英雄伝説~紫炎の軌跡~   作:kelvin

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第31話 一旦の解決

~遊撃士協会 ボース支部~

 

エステル達は川蝉亭で休息し、西ボース街道でレイア達と合流してからボース支部に戻り、事件の顛末について報告した。ルグランからその報告を聞いたメイベルはリラを伴って直々にエステル達のもとを訪れていた。

 

「みなさん、ありがとうございます。やはり、私の目に狂いはなかったということですわね。」

「あはは、そうでもないわよ。最終的には軍に美味しいところを持っていかれちゃったし……」

「そう謙遜するでない。お前さんたちがアジトに潜入していなければ人質たちの命も危うかったじゃろう。そういった意味では大金星じゃ。」

「そ、そうかな?」

メイベルの褒め言葉にエステルは苦笑を浮かべたが、ルグランのフォローに少しは良くしたようだ。

 

「それにしても、棒術で床に穴を開けるなんて……エステルさん、本当に私と歳が変わらないのかしら……」

「いや、努力すれば誰だってできるんじゃないかな?あたしにもできたんだし。」

「努力って……どういった方向での努力なのか解らないよ」

「トワまでひどくない?」

エリィとトワはエステルがアジトでやったこと……棒で床を円柱状に切り取ったことを聞き、本当に自分と歳が近いのか疑問視した。ただ、彼女の師匠がある意味『規格外』だった……ただ、それだけなのだが……この事件には謎が残っている。ドルンと名乗っていた首領の態度、そしてキールやジョゼットと接触していた仮面をつけた男……だが、これ以上は王国軍の管轄になるだろう。そのことについてルグランはそう述べていた。

 

「とにかく、人質たちが全員無事に戻ってきただけでも幸いですわ。空賊逮捕のニュースのおかげで不安も取り除かれ、街にも活気が戻りつつあります。それに、空路の方も迅速に再開したことも大きいですし、感謝の気持ちに、少しばかり報酬に色をつけさせて頂きました。」

「え、いいの?」

報酬を上乗せしたメイベルにエステルは驚いて尋ねた。その額は当初の額の三倍近い額……準遊撃士にしては破格の値段だ。

 

「ふふ、勿論ですわ。ルグランさんから聞きましたが、正遊撃士クラスの依頼をこなしていただいたわけですし、お二人には正遊撃士になっていただきたいという気持ちの表れということで構いませんわ。オリビエさんも……一時的な協力者とはいえ、本当にありがとうございました。」

「フッ……見ず知らずの僕が、誰が見ても麗しい美貌の市長に対して相応の働きが出来たのであればいいがね。」

「ええ、お釣りが来るほどですわ。それと、その褒め言葉は謙虚に受け止めておきますわ。」

オリビエの言葉にメイベルは率直な気持ちを述べて彼を労った。

 

「あれ?そういえばシェラ姉は?」

「二階でレイアとシオンも一緒に話しているよ。大方引継ぎの話だろうけれど。それまではグランローゼで何か食べてて、だってさ」

「それはそれは……なら、僕もワインで一杯」

「昼間から飲むのは止めなさいよ……」

ここにいない三人の存在にエステルは首を傾げ、ヨシュアがシェラザードからの伝言も込めて言い、その言葉を聞いたオリビエは飲もうとしたが、エステルに窘められた。

 

「おっと、そうじゃ。お前さんたちに渡しておかんとな。」

そう言って、ルグランがエステルとヨシュアに渡したのは正遊撃士への推薦状だった。

 

「いいんですか?」

「メイベル市長も言っておったが、本来ならば正遊撃士絡みのものだったんじゃ。それをお前さんたちが成し遂げてくれた。これは、早く正遊撃士になってほしいわしからの気持ちでもある。」

「えへへ、ありがとうルグラン爺さん!」

すんなり推薦状を貰えたことに驚くヨシュア、その疑問にルグランは今回の事件解決への功績と他の依頼達成度、それと遊撃士に携わる者としてこれほど有望な人材を推したくなったのだ。その気持ちにエステルは感謝の言葉を述べた。

 

「すごいわね、エステルは。」

「うん、本当だよ。」

「あはは…エリィとトワ、それにレイアやシオンのお蔭でもあるんだけれどね。」

実際、エステルの言うとおりだろう。そうでなければここまですんなり解決できたとは思えない。いざとなれば他人の力を借りることも大切だが、まずは着実に遊撃士として自分の力を磨こう……そう思ったエステルだった。

 

その後、カシウスからの手紙でひとまず安否が確認でき、安堵した。それと、カシウス宛に届けられた小包の中に入っていた黒いオーブメント……それの解析を行ってくれる『R博士』を探すため、エステル達がそのオーブメントを預かることとなった。

 

 

その頃、遊撃士協会の二階では、シェラザードとレイア、シオンの三人が会話をしつつ、筆談をしていた。どこに目があるかわからない……念のためレイアの法術で、三人以外が筆談のメモを見ると遊撃士の活動報告書にしか見えないようになっている。

 

「大方の事情は分かりました。エリィさんに関してはこの後の情勢も鑑みて、ですね。(モルガン将軍と内密の話が出来ました。情報部のリシャール大佐が首謀となり、クーデターを企んでいるようです。)」

「ええ。その任を押し付ける形になって申し訳ないわね。事件は解決したわけだし、流石に向こうに戻らないとアイナも大変だろうし(軍自体が掌握済み、ね……あの仮面の男は解る?)」

「俺もそろそろ戻らないとユリ姉に怒られるしな……(ロランス・ベルガー、『ジェスター猟兵団』からの抜擢らしい……で、アスベルらの連絡によると、カシウスさんがその猟兵団絡みで向こうの臨時代表をしてるそうだ。)」

事情を知る人間は多い方がいい……そのため、ロレントに戻るシェラザード、そして受付のアイナに話をすることにした。何せ、相手は巷で人気のある『情報部』の精鋭……それと、あのロランス・ベルガー少尉だ。彼らを完全に出し抜く手筈は整っているが、切り札は多い方がいい。

 

「ま、オリビエも手伝ってくれるらしいし、せいぜいこき使ってやるわよ。(先生が絡むということは、この事件は連動している……解ったわ。グラッツにはあたしから伝えておくわ。)」

「程々にしとけよ……(俺は女王陛下とユリ姉、それとラッセル博士に伝えて、情報部の狙いを探っておく。あの野郎と剣を交えることになると面倒だが……)」

「アイナさんが絡むわけだしね……オリビエに同情したくなったよ(向こうに関しては、あと一週間程度で解決できるらしいです。もし、『彼ら』が関わっているならば『鉄血宰相』を通じて軍を動かすはずです……猟兵団もろとも殺害することも辞さないつもりで)」

彼らの見立てでは2~3ヶ月……だが、襲撃事件発生から五日が経過した時点ですでに解決の糸口が見えた……『結社』にしてみればカシウスがあまりにも早くリベールに帰ってくるのは拙い……最悪のケースからすれば、遊撃士と猟兵団の両方を物理的に抹殺しようと『鉄血宰相』を通じて軍に『猟兵団の殲滅』という形で命令を出すだろう。

 

「今回の件を見て思ったけれど、あの子の事だから心配はしてないわよ。けれども……お願いね。(そんなことを平然と……まぁ、先生の事だから大丈夫だろうとは思うけれどね)」

「ええ。(その点については、いろいろ手は打っておきました、ってアスベルが。)」

「あはは……(色々怖すぎだろ……)」

 

『鉄血宰相』ギリアス・オズボーン……その彼自身、遊戯盤の駒でしかないことを自覚しているが、その彼ですら『道化』として踊らされていることに彼自身は気付いていない……気付いた時には既に『後の祭り』だということを。

 

 

~レストラン『グランローゼ』~

 

エステルとヨシュア、エリィとトワ、そしてオリビエの五人は席に座り、早めの昼食をとっていた。

 

「それじゃ、オリビエはこの後ロレントに?」

「そうなるね。ここの料理も堪能したし、次はロレントに行くことにしたよ。麗しのヨシュア君やエリィ君、トワ君と一緒に行動できないのは心惜しいけれどね。散々迷った挙句の決断だったよ。」

「あはは……」

「えと、その……」

「そんなことで悩まないでください。」

オリビエの名残惜しそうに呟いた言葉にエリィとトワは苦笑し、ヨシュアはジト目でオリビエの方を見て辛辣に言い放った。

 

「ああっ、ヨシュア君にそのような言葉……この愛の伝道師オリビエ・レンハイム一生の不覚にして、道は未だ半ばということか……フッ、また機会があれば出会えるだろう。その時はより磨き上げた美の神髄を披露しようではないか。」

「こっちから願い下げたいぐらいだわ…あんたのフォローと機転に助けられたのは、事実だけれど…」

エステルはオリビエを見て、こんな疲れる奴相手ならまだ自分の父親の方がはるかにマシだと思い、ため息をつく。だが、彼の機転やフォローがなければ解決まですんなり行けたかどうかも怪しかった……それを認めるのは少々癪に障るが。

 

「それにしても、なぜロレントに?」

「ロレントの料理は、野菜が絶品と聞いているからね。シェラ君には酒に付き合うことと遊撃士の仕事の手伝いを条件に紹介してもらうことにしたのさ。」

「……えと、正気ですか?」

「(ある意味自殺志願よね、これ……)仕事明けのシェラ姉って本当にリミッター外れちゃうから。マジで注意した方がいいわよ。」

「そんなに凄いんですか?知り合いには樽五杯分開けてもケロッとしてる人はいましたが……」

オリビエの言葉が自殺志望としか思えず、ヨシュアは恐る恐る尋ね、エステルは内心そう思いながらも一応忠告はしておくことにした。そして、その会話を聞いたトワは知り合いの人……アインとセシリア(ルフィナ)を思い出し、冷や汗をかいた。

 

「それはそれで凄い光景だけれど……アイナさんは底なしだし、それに匹敵するかもしれないわね。」

「う~ん、私は見たことないけれど、そんなに凄いの?」

「酒限定の底なし沼ね。とりわけアイナさんは。」

以前一度だけ酒盛りを見たことがあるエステルはアイナの半端ない飲みっぷりに表情が引き攣った。

彼女自身まだ年齢に達していないので酒は飲めないのだが……それを差し引いても、あれだけの量の酒が胃の中に収まっているのが『普通じゃない』と思ったらしい。

 

「リミッターが外れる?あの、それって……『この前』よりもスゴイのかい?」

エステルの言葉が気になったオリビエはヨシュアに尋ねた。

 

「何と言うか……比較にならないと思います。その気になれば樽五杯なんて『前座』扱いかもしれません。」

「へぇー……えっ!?」

気不味そうな表情のヨシュアの答えにオリビエは流しかけたが、ある事に気付き驚いた。樽五杯が『前座』扱い?つまり、全体では……

 

「えと、これは考え直した方が……」

「もう遅いと思うわよ?」

「へ?」

寒気が走ったオリビエは今から変更しようと思ったが、時既に遅し。

 

「それじゃ、ロレントではよろしく♪」

「……ハイ、宜しくお願いします。」

(オリビエさん、頑張って生きてください……)

肩を掴まれたオリビエ……その相手である満面の笑みを浮かべたシェラザードから威圧を感じ、オリビエは素直に返事することしかできなかった。さながら蛇に睨まれた蛙……切実に言うならば、『もう遅い、脱出不可能だ!!』という感じだろう。

ある意味死刑執行台に立たされることになるオリビエに少々同情を禁じ得なかったヨシュアだった。

 

オリビエの抵抗もむなしく、シェラザードとオリビエはロレント行きの定期飛行船に乗ってロレントへと旅立っていった。そして、シオンは王都行きの定期便でエステル達と別れを告げ、エステルらは西ボース街道を西に進み、ルーアン地方を目指して旅立った。

 

 




第一章完……まぁ、外伝を挟むので次章は少し先になりますがw

そして見る影もなかったアルバ教授ェ……第二章あたりで少し出番はありますw

あと、ここら辺から原作といろいろイベントの内容が変わってきます。

何せ……ねぇ(黒笑)

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