英雄伝説~紫炎の軌跡~   作:kelvin

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第130話 帝国の縁

 

~リベル=アーク~

 

早速探索を始めたエステルたち……その光景は科学の粋を集めた古代文明の技術そのもの。その光景に目を奪われつつも、先に進むと……駅のような場所に出た。そこにあった端末を調べると、様々な情報を知ることができた。

 

まず、『レールハイロゥ(光輪の線路)』……どうやら、その言葉の意味を察するに『鉄道』を更に進化させたものであると推測される。それだけでなく、この都市の機能を使うには『ゴスペル』が必要となるようで……それには今まで『ゴスペル』に関わってきたエステルらは驚いていた。

 

そして、この都市の名前である『リベル=アーク』……つまりはリベールの語源の由来であると推測され、この都市に暮らしていた祖先の末裔が今のリベールに住む人なのであろうと考えられる。

 

「しっかし、ここでも『ゴスペル』とはね……」

「因縁深いですね……」

「私には解りませんわね……」

「アルフィンは仕方ないさ。この面々だと、『ゴスペル』を知らないわけだしね。」

ある意味仲間外れのアルフィンだが、無理もないことだ。八人の中では唯一『ゴスペル』に触れていないだけに、置いてけぼりになっている状態だということは周りの面々も理解していた。とりあえず、先に進むために地下道のロックを解除して、地下道へと進んだ。

 

 

~地下道~

 

「いきます!」

地下道に降りたところで敵に出くわし、アルフィンは魔導銃杖―――魔導杖に内蔵したライフル型の魔導銃を用い、敵に銃弾を放つも、流石に百発百中とまではいかず、何発か外すが

 

「ここは僕がフォローしよう。それっ!!」

「隙ができた……ヨシュア!」

「うん!!」

オリビエは二丁の導力銃で的確に敵の関節部分を狙い撃つ。その動きを逃さず、シオンとヨシュアが斬り込む。そのダメージで流石の敵も苦し紛れにアルフィンを狙い撃とうとしたが、

 

「どっせいっ!!」

「はあっ!!」

「はっ!」

「せいやっ!!」

エステル、リィン、クローゼ、エリゼの攻撃によって敵は完全に沈黙した。その様子を見てアルフィンは気が抜けたのか……その場に座り込んだ。それを見たシオンとエリゼが近寄り、ヨシュアとエステルは周りの警戒に当たっていた。

 

「はぁ……流石に上手くいきませんわね。」

「そうでもないさ。初陣とはいえ、ちゃんと当てていたからね。」

「見るからに銃術は嗜んでいたようですが……皇子が教えたのですか?」

「護身程度ではあるがね。僕も最初は躊躇ったが、アルフィンが食い下がってね……とはいえ、結果的に功を奏した形になったかな。」

アルフィンの言葉にオリビエは十分過ぎると言い、その扱いからして素人ではないと見抜いたクローゼの問いかけに、オリビエは笑みを浮かべて答えた。皇族が銃を持つなど烏滸がましい……などと貴族の人間ならば言いそうではあるが、自分の身を自分で守れずに威張るというのは三下のすることだとオリビエは思っていた。その根底にあるのは庶子という自分の境遇から来るものもあるのだが……

 

「あまり無理はしないの。私はともかく、アルフィンは実戦経験が少ないのだから。」

「そういうエリゼも、傷物になったらお兄さんに嫌われますわよ?」

「もう……ひ・め・さ・ま・!!」

「あはは……」

「やれやれだね。」

ある意味微笑ましいアルフィンとエリゼのやり取りに、クローゼとオリビエは揃って苦笑を浮かべた。

とりあえず、ここにいてもまた敵が来る……八人は移動を再開し……長い道のりを抜けて、ようやく次の区画らしき場所に出た。

 

 

~リベル=アーク 居住区画~

 

「ここは……見たところ、住宅街のようなものかな。」

「綺麗な街並み……。どうやら古代人が暮らしていた場所みたいですね。」

「俺達が拠点にしている場所より、人が住んでいる雰囲気があるみたいだな。」

「うん……。静かで良い感じの雰囲気かも。でも……なんで昔の人たちはこんな立派な街を捨てちゃったのかな?」

シオンやクローゼ、リィンの言葉に頷いたエステルは首を傾げた。

 

確かに、言われてみればそうなのであろう。ここまで見る限りにおいては、利便性の高い街という印象を強く受ける。だが、祖先の人々はこの場所を捨て、封印した。つまりは、この都市が抱えている問題―――いや、この都市を張り巡らせている導力……その大本である“輝く環”にも何らかの問題があると考えるのが自然だ。

 

「……調べて行けば、当時の状況が分かるかもね。新たなルートを探す必要もあるし、さっそく周囲を探索してみようか?」

「ん、オッケー。」

ヨシュアの言葉にエステルは頷いた。その後エステル達は街を調べながら進んで行った。

 

しばらく進むと、意外な物……エステルやヨシュアにしてみれば『馴染み深いもの』を見つけた。

 

「ヨシュア、あれ……!」

「……うん。どうしてこんな所に……あれは!!」

エステルの言葉に頷いたヨシュアは驚いた後、ある事に気付いた。その『馴染み深いもの』を守るように一人の少女が必死に抵抗している姿が目に入ったからだ。

 

「そ、それ以上近寄るなっ!これ以上“山猫号”を傷付けたら絶対に許さないんだから!」

意外な物――“山猫号”の傍で人形兵器に囲まれているジョゼットは銃で人形兵器達を退けていたが、流石に数の差という状況はジョゼットを不利な状況に追い詰めていた。一際大きい人形兵器がジョゼットに攻撃し、命中したジョゼットは呻いた後、後退した。

 

「あうっ……!うう……キール兄……ドルン兄………ヨシュア…………」

「ふふん、お困りみたいね?」

ジョゼットが泣き言を言っていたその時、武器を構えたエステル達が登場した。

 

「ノーテンキ女!?……そ、それに……」

「だ~から、誰がノーテンキよっ!」

ジョゼットの言葉にエステルは怒ったが

 

「話は後だ!まずはこいつらを片付けるよ!」

「う、うんっ!」

「まったくもう……ブツブツ」

自分を無視してヨシュアの言葉に頷いているジョゼットを見て、文句を言いつつ戦闘を開始した。

 

「皆、いくわよ!」

「やれやれ……さぁ、気を引き締めていくぞ!」

「ええ!」

「うん!」

「ああ!」

言いたいことは色々あるが……まずはこの状況の打破が先だと感じ、エステルとリィンは号令をかけて仲間の闘志を高める。

 

「時間はかけてられない………はあああっ!!」

「それには同感だな………慣れておくためにも、ここは飛ばすぜっ!!」

リィンとシオンは“神気合一”を発動させ、二人の髪の色は銀髪灼眼……厳密に言うと、シオンの方は青みがかった銀髪ではあるが、色が変わる。その姿に一番驚いたのは他でもないエリゼであった。

 

「え……兄様にシオンさんまで……その姿はっ!?」

「えっ……!?」

「これは……」

「(う~ん……ひょっとして、レグナートが言っていた『起動者』のことかしら?あたしにアガット……そこにリィンもいたし、そう考えるのが自然よね。)」

一度目の当たりにした経験があり驚きを隠せないエリゼ、同じように驚くクローゼ、その力の顕現に目を見開くヨシュア、そしてエステルは以前レグナートが言っていた『起動者(ライザー)』絡みなのではないかと推測した。

 

「顕現せよ、我が内に眠る力……」

「炎よ、我が剣に集え……」

そして、剣を構えるシオンとリィン……各々の武器に集まる闘気。それを持ち、二人は駆け出し、互いに敵に向かって繰り出す。

 

「我が放つは幻氷の刃……『インビジブル・ブレイバー』!!」

「八葉が一の型“烈火”極の太刀……『素戔嗚(スサノオ)』!!」

シオンの属性である幻と水属性を纏った超高速の突きを繰り出すSクラフト『インビジブル・ブレイバー』、リィンの属性である火と時属性を纏った黒炎の連続斬撃を繰り出すSクラフト『素戔嗚』が同時に炸裂し、敵の人形兵器はその大半が完全に破壊された。

 

「説明などは後だよ、諸君。顕現せよ、銃撃の雨……『シューティングレイン』!!」

「いきますわ!!」

戦況を冷静に見詰めたオリビエはかつてカルナが使っていたクラフト『シューティングレイン』で残った敵を一掃し、アルフィンも先程の経験で得た感覚を修正しつつ、敵を的確に撃ち抜き、沈黙させていった。

 

「ふう……何とか片づいたわね。大きいヤツはやたらと固かったけど……」

「結社の重人形兵器“レオールガンイージー”だ。普通は拠点防衛用に使われることが多いんだけど……」

安堵の溜息を吐いて呟いたエステルの疑問にヨシュアは考え込む表情をしながら答えた。ともかく、ジョゼットに事情を聞くためにエステルらは彼女に近づいて行った。

 

「まあとにかく……本当に無事で良かった。でも、なんで君たちがこんな場所にいるんだい?」

「う、うん……ボクたち、あんたと別れた後、国境近くに潜伏してたんだけど……いきなり空に変な物が現れたから近寄って様子を見ようとしたら山猫号の導力が止まっちゃって……」

ヨシュアに尋ねられたジョゼットは状況を思い出しながら答えた。とどのつまり、山猫号は導力停止状態の余波をもろに受け、墜落した場所は幸か不幸かリベル=アークであったということだ。命的には幸運なのだが…この場所の事を考えると不幸としか言いようがなかった。

 

「成程……それで墜落しちゃったわけね。あれ、そういえば………あんたのお兄さんたちはどうしたの?姿が見えないけどどこかに出かけちゃってるとか?」

「…………っ…………。ううう……うぐっ……」

エステルに尋ねられたジョゼットは急に涙を流して、泣き始めた。

 

「わわっ、な、なんなのよ!?」

「ジョゼット……落ち着いて。ゆっくりでいいから事情を話してもらえるかい?」

ジョゼットの様子にエステルが驚き、ヨシュアが優しい表情で尋ねたその時

 

「ううっ……。ヨシュア……ヨシュアああっ!」

ジョゼットは泣き叫びながらヨシュアの胸に飛び込んできた。

 

「「あら………」」

「ほう……これはこれは」

「えっ………………」

「ハハ………」

その様子を見たクローゼとアルフィン、エリゼは驚き、オリビエはその大胆さに感心し、リィンは呆け、シオンはエステルを気にしつつ、冷や汗をかいて苦笑しながら見ていた。

 

「な、な、な……」

そしてエステルは口をパクパクさせた後、怒鳴ろうとしたところを

 

「け、結社の連中に兄貴たちが捕まったんだ!ボクを逃がすためにみんなで囮になって……ねえ、ヨシュア!ボク、どうしたらいいの!?」

ジョゼットが予想外の事を泣きながら叫んだ。

 

「………」

「とりあえず、ここだとまた襲われかねない……場所を変えて話そう。」

「うん……そうね………」

エステル達は、ひとまず無人の家でジョゼットから詳しく話を聞くことにした。

 

「……ごめん……。驚かせちゃったみたいだね。もう落ち着いたから大丈夫だよ。」

「まったくもう……。色々な意味で驚いたわよ。」

落ち着いた様子で話すジョゼットをエステルはジト目で睨んだ後、溜息を吐いた。確かに、エステルにしてみれば心中穏やかでないことには変わりないだろう。目の前で自分の彼氏に女の子が抱き着いたのだから……

 

「それでジョゼット……他の人達が捕まった時の状況をもう少し詳しく教えてくれるかな?」

そしてヨシュアは真剣な表情で尋ねた。

 

「……うん……ボクたち、ここに墜落してから、すぐに“山猫号”の修理を始めたんだ。エンジンは何とか無事だったけど、それ以外の装置は壊れちゃってさ……。修理に使えそうな材料がないかこのあたりを探索してたんだけど…………それから3日後くらいかな。足りなかった材料も揃って本格的に修理しようとした矢先にタコみたいな人形兵器が現れてさ……。ボクがそいつを撃った後で紅い飛行艇が飛んで来たんだ……。着陸するなり、例の猟兵たちがわらわら降りてきちゃって……」

「哨戒中の“ヴォーグル”を倒してしまったのか……。多分、破壊された時に発せられる緊急信号が敵に伝わったんだろう。」

ジョゼットの説明にヨシュアはすぐに察し、その言葉を聞いたジョゼットはさらに落ち込んだ。自分の責任で自分の身内を危険に晒してしまったのだから……その反応はある意味当然であろう。

 

「やっぱりそうなんだ……。ど、どうしよう……。ボクが余計な事をしたせいで兄貴やみんなが……」

「ジョゼット……」

「あ~もう!そんな顔するんじゃないわよ!捕まってるんだったら助ければいいだけじゃない!」

「え……」

自分の推測を聞いて顔を青褪めさせているジョゼットをヨシュアは心配そうな表情で見つめていた所、煮え切らない感じを打破するように言い放たれたエステルの提案に気付き、ジョゼットはヨシュア達と共にエステルを見た。

 

「いくら犯罪者といえど、不当に監禁されているんだったら遊撃士の保護の対象だわ。どうせ『結社』とは決着を付けなくちゃいけないんだし……あんたのお兄さんたちもついでに助けてあげるわよ。」

「エステル……」

「ちょ、ちょっと待ちなよ!どうしてボクたちが遊撃士なんかに助けられないといけないのさ!?」

ジョゼットの兄たちを助ける、と言い放ったエステルの説明を聞いたヨシュアは口元に笑みを浮かべ、ジョゼットはエステルを睨んで反論したが、

 

「へ~、遊撃士“なんか”にねぇ。だったらあんた、自分1人で助けられるわけ?さっきだって危なかったところを助けてもらって、それでも強がれるの?」

「うぐっ……」

得意げな表情のエステルに尋ねられ、ジョゼットは反論がなく、唸った。

 

「それに、レイストン要塞で黙ってくれてた借りをまだ返してない訳だしね。ここいらで勝手に返させてもらうわよ。」

「~~~~~っ~~~~」

「ジョゼット……エステルの言う通りだよ。君が一人でここに居たって何の解決にもならないはずだ。それは分かるよね?」

「………」

この状況を理解できない程愚かではない……ジョゼットが選べる選択肢は、エステル達の力を借りて仲間を助け出すしかないのだと。それは、彼女自身も解りきっていることだった。

 

「よかったら、しばらくの間、アルセイユで待っているといい。多分、ドルンさんやキールさんたちは『グロリアス』に捕まっているはずだ。このまま探索を続ければ停泊場所へのルートが見つかるかもしれない。その時は必ず君に伝えるから。」

「…………分かった。ヨシュアがそう言うなら。でも、ただ世話になるのはカプア一家の名折れだからね!探索だろうが、きっちりと協力させてもらうよ!」

エステルの言葉に悔しそうな表情をしていたジョゼットだったが、ヨシュアに諭され、考え込んだ後納得して頷いた。

 

「あー、はいはい。ほんと素直じゃないんだから。」

「ふ、ふん……。どこかのお人好しみたいに単純にできてないもんでね。」

「あ、あんですって~!?」

「ふう、まったくもう………何が原因か知らないけど、少しは仲良くできないのかな。」

エステルとジョゼットの口喧嘩に呆れて溜息を吐いたヨシュアだったが、その発言は明らかに“失言”という他なかった。

 

「あのねぇ、ヨシュア……」

「……あんたがそれを言う?」

「え……?」

その言葉を聞いたエステルとジョゼットに睨まれて尋ねられ、驚いた。

 

(………やれやれ、踏んでしまったようですわ……)

(……鈍感。)

アルフィンとクローゼは呆れ、

 

(はぁ……鈍感すぎるのも考え物ですね…兄様ももう少し鋭くあってほしいのですが……)

(エリゼ……何で、そこで俺を見るんだよ……)

エリゼはジト目でリィンの方を見つめ、リィンは冷や汗をかきつつ黙るしかなく、

 

(おやおや、これは……)

(ヨシュア。今回ばかりはお前の自業自得だぞ……鈍すぎるのも考え物だな。)

オリビエは興味ありげな笑みを浮かべ、シオンは頭を抱えたくなった。そして、そのやり取りのあと、先程までいがみ合っていた二人とは思えないほどに意志疎通しているエステルとジョゼットは意見が一致したようで……

 

「ねえ、ジョゼット…今は、あたしたちがいがみ合ってる場合じゃないと思うの…ここは、一時休戦にしない?」

「……同感だね。どうやら、当面の敵はお互いじゃあなさそうだし。」

「えっと、その……打ち解けられたのはいいんだけど……何かマズイことを言ったかな?」

自分を睨みながら打ち解けているエステルとジョゼットにヨシュアは戸惑いながら尋ねたが

 

「ううん、ちっとも。言っていないのなら堂々としてればいいんじゃない?」

「そうそう、ヨシュアの気のせいじゃないの~?」

「そ、そう……(二人とも、目が笑ってないんですけど……)」

目が笑っていない二人に見つめられ、冷や汗をかきながら頷いた。

少しして、ジョゼットはどこかで見覚えのある人物―――アルフィンの姿に気づき、尋ねる。

 

「って、あれ?そういえば……そこの人って……ひょっとして、アルフィン皇女?」

「ええ。そのまさかですわ。そして、兄の……」

「オリヴァルト・ライゼ・アルノール……人は僕の事を“放蕩皇子”と呼んでいるけれどね。」

「う、嘘でしょ!?このおちゃらけた人が、ボクの住んでいた国の皇子様!?」

「ジョゼット……気持ちは解るけど、本当なの。あたしも信じたくなかったけれど。」

「その気持ちはお察しします……」

「まったくだ……」

一度剣を交えた人間が自分の出身国の皇族……色々と出鱈目すぎる状況に頭を抱えるジョゼットの姿にエステルらも同情した。

 

 

その後、様子を見に来たミュラーやユリアにジョゼットの事を説明して、三人は『アルセイユ』に戻り、八人は探索を再開した。

 

 




登場人物の半数以上はエレボニア帝国で出来ています……と言っても過言じゃないですね。

その代わり影が薄いカルバードェ……

そして、サラッと“神気合一”出しましたが……その辺りの絡みは次回以降にて。

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