英雄伝説~紫炎の軌跡~   作:kelvin

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※オリ設定です。



番外編 シードのお見合い

~リベール王国 レイストン要塞~

 

「はぁ~……」

七耀歴1194年、百日戦役終結から二年……リベール王国内でも鉄壁ともいえる堅強な要塞、レイストン要塞の一室……宛がわれた個室で一人の男性がため息をついていた。

 

彼の名前はマクシミリアン・シード。この時の階級は中尉。本人曰く『普通』の軍人なのだが、モルガン将軍からは『お前のような普通がいるか』と言われ、カシウスからは『頑張れ♪』とサムズアップで称賛されるほどの実力者……とどのつまり、リシャールに次いで実質的な地位にいるのは事実。

 

彼がため息をついたのは、この半刻前にモルガン将軍から出された『命令』が原因に他ならない。

 

何で、こんなことになってしまったのだろう、と。

 

 

「お見合い、ですか?」

「そうだ。お前はまだ未婚だろう?」

うわぁ、いつもは見れないモルガン将軍が笑顔って……つまり、これはあれってことですよね?

『逆らったら減給か降格だぞ♪』ってある意味脅してるようなものじゃないですか。

 

「ええ、まぁ……それが将軍とどう関係が?」

「……命令だ。逆らったらわしが納得いくまで模擬戦でも」

「謹んでお受けさせていただきます。」

「そんなにわしとの模擬戦が嫌か………」

彼と模擬戦をやってまともにいられるのは、カシウスを除けばシオンだけしかいない。そのことを散々実感している私にとってみれば、模擬戦をやるぐらいなら見合いをしたほうが数百倍マシだ。目の前にいる将軍は不服そうだが、命には代えられないのです。

 

「まあよい。場所はここだ。」

「ここって……」

その後、シードの普段は聞くことの無い怒号が響いたとか響かなかったとか………そして、今に至る。

 

(結婚など考えてもみなかったが……)

そもそも、そこら辺をあまり意識などしたこともなく、自分自身『大切な人を守れる程度の力を発揮できるように己を磨く』程度の物差しでしか考えていなかったのだ。

 

しかし、将軍から提示された場所はある意味驚愕だった。

なぜなら……

 

 

~お見合い当日 エルベ離宮~

 

「………」

エルベ離宮にセッティングされた『お見合い会場』の一室。そこに設置されている椅子に座るシードは内心冷や汗ものだった。緊張とかそういうものではない。何故にこの場所がセッティングされ、そしてご丁寧に用意された…今シードが身に付けているスーツ。ここまで用意周到だという事実に、モルガン将軍のみならず様々な人間が関わっていそうだ。

 

いや、そうでなければあの三人の発言は腑に落ちない。

 

『確か、今日は中尉のお見合いの日だね。お相手も申し分ない。いい結果を期待しているよ。』

何故か彼のお見合いのことを知っているリシャールは満面の笑みで答え、

『お前には正直勿体なさすぎるぐらいの相手だぞ。頑張ってこい♪』

と、カシウスは満面の笑みを彼に対して浮かべ、

『えと、頑張ってください。』

ユリアは疲れた表情で、彼に励ましの言葉を送った。

 

 

………とりあえず、この見合いを何事もなく終わらせることにしよう。自分はまだ結婚する気もないのだから………この時のシードは、本気でそう思っていた。

 

 

その考えが浮かんだところで、シードはふとお見合い相手が誰なのかを知らなかった。将軍に聞いても『勿体ないぐらいの奥さん候補だ』としか言ってくれなかったのだ。

 

 

「し、失礼します。」

すると、扉が開き、金髪の少女が入ってきた。見るからに秀麗。その清楚さは惹かれるものがある。確かに、将軍が言っていたことは間違いではなかった。間違いではないのだが……

 

(将軍……間違いではないが、色々おかしいだろう……)

どう見ても、シオンや彼の友、彼の幼馴染とほとんど歳が変わらないことに驚きを隠せない。

シードは立ち上がり、少女の元に歩み寄る。

 

「私はマクシミリアン・シードと言います。失礼ですが、貴女の名前は?」

 

「私はメアリー・アルトハイムと申します。」

 

シードの案内でメアリーは席に座り、シードも席に着いて互いの事を話し始める。

 

歳で言えば、互いに十代……

メアリーに至っては、まだ11歳だという……なぜ、この話を受けたのかを尋ねた。

 

 

「えと、なぜ貴女はこのお見合いを?適齢期からしても……」

「父の命令です。私達の印象はリベールの人からすれば好ましくないものですから…」

旧サザーラント州…アルトハイム自治州は講和条約の際、ハーメルの件についての黙秘を交換条件とする形でリベールに割譲された経緯がある。アリシア女王の恩赦による対等な立場の保証があるとはいえ、リベールを侵攻したエレボニア…帝国の人はリベールの人にいい印象を持たれていないのは、軍人であるシードも解っていた。

 

つまり、アルトハイム家は謝罪の意味を込めた『人柱』として彼女をリベールに送り込んだ。彼女の両親とて自分の大切な愛娘をかつての侵攻国、ひいては戦勝国に引き渡すことを躊躇ったに違いない。それは、彼女とて無関係ではない。

将軍らは一体何の意図を持って自分を指名したのだろうか……それが腑に落ちない。

 

「……貴女は、本当にそれでいいのですか?」

「え?」

「言葉のとおりです。確かに、圧倒的劣勢と言われた状況からリベールが勝ち、貴女方の住む土地がリベールの統治下におかれた。そして、エレボニアとリベールの間に言い知れぬ『壁』があるのも事実。それをなくすためのいわば『人質』……それを貴女は承知しているのですか?」

戦争のみならず、争いというものに勝ち負けがあれば、多かれ少なかれそれに伴う『代償』があるのも事実。

私も軍人である以上、それを承知の上で戦っている。それによって喪うものをできる限り減らし、『守る』ために。

 

シードの問いかけに、メアリーはしばし考え……そして首を縦に振り、こう答えた。

 

「国が違うとはいえ、かつてのサザーラント…アルトハイムは、私の……故郷ですから。故郷を守りたいと思うからこそ、父の命令を……」

「……そうですか。」

あの少年と幾何も変わらない歳の少女にしては、しっかりした考えを持っているようだ。ただ、その言動から涙を押し殺しているように見えた。シードは席を立ち、メアリーの傍に立つと彼女の頭を撫でた。メアリーもシードの行動に少し驚きの表情を見せる。

 

「あ……」

 

「無理に背伸びする必要はないです。誰だって、今すぐ大人になるのは出来ないことですから。」

着実に一歩ずつ歩んでいく……それは、人間ならだれしもがそうする必要がある。いくら才能があると言っても、余程の人間でない限りは努力を怠ればただの持ち腐れであるが、才能がないからと言って焦ったとしても、何も変わりはしない。自分を壊してしまうだけだ。

 

今回の命令だって、彼女の中ではどこかしら納得できかねる部分はあったはずだ。シードはそう思ったからこそ、そう感じたからこそ彼女に諭した。

 

すぐに納得などできない。少しずつ理解していくしかないのだ……自分のできる範囲で着実に、しっかりと…

 

「……う……うわああああああああんっ………!!」

優しい表情を浮かべて言葉をかけたシードに、メアリーは己の感情を抑えきれず、彼に縋り付いて泣いた。

シードは、彼女が泣きやむまでなすがままにさせてあげたのだった。

 

 

数分後、メアリーは落ち着きを取り戻し、シードも安堵の表情を浮かべる。

 

「す、すみません。取り乱してしまって……」

「いえ、お気になさらず。」

「そうは言われましても……」

いきなり初対面の人に対して失礼な行動をとってしまったことに謝るメアリー、対して自分のやったことも生意気だったのではと反省しつつ、メアリーをなだめようとするシードだったが、話は平行線の一過を辿っていた。

 

埒が明かない互いへの配慮……その均衡を破ったのは、メアリーの決断だった。

 

「……決めました。」

「え?」

「メアリー・アルトハイム、不束者ではありますが……貴女の妻にさせてください。」

優しい微笑みを浮かべながら、頭を下げたメアリー。それとは対照的に、シードの思考は彼女の言葉を聞いて停止していた。

 

少しして再起動すると、彼女に尋ねた。

 

「………はい?あの、正気ですか?」

「ええ。」

「…………」

彼女の微笑みを見て、断って彼女を泣かせたくない……先程、ある意味『泣かせた』身としては、彼女の泣き顔を見たくない……既に、逃げ道は断たれたようなものだ。

 

この見合いをセッティングした彼らの策通りになるのは少々癪に障るが。

 

 

「このマクシミリアン・シード、僭越ながらあなたを一生愛することを誓おう。」

この世の中に『一目惚れ』という言葉がある。紛れもなく、自分は彼女に惚れたのだ。見合いをする前の自分の心境などどこかへ消し去ってしまっていたようだ。

 

 

「え、ということは……」

「ああ、よろしく頼む、メアリー」

互いに身を寄せ合う……そして………

 

「んっ……」

どちらから、ではなく互いに顔を近づけ、口づけを交わした。

 

「まさか、憧れのシードさんにファーストキスをあげられるとは思ってもみませんでした。」

「こちらも初めてだ………ん?メアリー、一つ聞いていいか?」

「何でしょうか?」

ふと、メアリーの言葉に若干の違和感を感じたシードはメアリーに尋ねる。

 

「今『憧れの』という言葉……私は少なくとも初対面のはずなのだが、何故君は私の事を?」

「えっと、実は……」

シードからの質問に、メアリーはしまった、という感じで驚きどう答えようか迷っていたところ、

扉が開いて妙齢の女性が入ってきた。

 

「それについては、私から説明いたしましょう。」

「じょ、女王陛下!?」

「陛下!」

女王陛下!?一体何がどういうこと……いや、見合い会場の時点で陛下が協力なされていることは、想像に難くなかったが……

 

「実は、メアリーさんと彼女の両親から相談を受けまして。それで、私が一肌脱いだわけです。」

「ありがとうございます、陛下。」

「いえいえ。約束通り、子どもが生まれたら私が名付け親になりますね。」

「はいぃ!?」

ということは、待てよ……まさか、将軍らは……

 

「まったく……気の早いことで……」

「あははは…」

「ともかく、これで一つ悩みの種が消えたのう。」

「中尉、おめでとう」

は、はは、ははははハハハ……

 

「このフリーダム上司共が!!!」

上司が何だ!?日頃のストレス、晴らさせてもらうぞ!特にカシウスさん!!!

 

「シードがキレたぞ!!」

「総員退避~!!!」

「生きて明日の朝日を拝めると思うなっ!!!」

その後、本気で怒ったシードは全員に襲い掛かるが返り討ちに遭い、ボロボロになってメアリーの看護の世話になったのは言うまでもない。

 

 

その五年後、シードは晴れて結婚式を挙げる。妻は勿論、ウェディングドレスを身に纏ったメアリーだ。これ以降、シードは愛称の一つである『リアン』と呼ばれるようになり、メアリーはメアリー・A・シードと名を変えた。

シードもといリアンは軍の少佐に昇格し、モルガンの訓練という名のしごきを懸命にこなしていった。メアリーはジェニス王立学園で美術教育分野の勉強に励み、教員の道を志すようになり、リアンも彼女の道を応援していく。二人の仲は良く、『喧嘩とは無縁そうな夫婦』とも言われるようになり、リベールでも指折りの夫婦と呼ばれるようになっていくのである。

 

 




本編を書こうかと思ったら、シードさんの番外編のネタが思いついたので書いてみた。

なんで彼女が奥さんだって?思いついたから(キリッ

この作品では、シード少佐→リアン少佐となります。単に「マクシミ『リアン』」です。六文字だと長いんです(ナイトハルト少佐『解せんな』)

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