英雄伝説~紫炎の軌跡~   作:kelvin

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第二弾は主人公の一角であるエステル。

オリ設定全開です。


エステルの扉 ~マドリガルの意志~

事変解決後から一か月後……年の瀬ということもあって、エステルとヨシュアは家の手伝いに駆り出されていた。正確にはカシウスの手伝いだが。その内容は……

 

 

~ブライト家 書斎~

 

「しっかし、よくこんなに本があるわね。あたしだったらこんなに熱中できないわ。」

「(よくそんなに持てるよ……)そう言いつつも、リベール通信は買って読んでいるじゃないか。」

ため息をつきつつ、本を運ぶエステル。彼女の持っている本の多さに冷や汗をかきつつ、ヨシュアも同じように本を運んでいた。

 

事の発端は、家の改築……新しい家族が増えてもいいように、家を拡張することにした。今までの家とは少しお別れになるため、エステルらは家財道具を全て運び出していた。工事中はアスベルらの家に滞在することが決まっている。で、その中で最も多い……カシウスの書斎の本を二人で運び出していたのだ。尚、最早家族の一員でもあるカリンとレーヴェは仕事のために王都にいる。

 

「ナイアルとドロシーには色々世話になったもの。少しぐらいは感謝の気持ちを形にしておかないとね。記事は色々面白いし……そもそも、ヨシュアが言ってたことじゃない。」

「え?」

「ちゃんと世の中を知っておけ、って。そんな感じのことを言ってたじゃない。」

その言葉があったからこそ、あたしはヨシュアを追いかけようと思った事は否定できない。それに、ヨシュアと別れたことは結果的に、あたし自身を見つめるいい機会になった。その点だけは感謝したいけれど……そういうことを思いつつ、エステルはそう呟いた。

 

「そんなぶっきらぼうに書いてはいないけれど……でも、律儀にエステルが守ってくれてることは意外かな。」

「誰かさんとは違うからね、だ・れ・か・さ・ん・と・は。」

意外な表情と感心したような口調でエステルの成長を嬉しく思うヨシュアの言葉に、エステルは悪戯な笑みを浮かべてヨシュアのことを皮肉るかのように呟いた。

 

「エステル、それに関しては散々謝ったじゃないか。」

「……祝賀会の時、クローゼから聞いたけれど……あたしに断りもなく旅に出ようとしたんだって?」

「……え、えと、それは……(しょ、正直……“教授”よりも怖いんだけれど……)」

ヨシュアは疲れたような表情でエステルの方を向いて弁解するが、それを見たエステルから満面の笑みを浮かべながら放たれた言葉に、ヨシュアは“教授”の悪巧みを絵に描いたような笑みとは違うが、それ以上の恐怖を感じるほどの威圧を感じて、顔色が青ざめていた。

 

「ヨシュア、今度あのようなことをしたら、どこまでも追いかけて、あのスチャラカ演奏家のようにぶっ飛ばすから。い・い・わ・ね?」

「………ハイ」

父親である“剣聖”と彼女の親友である“紫刃”仕込みの棒術……いくらスピードに自信のあるヨシュアでも敵うはずがないと反射的に察し、怒気を含んだ笑顔のエステルに対してただ返事を返すことしかできなかったヨシュアであった。

 

(フフフ、エステルったら逞しくなったわね。母親として…同じ女性として嬉しく思うわ。)

(ますますレナに似て来たな……ヨシュア、頑張れ。)

そして、そのやり取りを陰から見ていたレナは娘の成長を喜ばしく感じ、カシウスは娘がますます妻に似てきていることと、義理の息子……ひいては娘の夫になるであろうヨシュアの苦労をひしひしと感じつつ、儚いエールを内心で呟いた。

 

そのようなやりとりはあったが、数時間後に一通りの片付けが済んだ。

 

「どうやら、一通り運び出せたね。」

「そうみたいね……あれ?」

「どうしたの、エステル?」

綺麗に片付いた書斎――その光景にヨシュアは安堵の表情を浮かべ、エステルも笑みを浮かべたが……ある一角が気になり、エステルは声をあげ、ヨシュアはその言葉が気になってエステルに尋ねる。

 

「ねぇ、ヨシュア。ここの床……何だか、微妙に色が違わなくない?」

「色?……確かに、言われてみれば。エステルも、大分観察眼が鍛えられたね。」

エステルが指摘したのは床の一角……正方形型で周りのところとは微妙に色や木目が違っていた。ヨシュアもそれに気づくとともに、エステルの観察眼に感心した。

 

「あはは、大体は特訓のお蔭だけど。でも、何でだろう。」

「……隠し扉のようになってるね。エステル、ちょっと下がってて。」

「うん。」

隠し扉になっているその床……ヨシュアがそれを調べ、エステルはいつ何が起きてもいいように棒を構える。

そして、ヨシュアがそれを開けると……

 

「えと、ヨシュア。問題なさそう?」

「うん。罠とかはなさそうだ……これは、本?」

「うわ、結構年季が入ってるわね。」

その扉の先は収納スペースになっており、しまわれていたのは数冊の本……そのいずれもが年季の入ったものであるとすぐに解り、それなりのものであると感じていた。

 

そのうちの一冊……その本のタイトルに二人は目を奪われた。

 

“Madrigal of White Flower”

 

「『白い花のマドリガル』……あれ、それって……」

「あの劇は史劇だからね……ちょっと読んでみる?」

「うん、そうね。」

二人にとっては、色々と関わりの深いもの……一通り片付けも済んでいたので、休憩も兼ねてその本を読み始めた。その本は二人が演じた劇の台本と違い、歴史書のようなものだった。

 

 

―――七耀歴1100年、第二十三代リベール国王――ライディース・フォン・アウスレーゼ国王崩御。継承権の持つ妻――ティアーユ・フォン・アウスレーゼ王妃も既に亡くなっており、次期継承権を持つセシリア・フォン・アウスレーゼ姫が第二十四代国王『アリシアⅠ世』……リベール王国では初めてとなる初代女王の誕生となった。

 

「へぇ~、セシリア姫って初代女王様だったんだ。そんな大役をヨシュアがやったなんて……」

「いや、それを言われても正直嬉しくないから……」

 

―――同年、貴族と平民の対立が勃発。一時期は内戦状態にまで発展したものの、同じころに起きたエレボニア帝国の侵攻に際してアリシアⅠ世が双方に呼びかけ、和解が成立。互いに協力して侵攻を食い止めた。その後、アリシアⅠ世の提唱によって貴族制度が廃止された。

 

―――1101年、アリシアⅠ世は元貴族出自でエレボニア侵攻阻止の立役者、“紅き騎士”ユリウス・セントフェインと結婚、ユリウスはアウスレーゼ性を名乗ることを許された。その翌年、女王は長男:エドガーを出産。出産や育児の間の執務はユリウスと、彼の幼馴染であり宰相であったエレボニア侵攻阻止の立役者“蒼き迅雷”オスカー・オライオンが担った。さらに、翌年……次男となる男児を出産した。

 

―――1120年、18歳という若さでエドガー・フォン・アウスレーゼがアリシアⅠ世より王位を譲り受け、第二十五代国王となる。1135年に結婚、1138年には長男、二年後には次男、四年後の1144年に長女:アリシア・フォン・アウスレーゼが誕生。

 

「あ、ここで女王様なのね。」

「なるほどね。」

 

そして、1160年に次男が亡くなり、1162年に長男であった王太子が急逝、その2年後の1164年にエドガーが崩御、アリシアが第二十六代リベール国王……二代目の女王になったところで締めくくられていた。

 

「えっと、おそらく女王様のお兄さんの孫がシオンだっけ?」

「そうだね。」

次期女王……第二十七代国王となりうるクローゼ、それを支える立場のシオンとデュナン……だが、ここで二人の中に一つ疑問が生まれていた。それは、ユリウスらが存命中にセシリア姫――アリシアⅠ世が生んだとされている“次男”の存在だ。だが、その書の中にはそれ以上の事が触れられていない……そのことが疑問だった。

 

「う~ん……とりあえず、これも持っていく?」

「そうだね……って、エステル。落としたよ。」

「って、あわわ……ページでも抜け落ちたのかな?」

それを疑問に感じつつもエステルが本を閉じた時、本の隙間から抜け落ちた二枚の紙……エステルは慌ててそれを拾い上げる。だが、それはさっきまで見ていたページとは異なっていた。

 

「これって……」

「家系図だね。えと……」

二人が拾ったのは家系図………そこには、衝撃的な事実が書かれていた。

 

 

「あ、これがオスカーって人ね……え?」

「えっと……オスカー・ハーシェル・“ブライト”……えっ」

「って、よく見たらセシリア姫と子どもがいるってことになってるわね。これがさっき見てた中に出てきた次男で………はい?」

二人が知る衝撃な事実の連続……極め付けは、その続きに書いてあった家系図だった。

 

 

―――オスカーとセシリアの子……その家系図の行き着く先は、カシウス・ブライト。

 

 

さらに、其処に書かれたブライト家の家系図は……

 

 

―――父:カシウス・ブライト、母:レナ・ブライト、長女:エステル・ブライト、『次男』:ヨシュア・ブライト

 

 

「え……ヨシュアが次男?」

「これは……エステル、何か知ってる?」

「ううん…あたしは何も。」

「……それは当然だな。エステルが生まれる前の事だったからな。」

二人の疑問に答えるかのように聞こえた声……その声の主であるカシウスのほうを二人は見た。

 

「父さん、どういうこと?」

「そうだな……場所を移して話そう。」

レナが買い物に行っているため、誰もいないリビングにエステル、ヨシュア、カシウスの三人はテーブルの席に座り、カシウスが話し始めた。

 

 

「エステルが生まれる二年前のことだ……」

 

レナは出産を控えていたため、俺はつきっきりで面倒を看ていた。初めての家族の誕生……俺とレナは心から喜んでいた。だが、その喜びは脆くも崩れ去った……

 

俺は軍の急用のため、已む無く家を離れ、偶然遊びに来ていた友人にレナと赤ん坊の世話を任せた。

だが、俺が家を離れたその晩……赤ん坊はいなくなった。聞くところによると、催眠薬のようなもので、二人は眠らされたという。そして、俺とレナの子どもは連れ去られた……

 

「………」

「そんなことが……」

「俺もショックだったが、レナはそれ以上でな……一時は自殺すらしそうになったほどだ。」

初めての子ども……それを奪われた怒りや悲しみ……それを最も痛感していたのは、自らの身で赤ん坊を生んだレナ自身だろう。一時は本当に危なかった……俺や事情を知ったアリシア女王の説得により、何とか生きる気力を取り戻した。

 

「その危機的状況を救ったのは、エステル。お前の存在だ。」

「へ、あたしが?」

「ああ。お前が無事に生まれ、成長していく姿にレナは凄く喜んでいた。だが……それと同時に、息子への罪悪感が募るようにもなってしまった」

明るく元気なエステル。レナはエステルに惜しみなく愛情を注ぎこんだ。だが、彼女の行動や言動を見ているうち、そうできなかった息子への罪悪感が募っていった。そんな中、カシウスはヨシュアを拾ってブライト家に招き入れた。これには、カシウスなりの“気遣い”があったことも話した。

 

「……俺がヨシュアを拾ったのは、そういったところを紛らわせるためでもあった……すまないな、ヨシュア。」

「気にしないでよ、父さん。僕みたいな存在を家族として受け入れてくれだけでもうれしいし、僕ですら気付かないところで父さんたちを救えたのならば、これほど嬉しいことは無いよ。」

「……そうか。」

結果的に、お互い打算的な部分はあった。けれども、家族として過ごしたことは決して打算的ではなく、心からそう思って行動したことだ。ヨシュアはそのことを込めつつカシウスに感謝の言葉を述べ、カシウスは息子の器量の大きさに感謝した。

 

「それよりも……父さんがオスカーとセシリア姫の子どもの末裔って……あれ?ってことは……」

「エステルはアウスレーゼ家の末裔……クローゼとは遠い親戚になるってこと………エステル?」

 

 

「あ、あ、あ………」

 

 

「あんですってえええええええええええええええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇ~~~………!!!?!?!?」

家が揺れそうなほどに響き渡るエステルの声………余りの衝撃的事実に、超弩級の絶叫ともいえる声が木霊した。

 

「エ、エステル……」

「お、驚きすぎでしょ………」

「これが驚かずにいられないわよ!なによ、この事実……」

「ただいま帰ったわ……あら、どうかしたのエステル?」

この声に耳を押さえたカシウスとヨシュアの言葉にエステルはすかさず反論しつつ、あまりの事の大きさに対してため息をついた。すると、買い物から戻ってきたレナが三人の姿に気づき、首を傾げつつエステルの様子に気づいて声をかけた。

 

「あ、おかえり。そうだ母さん、父さんがセシリア姫の末裔って本当なの?」

「ええ。もっとも、私も似たような身分よ。」

「え?」

エステルはレナに挨拶を交わすと質問をし、それで大方の事情を察したレナは頷き、自らの身分を話した。

 

「あなたの身分がばれた以上、私も明かさないといけないわね……帝国南部にあったシルフィル男爵家の長女、レナ・シルフィル。それが私の旧姓になるわ。」

「シルフィル男爵家……確か、シュバルツァー侯爵家の親戚にあたる一族だったはず。」

レナの言葉にヨシュアは元帝国人としての知識を思い返しつつ呟いた。その言葉に反応したのはエステルであった。

 

「シュバルツァー侯爵家って確か……リィンやエリゼの家よね……ってことは、二人ともあたしと親戚ってこと!?」

「リィンは養子だから血は繋がってないけれどね(それはともかく、エステルの身分が凄いことになるんだけれど……)。」

とどのつまり、エステルは『リベールの王族』と『エレボニアの貴族』の血筋を引いた人間だということになる。そして、それを茫然と見ていた来客が一人……いや、正確には一人と“一羽”だが。

 

「………」

「ピュイ?」

「あ、え?ク、クローゼ?それにジークじゃない。」

「えと、いらっしゃい。というか、何故ここに?」

「あ、はい。お邪魔します。実は……」

クローゼとジーク……実は、カシウスに頼み事も兼ねて態々ロレントを訪れ、偶然出会ったレナを護衛する形でブライト家を訪れたのだが……彼女にとっては、今の話は衝撃的だった。

 

「というか、カシウスさん。今の話は……」

「ええ、本当です王太女殿下。これが証拠です。」

クローゼの問いかけにカシウスは頷き、証拠ともいえる家系図をクローゼに見せた。

 

「これは…(間違いなく、王家に保管されたものとほぼ同一ですね……)…エステルさん、今年の生誕祭はスケジュールを空けておいて頂けますか?」

「あ、うん。それはいいけれど……どうして?」

それを見て納得したクローゼはエステルの方を向き、頼みごとをした。エステルはそれに疑問を浮かべつつ頷いた。

 

「それは秘密です。あ、もう一つ話したいことがあるので、どこか部屋をお借りできますか?」

「それじゃ、あたしの部屋に行きましょう。ジークもいこっか。」

「解りました。」

「ピュイ!」

「(何故だろう……心なしか嫌な予感がするけれど……)ところで、父さんと母さん。」

そして、エステルとクローゼ、ジークは二階のエステルの部屋に向かった。それを見届けたヨシュアはカシウスとレナの方を見て、一つ疑問を投げかけた。

 

「僕とエステルの兄……その行方って今でも?」

「!!……あなた、どうして……」

「彼らが真実に気付いた。だから、話した。済まないな…お前に一言ぐらいでも言えば良かったな。」

「いえ。いずれ気付くことだとは思ってました……その、今でも解らないの。」

 

「そっか……でも、諦めなければきっと会えると思う。エステルが僕の事をあきらめずに追いかけて捕まえたように。」

経験者は語る……ヨシュアの言葉に二人は暖かい笑みを浮かべた。

 

 

可能性は限りなく低いかもしれない。けれども、諦めなければその先にどんな結果が待っていようとも、知りたい『真実』は見えてくる……かつて僕が臆病故にエステルと別れ……けれども、エステルが僕を追いかけて、救ってくれたように。

そう思っていたヨシュアは一つの疑問を投げかけた。

 

「というか……どうやって父さんと母さんは出会ったの?ある意味国際結婚みたいなものだし……」

「追々“そういうこと”になるお前が言えたことではないのだがな……もう二十年以上も前の話だ。」

 

カシウスは当時、ある意味怖いもの知らずの血気盛んな人間であった。そして、無自覚の女泣かせであった……らしいとカシウスは言ったが、レナ曰く『事実』ということにカシウスは黙る他なかった。

 

ユンに連れられる形で帝国へ武者修行することになったカシウス……その道中で出会った穏やかそうな貴族の娘。それがレナ・ブライトとなる女性であった。道中にて魔獣に襲われそうになった彼女を助けたカシウスは彼女の誘いを受ける形で屋敷に招かれ……その時に一目ぼれしたという。

 

そして、リベールに帰ってきたカシウスを追いかける形でレナが家出するという事態となり……下手すると国家間の問題になりかねなかったが、エレボニアの皇帝とアリシア女王の取り成しにより、なんとか沈静化したのだ。そして……国を挙げての盛大な結婚式となったらしい。

 

「………ゴメン、何と言うか……スケールが大きすぎるんだけれど。」

「………まぁ、気持ちは解らんでもないな。」

「フフ………」

おそらくは、女王陛下はカシウスにかかわる事柄を知っていたのだろう……だからこそ国を挙げての結婚式という大それた事態になったのであると……だが、カシウスの娘である自分の恋人もまた王族の人間……他人事ではないとヨシュア自身も薄々勘付いていた。

 

 


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