英雄伝説~紫炎の軌跡~   作:kelvin

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第122話 天壌の劫火

~マルガ山道~

 

鉱山とロレントを繋ぐ山道……ロレントの北側に立っているのは、栗色の髪を持ち、法服に身を包んだ少年の姿。名はアスベル・フォストレイト。七耀教会星杯騎士団所属『守護騎士』第三位“京紫の瞬光”の渾名を持つ人間だ。

 

「………」

西側の『赤い星座』はレイアが、南側の『黒月』はシルフィアが……そして、北側を受け持つアスベル。そのいずれもが単独で軍隊相手に戦える面々であり、そのための準備は怠っていない。しばらくして、近づく気配を感じ……アスベルは閉じていた目を開いてその姿を確認する。その視界に映るのはライフルや剣を装備した猟兵に軍用獣……更には、彼等の中でも使い手が限られる特殊な剣を持つ猟兵もおり、アスベルはそれを確認する。

 

銃剣(ガンブレード)……どうやら、『北の猟兵』は本気のようだな。」

『銃剣』……その最大の特徴は、装填された特殊な弾丸を爆発させることで刃に力を流し込み、破壊力を高めるもの。そのコンセプトに近いものと言えば、スタンハルバードが最たるものであろう。尤も、スタンハルバードが導力式であるのに対し、彼等の持つものはどうやら火薬式のようである。それらを見ているアスベルのもとに、最前列を歩いていた猟兵が声を荒げた。

 

「何者だ、貴様は!」

「何者ねぇ……お前らを止めるものだと言えばいいかな?」

「……ハハハハッ!何を言っているんだ、このガキは!たった一人で俺らに挑むだと?」

「冗談にも程がある!ガキはとっとと帰ってねんねしな!!」

その物言い……アスベルにしてみれば、ある意味『二度目』とも言える言葉にアスベルは目を細め、踵を返す。

 

「解ればいいのさ……野郎ども、進むぞ!」

「応!!」

その様子に戦う気はないと判断したのか……猟兵らはアスベルの両脇をすり抜けるかのごとく進軍した。

 

いや、進軍“しようとした”のだが、“できなかった”……何故ならば、次の瞬間………アスベルの両脇を通ろうとした猟兵や軍用獣は次の瞬間に、『炎に包まれて』いた。

その光景にさっき悪態をついた奴とは別の猟兵がアスベルに銃を向けた。

 

「!?き、貴様!何をした!?」

「何をした……か。人の忠告を聞かない人間を“滅した”だけだ。」

その様子に怯むこともなく、アスベルは猟兵らの方を向き直り、二本の小太刀を抜き放つ。そして、彼の精神に呼応するかの如く、紅蓮の“覇気”がアスベルを包み込む。

 

「貴様……俺達が『北の猟兵』だと知って、言っているのか!」

「所詮、『結社』に雇われている以上は『屑未満の何物でもない』だろう。」

単純に『身喰らう蛇』を『悪』だとは判断出来ないにしろ、“白面”がやっていることは明らかに民を……罪もない大勢の人々を苦しめるやり方だ。そして、それに加担した以上……慈悲をくれてやる必要などない。

 

「戯言を……ここにいる『北の猟兵』は三千!てめえ一人で殺せると思うなよ!!」

そう言い切った猟兵……1対3000という圧倒的物量差……だが、それを見たアスベルは、静かに呟いた。

 

「……やれやれ。馬鹿もここまでくると却って呆れるな。」

頭を抱えたくなるような表情を浮かべていた。なぜならば、つい先日に彼は3000という数すら少ないと思うような戦いを経験している。クーデター事件前に起きた帝国ギルド支部連続襲撃事件……その際の物量差は5対39000という常識外れの戦いを潜り抜けているだけに、その半分程度の数など驚きにもならない。無論、彼等はそれを知らないので無理もない話なのであるが。

 

「国の復興も結構だが……てめえらが関与した時点で“外法”と認定する。ま、ほかのお仲間に関しては滅する余裕もないから無罪ということにしておこう。」

「“外法”……!その服、まさか!?」

そう言ってアスベルが太刀を構える。その言葉に少し冷静さを取り戻した猟兵の一人がその言葉と彼の身に付けている法服を見て、声を荒げる。

 

「リベール王国軍中将………いや、七耀教会星杯騎士団所属『守護騎士』第三位“京紫の瞬光”アスベル・フォストレイト。『北の猟兵』を『結社:身喰らう蛇』との関与あり、汝らを“外法”に認定する。恨むなら、自らの行いを恨むんだな。」

ある意味非常識な戦い……いや、『蹂躙劇』が幕を開けた。

 

「いくぞ!!はああああああっ……はあっ!!」

「野郎ども、いくぞ!!!」

「おう!!」

アスベルは自らの身体能力を上げる麒麟功の上位技『凄龍功(せいりゅうこう)』を発動させる。猟兵らは銃を放ち、剣を持つものは一斉に斬りかかる。その動きを見たアスベルはすぐさま距離を取る。それを見つつ、猟兵らは指示を飛ばし、アスベルを取り囲むかのごとく連携した動きを見せる。

 

「かかれっ!!」

「ガアッ!」

軍用獣が先手を取る形で襲い掛かり、その爪がアスベルに襲い掛かるが……

 

「雷徹・時雨」

奥義之二の弐式『雷徹・時雨』……『徹』の斬撃を十字に重ねることで威力を引き上げる技を発動させ、軍用獣の腕を吹き飛ばす。その一瞬の出来事に痛みを察する間もなく……

 

「はあっ!!」

すぐさま返しの刃によって、その獣は切り刻まれ、全身から血を噴き出し、崩れ落ちる。だが、それを感じる間もなく軍用獣が次々と襲い掛かるが、彼に恐怖はなかった。いや、恐怖がないというのは嘘ではあるが、彼には次の一手が見えていた。すぐさま構えを取り、そして技を繰り出す。

 

「風の刃に沈め………『飛燕』」

最大十二連撃を放つ高速抜刀の斬撃………目にも止まらぬ速さのアスベルの振るう刃に襲い掛かる軍用獣は為す術もなく切り刻まれ、見るも無残な姿で崩れ落ちた。

 

「やってくれる……撃てっ!!」

その光景に怯まず、猟兵らはライフル銃による弾丸の雨をアスベル目がけて放つが、それはアスベルにしてみれば無駄な行為であった。息を整えると、太刀を構え……

 

「ふぅぅぅ………斬っ!!」

そして、斬った。斬られた弾丸は運動エネルギーを喪い、アスベルの前に転がり落ちた。

 

「焦るな!確実に追い詰めろ!!」

その命令に銃剣を持つ猟兵がアスベルを取り囲んだ。さらに、その猟兵は一人が囮となってアスベルに向かって銃を放ち、それを見た他の猟兵が続けざまに銃を放ち、間髪入れずに銃剣を持つ猟兵らが襲い掛かるが、

 

「一閃!」

「ぐっ!?」

アスベルの放った“御神”の技、数多の“飛ぶ斬撃”を繰り出す奥義之三の発展系『射抜・夕立』によって銃弾もろともその猟兵を斬り刻み、更に“残月”の抜刀術を応用し、更に襲い来る銃弾を退け、取り囲んでいた猟兵らを難なく沈めた。

 

「ば、馬鹿なっ……これが同じ人間の仕業だとでもいうのか!?」

「まだ“完全な本気”じゃないのに失礼だな……それじゃあ、いくとするか。」

動揺する猟兵に呆れるアスベルであったが、気を取り直して両手の小太刀を納め、構えた。

 

「奥義之八……『瞬爛』!!」

アスベルの超高速抜刀術のSクラフト……この先、『閃』だけでは戦っていけないと考えた……右手に持った小太刀で薙ぎ払い、その瞬間に“神速”状態に移行させ、左に持つ小太刀で敵を引き斬る様に太刀筋を走らせる『瞬爛(しゅんらん)』が炸裂し、前方にいた猟兵らをまるで草を刈り取るかのごとく絶命させていく。

 

「やってくれる……プランC、いくぞ!!!」

「了解!!」

その行動が無駄だと悟り、猟兵らは銃剣を構え、アスベルに斬りかかる。だが、その単調的な行動パターンにアスベルは妙な違和感を覚えた。

 

(……動きが変わった?)

その行動に不信感を感じ、アスベルはその真意を探るべく、ひとまずは防御に徹する。次々と襲い来る猟兵に蹴りや掌底を浴びせ、彼らの動きを見極める。すると、腕を上げた指揮官の合図に呼応するかのように猟兵らが用意した物……その物の正体にアスベルは目を見開いた。

 

「………なっ、あれは!?」

「撃てっ!!」

指揮官の合図で放たれた特殊な弾……その行く先はアスベルと味方の戦闘エリア。そして、その弾は味方の背中に当たる形で炸裂し、強烈な光の後……轟く爆音と猛烈な爆発……そして、爆発の後、燃え上がっている光景を見て、指揮官は笑みを零した。

 

「クククッ、ガキを殺すのは忍びねえが、確実に殺させてもらったぜ。」

彼等が使ったのはいわば高火力の爆弾。弾すら斬る相手でも、味方の猟兵と斬り結んでいる状況でこの爆風相手には太刀打ち出来ない……そう考えて実行した『味方すらも犠牲にして確実に殺す策』……この威力ではあの『守護騎士』といえども生きてはいない……そう思っただろう。

 

だが、指揮官の目に映る光景―――その『炎』は唸りを上げる。そして、渦巻くように炎の壁が彼等を困惑させた。

 

「………な、何だ!?」

 

そして、指揮官の耳に聞こえてくるのは先程の少年の声。

 

 

―――お前らの考えはよく解った。改めて、お前らを“外法”と認定し、魂ごと灰燼に帰す。

 

 

「何を言っている!?」

 

 

―――お前らがそれを知る必要などない。何せ……

 

 

『これから死にに行く奴に、渡し賃以外の余分なものをくれてやる必要などないのだからな。』

 

 

その言葉を聞いたのち、指揮官の意識は完全に途切れた。何故ならば、次々と襲い掛かる炎の刃に装備は溶かされ、身体は焼かれ、もはや言葉にならない悲鳴が木霊した。その先も、次々と来た猟兵らもなす術もなく巻き込まれ、その存在が焼かれ、絶命していく。

 

「な、何が起こっている……あ、あれはっ!?」

後続にいた部隊長が前方から来る熱風を異常と思いつつ先鋒と合流すると、前線にいたはずの猟兵……いや、人と呼んでいた何かが大量に……辺りに転がっていた。そして、その光景の奥にいる太刀を構え、紅蓮の炎が包むように顕現している少年の姿がいた。

 

少年は彼の姿を見ると、その姿は部隊長の視界から完全に消えていた。部隊長が背中から感じる“殺気”に勘付いて背を向けるが、

 

「遅い」

少年の太刀筋に武器もろとも斬られ、次の瞬間……部隊長や周囲にいた猟兵もその炎に焼かれた。

 

そうして数時間経ったか……少年が太刀を納めて後ろを振り返ると、その光景は凄惨な物と化していた。さながら灼熱地獄が通り過ぎたかのごとくの様相を呈していた。少年は一息つき、自身の<聖痕>を顕現させると、

 

<在の金耀、因の銀耀……その相克を以て、虚ろなる器を天に返したまえ>

法術を唱え、その亡骸を消滅させていった。

 

先程アスベルが顕現させていた紅蓮の炎……『古代遺物』“天壌の劫火<アラストール>”。それを手にしたのは、七年前……“仕事”で赴いたエレボニア帝国の遺跡内に眠っていた代物であり、同じように眠っていたもう一つの『古代遺物』は同行していたシルフィアに吸収されたのだ。それ以降、かなりの重罪人相手にしか使わないが、アスベルの能力の一つとなっていた。“意思を疎通する炎”……使用者の意志に従ってその牙を振るう最凶の能力。尤も、その炎の能力はまだあるのだが……ここでは説明を省くこととする。

 

 

「さて、帰ると………つっ!!」

その仕事を終えると、少年―――アスベルは踵を返してその場を後にしようとしたその時、殺気を感じて屈む。その直後に通り過ぎる剣筋。アスベルはすぐさま距離を取って相対する。アスベルの目に入ったのは一人の青年。それも、空色の髪に青色の瞳を持ち、その手にはヴィクターほどではないにしろ、それなりの大きさの剣を構えていた。

 

「貴様……貴様が部隊長を、皆を殺したのか!!」

「……そうだと言ったら、どうするんだ?」

「決まっている……お前を殺す!皆の敵討ちのために!!」

その青年が滲ませているのは殺気……アスベルにしてみれば『慣れてしまった』もの。アスベルは一息ついて太刀を構えた。

 

「一つ言っておく。お前らがやろうとしたことは民を混乱させようとしたこと。お前らの出自がどうあれ……その事実は変わらない。」

「!!ならっ、殺すことなんてなかったはずだ!!」

その青年は何も知らない……いや、仲間たちが『正義』だと信じ切っているのだろう。事情はどうあれ、その真っ直ぐさにアスベルは呆れかえり、太刀を納めて踵を返した。

 

「逃げるのか!?」

「………どうやら、お前は真実を知らない。猟兵はお前のような人間には『似合わない』……それでも刃を向けるのというのなら、今ここでその現実をその身に教えることになる。」

立場が変われば、その人の『価値観』なんて簡単に変わってしまう。ある人の『正道』が、別の人から見る『邪道』に見えるということはさほど珍しいことではない。盲信してしまうということは、その価値観しか見ようとしない……『思考の停止』に等しい。そうなってしまうと、それは最早『人』とは呼べず、ただの『道具』でしかない。

その忠告に怯むも、青年はアスベルに斬りかかる……だが、

 

「―――『牙折り』」

アスベルの振るった拳が刃を粉砕した。そして、アスベルは続けざまに振りかぶり、

 

「『水鏡掌』」

「ぐはっ!?」

八葉一刀流八の型“無手”の内部打撃技『水鏡掌』をまともに食らい、その青年は吹き飛ばされ、岩肌に叩き付けられた。

その様子からして命に別条はないと判断すると、アスベルは背を向けて……そして言い放った。

 

 

―――己で考えて見出せなきゃ、自分が生きてる価値すら見出せないぞ……『流氷の蒼剣』

 

 

そう言い残してその場を去ったアスベル。

 

 

そして、残された青年はその言葉を噛み締めるように呟き……哭いた。

 

この後、『流氷の蒼剣』……青年―――ヴェイグ・リーヴェルトはその意味を知るべく、『北の猟兵』を抜け、自らを知るために光の世界へと歩むことになるが、それはまだ先の話であった。この戦いによって、『北の猟兵』3000人はたった一人の生存者を除いて全滅……その亡骸も、遺留品もすべて消失した。その結果を受け、『北の猟兵』はリベールから完全に手を引かざるを得ない状況に追い込まれることとなった。

 

 




唐突にオリキャラ投入しました。あと、『北の猟兵』にガンブレード持たせました。だって……それぐらいインパクトあってもいいかなと(オイッ!)

やっぱり、残虐シーンは難しいですね(実感)

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