英雄伝説~紫炎の軌跡~   作:kelvin

30 / 200
第25話 繰り返しと再会

~リベール・ボース地方 アイゼンロード~

 

リベールと旧エレボニア領の境に位置するハーケン門とボースを結ぶ街道、アイゼンロード……そこからやや外れた森の中で、レイアは笑顔を浮かべ、『彼』……シオン・シュバルツは引き攣った笑みを浮かべ、彼の拾いもの……白いコートに身を包んだ金髪の男性は逆さ吊りにされていた。

 

「さて……何しに来たんですか、『敗戦国の皇族』さん?」

「ははは、何を言っているのかね麗しい御嬢さん?僕は不世出の天才演奏家、『愛の伝道師』オリビエ・レンハイムであり、それ以上でもそれ以下でもないのだがね。」

「あのな……逆らわないほうが身のためだぞ。お前の身元は全部把握済みだ。」

「いいの、シオン。こういう素直に吐かない人には、多少手荒にいかないと。さて、アレはどこにあったかな……」

「ちょ、ちょっとタンマ!お、お互い話し合わないかね!?そういった荒事では、争いは解決できないと思わないかね!?」

「お前、変わったな……」

満面の笑みを浮かべて威圧するレイア、それに冷や汗をかきつつも口を割らないスチャラカ演奏家、そして疲れた表情で彼女の変貌ぶりを呟いたシオン。

 

シオン・シュバルツ……彼も転生者であり、転生前はレイアを含め、アスベルやシルフィアと知り合いだった。彼は赤ん坊の状態で今は亡きアリシア女王の兄の孫として転生した。彼の両親に関しては八年前に死別しており、その後はユリアに預けられた。彼を政争の具にさせないための苦肉の策として、ユリアの義理の弟として育てることにしたのだった。

 

リベール王国王位継承権は第一位……クローゼやデュナンと同列であり、彼も自分の生まれの事をアリシア女王から聞いているが、『俺は『亡き者』である以上、次を継ぐのはクローゼだ。』と言って突っぱねているのだ。デュナンに関しては完全論外らしい。

 

閑話休題。

 

事情は、シオンの『拾い物』……帝国からの自称観光客『オリビエ・レンハイム』をレイアが見つけ、シオンに事情を聴き、その上でオリビエを連行して物理的に吊し上げているのだ。この時期に帝国の……しかも、一線級の『お偉方』が来る理由を聞きだすことだ。

 

「隠しても無駄ですよ?私は個人的にセドリックやアルフィンと会ったことがあります。その時に貴方とも会いましたからね……オリヴァルト・ライゼ・アルノール皇子?」

二年前、帝都の夏至祭で偶然にもユーゲントⅢ世とプリシラ皇妃にお会いし、バルフレイム宮に招待されてセドリック皇子とアルフィン皇女とも知り合ったのだ。そして、この目の前に映る金髪の青年……庶子故に皇位継承権を持たない人、オリヴァルト・ライゼ・アルノール皇子に会ったことがある。それ故に誤魔化しは無用の産物である。それを悟ったオリヴァルト皇子もといオリビエは降参のジェスチャーをとる。

 

「……は、話すから、下ろしてくれるとありがたいかな。」

「正直に話さねえと、ヴァレリア湖に沈める……いや、ミュラーさんに引き取ってもらうか。」

「正直に話しますので、それはヤメテクダサイ」

流石に彼のお付きもとい親友には勝てない様で、オリビエは降参して下ろしてもらい、二人の質問に答えた。

 

「カシウスさんに会いたくて、ねぇ……あの『怪物』とやりあおうって気概には賛同したいが。」

「まぁ、それもあるのだけれど、君たちにも会っておきたいと思ってね。」

「私らに、ですか?」

シオンの呟き、それを聞きつつもオリビエはレイアとシオンの二人にも接触できたことに僥倖とでも言わんばかりの表情を浮かべていた。

 

「普通ならば例外など認めない遊撃士協会が『特例』という形で準遊撃士を承認した『あの二人』……そして、『あの二人』に追随する実力者である君らと会っておくことは得策だと感じたのさ。」

「「……」」

あの二人というのはアスベルとシルフィアのことだろう。だが、年齢の事は伏せられ、そのことは協会内でも『最重要機密』とされている真実を知るオリビエに二人は疑惑の眼差しを向ける。だが、それを意にも介さずオリビエは話し続ける。

 

「そのことはアスベル君とシルフィア君に聞いたのさ。もっとも、君と同じように吊し上げられたけれど………いいケイケンダッタヨ、ウン」

「歴史は繰り返す、か」

どうやら、先程のよりもさらにきついことをされたようで、軽くトラウマになっているようだった。

 

「ま、いっか。貴方の事は黙っていてあげるけれど、二つ条件があります。」

「ほう?」

「一つ、この事件の解決に一役働いてもらうこと。二つ目はエステル達がグランセル地方に来た際、それとなく協力すること。」

「ふむ……そんな簡単なことでいいのかい?」

てっきり身柄をある程度拘束されることも想定していたオリビエだったが、レイアの意外な提案に目を丸くした。

 

「貴方が本気であの『鉄血宰相』とやり合う覚悟があるかどうか……それを見るためのものですよ。」

「これは手厳しい。君のような麗しい女性のキスでもあれば、かなりやる気になるのだがね?」

「何でしたら物理的なスキンシップでもしてあげますか?運が良ければ生き残れますけれど」

「ゴメンナサイ、調子に乗りました。」

「やれやれ……」

レイアの言葉にオリビエはからかいも混じった言葉をかけるが、レイアがスタンハルバードを取り出した瞬間に命の危機を感じてオリビエは謝り、シオンはため息をついた。

 

「で、シオンには情報部……特に、リシャール大佐の動きを知りたいの。」

「動き?目的じゃないのか?」

「目的に関してはある程度把握しているし、そのための布石も打った。シオンには、これから起こりうることへの対策……できれば、あの男も。」

「『アイツ』か……解った。いざとなったら圧倒してもいいんだよな?」

「ええ。彼に対しては『手加減』なんて難しいでしょうから。」

シオンもアスベル達の計画……一連のプランは知っている。そのため、少ない言葉でも彼には何のことを言っているのかすぐに理解できた。すべては、いずれ姿を現す『あの男』を倒すために。

 

「それと……カシウスさんに関しては、こちらから既に手は打っている。アスベルとシルフィアも、すでに動き始めた。」

「へぇ、あの二人が揃って動き出すとは、余程の大事かな?」

レイアの意味深な発言に、オリビエは気になってレイアに尋ねると、レイアは真剣な表情をしつつも笑みを浮かべて呟いた。

 

 

 

「いずれ来るべき時の為の、小事ですよ。」

 

 

 

~商業都市ボース ボースマーケット~

 

ルグランから一通りの事情を聞いたエステル達は、一通り依頼を片付けてからボースの市長に会いに行った。だが、市長は不在であり教会に向かったと聞いて行ったが、市長お付のメイドであるリラに会ったが、肝心の市長はサボってマーケットに行ったらしく、エステル達はリラと一緒にマーケットに向かったのだった。

 

エステル達がマーケットに着くと、一人の女性が商人らしき二人に注意をしていた。リラはその喧騒を見て溜息をついた。

 

「ん?あの女性……って、リラさん?」

「その、恥ずかしながらあそこの女性が市長です……」

リラは溜息をついた後、商人の男性2人に説教をしている身なりがいい女性が市長だとエステル達に言った。

 

「恥を知りなさい!この大変な時に食料を買い占めて値段をつり上げようとする浅ましい行為、ボース商人の風上にも置けませんわ。」

「しかしお嬢さん……」

「僕たちはマーケットの売り上げアップを考えてですね…」

二人の商人は及び腰で言い返したが、その言葉はこのマーケット…ひいてはこの地方を預かる市長にとって火に油を注ぐ言葉であったことは言うまでもなく、市長はさらに商人達に怒鳴った。

 

「お黙りなさい!他の品ならいざ知らず、必需品で不当に値段を吊り上げて暴利を貪ったとあっては、マーケットの悪評にも繋がります。それに、不安の声が広がりつつある状況で更に煽り立てるのですか!お客様の生活のためにも即刻、元の値段に戻しなさい!」

「は、はい……」

「わかりました……」

市長の一喝を受けた二人は肩を落として頷いた。

 

「何と言うか、凄い方ですね。見たところお若いのにあれだけの手腕を持っているなんて。」

「そうですか。そう言っていただけるとありがたいです……」

トワはその手腕に感心し、リラは躊躇いがちにその言葉を受け止めた。

市長はそれを見た後、怒られて表情を暗くしている商人達に自分のマーケットに対する考え、ひいては意図を話した。

 

「わたくしとしては、貴方たちのボースマーケットにかける情熱を疑っているわけではありません。寧ろ信頼しております。ただ……貴方方にも判って欲しいのです。商売というものは、突き詰めれば『人と人の信頼関係』で成立している事を。大丈夫ですわ、貴方たちだったら立派なボース商人になれますから。わたくしが保証いたしますわ。」

「お、お嬢さん……」

「はい、頑張ります!」

市長から励まされた2人は元気が戻り、自分の持ち場に戻った。

 

「ふう……あら、リラじゃない。みっともないところを見せてしまったわね。」

「いえ、相変わらず見事なお手並みです。それよりお嬢様、こちらの方々が用がおありだそうです。すぐにお屋敷にお戻りくださいませ。」

「あら、その紋章は……。ひょっとして貴方方が、わたくしの依頼を引き受けて下さるブレイサーの方々かしら?」

リラの姿が目に入った市長はバツが悪そうにリラのほうを向くが、リラは先程のお手並みを率直に評価しつつ『来客』の事を伝える。エステルがつけている遊撃士のエンブレムに気付いた市長はエステルに確認した。

 

「うん、そうだけど……」

「ひょっとして貴女が……」

「ふふ、申し遅れました。わたくしの名はメイベル。このマーケットのオーナーにしてボース地方の市長を務めています。」

エステルとヨシュアの疑問に答えたボース市長ーーメイベルは挨拶をした。

 

「って、そちらにいるのはエリィさん?お久しぶりですわ。」

「お久しぶりです、メイベルさん。その節はお祖父様共々お世話になりました。」

「それはこちらの台詞です。貴女やマクダエル市長のおかげでこの地域の商業も発展したようなものですから。」

メイベルはエリィの姿に気づき、声をかけるとエリィも謙虚に挨拶を交わした。

 

このボース地方は十年前までエレボニアに接する地域だったが、百日戦役後……ハーケン門以北の『北ボース地方』との交易が盛んとなり、紡績都市パルムとは経済連携も視野に入れた都市間協定を結んでから、更に発展していったのである。その条約を結んだのはメイベルの父親……前ボース市長である。ボースはいわば旧エレボニア領とリベール領を結ぶ貿易中継地の役割を果たしているのだ。

 

そして、メイベルが市長の座に就いてから間もなく、表敬訪問という形でマクダエル市長が訪問されたのだ。エリィもそれに同行しており、メイベルとはその時に知り合った仲である。その後、クロスベルとボースの貿易協定を締結。これは先んじて結ばれたロレント=クロスベルの協定の影響もあって、双方共に大きな混乱もなく承認されたのだ。

 

「エリィって、結構顔が広いのね。」

「そうでもないわよ。メイベルさんとは偶然お会いできただけだし。」

「謙遜しないでください。ボースの発展は貴女のお蔭でもあるのですから。」

「えっと、ありがとうございます。」

「さて、依頼の事でしたわね。それでは、行きましょうか。」

エステルはエリィの交友関係の広さに感心し、エリィは謙虚に答えるが、メイベルがエリィの功績を褒めるとエリィは苦笑しつつも礼を述べた。

そして、改めてエステル達に依頼内容を話すため、ボース市の高級レストラン『アンテローゼ』に案内した。

 

 




ちょっとの間だけ別れて別行動を取ります。

流石にレイアがいたらエステルが成長できませんのでw

そして……アスベル達は盛大に暴れます、いろんな意味で(意味深)

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。