~レミフェリア公国~
「ふぅ……」
仕事が終わって一息ついた少年―――アスベル・フォストレイトは、ホテルの一室で休んでいた。“守護騎士”としての仕事と“遊撃士”の依頼……ようやく一段落ついたことに安堵したのか……ベッドの上に寝そべった。
「久しぶりだな………こんな風に一人で……なんだ?辺りが白く……」
そのまま眠れそうだとアスベルが呟いたその時……周囲の風景が白くなり始め……そして、アスベルの目の前が一気にまぶしく輝いた。これには流石のアスベルも目を瞑った。そして……ホテルの一室にいたはずのアスベルの姿は、最初からそこにいなかったかのように……消えていた。そして、アスベルの周囲の光が収まった時……彼の視界に映るものは………
~影の国拠点 隠者の楽園~
「くっ、閃光弾かっ………って、え?」
まさしく異空間そのもの……そして、視界に映る人の影……そのいずれもが、異なる場所にいるはずの面々であった。まぁ、大方の事情は“知識”として知っていたが……とりあえず、
「とりあえず、説明しろ。ネギ・グラハム。」
「何か謂れのない怒りをぶつけられとるんやけれど!?」
ケビンの説明を聞き……どうやら、“影の国”の第六星層の終着点まで到達しているとのことだった。それにしても……アスベルは集まっている面々―――3rdの原作メンバー以外の面々が……シルフィア、レイア、シオン、ルドガー、マリク、クルル、スコール、サラ、セリカ、レーヴェ、カリン……ある意味順当な顔ぶれであった。
「ふむ………そこまで行ってるんなら、俺の出番はないように思うんだが……」
「そうでもありませんよ、アスベル。」
「リースか…久しぶりだな。」
彼女の話だと………どうやら、アスベルを伴わないといけない扉がいくつか見つかっていて……アスベル以外で試したものの、駄目だったらしい。こういう時こそ“方石”の真価を発揮する場面なのだろう。
―――汝、剣聖の力と技を継ぎし太陽と紫炎、我が前に引き連れよ。さすれば扉を開かん
―――汝、失われし魂に命を吹き込んだ聖痕に選ばれし二人、我が前に引き連れよ。さすれば扉を開かん
―――汝、時の運命に誘われし焔の剣聖、我が前に引き連れよ。さすれば扉を開かん
―――汝、御神の力と記憶を持ちし渡り人、信頼できる者を伴い、我が前に引き連れよ。さすれば扉を開かん
………正直な感想として、どれも嫌な予感しかしません。ともあれ、一番最初の扉にエステルと共に入る。その扉の中で映し出される記憶が流れ始めた……。
~???~
『この子が俺達の息子か……感慨深いな。それと同時に、正直実感がないというのもあるが……』
『今はまだ、ですか……それよりもあなた。この子の名前、ちゃんと考えていますか?』
『ああ。ちゃんと(ガウェイン王太子が)考えているぞ。』
一軒家……そこで暮らす若い夫婦……夫婦は、誕生した新しい家族に喜んでいた。これからの生活に思いを馳せていた……そんな希望を、不埒な侵入者が打ち砕いた。
侵入者は女性を眠らせ……生まれたばかりの赤子を連れ去った。
『そんな……あの子が………いやぁ………』
『……これは、かなりの重症のようですね。……殿、大司教殿に話は通しておきました。』
『申し訳ありません、……………。』
悲しみに打ちひしがれる女性………それを慰める別の女性。その人に対して頭を下げる男性。この後、神父服の男性が訪れ、泣き喚いていた女性はようやく落ち着きを取り戻した。
『今度こそ……この子は、あの子の分まで育てます。』
『……そうか。』
その赤ん坊がいなくなってから約二年後……女性は無事に女児を出産した。今回ばかりは男性もしばらくは家を離れず……二人に見守られながらも、健やかに成長していった。
その光景を見つめていたエステルとアスベル……ここで、一つの疑問が浮かぶ。何故自分がこの記憶を見せられることとなったのか……すると、周囲の光景が変わり、ブライト家の前になった。驚きを隠せない二人……すると、扉が開いて……二人の子ども……とはいえ、片方はヨシュアではない誰か……その姿は、幼い頃のアスベルと瓜二つであった。
「どういうこと?」
「………要するに『あの子が本来過ごす筈だった未来』……そして、『エステルがヨシュアと出会わなかった未来』……ということかな。」
「あ、成程。」
『そういうことだ。』
とどのつまり、俺の……いや、この身体の本来の人格が過ごす筈であった光景。そして、扉から姿を見せたのは、エステルにとって一番馴染みのある人間の姿―――カシウスの姿であった。それを見たエステルは二度目の戦いとなることに頭を抱えたくなった。
「って、また父さんなのね……」
『どうやらそうらしい。にしても、俺が初めて出会った“転生者”がよもや行方知らずだった馬鹿息子だったとはな……帰ったら、覚悟しておけよ。』
「勘弁してほしいですよ………俺だって、半信半疑だったんですから。」
ちょっとした推測がここまで大仰なものになっていたことにはアスベルもため息を吐いた。
『この世界では『枷』はない……ヨシュアから聞いたが、俺よりも強くなる、と………ならば、いざ勝負といこうか。』
彼から発せられる闘気……波というよりは、もはや闘気の塊その物。
「………はぁ、全開でやれってことね。これ。」
「全く……」
最早戦うことは決定事項のようで……エステルとアスベルは隣に並び立ち、アスベルは太刀を……エステルは棒を構える。
「アスベル……というか、兄さんって呼んだ方がいいかな?」
「そこはエステルが呼びやすいのでいいよ……互いに、生き残るぞ。」
「モチのロンよ、兄さん!」
「ふっ………お前たちがこの先、『激動の時代』を生き残るために……“剣聖”という壁、乗り越えて見せろ!アスベルにエステル!!」
“白隼”の英雄……“剣聖”の血を継ぎ、彼に勝るとも劣らぬ資質を受け継ぎ………アスベル・フォストレイトとエステル・ブライト……二人の『兄妹』は今、幻影とはいえ自身の父親を超えるために、力強く駆けだした。
「挨拶代わりに行くわよ、この不良中年!!」
「おおっ、相変わらず出鱈目な威力だな。ヨシュアに愛想を突かれないようにしろよ。」
「それ、父さんが言えた台詞?ヨシュアのアレはある意味父さんのせいでしょうが!!」
エステルの振るう『極・金剛撃』を紙一重で躱すものの、棒が床に衝突した衝撃までは防ぎきれず軽口を叩くが、エステルは『極・旋風輪』を振るいつつも反論する。戦いというよりは親子喧嘩……その隙を突く形で、アスベルが攻撃に加わる。
「『裏疾風』まで完全に物にしているか……流石は俺の息子だな。」
「エステルの攻撃を流しつつも、凌ぎ切るだなんて……人間ですか?」
「人間だぞ、俺は。」
「絶対ありえないわよ。『不良中年』というカテゴリの生物ね。」
不意を突いたつもりが完全に凌ぎきっていた……しかも、技の速さだけで言えば“風の剣聖”以上の『裏疾風』をだ。これにはアスベルも冷や汗をかいた。正直な感想を言えば、エステルのカテゴリー付けが真っ当なものに聞こえそうなほどに納得がいった。エステルは息を整え、棒を振るう。カシウスもすぐさま対応して棒を振るい、二本の棒は交わる。
「これだけの膂力……やれやれ、血は争えないか。」
「それは解ってるけれど、ねっ!」
「何っ……なっ!?」
女性らしからぬその膂力にカシウスは自分の娘の将来を心配したくなったが、エステルは自分の棒を掴んでいた片手を離し、カシウスの棒を掴む。すると、それを力の赴くままに放り投げる。この意表を突いた行動にはカシウスも驚いたが、空中で体制を整え、あっさりと着地する。だが、彼の背後からは……アスベルが近づいていた。そして……
「二の型“疾風”が終式……“黒皇剣”!!」
二の型の奥義が一つ、“黒皇”を放つアスベル。これを何とか防御するものの、その反動でかなり後退させられた。一方、これでも有効なダメージを与えていないことにアスベルは一息ついて武器を構え直した。
「二人ともアーツに頼らずここまで戦えるとはな……引退も近そうだ。」
「何を言ってるのかしらね、この親父は。」
「全くだな。」
アーツを使わないのではない。“使えない”のだ。カシウスに対してアーツを使って追いつめるという選択肢も有効な手段と考えるべきであるが、彼の技量のレベルからするとこちらに対してまだ余裕のある状態で戦っているのは周知の事実。それを直感的に悟っているからこそ、エステルとアスベルは武器を構えなおす。それを見たカシウスは笑みを零した。
「直感的とはいえ、そこまで悟っているとは流石だな……では、こちらも本気で行かせてもらうぞ。」
「!エステル、右!!」
「っ!!」
カシウスの姿が消え……瞬時に察したアスベルの声に反応して防御するものの、強制的に吹き飛ばされる。だが、怪我に至っていなくて何よりだ。それを好機と見たのか、アスベルも仕掛ける。
「お前と出会って十一年……感謝することが多そうだな。」
「それはお互い様ですけれどね。というか、とっとと倒れてくれるとありがたいんですが。」
「男というのは見栄っ張りなものだ。それはお前がよく知っていることだろう。」
アスベルの振るう“蛟竜”の剣撃すらも凌ぎきり、互いの得物がぶつかり合う。カシウスの言わんとしていることも解る。だからこそ、自分は意図的に能力の一端を封印していた。アスベルは斬り返してカシウスの武器を弾き、互いに距離を取る。
「エステル!」
「解ってるわよ!どおりゃあああ!!」
「ほう……むんっ!!!」
そこにエステルが『奥義・桜花大極輪』を繰りだし、カシウスはそれに対応すべく『金剛大極輪』を発動させる。互角の様相………エステルは…咄嗟に力を緩め、カシウスの技に弾き飛ばされる。
「やれやれ、まだまだひよっ子………アスベルが、いない?」
それを見たカシウスはため息を吐きたくなったが……近くにいたはずのアスベルの気配を感じない……そして、先程のエステルとの技のぶつけ合い……
「まさかっ……!!」
それで何かを察したカシウスは駆け出し、闘気を纏いながら高く上がる。
「………(うん……上手くいった。)」
その駆け出した先……エステルは雲よりも高い……上空遥か高くにいた。徐々に加速していく自身の身体。それに対する恐怖などない。
エステルがあの時、力を緩めた理由……自身の持てる『最高の技』を彼にぶつけただけでは勝てる可能性が低かった。エステルは何か自分を加速させられるだけの要因が欲しかった。そこでエステルがいかすことにしたのは……“空”。この空間の許容範囲は解らないが、“輝く環”のサブシステムを担っていた場所ならばかなりの距離を稼げる……アスベルの推測に、エステルは望みを賭けた。咄嗟に力を抜き、自身の回転とカシウスの技の威力を合わせて……結果的には上手くいった。こればかりは博打的要素が強かったので、二度もできるかといえば疑問であるし、命の危機をそう何度も味わいたくはないのだが。
エステルは息を整え、目を見開いて……自身の持てる力を全て込めて……彼女の周囲に膨れ上がる金色の闘気。その力は鳳凰の形を成し、天より彼に向けて飛来する。
「いっくわよ、父さん!奥義……『聖天・鳳凰烈破』ぁっ!!」
「男として、親として負けられんな!奥義、『神雷・鳳凰烈破』!!」
雲を突き破った先にいたのは、エステルと同じように鳳凰の闘気……雷が迸る蒼き鳳凰を顕現させたカシウス。互いの本気のぶつかり合い……その拮抗を、ここにはいない一人が、彼女の後押しをする。
「二の型“疾風”が極式……“瞬諷”!!!」
アスベルが振るうのは“疾風”の極技。だが、その力の先はカシウスではなく、エステル。その風の刃はエステルの纏う闘気を包み込み、彼女の闘気は更に輝きを増していく。その闘気のぶつかり合いは互いに譲らず……眩い光が迸った直後、爆発が起きる。その爆発から飛び出すように出てきたエステルは何とか着地し、爆発の向こう側を睨む。
「っと……で、デタラメにもほどがあるわよ……ま、わかっちゃいたけれど。」
「流石だな……俺の力も利用して高高度からの技とは……ヨシュアが苦労しそうだ。」
「何言ってるんだか……ふっ!!」
爆発の向こう側……そこにいたのは、無傷のカシウスの姿。その外見からしてもダメージは無いに等しいようだ。これには流石のアスベルもため息しか出てこなかった。自分はよくこの人間に勝てたと思う……アスベルは一息つき……一気に駆け出した。その刹那、アスベルの姿が“消えた”。
「極の型“破天”極式………」
「くっ!?」
―――『天十六夜(あまつのいざよい)』
八つの型の技巧全てを集約させた、アスベルだけの極式……エステルとのぶつかり合いによる隙を突く形で放たれた神速の剣技。これにはカシウスも防ぎきれず、ダメージを負い片膝をつく。だが、カシウスも一人の男性。そして、エステルの父親なのか、傷つきながらも立ち上がり、アスベルに向かって行く。だが……そこにいるのはカシウスとアスベルの二人だけではない。
「―――奥義、『天翔蒼破斬』!!」
エステルの……光の刃を纏った棒にさしものカシウスでも不意を突かれる形となり、カシウスは吹き飛ばされた。そして、起き上がってこなかったところを見ると……どうやら、何とか勝てたようだ。
「はぁ……勝てたの?」
「………フフフ、成長したな二人とも。」
「それはどうも……あれだけ食らってピンピンしているのは納得いきませんが……」
流石に疲れたのかその場にへたり込むエステルを見つつ、既に立ち上がっているカシウスは答えた。全力を叩き込んでもそうやって平然と話していることに納得いたしかねる状態であった。
「だが、アスベルにエステル。お前たちの置かれている状況は刻々と変化する……お前たちの“妹”が生まれる前には、ロレントに戻ってこい。」
「って、女の子なんだ。一気にブライト家に家族が増えた感じね……そういえば、兄さん……って、さっきはそう呼んだけれど慣れないから……アスベル、彼女とかいないの?」
エステルにしてみれば一気に増えていく身内……ふと、エステルは悪戯な笑みを浮かべつつ尋ねた。
「いるにはいるが…三人いるぞ。」
「三人……シルフィアにレイアのこと?あとは、セシリアさんかトワってこと?」
「前者はあってるが、後者は違うから。というか、エステルにしてはあまり口煩く言わないな……」
「何と言うか、父さんの子なわけだしね。お母さんから若い頃の父さんの話を聞いた感じだと、かなりの『女泣かせ』だったみたい……二人を見てると、ちゃんと接しているって解ってたから。」
親も親なら子も子……ある意味父親譲りでありながらも、ちゃんと弁えているアスベルのことは、彼と関わっているシルフィアとレイアの二人からしてそれとなく察していた。
「そっか……女王陛下から『一夫多妻でも構いませんよ。何でしたら法律にしてでも認めます』とか言っていたし。」
「何と言うか、流石女王様というべきか……というか、そうなった原因は父さんにも一端があるわね。」
「何でそうなる。」
ともあれ、リベール王族の血筋に遊撃士、軍人、“守護騎士”……肩書がどんどん増えていくことに溜息を吐きたくなった。そういうものは便利な反面、厄介なトラブルも生み出すので心苦しいのだが………俺の望んでいた平穏な生活はどこへ行った。いや、関わると決めたからには解りきっていた結果ではあったが……
「ともあれ、無事に戻ってこい。俺とレナはあの国で待っているからな。」
「うん……解ってる。」
「ああ。」
そう言って姿を消したカシウス……周囲の風景も変わり……二人が気付くと、そこは扉の前であった。ともあれ一通りの経緯を説明した後、一度拠点に戻ることとなった。
3rd本編にはナンバリングしません。全部扉絡みで行きます。
エピソード尽くめということでお願いします。