英雄伝説~紫炎の軌跡~   作:kelvin

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外伝 帝国ギルド襲撃事件~味方と敵と幼馴染~

エステル達とレイア達が行動しているその頃、アスベル達はというと……

 

 

~エレボニア帝国 旧ラマール州南部~

 

エレボニア帝国の旧ラマール州南部……サザーラント州の都市郊外の森の中にいた。何でこんな辺鄙なところにいるというと、単純にカシウスの手伝いという他なかった。

 

「これで、十箇所目……随分と抜け目ないな。」

「ま、『蛇』絡みだから仕方ないけれどね。」

その内容は、予備のアジトとも言うべき個所の捜索、ならびに制圧。今のところは待機している兵がいる『本命』を引き当てていない感じだ。

 

ジェスター猟兵団……その実態は、帝国周辺で活動していた猟兵団。だが、その実力は『赤い星座』『西風の旅団』『翡翠の刃』…三大勢力の猟兵団らの前には脆弱という他なかった。だが、今回の一件でその『見解』が破られた。そして、遊撃士協会への襲撃……そのやり口に三大勢力が今回の事件への介入を決めたのだ。

 

「あの『道化師』は自分で火に油を注いだって解ってるのかしら?………どうでもいいけれど。」

「むしろ大尺玉をぶち込んだ感じだろ……あの野郎、生きて帰れるのか?」

対立組織に属する身とはいえ、相手への同情をある意味禁じ得ない……そう思っていると、二人は一つの気配に気づく。巧妙に消された気配……その気配に気づき、二人は構えるが、

 

「おいおいおいおい、待て待て待て!殺気を出さないでくれ!!!」

現れたのは慌てた様子で弁解する一人の青年。だが、その佇まいは見るからに、相当の修羅場を潜り抜けた歴戦の戦士そのものだった。

 

「巧妙に気配を消しといて弁解する方がどうかしてると思うんだが?」

「それは気が付かなかった。貴方の言うことも一理あるな。」

「で、あなたは誰なの?」

口調からして毒気が抜かれる喋り口調……その青年は二人に挨拶する。

 

「『身喰らう蛇』“使徒”第一柱にして“執行者”No.Ⅰ『調停』のルドガーだ。よろしくな、二人とも。」

「いや、お前からすれば俺らは対立している組織の面々だぞ?」

「訳が解らないわ…『オペラスター』といい『ピエロ』といい『マッドサイエンティスト』、『バトルジャンキー』や『愉快犯』といい、結社はお笑い集団かパフォーマーでも目指しているの?」

「あれは、その、行き過ぎた例外だから……すまない。」

ルドガーは二人の指摘に謝る。どうやら、色物集団であることは否定しないようだ。ただ、その個性を差し引いてその実力が一線級であることは“剣帝”の件でよく解っている。

 

「俺が君らに接触した理由はただ一つ……いや、<転生者>である君らならばできることだ。あの<白面>を消してほしい。」

「……正気か?まぁ、アイツは『外法』に認定されてるから消すつもりだけれど。」

「そもそも、なぜ私らが<転生者>だと?」

「君らの事は『剣帝』から話を聞いたのさ。なかなか興味深いってね……それと、俺も転生者の一人だ。」

『身喰らう蛇』にも転生者がいる……目の前に映るこの御仁は、その立場を利用する形で何かを成し遂げようとしているのが見て取れた。それも、単純に現在座している『使徒』どころではない地位を目指すかのような……

 

「転生前は神楽坂悠一(かぐらざかゆういち)……一介の学生だったんだが、転生したら『身喰らう蛇』でな……アリア姉さんに何回殺されかけたことか……」

「は!?悠一!?」

「嘘でしょ!?」

「そういう反応……まさか、輝に詩穂!?」

アリアンロードにいろいろしごかれたことよりも、転生前の名前に聞き覚えのあったアスベルとシルフィアは驚き、ルドガーはその反応を見て二人が幼馴染で会った人間が転生した姿だと問いかけ、二人は頷く。

 

事情を聞くと、ルドガー……悠一はハイジャックによる炎上事故で亡くなった一人……らしい。詩穂(シルフィア)は彼の後ろの席に座っていたらしく、そこの席位置は翼の付け根……大方の察しが付くが、燃料に引火してそこら辺が吹っ飛んだらしい……大方の事情は転生する際神様に聞いた話らしいが……

 

「は~……何というか、転生も含めて人生ってのは解らんな。ちなみにシルフィア、アスベルに告白はしたのか?」

「な、何言っているのよ!?」

「だってさぁ、転生前はお前ら『夫婦』扱いだったから。そうやって一緒に行動してるってことは、そういうことなんだろ?」

「も、もう!余計なこと言うと『外法』扱いするからね!?」

「………(下手に言ったら、俺が非難されそうだな)」

ルドガーのからかいにシルフィアは頬を赤く染めて反論し、アスベルは冷や汗をかいて黙り込むことにした。それが正しい選択かどうかはアスベル本人も解らないが。

 

「まぁ、一つの組織に固まっているのが不自然だよな……他に転生者は?」

「いるにはいるんだが、いろんな意味で馬鹿でな……まともに話せるのは俺ぐらいだ。ったく、あのピエロ野郎、今度会ったら泣くまで殴ってやらないと……(ブツブツ……)」

((生まれ変わっても、見るからに苦労してるんだなぁ……))

同じ組織に所属している<道化師>への文句をブツブツと呟くルドガーに、対立している組織とはいえ似たような悩みを抱えていることに対して同情の念を抱かずにいられなかった。そして、転生前も今も“そういう役割”のルドガーにはある意味尊敬の念というか逞しさを感じていた。

 

そう思った矢先、アスベルは突き刺さる殺気を感じ、小太刀を抜く。

 

「!!」

振り下ろされたのは棒らしき武器……その武器と小太刀が激しくぶつかり合い、一旦距離を取る。

そして、襲撃したその女性はルドガーの姿を見て声を荒げる。

 

「ルドガー、そいつらは私らの敵だぞ!何を呑気に話している!!」

「フーリエ!?」

ルドガーも彼女…フーリエの登場に驚いている様子だった。

この様子からして彼女がここに来るのは想定外だったようだ。

 

「どういうこと?」

「どうやら、俺の後をついてきたらしい……アスベル・フォストレイト、彼女を止めてくれ!!」

ある意味『敵』とはいえ『幼馴染』の頼みとなれば、聞かないわけにはいかないだろう。そもそも、彼女が敵意を向けてくる以上戦うしかない。アスベルは内心ため息をついて小太刀を構える。

 

「……一撃だ。」

「えっ?」

「お前の渾身の一撃を撃ってみろ。」

「っ!!死んだとしても、謝らないぞ!!」

アスベルの見え透いた挑発にフーリエは怒りをあらわにして声を荒げ、杖を銃のようにして構える。そして、高まる力の奔流。七属性のひとつ『水』の属性を纏ったエネルギーがアスベルに向けられる。

 

「受けよ、精霊の加護の一撃を!!シアンディーム・エクシード!!!」

フーリエは高らかにその名を叫ぶ……彼女のSクラフト『シアンディーム・エクシード』をアスベルに放つ。

それを見たアスベルは小太刀をしまい、鞘に収まった状態の太刀の柄を握り、抜刀術の構えを取る。

 

「ハアアアアアアアアアッ………!!」

(おいおい!?あの覇気……本気のアリア姉さんとタメ張れるんじゃないか!?)

そして、溢れ出す彼が放つ『闘気』……その覇気にルドガーは彼がよく知る人物を思い出し、背中に寒気が入ったような感覚がした。

 

「極技、瞬凰剣(しゅんこうけん)!!」

八葉一刀流四の型『空蝉』……その終の太刀とも言うべき『極技』……瞬凰剣の乱れなき鋭い剣筋に奔流は引き裂かれ、フーリエは彼の放った技の衝撃波をもろに受ける形となった。

そして、互いの技の衝撃が消えると、太刀を鞘に納めて立っているアスベル、傷を負いつつも武器を支えにしてかろうじて立っているフーリエの姿があった。

 

「くっ…見事…」

そう呟くと、フーリエは意識を失って倒れた。

 

「ルドガーの言葉の意味を図らずも理解する羽目になるとは……」

「済まない…」

「やれやれね……」

色々台無しになったような気がしたが……フーリエには最低限の処置を施した。先程に関してはアスベルもある程度加減していたので、命に何ら別条はない。彼女を木陰の下に寝かせると、三人は話を続けることにした。

 

「で、だ。アイツはアンタらの組織の重鎮の一人だろ?何でわざわざ……」

「『色々やりすぎている』……俺を始め、第二、四、七柱の決定だ。だが、『使徒』に関しては他の『使徒』と言えども手を出せない……盟主も『使徒』の処刑には難色を示しているらしいからな。それを『執行者』である奴らですら反故にするのは些か配慮に欠ける……背に腹は代えられないってことだ。」

どうやら、ワイスマンに関しては他の使徒…ひいては盟主にとって『重罪』らしい……だが、彼を罰するのは難しい……ならば、敵対する組織である『彼ら』…星杯騎士にお願いすることで、一定のラインを保つことに決めたのだ。

 

「それはいいとしても、ルドガーはどうするの?」

「……アイツがいなくなったら、俺が奴の仕事を引き継ぐことになるのさ。元々、俺が『執行者』を兼任してるのは、他の『執行者』の育成係も兼ねてるからな。」

「ってことは、レンちゃんも?」

「ああ……『ルドガーは私の婚約者よ♪』ってしきりに迫られている……俺、ロリコン呼ばわりは嫌だぞ……おまけにシャロンの奴、レンに色々吹き込みやがったし…」

「あはは……」

とどのつまり、ルドガーは『使徒』…『第一柱』であるものの、後進の育成係として『執行者』の椅子に座しているらしい。しかも、あの『殲滅天使』に惚れられたらしい。アスベルとシルフィアはルドガーに少しながら同情した。

色々話した後、ルドガーはフーリエを負ぶって、その場を離れようとした。その際、アスベルは一つ尋ねた。

 

「ルドガー、お前やその彼女は『オルフェウス最終計画』に関わるつもりか?」

「『福音』に関しては、基本ノータッチのつもりだ。『幻焔』についてもな……ま、詳しいことは言えねえが、俺も『打破』を目指している。」

「……ルドガー、気を付けてね。」

「おう。お前らもな。互いに目指す『明るい未来』のために、な。」

そう言い残して、ルドガー達は去った。残された二人は、彼の無事を祈りつつ、大きな『味方』ができたと感じたのだ。

 

 

アスベルやシルフィアと別れたルドガーは、おぶっているフーリエの心配をしつつ、彼らと会えたことに苦笑を浮かべていた。

 

(アスベル、シルフィア……俺の目標は、察しがついただろうな。ま、日頃から愚痴ってたしな。)

転生前、やりこんでいた軌跡シリーズのイベントに『納得いかねえ!!!』と色々言いまくっていた……輝と詩穂には憐みの表情を向けられ、沙織には苦笑されてたからな……やるからには、夢はでっかくねえと。俺自身が背負った『光』と『闇』……それらも受け入れて目指す『夢の彼方』へと……な。ただ……

 

「背負ってるこいつがなぁ…もう少し利口だと助かるんだが…」

色々信じ込みやすい性格のフーリエにため息をつき、ルドガーは転位してその場を離れた。

 

 




さらにオリキャラ追加です。

ルドガーとフーリエのイメージはテイルズのアレそのままです。

閃の続編でどんだけ執行者やら使徒やら守護騎士が増えるんでしょうか……第八位のあの人は、特に気になります。

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