、何者……っ!?その紋章は……!?」

「お察しの通り、『星杯騎士』ですよ。エレボニア帝国正規軍、そしてクロイツェン領邦軍。貴殿らは遊撃士協会を襲撃した犯人を殲滅しようとした人たちに『罪』をなすりつけた『重罪』を犯しました。」

星杯騎士と名乗った少年……“守護騎士”第三位『京紫の瞬光』アスベル・フォストレイトは、驚き慌てふためく指揮官に対し、冷酷にその言葉を述べた。

 

「な、彼らはあの猟兵団とつながりがある犯罪者だぞ!?」

「何の根拠を持って言っているのですか?……今回の犯人の殲滅および逮捕に関して、執行する人たちは全員アルテリア法王、リベール国王アリシアⅡ世女王陛下……そして、エレボニア帝国ユーゲントⅢ世皇帝陛下より執行状を賜っております。先程の戦車に関しては『警告』とお考えください。この忠告を無視し、今ここで我々に刃を向けるようならば……貴殿らを『外法』として認定せざるを得なくなりますよ?」

これが、アスベルの考えた策だった。帝国で最も強い権力を持つ皇帝の執行状、そして強い影響力を持つアルテリア法王の執行状……そして、先日の襲撃を重く見たアリシア女王は秘密裏に執行状をだし、早急の事件解決をお願いしたのだ。

 

彼の言葉に兵たちは動揺が隠せない。彼の言っていることは突拍子もない……だが、嘘とも思えないその言葉……

 

「そ、そのようなはったりを…撃て!テロリストどもを一掃しろ!!」

だが、指揮官は彼の忠告を無視するかのように怒号を放ち、兵たちは銃をアスベルに構える。だが、その光景を見たアスベルは小太刀を抜き、構えた。

 

 

「とんだ阿呆だな……てめえらを『外法』と認定し、実力を以て排除させてもらう!!」

アスベルのその言葉に呼応して、あちらこちらから悲鳴が上がる。それは、アスベルの『協力者』ともいうべき存在だった。

 

 

「せいやっ!!」

「がっ!?」

「いっけー!」

「ごあっ!!」

「撃ち抜きます!!」

「ぐふっ!」

剣と銃を持つ陽気そうな青年が軽やかに兵士たちを躊躇いもなく倒し、その少し後方にいた少女はアーツを放って兵士たちを吹き飛ばし、その傍らで一人の女性が弓を放ち、的確に鎧の隙間を狙い撃つ。

 

「ったく、さながら戦争じゃねえか!!」

「ま、まったくです!!」

「そりゃ、兵士たちの……『敵』に突撃しているわけですし、ねっ!!」

ぼやきつつも、見事な連携で兵士たちを戦闘不能にしていく三人……“尖兵”ラグナ・シルベスティーレ、“漆黒の輝耀”リーゼロッテ・ハーティリー、“翠穹”リノア・リーヴェルト……帝国のD級正遊撃士……だが、彼らの実力はD級のそれをすでに上回っている。カシウスの見立てでは、A級…ひいてはS級と遜色ないほどだという……実力と乖離した彼らのランク…その起因は、彼らの『経緯』に関わるためだ。

 

 

『鉄血の子供達(アイアンブリード)』……ギリアス・オズボーンが自ら見出し、育て上げた子飼いの集団。彼の手となり足となりて働く“手駒”で、急進的な領土拡張、自治州の強制併合を成し遂げる要因を作り上げた“元凶”とも言うべき存在だ。この三人もそういった仕事を請け負ってきたが、『ある事件』……その際出会ったカシウスの誘いをきっかけに宰相のもとを離れ、遊撃士として活動することとなった。このことも遊撃士協会襲撃事件を引き起こした一因であるのは否定できないことだろう。

 

 

「派手に行こうか、降り注げ銃弾の雨!!」

ラグナはクラフト『シューティングレイン』で前方にいる兵たちに慈悲なき銃弾の雨を浴びせ、

 

「道を切り開く!」

リノアはクラフト『クリスタルアロー』……水属性を纏った矢は奔流となり、射線上にいた兵や戦車を吹き飛ばす。

 

「響いて、風の旋律!!」

そしてリーゼロッテはクラフト『ストームサークル』……竜巻が彼女らの周囲を回り、兵はおろか戦車ですら舞い上がっていく。

 

 

「ふむ……そのお手並み、流石は『鉄血宰相』が見出した者たちだな。」

三人の近くの戦車が斬られ、爆発する。そして、三人のもとに現れたのは大剣を片手で難なく使いこなし、兵士を吹き飛ばすアルゼイド家当主にしてレグラム自治州の長……“光の剣匠”ヴィクター・S・アルゼイドの姿だった。

 

「光の剣匠……ま、レグラムは近いからいても不思議じゃねえが……あのオッサンの話はやめてくれ。」

「あわわ……」

「全くですよ……私たちは、自分の意思でここにいるんですから。」

「それは失敬した。さて、『罪』を知らぬ彼らにもうひと押しと行こうか。」

四人は言葉を交わした後、武器を構え、闘気を高める。

 

「黄泉への片道切符、安くしておくから遠慮せず受け取りな!!エクスペンダブルプライド!!」

「集って、地水火風!転ずるが如く、化するが如く、我が剣となって!スプリームエレメンツ!!」

「華麗にターゲット!穿て、光の軌跡!!クライシスレイン!!」

「終わりにしよう……絶技・洸凰剣!!」

四人のSクラフト……ラグナの『エクスペンダブルプライド』、リーゼロッテの『スプリームエレメンツ』、リノアの『クライシスレイン』、そしてヴィクターの『絶技・洸凰剣』……その爆発による煙が晴れた後、彼らを中心としたおおよそ半径50m以内の敵は完全に沈黙した。

 

 

恐怖に支配されていく帝国軍と領邦軍……だが、その悲劇は『ここだけ』ではなかったことを彼らはまだ知らない。

 

 




てなわけで、原作だと名前すら出てこなかった遊撃士三人の登場ですw
そんで、バリアハートということで“彼”にも出張ってもらいましたw
三人ともそういう扱いにしたのは、その方がオズボーンのやり口も鮮明にできるかな、と思った次第ですw
ラグナはアルヴィン(TOX)、リーゼロッテはエリーゼ(TOX)、リノアはFF8のあの姿+ちょっとアレンジ的な感じです。

戦闘シーンの描写は結構手こずります(マジ顔)

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