英雄伝説~紫炎の軌跡~   作:kelvin

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第22話 護衛の意味

~遊撃士協会 ロレント支部~

 

カシウスを見送った後、エステル達は着実に依頼をこなしていき、その過程でロレント市長宅での窃盗事件を調査することとなった。結果として実行犯を取り逃がす形になってしまったが、盗まれたものは取り返すことに成功し、一応依頼は解決したものの、エステルは納得のいかない表情を浮かべていた。

 

「お疲れ様。そして、これを渡すわね。」

「これは?」

「正遊撃士の推薦状よ。リベールでは、グランセル・ロレント・ボース・ルーアンの各支部から推薦状を貰い、正遊撃士の承認を経て、晴れて正遊撃士になれるわ。」

尚、北ロレントおよび北ボースで準遊撃士になった場合に関しては、その二つとグランセル、更にはロレントの推薦状がないと正遊撃士にはなれない。なので、推薦状を出すのはグランセル地方の次に厳しい評価がなされ、それなりの実績が求められているのは事実。

 

「その、いいんですか?僕たちなんかが……」

「ここ一週間で約20件の依頼解決に、窃盗事件の調査までやってもらったんだもの。正直『上出来』という他ないわ。」

「あはは……あたしとしては、出来そうだったからやってただけだけど。」

「そんなことを言えるのはアンタぐらいよ…」

依頼の難易の違いはあれども、事実から言えば、一般的な準遊撃士からすれば十二分に異常だ。遊撃士で一日に約三~四件のペースで依頼をこなすのは、かの『風の剣聖』に匹敵するのだ。

ヨシュアはともかくとして、それほどのハードスケジュールを難なくこなすエステルのバイタリティにシェラザードはもはや呆れるしかなかった。その人並み外れた体力は彼女の過ごしてきた環境や、レイアから教わっていた訓練にも関わっていることだが。

 

その後、支部に連絡が入り、定期飛行船『リンデ号』の消息が途絶え、カシウスの安否すらも解らないという一報が入る。

 

 

~ブライト家~

 

家に帰ったエステルは部屋に閉じこもり、代わりにヨシュアとシェラザードがレナに事情を説明した。

 

「そう……」

「そう、って……レナさん、心配してないんですか?」

真剣な表情で聞いていたが、どこか安心した表情を浮かべるレナを不思議に思い、シェラザードは尋ねる。普通であれば、自分の夫が安否不明ともなれば慌てふためくだろう。だが、そういった表情は見られなかった。寧ろ、『生きている』ということを確信している印象を強く感じた。

 

「あの人とは長い付き合いよ?誰よりもあの人の事を知っている。あの人、悪運だけは人間じゃないってぐらいに凄いから。それは、私がよく知っているから。」

「あはは……確かに、悪運強いらしいからね。」

「レナさんがそういうことを言うと、凄く説得力がありますね……」

カシウスの傍に長年連れ添っている者だからこその発言……その発言にヨシュアとシェラザードは驚嘆の表情を浮かべる。

 

「それに、エステルのことだから心配はいらないと思うわよ?」

「それってどういう……」

「あ~、お腹すいた~……もう、ペコペコよ。」

レナの言葉にシェラザードは首を傾げるが、空腹で下に降りてきたエステルでその意味を大体察した。

 

「エステル、その、落ち込んでないの?」

「え?そりゃ、大事なのは解ってるんだけれど、母さんが信じてるのにあたしが信じないなんて、それこそありえないしね。それに、父さんの悪運はあたしもよく知ってるし。」

「何と言うか、信頼されているのか貶されているのか解らないわ……」

「ま、まあ、それだけ信頼されているということでしょう。」

シェラザードにしてみれば、自分の師でもあるカシウスをいろんな意味で“信用”されていることに、どう反応していいかわからずに複雑な思いで、苦笑やら呆れやら混じった笑みを浮かべていた。その隣で、最早笑いしか出てこない心境に陥っていたヨシュアだった。

 

「それで、エステルは行くの?」

「モチのロン。しばらく留守にしちゃうけれど……」

「心配しないで。その代り、見つけたら首根っこ掴んででも連れて帰ってきてね♪」

「うん!」

レナのある意味物騒な発言というか、言葉からしてもカシウスが戻ってきたときには『心配させた分のツケ』を払わされることに、ヨシュアとシェラザードの二人は震えが止まらなかったらしい……そして、心の底で『父さん(先生)、早く帰ってきて!!』とこの時ばかりは“空の女神(エイドス)”に直接頼み込むぐらいの念の入れようだったとか……

 

 

~遊撃士協会 ロレント支部~

 

「事情は分かりました。しかし、あの四人やカシウスさんに続いて、シェラザードまで抜けると人手不足は否めないけど、他ならぬカシウスさんのことだものね。遠慮せずに行ってきて頂戴。」

「大抵の事はリッジに任せてやって。三倍ぐらいは行けるはずだから。」

アイナの言葉に、シェラザードは後輩の遊撃士をガンガン使っていくように言い放った。

 

「解ったわ。あ、そうだ。ついでとは言ってなんだけれど……護衛の依頼を頼めるかしら?」

「護衛、ですか?」

シェラザードの言葉にそう計らうよう頷いた後、何かを思い出したように言ったアイナの発言にヨシュアは首を傾げる。

 

「ええ。貴方達なら正遊撃士を目指す以上、王国各地を歩くことになるでしょうけど……その『ついで』みたいなものよ。」

「……正直言って、バイタリティは私の目から見ても正遊撃士トップクラスと遜色ないけれど、まだまだ実績は浅いわよ?」

普通の水準の準遊撃士のレベルから見てもそれすら大きく引き離しているエステルの技量……それでもまだまだ経験の浅いエステルに務まる仕事なのか、とシェラザードは疑問に思ってアイナに問いかけた。

 

「依頼主の意向で、彼らに遊撃士という経験を積ませることでより多くのことを学ばせるのが目的だから。ちなみに提示された報酬の金額がこれよ。」

シェラザードの問いかけに答えた後、アイナが見せた依頼票の報酬欄……それを見た三人は驚きを通り越して絶句した。

 

「じゅ、15万ミラ!?」

「依頼人からしたら……いえ、それでも破格ですね。」

「破格ってレベルじゃないわよ!?先生ですらこんな金額の依頼なんて殆どないレベルなのに……!?」

遊撃士の仕事でも、これほどの額となると貴族や商人、それ以上のクラスでないと出せない金額に相当する。心なしか後ろめたい任務なのかと疑ってかかりかねないレベルだ。

 

「総本部にも一応聞いたけど、依頼がそうなっている以上どうしようもないみたいね。後、護衛に関しては一切心配しなくていいと思うわよ。多分、あなた達より実力があると思うし。」

「あ、あたし達より実力があるって……どんな人達なの?」

同行者の三人が気になったエステルは引き攣った表情をしながら質問した。

 

「護衛の人達というよりは、その人たちを鍛えたのが、ってことよ。あと、フォローという形で正遊撃士も一人入れるけれど……驚かないでね、シェラザード。」

「は?何で私?」

アイナの出た言葉にシェラザードは首を傾げるが、彼女から告げられた次の言葉にはシェラザードでも驚くこととなる。

 

「“紫刃(しじん)”の異名を持つ彼女よ。」

「はぁ!?」

「シェラさん、貴女が驚くだなんてどういう人物なんです?」

正遊撃士が同行……その事実だけでも驚愕物なのだが、シェラザードが驚いたのは彼女の異名を聞いた瞬間であった。

 

「紫刃……私達と同じ遊撃士の一人で、リベールはおろか西ゼムリアではトップクラスのA級遊撃士。特にエステル、アンタとは一番面識がある人間よ。」

「え、え?」

シェラザードの言葉に意味が解らず、頭の上に?のマークが付きそうな位混乱しているエステル。

その時、階段から足音が聞こえ、三人がそちらを見る。

 

「エステル、ヨシュア、シェラさん。お久しぶりですね。」

「レ、レイア!?何でこんなところに!?」

「何でって……アイナさん、例の話は既に?」

「ええ。」

驚きを隠せないエステル達とは対照的に、アイナに依頼について確認するレイア。エステルにしてみれば、いろいろ言いたいことはあるが、彼女が遊撃士だということに全くと言っていいほどに気付いていなかった。いや、『気が付かなかった』と言うべきだろう。

 

「ちょっと、レイアが遊撃士だなんて初耳なんだけれど!?それに、あたしの話を聞いて色々羨ましがったじゃない!!」

「怒られる筋合いはないんだけれどなぁ~……エステルの話を聞いて懐かしがっていただけだし、遊撃士かどうかなんて聞かれたことなかったし。」

「うぐ……」

「でも、なぜA級正遊撃士の貴女が?」

「それは依頼人に聞いてよ……私も指名されただけだし。」

レイアの事について散々問いただすも、レイアの反論にエステルは黙ってしまい、ヨシュアの質問には『私でも解らない』とでも言いたげに答えた。本当のところは、レイア自身よく知っていることだが、あえて言わないでおくことにした。

すると、二人の人物が二階から下りてきた。

 

「えと、貴方たちが遊撃士の方々ですか?」

「えっと、そうだけれど……君は?」

「はい。トワ・ハーシェルと言います。見習いの身ではありますが、七耀教会のシスターでして。」

「え?シスター?にしては、年が若いような……」

「あの、私こう見えても16ですよ?」

「う、嘘……(この容姿であたしと同い年って、マジ?)」

どう見ても年下にしか見えないのに、エステルと同い年……その事実に、彼女がこの世界とは隔絶した何かを会得し、この可愛らしさを維持しているのでは、と思ったとか……

 

「それで、そちらの女性は……」

「えと、エリィ・マクダエルと言います。よろしくお願いします。」

パールグレイの少女、エリィは深々と頭を下げて挨拶をした。

 

「よろしくね。あたしはエステル・ブライト。」

「僕はヨシュア・ブライト。」

「わかったわ。よろしくね。」

「よろしく、エステルにヨシュア。」

「こちらこそ、宜しくね。トワにエリィ。」

 

三人が仲良く挨拶している一方、シェラザードは気になることをレイアに尋ねた。

 

(ねぇ、何でマクダエル市長の孫娘さんがアンタたちと一緒にいるのよ?)

(エリィが留学に来ている最中に、ちょっとトラブルに巻き込まれてて……アスベルが助けたんです。でも、アスベル本人は忙しいので、エリィの見識を広めてもらうためにも、この方が確実でいいかと。最低限の護身術は身に付けていますから安心してください。)

正確には、街道途中で魔獣に襲われそうになっていたところに、偶然通りがかったアスベルが魔獣を殲滅し、保護する形で助けたのだ。その際、彼女の資質を見越した『護身術』を一通り叩き込んである、とのこと。

 

(あなた方の護身術は最低限でも立派な『武器』なのだけれど……ま、頼りにさせてもらうわよ?)

(ええ。)

 

 

こうして、次代を担う英雄への道を辿っていく者たちの旅が始まったのである。

 

 

 




てなわけで、トワ+エリィ参戦です。ここでの登場は後のイベントにおいて重要になります。

そして、初期の方で出てきている『彼』に関しては、色々出番があります。

あと、閃の軌跡をプレイして『これはありだな(ニヤリ)』……詳細は伏せます。

次回、『モルガンの気苦労は百八式まであるぞ』(嘘)

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