英雄伝説~紫炎の軌跡~   作:kelvin

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オリキャラ一人増えました。



第21話 敵の敵は味方

カシウスはアスベルの言葉……その道の『専門家』に頼むことに疑問を投げかける。

 

「その……正気か?」

「無論正気ですよ。でなきゃ、こんなことは言いません。帝国正規軍もアテにならない、領邦軍も自分たちの対応で一杯一杯、帝国政府は猟兵団の鎮圧に前向きではない……確かに、遊撃士の視点からすれば『組みたくない』相手かもしれませんが、彼等が協力してくれると言ってくれている以上、協力してもらわない理由がないですので。」

少なくとも、現状の打破とその先の待遇の差を鑑みれば、これ以上ないほどの『策』……であるとアスベルは感じていた。

こちらとしては積極的な介入は難しい……だが、彼らには『大義名分』がある。

 

「確か、ジェスター猟兵団…文字通りの『道化師』…背後にあのいけ好かない『アイツ』がいるって思うと、『お仕置き』したくなるね。」

「ははは……」

遊撃士協会の帝都支部を襲った猟兵については、既に調べはついていた。あの『氷』や『案山子』とは違うのだよ、アイツらとは。それに、あの……生意気小僧に関してはいつか腹パンしてやる。絶対に。

 

「だが、遊撃士協会がすんなり認めるとは思えないのだが……」

「あ、その辺に関しては『七耀教会』伝手で依頼しています。レマン総本部からもいい返事がもらえましたし。まぁ、その理由の主たる理由は彼等からの莫大な寄付金なのでしょうが。」

そもそも、遊撃士協会と共立の道を目指している『翡翠の刃』と『西風の旅団』にしてみれば、今回の猟兵による襲撃は『泥を塗られた』ようなものだ。更に、本来ならば介入する筋の無い『赤い星座』も言い方はアレだが、“みみっちいこと”しかしていないジェスター猟兵団に対してひどく憤慨していた。

 

「予定通りならば、“驚天の旅人”、“絶槍”、“猟兵王”、“西風の妖精”、“闘神”……それと、“赤朱の聖女”も動いてくれるそうです。」

「“赤朱の聖女”?聞きなれない異名だな。」

「そうですね……情と非情を使い分けることのできる……ある意味『赤い星座』最強の人です。」

 

カシウスは後に、その言葉の意味は間違いではなかったことを知ることになる……

 

 

~翌日 定期飛行船西回り~

 

アスベル達と話をした次の日、エステル達にロレントで見送ってもらい、グランセルとボース経由で帝国の首都であるヘイムダルに向かっていた。アスベル達と話した分、いくらかの想定をした上で動きやすくなったのは事実。後は、どのように作戦を実行するか……すると、夫婦らしき人がカシウスに声をかける。

 

「おや?アンタは確か、遊撃士のカシウス?」

「何故疑問形なのですか……すみません、急に声をおかけして」

「いえ、お構いなく。どころで、貴方がたは?」

赤髪と緑の瞳が特徴的な男性と、銀髪のメッシュが入った淡い栗色の髪と真紅の瞳の女性にカシウスは目をぱちくりさせながらも、二人は一体誰なのかという質問を投げかける。すると二人はこっそりメモをカシウスに渡しつつ、朗らかな声で自己紹介する。

 

「名乗るほどのものじゃないさ。強いて言うなら『バール』かな。こんな場所で『百日戦役』の有名人に会えたのもなんだから、話がしたいと思ってな。」

「私はこの人の妻です。私の事は『ティア』と呼んでいただければ。」

「はは、腕を組んでお二人とも幸せそうですね。見ているこちらが恥ずかしいですよ。」

そう自己紹介する二人にカシウスは改めて自己紹介し、二人から渡されたメモに目を通す。

 

(俺は“闘神”バルデル・オルランド、妻は“赤朱の聖女”シルフェリティア・オルランド。大方の事情は“娘”から聞いた。あのようなことは、猟兵団としての台詞ではないだろうが、到底許せるものではない。故に、協力することにした。)

(どうやら、“情報局”の人間が貴方をマークしているようです。なので、失礼だとは思いましたがこういう形での接触にさせていただきました。非礼をお許しください。)

どうやら、レイアと会って色々と情報交換していたようである。それ以上に、猟兵であろうとも娘に直接会いに来る時点で親馬鹿なのだとカシウスは内心苦笑を浮かべた。

 

「にしても、おひとりで帝国ですか?」

「ええ。ですが、こう見えて帝国には疎いものでしてね。」

どこで誰が聞いているか解らない…故に虚実を織り交ぜた会話をすることも一つの駆け引きである。

 

「お、珍しいな。なら、俺が一肌脱ぐとしよう。こう見えて帝国には詳しいからな。」

「あなたったら、またお節介ですか?すみません、うちの人が。」

「いえいえ、こちらとしては渡りに船ですし、お願いできますか?」

帝国はかなりの規模である。国土的にはカルバードとほぼ互角だろう。『土地勘』のある人間であれば色々と詳しいのは当たり前の話だ。確かに遊撃士と猟兵はお世辞にも良い関係とは言えない。だが、今は同じ目的のために手を取り合うことも必要だ。

 

「任せておけ。向こうに着いたら『お勧め』の店を案内しよう。」

「もう……そういったお節介なところも好きですけれど。」

「ははは……」

アスベルたちと関わり始めてからというものの、自分の築いてきた猟兵に対するイメージが全くもって意味を成していないことにカシウスは内心苦笑を浮かべた。

 

この後、三人の乗っている飛行艇が襲撃を受けるのだが、なんと『飛び降りて難を逃れる』という明らかに自殺行為………ではなく、パラシュートを準備していたのだ。この時点で『お前らは一体何と戦う気なんだ……』という言葉が出てきそうではあるが……

 

そんなこんなで、三人は帝都に着くとバルデルの案内で一件の店に案内されることになる。

無論、三人をつけていた情報局を振り切ったのは言うまでもないが……

 

 

~帝都ヘイムダル 知る人ぞ知る店~

 

「いらっしゃい…って、バルデルじゃねえか。」

「よう、ゼル。いつものように美味しいコーヒーと飯を頼む。」

店のマスターであるゼルは店の常連である彼を見て声をかけ、それに応えるようにバルデルは挨拶して注文をする。

 

「あいよ。リティアさんも久しぶり。それに……カシウス・ブライト?」

「お久しぶりです、ゼルさん。相変わらず繁盛してますね。」

「どうも、遊撃士のカシウス・ブライトです。」

「あ、ご丁寧にどうも。俺がこの店のマスター、ゼル・レイディーク。ま、ゆっくりしていってくれ。『奥』で待っていてくれよ。」

ゼルは二人と挨拶や自己紹介をして、厨房に入っていった。

 

そして、三人は『奥』に入っていった。

奥にある個室は防音もしっかりしており、導力のジャミング機能も施されており、諜報対策はばっちりされているようだ。この構造にさしものカシウスでも驚きを隠せないようだ。

 

「ふむ……この店は、只の店ではなさそうだな。」

「そうですね……他言無用ですが、この店は私たちの武器の製造や調整をお願いしています。」

「あと、猟兵の依頼斡旋もな。弟たちは知らんが、俺に関しては妻から釘を刺されて『違法になりうること』は極力請け負っていない。」

「流石に信憑性がなさ過ぎて総本部ですら戯言だと言われそうなので、何も聞かなかったことにしておきますよ。(やれやれ、猟兵というのは単なる私兵というわけでもなさそうだな。)」

これも猟兵にしてみれば氷山の一角……こうやって話すということは、下手に介入すればただでは済まない……それを示しているようなものだ。触らぬ神に祟りなし、ということだ。

すると、扉が開いてゼルが料理を持ってきたので、三人は昼食にすることにした。

 

 

食後のコーヒーを飲みながら、三人は今後について話していた。無論、この『事件』を解決するために、だ。

 

「ジェスター猟兵団……カシウスは知らんかもしれないが、最近というかこのことが起きるまで『そういった猟兵団』は聞いたことがない。」

「聞いたことがない?」

「ええ。猟兵団というよりも傭兵としてのものですが、遊撃士を出し抜くだけの技量を持っているのであれば、私たちが知っていてもおかしくはないのです。」

傭兵というものは実力主義……今回事件を起こした連中がそれほどの実力者ならば、大勢力である『赤い星座』『西風の旅団』『翡翠の刃』らが知っていても何ら不思議でもなく、少なからず警戒することは必要だ。だが、その集団は三つの猟兵団の誰しもが『知らない』人間であるのだ。その言葉の意味はカシウスにも十分理解できた。

 

「ということは……『誰か』がそれを仕立て上げた人間がいる、と?」

「はい。そうなれば私たちも無関係ではありません。猟兵である以上『ビジネス』であることも承知ですが、これは流石に看過できない。なので、リベールにとって面識のない私たちが貴方の補佐をすることになったのです。」

「ま、十中八九『碌でもない』連中がその猟兵団を仕立て上げたんだろうさ。ま、遊撃士の連中は俺らを警戒しちまうだろうから、アンタが指揮を執る形になるが。」

「私も一応遊撃士なのですがね……解りました。ぜひ、この事件の解決に協力お願いします。貴方方ならではの視点と勘、頼りにさせていただきますよ。」

内心ため息ものだが、これを仕立て上げてくれたアスベルたちに感謝した。帝国軍は正直当てにできない、むしろ情報局からしてこちらを尾行している始末だ。なので、自分らと同等の実力者である『彼ら』の助力は計り知れないものだ。

 

 

~バルフレイム宮 帝国宰相執務室~

 

夕焼けに染まる帝都の風景。それを静かに見つめ、笑みを浮かべる一人の男。

 

名はギリアス・オズボーン。百日戦役後低迷したエレボニア帝国の再興をスローガンに掲げ、帝国宰相の座に就いた軍部出身の人間。

 

彼の政策はいわば『領土拡張政策』……自治州を併合、鉄道網を敷設して自国の領土であることを繰り返してきた。表面的に見れば『賢き宰相』なのだろうが、徹底的な軍備増強と帝国軍情報局の暗躍、圧倒的力による制圧で様々な国を脅かし続けている。

そこに、制服に身を包んだ一人の女性が入ってくる。

 

「失礼します。“剣聖”ですが、いまだ行方知らずとのことです。」

「成程、“赤朱の聖女”か……“闘神”にしては、殊勝な心がけだな。一体誰の入れ知恵なのか、聞いてみたいところだな。他の連中は?」

「『西風の旅団』『翡翠の刃』……そのいずれもこちらの追跡を完全に振り切りました。これ以上の追跡は無意味と考え、待機させております。」

「まあいい。で、お前はどう見る、クレア?」

固い表情を崩さずオズボーンに報告した女性、帝国正規軍の最精鋭組織…鉄道憲兵隊に所属するクレア・リーヴェルト大尉はオズボーンからの質問に少し考えた後、静かに答える。

 

「おそらく、一斉摘発のための下準備に取りかかるのではないかと思われます。<四大名門>に関しては各々の対処で当面は動けないでしょう。」

「私の考えている通りか……“剣聖”カシウス・ブライト、リベールの守り神とも言われる貴公の実力、見せてもらうとしよう。」

クレアの答えにオズボーンは口元に笑みを浮かべ、窓の外に映る光景――夕焼けに染まるヘイムダルの街並みを眺めながら呟いた。

 

 

 

この事件の後……いや、正確にはこの事件から数年後……国内外からエレボニア帝国軍……ひいてはエレボニア帝国政府に対して疑念を持たれる事態に繋がることを、帝国軍はおろか、時代を先取りした『鉄血宰相』ですら予期していなかった。

 

 




原作にはそこら辺の描写がなかったので、ちょっとオリ設定いれてテコ入れしてます。

ナンバリングに関しては外伝という形で進めていきます。

そして、閃の軌跡の面々も何人かw


さて、『道化師』はどうしようかな(黒笑)

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