英雄伝説~紫炎の軌跡~   作:kelvin

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第134話 紅蓮の闘技場

~『アクシスピラー』 紅蓮の間~

 

一方その頃、ジン、レヴァイス、フィー、ランディの四人が赤く染められた道を進み、ゲートをくぐると……そこは紅蓮に染まった闘技場(アリーナ)……そして、中央に描かれた紋章は白隼を象徴するリベールの国章……その場所に立ったことのあるジンとフィーが声を上げる。

 

「真っ赤だね。現物は白かったけれど。」

「だな……」

「見るからに、ここは闘技場のようだが……」

「確か、グランアリーナだったか?というか、俺らは塔の中に居たはずなんだが……」

その場所を知っているジンとフィー、対照的にその場所に立ったことの無いレヴァイスとランディ……空間構造からしても、あの塔の中に収まるとは考えにくいが、“至宝”の力が大きく関係しているのだろう……

 

「……どうやら、ここの『門番』のお出ましか。」

「クックックッ、ご明察だ。ジン。」

そう考えていると、ジンたちとは反対側の門から姿を見せた人物。煙草をくわえ、黒いサングラスをかけた男性。そして、隠すことすらしない殺気……それに一番覚えのあるジンは表情を険しくする。

 

「ヴァルター……」

「この場所に立っている意味……そして、てめえと俺が相対している意味……それを履き違えているようなら……殺すぞ。」

「……(成程……)」

「……(この感じ……これが『執行者』……)」

「……(殺気だけでも叔父貴や親父並じゃねえか……)」

ヴァルターの殺気に表情を険しくするレヴァイス、冷静に分析するフィー、そしてその殺気が身内と同レベルだということにランディは思わず冷や汗をかいた。すると、ヴァルターはジンの後ろにいる三人に気づき、声をかけた。

 

「って、よく見りゃあ……“猟兵王”に“西風の妖精(シルフィード)”か。それに、そっちの赤毛の野郎はどこかしらあの小娘に似た空気を感じやがる。」

「小娘……まさか、レイアか?」

「チッ、やっぱりか……“朱の戦乙女”に伝えとけ……次は俺がぶちのめすとな。」

「あ、ああ……(オイオイ、コイツに勝ったって言うのか!?)」

その中に自分を負かした人物の関係者がいることを知り、ヴァルターは舌打ちをしつつも、伝言のようなものを言い放ち、ランディは頷きながらも自分の妹の実力が今の自分すらも既に上回っていることに驚愕した。ヴァルターはそう言い放った後、指を鳴らす。すると、ジンと他の三人を隔てるように、結界のようなものが展開された。

 

「レヴァイスの旦那、それにフィー、ランディ!?」

「クク……この領域はいわば俺の思い通りに操作できるみたいらしい。それにさしたる興味はねえが……てめえとはサシでやり合いたいと思っていたからな。」

「………」

「この状況を打破する方法は一つ……俺を打ち負かすことだ。塔ではアイツの邪魔が入ったが……今度はてめえ一人で戦わなきゃいけねえ。これはてめえの意思なんざ関係ねえ……これは宿命だ。」

「……解った。」

そう笑みを零すヴァルター……この状況でどう取り繕うとも、どうにもならない……それを悟ったジンは構えた。その光景にランディは悔しそうな表情を浮かべた。

 

「オイ、良いのかよ!?」

「……見える壁相手ならとっくにどうにかできている。だが……」

「そだね……いわば敵陣(アウェー)……この状況だと、あの人を信じるしかない。」

ランディの気持ちは理解できる……その上で、レヴァイスは呟いた。物理的な破壊であればこちらの十八番であるが、この結界は“至宝”の力によるもの……そうなると、破壊は難しいというレヴァイスの意見にはフィーも同意し、結界の向こうに立つジンが勝つことを信じるしかなかった。

 

「俺にしちゃあ、あの時出来なかった手合わせ…『執行者』がNo.Ⅷ“痩せ狼”ヴァルター…いくぞ、ジン。てめえがあのジジイから継いだ『泰斗流』と『活人拳』……見せてみやがれ!」

「遊撃士協会共和国支部所属、“不動”ジン・ヴァセック……俺の思いと、師父から学んだ功夫……俺の持つ『泰斗』……貫き通して見せる!!」

かつて、同じ師父のもとでその武を教わった二人の弟子……天賦の才に恵まれながらも、恵まれ過ぎたが故に『殺人拳』に魅入られ、堕ちてしまった『執行者』……そして、その兄弟子に劣りつつも、愚直なまでにその武を磨き続け、『活人拳』を貫き続ける共和国屈指のA級『遊撃士』……道を隔ててしまった二人の『泰斗』の戦いが幕を上げた。

 

「そおらっ、いくぜ!!」

先手を切る様に飛びかかるのはヴァルター。踏込と同時に功夫を練り上げ、ジンに蹴りを浴びせようとするが、

 

「ふっ、はあっ!」

その巨体からは想像もできないほどに素早く飛び上がって躱すと、ヴァルターに向けて拳を繰り出した。

 

「やるじゃねえか、だが、今のは挨拶程度だ!!」

ヴァルターは素早くジンの腕を掴み、その勢いで投げようと試みるが、ジンは素早く右足を踏み込ませ、左脚で蹴りを放ち、ヴァルターは素早く右脚でガードし、二人は互いに距離を取る。そこからヴァルターは拳に気を込め、気の弾をジンに向けて放つ。

 

「はあっ、龍閃脚!!」

「チッ……そら、そらぁ!」

それを見たジンは素早く躱すと、連続した蹴りを繰り出す『龍閃脚』を浴びせるが、ヴァルターは咄嗟にガードし、それを凌ぎ切ると、ジンに我流の連撃『インフィニティコンボ』を浴びせる。これには流石のジンもダメージを負うが、自らの体力を回復させる『養命功』を発動させ、再び構えた。だが、それよりも早かったのはヴァルターであった。

 

「がら空きだぜ……そおらっ!!!」

「ぐはっ!?」

ヴァルターは素早くジンの懐に飛び込み、最大にまで練り上げられた功夫を打ち込む寸勁―――Sクラフト『ファイナルゼロ・インパクト』を叩き込む。その威力には流石のジンも呻き、その反動で闘技場の壁に叩き付けられ、壁の一部を破壊した。

 

「………」

「なんて戦いだよ………」

「………あれが、『執行者』というわけか。」

その光景に三人は唖然とした。双方共にかなりの実力者……そのレベルが上がれば上がるほど、一瞬の隙でも命に直結しうる……まさしく、彼等の目前で映る戦いはその縮図であると。だが、先程技を放った側であるヴァルターは納得いかないような表情を浮かべていた。それを証明するかのように、壁の向こうから何かが飛び出した。それは紛れもなく、ジンの姿であった。

 

「雷神脚!!」

「ぐうっ!!」

空高くから蹴りを繰り出す『雷神脚』を繰りだし……その攻撃は流石のヴァルターとはいえダメージを負う形となり、ヴァルターが飛び退いた。一方のジンも先程ヴァルターから受けたダメージが残っているようだが、戦闘に支障はないと感じていた。これにはヴァルターも笑みを浮かべ、高らかに笑った。

 

「ククク………ハッハッハッハッハ!さっきは殺すつもりで寸勁を撃ったが、それでも生き残るとはなあ……さっきの違和感はこういうことかよ。」

「ある意味、あんたのお蔭だ。散々打ち負かされてきたからな……隙を見せれば打ち込んでくる。それは、俺が一番よく知っている。」

良くも悪くもヴァルターのお蔭であると、ジンは述べた。同じ『泰斗』を学んでいたからこその直感……その型は我流とはいえ、戦い方の本質というものはそうそう変わるものではない。ある意味勘のようなものではあったが、今回はそれが生きたからこそ、何とか力を分散させることができた。だが、二度目は無いであろう。

 

「だが、それじゃあてめえの拳は、俺には届かねえよ。あん時も言ったが、愚直に『泰斗』にしがみ付いているてめえにはな。」

「……フフッ」

「何だ、その柄にもねえ笑い方は?」

ヴァルターの言葉―――その言葉で何かを思い出したように笑みを零し、ジンの様子を見たヴァルターはある意味自分の知る人間らしくない笑みに表情を険しくして問いかけた。

 

「気に障ったのなら謝るが……同じことを二人の人物に言われたからな。いや、二人じゃないな……“六人”に言われてしまったからな。今あんたが言ったのと全く同じ言葉を。」

「何だと?」

ヴァルターの言葉を聞くまでもなく、ジンは先日言われた言葉と先程言われた言葉を思い返していた。先日の言葉は、妹弟子であり……ヴァルターと同じように天賦の才を持っているルヴィアゼリッタ・ロックスミス。そして、先程の言葉というのはライナス・レイン・エルディール……見るからに完全な我流の格闘術を嗜んでいる人間が、ジンの事をこう評した。

 

ルヴィアゼリッタは、

 

『―――ジンさんは何と言うか、拘りすぎだと思うんだ。何て言うか、教わった人の教えを愚直すぎるほど拘ってる気がするの。あと、誰かに遠慮している気がする。それだと、いつか取り返しのつかないことになると思うな。』

 

ライナスは、

 

『―――踏み込みが足りないね。中途半端に踏み込んでいるからこそ……いや、人の命を奪うのが怖いからこそ、躊躇っている気がするよ。中途半端な躊躇いは、余計に人を殺すだけだ。』

 

………拘ることが悪とは言わない。躊躇うことも悪いことではない……だが、ジンのその姿勢では、『活人拳』と振るおうともいつかはその半端さが人を殺す……自分の知る同門の人間にもよく言われたことを突き付けられてしまった結果である。だが、その言葉は…妹弟子のリン、同門であり師父の娘であるキリカ、自分に師事した押しかけの弟子、そして…かつて師父が生きていた頃に、よく言われた言葉でもあった。

 

『ジン、優しさは結構……だが、優しさ故に半端な拳を振るえば、それは人をも殺す凶器となる。そのことだけは、よく覚えておけ。』

 

……今、眼前に映るかつての兄弟子は、自分を殺そうという覚悟で向かってきている。いわば“決死”の覚悟。そうなると、自分の『活人』を切り開くために必要なのは“死中の活”……“決死”の覚悟でヴァルターという人間を“活人”する。それだけではなく、この問題はいわば自分自身の問題……自分の手で師父とヴァルターの死合のことを聞き出すためにも、自分自身が勝たなければ意味がない。それを決意したかのごとく、ジンは闘気を高める。

 

「こおぉぉぉっ………はぁぁぁぁぁぁっ………はあっ!!」

「(この感じ……)ようやく、“本気”になりやがったか。ジン・ヴァセック!はあああっ!!」

エルモの洞窟……紅蓮の塔……そのいずれでも見せることの無かったジンの“本気”。躊躇いや拘りという枷を解き放ったその闘気にヴァルターはある意味喜びを感じるとともに、更なる闘気を解放する。

 

「これが、“不動”の本来の闘気……(下手すりゃ俺やバルデルでも勝てるかどうか……)」

「で、出鱈目じゃねえのか!?(お、叔父貴といい勝負じゃねえのか……!?)」

「……正直、私じゃ勝てないかも。」

その闘気の威圧に三人は驚きを隠せなかった。これが先ほどと同じ人間が放っている闘気なのかと……その威圧だけでも、数えるほどの人間しかいないであろう。しかも、その闘気の質は違えども、眼前に映るもう一人の人物―――ヴァルターとほぼ同じぐらいの威圧を放っているのだ。

 

「感謝はしておく、ヴァルター。これで何の迷いもなく……お前を“活人”する!!」

「ぐっ!?(これだけの功夫を隠していたか…師父の言う通りだったってことか………)なめるなっ!!」

ジンは素早く踏み込み、先程とは見違えるほどの速さで蹴りを繰り出し、ヴァルターはガードするが、その威力にヴァルターの足の周囲が陥没した。これにはヴァルターも内心舌打ちし、蹴りを弾くと、そのまま裏拳でジンに攻撃を加える。だが、

 

「はあっ!!」

「ぐはあっ!?……舐めるんじゃ、ねえっ!!」

ジンは屈んで躱すと肘打ちによる寸勁を繰りだし、ヴァルターは呻きつつも何とか踏ん張り、腕を掴んで強引にジンの体を壁に叩き付けた……はずなのだが、ジンは咄嗟にヴァルターの腕を巧みに使い、身体をひねって足で壁に着地させ、激突を辛うじて免れた。そこから、ジンは右足を壁にめり込ませると、そのまま壁を蹴り飛ばした。

 

「なっ!?……くっ!」

今までそう言った手段を取ることの無かったジンの行動にヴァルターは素早く手の力を抜き、とんできた壁の破片から逃れて距離を取った。そして、その間にジンも着地して構えを整え、ヴァルターに近づいた。それを見たヴァルターは反射的に功夫を練り上げる。そして、互いに放たれる拳。

 

「ゼロ……インパクトォッ!!」

「泰炎……朱雀功ぉっ!!」

ぶつかり合う拳……その衝撃で地面に亀裂が走り、二人が立っている周囲のフィールドが陥没する。その相殺による反動で互いに弾き飛ばされ、互いに距離を取って構えた。

 

「まさか、壁を利用してくるたぁ……今までのてめえなら躊躇う戦法をとるとはな。」

「“武器は己の肉体のみならず”……師父がよく言い、あんたがよくやっていた戦法を少しばかり模倣しただけさ。」

ヴァルターの言葉にジンは苦笑を浮かべた。使えるものは何でも使う……それが達人級に近ければ近いほど、全ての状況の“流れ”を自分に引き寄せるためには、そのあるがままを受け入れるだけでなく、状況を利用することも立派な戦術の一つである。

 

「だったら……次の一撃で、結社で磨いた秘技の全てを拳に込めてやる……『泰斗』の全てを葬るためにな。」

「ならば……師父とあんたから学び、遊撃士稼業の中で磨いてきた『泰斗』の全てをこの拳に乗せる。そして、修羅となり闇に堕ちた不甲斐ない兄弟子に活を入れてやる。多分それが、あんたの弟弟子として俺ができる最後の役目のはずだ。」

そう言って、互いに構える…膨れ上がる膨大な闘気…そして、放たれるは……互いが持ちうる、最高の奥義。

 

「これで終わりだ、ジン・ヴァセック!……ダーク・デストラクション!!」

「『泰斗流』が奥義……泰河青龍功(たいがせいりゅうこう)!!」

ヴァルターは今まで磨いた秘技の集大成のSクラフト『ダーク・デストラクション』………そして、ジンは『泰斗流』の奥義が一つ、膨大な気を拳に込めて相手の内側と外側に叩き付けるSクラフト『泰河青龍功』……二人の攻撃が同時に交差した。

 

「………」

「………ぐっ!?」

「ククッ………こんな時まで、世話が焼ける弟弟子だな、テメエ……は……」

互いに背を向けるジンとヴァルター。すると、ジンが崩れて膝をつく。その一方、ヴァルターは笑みを浮かべると、そのまま地面に倒れ込んだ。ジンは息を整えると、アーツで回復し、ヴァルターのもとに近寄った。それを見たヴァルターは笑みを浮かべたまま、話し始めた。

 

「…ある日の事だ…ジジイは俺に言ったのさ。『活人、殺人の理念に関係なく、素質も才能もジンの方がお前よりも上。近い将来、お前はジンに負けるだろう』……とな。そしてジジイは、より才能のある方に『泰斗流』を継がせるつもりでいた……それが何を意味するのか。鈍いてめぇにも分かるだろうが?」

「………それは解る。だが……俺があんたよりも格上なんてそんなの冗談もいいところだろう!?それに師父が、キリカの気持ちを無視してそんなことをするはずが……」

ヴァルターの話を聞いたジンは信じられない表情で戸惑った。武術の才能に関してはヴァルターの方が上であると、少なくともジンはそう思っていた。だが、師父であるリュウガはそう思っていなかったのだ。

 

「……ククク……だからてめぇは目出度(めでた)いんだよ。流派を継ぐわけでもないのに、師父の娘と一緒になる……そんなこと、この俺が納得できると思うか?だから俺は、てめぇとの勝負で継承者を決めるようジジイに要求した。だが、ジジイはこう抜かしやがったのさ。」

 

『―――ジンは無意識的にお前に対して遠慮をしている。武術にしても、女にしてもな。お前が今のままでいる限り……あやつの武術は大成せぬだろう』

 

「………な………」

ヴァルターの話をさらに聞いたジンは驚いた。リュウガの言うジンにとっての枷……それは他でもなく兄弟子のヴァルターという存在そのものであり、輝かしい武の才能を放っていたヴァルターの前にはジンも遠慮がちになり、彼の中に眠る才能は開花しないであろう……と。

 

「クク……俺も青かったから余計に納得できなかったわけだ。そしてジジイは、てめぇの代わりに俺と死合うことを申し出て……そして俺は―――ジジイに勝った。」

「………」

「ククク……これが俺とジジイが死合った理由だ。お望み通り答えてやったぜ。」

「………俺はずっと確かめたかった。師父がなぜ、あんたとの仕合いに立ち合うように言ったのかを……ようやく、その答えが見えたよ。」

「……なんだと?」

不敵に笑っていたヴァルターだったが、ジンが呟いた言葉を聞き、眉を顰めた。

 

「ヴァルター……あんたは勘違いをしている。これは俺も、後でキリカに教えてもらったことなんだが……あの頃、リュウガ師父は重い病にかかっていたそうだ。悪性の腫瘍だったと聞いている。」

「……な……!」

そしてジンの説明を聞いたヴァルターは驚いた。

 

「だからこそ師父はあんたとの仕合いを申し出た。無論、あんたの武術の姿勢を戒める意味もあっただろうし……未熟な俺に、武術の極みを見せてやるつもりでもあったのだろう。だが、何よりも師父が望んだものは……武術家としての生を一番弟子との戦いの中で全うしたいということだったんだ。」

「…………クク……なんだそりゃ。そんな馬鹿な話が、あるわけねえだろうが。じゃあ何だ?俺は体よく利用されただけか?そうだとしたら……俺は……」

ジンの話を聞いたヴァルターは皮肉気に笑った。この場合はヴァルターの身勝手さとリュウガの身勝手さが偶然にも合致した結果……だが、その事情を知らず、しかも自分の師匠が武術家としての“生”を全うするための最期の相手に一番弟子であったヴァルターを選んだこと……だが、ヴァルターにしてみれば、それが『泰斗』と決別する理由であっただけに、自分は何のためにこれまでの人生を歩んできたのか……それすらも崩れ去ってしまうほどの衝撃だろう。

 

「確かにそれは……身勝手な話なのかもしれん。だが、強さを極めるということは突き詰めれば利己的な行為なんだろう。それが、俺たち武術家に課せられた宿命といえるのかもしれない。だからこそ師父は……あえて己の身勝手さをさらけ出した。そうする事で、あんたや俺に武術の光と闇を指し示すために……」

「……クク…しかし、それだけの功夫を持ち腐れにしてたとはな……大方、ルヴィアゼリッタあたりにでも何か言われたのか?」

「………」

「ハハ、図星かよ……頼みごとじゃねえが、アイツには俺みてえな人間になどなるな、と言っとけや……………」

ヴァルターは先程の戦いの中でジンにアドバイスした人物―――ルヴィアゼリッタの存在に笑みを零し、ジンにそう言い放つと気絶した。すると、三人を遮っていた結界が解除され、中央に解除装置のようなものが出現し、ヴァルターが出てきた門側に転位陣が出現した。結界が解除されると、三人が駆け寄ってきた。

 

「大丈夫か、ジン?」

「ええ、何とか……」

「しっかし、一人で『執行者』を倒しちまうたあ……」

「正直凄い。」

ジンを労う言葉をかけるレヴァイスにジンは苦笑しつつも答え、ランディとフィーは気絶しているヴァルターの姿を見つめながら、ジンを褒めた。その言葉にジンは首を横に振った。

 

「勝てたのは、俺が『泰斗流』を背負っていたからに過ぎんさ。もしあいつが『泰斗』の正当な使い手としてこの勝負に臨んでいたら……倒れていたのは多分、俺の方だったかもしれない。」

「……だろうな。コイツに対する遠慮があった以上、無意識的に手加減していたかもしれないしな。」

「否定は出来ないが、レヴァイスの旦那も容赦ないな。」

「当たり前だろ?猟兵(おれら)の世界では甘えや妥協が命に直結する……ま、今回ばかりはお前の勝利に変わりないけどな。」

今回の勝利は……自分の拘りや躊躇いを指摘してくれた人々のおかげともいうべきだ。これは疑いようもない事実である。それには、後で感謝を述べなければならないとジンは感じていた。

 

「それはともかく、行けそうか?」

「ああ……ヴァルターもしばらくは立ち上がらないだろう。俺らはこのまま、進もう。」

「だな。」

「だね。」

四人は装置を操作して結界を解除し、転位陣に乗って転移した。

 

 




個人的に書きたかったイベントです。

何と言うか、サシで対決してほしかったので……そのための領域方式だったりします。

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