英雄伝説~紫炎の軌跡~   作:kelvin

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ラウラの扉 ~変化と不変~

私の両親―――父上であるヴィクター・S・アルゼイドは“光の剣匠”と呼ばれ、帝国屈指……いや、今では王国屈指というべきか、かなりの腕前を持っている……あれをかなり、と言っていいのかは語弊があるだろう。以前、父上に連れ添う形でグランセルの王立競技場に行った際、父上とこの国屈指の“剣聖”……その戦いを見せられた時、私が驚愕したのは言うまでもない。常軌を逸した剣筋……相手は剣を置き、棒という武器を携えながらも、その筋は父上に匹敵していた。

 

後で聞いた話なのだが、その人物が習っていた『八葉一刀流』は、かつて父上と手合わせしたことのある“剣仙”の弟子の一人だったそうだ。

 

七耀の属性を表すかのような剣術……火の如く猛り、水の如く静かに佇み、風の如く駆け、地の如く雄々しく……時の如く潜み、空の如く大らかに、幻の如く虚ろに……七つの剣術と一つの無手による東方武術の一つ。私もいずれはその使い手と手合わせをしたいと思っていた……と、話が逸れた。

 

私の母親、アリシア・A・アルゼイド……かつての名前はアリシア・ライゼ・アルノール。エレボニア帝国の現皇帝ユーゲント・ライゼ・アルノールⅢ世の実妹。父上とは年が五つほど離れているらしく、年下の女房という感じである。まぁ、言葉だけを聞けばそういう風に見えるのだが……ラウラはヴィクターとアリシアの結婚式での写真に目を落としつつ、近くのソファーに座って寛いでいる両親と写真と比較する。ヴィクターのほうは年相応に貫禄が出てきたと言った感じなのだが……問題はアリシアの方であった。

 

「母上、これは本当に二十年以上も前の写真なのですか?」

「ええ、そうよ。少し老けてしまったかしらね……」

「そのようなことはあるまい。寧ろ美しさに磨きがかかっているほどだ。“黄金の薔薇”の名前は今でも掠れていないと思うぞ。」

「もう、あなたったら。」

美しさに磨きがかかっている……その言葉の通りであろう。何故なら、その写真と現在の実物を見比べると……まるで昔をそのまま切り取って来たかのような若さを維持している。解りやすく言うと、アルフィン皇女の身長を10cmぐらい上乗せして、魅力のあるプロポーションにした感じであろう。

 

今も変わらぬアリシアの風貌を見ていると、現皇帝と兄妹……というよりは、皇女と姉妹なんて冗談を言われても不思議ではないぐらいの若さであった。現に、時折ヘイムダルに顔を出せば、見知らぬ人から姉妹のように扱われる。身長差ということもあるのだが、娘である私の方が姉のように見られることには複雑な気分だ。母曰く『ラウラはもう少し美しくなったら私のようになれるわ』と言っているのだが……正直、私と結婚することになるであろう御仁からどのように見られるのか……

 

 

それ以上に……私が聞いた昔話は壮絶なもの……いや、驚愕などという感情を通り越して、よもや“都市伝説”と謳われても致し方ない代物であった。

 

真紅の戦線(ロート・リーニエ)”―――由来は中興の祖であるドライケルス帝に協力した“殲滅者”のビッテンや“槍の聖女”リアンヌ・サンドロット、“狂戦士”などといった十二名の戦友たちを称えたもの……帝国で最も強いと謳われる十二人の人間に贈られる称号。その中には無論ヴィクターも含まれていた。他には、“神速”と謳われたヴァンダール家当主のリューノレンス、“隻眼”のゼクス、“赤毛”のクレイグ………いずれも、帝国きっての猛将揃いの中で、その中にかつて名を連ねていた人物がいた。

 

私の母親―――アリシア・A・アルゼイドもといアリシア・ライゼ・アルノールも“金色の雷”としてその中に名を連ねていたことがあったらしい……しかし、そこまで知った所でラウラは首を傾げた。

 

(父上と母上……どういう経緯でこうなったのだ?)

武に通ずる者同士ならば、出会いはそれとなく予想がつくのであるが……今はリベールの“侯爵”。しかし、『百日戦役』以前は子爵位ということは聞き及んでいた。普通に考えれば位の低い貴族と、国の重鎮を担う皇族。それも、現皇帝の妹君ともなれば将来の皇帝候補という可能性もないわけではない。そのような結婚がすんなり認められたとは正直考えにくかった。されど、両親はそういったことについては中々話してくれず………困ったラウラは、アルゼイド家に古くから仕えている執事のクラウスに尋ねてみることにした。

 

「……成程、旦那様も奥方様も、そういったところに関しては恥ずかしがり屋ですからな。」

「笑い事ではないのだぞ、爺。」

「いえ、仕方ないのです。あのお二方に関しては互いに不器用だったのですからな。」

そう言葉を零すと、クラウスは昔を懐かしむように話し始める。

 

 

二十年以上も前………士官学院を卒業し、将来のために軍への道を進もうとしたヴィクターであったが………両親が相次いで他界し、軍への道を諦めて当主となったヴィクターはクラウスの助けを借りつつ、慣れない領主運営に四苦八苦しながらも懸命にこなしていった。

 

「ご苦労様です、旦那様。一息入れてはいかがですか?」

「クラウス……ありがとう。貴方には色々迷惑をかける。」

「構いませんよ、旦那様。元々大旦那様に拾われた身……このような人間がお役に立てるというのであれば、どんな苦労も厭いません。」

そう言って謙遜するクラウスだが、彼の敏腕と多彩な博識ぶりには何度も助けられており、これに対しては率直に評価したいと思っていたという。

 

「そういえば、旦那様宛に園遊会への招待状が届いておりました。」

「私に?……確かに、父に連れ添って皇帝陛下に謁見を賜ったことは何度かあるが……」

「差出人は『リューノレンス・ヴァンダール』となっておりました。」

「アイツか……そういえば、皇族の人間とは仲が良いと話していたな……そうでなくとも、皇族の守護者たる以上面識は十二分にあるのだが。」

ヴィクターとリューノレンス……互いに武の双璧とも謳われる流派の使い手であるが、その出会いは親同士の交流からではなかった。

 

二人が出会ったのはトールズ士官学院……ドライケルス帝の理念を継いだ学院に入学したヴィクターに、最初に話しかけたのがリューノレンスであった。貴族同士ということもあり、すんなり受け入れていた。

 

そこからが凄かった。リューノレンスは『貴族・平民関係ない。良い奴は良い奴、悪い奴は悪い奴ですから。』と豪語し、色々とトラブルを起こすことが多く、なし崩し的に巻き込まれることが大半……だが、今まで剣の道一辺倒に生きてきたヴィクターにとってはすべてが新鮮で、今となっては良き思い出の一つであった。

 

その中で、彼女―――アリシア・ライゼ・アルノールと出会った。正確には『アリア・レンハイム』と名前を偽って……元々、アリシアは引っ込み思案な性格だったのだが……学院の中でもかなりの武術の腕を誇るほどで、同学年はおろか同性の先輩・後輩相手でもよくて引き分けぐらいだった。その時のヴィクターは、そんな彼女にどこかしら不思議な魅力を感じていた。それが彼女に対するどういった感情なのかはよく解らなかった。

 

卒業後……ヴィクターは家の都合でレグラムの領主となり、リューノレンスは帝国正規軍に入り、アリアは……連絡がつかなかった。

何処で何をしているのか……同じクラスメートとして、気になっていた。それから数年……そこに舞い込んだ園遊会への招待状に書かれた一文―――『アリアも来るよ』という文字を見つめ、クラウスに向き直る。

 

「しばし留守にする。済まないが、頼めるか?」

「お任せを。」

逸る気持ちを抑え、ヴィクターは佇まいを整えて園遊会の出席のために一路ヘイムダルへと向かった。この気持ちは何なのだろう……ヴィクターは内心でそう思いながら。

 

園遊会で久々に出会ったヴィクターとリューノレンス、そして……ドレス姿のアリアもといアリシア・ライゼ・アルノールの姿であった。これには、多少なことで動じまいと決めていたヴィクターですら面食らったほどだ。それを見て、悪戯が成功したかのように笑みを浮かべるリューノレンスとアリシアの姿があった。久々に顔を合わせる三人…話題は尽きない…時折、アリシアがヴィクターの方をチラチラ見て、ヴィクターがそれに気づいて視線を送ると、慌てて目線を逸らし、ヴィクターは首を傾げた。リューノレンスはそれに対してため息を吐き……

 

「とりあえず、二人で踊ってこい。ついでに爆発しろ。」

「「何を言ってるん(だ/ですか)!?」」

文句のつけようもないほどな笑みを浮かべたリューノレンスの強引な提案に押し負け……二人はぎこちなさそうに手を合わせ、ダンスを踊っている人たちの中に入る。互いに、貴族や皇族という身分である以上、ダンスの心得はあるのだが…その時の二人は一杯一杯であった。周囲からはアリシアと踊るヴィクターに注目の視線が集まる……一方の本人は、そんな余裕などないのだが。どうにか一曲踊り切ると……互いに疲れたのか、そのままベランダに出た。

 

「はは………視線を集めるのは仕方ないかもしれませんが、私もさすがに………」

「そうだな。私に殺気を向けていた貴族の御曹司もいたよ……っと、失礼しました皇女殿下。」

「その堅苦しい口調はやめてください……貴方の前では、皇族ではなく一人の人間として立っているのですから。」

「………解った。ともあれ、その限りではありませんが。」

互いに他愛のない会話を続けるが……アリシアが自分の方を見つめていることに、ヴィクターは彼女の方に視線を向ける。何か悪いことでもしてしまったのだろうか……そう思っていたヴィクターにアリシアは意を決したように近付き………そして………

 

「ん………」

「+*dfghjk#$%&@☆~¥!?!?」

交わされる唇………唇同士のキス………それには、ヴィクターも声にならない驚きを上げる。唇が離れ、アリシアは拗ねた表情をして呟いた。

 

「もう………相変わらずの朴念仁ですね。この数年間……私がどれほど苦しんだのか、解っているのですか?」

「えっと……何を言っているのか、さっぱりわからないのだが。あと、これでも勘は鋭い方だぞ?」

「そうでしょうね………そういったところが朴念仁です。」

武にストイックなヴィクター……帝国男子たる“質実剛健”さは女子の間で人気が高く、ラブレターが最低一通は机の中にあるという状態であった。それに対して丁寧に断りを入れるものの、中には諦めきれずに『愛人でもいいから』と言ってのける強者がいたほどで……それも丁重にお断りしている。『剣の道に生きる自分など、夫にしたところで魅力などない』……それが、ヴィクター自身の価値観であった。

 

「ほんと……に………ヴィクター…の………ばかぁ……」

 

それでもなお好意を向けてくる女子の中に居ながらも……その想いを伝えられなかったアリシア。卒業後、彼の事を諦めようと……行く先を伝えず、皇族であるということも隠し続けた。だが……皇族という身分から打算的に頭を下げてくる貴族の御曹司たち……正直、うんざりしていた。そのストレスと今まで隠してきた好意……それがかみ合った形で爆発した……気が付くと、アリシアの頬を伝わるもの……涙であった。

 

「一緒に語り合って………弁当とかも……っく………一緒に……食べたり……とか…ひっく……」

「………」

彼女を泣かせてしまったのは他でもない自分……そして、彼女が自分に向けてくる好意。流石のヴィクターでもこれにはバツが悪そうに表情を曇らせつつ、彼女の涙を指で掬うように拭った。そして、息を整えると……アリシアに問いかけた。

 

「私は知らないことが多い若輩者。剣の道に生きる身。それでいいというのならば……そなたの夫にさせてほしい。皇族であるそなたを泣かせた私の責任として、いかがでしょうか?」

 

「……いいでしょう。ただし、家に入るのは私です。私に対する“罪”……一生かけて、償っていただきます。」

 

その後、アリシアに案内される形で時の皇帝であるウォルフガング・ライゼ・アルノールとの面会を賜ったヴィクター。“金獅子”とも謳われたウォルフはヴィクターとアリシアを見て、こう言葉を零した。

 

「我が娘は制御のきかない暴れ馬のような不肖者だが……末永く、よろしく頼むぞ。」

「お、お父様!!」

「陛下……はっ、我が忠誠とアルゼイドの名に恥じぬよう、精進致します。」

 

何はともあれ、親にも認められた二人。親友であるリューノレンスからも祝いの言葉をかけられ、二人は戸惑いながらも返答したという……ヴィクターとアリシアの結婚は大々的に伝えられ、貴族からは反発も出たが……皇帝から『反論があるというのならば聞こう。この私を話術で説得できる準備があればの話だが』という物言いに震え上がり、押し黙る他なかった。

 

 

「―――とまぁ、このような感じですな。」

「……意外だな。てっきり剣を交えてのものかと思ったが。」

「そうですな。奥方様が武もお強いと聞いたときは、さしもの私もそう思った程ですからな。」

クラウスから話を聞いたラウラの感想は『意外』という答えであった。それにはクラウスも笑みを零して呟く。自由闊達な父親の原点は彼女然り、そして親友である彼然り……人の力は誠恐ろしいと思った。私にも、いずれそういった人間が現れるのだろうか……父や兄に対する尊敬ではなく……愛おしいと思える人。

 

ラウラの視界の先に映るラクリマ湖……その先に聳え立つ白き城は、日の光を浴びて煌びやかにその佇まいを主張していた。

 

 




オリジナル要素満載です。

トワ会長の“魔導銃”に!?と思いましたが……やはり、誤植ではないようですね。スクリーンショットを見てると、エクシリアの技を思い出すのは私だけでいいw

サブキャラにルーファス……ユーシスとどう差別化を図るのか、気になります。ユーシスが馬なら、ルーファスは戦車……ダメだな、戦車はクレイグ中将が先にやってるし(何)……空母召喚(マテや!!)

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