英雄伝説~紫炎の軌跡~   作:kelvin

34 / 200
第29話 捜索

~ラヴェンヌ村 クロスナー家~

 

エステル達が自由時間で思い思いの時間を過ごしていた頃、レイア達はミーシャの案内でクロスナー家……アガットとミーシャの家にお邪魔していた。

 

「でね、お兄ちゃんたら『お前に彼氏が出来たら、紹介しろよ?』とか言ったんだよ?あの目は『俺に勝たねえと嫁にはやらん』みたい目をしてたの。そんなことを言うお兄ちゃんこそ彼女を作るべきだと思うんだけれどなぁ……」

「あはは……」

日頃から兄であるアガットの様子に憂いを込めた感情で呟くミーシャ。その言葉に流石のレイアでも苦笑しか出てこなかった。

 

「そういや、学校は休みなのか?」

「学園祭の準備とかで休日も動いていたから、生徒会のメンバーだけ特別に休みをもらったの。」

「もうそんな時期になるんだ。」

彼女が通う学園……ジェニス王立学園。本来は、リベールはもとより各国から留学生を積極的に受け入れてきた王立の高等教育施設。だが、百日戦役後その役割は大きく変わることとなる。

 

まずは設置されている科の見直し。将来の教育を担う人材育成のための社会教育課程、リベールの自然と文化を後世に継承していくための国風文化教育課程、導力技術の人材育成のための導力技術教育課程、更には三年前国を守るための勉学に励む士官教育課程が新設されている。教官に関してはほぼ据え置く形だが、新しい課程への対応のために数人ほど外部から招きいれている。出身はバラバラで、これには『生徒には多様性を磨いてもらいたい』……という女王陛下の意向が強く反映されている。

 

それに合わせて学園の施設も大幅に強化されており、生徒会もその対応やらでそれなりに忙しいのだ。学園の生徒からすれば、生徒会はいわば『尊敬されるべき人間』であり、ミーシャもその一人である。ただ、当の本人は謙虚にその事実を受け止めているが。

 

変わったのはジェニス王立学園だけではない。四年前、リベールの更なる技術革新を担う人材育成を専門的に行う高等教育を実現させるべく、ツァイスに導力技術を主に取り扱う大学……『ツァイス工科大学』が開校した。それまではZCFが人材育成も兼ねて行ってきたことを王家がバックアップのもとで行う形として設置したのだ。その二年後、エレボニアのルーレ工科大学と学術交流の協定を結び、エプスタイン財団全面協力により、遠隔地にいながらもお互いの講義を受講できる導力ネットによる『出張講義』を開始した。

 

この『教育改革』の結果、リベールにおける導力の意味合いは大きくなり、同時に万が一導力が使用できなくなった時の備えも各家庭や業者で各々準備する意識改革にもつながっている。

 

 

「そうだ、ミーシャ。このあたりに夜行性の鳥類とかはいる?」

「え?う~ん、私の記憶だと見たことはないかな。それだったらマリノアあたりになっちゃうし。」

ここの出身であるミーシャの言葉に、一同は持っていた疑念が確信に変わる。つまり、この村の少年が言っていたことやナイアルの話は、『鳥ではない何か』を見たということに繋がっている。

 

「ありがとう。で、ミーシャはいつ帰るの?」

「明日かな。」

「それじゃ、ついでに護衛と見送り位はするよ。」

「えと、報酬とかないんだけれど……」

「いいのいいの。私達だって善意でやってるわけだしね……って、エリィちゃん?」

明日ならばレイア達も丁度ボースに戻るところと重なるだろう。ミーシャが躊躇いがちに述べるとトワは笑顔で答えたが、エリィの疲れた様子が気にかかり、声をかけた。

 

「え?ああ、ごめんなさい。ちょっと疲れちゃって…」

「無理もないか……」

留学で各国を回っているとはいえ、一日で十数キロから数十キロを歩くのは流石にしんどいだろう。本職であるレイアや軍人であるシオン、巡回神父をしているトワと比べればその移動距離にはかなりの開きがある。

 

「でも、自分の足で歩いて調べる……いい経験ね。遊撃士は皆こういう風に徒歩で移動するのかしら?」

「そうなるかな。飛行船だとカバーできない部分が多いからね。」

交通機関は確かに便利だが、停まる場所が限定される以上カバーできない部分が生じてしまう。そこのカバーができるよう常日頃から鍛えておくのが大事だというのがカシウスの弁だ。まぁ、元猟兵に加えて星杯騎士、遊撃士という立場上徒歩での活動が多いレイアも最初は慣れなかったものの、今では一日に百キロ以上移動することもざらにある。

 

「シオンも基本徒歩なの?」

「俺もそうだな。最近は水面を走れないか試してる。」

「えーと、それは無理なんじゃ……」

「オーブメントを駆使したらいけるけれど。結構疲れるが……」

「いや、何のためにそれをやってるのよ……」

シオンの場合、グランセル城とレイストン要塞の往復……彼にしてみれば『通勤路』であり、彼しか知らない経路がいくつもある。レイストン要塞東の森は彼にとっての『ホーム』そのものだ。

ちなみに、水面走りは接地面に氷のアーツを集約し、ダッシュで駆け抜けるものらしい。

本人の目標はアーツなしでの水面走り……本格的に人間の領域を超えるつもりでないと難しい問題ではあるが。

 

「あははは……シオンってば、昔から変わってないね。」

「これは性分みたいなもんだよ。クローゼが真面目すぎるからな。」

シオンは別にクローゼの事を悪く言っているわけではない。王家たる人間である以上、誰よりも厳しくあろうとすることは悪いことではないし、寧ろ必要なことだ。だが、変にまじめすぎるのは返って悪いことしか生み出さない。

シオン自身もクローゼのそういった性格には苦言を呈してきた。まぁ、彼女が学園に入ってから少しずつその角は取れてきたようだが。

 

「今日はうちに泊まるんだよね。美味しいご飯を作るから期待しててね。」

「よっし、それじゃとっとと『用事』を片付けるか。」

「そうね。エリィは大丈夫?」

「ええ。これぐらいで挫けていたらお祖父様に叱られそうだもの。行きましょうか。」

「そうだね!不安要素は取り除くに限るし。」

ミーシャと別れ、村長に事情を話して廃坑の鍵を借り、四人は廃坑の中に入っていった。

 

 

~ラヴェンヌ村郊外 廃坑の奥~

 

(………あれって!)

(ビンゴ、みたいだね)

廃坑奥の開けた空間……そこには、飛行船があり、それが行方不明になっていた定期飛行船『リンデ号』であるとすぐに確信できた。

その飛行船の傍に数人ほどの兵、それと積荷らしきものが積まれていた。

 

(レイア、船の中に気配は?)

(感じないわね。大方、彼らのアジトの方でしょ)

どうやら、伏兵の気配はない。巧妙に気配を隠している様子もない。あの数人の兵を取り押さえれば、こちらの勝利だろう。

 

「さて、制圧と行きましょうか。」

レイアの言葉に四人が頷き、武器を構えて行動を開始した!

 

 

「は~、人使いが荒いよな、親方も」

「仕方ねえだろ。だが、これが無事終われば俺達だって「無事終われると思っていたの?」」

「「!?」」

兵たちが愚痴っていたところにさえぎられる会話。その遮った相手……レイア達の登場に兵たちは驚愕の表情を浮かべる。

 

「遊撃士協定に基づき、貴方達を定期船強奪および乗客拉致、金銭略奪の疑いで緊急逮捕します。抵抗したらもっとひどい目に遭いますよ。」

「って、その出で立ちは……“紫刃”!?」

「どういうことだよ!聞いてた話と違うじゃないか!A級以上の遊撃士は今回関与しないって!」

兵たちは四人……とりわけレイアの登場に動揺を隠せず、彼らだけが知っている事情を隠しもせず喋っていた。その言葉にシオンやレイア、エリィとトワも疑問を浮かべた。

 

「ま、詳しい話は後で聞かせてもらうけれど、ね」

「「は?」」

意味深な笑みを浮かべたレイアに疑問を浮かべる兵たち……だが、その一瞬が命取りとなった。

 

「吼えろ、光の剣閃!!」

「ガアッ!?」

シオンが先制とばかりにクラフト『グローラッシュ』を浴びせ、一人倒す。

 

「オーブメント駆動、撃ちぬきます!」

「援護するわ!」

「クソッ!」

間をおかず、トワとエリィもオーブメントを駆動させ、銃で兵たちを牽制する。

 

「行きましょうかね……ハアアアアアアアアアアアアアア……ハアッ!!!」

レイアは棒を構え、自らの身体能力を向上させるクラフト……長い歴史を刻むオルランド一族の中でも使えた人間は初代と彼女の二人だけという特殊な呼吸法による練功……『リィンフォース』を発動させ、闘気が彼女の身を纏うように溢れ出す。

 

「いくわよ、スパークアロー!」

「いきます、ダークマター!!」

駆動が完了し、エリィとトワがアーツを放って兵たちを怯ませた。

 

その隙にシオンはレイアと真正面の位置に立ち、レイピアを構えて闘気を放つ。

 

「遅れないでよ、シオン!」

「それはこっちの台詞だ、レイア!」

二人は同時に走りだし……刹那、彼らの姿が消えた。兵たちが不思議に思うまでもなく、突きの軌道が兵たちを次々ととらえ、その事実に気付こうとした時、彼らの中央にレイアがいた。

 

「せいやあああああっ!!!」

彼女の並はずれた膂力と遠心力によって生み出された竜巻は容赦なく彼らを飲み込む。二人は横に並んでその竜巻と距離を取り、闘気を高めて決め技の態勢に入った。

 

「これでっ!」

「終わりだよっ!!」

刹那、シオンのレイピアから放たれた光の奔流とレイアの棒から放たれた衝撃波が重なって竜巻にぶつかり、爆発を起こした。シオンの高速剣撃とレイアの卓越した棒術による合体技――コンビクラフト『ミラージュストーム』がさく裂し、兵たちは気絶した。

 

 

「よし、いっちょあがり!」

「私達、ほとんど何もしていないのだけれど……」

「あはは……まぁ、いいじゃないですか。」

兵たちを飛行船の中にあったロープで縛りつけ、彼らの見張りをシオンに任せて三人は念のために飛行船の中を捜索したが、手掛かりは見つからなかった。

けれども、空賊達のアジトをある程度予想できたので、王国軍に協力を仰ぐため一端ギルドに戻ってルグランに相談するために定期船から出ると、王国軍兵士が定期船を取り囲んでいた。

 

「武器を所持した不審なグループを発見しました!」

「お前たち!大人しく手を上げろ!」

兵士達は銃を構えレイア達に警告した。

 

「まったく世も末だぜ。こんな女子供が空賊とは……」

「意味わからん……馬鹿じゃねえの?」

「まったくよ。空賊扱いって……貴方たちの目は節穴ですか。」

兵士の一人が呟いた言葉にシオンは悪態をつき、レイアはため息をつき、遊撃士の紋章を見せた。

 

「フン、遊撃士の紋章か。そのようなものが身の潔白の証になるものか。」

「モ、モルガン将軍……!?」

「どうしてここに……」

それが証明にならないとモルガンは高を括り、トワとエリィは将軍自らがここに来ること自体考えられなかったようで、驚きを浮かべていた。

 

「各部隊の報告に目を通して調査が不十分と思われる場所を確かめに来たのだが。まさか、おぬしらが空賊団と結託していたとは思わなんだぞ。」

「言いがかりをつけるのは止めていただけないでしょうか?私達は、そちらより一足先にこの場所を捜し当てただけですし、空賊なら捕まえてあります……ひょっとして腹いせのつもりですか?」

モルガンの言葉を聞いたレイアはモルガンを睨み反論した。空賊に関しては一部だが、捕えている。

 

「それだからと言ってお前らが空賊と繋がっていない証拠があるわけでもなかろう。者ども!こやつらを引っ捕らえい!」

「……ああ、そう。そういうことならこっちにも考えがあります、よっ!」

モルガンの命令にレイアはスタンハルバードを取出し、衝撃波で兵士たちを吹き飛ばした。

 

「おらっ、どうした!!根性が足りないぞ!もっと熱くなれよ!!」

シオンは、兵たちに練度不足を指摘しつつも、素手で兵たちを投げ飛ばした。

 

「なっ!?」

「モルガン将軍、私はアスベルとシルフィアから一時的な『権限』を預かっています。女王陛下から賜った『いかなる立場の人間であろうとも、一方的な理由による妨害や拘束を行おうとした場合、実力による排除も辞さない』権限を……よって、その権限に基づき貴方をここで『排除』してもいいのですよ?」

百日戦役の功労者であるアスベルとシルフィアに対して、アリシア女王は彼らの力を手放すことはリベールにとってプラスにならない……非公式ではあるが、その二人は『行動不干渉』の権限を貰っている。彼らは『遊撃士』であるが、非常時には『星杯騎士』として動くことのできる人間……つまり、彼らに干渉しようものならば、その代償は計り知れないものとなる。レイアは二人がロレントを離れる際、リベール国内におけるその権限の付託を受けている。アリシア女王もその事実を承認している。

 

「くっ!?だが、貴様がリベールに楯突いたことに対してはどう説明をつけるつもり……まさか!?」

「その『まさか』だよ。それに、ここにはマクダエル市長の血縁者、そしてアルテリア法王から付託を受けたシスターがいる。さらに、彼女……レイアの依頼主はアルテリア法王だ。もし、これ以上エステル達や彼女らに危害を加えたり不当に拘束しようとすれば、本気で国際問題になりますよ。それと、俺が彼女の行動を『正当防衛』と認識すればいいだけの事ですから。」

「なあっ!?」

もしここで、仮に四人を拘束すれば、リベールが今まで築いてきたものが崩壊しかねない。それは、エレボニアやカルバードに対して非難の材料を与えることと同じ意味だ。さらに、アルテリア法国からも非難され、下手をすれば教会の力添えを受けられなくなる危惧すら発生するのだ。そうなれば、リベールはモルガンを『王国に対する反逆者』として認定せざるを得なくなる。

 

「はぁ……空の女神の名の元に選別されし七耀、此処に在り。識の銀耀、空の金耀……音を隔て、真を遮る眼となれ」

レイアは言葉を呟くと、周囲にバリアみたいなものが展開された。

 

「さて、一応盗聴対策は出来ました……モルガン“さん”、今回の事について説明願いますか?」

「……」

「黙っていても意味ないですよ。大方、お孫さんでも人質に取られたのですか?」

二人の言葉にモルガンの表情が変わった。それを見た四人はモルガンが人質を取られていること……今回の腑に落ちなさすぎる行動は彼よりも上の権限あるいは実績を持つ者……

 

「リシャールの奴だ。あやつは『脅し』をかけてきおった。リアンの奴も妻が人質に取られているそうだ。」

「となると、軍は掌握済みってことか……」

「なんてこと……」

「ク、クーデターでも起こす気ですか!?」

軍のトップクラスであるモルガンとリアン少佐の家族が人質に取られている……その事実に憤りを覚えた。それ以上にリシャールのやろうとしていることはクーデターそのものだ。誰が何を吹き込んだか……いや、帝国の件から考えてもその背後にいるのは『彼ら』しかいない……レイア、シオン、トワの三人は勘付いていた。

 

「せめてカシウスかアスベル、シルフィアがいればいいのだが……」

「大丈夫ですよ。彼らは早めに戻ってきますから。」

「本当か?」

「ええ……大きいお土産付ですが」

その時のレイアの言葉……その本当の意味を知ることになるのは、その約2週間後だった。

 

 




勘付いているとは思いますが、ここから一気にスピード解決しますw
つまり、原作の時間軸上2~3か月扱いになっているものが、怒濤の如く消化していく形になります。

なので、原作のイベントの順序が入れ替わったり、間にオリジナルイベントを入れたりしていきます。外伝の方は……まぁ、お察しください(ニヤリ)

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。